− 35才の叔父◆85KeVx6.Zs さんの恋愛話 −

俺は35歳。3年前に同棲してた彼女と別れてからはずっと
彼女の一人もいない。まーイケメンなどとは程遠いのは
否定しようもない。ハゲてはいないがこの年になると
腹のでっぱりが気になってくる、年相応のおっさんである。
そして俺には、姉貴の息子である甥っ子がいる。
俺も姉貴も当然実家は出ているが、お互い実家から近い
ところに住んでいるので、実家を含めわりと頻繁に
それぞれの家への行き来はある。甥っ子は現在高一。

姉はいわゆるシングルマザーで、最初から結婚しなかった。
故に甥っ子は父親の存在というものを知らずに育っていて、
そういうことも影響しているのかはわからないけど、
中学生くらいになってからは自分だけで俺の家に遊びに
来ることもよくあった。俺もこの年まで独身ってこともあり、
一緒にゲームをしたりとわりと可愛がっていた。

で、その甥っ子に最近彼女ができた。
最初は姉から聞いたのだが、甥っ子も俺に直接彼女が
できたとは言わないものの、何となくその存在を俺に
知らせたかったという気持ちはあったのかもしれない。

ある日、実家から姉貴の家にテーブルを運ぶのを手伝ってと
甥っ子からメールが来た。ブツクサ文句を言いながらも
手伝ってやってしまうあたり甥っ子に甘い俺なのだが、
姉の家に行ったら家に見知らぬ女の子がいた。
その子が甥っ子の彼女を初めて見たときだった。

彼女は俺と目が合うと屈託ない表情で「こんにちはー」と
笑顔で挨拶し、ぴょこっと頭を下げた。自分でいうのも
なんだが、見た目ゴツイ俺。顔の作りもお世辞にも柔和な
雰囲気とはいえないので、初対面だと大抵の女の子は
強張ったような対応をとられるのが常だったのだが、
その子はそんなこともなく、人懐っこい感じが嬉しかった。

甥っ子は、その後たまに俺の家に彼女を連れて遊びに
来るようになった。これまでも男の友達を連れて遊びに
来たこともあったので、それほど不自然とも思わなかったが、
そんなある日甥っ子からメールが。今日彼女と遊ぶ約束を
してたんだけど、自分が予定外に部活で遅くなってしまうんで
俺の家を待ち合わせ場所にしていい?というようなもの。
甥っ子にしてみれば、彼女を母親のいる自宅で待たせるより、
叔父とはいえ俺の家の方がまだ落ち着けるのかもしれない。
まあ同じ男としてその気持ちはわからなくもない。いいよと
返事してやった。

しかし考えてみたらそのときの俺の家は、それまで数日間
仕事で夜中に帰ってくる日が続いていたためメチャクチャに
散らかっていたのを思い出した。やばい、あんな状態の家に
女の子を上げるわけにはいかん!と、自分の彼女でもないのに
なぜかアタフタしてしまう俺。その日仕事を早めに切り上げ、
速攻で家に帰って掃除・洗濯を始める。しかしすぐには終わる
はずもなく、中途半端な状態で彼女が家に来てしまった。

必死で洗い物をしてた俺の様子を察した彼女は、手伝いますと
言ってくれた。いいよと遠慮したんだが、自宅でも親の手伝いを
よくしてるのでこれくらい平気ですよと言ってまた屈託なく笑う。
そのとき初めて、その子を単なる甥っ子の彼女としてではなく、
正直可愛いなあと思ってしまった自分がいたのは否定できない。

7時を過ぎ、いいかげん甥っ子もそろそろ帰ってくるかと
思うがなかなか帰ってこないしメールもない。洗い物や洗濯も
終わってしまうと逆に手持ち無沙汰になってしまった俺と
甥っ子の彼女。しょうがないので二人でリビングに移動して
しばらくテレビを観る。しかし彼女は奥の部屋に興味を示してきた。

俺の家は1LDKで、一人暮らしなので部屋とリビングの間の扉は
外してしまっている。故にリビングからでも部屋は丸見えなんだが、
部屋の方にはパソコンとベッド、本棚や机なんかが置いてある。
特に見られて困るものはないはずだが、やはり多少お客さんが
来ることを前提にして物を配置しているリビングと比べると、
部屋の方は生活感が滲み出てる気がして女の子に見られると少し
気恥ずかしいのも事実。うわーなんですかと部屋の方に興味を示した
彼女に対しうろたえる俺。

「あのー△△(甥っ子)のおじさんってバイク乗ってるんですよね?」

「う?うん。なんで?」

「△△から聞いたんですよー。あれ見ていいですか?」

彼女が指差したのは、コルクボードに色々と貼ってあった
俺や仲間やバイクの写真。

「あ、いいよ別に。けど○○ちゃんってバイクに興味あるんだ?」

「あんまりよくわかんないんですけどねー。でもバイクってなんか
 かっこいいじゃないですかー」

その後も部屋に乱雑に置かれたヘルメットやブーツ、レザーの
ウェアなんかにいちいち興味を示してくる。なんとなく俺も
嬉しくて、昔のアルバムなんかも引っ張り出して楽しく話した。

いいなー。あたしもバイク乗ろうかなー」

「△△は興味ないみたいだよねー。俺前にバイトでもしてバイクの
 免許でも取れよっていったことあるんだけどシカトされたし」

「そうなんですよー」

「俺、せっかく免許取ったらバイク買ってやるって言ったのにさ、
 △△の奴、車なら欲しいだって言いやがんだよ」

「じゃああたし免許取りますから買ってください(笑)」

なんて他愛もない話をしていたが、ところで甥っ子はまだ帰ってこない。
いいかげん何かあったんじゃないかと少々不安になってきたとき、
俺の携帯に姉貴から電話が。

話を聞いたら、どうやら甥っ子は部活が終わってから部員数名で
部室でダベっていた際、調子に乗って喫煙した奴がいたようで
それが運悪く教師に見つかってしまったようだった。甥っ子は
吸っていなかったらしいが、連帯責任ということでその場にいた
連中は全員職員室にしょっ引かれて事情聴取を受け、親に連絡が
いったようだ。

俺の家で甥っ子と彼女が待ち合わせをしてたことを聞いた姉貴は
もう遅いしこれからあんたんとこに△△を行かせるわけにも
いかないから、あんた○○ちゃんを家まで送ってあげてと頼まれた。
そんなことになっちゃしょうがないので、事情を彼女に説明して
車で送ってあげることに。

車内では最初は甥っ子が心配で動揺していた○○ちゃんだったが、
まあ本人が吸っていたわけではないし大丈夫だろうと慰めると
次第に冷静さを取り戻していった。家に着く頃には笑顔も出て、
今度バイクに乗せてくださいねとかいう話をするくらいになった。
俺もそのときはあまり深く考えず、○○ちゃんを元気付ける意味
くらいに思って、いいよーいつでも言ってよくらいに返事しておいた。
家に着き○○ちゃんが助手席から降りる際、

「○○には内緒にしてくださいね。あいつあたしが他の男の子と
 話してるとすぐヤキモチ焼くんですよー」

と言ってクスッと笑った。その表情が少し小悪魔っぽく魅力的で、
帰りの運転中、年甲斐もなく俺はずっとドキドキしてしまっていた。

そんなことがあってからというもの、正直どうにも
○○ちゃんのことが頭から離れなくなってしまっている
自分に気がついた。最初のうちはあんな可愛い子と
付き合うなんて、我が甥っ子ながらやるのうなどと
平静を装いつつも、その後甥っ子と話す内容に○○ちゃんの
話題が出ると内心気になってしょうがない俺がいた。

あの日以降、○○ちゃんには会っていない。まあそんな
頻繁に会う理由も必然性もないので当たり前であるが、
なんとなく寂しい気持ちになる。

今度バイクに乗せてなんて言ってたけど、あんなのは
社交辞令っつうか、もうそんなこと忘れてるだろーなんて
強がってみるも、小柄な○○ちゃんには俺のヘルメットじゃ
小さいよな、新しいの買ってあげなきゃなーなんてことを
考えている俺もいた。高校一年生、しかも甥っ子の彼女に
胸をときめかせてしまっている自分が情けなく思えてきて、
日々心の葛藤が続いた。

そんな折、先日甥っ子からメールが来た。何でもお祭りに
○○ちゃんと行くのでお小遣いが欲しいみたいな。
以前であれば、女にかっこつけたいならてめえでバイトした
銭でやるもんだと言っていたところだったが、やましさみたいな
気分も手伝って了承してしまい、後で家に取りに来いと返事をした。

夜になって家にいた俺。玄関でチャイムが鳴った。
ああ、甥っ子が来たなと思い、おまえよー先月も誕生日で
携帯買ってやったばかりだってーのにまた俺から小遣い
ふんだくろうなんて太てぇやろうだなーなどと文句を言いながら
玄関を開けたら、そこには甥っ子だけではなく○○も一緒に
立っていあqwせdrftgyふじこlp;

△△よー○○ちゃんも一緒なら一緒と言えっつーの!
ケチくさい文句を聞かれなかっただろうなと内心気になるも、
相変わらずだらしない腰パン姿の甥っ子と違って、○○ちゃんは
涼しげな浴衣姿。髪もアップにしてて、まだ高一だというのに
少し大人びて見える。

「やっぱ女の子は季節感あっていいわー。それに比べてお前はよー」

場が保てずおどけて言った俺。甥っ子はバカじゃん別に〜みたいに俯いた。
内心は自分も○○ちゃんの浴衣姿に見とれてた部分もあっただろう。
俺が5千円ほど手渡すと、甥っ子は受取るなりろくに礼も言わず
玄関から離れ、ちょうど着信が鳴った自分の携帯で、誰やら男の
友達らしい電話に出て話しだした。

そんな△△を見て○○ちゃんの方が小声で俺にすいませんと謝る。

「いいよいいよ。どうせ照れてやがんだよあのやろう」

「あははは。それならいいんですけどねー。△△ってそういうこと
 何も言わないんですよ。告ったのもあたしからだし」

「へーイマドキの女の子は積極的なんだねえ」

えへへと笑った彼女は、甥っ子がまだ電話していることを確認すると、
こっそりと聞こえないように俺の耳元で囁いた。

「バイクの約束、忘れないでくださいね」

それを聞いた瞬間、年甲斐もなく甘酸っぱい感覚が襲ってきて、
胸がキュンとなってしまった。
ああ、こんな気持ちになったのは何年ぶりだろうなあ。
たまらず俺は、それならメットを買いに行かないとねと水を向けてしまった。

「あ、じゃあ明日どうですか?△△明日部活で遊べないって
 言ってたし、あたし暇ですから」

「あ、そ、そう?じゃあ明日買いに行く?」

「はい!何時に来ればいいですか?」

俺はとりあえず、財布に入ってた名刺を渡した。

「そこに俺の携帯番号も書いてあるから、適当な時間に電話して」

「わかりましたー」

すまない甥っ子よ…。とは思ったものの、○○ちゃんとまた会える
かと思うと自分の行動を止めることができなかった。
その夜甥っ子から、照れて小遣いもらってお礼も言わないことを
悪いという気持ちがあったのか、さっきはありがとねーという
メールが届いた。余計甥っ子に対する罪悪感が込み上げてきた。

半ば勢いで携帯番号を教えてしまったものの、このことは
状況としては非常に大きい変化である。何しろそれまでは
当然ながら甥っ子が介在して初めて、俺と○○ちゃんとの
接点があったものが、今後は直接連絡ができてしまうのだ。
まあ○○ちゃんから電話がなきゃどうしようもないんだけど。

しかし甥っ子と○○ちゃんが去った後も、○○ちゃんの
かわいくそして少し色っぽさすら感じさせる浴衣姿には参った。
浴衣姿の女の子とお祭りデートなど、自身何年もしていない。
自宅で一人残った俺に猛烈に虚しさみたいなものが襲ってきた。

今頃甥っ子は、縁日屋台で買ったたこ焼きを○○ちゃんに
食べさせてもらったり、○○ちゃんの欲しがる景品を狙って
射的に興じたりしているかもしれない。
どれもかつて俺が二人と同じ年の頃経験した記憶である。
面映くも懐かしい、青春の思い出だ。

30半ばになった今の俺にとって、もう戻ることのできない
当時の記憶が蘇った。そして今まさにその青春を謳歌している
甥っ子と○○ちゃんの姿をリアルに見せ付けられて、
胸が締め付けられる思いでいっぱいだった。
そんなことを考えていると気が滅入り、俺は矢も楯もたまらず
vansonのレザージャケットに袖を通しバイクのキーを掴んで
家を飛び出した。

あてもなく夜の高速を、いつもよりオーバーペースで飛ばしながら
ここ最近の自分のことを振り返る。

先日甥っ子にバイクの免許を取ろうかなと相談を受けた。
理由は○○ちゃんがバイクに興味があるからなのは明白だが、
元々俺は甥っ子もバイクに乗ることを勧めていたくらいで、
免許だけ自分でバイトしてがんばって取れば、バイクは俺が
何とかしてやると約束していたくらいだったのに、そのときは
前言を翻し買うなら自分で買えよと言ってしまうし、
○○ちゃんをバイクに乗せてあげることにしたって別に、
心にやましい気持ちがないのなら秘密にしなくちゃならない
ことでもないはずだ。

そのいちいちが、俺の本音に甥っ子に対するジェラシーが
あることを物語っているのはもはや隠しようのない事実だった。
そしてジェラシーを感じてしまうのは、俺の中に○○ちゃんを
単なる甥っ子の彼女としてではなく、魅力ある女の子として
見てしまっているからなんだということも。
自分に対する情けなさとふがいなさと、しかしそれでも明日の約束を
心待ちにしてしまっている自分に、どうしていいかわからず
ただただアクセルを捻り続けるしかなかった。

しかし俺が何をどう思い悩んだところで日は沈み
また昇ってしまうのである。次の日俺は、大きな期待と
若干の後ろめたさの両方を心に内包したまま、
○○ちゃんからの連絡を待ち焦がれていた。

○○ちゃんからは午前中に連絡があった。昼過ぎまで
用事があるので午後からでもいいですかと。
結局待ち合わせは、○○ちゃんが電車で出かけてると
いうことなので最寄の駅に迎えに行くことになった。

最初は車で行こうかと思ったんだが、○○ちゃんは
えーバイクじゃないんですかー?と残念そうに言う。
できればバイクで行きたいと言ってきた。
うーん、バイクに乗るために必要なメットを買いに
行くためにバイクで行くのか。まあ用品ショップまでは
そんなに遠くもないし、そこまでは俺の予備を使えば
いいかと、じゃあバイクで迎えに行くよと答えた。
やたー♪と無邪気にはしゃぐ○○ちゃんの声がかわいくて、
電話越しにも関わらずまた俺の気持ちを高ぶらせた。

日頃待ち合わせであまり時間を守らないルーズな俺なのに、
このときだけは約束の10分前には既に待ち合わせ場所に
着いていた。待ち合わせたのは地元の私鉄の最寄り駅で、
そんなに規模が大きいわけではないのだが、それでも
週末の駅のロータリーは人でごった返していた。

改札を出てすぐのコンビニの前でということだったので、
そのすぐ脇にバイクを停めて花壇の端に駅の方を向いて
腰掛けた。もちろん駅から出てきた○○ちゃんをすぐに
見つけられるようにだが、改札の人通りも多く、小柄な
○○ちゃんが人波にまぎれてしまわないか少し不安だった。
だが、そんな心配は皆無だった。程なくして改札から
出てきた○○ちゃんは俺にはとても輝いていて見えて、
周りに埋もれることなくすぐに見つけられた。○○ちゃんも
こちら気付き、笑顔で手を振りながら駆け寄ってきた。

昨日の浴衣姿もいいが、今日の私服もまたすごくかわいい。
○○ちゃんは、見た目ギャルというほど派手ではないが、
それでも身体にぴったりフィットした白のTシャツと
デニム地のミニスカートといういでたちは、細身ながらも
胸の形がくっきりわかるし脚も太ももくらいまで見えてるし
もうおじさんたまらない!って感じでいや待て。

それは確かにこういう格好は俺は好きだ。メチャメチャ
ツボを突いているのは認めざるを得ない。だがしかし、
今日はバイクで移動するのだ。この格好じゃとてもバイクに
乗せるわけにはいかない。俺は○○ちゃんに詰め寄った。

「○○ちゃん、スカートにバイクで乗るの?」

「あっそうか。」

真顔でしまったというような顔をしている。○○ちゃんは
意外と天然なところもあるようだ。

「…わはは。まあじゃあ超安全運転で行くからね。ちゃんと
 捕まっててよ」

「はーい」

5秒前の固い決意など、○○ちゃんを前にしては瞬時に
無力となってしまう俺のバイク乗りとしてのポリシーなど
こんなものだったか。

ともかく出発しようということになり、バイクを車道に引っ張り出す。
横にぴょこんと立っていた○○ちゃんは、しげしげと俺のバイクを眺め
大きいですね、重たいですか?と聞いてくる。
確かに装備重量270kgにもなるリッターバイクだから重くないはずはないが、
せっかくバイクに興味を持っている○○ちゃんに不安を覚えさせる言動を
敢えてすることもないだろう。

「うーん、でも要は慣れだと思うよ。バランスさえつかめれば
 女の子だってこれうらいのバイク乗ってる子もいるしさ」

「えーこんな大きいの乗る人いるんですか?」

「いるいる。○○ちゃんもがんばれば乗れるようになるよ」

「でもあたし背低いんですよねー。足届くかな?」

跨ってみる?と言いそうになったが、ミニスカートの○○ちゃんに
そんなこと言うのはスケベオヤジ以外の何者でもないので(言わなくても
スケベオヤジなのだが)止めておいた。

俺のメットを手渡した。○○ちゃんは意外と器用にアゴヒモまで締めた。
ただやっぱり俺のではサイズが全然合っていない。見るからにブカブカで、
ちょっと首を振っただけでメットが回転しそうなくらい動いてしまう。
しばらくぷるぷると首を振っていた○○ちゃんは、俺を見て照れたように笑う。

「あはは、大きいみたい」

「うん、とりあえずショップ行くまでは我慢してね」

「はーい」

先に俺がバイクに跨り、タンデムステップを開いた。乗れるかなーと
不安だったが、○○ちゃんは最初左側のステップに足をかけ、
右足をうまく折りたたんでミニスカートでも見られてしまわないように
器用に跨ったようだ。まあどのみち俺の位置からでは見えないんだけど。
…ってこんなことを考えてしまう俺はやっぱりダメやろうだ。

運転中、極度の緊張感が俺を襲う。だって後ろに乗っている○○ちゃんの
服装はもとよりメットまでこんなんでは、用品ショップまでわずか
10km程度の道のりとはいえ万が一にも事故は許されない。気をつけねば。
しかしそれより何より、俺が緊張しているもっとも大きい理由は、
紛れもなく○○ちゃんをバイクの後ろに乗せていることだろう。

高校生の女の子というだけでもタンデムする機会などあるはずもないのに、
こんなにかわいい女の子が俺と身体を密着させてバイクに二人乗りを
しているのである。正直最初は、○○ちゃんのような格好の女の子を
後ろに乗せて走っていたら、見る人が見たらちゃんとした格好で
乗せろよなーと思われるだろうなとか考えていたが、もはやそんなことは
どうでもよくなってしまった。やっぱり俺は硬派ライダーにはなれそうもない。

ただしばらく走っているうちに、後ろの○○ちゃんがどうもバイクに
乗り慣れているように感じた。自身の経験では、バイクに乗ったことの
ない子を後ろに乗せると、大抵すぐわかる。制動時にメットをコツンと
ぶつけてきたり、怖さが先立つのか苦しいです!ってくらいに俺に
しがみ付いてきたりとか。しかし○○ちゃんはそんなこともなく、
カーブでもバイクの動きに合わせてうまく体重移動しているようで
全く後ろに人を乗せているわずらわしさみたいなものを感じなかった。

「あのさー○○ちゃん」

「なんですかー?」

「なんかバイク乗り慣れてるっぽくない?今まで乗ったこととかある?」

「えっそうですか?けどバイクはお父さんの後ろならありますよー」

お父さんがバイク乗りなのか。なら納得だな。あっそうか。だから
○○ちゃんはバイクに興味あるのかもな。

「お父さんっていくつなの?どんなバイク乗ってるの?」

「お父さんは〜確か38歳ですよ。バイクは…よくわかんないけど
 こういうやつじゃなくて…うーんと。あ、ああいうの!」

○○ちゃんが指差した方向に目を向けると、対向車線を走るビグスクが。
あーなるほど。まあ年齢的にスパトラなんかを付けるようなカスタムではなく
ノーマルで乗ってる可能性が高いが、それより何よりお父さん俺と
3つしか違わないじゃないですか…。軽く衝撃。

○○ちゃんのお父さんの年を聞いて衝撃を覚えた俺だったが、
考えてみればそんな差があるんだよなーと、ある意味現実を
今さらながら思い知らされた気がして、そう考えるとそんな
年の離れた○○ちゃんとタンデムしている今の状況にあらためて
照れが生じてきた。

ショップに着いた。週末とあってさすがに客も多いようで、
駐輪場にはバイクが所狭しと止められていた。駐輪場には
今買ったばかりなのかパーツをさっそく取り付けたり
ダベってる奴らもいた。最近の主流はやはりビグスクなのか、
止めてあるバイクもそれ系が多く、そういうのに乗ってる連中は
大抵10代〜20代前半の若造だ。そのとき駐輪場にいた連中も
そんな感じの奴らだった。

そいつらは俺と○○ちゃんが乗ったバイクが駐輪場に乗り入れると
みな一様にこちらを見ている。俺一人がバイクで乗り付けたとしても
ここまで注目されたことなどない。彼らにとっちゃ、スパトラや
オーディオなど付いていない俺のバイクは興味の対象外なんだろう。
それが今日、ここまで注目されてるのは、後ろに乗った○○ちゃんが
いるからなのは間違いない。なんせTシャツにミニスカートだもん。

あんまりこっち見てんじゃねーよ!恥ずかしいじゃねえか!と
心でそいつらにブツクサ言う。バイクを止めてもしばらくは
メットを取れなかった。げーなんで30過ぎのあんなおっさんが
若い子連れてんの?みたいに思われそうでこっ恥ずかしかったのだ。
俺がモタモタしてる間に、○○ちゃんはさっさとバイクを降り
メットも脱いでいた。何してんの?とでも言いたげに、キョトンと
した表情でこちらを見ている。しょうがなく、俺も意を決して
メットを脱ぎバイクから降りた。

さっさと店内に入ってしまおう。俺は○○ちゃんを連れて
とっとと入り口に向かった。しかし考えれば当たり前だが、
店内には駐輪場よりもさらに多くの客でごった返していた。
その店は一階が駐輪場とピットスペース、作業待ちの客の
待合スペースがあり、売り場は二階と三階になっている。
二階に向かう際にも他の客とすれ違いざまにチラッとこちらを
見られた気がした。単に自意識過剰というか被害妄想なのかも
しれないが、どうもさっきお父さんの年を聞いてからの俺は、
周囲の視線に過敏に反応してしまうようだ。

そんな俺のしょうもない心の葛藤など知る由もない○○ちゃんは、
無邪気に売り場に展示されている商品を興味深く見ていた。
うわーこれかわいいですねと言って足を止めたショーケースには、
ハーレー乗りがするようなシルバーアクセが展示されていた。

か、かわいいかな…。個人的にはゴツイ気がするが、○○ちゃんの
年頃の子のセンスだとかわいいと思うのかもしれない。
欲しいのあったら買ってあげるよと言ったけど、○○ちゃんは
両手を振って遠慮する。そういう控えめなところがまたおじさんの
ハートをぐっと掴むんだよなあ。…はっ、それとも物量作戦で
女子高生を仕留めようとする援交オヤジだと警戒されてるのか?
うーむ。ま、あんまり強引に渡してもよくないかなと思って
メット売り場に足を進めた。

ヘルメットコーナーではフルフェイス・ジェット、何でもある。
これだけ膨大な量の中からどれにする?と聞いても、バイクの
免許もない○○ちゃんに決められそうもないが、装飾用のタイプ
だけはいくらねだられてもダメと言うつもりだった。
とりあえず色々見てみようと、一緒にグルグル回っていたが
○○ちゃんは意外にも装飾用コーナーにはあまり興味を示さなかった。
夏だしフルフェイスよりジェットがいいかなというところまでは
話が進んだんだがそこからまた、うーんこっちがいいかなあ、
それともー…みたいに悩む悩む。お、女の子ってこういうとき
時間食うよね…。

結局小一時間は費やしただろうか。最終的には俺が夏に被っている
ジェットと同じものの色違いにすることにした。ただサイズはSが
ちょうどいい。うわーやっぱ○○ちゃん頭ちっちゃ。そりゃ俺の
XLサイズじゃブカブカなはずだわ。

現代の若者世代とのスタイルの歴然たる差に軽く落胆しながらも、
その後○○ちゃんは俺のメットに付いてるミラーシールドが
気に入ってたみたいなので別売りのそれと、グローブもないと
いうのでメッシュグローブを購入。○○ちゃんはシールドや
グローブを手に取るたびに、これいくらするんですかー?
うわーこんなに高いんですかー!みたいに驚いている。
まあ確かにバイク関連の用品は安いとはいえないが、メットと
その他諸々全部合わせても5万円でお釣りがくる程度だったし、
俺にとってはさして負担でもない額だった。しかし○○ちゃんは
会計をしているときに金額を聞いて、うわーあたしのバイト代が
消えちゃう〜とビックリしていた。なんとなくこのへんの
金銭感覚の違いも逆に新鮮でかわいい。

買い物を終えた俺と○○ちゃんは、とりあえずどこかで
お茶でもしようということで、再びバイクで移動した。
安全上、メットとグローブは今買ったものをさっそく
使うことに。メットの被り方は心得ていた○○ちゃんだったが、
さすがにシールドの取替えまではわからなかったようで、
俺が付け替えてるのを、へーこういう風にやるんですねーと
興味深く見ていた。

近場のファミレスに移動し店内に入った。すぐにウェイトレスに
出迎えられる。おタバコはお吸いになりますか?と聞かれ、
喫煙者な俺はタバコ吸ってもいいかな?と○○ちゃんに聞く。
○○ちゃんは全然いいですよーと笑ってこちらを見る。
で、喫煙席に案内され席に着いてまず一服。今日○○ちゃんと
会って初めて吸うタバコだ。色々衝撃や緊張もあったためか、
メチャメチャうまい。ふーっとため息混じりに煙を吐いた。
そんな俺を見て○○ちゃんは、なぜかすごく申し訳なさそうに
俺を見て言った。

「すみません、なんかすごく高いもの色々と。あたしメットとか
 こんなに高いなんて思ってなくて」

「え?あ、全然気にしないでよ。俺も大人なんだから、それなりに
 給料はもらってるんだぞー。それにボーナスも出たばっかだしさ。
 なに○○ちゃん、そんなこと気にしてたの?」

「だって今すごく悩んでたみたいだったし。あたしがお金いっぱい
 使わせちゃったからなのかなあって」

「え?い、いやいや全然違うよ。ホラだって○○ちゃんみたいな
 かわいい女の子を後ろに乗せたら、男だったら誰でも緊張するでしょー」

あっやばい。調子に乗って俺今変なこと言った。言ってから自分の
言葉の重大さに今さらながらに気付いた俺は、多分顔が赤くなって
いたかもしれない。しまったーと思うももう遅い。
○○ちゃんに引かれたら泣くぞ俺は。しかし○○ちゃんはクスッと笑って、
少しいたずらっぽい笑顔で俺に言った。

「なんかおじさんってかわいいですね(笑)」

だああ!たまんねー!!メッチャ死ねる。キミに胸キュンだ。YMOだ。
ロリコンなのか俺は。いやもうロリコンでも何でもいいぞ。
20近くも年下の女の子にこういうこと言われて萌えない男とは、
俺はわかり合えないと断言する。

「なんだあ、そんなこと気にしてたからさっきアクセ遠慮したの?」

「それもあるんですけどー、あと△△に携帯買ってあげたばっかりって
 昨日聞いたし」

ぐあ。やっぱ昨日玄関先でのケチくさいグチを聞かれてしまってたか。

「いやマジで冗談だよあんなの。ホラ△△って図々しいから、
 たまにそんなこと言わないとすぐなんでもねだってくるからさー。
 大丈夫大丈夫。大体俺独身だから、比較的お金は自由に使えるもん」

よかったあと言って、ほっとしたような表情を浮かべる○○ちゃん。
なんかもうその仕草やしゃべり方から全てがかわいく思えてきて、
正直初めて会ってからこのときが一番自分自身に対する抑制が
きかなくなっている状態だった。甥っ子に対する罪悪感みたいな
ものよりも、本気で○○ちゃんと付き合いたいななんてとんでもない
暴走が心に芽生えた。ただ、その後の○○ちゃんの言葉が、
浮き足立った俺の気持ちをやや冷静にさせた。

「あーでもおじさんって、やっぱ△△の言うとおりの人でした(笑)」

「えっ、何あいつ俺のことなんか言ってたの?」

「はい。△△ってけっこうおじさんの話するんですよ。バイクに
 乗ってるとか空手やってるとか自慢するんですよ(笑)」

「えっ…?そうなの?」

「はい。あたしがじゃあ怖い人なの?って言ったら、顔は怖いけど
 すごい優しいって否定するんですよ。あはは、顔が怖いって言ったのは
 △△ですよ」

「あ、うん」

「この前最初におじさんちに行ったじゃないですか。家に車で
 送ってもらったとき。部屋で話したりなぐさめてくれたりとか、
 あー本当に優しいんだなって思いましたよー」

「あ、そ、そうかな?あははは…」

その後ツーリングは次の水曜にしようとか場所は海にしようとか
色々話してたんだが、さっきまでの浮かれまくった気分は若干
失った。今まで甥っ子は俺に対して生意気な話しかしなかったのに、
俺の知らないところでは彼女に自慢げに語っていたなんて。
甥っ子の気持ちが嬉しくて、また甥っ子に内緒で○○ちゃんとこうして
会っている今の状況がなさけなくて、やっぱりちゃんとこのことは
甥っ子に話すべきだと思い直した。

甥っ子に○○ちゃんとのことを話すには、○○ちゃんにも
そのことを言っておかなくてはならない。本気で言ってるんじゃ
ないとしても、内緒にしといてくれと言われたのは確かだから。

「あのさー○○ちゃん」

「なんですかー」

「うん、ツーリングのことなんだけどさ、やっぱ△△に内緒に
 しておくのは変じゃね?」

「う〜ん、そうですかねー…」

「ホラ、別に内緒にしておくことでもないじゃん。だって
 俺はあいつの叔父さんなんだしさ、第一俺と○○ちゃん
 みたいに年離れててヤキモチもなんもないでしょー」

「うーん」

「俺としてはさ、せっかくバイクに興味ある子にバイクの
 楽しさみたいなのをわかってもらいたいっていうかさ、
 別に○○ちゃんだから行くとかじゃなくて、興味があって
 希望すんなら別に△△の男の友達だって後ろに乗せたって
 かまわないんだしさー」

俺は思い切り嘘をついている。○○ちゃんだから行くんじゃないか。
しかしこうでも言わないと納得してもらえなそうだったし、
かといって甥っ子に黙ったまんまというのももっと辛い。

「うーん…怒んないかなあ…」

「大丈夫大丈夫、俺からちゃんと言っとくからさ。」

「わかりましたー。じゃあそのかわり絶対△△が怒らないように
 言ってくださいね」

よし、なんとか○○ちゃんに甥っ子に伝えることを了承させた。
でも結局俺自身の中に○○ちゃんとあわよくば…みたいなほのかな
願望があることは否定できないんだよな…。後ろめたさが消えた
わけではないが、まあ一応これで俺が叔父としての態度さえ
崩さなければ問題はないはずだ。

その日の夜俺は姉の家に行き、事の顛末を(俺が○○ちゃんに
萌えなことはもちろん伏せてではあるが)姉貴にも話した。

俺「…ってなわけでさー、△△の彼女がさーすごいバイクに興味
  あるみたいでさー、なんか乗せてあげるよみたいな話に
  なっちゃってんだよね」

姉「そうなの?あんた相手はよそん家の子供だよ。やめときな」

俺「うーんでもさー、まあせっかくバイクに興味あんだから
  無碍に断るのも可哀想じゃん。それにお父さんもバイクに
  乗ってるらしいよ。それに俺だってもういい大人なんだし
  同級生みたいな奴のケツに乗るのとわけ違うでしょ」

姉「まーねえ。△△はどうなの?」

甥「えー別にあいつが乗りたいってならいいんじゃん。俺
  しばらく部活も忙しいしさ」

俺「…なんかおまえ態度冷たいよな。もしかしてクール気取ってる?」

甥「バカじゃん?いいんだよあいつウザイしそのほうが俺も楽」

こっ、こいつ…。なんてふざけたことを言いやがるんだ。
少し甥っ子に殺意が湧いた。

俺「おまえなー。あの子すげえいい子じゃんかよ。かわいいし。
  おまえにゃもったいないぞ」

甥っ子はうっせーなーと言って自分の部屋に引っ込んでしまった。

姉「あんたマジ気をつけてよね。事故でもしたら大変だよ」

俺「わかってるよ。何年バイク乗ってると思ってんの」

ほっ。これで何とか隠し事をしないで来週ツーリングに出かけられる。
その日遅くなってから、昼間携帯のアドレスを交換していたので
○○ちゃんからメールが来た。

「ためしにメールしましたー」

「甥っ子に言ったよ。別にいいんじゃんだって」

「さっき△△からメールきましたよ。どこに行くのとか色々聞かれた」

「海って言ったの?」

「言ったら海に入るのとか色々聞かれました。海入りますか?」

マジ?海に入るったら当然水着ですよね?そりゃ俺としてはもう
大賛成なんですが、そんなこと俺の口から言ったらなんかスケベだ。

「天気がよければ入れると思うけどー」

「天気悪かったらバイクも乗れないですよね?」

ま、まあそうなんだけどね。うわー期待しちゃうなーわくわく。
結局メールの最後は、考えときますねというどっちなんだかよく
わからない返事で終わった。うわー水曜まで妄想が止まらない。

それまで俺の頭の中では、海にツーリングっていっても
海岸線沿いを走る程度のことにしか思っていなかったのに、
なんかよくわからんうちに話の流れで海に入るかも?という
ことになってしまった。やばい、おじさん激しく興奮。
それからは期待と妄想と興奮がごちゃ混ぜで、仕事も手に
つかなかったくらいだった。だってここ数年夏に女の子と
海に行ってさえもいないのに、もしかしたら○○ちゃんの
水着姿を見られるかもしれないのだ。そんなこと考えたら
仕事なんかまともにやってられるか。

しかし週明けくらいから天気予報が気になりだした。
今年初の台風上陸が迫ってきているらしい。今後の進路と
進行速度によっては、思い切り約束の日に直撃という可能性もある。
マジかよー。

ああ神様!俺がよこしまな妄想を抱いたからお怒りになったのですか?
わかりましたすいませんもうそういうこと期待しません
海とか入らなくてもいいですから、○○ちゃんの水着姿
見れなくてもブーたれませんから、せめてツーリングだけは
成立させてくださいとリアルorzポーズな心境の俺。
ただ祈るしかなかった。

ところでもうひとつ気になることがあった。同じく週明けから
一度も○○ちゃんからメールも電話もないのだ。
まあ別にそんな毎日連絡取り合うような仲じゃねーだろって
言われたらその通りなんだが、アドレスを交換してからは
その人懐っこい性格のまんま、しょっちゅうメールをくれてた
○○ちゃんなのに、いきなりパタッと来なくなったのだから
やはり少し気にはなる。

台風のこともあるし、仮に晴れたとして海に入る時間を取るのか
どうかによっても予定は変わってくる。連絡が来なくなった次の日、
とりあえず俺の方から一度メールしてみた。しかし結局その日は
メールは返ってこなかった。

翌日になっても相変わらず連絡はない。台風はどうしようもないが、
○○ちゃんから連絡がないのは非常に気になる。も、もしかして
ドタキャン??なんだろなー、親にダメって言われたとか
そんなオチかなーとかよくない方向に考えは進む。
そうなると思い切り妄想してたここ何日かが、メチャメチャ
虚しく思えてくる。しかし前日になって、いきなり○○ちゃんから
電話がきた。

「すみませーん連絡できなくて」

「どうしたの?なんかあった?」

「携帯水に落としちゃってアウトでしたー。親買ってくれないし。
 バイト代残しててよかったですよー。今日買いました」

「あ、ああそうだったんだ…」

「アドとかも全部わかんなくなっちゃって、さっき△△に
 おじさんの番号聞いたんですよー。それでケンカしちゃって」

「え?なんで?」

「わかんないけどたぶん、おじさんの番号とか聞いたからかも」

「あ、ああそう…」

「最初知らねーとか言うんですよ。あたしも頭きたから
 じゃあおじさんち直接行くって言ったら教えてくれたけど」

…この台風の中をね。そりゃ甥っ子も行かせらんないわな。
しかし○○ちゃん、あんま甥っ子を逆なでするような物言い
しなくても…。

「それとねー俺とは海行かないくせにとかも言うんですよ。
 だって行こうなんて言わないくせにもーすごい勝手でー」

なんか今日の○○ちゃんすごいよくしゃべるなー。なんとなく
口調も微妙にタメ口になってきてるし。いやまあこんな俺だから
そういうことに全く腹は立たないんですけど。

「で、すごいケンカになっちゃってー。じゃあ別れようぜって
 言われたからあたしいいよって言っちゃった(笑)」

ええええ!!!!!?????
ちょっと待ってちょっと待ってなんでそういう展開になるの?

「い、いやまずいでしょそれは?」

「もういいんですよー。最近あいつ部活とか言って会わないくせに
 ※※とかと遊びに行ってるの知ってるんですよあたし。
 優しくないんですよー」

いやあの、高校生くらいで付き合うとかって、そんくらい軽い
ノリなのかもしれないけども…。甥っ子と別れちゃったら、
俺が○○ちゃんと行動を共にする必然性がなくなるじゃんかよう。
第一これで別れちゃったら、その原因は間違いなく俺じゃん。
それはいくらなんでもまずい。叔父としての立場がなくなる。

「なんであたしはもうフリーになりましたから!」

「は、はぁ…」

「もう△△の彼女じゃないですけどいいですよね!?」

「え?な、何が?」

「だから明日の約束ー!」

「あ、うんそれは…っていうかやっぱまずくね?いや連れてく
 連れてかないの話じゃなくて、△△と別れちゃっていいの?」

「……」

あっちょっと考え込んだ。説得するチャンスかも。

「けどあたし、△△におまえウザイとかって言われたし。
 …ウザイんですかねー…?」

なんか少し落ち着いたのか、沈んだ声になった○○ちゃん。
あのちっちゃな身体でいつも明るかった○○ちゃんが、声を震わせて
落ち込んでるのかと思うと、メッチャ可哀想になってしまった。

「全然そんなことないって。俺とか○○ちゃんになつかれたら
 すっげー嬉しいもん。よしよしってやってあげたくなるよ、ははは」

あっまた俺調子にのって変なこと言った。しかし今は状況が状況だし
電話だということもあってファミレスのときよりは言葉が出る。

「えー…。ホントですか…?」

「ホントだってば。○○ちゃんはさー年上にすごい可愛がられる
 タイプなんだよね。あー俺だったらそんなこと絶対言わないのになあ」

「……」

だんだん無言になっていった○○ちゃん、そのうち電話越しに
泣き声が聞こえてきた。あああ、泣くな〜。

こういう状況になると、女の子をなだめるのに膨大な時間が必要に
なるのは、ご存知の方も多いのではないか。ご多分に漏れず、
このときの俺もたっぷり二時間は電話に付き合った。
その内容を全て網羅するのは不可能だが、○○ちゃんを慰める
意味だとしても、とてもここに書くのもはばかられるような、
かなり調子に乗った発言を連発してたのは白状せざるを得ない。

そして○○ちゃんも、おじさんって彼女いないんですかとか
年下ってどう思いますかとかあたし年上の人好きですよとか、
まあ本気のやり取りじゃないとしても、そんな発言が色々とあって
俺の萌えレベルメーターはとうに振り切った状態が続いてたんですが、
ウケを狙ったりご機嫌を伺いながら、最終的になんとか話を破綻させずに
甥っ子には俺からも言うから早まらないでちゃんともう一度考えよう、
そして明日のツーリングには晴れたらちゃんと行こうというところに
着地成功させた。このときくらい自分の話術に自信を持てた日はなかった。

…もう水着どころの話じゃねえよちくしょう…。


ツーリング当日。天気が気になっていた俺は明け方には
目が覚めてしまったが、幸いにも台風は既に東北方面に移動し
このあたりはやや雲が残るものの既に晴れていた。
ツーリングには出掛けられるなと、ほっと一安心。

しかし昨日の泣き出してしまった○○ちゃんとの電話、そして
甥っ子と別れたという衝撃の事実には正直まいった。
延々二時間以上もなだめたりグチに付き合ったりしてるうちに、
幸か不幸か○○ちゃんと俺の間柄はかなり砕けた雰囲気になって
しまったような気がする。

○○ちゃんはタメ口で俺に話してくるようになっちゃったし、
俺もそれまで、自分の心の中だけに留めておいた○○ちゃんへの
感情の一端を口にしてしまったし。落ち込んでいた○○ちゃんを
慰めようという大義名分があっただけに、よけい抵抗なく
口に出ちゃったわけだが、一晩明けた今、昨夜の電話の内容を
思い返すともう顔から火が出るほどこっ恥ずかしい。
そんなわけだから、それまでの単純に○○ちゃんとツーリングに
行けるというウキウキ感だけでなく、若干気まずさというか
照れというか、そんな複雑な思いも同時に抱えての当日となった。

約束の時間は午前7時。俺が○○ちゃんの家まで迎えにいく
ことになっていた。下道でのんびり行くという手も考えたが、
せっかく二人乗り解禁になったことだし、高速を使うことにした。
これならゆっくり行っても3時間はかかるまい。
約束の30分ほど前、一応最終確認で俺が○○ちゃんに一度メールを
入れるということになっていた。

「おはよう。準備はできてる?」

「おはよー。うんできてる!」

「じゃあこれからそっち向かうね」

「あそうだ。海は?」

突然思い出したかのように○○ちゃんから海について聞いてきた。
メールでの説明が面倒だったので、そこからは電話に切り替えた。

「なんかねー台風の影響で波がすごい荒れてるらしいよ。
 今日はちょっと無理っぽいんじゃないかなー」

「そーなんだ。海入りたかったなー。でも焼くのも無理かな?」

…○○ちゃん、キミもしかして俺の心でも読めるのですか?
俺としては海に入るかどうかはさして重要ではなく、○○ちゃんの
水着姿が拝めるかどうかが問題なのであって、日に焼くだけでも
水着にはなるわけだから、俺の目的は120%達成される。
し、しかしここで調子に乗って上ずった声になってはいかん。
あくまで態度はクールに、何でもないような風を装うのだ、俺。

あーそのくらいなら大丈夫なんじゃないかなあ」

「…おじさん、なんか海嫌がってる?」

「い、嫌がってなんかないってば。むしろお願いしますな気分だよー」

言っちゃってからさすがにこれはしまったと思った。ちょっと今のは
あまりに露骨というか女子高生にとってはドン引きな発言だろう。
アホか俺は。しかし○○ちゃんは、その持ち前の天然っぷりを発揮し、
全く俺のスケベな意図に気付いていなかった。

「…なんでお願いしますなのー?あ、そんな海入りたかったんだ(笑)」

た、助かった…。

○○ちゃんの家までバイクで行くと、もう○○ちゃんは外で立って
待っていた。俺に気付くと手を振って駆け寄ってきた。そんな仕草が
メチャかわいい。

「すごい早いー。飛ばしたでしょ?」

「うんちょっとだけー」

「こらー。安全運転しなきゃダメでしょー」

こ、こらーとか言われてるし。しかもかわいい感じで。メッチャ萌える
調子で。あああ、もうどないにでもしてくれー。

うーごめん。待たせちゃ悪いかなと思ってさー。
 ○○ちゃん乗せたらちゃんと安全運転で行くから」

「あはは、うけるー(笑)」

「へ?」

「だっておじさんあたしが怒るとかわいいんだもん。
 △△だとうるせーとか言って逆ギレするから言わないの」

「……」

うーむ、甥っ子の奴ももうちょっと年取れば女の子にかわいく
怒られる快感みたいなものがわかってくるんだと思うが…。
折を見て奴にもそういう話を言って聞かせてやりたいが、
とりあえず今はそれどころじゃない。

ところで今日の○○ちゃんは、ちゃんと俺の言葉を受け入れて
ジーパンと上も長袖のシャツ。この日差しの強い時期に素肌を
露出させないだけでもよしとしよう。まあプロテクション効果は
全く期待できないが、それは俺が安全運転に努めればいい話だし。
しかしディパックみたいなのを背負ってたのだが、その中には
もちろん水着も入ってるんだろうなー。うわあわくわく。

とりあえず出発した俺たちは、都内を迂回して千葉に入ってから
高速に乗った。実は俺自身、高速道路での二人乗りは初めてだったが、
○○ちゃんも当然バイクで高速道路は初めてだろうし、料金所で
いったんバイクを停めて次の休憩ポイントとか簡単な意思表示の
合図とかを話した。

京葉道を経由して千葉東金道に入る。向かったのは外房だ。
俺にしてみれば10代の頃からよく通った海だが、○○ちゃんは
外房に行くのは初めてだったらしい。運転中、やはり高速走行に
少し緊張してたのか、○○ちゃんが俺に捕まる手に少し力が
こもっていたのが印象的だった。

結局高速では一度も休憩に入ろうという合図を俺に送ってこなかった
○○ちゃん。まあ実質一時間程度なものだろうが、さすがに
少し心配になって、高速を下りてすぐのところにあったコンビニで
止まった。○○ちゃんはゆっくりとバイクを降り、メットを取ると
意外なことに満面の笑みで俺に言った。

「すごい気持ちいい!お父さんのバイクと全然違うよー」

「あ、バイクで高速は初めてだっけ?バイクで高速の二人乗りって
 最近できるようになったんだよね」

「そーなんだ。でもあたしもバイクすごい乗りたくなってきたー。
 マジで免許取る。そしたら一緒にツーリング行ってくださいね」

「あ、うんそれはもちろん」

なんかよくわかんないが、とりあえずバイクに魅力を感じてるんなら
それに越したことはない。

そこから小一時間ほど下道を走ると、海水浴場に着いた。まだ時間は
9時をちょっと回ったあたりだ。しかし海の家のある海岸へ乗り入れると
警備員というか誘導係みたいなおっさんが、今日は海水浴は無理だよと
言ってくる。確かに海を見れば、今までお目にかかったことのないような
ものすごい波のうねりだった。砂浜を越えて車を停める駐車場の方まで
飛沫がきそうな勢い。こりゃ○○ちゃんの水着姿を拝みたいのは山々だが
諦めるしかないだろう。ただ、そんな理由でガックリしてる俺よりも、
むしろ○○ちゃんの方がつまんなそうな表情をしていた。

「うー海行けないのー?」

「あーだってこの波じゃあさ…。まあ台風自体は北に向かってるんだから
 俺たちはこのまま房総を南下してみようよ。そしたらそのうち海水浴
 できるところにあたるかもだよ」

まあ言われるまでもなく俺だって○○ちゃんの水着姿は激しく見たいのである。
そんなに落ち込むなよーと、なんとかなだめながら次なる場所に向けて
走り出した。しかし白里から御宿に移動しても、相変わらず海に入れそうな
気配は全くなかった。つか御宿では高波の影響をモロ被ったのか、
なんか海の家を補修してたっぽいし。そこからさらに外房をぐるりと回り、
いつしか俺たちは富津の方まで来ていた。

富津あたりになってくると内房なせいか波は穏やかで、
道路際から見える砂浜では海水浴を楽しむ地元民らしい
少年の姿などもあった。この頃になると○○ちゃんも
だいぶバイクの後ろに慣れてきたのか、信号待ちのときはもちろん、
走行中もちょこちょこ俺に話しかけてくるようになった。

「なんかー少しおなか減ったかもー」

「そういや俺もー。さっきなんも食わなかったしねー。
 よし、どっか寄ろうか?」

そう、九十九里に着いてから移動途中、鴨川あたりのファミレスで
一度休憩はしたが、そのときは暑さのせいか俺も○○ちゃんも
あまり食欲がなくドリンクのみだったので、さすがに腹が減ってきた。

金谷のフェリーターミナルには寿司屋やファミレスもあるにはあるが、
俺はせっかく富津にいるのだから、あるラーメン屋に向かおうと思った。
もう何年も前、たまたまこのあたりをバイクで通りがかったときに
偶然入ってみた一軒のラーメン屋があるのだが、大して期待もせずに
食べてみたところ妙に素朴な味わいで、しかしなぜか俺は気に入った
のだった。それ以来たまにこのへんに来ると、大抵ここでラーメンを
食うのが俺のルーティンになったのだ。

「あのさーこのへんにわりかしうまいラーメン屋あるんだ。そこ
 行ってみない?」

「ラーメン?うんいいよ」

よし!と勢い込んでラーメン屋に向かった。しかしその店の前まで来たら
なんと無情にもシャッターは閉まっており休みだった。あぐぅ、ついてねえ。
バイクを止め、しばし落胆してる俺を見てた○○ちゃん。俺の横に来て

「お休みなんだからしょうがないよ。どこか他にもあるんじゃない?
 探してみよっ」

「う、うん…」

「あはは、おじさんあんま落ち込まないの(笑)」

なんつうか、俺の方が年下みたいじゃないか。なんかカッコ悪りぃなあ。
しかし言われたことはごもっともなので、確かこの先にももう一軒、
入ったことはないがラーメン屋というか食堂みたいなのもあったはずだ。
そこに行ってみたら開いていて、とりあえず安堵。しかし俺が毎回
食っているラーメン屋ほどにうまいものとは思えなかったのが心残りだ。
店を出たあと俺は○○ちゃんに謝った。

「ごめんねーなんかあんまおいしくなかったね。最初行こうと思った
 店はもっとおいしいんだけど…」

「そんなの気にしないでー。だってまた今度連れてきてくれるでしょ?」

「あ、う、うん…」

なんかこの言葉にまた俺は参ってしまった。俺を単なる甥っ子の叔父と
思っているだけならば、甥っ子と別れてしまった今となっては
また一緒に来ようなんて言わないのじゃないか。
もしかしたら○○ちゃんは、本気で俺に少し好意を持ってくれてるのかな?
なんていう妄想が、また頭をもたげてきてしまった。

その後富津岬の方に足を伸ばし、突端にある海岸でバイクを止めた。
そこは波も穏やかで、人数はそれほど多くないものの照りつける日差しに
肌を焼いたり、海水浴を楽しむ観光客でそれなりに賑わっていた。

「わー海入れるよ!どうしよっかー?」

○○ちゃんはバイクから降りると、砂浜に走っていきはしゃいだ。しかし
このとき時間はもう夕方近く。しかもあたりを伺うに簡易的な売店が
あるのみで、海の家のような着替えをしたりできそうな施設がないようだ。
車なら車内で水着に着替えることもできるかもしれないが、バイクだと
そうもいかない。

「そーだねー。じゃあ今日は諦める」

と言いつつちょっとご機嫌斜めってる○○ちゃん。うああ、俺だって
水着姿激しく見たいのは山々なんだよう!…とは口が裂けても言えないが、
どうしたらいいんだ、この状況。

「あーあ、あたしこの夏初めての海だったのになー」

「ま、また海来ようよ。今度は車で連れてってあげるからさー」

「え、ホント?」

たまらずつい口に出た俺の言葉に、○○ちゃんは急に表情を明るくし
やったーと喜ぶ。こういう感情の素直さがまたかわいいのだよなあ。

「絶対、約束ですからね!しかも来週とかでいい?あのねーあたし
 来週◇◇(女友達らしい)と海行こうかって話してたからー。
 ◇◇も一緒でいいですかー?」

「わはは、なんか途端に明るくなっちゃって。ゲンキンだなあ(笑)」

「えへへー。だってずっとバイトばっかであんま遊んでなかったんだもん」

とりあえず機嫌を直してもらい、ほっと一息ついた。しかしなんというか
また○○ちゃんと出掛ける約束をしてしまい、俺の心苦しさはまた消えずに
続いてしまうことになったわけだが、今はこういう関係で楽しませてあげられれば
それでいいのかもしれない。

今後、俺と○○ちゃんの仲がどうなるのか、それは現時点で俺にもわからない。
ただ普通に付き合うなどと考えるにはあまりに特殊な関係で、俺もそう簡単に
行動に移せるはずもない。もちろん心身ともに成長の早い年頃の○○ちゃんだ。
そのうち甥っ子じゃなくても、また同年代の男に気が向くこともあるだろう。
そうとわかればみっともないジェラシーは、少なくとも表面には出さないように
気をつけようと思っている。本来は俺と一緒に行動しているのが少し変なんだろうから。
今はずっと年下の、俺にとってかわいい女の子に心の中だけで振り回されても
いいかなと、そんな風に思っている。



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