− 915 さんの恋愛話 −

半年くらい前にそのコと出会った。今、思い出しても
本当に時間が経つのは早かったなと感じてる。
お互いが気にし始めるまで、そう時間はかからなかった。
もう会う事はないと思う。
二人の間にはバイクが横たわって、時には中心に、時には
お互いを引き裂く道具になった。
楽しかった思い出も、悲しかった出来事も今はもう俺の
アタマの中にだけある引き出しにしまっている。
バイクにまつわる恋愛と呼べるかどうか、おそらく呼べない
けどちょっとだけここを借りて心の中を全て吐き出させて
いかせて下さい。

突然始めて、自己完結で締めると思うけど許してください。



同じ大型店舗内で働く、別会社同士の人間。
平たく言うと別々の派遣会社に所属している人間
同士の間柄。
それが自分と亜希子さんの出会いだった。
その店舗内で顔を会わせたら、挨拶をする程度で
お互い顔は知っているけど、会話らしい会話をした
事はなかった。
俺がその店舗に勤め始めて1ヶ月ほど経った頃、
週末のセールに合わせて朝の開店時に店の入り口でその店舗の
正社員の人間と一緒に、5、6人くらいで 「いらっしゃいませ」
の声出しをする事になった。
そこには、俺といつも挨拶くらいしかしない亜希子さんも
居た。

ふいに俺が注意された。5、6人の中には
主任が混じっていた。
「もっと声を大きくだして、わかった?」
まるで子供をあやすかのような言い方に一瞬カチンときたが、
表情には何も出さず、返事をしていた。
それから30分くらい入り口に立ち、客を迎え入れ、各々、本来の
仕事に戻っていった。
夕方になり、その日の仕事もあらかた終わり、後はその店舗内に
いる自分と同じように派遣会社に所属している人間にその日の
結果を聞いて引継ぎをするだけだった。
店舗内には多い時で4人、いつもは3人の人間が入っていた。
亜希子さん以外の2人は休憩時間にたまに一緒になる事もあり、
いつも世間話がてら業務連絡をしている感じだった。
それまでにも何度かは、亜希子さんにその業務連絡をしていたが
お互いいつも必要以上の事は話さず、俺は何となく、ぎこちないなと
感じていた。
でもその日は違っていた。

亜希子さんの所へ挨拶に行くと、俺の姿を見つけた
亜希子さんがニコニコしながら俺に話しかけてきた。
「今日、朝注意されてたでしょ」

そう言われ、もうほとんど忘れかけていたその日の
朝の声出しの事を思い出し、少しムッとした。
「あの、今日の結果なんですけど」
とそのまま俺はそそくさと業務連絡を済ませようとした。
「ごめん。そういうつもりじゃなくて、私もあの主任の事
 あまり好きじゃないんだ。915さん朝、ちゃんと声出てた
 と思うし。」
そう言われ、派手そうな外見とはあまり合ってない、落ち着いた
声色で話す亜希子さんを見てそれまでのイメージが俺の中では
吹き飛んでいた。

外見とは裏腹に落ち着いた感じと、うわついていない
声色を聞いて、そのギャップに俺は亜希子さんに興味を
持ちかけていた。どんな人なんだろう?と

いつの間にか自分から色々な話をし始めていた。
それに亜希子さんが答え、また自分から質問をする
という感じで20分くらい、引継ぎにしては長すぎる
会話をしていた。

「ねぇ メールしてよ また主任に叱られると困るしさ」
と言って亜希子さんは自分のバッグから携帯を取り出して
アドレスを俺に見せて、「送ってみて」と言った。
アドレスを交換して、「じゃあね」と亜希子さんは言って
その日の引継ぎも終わった。
家に戻り、夜の10時くらいになり、そろそろ風呂にでも
入って、寝る準備でもしようかなと思っていた時、携帯の
メールの着信音が鳴った。
メールを見るとまだ登録していない亜希子さんからの
メールだった。

そのメールをもらってから夜中までいろんな事を
メールで伝えた。
自分がバイクに乗って長い事、亜希子さんは俺の
街から少し離れた所に住んでいる事や実は同い年
だった事など、今思うと、電話で話せば良かったな
と思うくらいその日はずっとメールをしていた。

それからは仕事で会うたびに引継ぎにしては長すぎる
時間を亜希子さんと話していた。

「ねぇ 915さん、この辺でおいしい店知らない?連れて行ってよ」
俺は内心誘われるとは思っていなかったのもあって
ドギマギしながら、自分の地元でけっこう人気のある店を何軒か答えた。
その日の仕事が終わってから、俺が何度か行った
事のあるおいしいと評判の洋食屋に一緒に行く約束をした。

俺はバイクで、亜希子さんは自分の車でその店まで行った。
亜希子さんと一緒にご飯を食べながら、いろんな会話を
していく内に、自分の中で気持ちがはっきりと動いていくのが
わかった。自分の思ったことを素直に話す姿や、見た目とは
ギャップのある落ち着いた仕草に楽しくて、時間を忘れている
自分がいた。

「ねぇ 今度はさ ケーキ食べに行こうよ」
「え?今から?」
かなり驚いた表情で聞き返す俺を見て、亜希子さんは
「いい 今度にしよ」

ちょっと残念そうにそういったきり、そのまま口数が明らかに
少なくなった。

ご飯も食べ終わり、そろそろその店を出る雰囲気になってきた
時、俺は口を開いた。

「今度 休みの日にどっか遊びに行こうよ」

少し微笑みながら、亜希子さんは
「いいけど でも915さんと休み合わないかもよ」

「これから調整して、合わせない?」
と俺は言って今、決まっている時点での自分の休み
を亜希子さんに伝えた。
次の週の平日だったが二人の休みが合う日があり、
その日の夕方から出かける約束をした。
本当は朝から亜希子さんと会いたかったが、俺は
結構前からツレと遊ぶ約束をしていて、何回かドタキャンを
していた事もあって、今度は絶対と約束をしていた。
亜希子さんもその日は用事が昼過ぎまであると言って
いたからちょうどいいかなと思っていた。

それからはメールをしたり、仕事中は普通に
会話したりと特に今までと変わらずだった。
約束の日の前日に亜希子さんからメールが来て、
「どこに行こうか?」と聞かれ、俺は前に行って、けっこう
おいしかった店(これも洋食屋)に誘ってみた。

亜希子さんからの返事はあまり乗り気じゃなく、
「他のものにしない?」と返ってきた。
それから返信メールを打ち込んでいると、また
亜希子さんからメールが来た。
「一緒にケーキ食べようよ」

ほんとにケーキ好きなんだな。と思いながら
一応、自分の街でうまい店を言ってみると、亜希子さんも
そこを知っていて、こっちに来た時には必ず行ってるらし
かった。
約束の日、夕方6時にその店の前に待ち合わせを
した。
その日、自分が亜希子さんを傷つけるとは微塵も
思っていなかった。

俺は約束の少し前の時間にその店に着き、
バイクを止めて、近くにあるコンビニで時間を
潰していた。6時を少し回った頃、携帯が鳴った。
「915さんどこにいるの?今、店の前に着いたんだけど」

亜希子さんからだった。すぐに行くと言って電話を切り、
店の前に行くと、車を降りて俺のバイクの横に
立ついつもとは少し雰囲気の違う亜希子さんを見つけた。

いつも見ている亜希子さんは、白いワイシャツにタイトスカート
で店舗内で仕事をしていて、ほんとうの年齢よりも少し上に
見えた。私服で会った亜希子さんは白いジャケットに少し
短めのスカートを穿いていて、自分よりも3〜4歳下に見えた。

「ごめん そこのコンビニで時間潰してた。」
と俺が言うと、

「ううん じゃ行こうよ ここのケーキすっごい好きなんだぁ」
と子供っぽい笑顔で返す亜希子さんを見て、俺は1人で
ドキドキしていた。

テーブルを挟んで亜希子さんとケーキを食べながら
いろんな話をした。仕事の話や、学生の時の話、
休日に何をして過ごしているか、とりとめのない会話を
していた。亜希子さんは今の仕事場の店舗に俺よりも
長く入っている事もあり、いろんな事を俺に教えてくれて
俺は聞き手にまわっている時間が多くなった。

不意に亜希子さんが俺に聞いた
「915さんは車に乗らないの?」

その質問に少しだけ俺は戸惑った。きちんとした答えが
自分自身の中に見つかっていなかったからだった。
正確には乗っていた。今までで3台、車を乗り継いでいて、
最近まで乗っていた軽自動車は、かなり嫌な思い出と
ともに廃車にした。

「乗らないよ 今は乗る気がしない 特にケイ(軽自動車)は
あんまり好きじゃないんだ。」
最近まで乗っていた軽自動車を廃車にしてからは、以前も
そういう時期があったが、バイクにだけ集中して乗っていた。

その時はその嫌な事を思い出していた事があり、
亜希子さんが軽自動車に乗っている事がアタマから抜け、
ましてかなりのクルマ好きな人だとは、その時点では知らなかった。

何気ない質問に語気を強めて言ってしまった後に、はっとなって
亜希子さんが軽自動車に乗っている事がアタマに浮かんでいた。

「そっか・・・ アタシの車で一緒にどこか行ったりはできないね・・・」
少しだけ悲しそうな顔をして亜希子さんは独り言のように
ぽつりと言った。

それからは明らかにさっきまでとは違う雰囲気で
普通に会話をしていても亜希子さんはどこかつまらなそう
だった。

俺は自分の嫌な思い出を亜希子さんにぶつけて
しまっていた。気になりながらも、その日はケーキを
食べ終わり、別れた。
俺は、家に帰ってからも、自分に対して嫌な気分になって
いて他の事が手に付かなくなっていた。
もういいやと思い、風呂をすませてから、電気を消して
すぐに寝てしまおうとベッドに横になった。
暗くしても寝付けるはずがなく、少しして、
暗闇の部屋の中で手だけ伸ばして携帯を取り
亜希子さんにメールを打った。
何気ないメールを2、3回した後、俺は亜希子さんの
携帯の番号を聞いて、返信を待った。
亜希子さんから笑顔の顔文字と番号が
返ってきた。

「今から電話で話せるかな?」
「いいよ」

暗闇の中の自分の部屋で俺は、焦りにも似た気持ちでとにかく
亜希子さんの声が聞きたかった。
時間は午前0時を回っていた。

亜希子さんに教えてもらった番号をダイヤルして、
3コールくらいで繋がった。
「もしもし 915だけど」
「もしもし 」
「今は何してた?」
「ん・・ 今、ベッドに入ってもう寝かけてた」

少し眠そうな亜希子さんの声が返ってきた。

「何か、今日はごめん それが言いたくて電話した。」
「何?」
「車の事で、遠まわしに亜希子さんの事否定したみたいな言い方して」
「ううん 気にしてないよ」

そう言うと、亜希子さんはそれ以上何も言わず、少しだけ沈黙が流れ

「ねぇ 915さん 」
「何?」
「アタシね 915さんともっといろんな事、話したいな」
「これからも、夜にもっと電話で話そうよ」
「いいよ」

その日は俺の頭の中では一緒にケーキを食べていた
時の亜希子さんの事が気になりながらも、30分くらい
亜希子さんと話していた。

その電話をした日からほとんど毎日と言っていいほど
俺は亜希子さんと電話で話していた。
それからは、一緒に仕事に入っている日や亜希子さんが休みの
日もメールや電話で連絡をとりあっていた。

俺の中で、亜希子さんの存在はすごく大きくなっていた。
亜希子さんの声を聞くと落ち着き、話しをしている時間が
楽しかった。

その電話がかかってきたのは亜希子さんと出会ってから
もう1ヶ月くらい経っていた頃だった。
その日は、俺は疲れていて早めにベッドに入り、12時前に
はもう寝付いていた。
電話が鳴る音で起こされ、着信を見てみると亜希子さんから
だった。時間は午前3時を回っていて、ほとんど無意識に
通話のボタンを押して、眠そうな声で電話に出た。

「もしもし」
「もしもし 915さん?アタシ、亜希子」
「どうしたん?こんな時間に?」
「915さんの声が聞きたくてねぇ 寝てた?」
俺は少しムッとした。でも声から亜希子さんの雰囲気が
違うなと感じて、だんだん目が覚め意識がはっきりしてきていた。

少し話していると、亜希子さんの声は明らかに
呂律が回ってないように聞こえた。
「ねぇ 亜希子さん今、飲んでる?」
「あ、気づいた? 今は飲んでないけど、さっきまで飲んでたよ」
「そうなんだ 明日、俺は休みだけど亜希子さん仕事だよね
 大丈夫なん?」
「大丈夫だよぉ それよりさ 915さん」
「何?」

「聞きたい事あって電話したんだけどさぁ たぶん今しか
 言えないと思うからさ」
と言って、亜希子さんは続けた。

「アタシの事どう思ってる?」

その質問に、俺は正直に自分の気持ちを伝えようと、まだ
少しはっきりしていないアタマの中で言葉を整理しよう
と少し躊躇した。

「アタシはね・・・ 915さんが好きだよ 」

亜希子さんのその言葉を聞いて、俺は完全に
目が覚めていた。

亜希子さんのその言葉がはっきりした意識の
俺の頭の中でグルグル回っていた。

「ねぇ 915さん起きてる?アタシの言葉、聞いてるの?」

「俺は、初めて亜希子さんと話した時から気になってたんだ。
 俺の中でどんどん亜希子さんを想う気持ちが大きくなってた・・・
 でも、自分の気持ちを正直に伝える事にブレーキかけてた、ずっとこのまま
  いられたらって」

受話器の向こうで、亜希子さんは黙って俺の言葉を聞いていた。

「正直にはっきり言うよ 真剣に亜希子さんが好き
 一緒に居たいんだ」

俺の心の中を吐き出した後、しばらくの亜希子さんは黙って
何も言わなかった。

「ほんとうに?」
亜希子さんがつぶやくように、そう言ったのは
ちょっと経ってからだった。

「うん 真剣に」

「アタシね 今まで、自分からメールとか教えた事なかったの・・・
 だから、すごい不安だったんだよ・・・ 915さんと
 メアド交換してからずっと待ってたんだよ。
 どうしてメールしてくれないんだろうって」

亜希子さんの気持ちを、俺は黙って聞いていた。

「それからもアタシ、仕事終わってから、ずっと連絡待ってた・・・
 でもどうしようもなくなって・・・この電話で最後にしようって」

話している途中から、受話器の向こうで、亜希子さんは泣いている
ように聞こえた。

俺は、その亜希子さんの言葉にどう言っていいか
わからなくなっていた。
「ごめん 俺、最低だね。亜希子さんのそんな
 気持ちも知らないで自分の事だけ考えて」
とゆっくり言って謝った。

「そうだよぅ 915さん最低だよ〜」
亜希子さんはフフッと少し笑い声で言った。

「キツイなぁ フォローなしか・・」

「早く気持ちを言わなかったバツだよ」
と少しうれしそうに亜希子さんは言った。

それからは、完全に目が覚めていた俺は亜希子さんともっといろんな
事を話したかったが、亜希子さんは明日仕事という事も
あり、その後20分くらい話して電話を切った。

一人ベッドの上で横になりながら、俺はまだドキドキしていた。
派手そうな外見とは裏腹にすごく脆くて、繊細な亜希子さんを
もっと知りたくて、守りたいと思い始めている自分がいた。

次の日、まだ登録して間もない亜希子さんからの
メールの着信音で目が覚め、時間を見てみると、
いつも自分が仕事場の店舗に着くぐらいの時間だった。

「いつもの道が渋滞してて、仕事に遅れそうだよぉ」

という文と、困り顔の顔文字が亜希子さんから入っていた。
俺は今、どの辺りにいるか亜希子さんに聞いて、返信を
待っていると、すぐ近くまで来てるけど全く動かないと返って
来た。俺はすぐに、その辺の抜け道の入り方をメールで
説明して送っみた。
それから、しばらくメールは返ってこなかった。
30分くらいして、
「あの後進みだしてね、ギリギリだけど間に合ったよぉ 
915さんありがとね〜  寒いのに走ってちょっと汗かいちゃった」

メールを見て、そのまま行けて間に合ったんだなと思い、俺
は着替えてバイクに乗る準備をしていた。

休みの日にほとんどの時間をバイクに乗って過ごす事、
自分のバイクのパーツを探しに行く事、自分にとっては
自然な行動がそれから少しづつ亜希子さんと距離を離していって
しまうとはその時、思っていなかった。







長い間ほったらかしにしてて、自分でもどうしようもなく
なって、そのままになってます。
本当の事を言うと、この亜希子さんの話をして最後に
言うつもりでしたが、私は(元)バーです。
以前の書き込みから少しだけ自分自身成長したつもりで、
ここに全て書きこんで気持ちに整理をつけたかったのですが、
それもままならない状況になって書けなくてすみません。

今は何も考えられず、この夜の時間はこれから自分自身と孤独
と戦いながら、明日から過ごしていかなきゃならないです。
簡単に言うと、フられたと言う事ですが、まだ日も浅く、傷跡を
持て余してる状態です。

今まで読んで、面白かったと言ってくれた方、待っていてくれた
方 すごく感謝しています。いつこの状況からいつ抜けられるか
自分自身わからないですが、傷が癒えたらまた顔をだします。

話が途中で終わってしまってごめんなさい。



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