− バイクヲタ◆6p2QjCDRdY さんの恋愛話 −
| もう春とは言っても、まだ寒い日が時折やってくる。いわゆる寒の戻りだ。 関東平野を取り囲む山地は、真冬よりそういった日に雪が降って積もる。 先週の土日がそういう日だった。 今年の走り初めは先週の予定だったが、都内でも雪が積もる状態なので やむなく取りやめにした。 しかし、平日は例年より暖かい日が続いたため、さすがに山に積もった雪 も融けただろうと、今日土曜日にいつもの山道へと愛車を走らせた。 走りなれたワィンディングを愛車で縫っていく。先週の雪のせいか走る車も少ない。 気持ちよく走り抜け、いつもの休憩場所に着いた。 いつもはバイクがたくさんいるはずだが、今日はとても少ない。 「ラッキー!」と心の中で小躍りしつつ、しばし休憩の後、更に奥のワィンディングを 目指すため、再度愛車に火を入れ走り出す。 しばし湖畔の平坦な道を走り抜け、ここから本番のステージだ。 右手で愛車に鞭を入れ、エンジンの方向を引き出しながら山を駆け上っていく。 数個のブラインドカーブを抜け、山陰のコーナーに入ると道脇に白いものが... 「あちゃ〜、まだ融けてないのか...まぁ、路面には残ってないだろう。」 少し不安を抱えたため、少しペースが落とし、注意深くコーナーに侵入するモード に自分を切り替える。 更に山を登っていくと、道端の白いものの量がだんだん増えていく。 でも、路面は一部を除いてドライなので、まぁ大丈夫だろう。 ワィンディングコースの中盤、ここからがお気に入りのステージだ。 しかし、融雪で発生した水が道を濡らしている... 「やっぱり駄目か... まぁ、無茶せずいつもの終点まで行こう。」と考え セーフティモードでコーナーに飛び込んでいく。 すると山陰の路面は白かった... リアタイヤがずずーと滑る... 「うぉー!!!」と叫びながら無意識に体勢を立て直そうとする。 「ここでこけたら3桁万円!!!」と脳裏に最悪の状況が浮かぶ。 幸いフロントタイヤがグリップを保ってくれたので、私程度の腕でも こけないで済んだ。 さっさとこんな場所から逃げたかったが、この勾配でUターンはちょっと 危険だ。Uターンは諦め、いつもの終点の駐車場を目指す。 慎重に慎重を重ねて、やっと終点の駐車場に着いた。 しかし、駐車場には私の身長 180cm を越える雪の山がある。 当然駐車場にいるのは私一人。 「これじゃ、空いてるはずだよな...」 自分の判断の甘さを呪いながら、今来た道を引き返す。 こけないことを第一にと、「傍から見たら情けない姿なんだろうなぁ」 という格好で山をくだり、やっと最初の休憩地点に戻った。 当然普段の倍ぐらい疲れたので、走る気になるまでそこで休むこと にした。 売店で買った飲物をすすりながら、太陽の光で体を温める。 平地ではかなり暖かくなる予報だったので、この陽気に誘われたのか さっきと違ってだんだんバイクが増えてきた。 愛車の横でやってくるバイクを眺めていると、1台の青いのバイクが私 のバイクの横に停車した。 ずいぶん小柄なライダーだなと思ったら女性だ。 最近バイクを買ったのか、バイクはとても綺麗だった。 女性でしかも新車をあの雪道に向かわせるのは忍びないと、私は騎士 道精神を発揮することにした。 女性がヘルメットを脱ぐ。大きな目が愛らしく、私好みのちょっと とろそうな感じの娘だった。 「こんな感じの娘がバイク乗るんだぁ...」と少し意外に思いながら 声をかける。 「奥まで行くんですか?」 「え?」彼女は体をちょっとびくつかせた。 少し驚かせてしまったようだ。 まぁ、こんな男がいきなり声をかけたら驚くよな... 「今行って帰ってきたところだけど、山の上はまだ雪が積もって ますよ。ちょっと危険なんで行かない方がいいと思います。」 彼女は只でさえ大きな目を更に見開いた。 「えぇ〜、そうなんですか?」 「ほら、私のバイクを見ると真っ白でしょ。」 私の愛車のホィール、スィングアーム、マフラーなどが巻き上げた融雪の 水が溶かした塩化カリウムで真っ白だ。 彼女も納得したらしく、諦め顔になった。 「そうですか... まだ免許取ったばかりなので諦めて帰ります。どうもありが とうございました。」 そうそう、それがいい。 「免許取ったばかりなら新車でしょ。新車をこんなどろどろにしたくないし ね。」私は笑顔で言った。 「はい!やっとバイクを手に入れたので、大切にしてるんです。」彼女は 笑顔で答えた。笑うと更にかわいらしくなる。 そして「ちょっと失礼します。」と彼女は売店などの施設のある方向に 歩いていった。 まぁ、休憩のためにここに来たのだから当然だ。 しばらくすると暖かいお茶を買った彼女が戻ってくる。 私が座っているベンチに端に腰をかけ、お茶を飲み始める。 「ぜっかく来たのに残念ですね。」と彼女から話掛けてきた。 「まぁ、雪が降るのもこれで最後だろうし、来週には完全に融けてる でしょう。これからがシーズン本番だから、まだまだ来る機会あるさ。」 「はい。また来ます!」 バイクに乗れるのが嬉しいという初々しいオーラがいっぱい出ているの がわかって、微笑ましい。 「このバイク、かっこいいですねぇ。」 と私の愛車を見ながら更に話掛けてくる。 「そう?まぁ、あんまり走ってないからねぇ。」 例え愛車のことだとしても、女性にかっこいいと言われるととても嬉しくなるの は男の本能だが、なるべく表に出さないように平静な振りをして答えた。 「なんか変わった形してますね。どこのバイクなんですか?」 「○○○のバイクなんだけど、多分知らないよね。(笑)」 「はい... すみません...」 ちょっとシュンとした顔をして彼女は答えた。考えてることがすぐわかる表裏 のないタイプのようで、ますます私の好みだと思った。 「女性はメカのことはあんまり興味がない人が多いから、それが普通ですよ。」 さりげなくフォローを含ませて会話を続ける。 「私もメカのことはさっぱりなんですよ。このバイクもお店で勧められたのを 買いました。」 「彼氏に勧められて買った。」とフォローのしようがない返事ではなかったので、 少し安心している自分がいた。 「このバイクって、幾らくらいするんですか?」 珍しいバイクに乗ってると、いつも二言目にhそういう質問は来るな。 昔乗ってた自慢の男性の方にいちいち答えるときは嫌々だが、女性 のときはそうでもない。 「ん〜と、こみこみ○○○」 「え〜!!!」 また、只でさえ大きな目が更に見開かれた。 「私にバイクが何台も買えますね。お金持ちなんですね。」 「いやいや、本当のお金持ちはバイクなんかに散財はしないで、もっと 他に投資するんですよ。不動産とか株とかね。よって、私は貯金無し の単なるリーマンですよ。」 としょうもない事実を伝える。 「でも、すごいですねぇ。」 「それじゃまたがってみる?所詮単なるバイクだし。」 「えぇ〜、いいんですか?」 「女性にまたがってもらえるなら、このバイクも喜ぶよ。」 「あはは、うまいですねぇ。それじゃ、記念に乗らせてください。」 彼女が私の愛車の傍らに立つ。 「う〜ん、やっぱり大きいですねぇ。」」 小柄な彼女には大きいらしい。 「一応このバイクはスリムでコンパクトなのが売りなんだけどね(笑)」 「私には大きいですよ〜。」 でも、跨るのを諦めたわけでなく、バイクによじ登るようにしてやっとの こと跨った。 「足が届かないです。」 「姿勢がきついですね。ハンドル握るとお尻が浮いちゃいます。」 小柄なため、ハンドルを握るとタンクの形状もあってか、体がタンクに 乗るような姿勢になってしまって、シートまで届かないらしい。 「この体型ならお姫様抱っこも楽そうだな(笑)」と不埒な考えが頭の 片隅によぎったが、当然そんなことを考えてるとは表には出さない。 そして、もう十分堪能したのか彼女はバイクから下りようとする。 しかし、足が地面に届かないのでステップに立って降りようとするが、 傍から見ると不安定そうで危なっかしい。 私は無意識に手を差し伸べた。 彼女は一瞬とまどったような顔をしたが、次の瞬間にっこりと笑顔を 見せ、私が差し伸べた手を支えにしてバイクから降りた。 「どうもありがとうございました。私には乗るのは無理ですねぇ。もっ と身長があったら、いろんなバイクに乗れるのになぁ...」 「乗れたとしても、このバイクはあんまり他人にはお勧めしないけど ね(笑)」 「どうしてですか?」 「う〜ん、いろいろあってね。」 メカが苦手だという彼女に詳しい話をしても混乱させるだけだろうし、 私は適当に言葉を濁した。 「そうなんですか。でも、バイクにいろいろ詳しそうですねぇ。」 「バイクオタクじゃなきゃ、こんな変なバイク買わないでしょ(笑)」 「オタクなんですか!?」 彼女は鈴のようにかわいらしくころころ笑う。 「オタクって、あんまりバイクに乗るようなアウトドアなイメージないです けど。」彼女は笑顔のまま話す。 「オタクはどの世界にもいるんですよ(笑)」 「そう言われればそうかもしれませんね。」 だんだんバイクから話題がそれて、取り止めのない話になった。 しばらく話していると、お腹が空いてきた。もう正午を過ぎてしばらく経っ ている。 そう思っていると 「そろそろ、私は出発しますね。」 と彼女が切り出してきた。 「そうだね。もう休憩も十分だし。」 ここで慣れている男は電話番号やメアドを聞き出して後日に繋げるの だろうが、三十路になっても独身どころか彼女もいない私にとって、そ れはちとハードルの高いことだった。 昔からの私を知っている人が、今見知らぬ女性に自分から話掛けてる のを見ただけで驚きの一言だろう。 彼女はバイクのエンジンをかけ、メットとグラブの装着をしている。 私も出立しようと思っていたが、やはり女性を追いかけるように出る のはストーカーっぽくて何気に恥ずかしい気持ちがあり、彼女を見 送ってしばらくしてから出ることにする。 準備の終わった彼女は、 「それではまた。」 と一言。そして軽く会釈してバイクを走らせた。 軽く手を降って挨拶を返し、駐車場を走る彼女のバイクを目で追い かける。 駐車場を出ようとする彼女だが、出入り口前を通過する街道の車 やバイクたちの切れ目をつかむタイミングが取れず、なかなか出れな いでいる。 「なんか、見たイメージ通りにとろいなぁ。」 と微笑みながら見ている。 私はこのような保護欲を刺激されるタイプの女性には弱い。 すると、数台の大型バイクが彼女の後ろに団子状に詰まる。 やっと、流れの切れ目をつかんだようで、彼女は左折して駐車場を出て 行く。 後続の大型バイクは、怒るようなけたたましいエキゾーストを響かせ、 彼女のバイクを追い抜いていった。 彼女の姿がトンネルに消えていくのを見届けた後、私も出発の用意を し始めた。 用意をしていると、山の上方面からバイクが数台やってくる。 グループらしく、バイクを降りてエンジンを止めると「恐かった!」「なん だよ、あれは」と口々に叫んでいる。 私のほかにも犠牲者がいるようだ。 塩化カリウム等でどろどろになった私のバイクが対向車線を走ってい れば、これから上がるライダーへの注意喚起にはなるだろう。 そう思いつつ、私は愛車に跨り、駐車場を出て行った。 無駄なことを考えていたせいか、彼女が出てから10分は経っている。 もう彼女のことは脳裏から追い出して、下りのワィンディングを縫うこと に没頭することにした。 数十のコーナーと数個のトンネルをくぐりぬけ、愛車と私は下界の平野へ とひた走る。 沿道に住宅が増え、車が前をふさぐことが多くなり、走行ペースは落ちて いく。 ペースを落とされながらも前を急いでいると、案の定先ほど見た青いバイ クが数個先のコーナーに消えていくのがちらりと見えた。 この狭い街道で前車をいなして前に進むのは、初心者には難しいようだ。 数台の車をいなすと、私の愛車は彼女の後につくこととなった。 このまま彼女の背後に居続けるのは、やはりストーカーっぽいなぁと思い 彼女を追い抜くことにした。 道が少し広くなった場所に出たので、愛車を加速させ、彼女の右を追い 抜く。追い抜くときに左手で軽く手を振る。 彼女の反応を見たかったが、この狭いミラーでは確認できなかった。 愛車と私は麓の街へと戻ってきた。もう昼食時はとっくに過ぎていた。 空腹を満たすため、平野部に入って4車線となった街道にあるファースト フード店へと入り、駐車場に愛車を停めた。 ソロツーリングだとやはりファーストフードに入ってしまう。 休日の午後は子連れ客が多く、幾ら回転が早いファーストフード店でも、 しばし待たされることとなる。 数人が並んでいた列がやっと終わり、私は注文をし、商品を受け取って 2階席へと向かう。 階段を上がろうとすると、階段脇にある出入り口から彼女が入ってきた。 「あ〜、やっぱりいましたね。」 彼女は笑顔で話掛けてきた。 「あれ、どうしたの?」 「そこの信号で止まったら、あの珍しい?バイクが停まってるのが見え たんです。ちょうどお腹がすいてたし、私も食べたくなって... あ、私注文 してきますんで、先に座って食べててください。」 彼女は早口で喋ると、私の返事を待たずさっさと行ってしまった。 少々あっけにとられつつも、私は2階席に行くことにした。 席に座って少し食べていると、階段を彼女が上がってきた。 想像通りすぐには私を見つけられず、きょろきょろ周りを見渡している。 私が手を振るとやっと見つけたようで、こちらに歩いてきた。 「待ちました〜?」 「私が来たときよりは列が減ったみたいだから、待たなかったよ。休日 の午後は混んでるんだね。」 「そうですねぇ〜」 そういいながら彼女はライディングジャケットを脱いだ。 ライディングジャケットを着ているときはわからなかったが、かなり胸が でかい。特に女性の胸の大小にはこだわりはないが、彼女の持つ雰囲 気とのギャップにすこし驚いた。 が、無論そんなことを考えてるとは表に出さず話を続ける。 「途中、いきなり追い抜いちゃったけど驚かさせなかったかな?」 「しばらく前からミラーにあのバイクが見えたんで、大丈夫でした。急い でいるのに邪魔しちゃってすみません。」 「いや、邪魔なんかしてないよ。そもそも公道なんだから、普通に走って れば邪魔してるとかしてないとかないしね。追い抜く人がリスクとってる んだし、マイペースで走ってください。」 「まだ慣れてないんで、うまく走れないんですよ〜。邪魔してるんじゃな いかってどきどきしてました。」 「無茶しない走りだから動きが読みやすいから大丈夫。自分に過信して 無茶するタイプの方が危険だよ。」 「ありがとうございます。」 「どの辺に住んでるの?」 さりげなく彼女の情報を収集しはじめる。 「S 市です。」 と彼女は東京の近接県の市を答えた。 うちから1時間以内だな。 「S 市からだとここまで結構あるよね。どうやってきたの?」 「えっと、国道○○で××通りに出て、それから△△街道に 出ました。」 「それじゃちょっと遠回りだね。」 「あんまり道に詳しくなくて... 聞いたらこのコースなら私でもい けるって言われたので。」 「無事にまっすぐ着いたの?(笑)」 「え〜と、途中の交番やコンビニで何度も聞きました。」 「やっぱりね。(笑)」 「え〜、それってどういう意味ですかぁ?」 ちょっとふくれっつらで聞いてくる。予想通りの反応でかわいい。 「皆、私のことを鈍いとかとろいとか言うんですよ。免許取るまでバイク 乗るのも無理と言うし、今日も○○まで行くって言ったら道に迷うから やめろと言うんです〜!!」 周りの人々の彼女への感想は、私の第一印象とまったく同じらしい。 私は笑いたい衝動を必死に抑えて答えた。 「誰でも最初は初心者だし、女性がバイク乗るってことをネガティブに 考える人が多いからしょうがないよ。バイクは経験が第一の乗り物だ から、周りの人に振り回されずどんどん乗ることだね。」 「はい。もっといろんなところに行ってみたいなぁ。えぇっと、そういえば お名前なんていうんですか?」 どうも私に質問したいが、呼びかける名前がわからなかったので聞い てきたらしい。どうも考えてることが手に取るようにわかる娘なので、 話していて楽しい。 「あぁ、名乗り遅れました。○○○○って言います。よろしく。」 私の名前を吟味するように、一拍置いて彼女は答える。 「俳優さんみたいな名前ですねぇ。かっこいい。」 「あぁ、名前*だけは*かっこいい、ってよく言われます。(笑)」 「あはは、そんなことないですよ〜!あっ、私は◇◇◇◇◇と言いま す。ヲタさんとちがってごく普通の名前ですけど。」 確かに彼女の名前はよくある苗字によくある名前だった。 「M さんか。よろしく。」 お互い名乗りあうと話も弾む。 彼女の情報をいろいろ聞くことができた。 ただし、彼氏がいるかどうかは当然わからない。いきなりそこまで 踏み込めるわけもない。 最低でも連絡先位は聞き出したいところだが、それすらも踏み込 む勇気はなかった。 たわいもない話をしていると、だんだん日も翳ってきた。 初心者の女性に夜間走行を強いるのも忍びない。 そろそろ切り上げて帰ることにする。 「では、帰りますか?」 「そうですね。そうします。」 席を立ち上がると、私は彼女のトレーを持つ。 「あ、自分で片付けますよ。」 「いいよ、いいよ。女性は準備がいろいろあるでしょ。」 「では、お言葉に甘えます。ありがとうございます。」 彼女はバッグを持つと、やはりそそくさと手洗い所に向かった。 トレーを片付け終わり、私はラィディングジャケットを羽織った。 ファスナーとボタンを閉じてると彼女が帰ってくる。 「どうもありがとうございました。」 彼女はにっこり微笑みながら感謝の言葉を表す。 かわいいなぁ。私は鼓動が早まるのを感じている。 でも、至ってクールに話を切り出す。 「地図持ってる?」 「はい。ありますよ。」 この娘には地図ってあんまり役立たないんじゃないかな?と 思った。 彼女がバッグから地図を取り出すと、それを受け取り、所定の ページをぱらぱらめくる。 「行きのコースより、ここで曲がって、こう行く方が近いよ。」 地図を指でなぞりながら彼女に提案して見た。 「あ、本当ですねぇ。」 感心したような声で彼女は答える。 「でも、私道が良くわからないので、行けるかどうか...」 予想通りの反応が返ってくる。 「じゃあ、私が途中まで案内しようか?」 彼女となるべく長く一緒にいられるように用意周到に考えたことを あたかも今思いついたようにさわやかに提案してみる。 「えぇ〜、いいんですかぁ?」 彼女は疑念のかけらもないような明るい声で喜ぶ。 「私もその途中で曲がれば家はすぐだしね。たいした遠回りじゃ ないし。」 「ご迷惑じゃないですか?」 「帰ってもビール飲んで即寝るだけだし、あまり変わらないよ。」 「じゃあ、すみませんがよろしくお願いします。」 彼女はニコニコしながら答えた。 彼女はジャケットを着ながら、小声で「やった〜!」と呟いている。 どうも私が付き添うことを迷惑と感じているどころか、本当に喜ん でくれているらしい。 無邪気に喜ぶ姿を見て、私は本当に彼女に参ってしまった。 準備のできた彼女と階段を下りて、駐車場に出た。 すると私のバイクの横に彼女のバイクが置いてあった。 「もしかして、一緒に帰ろうとしてたのかな?」 という妄想が頭をもたげたが、彼女はそんな伏線を張るような性格 じゃなさそうなので、急いで打ち消す。 お互いエンジンをかけメットをかぶりグラブを装着し準備完了。 「それでは行きますか。ゆっくり行きますので、ついてきてください ね。何かあったら、パッシングかホーンで知らせてください。」 「パ、パッシングってなんですか?」 まぁ、女性ライダーには余り縁がなさそうな装備ではある。 私は彼女のバイクの傍に行って説明する。 「このボタンを押すとライトが点滅するんですよ。」 彼女は感心したように私の説明を聞いていた。 「あ、こんなのがあるんですね。わかりましたぁ。」 どうも、彼女からのコンタクトを期待しないで、こまめに停まった方 がよさそうだ。 愛車に跨り、彼女の動きを注意しながら、発進する。 駐車場から出るとき、タイミングを取るのが苦手な彼女のことを考えて、 直前の信号が赤になるのを見計らう。 無事に街道にでて、都心方向へと向かう。 いつもはすり抜けていくのだが、初心者の彼女を考えて、車の流れに合 わせることにした。 山から帰ると思われるバイクたちが何台も私と彼女のバイクを追い抜い ていく。 しばらく進んで、彼女に示した分岐点に近づいてきた。 分岐点の近くの信号に引っかかったとき、彼女に話掛ける。 「この先の信号で曲がりますから、ついてきてくださいね。」 「は〜い、わかりました!」 元気よく彼女は答える。 信号が青になりスタート。 分岐点に近づいたのでウィンカーを出し、見難いバックミラーを覗き 込んで彼女を見ると、同じくウィンカー出している。 危なげなく付いて来るので、こまめに止まるのはやめて、先を急ぐ ことにした。 数箇所交差点を右左折し、彼女宅のある市へと続く道に出た。 数キロ走り、コンビニを見つけたのでそこに入ることにした。 ウィンカーを点灯させ、コンビニの駐車場に入ると、彼女も付いて きて私の愛車の横に停車させた。 ヘルメットを取り、彼女に話掛ける。 「この道をまっすぐ行くと S 市に入りますよ。大丈夫?」 「あ、そうなんですか?」 「えっと、地図見せて。」 彼女はごそごそとタンクバッグの中から地図を取り出し、ページを 開く。 「えっと、ここは大体この辺で、この道がこれ。こうまっすぐ道なり に行くと S 市に入るでしょ。」 「はい。わかります。」 「私はこの交差点で右折して帰ります。あとは一人で大丈夫?」 彼女は顔を曇らせる。 「う〜ん、大丈夫かなぁ?」 「しょうがない。それじゃあ S 市まで案内するかぁ。」 自分としては本来の予定だが、あくまでも親切心でしょうがなく、という 風に振舞う。 「えっ、いいんですか?」 「まぁ、乗りかかった船だしね。」 「そんなぁ、ご迷惑でしょう?」 「迷惑ならそんなこと言わないよ。(笑)」 「そうですかぁ?う〜ん、それじゃあお願いします。」 「はい。お願いされました。(笑)」 私の大して面白くもない軽口でも、彼女はにっこり微笑んでくれる。 だいぶ日が長くなったとはいえ、そろそろ日没も近づき、西の空が赤く なってきた。 「ちょっと休憩します?それとも先を急ぎます?」 「う〜ん」 彼女はちょっと考え込む。 「暗くなっちゃいますから、先を急ぎますか?」 「はい、そうします。」 |