− DQN男爵◆4BaronIlV. さんの恋愛話(その1) −

会社員の頃には忙しすぎて毎年行っていた北海道ツーリングなんて行けなかった。
去年の4月にブルーカラーの仕事に移ってから時間の融通が利くようになり、8年ぶりに
北海道へと向かった。

北海道に行く理由は出会いがあればいいな、なんていうつまらん理由だが人と
話すのが苦手な俺には出会いのきっかけすら無かった。ただバイクがあまりにレア
なのでそれに関して話しかけてくれる人は本当にたくさんいた。ただし話しかけてくる
のはおじさんが多い。

北海道には祖父母といとこが住んでいるのでだいたいどちらかの家を拠点としていろいろ
まわる。一日で最北端と函館を往復したこともある。まぁそれはさておき8年ぶりにいとこの
家へ行ったのだがやばかった。以前うちに遊びに来た従妹はまだ小学生だった。叔母が彼女
のパンツをそこら辺に干したときに恥ずかしがっているのを見てかわいいなとか思っていた。
なんていうかその彼女はいわゆるひとつの女子高生とかいうやつになっていて、道内でも
有名な私立の中高一貫校に通っていた。俺はテレビとか見ないしグラビアとかも興味ないのだが
どうやら彼女はいくつかの雑誌に掲載されるほど有名らしい。まぁ従妹だしブサメンの俺とは
何もないだろうと諦めの境地から意外に問題なく彼女とは会話できた。次の日は日曜日だった
のでどこか一緒に出かけることになった。バイクだと危険だし、徒歩だとまずいらしいので、
叔父さんから車を借りてドライブに行くことにした。

車中ではいろいろ話した。付き合うことを期待させる女性と話すときは、もうあがりまくり
で余計なことまでしゃべったりしてしまうのだが、彼女に対しては素直に自然に話せた。
わかったのは、今時の女子高生風ではなくしっかりとした考えを持っていること、卒業
したら上京しようと考えていること、雑誌とかに載るのはあまり興味が無いということ。
そして他校に彼氏がいるということ。自分は男兄弟に囲まれているので彼女は言ってみれば
妹だ。たった一人の妹だ。数年間会っていなかったのだが実際に会って”兄貴として”
なんだか彼氏がいることが複雑だった。えっちはやはり経験したのだろうか?とかモテナイ
男的発想をしてしまうが、さすがの俺もそれは聞くのはまずいと判断し聞かずにおいた。

函館は彼女にとっては地元なのだが観光地に住む人間にありがちなように彼女もあまり
地元をまわることはなかったようだ。なのでとりあえず石川啄木一族の墓とかいう所に行った。
俺は別にどこでもよかった。永遠に届きはしないであろう彼女と一緒に散歩できればいい
と思っていたから。すごく透き通る肌に大きな目。スタイルはやはり良い。生涯のうち何度
このような機会があるであろうか?特に俺のような女性と縁の無い男にとって。時々すれ
違う夫婦やカップルに対して優越感みたいなものもあった。自信の無い俺を満たしてくれる
感情だ、優越感。彼女といるときに常に考えるのは、たった一人の妹に嫌われたくない。
それだけだった。恋愛感情というか男としての視点で見ないように極力気をつけた。

彼女は海を見ていた。なんだか、海を探し続けて陸を何日も歩いた末にたどり着いたような、
そんな感じで海を見つめていた。俺はそれに見とれていた。はたから見たら女子高生を
狙うキモ男に見えたかもしれない。つまらないのかな?俺は思った。今までまともに女性と
つきあったことなんか無いし、デートのプランも立てたことももちろん無い。何か話しかけ
ようとしたがこんなときに限って何を話してよいのかわからない。そのうち彼女から口を
開いた。「なんでアキヒロさんは北海道に来たの?」本当は出会いを求めて来たのだが
そんは恥ずかしいこと言えるはずも無く、「やっぱ夏は北海道にツーリングでしょ!」と無難
な返事をしておいた。

「私ね・・・」なんだか寂しそうに彼女はしゃべり始めた。「お父さんやお母さんのこと好きだし
お兄ちゃんたち(彼女には3人兄がいる)もすごく優しくしてくれるし、学校では友達とも
うまくやってる。あ、彼氏ともね。」かなわない恋なのにがっくりする俺がいた。「でもなんだか
毎日虚無感っていうの?虚しいのよね。」何が言いたいのだろう?俺は頼られるキャラでも
無いし、恋人の悩みなどもちろん聞いたことも無い。まぁなんだか悩みがありそうなのは
わかる。「勉強だって一番じゃないけど学年で上位に入っているのよ。運動も大好き。」
わからん。なんでそんな幸せそうな、というかおもいっきり幸せな環境をそんな悲しげに
しゃべるのだ?「不安なの。明日にでもこの日々が終わってしまいそうで。」はぁ?だった。
理解できなかった。もしかしたら精神的な部分が病んでいるのかもって思ったのだが、
彼女は言った、「友達にもお母さんにも相談したの。お母さんは慰めてくれたけど、友達は
もっと具体的に、そう、病院とか行ってみたら?って言ったの。私病院って怪我したら行く
ところなイメージしか無かったんだけど確かに精神科とかあるものね。でね、お医者さん
なんて言ったと思う?」いや、わかんないし。「何て言ったの?」俺は聞いた。

「特に問題になるようなところは無いって。」彼女は言った。
「そんな風に感じるようになったのはいつ頃から?」
「それがね、わからないの。最近なんだかなんかおかしいって感じ始めて、いろいろ考えて
 いったらさっきも言ったけどあんな感じの不安を持っていることに気づいたの。」
「最近怖い映画とかテレビ見たりした?あとはストーカーみたいなものの存在を感じるとか、
 あとは・・・まぁなんでもいいや、普段とは違った出来事があったとか・・・」
「うふふ、先生と一緒のこと言うのね。本当に何も無いの。あっ、ひとつあったわ。アキヒロさんが来たこと。」
「いや、それは関係ないじゃん。しかも数日前だよ。」
「でもなんだか変な感じがする。すごい久しぶりなのになんでも話せるし。」
それは君の社交性だよ、と言おうとしたがなんだか嬉しいので黙っておいた。
「以前アキヒロさんの家(つまり実家なのだが)に行ったでしょ?そのときピアノ弾いたの覚えてる?」
「よく覚えてるよ。バッハのG線上のアリアを弾いてくれってリクエストしたね。」
「うん、”ハチャトゥリアンの剣の舞”弾いてくれって言われたらどうしようかと思ったわ。」
「なんだよそのハチャメチャ光源氏みたいな曲は・・・難しいの?」
「難しいんじゃなくて弾いたこと無いだけ。ただあの時は知っている曲を言ってくれたから
なんだか、う〜ん、何か良かったなぁってだけ。」

「そっか、叔母さんからいろいろ習い事してるって聞いてたから。ピアノも弾くっていうしね。俺も
ピアノ弾きたいし弾ける人に憧れてるからいきなりリクエストしちゃったんだけど。楽しそうに弾いていた
のを覚えているよ。あの時はまだ小学4,5年生くらいだったよね?」
「うん、たぶんそのくらい。」
「で、家に泊まっているときに叔母さんがパンツ干しててミユキが恥ずかしそうに隠してたよね。」
「だってあの時お兄・・・あっ、アキヒロさんが目の前にいて恥ずかしかったんだから。」
「お兄ちゃんでいいよ。」
「でも・・・」
「さんづけだと何か他人行儀だしさ、うち男兄弟じゃん?妹欲しかったし。弟は俺のこと”ねぇ”って
呼ぶし(笑)。だからね?」
「うん、わかった。」
「でもよかった。」
「何が?」
「いや、時々、さっきもだけど突然黄昏ちゃうし(笑)。でも今は笑顔だからね。」
「あっごめんなさい。」
「いやいやいや、そういう意味じゃなくて。ミユキの笑顔は本当に健康的でいいと思うからさ。そのなんていうか、
まぁ俺といて少しでも笑っていてくれたら嬉しいんだよ。」
「うんアキヒロさんといるとなんか安心するから。大丈夫だよ。」
「お兄ちゃんだよ。」
「あっごめんなさい。テヘッ」

叔父さん、つまり彼女の父はあまり家に帰ってきていないそうだ。いとことはいえあまり深くは聞けないので
よくはわからないが一度会社を辞めて再就職したらしい。父から聞いた話なのだが叔父さんは一般に言う
エリートというやつらしい。俺が思うにそのプライドゆえに家族を生活させるために仕事優先で家に帰ることが
少ないのでは?と勝手に考えている。彼女は中学生くらいからあまり実の父親と過ごすことは無かったようだ。
もしかしたらその寂しさで俺になついているのかもしれない。まぁ予想なんだけどね。俺はもうすぐ30歳の、さらに
ふけ顔なので彼女にとってはお父さんキャラに見えているような気がする。まぁ人に慕われるのは悪くない。
っていうか人生で初めてだな。弟は俺のこと兄貴として見ていないし。たしかに友達0の高卒のひ弱な俺を兄貴と
呼ぶのは俺が弟だとしたらやっぱ嫌かもしれないからな。

「陽が沈んできたね。お腹空いた?何か食べに行こうか?」
「夜景見たい。」
「函館の?」
「うん。」
「見たこと無いの?」
「あるけど子供の頃だし、彼氏は別にどこにも行きたがらないし、いいでしょ?」
何だか問題発言を聞いたような気がしたがここは華麗にスルーしておくことにした。
「まぁ断る理由は無いし、俺も夜景好きだし、行こうか?」
「うん!」

函館山の麓にはへんな美術館がある。入ったことは無いが何もここにある必要
ないんじゃないの?って感じの、例えるならなぜか五稜郭のお土産屋さんに
東京バナナが売っている感じだろうか。まぁそれはさておき、函館山というのは
たしかバイクじゃ登れなかった気がする。まぁ俺は気にせず上ったけどね。理由は
走って見ればわかるけどカーブがタイトすぎる。まさしく徐行しないと曲がれないカーブ
があるんだよね。まぁそれもさておき、頂上に着いた。人はまばらだ。観光客に写真を
撮ってくれとせがまれ撮ってあげる。ハイチーズっていうのは恥ずかしいので「じゃぁ
撮りますよ〜カシャッ」みたいな感じで撮る。カメラを手渡しミユキを探す。・・・また黄昏てるし。
後ろからそっと近づいた。
「綺麗だ。」景色ともミユキのことともとれるように言ってみた。
「うん。」やはりというか期待したような反応はしてくれない。
「何で夜景って綺麗なんだろう?」ミユキは続けた。
「明かりってさ、色とか飾り付けで多様に見えるじゃん?あと、子供ってさライト好きじゃん?
おもちゃでもライト付きって人気あるし。子供の頃からいろいろな場面でライトと共に
思い出とか作ってさ、それらの感情と夜の神秘さがミックスされるんじゃない?」
自分でもよくわからんが思いつくままに素直な感情を述べて見た。余談だが俺はよく人に
言われる、まじめに答えすぎ!って。女の子は悩みとか解決して欲しいんじゃなくてただ
聞いて欲しいのに俺は一生懸命解決方法とか考えて述べちゃうタイプなんだよね。んで
ひかれる。でもミユキはちょっと考えて言った。
「あ〜、そう言われるとそうかもしれないね。お兄ちゃんにもらったガンダムのプラモデル
目が光ったりしてた。はじめてケータイに着信ランプ付けた時も面白くてみんなでワン切り
してた(笑)。みんな大切な思い出だね。そうか、そうか・・・」
なんだか納得してくれたみたいだ。そこで青色LEDのうんちくをたれようと思ったがひかれても
困るので止めておいた。関係ないけど青色LEDのうんちくをよくたれるんだよね、俺。同僚の
彼女や友達とかとご飯食べたときもなぜかそんな話しちゃったし、英会話学校に行っていた
時もそれをテーマにしたことがある。まぁいいや。

「お腹大丈夫?何食べたい?」
「お家で食べよう。お母さん作って待っているかもしれないし。」
たしかにその通りだ。俺はデートもどきを続けようとガツガツしていたようだ。なんだか恥ずかしい。
「よし、じゃぁ戻ろうか。」
車中にて、
「お兄ちゃんいつ帰るの?」
「う〜ん、実は決めていないんだ。まぁ1ヶ月とかは無理だけどね。仕事戻らないといけないし。何で?」
「前にお兄ちゃん北海道来たでしょ?彼女連れて。」
「あ、う、うん。来たね。」
「うちに立ち寄らなかったよね?」
「あ、あぁ、そうだね。」
「何で?」
「だってさ、女連れでいとこの家に泊まるのって何か変でしょ?」
「ふ〜ん。」
そのときは祖父母の家に彼女と泊まったのだがそのことを祖母が叔母に言ったらしくて叔母曰く
「ミユキがアキヒロ君の彼女がどんな人だったか気にしてたわよ。」とか言っていたのを思い出した。
「もうとっくに別れたけどね。」
「ふ〜ん。」
なんなんだね、その"ふ〜ん"っていうのは。まぁ本音はあまり紹介できるような女性ではなかったんだよね。
祖母は気に入っていたけど。

「ただいまぁ」
「ただいま」俺もぼそっと言う。返事が無い、誰もいないようだ。
居間にメモがあった。叔母からミユキへ宛てたものだ。
「ミユキ&アキヒロ君へ。お母さんはお父さんとデートでぇす。勝手にチンして食べてなさいね」
とか書いてある。叔母はかなり陽気な人で2chとか知っていたらたぶん顔文字使いまくりそうな
人だ。今までの記憶であの人が暗かったことって一度も無い。いつも笑ってちょっとだけ大きな声で
しゃべっているイメージがある。自由奔放に育ったんだろう。
「そう言えば久しぶりだから出かけるって言ってたな。じゃぁ一緒にお風呂にしよっか?」
「!!!!!!!」数秒考えた。そこで我に返った。そうそう函館に居るときはいつも谷地頭温泉
(市営の温泉。路面電車の終点にある。)に行くんだった。俺は平静を装って言った。
「そうそう、温泉ね。温泉。あそこはいいよなぁ。いつの間にかリニューアルしているし。でも20年前くらいに
来たときとは大違いでちょっと寂しかったよ。何でも新しくするっていうのはなんだか寂しいもんだね。
いやぁ俺のアパートさ、追い炊きできないんだよ。いつもシャワーでさ、だから函館に来るとお風呂が
すごい楽しみなんだよね。いつか自分の家を建ててお風呂にはあの泡がでるやつ何だっけ?まぁ
アワアワと名づけよう。それを付けるのが夢なんだ。」
とか早口でしゃべった。俺全然平静じゃない。
「ふ〜ん。」
またそれですか!でもその後すぐにミユキはクスッと笑った。釣られて俺も笑った。
「じゃぁ用意してくるね。」トントントンと階段を上って行く。
「あぁ、俺も荷物からタオルとか出してくる。」以前来た時は彼女と二人乗りだったので無理やり荷物
積みまくって来たのだが、今回は一人なのででっかい箱を荷台に付けてそこにいろいろ入れてあった。
まぁバイク便みたいなものだ。
玄関を出てバイクの箱を覗き必要なものをとって家の中へと戻った。ミユキは既に準備万端だった。
「よし出発だ!」俺は言った。
「おぉー!」ミユキもなぜかノリがいい。
俺は叔父さんの下駄を勝手に履いてミユキと温泉に向かった。

「お兄ちゃんって結構かわいいよね。」
「な、何を言っているのかなぁ君は。俺は男だよ?」
「そうじゃなくてぇ、動揺してるのがわかりやすいもん。」
「そんなことないよ。」そんなことありありなのだがまぁそう答えるのが無難だと思った。
「ふ〜ん。」ミユキはニヤニヤしている。
なんだか主導権を握られたみたいだ。少し沈黙が続いた。ちんちん電車の走る通りから
一本裏側を歩いていた。昔はこのあたりの公園でミユキの兄たちと観覧車に乗った記憶が
ある。あの頃はまだミユキは生まれていなかった。今ではもう高校生だ。ミユキは立ち止まり
洗面具を持ち替えた。そしてまた歩き出す。俺は必死に話題を考えていた。いつだって
女をもてなすのは男の役目なんだよな。とか考えていた。するとゆっくりとミユキは手をつないで
きた。ドキッとした。なんだかミユキを見るのが失礼なような気がして平静を装いつつ、軽く
握り返した。従妹が俺の手を握っている。文章にすると大した事無いが俺はすごい幸せだった。
必死に大学受験を頑張っていたこと、クラスメートに俺は大物になるんだとか吹いていたこと、
いろいろ頭に浮かんだ。結局大学は行かなかったし、今はただの労働者だ。でもこんなに身近に
こんなに幸せに感じられることがあったことがすごく、すごく新鮮だった。別にサムワンにならなく
てもいいんだよな。相手にとってのオンリーワンになれたらそれこそすごく幸せなんだよな。
ちらっとミユキのほうを見た。ミユキもそれに気づいてこっちを見る。ちょこっとはにかんでまた前を
向いた。カランコロンと下駄の音が夜道に響いた。

温泉に着いた。やはりここは賑わっている。函館山や五稜郭とは違う賑わいだ。生活に密着して
いる賑わいだ。結構若者や子供たちもたくさん来ている。温泉は閑静な住宅街の一角にあるのに
ここだけ活気がある。
「お兄ちゃん、何時くらいに待ち合わせする?」
「ミユキは普段どのくらい入るの?」
「う〜ん、長いときはずっと。」
「いや、それ困るし。」
「じゃぁあ、45分間にしよう。」
「微妙な時間だな(笑)。じゃぁそのくらい経ったらテレビの前で座って待ってるよ。」
「うん。先に帰っちゃだめだからね!」
「当然だよ。かわいい妹を置き去りになんかしないよ。」
「そうそう、お兄ちゃん幸せだよ。私とお風呂に来れるなんて。」
「うんすごい幸せ感じているよ。」
「よしよし。」なんだかお姉さんぶっているようだ。キャラ変わってないか?

だいたいみんなお風呂を上がると畳のうえで涼んだりテレビを見ている。みんな家族や友達を
待っているんだろう。寝ているおっさんもいる。俺は30分くらいで出てしまった。予定の時間より
5分ほど遅れてミユキはやってきた。髪の毛をタオルで拭きながらやってきた。そしてこちらを
見る。やばいやばいやばい、なんで女の子の風呂上りってこんなにも魅力的なんだろう。
ツーリングに来たらしい野郎どももミユキをちらちら見ている。今は優越感よりも彼女をどこかに
隠したかった。この子は自分の魅力をわかっているのだろうか?すげー心配になってきた。
「とりあえず外に出ようか?」
「え〜、座ってジュース飲みた〜い。」
「外で買ってあげるから、ね?」
「ふぁ〜い。」
ったく、なんてかわいいんだこの娘は。今まで何年も会わなかったのに、会ってしまったがために、
心配事が増えた。

「あっあそこの自販機で選ぼうか。」
「私お風呂のあとは午後ち〜しか飲まないの。」
出た〜こだわり。
「え〜と、あっあるね。ミルクティーとレモンティーどっちがいい?」
「どっちでもいい〜。」
「じゃぁ同時に押してみるか。ってしまったぁ!」
「どうしたの?」
「変な栄養剤を押してしまった。しかもタケェよコレ。まぁいいやコレは俺が飲もう。」
ミユキがこっちを見ている。そういえばこんなもん買ったら俺がやる気満々だと勘違いしてしまう
ではないか。
「やっぱ同時押しは駄目だな。レモンティーにするからな?いいだろ?」返事も聞かずにボタンを
押す。
「ほら、飲みなさい。」
「ありがと。」ミユキはニヤニヤしている。
「ミユキはお酒とか飲むの?」
「お酒は飲まないけどタバコはよく吸うよ。」
「!」

「うふふ、冗談冗談。でもお酒は時々飲むよ。お母さんにちょこっともらったり、あとは友達の家に
お泊りに行ったらそこのお父さんが飲めって(笑)。」
友達のお父さん〜うちの妹にお酒すすめないでくれるかなぁ!とか思いつつ。次の話題へ。
「行きたい大学とか決まってんの?」
「ん〜だいたいね。」
「まぁミユキのお兄ちゃん3人とも東京にいるし、俺の実家も両親2人きりだから住むところは
問題なさそうだね。でも、ひーちゃんとまっちゃんは女の子連れ込んでそうだからやっち兄か俺の
実家だね。それとも一人暮らししたい?」
「お兄ちゃんとこでいいよ。」
「あぁお兄ちゃんね。お兄ちゃん、お兄ちゃん、え〜とどのお兄ちゃん?」
俺を指差す。俺はわざと後ろを振り向く。
「誰もいないみたいだね。で?」
「アキヒロ兄ちゃんのところ!」
「ぶしゃっ。」栄養剤を吹き飛ばした。ドリフのコントのようにうまくは飛ばなかった。鼻にちょこっと
入り若干むせた。
「冗談だからね。」ミユキは言った。
うぉーん、この小悪魔め。俺からかわれてるよ。やっぱ恋愛経験少ないのばればれなのかな?
なんだかミユキの手のひらの上でもてあそばれている様だ。なんか俺、マジで悲しい顔を
していたようだ。
「あっごめんね。そんなに・・・」ミユキはちょっとやりすぎたかな、みたいな感じで謝ってきた。
「あっいやいや、そんな、別にまぁ決めるのはアレだしね。」俺は意味不明なフレーズでミユキの
言葉を遮った。ちょっときまずい雰囲気になった。こういうときに限って話題が出てこない。

「ごめんね、お兄ちゃん。私恥ずかしいときってつい冗談言っちゃうの。かっこ悪いよね?」
「いや、そんなこと無いよ。恥ずかしい時って素直になれないこと多いしね。」
「そうそう、そうだよね。」
「うん、そうそう。」
良かった。またほんわかムードに戻った。
「そういえばまた明日から学校だね。」
「うん・・・」
「俺は何しよっかなぁ。」
「バイクで他のとこ行っちゃうの?」
「まぁせっかく北海道来たんだし、どこかは行こうとは思うんだけどね。」
「ふ〜ん。」
「さぁそろそろお家に戻ろうか。叔父さんと叔母さん帰ってきているかもしれないし。」
「うん・・・」
帰り道はまたいつの間にか手を握っていた。ミユキが握ると俺が握り返す。そしてまたミユキが
握る。女として見ているのか妹として見ているのかわからなかった。でも愛しい人の手を握って
歩くことがこんなに幸せだったなんて今まできづかなかった。性欲を満たす行為とは違う気持ち
よさがあった。本当はツーリングなんてやめてずっとミユキと過ごしたかった。でも、従妹だし、
彼氏もいるようだし、学校もあるし、ミユキが俺に対してどのような感情を持っているのか正確には
わからないし、踏み込めない理由はいくらでもあった。ミユキはさっきから全然しゃべらない。
「大丈夫?」はっきり言って自分でも彼女の何を心配してその言葉を発したのかわからない。ただ
少しでも何かを進展させたくて発した言葉だった。

「何が?」
「あっいや、何もしゃべらないからどうしたんだろうなって。」
「ん?ちょっと考え事。」
「そっか。」
また静寂が訪れ、下駄の音と遠くからの車の走る音がBGMになった。
「ミユキは彼氏とどこで知り合ったの?」
「どこっていうか・・・あっ家着いたよ。」
「あっそうだね。」
つくづく思う。俺って間が悪い。
「ただいまぁ」
「まだ帰ってきていないっぽいね。」
「うん。あっ、そうだ、今日たぶん帰ってこない。」
「といいますと?」
「うふふ、お兄ちゃんって時々変な言葉遣いになるよね?」
「一応軽いウケを狙ってるんだけどね。」
「そうなんだ〜。変なの〜。」
俺は同僚と話すときはこの変な話し方で話すのだがこれが女性と話すときにでも出てきてしまう。
俺はウケ狙いなのだがたぶん、何こいつキモッ、とか思われているに違いない。実際よく
言われるんだけどね、キモいって。
「で、帰ってこない根拠は?」

「硬いなぁ〜、お兄ちゃん硬いよ。もっと普通にさ、何で帰ってこないの?とか聞けないの?」
「そ・う・だ・ね。うん、そう思う。気をつけるよ。」間抜けな返事をした。
「確かお父さんのところに泊まりに行くみたいなこと言っていたような気がする。」
叔父さんは普段は会社の近くにワンルームマンションを借りてそこから通っているらしかった。
「よく泊まりに行くの?」
「たぶんこれが初めてだと思う。私を連れてお父さんのところに行くことはあったけど、お母さん
だけで行くのはたぶんこれが初めて。」
「へぇ〜。でも娘一人にするなんて、叔母さん心配じゃないのかなぁ?よく一人でお留守番とか
するの?」小学生に語りかけるように聞いてみた。
「もぅ〜私もう高校生でしょ!でも、いつも夜にはお母さん帰ってきてたしね。それに今日はパパが
いるしね。お母さんも安心したんでしょ。」
「パ・パといいますと?」
ミユキは俺を指差す。またも俺は後ろを振り向く。誰もいない。やはり俺のことか・・・嬉しいのか
悲しいのか、いやこれは絶対に悲しい。20代後半ってお兄さんって呼ばれるような世代だと
思うんだよね。でも女子高生から見れば、いや俺のふけ顔のせいか。なんだかへこむぜ。
ところでまだ寝るには早いわけだが・・・

「さてどうすっか。」
「パパはお勉強できる?」ミユキがふざけて言った。
「できない!」きっぱり俺は言った。本当にできないしね。
「でもお母さんが、アキヒロ君はねすごく頭がいいのよ。中学の頃はいつも学校で一番だったのよ
って言ってたよ。」
「まぁそんな時期もあったような気がするが、今はできない。ごめん。」保健体育なら教えられるが
マジでそんなこと言う度胸は無いので心の中に留めておいた。
「あっ英語はできるんだよね〜?」

「できるって言っても高校生に教えられる程度であってぺらぺらしゃべれるわけじゃないよ。」
「じゃぁ、決まりね。」
「何が?」
「勉強。」
「でも教える自信ないし。」
「高校生に教えることできるんでしょ?」
「って言っちゃったね、俺。」
「じゃぁ2階行きましょ。冷蔵庫に麦茶とかあるから飲むんなら持ってきていいよ。栄養剤だけじゃ
喉渇いちゃうでしょ?」
「そうだね。んじゃ用意して行くよ。」
俺は冷蔵庫を開け、麦茶を取り出す。そこら辺のコップを軽くゆすぎ、注いだ。
「え〜と、目薬、目薬は、っと。」いやいや、違うから、違うから!やばいやばい、俺何してんだ?
軽くほっぺたを叩きお盆に載せ2階へと上がる。ノックする、
「入るよ。」
彼女は居なかった。

ここがトイレか・・・よし確認。俺はお盆を抱えたままトイレのドアを開けていたようだ。実は2階に
上がるのは今が初めてだった。よく見りゃ光が漏れているドアがあるじゃないか。
「入るよ。」
「は〜い。」
なんというか漫画などでよく見るごく一般的な女の子らしい部屋だった。ピンクが基調で
ぬいぐるみがベッド脇に座っている。つまらんといえば、つまらん部屋だ。お嬢さん、お嬢さん、
部屋の隅に下着が干しっぱなしですよ。俺は心の中で突っ込みを入れた。
「座らないの?」
「あっそうだね、座ろうかね。あ、いや、トイレ行って来よう、そうしよう。」
「いってらっしゃい。」
「いってきます。」
部屋に戻ると下着がもう無くなっていた。どうやら気づいていたようだ。まぁ黒じゃなくて良かった。
「先生〜」
「なんだい生徒よ」
「うぷぅ」
いつもと違う笑いだった。ウケたと思われる。まぁそんなわけで少しの間ちゃんと勉強を教えて
いた。彼女が問題を解いている間、俺はこの部屋に非常にミスマッチな"ジョジョの奇妙な冒険"
を読んでいた。人は第三部がいいとか言うが俺はそれと同じくらい、"ギャング編"と"ストーン
オーシャン編"が好きだ。しかもジョジョってギャグがめちゃおもろい。最近のギャグ漫画なんか
目じゃないね。って話が逸れてしまった。
しかし一生懸命机に向かっている姿見ていると、兄貴として守ってあげたくなる雰囲気になる。
時折こちらをちらっと見るのだが俺は慌てて漫画に目を向ける。んでなぜかギャグシーンじゃない
のにクスッとか笑うふりする、俺キモい。

「お母さんに電話してみたら?本当に泊まりなのか。」
「いいよ別に。帰ってこなくても自分で朝ごはん作ってちゃんと学校行けるもん。」
「まぁそうだね。」たしかに居ても居なくても問題ない。俺の心だけだ、ひとりでわいわい騒いで、
いろいろ余計なことを心配しているのは。
「お兄ちゃんケータイのアドレス教えてよ。」
「あっちょっと待って。」ごそごそと取り出す。
「うわっ何コレ。カメラ付いてないよ?」
「あ、うん。」
「しかも色がピンクだよ!」
「あ、うん。」
「お兄ちゃんらしいね。」
なんだかすごくダメージを受けた気がする。
「アドレスは?」
「え〜とね、読むよ?gくぁwせdrfgyふじこlp@ezweb.ne.jp」
ミユキはしばらくケータイをごそごそやっている。こんなミユキもかわいい。
「送ったよ。」
「あっ来た来た。」
ってやばい、コレやばいって。書いてある。"好き"って書いてある。俺は考えた。東京大学物語の
主人公みたいに0.2秒で考えられるならいいのだが無理。俺は変な顔をしていたと思う。ちょっと
顔を上げミユキを見た。

この表情は・・・わからん。こんな時電車男みたいに2chに助けを求められれば良いのだが生憎
今目の前でことが起こっている。早く反応を示さないと。またからかわれているのかな?ここで
本気に返したらひかれてしまうかも。だめだ、わからない。俺はいつも通りのわけのわからない
反応をしてしまった。
「好きって書いてあるけど・・・」って駄目だ、俺。
「うん。」
また沈黙がやってきた。"うん"じゃわかんねぇよ。どうしたらいいんだ?そうだ、ここはライトに
答えよう。
「俺もミユキのこと好きだよ。」これなら妹としてという意味にもなる!のかな?
「もう眠いから寝るね。」
これが華麗にスルーってやつか?まぁいいや、俺は今日ひとつ修羅場を切り抜けたのだから。
「あ、うん。そうだね。じゃぁ俺下行くわ。おやすみ。」
普通ならここで、一緒に寝ようか?とか言われることを期待する。俺はミユキを見た。
「うん、おやすみ。」
まぁ現実なんてこんなもんだ。俺は平静を装い部屋から引き上げた。

次の日起きるとミユキは居なかった。居間には俺宛のメモがあった。内容は朝ごはん作ってある
ということと、食べ終わったらジャーのコンセント抜いておいてとか、お皿は洗わなくていいだとか、
出かけるときは戸締り気をつけてねとか、俺のずぼらでおっちょこちょいな性格を見越したような
内容だった。時計を見るともう11時だった。そりゃ学校行くわな。メモにはセロハンテープで家の鍵
が貼り付けてあった。俺はこの複雑な気分を晴らすためにバイクに乗ることにした。適当に東の
方へ走った。あては無かったけどやっぱ晴れの日に北海道を突っ走るのは気持ちいい。車の免許
をとったのはバイクをとってから数年後だった。たいていの人は車の免許を取るとバイクを降りる
ようだが俺は根っからのバイカーらしかった。免許はとってみたもののバイクの楽しさが消える
ことは無かった。かなり走ったようだ。近くのライダーハウスを地図で探す。まだ陽は落ちて
いないがいくつか候補を決めておいた。バイクで走るのは楽しいけど好きな女の子と一緒だったら
別に車でも楽しいだろうな、とか考えていた。海岸が見えたので青春の馬鹿野郎をするために
駐輪場にバイクを停めた。他にも一台バイクが停まっていた。関東のナンバーだ。あー話しかけ
られたらやだな、話すの苦手だし。そんなこと考えながら海岸へと歩いた。女の子というよりかは
お姉さん系の女性が居た。やはりというか話しかけられないので気づかない振りをして靴を脱ぎ
海へと足をつけた。少し海岸線を見つめてボケーとしていた。時々波にふら付きながら。ちなみに
俺は泳げない。もし今溺れたらそこのお姉さんに助けてもらうしかない。ダサいけどそれが現実だ。

なんかおかしい。ふと隣を見るとさっきの女性が同じように靴を脱いで隣にいた。
「のわっ」
俺はこけそうになった。ホリエモンはビジネスにおいては"想定内"なことが多いようだが、
その時の俺にとってそれは"想定外"だった。
「こんにちは。」
「は、はい。こんにちは。」
俺は焦った。これが人生に一度光臨するといわれるモテ期というやつであろうか?いやまて、俺。
全然モテてないから!話しかけられただけだから!
「ツーリングですか?」
「え、ええ。横浜から来ました。あなたも?」
ナンバーを見てしまった俺はそんなこと聞かないでもわかるのだがあえてそう言った。
「はい、横浜から来ました。」
っ何?ナンバーは静岡だったような気がしたが。
「実家の静岡から横浜に出てきて仕事始めたんですけど、職場でいろいろあって・・・あっ
ごめんなさいね。こんな辛気臭い話。」
「いや、そんなこと無いですよ。気分転換に北海道に来たんですよね?だったら辛気臭いの
全部吹っ飛ばしましょうよ。俺もちょっと複雑な気分だったんでここまでかっ飛ばして来たんです
よ。」
「そう、良かった。私ミソラっていうの。三十路のミソラ(笑)。よろしくね。」
女性には年は聞きにくいものだが勝手に言ってくれたようだ。
「俺はアキヒロっていいます。俺ももうすぐ三十路(笑)。」
「えっ?35くらいに見えた。あっ、ごめんなさい。」
「いや慣れていますんで(泣)。それに俺の兄弟みんなふけ顔なんですよ。」
「でもダンディよ。」
「あ、ありがと。」
「今日はどこに泊まるの?」面倒くさいので敬語はやめて、フランクに聞いた。
「まだ決めてない。あなたは?」
「俺は・・・」
そう言いはじめた時ケータイが鳴った。
「ちょっとすみません。」俺はまた敬語に戻った。

ミユキからだ。なんだか泣きそうな声だ。
「どうしたの?」
「お兄ちゃんいまどこ?」
「えと、そこからかなり東に行ったとこ。どうしたの?」
「なんで黙って遠くに言っちゃうの!」
声が震えている。
「そういえば、そうだ。メモでも残したほうが良かった。ごめん。」
「待ってるからね。」
「えっ?どゆこと?今そこから200km以上離れているんだよ?」
「お家の鍵無いもん。」
俺はポケットに手を入れた。まさかコレはミユキ用の鍵だったのか?
「お兄ちゃん出かけても帰ってくると思ったから鍵渡しておいたんだよ。」
そういえば朝玄関は開けっ放しだった。
「わかった。帰るから。それと玄関の前で待つのもなんだから、えーと、そうだ、温泉で
テレビでも見てなさい。わかった?」
「うん、わかった。」
「じゃぁ切るよ?」

「ごめんね。妹の鍵持ったまま出てきちゃったみたい。」
「妹?」
「まぁ従妹なんだけどね。」
「どこにお住まいなの?」
「函館。」
「えっ?私一日かけて函館から来たのよ。それを今帰るの?」
「まぁ距離で言えば大した事ないし。それに鍵が無いと家に入れないからね。」
「そう気をつけてね。」
「うん、でもせっかく知り合えたのになぁ。ケータイのメアドある?」
「うん、あるよ。じゃぁ交換しようか。」
彼女もフランクに答える。
「じゃぁまたどこかで!」
「うん、妹さんによろしく!」
「あはは、伝えておくよ。じゃね。」
俺は軽く暖機してそこを後にした。

温泉についた。電気が消えている。やばいもう終わってるよ。ケータイに電話する。
「今どこ?」
「おうち。」
「わかった。すぐに行くから。ごめんな。」
俺は近くの自販機で午後の紅茶を買って箱に入れた。すぐに家に着いた。
やばい、泣いてる。
「とにかく家に入ろうか。」
ミユキは一言もしゃべらない。俺は箱から午後ティーを取り出しミユキの後に続いた。
「ごめんな。遅くまで待たせちゃって。温泉ももう終わってるし。温泉って何時頃まで
やってるんだっけ?」
「知らない。」
「でも営業時間が終わるまでいたんだろ?」
「ここにいた。」
「ここって玄関の前?」
「うん。」
俺はとんでもないことをしてしまったようだ。箱入り娘を玄関の前で何時間も待たせて
しまった。たった一人の大事な妹なのに!

「それ、飲んでいい?」
午後ティーが目に入ったようだ。
「あ、うん、ミユキのために買ってきたんだ。飲んで。」
「ちょっとぬるいね。」
「ごめん。」
「うふふ、お兄ちゃんあたふたしてるよ。」
「うん、そうだね。」としか答えられなかった。
「ごめんな。許してくれ。」俺はまた言った。
「どうしよっかなぁ。」
不謹慎だが俺は泣いているミユキを見てかわいそうと思うよりもカワイイと思ってしまっていた、
それがすごく悔しかった。かっこ悪いと思った。あんなに悲しい思いをさせてしまったのに。
「じゃぁ罰としてぇ・・・」
ミユキは考えている。
「まぁいいや、カシね。お兄ちゃんは私にカリがあるの。いい?」
「そんなんでいいのなら喜んで。」
ミユキはニコッと笑った。あぁ良かった。昨日の笑顔だ。ってか急に疲れが出てきた。
やっぱ休み無しでかっ飛ばすのは疲れるな。でも心地よい疲れかも。

・・・ふと目が覚めた。ソファで寝ていたようだ。毛布もかけてある。下に布団もひいてある。
そうか優しいなミユキは。俺はトイレへ行こうと立ち上がろうとした。重いな。
「っ!」隣で寝てるよ、この子は!しかも寄りかかってるし。何がやばいってこれじゃトイレ行けない
よ。やばい、こうなるとどんどんもよおしてくる。俺は股間をおさえた。お漏らしするわけには
いかないからいつかはタイミングを見てトイレに行かなければならないのだが、どうしよう。駄目だ。
そっと横にずれる。うわぁ微妙な角度で寝てるな。とにかく便所だ、便所。ふ〜。便所から帰って
くるとミユキは相変わらずその微妙な角度で寝ていた。可愛くてスポーツもピアノもなんでも
できるミユキがこんな変な角度で寝ているのは変な感じだった。俺だけが知っているミユキ。
嬉しくなった。そっと毛布を掛けなおした。そこでひとつ疑問が湧いた。今俺が下に敷いてある
布団で寝たら、妹をソファーで寝させ自分は布団で寝るというなんともかっこ悪い結果になって
しまう。2階に連れて行くには筋力が不十分だ。抱っこしたらただちに俺の腰が悲鳴をあげるだろう。
2択だ。さっきと一緒の体勢で寝るか、下の布団まで運ぶかだ。でも起こしちゃったらかわいそう
だしな。俺は悩んだ、悩みに悩んだ。
「そうだ、散歩してこよう。」鍵を持って玄関を出た。ちゃんと鍵をかけた。変質者とか来たら大変
だしな。まぁ一番の変質者は俺のような気もするが、そこは華麗にスルーだな。ところで、
まだ薄暗い。でも遠く離れた地で日の出前の散歩はすごく神秘的で気持ちよかった。すごく
疲れたせいか少ない睡眠で眠気もとれたようだ。ちょっと肌寒かったので俺は普段は飲まないのだが
"あたたか〜い"缶コーヒーのブラックを買った。クールに決めたつもりだがやはり甘党の俺には
合わなかったようだ。苦いよ。なんの変哲も無い港を見た後ミユキの眠る家へと帰った。

ミユキは起きていた。やばい、今度は睨んでる。涙浮かべて睨んでる。
「いや、ちょっと散歩してきただけじゃん。まだ寝てると思ったしさ。それにさ、え〜と・・・」
言い訳が浮かばない。
「ごめんなさい。」俺は素直に謝った。
「暑い。」
「へっ?」
「暑いって言ったの!」
「え〜とじゃぁうちわで扇いであげる。」
俺はそこら辺にあった広告付きのダサいうちわを手に取り彼女に風を送った。
「喉渇いた。」
「午後ティー買ってこようか?」
「だめ!!!」
「ど、どうしたの?」
「一人にしないで。」
「あ、あぁ、うん。わかった。」
「麦茶にしようか?」
「うんっ」
ミユキの兄3人は皆しっかりしている。3人とも紳士だし特に2番目の兄貴とは一時期
住んでいるところが近かったし、お互いバイク乗りだったので世話になった。頼れる兄貴
だ。もちろん一番上の兄貴も頼れる兄貴だし、三男も大学生だがしっかりしている。
この子はそんな恵まれた中で生まれた子だからな。ちょっとわがままなのかな?とか思った。
学校ではしっかりしているようだけど・・・

「あ〜っ!」
「今度は何?」
「お風呂入ってな〜い。シャワー浴びなきゃ。」
ミユキは2階へ上がって行った。そして、すぐに下に降りてきた。
「覗いたら駄目だからね!」
ありきたりなセリフを言った後ミユキは風呂場へと消えた。
時間をつぶすために俺はテレビをつけた。テレビをつけたはいいが風呂場が気になって
内容など頭に入ってこない。しばらくすると風呂場のほうから音がした。どうやら終わったようだ。
俺はミユキの飲みかけの麦茶を飲もうとした。駆け足が聞こえる。パンツ一丁に上はバスタオルだ。
「ドブゥハァ!!!」俺は麦茶を吹いた。前回と違ってコント並みにうまく吹けた。いやそんなこと
どうでもいい、ミユキ味の麦茶が無駄になってしまったではないか!いやそれも問題ではない、
問題なのはその格好だ。エロいと言えばそういえなくも無いが、健康的で美しくもあった。
「ムカデ!」
ミユキは風呂場を指差す。
「前にもいたの!」
俺はかっこよく、よし捕まえて外に捨ててきてやるよ、とか言いたかったが俺は虫系は大の苦手
だ。とりあえず安心させるために、
「なんとかするからミユキは2階へ上がってな。」と言っておいた。
やべぇよ、怖いよ。俺はティッシュペーパーとゴキブリ退治用のスプレーを持って風呂場へ向かった。
あったあった、ブラジャーだ。そう、これが欲しかったんだよ。ってちがーう!!!今はムカデだ、
ムカデ。まぁ案の定もうどこにもいなかった。俺はミユキの部屋へと向かった。

「入るよ?」
「うん。」
「今日さ、虫除けみたいなやつ何か買ってくるよ。」
「うん。ありがと。」
「もう寝なくていいの?」
「目ぇ覚めちゃったよ。シャワー浴びたし、ムカデもいるし。」
「学校は平気?居眠りしちゃうんじゃない?」
「大丈夫だよ。それより、お兄ちゃんもシャワー浴びてきたら?」
「俺は明るくなったら温泉行って来るよ。」
「え〜ずるい〜。今日の夜また一緒に行こうよ。」
「じゃぁ今はやっぱシャワーにするよ。」
「よしよし。」
「そうそう、覗いたら駄目だからね。」
「あはは、興味な〜し。」
「いってきまーす。」
「いってらっしゃい、パパ」
ムカデ出たらどうしよう。俺はびくびくしながら風呂場へ行った。冬にコタツで暖をとっていた。足がなんかむず痒いので
ふと足をコタツから引っこ抜くと足にムカデがはっていたことがある。あの時はやばかった。一人暮らしなのに一人で
うひゃーとか大声出して必死でムカデを払った記憶がある。ホントだめ。昔は昆虫とか気にせず掴んでいたものだったんだが。
まぁそれはさておき、とりあえずそこにあるブラジャーが気になった。少し考え漫画で見たようにブラジャーを頭からかぶってみた、
これの何がいいのだろうか?とか思いつつ鏡を覗いた。なんだか気持ちがわかるような気がした。そして俺はシャワーを浴びた。

「入るよ。」
返事が無い。そっとドアを開ける。寝てた。やっぱ眠いんじゃん。しかし、かわいい寝顔だ。
前の彼女は時々男らしいいびきかいていたからなぁ。この寝顔を写真に撮って投稿したら
ぶっちぎりで金賞がとれそうな気がした。ちょっと周りを見渡し、俺は軽くキスしてしまった。
久しぶりのキスだった。やっぱ柔らかいな。神様はいるんだと思った。でも今年の運をすべて
使い果たしたような気もした。他にすることも無いのでジョジョの続きを読み始めた。
・・・
「そろそろ起きたほうがいいんじゃない?」
「う〜ん、おはよ。」
「はい、おはよ。朝ごはんはどうする?」
「今日はいいや。お兄ちゃんはお腹空いた?目玉焼きとかなら作るよ。」
「俺は市場行ってなんか食ってくるよ。」
「そっか、じゃぁ学校行く準備するね。」
「うん。」
俺はまたジョジョを読み始める。
「何やってんの?」
「いや、ジョジョ・・・」
「着替えたいんだけど?」
「あ、あぁ、はいはい。」
俺は2冊ほど余計に漫画を持ち部屋から出た。
少しすると、ミユキが階段を降りてくる。
「うわっかわいいな。」
やっぱ制服姿のミユキは、予想通りというかまぁ昨日も見たんだが、かわいい。
「じゃぁ行ってくるね。」
「うん、気をつけてね。」
「は〜い。あっそうそう、寝てる時に勝手にキスしちゃだめだからね。」
「!」
閉まるドアの隙間から去り行くミユキの姿が見えた。
昔母ちゃんが夜中に俺の部屋に突然入ってきて「あらまだ起きてたのごめんね。」とか言って去っていったのを
思い出した。もちろん俺は夜遅くまで女性の写真が多く載っている教科書で勉強している最中だったわけだが。
その時の気まずさに似ていた。俺はとりあえずジョジョの続きを読むことにした。

3巻ほど読み終わったので、そろそろ飯を食いに行くことにした。俺のバイクのマフラーは
ノーマルなのだが、暖機の音でいとこの家が近所と折り合い悪くなっても困るのでわざわざ
通りまでバイクを押して行った。暖機の最中に地図で簡単に市場の場所を確認した。宿代が
かからないからその分贅沢できる。俺は市場につくと雑誌で確認したお店を探し、入った。
"うに丼:時価"とか書いてある。横浜に居る時はこんなもん食わないが今は北海道だ。しかも
これ目当てだし。時価っていくらくらいですか?とか聞けない、俺は時価なんてびびってないぜ!
って感じでうに丼を注文した。たぶん声が少し震えてしまったのは店員にばれたはず。
うに丼マジうまい。味わうまでも無く5分くらいでたいらげてしまった。さて、お茶を飲みながら
次にどこに行くか考えた。夕方には家に帰らないといけないからあまり遠くには行けない。
"You've got mail ! "メールだ。ミユキかな?"やっほ〜、やっぱ海っていいよね。ずっと海岸線
沿いを走ってました!アキヒロ君はこの後どんな予定?"ミソラさんからだ。すっかり忘れてた。
俺は会計をして店を出た。
普段はケータイのメールは文字の打ち難さからほとんど使わなかったのだが(友達&彼女が
いないというのも大きいが)、時間のたくさんある今はメールも楽しく感じる。俺はビール瓶などが
積まれている店の壁に寄りかかり返信文を考えた。実際はミユキといるからどこにも行けないん
だよな。まぁ合鍵作れば問題無いんだけど。ミユキとの2人暮らしを止めるのはもったいない。
西のほうを適当に周ってみる、みたいなあいまいで簡潔な返事をしておいた。男の長文はキモい
らしいし。そう自分を納得させた。そこで今度はコール音が成った。ミユキだ。

俺「もしもし。」
ミユキ「パパ?」
俺「あ、ああ、パパだよ。」
ミユキ「ムカデ対策何か買っておいてね。」
俺「大丈夫だって、忘れてないから。今言われて気づいたなんてことないから。いや、ホントだって」
ミユキ「きゃはは、じゃね〜。」
切れた。何だか短い会話だな。でも、こういう電話できる人ってホント羨ましいな。俺は用事が無いと
電話できない人間だし。ってまたミユキからだ。
俺「どうした?」
「こんにちは。」
俺「あれ?ミユキ?」
「の友達です。はじめまして。」
俺「あ、ああ、こんにちは。ミユキがお世話になっています。」ってこれでいいのかな?
友達A「いえ、こちらこそ。あの、ミユキの彼氏って本当ですか?」
俺「へっ?いや、え〜と、いとこってやつです。」
電話の向こうが賑やかだ。昼休みってやつか?
友達A「でも、キスしたって言ってますよ。」
俺「いや、なんていうか、・・・」
ミユキ「キスしたよね〜?」
俺「どうなってんの?」
ミユキ「別に〜。」
俺「ミユキに彼氏がいることみんな知らないの?」

ミユキ「知ってるよ〜。」
俺「わけわからんよ。」
ミユキ「二股かけてるんじゃないか?ってみんな心配しているのさ〜。」
俺「そっか。あまり友達をからかうんじゃないよ。」
ミユキ「からかってなんかないよ。お兄ちゃんはどうでもいい人にキスできるの?」
俺「いやそんなことないよ。」
ミユキ「あっチャイム鳴っちゃった。ちゃんと夕方には家にいてね!」
俺「あぁわかった。」
ミユキ「バイバ〜イ。」
・・・
しかし、門限があるからどこにも行けないな。俺はミユキ用に午後の紅茶を箱買いした。
そしてムカデ退治君(仮)、ビール、お菓子など適当に買っておいた。ちなみに俺がアルコール
飲めないっていうのは秘密だ。そうそう俺の自己紹介をちょこっと付け足すと酒・タバコ・女・
ギャンブル全てやらない。これマジ。まぁ麻雀とかはまれにやるけどね。お馬さんとかパティンコ
とかは一切やらないし、ルールも知らない。女も買ったら負けかなって思ってる。
・・・
家に着いた。叔母さんいつ帰ってくるのだろうか?しかし、暇だ。メールをやろうと思ったが
やる気がおきない。そうだ、洗濯しよう。あまり下着とか持ってきていないしな。洗面所に行く。
昨日と同じ位置にブラジャーがある。俺はそれをもう一度頭にかぶり鼻歌を歌いながら洗濯機に
いろいろ突っ込んだ。たぶんこのシーンを見られたら、下着を物色する変質者と疑われても
仕方ないだろう。少し考えたがミユキの下着も一緒に洗うことにした。あまり意識しすぎても
それはそれでなんだかアレだし。ちなみに俺は匂いを嗅いだりはしない。ここら辺は紳士だと思う。
スイッチを入れ、洗剤を入れる。俺はジョジョを読むためにミユキの部屋に行った。なんだか鼻水
が出てきた。朝の散歩で冷えちゃったのかな?鼻水をかんではページをめくっていった。しばらく
すると洗濯が終わったようなので下に降りていった。洗濯物を回収し2階に戻る。もう陽は落ち
かかっていたがミユキの部屋のベランダに干していった。部屋の中に干すと臭くなるしな。また
ジョジョを読み始めた。

下で物音がする。たぶんミユキだろう。階段を上る音が聞こえてくる。
ミユキ「ただいまぁ。」
俺「はい、お帰り。ん?どうしたの?」
ミユキ「何でベッドにブラが置いてあるの?」
しまった!さっきかぶっていたやつだ。ミユキをちらっと見る。やばい、ホントにやばい、昨日の泣き
怒りとは違う。マジなオーラが漂っていた。
俺「え〜と、落ち着いて。き、今日ね、洗濯したんだ。ほら、ベランダ見てみ?」
ミユキ「それで?」
俺「それでね、そのブラは、ほら、まだつけてない、あ〜、洗う必要ないじゃん?」
ミユキ「ふ〜ん。で、そのティッシュは?」
俺「ティッシュ?」
ほ〜。ゴミ箱には丸まったティッシュがたくさんあるなぁ。これは言い訳しきれるのだろうか?
俺「あぁコレね、なんか鼻の調子が悪くてさ。今朝の散歩のせいかもしれない。」
ミユキをちらっと見る。ミユキは爆発した。
ミユキ「男の人がそういうことするのは私だって知ってるの!別にそれを責めてる訳じゃないの!
何で嘘つくの!!!嘘はもういやぁ!」
泣いてしまった。だが俺には多少余裕があった。なぜならこれは勘違いだから。ブラはかぶったが
それでアレをしたわけじゃぁない。
俺は2回ほど深呼吸をしてゆっくり話しかけた。
俺「これから話すことに嘘は無いことを約束する。とにかく話を聞いてくれ。な?」
ミユキはうなずいた。

俺「こんなこと話すのは恥ずかしいんだけど誤解を解くためだからちゃんと話すね。まず風邪を
ひいたかも知れないのは俺の鼻がぐずぐずしてるからわかるよな?」
ミユキはこっちを見た。俺は鼻をかんだ。なんだかマヌケだがしょうがない。
俺「あと、ティッシュは、そのもし本当にやったとしたら、臭いがするのはわかる?」
ミユキは答えないがなんとなくわかっているようだ。俺はゴミ箱をミユキの顔に近づけた。
俺「においかいでみ?何のにおいがする?」
ミユキはくんくんしている。
ミユキ「鼻水のにおい。」
俺「どんなにおいだよ!」俺はやさしく突っ込んだ。
ミユキは笑った。どうやら誤解は解けたみたいだ。俺は続けた。
俺「ミユキ何か俺に隠してない?」
ミユキは黙ってる。
俺「ミユキ感情的過ぎるような気がするんだよね。笑うことはいいことだと思うけど。ちょっとした
ことで怒ったり泣いたりするでしょ?どう?」
ミユキはうつむいたままだ。
俺「まぁ言いたくないことを無理に聞こうとはしないよ。ただ俺はミユキに対して裏切ることは絶対
にしない。それは約束するから。俺のことは嫌いにならないでね?」
ミユキ「うん。ごめんなさい。」
俺「いや、謝るのは俺だよ。ブラをベッドに放り投げておくのは失礼だったと思う。ごめんね。」
ミユキ「でも興味あったんでしょ?」
俺「・・・うん、まぁ多少は。」
ミユキ「えっち。」
俺「うん。」
よくわからん返事をしてしまった。この雰囲気をどうにかして打開しなくてはならない。俺は足りない
脳みそをレッド直前までフル回転させた。

俺「ちょっと待ってて。」
俺は今日箱買いした午後ティーのことを思い出した。駆け足で下に降り冷蔵庫からそれを
取り出した。目の前にストローがあったのでそれも持って2階へと上がる。
俺「はい。元気出せよ。」
ミユキ「午後ちーだ。ありがとう。」
ミユキは午後ティーを少し眺めて言った。
ミユキ「ふた開いてないよ。」
俺「あぁ、申し訳ございません、お嬢様。ただいま開けます。・・・どうぞ。」
俺はストローをさして渡した。
ミユキ「うむ。美味じゃ。おまえも飲むか?」
俺「はっ、では少し頂きます。」
間接ちっす成功!!!
ミユキ「お風呂何時頃行く?」
いつものミユキに戻った。
俺「姫のお顔しだいでございます。」
ミユキは鏡を見た。
ミユキ「お父さんにちくっちゃおう。お兄ちゃんに泣かされたって。」
俺「おいおいおい、冗談でもやめてくれよ。」
叔父さんはめっちゃ厳しい人だ。叔父さんを見ているとミユキの兄3人がまともに育ったのが
納得できる。
俺「お菓子食べる?」
ミユキ「どんなの?」
俺「きのこの山、だっけ?とかたけのこなんちゃらとか、キムチとか。」
ミユキ「じゃぁきのこ。」
俺「わかった。取って来るね。」
俺はキムチなんてボケなければ良かった、とか考えながらお菓子を取りにいった。ついでに
タオルや洗面具など用意しておいた。毎日温泉に入れるなんて贅沢だよなとか考えていた。

部屋に戻るとミユキはベッドに寄りかかったまま寝ていた。俺はまたキスした。なんだか自然に
していた。そして俺は何事もなかったようにジョジョを読み始めた。最近ゴッドファーザー見たの
だがジョジョのギャング編と似たシーンが多いことに気づいた。名前とかもかぶってる。まぁ
そんな感じで30分ほどするとミユキは起きた。
ミユキ「あっ寝ちゃったね。お風呂まだ大丈夫かなぁ?」
俺「たぶん大丈夫でしょ。行くか?」
ミユキ「うん。」
俺「俺はもう下にタオルとか用意してあるから。」
ミユキ「じゃぁすぐに用意するね。」
ミユキはおもむろに制服を脱ぎだした。俺は漫画に夢中になっているふりをした。2,3分くらい
経ったか。
ミユキ「じゃぁ行こうか。」
俺「あぁ。」
ミユキ「お兄ちゃん偉いね。」
俺「何が?」
ミユキ「私が着替えている間、漫画のページめくる音がしなかったよ。漫画見てるのに(笑)。」
はっとなった。あふれんばかりの妄想で漫画に集中できていなかったことがばれてしまったようだ。
俺「まぁアレだ。行くか。」
ミユキ「変なの〜。ってどうしたの?」
俺「まぁアレだ。先行ってなさい。」
ミユキ「何で?タンスあさるの?」
俺「まぁアレだ。そんなことはしない。」
ミユキ「あっ、あぁ、じゃぁ外で待ってるね。」
にぶいやつめ。

今日は俺から手を繋いだ。
ミユキ「あれ〜どうしたの?」
俺「泣き虫のミユキが泣かないようにだよ。」
ミユキ「ふ〜ん。そういえばさ、さっき私寝ちゃったでしょ?」
俺「あぁ、そうだね。」
ミユキ「キスした?」
俺「あぁしたよ。」
ミユキ「きゃぁ大胆発言〜。寝てる女の子にしかキスできないの?」
俺はミユキの手を引きよせ、キスをした。

ミユキは呆然としている。ミユキを掴む手が汗ばんでいくのがわかる。落ち着いている振りを
しているが俺の顔はたぶん不自然に緊張していることだろう。しばらく無言のまま歩いた。
温泉に着いてしまった。
俺「じゃぁまた45分くらい経ったらテレビのとこで待ち合わせね?」
ミユキ「うん。」
湯船に浸かっている間ずっと考えていた。明らかなキスはしないほうがよかったのか?いとこ
同士だから?ミユキは考えているかもしれない、自分の行動が俺の勘違いを招いてしまったので
はないか、とか。最悪なのは俺の勘違いだよな。まずいなこのまま不自然でいたら叔母さんにも
顔を会わせられない。せっかく俺のこと信用してくれているのに。勘違いかどうかがわかればまた
対策もできるのだが寝ているミユキへのキスは嫌がってはいないようだったしな。益々わからない。
聞いてみるか?何て?あからさまな質問は俺の勘違いっぷりを晒すだけだ。キスしたことを謝る?
でももうキスできなくなるなんて嫌だ。でもこれは俺のわがままか。どうしよう、どうしよう?そうこう
しているうちにもう出る時間を少し過ぎていた。どんな対応してよいか決まらぬまま風呂を出た。
テレビのあたりを探すがミユキはいない、人もまばらだ。勝手に帰っちゃったのかな?とか、最悪の
パターンを想像してしまった。
ミユキ「おそ〜い。」
俺「あれ?」
ミユキ「お兄ちゃん出るの早いと思ったからちょっと早めに出たんだけどいないじゃん?それで、
自販機行こうと思ったらお兄ちゃん見つけたからコレ買ってきた。」
"25時間がんがれますか?"とか書いてある飲み物だ。
俺「いや、俺別にこれ好きじゃないんだけどね。普通のジュースが良かったな。」
ミユキ「じゃぁ私が飲む。お兄ちゃんにはこっちあげる。」
午後ティーだ。
俺「あ!今思い出した。俺そっちの方が好きだったんだ。」
俺は栄養剤を奪い取った。んで一気に飲む。
俺「ぷはぁ、風呂上りはやっぱうまいね。」
ミユキはニヤニヤしている。もういつものミユキになったのかな?二人とも畳みの上に座った。

ミユキはテレビを見る。俺はミユキを見る。
ミユキ「見つめられると恥ずかしいよ。」こちらを見ずにそう言った。
俺「あ、うん。」俺はテレビの方を向いた。つまらん。チャンネルを変えたいがじじばばも見ている。
ミユキ「帰ろうか?」
俺「そうだね。」
外に出ると風がきもちいい。火照った体をゆっくりと冷ましてくれる。夜空を見上げると星がくっきり
と見えた。明日も晴れだな。俺はミユキを見た。ミユキもこちらを見た。かわいすぎる。美人は3日
で飽きるってよく言われるけど本当なのだろうか?美しい景色はいつ見ても感動するし、カウンタック
だって今見てもかっこいい車だと思う。俺は手を繋ぐことがためらわれた。まだなんだかギクシャク
した感じが残っているようなきがしたからだ。
俺「ミユキ。」
ミユキ「何?」
俺「手、繋いでいい?」
ミユキ「さっきは勝手に握ってたのにね。いいよ。」
俺「ミユキは将来何になりたいの?」
ミユキ「ピアノ弾いたり踊ったりしたいな。」
俺「雑誌に写真とかで載るんでしょ?そんな仕事は考えてないの?」
ミユキ「あれ興味あったからやってみたけど特におもしろいとか無いもん。でもお小遣い増えるから
頼まれたらやるだけ。水着とかやれって言われたら断るもんね。」
ミユキは続けた。
ミユキ「この前ね。またお仕事のお話きたんだけどね、えっちな本の仕事だったの。もちろん脱げとか
じゃないんだけど、そんな本に載るって屈辱だから断った。あんな本見ている人の気が知れない。」
あ〜耳が痛い。
俺「そうなんだ。まぁなんだか安心したよ。」
ミユキ「何で安心するの?」
俺「なんていうか、自分を安売りしないこととか、あとはあまり遠くに行かれても困るかなって。」
ミユキ「ふ〜ん。まぁお兄ちゃんが近くに居て欲しいって言うんなら一緒にいてあげる。」

俺「ミユキさ・・・」
ミユキ「なぁに?」
俺「あまり気づいていないようだからちょこっとだけ言わせてもらうけど。あっ怒ってるとかじゃないよ。」
ミユキ「うん。なぁに?」
俺「男がね、ミユキみたいな女の子から、その、そういうこと言われると本気にしちゃうよ?わかる?」
ミユキ「そんなことわかってるよ。」
俺「からかってるの?」
ミユキ「恥ずかしいの?」
俺「いや、そのよくわからないんだ。ミユキの中での俺のポジション、っていうのかなぁ。」
ミユキ「やさしいお兄ちゃんだよ。」
俺は黙ってしまった。やはり身近な兄として懐いていてくれただけで、一人の男しては見てくれ
てはいないということかな。なんとなくはわかっていたけどすごく絶望的だった。なんか急に
つまらなくなってきた。無言のまま家に着いた。

俺は居間で普段は見ないテレビを見ていた。もちろん内容なんて頭に入っていない。目はテレビを
向いていたが、頭の中はさきほどのことでいっぱいだった。
ミユキ「お兄ちゃん、何で黙ってるの?勉強教えて。」
俺「ごめん、今日は疲れたから。」
ミユキ「・・・そう、しょうがないね。邪魔してごめんなさい。」
ミユキは麦茶を飲んだあと2階へと上がっていった。なんだか泣きたくなってきた。自分のものに
できないと思っただけで冷たくなるなんてかっこ悪い。本当にガキだ。まだミユキのほうが大人だ。
ミユキに偉そうに感情的だとか言っておきながら俺は自分の感情をコントロールできていない。
頭のいい彼女のことだから俺の性格の矛盾点をわかっているに違いない。益々自分が許せない。
こんなんだからまともに就職もできないし、恋人もできないのだろう。実は家族内でも俺は信用
されていない。両親に会って会話するといかに自分が信用されていないのかがわかる。幼女誘拐
事件だとか、キレて親を殺害した事件などが起きるたびに俺に電話してくる。もちろん直接言うわけ
ではない。俺のことを心配しつつ、変なことしちゃだめよ、とかそんなことを間接的に伝えてくる。
被害妄想かもしれない。でもどうしようもない。
あるとき実の兄貴と喧嘩したことがあった。子供の頃は一方的に虐められるだけだった。しかし、その時は二十歳も
過ぎていたのに兄貴と取っ組み合いの喧嘩になった。20年以上生きてきて初めての兄貴への反抗だった。柔道で
全国大会にも行ったことのある兄貴にもちろん敵うわけもなくあっさりと床に投げつけられた。もう二人とも大人なの
だから両親は関係ない。だが両親に知れることとなった。俺には俺なりの正義があって、だからこそ敵うはずのない
兄貴へ向かって行った。だが両親は俺の言い分よりも兄貴の嫁(その場に居た)の方を信じた。実の息子よりも血の
つながりの無い女を信用したのは悔しかった。でも信じてもらえないのは俺にそれなりの原因があることもわかって
いた。そう、俺には普通の人間に当然のように備わっているべきものが欠如していたし、精神的にも劣っていることは
十分すぎるほどわかっていた。

もうどうでもよくなった。俺はミユキが寝たら出発することにした。ここにいたらどうにかなって
しまいそうだった。たとえ叶わぬ想いであろうと、ミユキに負担をかけたくない。八つ当たりして
しまいそうだ。そんなことしたら嫌われるに決まっている。考えただけでも怖くなってきた。俺の
人生においてあんなにも慕ってくれて頼りにしてくれる人なんか居なかった。このまま思い出に
したほう良いに決まっている。俺はケータイに目覚ましをセットして眠りに入った。

ケータイからファミコンみたいな安っぽい音がなる。俺は目を覚ました。また毛布がかけてあった。本当に
優しい子だ。俺は出発の用意を始めた。下着はミユキの部屋に干してあるので取りには行けない。
まぁどこかで買えばいいだろう。ミユキ宛に簡単にメモを書いた。ツーリングの続きをしてくる、
といった内容だ。俺はそっと玄関を出て鍵を閉めた。そして鍵をドアポストから中に落とす。
チャリーンと小さく響いた。バイクを押して通りに出た。エンジンをかけた。深夜のアイドリングは
意外とうるさいもんだ。ここでタバコでも吸えば格好がつくのかもしれないが俺はタバコは吸わない。
暖機運転の間、空気圧や電装系の確認をした。そして俺は右ウィンカーを出し、人っ子一人いない
闇夜を確認しつつ、ゆっくりとバイクを走らせた。

数時間走ると腹が減っていることに気づいた。北海道に来たからには名産物を食べたいものだが
空腹には勝てずコンビニに寄ることにした。トイレもついでに借りた。途端にケータイが鳴る。俺は
どこか期待しながらケータイを見る。やはりミユキだ。しかし個室で出るわけにもいかないので
そのままにしておいた。不味そうなサンドイッチと午後の紅茶を買い俺は駐車場の縁石
に腰掛けてジュースの缶を開けた。と、同時にまたケータイが鳴った。

俺「もしもし。」
ミユキ「お兄ちゃん?」
俺「うん。」
ミユキ「何で私が起きる前に出発しちゃったの?」
俺「あ、うん。」
ミユキ「私のことキライ?」
俺「そんなこと無い。むしろ好きだよ。」
ミユキ「じゃぁ何でそんなことするの?」
俺「あぁ、ごめん。自分でもよくわからない。それより学校は?」
ミユキ「いいの、そんなの!」
俺「怒るなよ。」
ミユキ「私といるのイヤになったの?」
俺「さっきも言ったろ?お前のことは誰よりも好きだって。」
ミユキ「わからない・・・」
俺「俺もよくわからない。正直今の気持ちは複雑なんだ。だから走れば、バイクで走れば、
何か変わるかなって思ったんだ。少し走ってみたいんだ。」
少し間があった。
ミユキ「・・・うん、わかった。」
俺「ミユキのことが嫌いになったとかじゃないんだよ。これだけはわかって欲しい。」
ミユキ「信じるよ?」
俺「あぁ。」
少し沈黙が続く。電話からテレビの音が聞こえる。まだ家にいるのか・・・。俺は時計を見た。
もう学校には間に合わない時間だ。
俺「ちゃんとお母さんに俺が出かけたこと言うんだよ?それで家に戻ってきてもらうんだよ?」
ミユキ「いつ帰ってくるの?」
俺「・・・わからない。」
ミユキ「気をつけてね。」
俺「ミユキもな。」
ミユキ「うん。」

"You've got mail !" 先ほどと同じセリフ"気をつけてね"とだけ書かれたメールが届いた。また
目をはらして泣いているんだろうなって思うと心が痛む。俺は寄り道もあまりせずにとにかく最北端
を目指した。別に最北端に何かがあるわけじゃぁない。以前に行ったことあるし。ただ走りたかった。
走るのが心地よかった。横浜にいるとき同様に市内ではすり抜けをする。とにかくどんどん進みた
かった。ワインディングで下手糞な車がはみだしてくる。それを華麗によける。すれ違うライダーは
ピースサインを送ってくる。あぁ北海道だ。道端でトマトやとうもろこしを売っているのが見えた。
俺はまだ走り足りないので横目に見つつ素通りする。陽が頂点に昇りはじめた頃いい感じの露店
を見つけた。氷とトマトがいくつか入っているバケツが見える。俺はひとつ買い、丸かじりした。おばちゃん
に無理言って陰になったところにござを敷いてもらい。寝転んだ。すげぇ気持ちいい。俺は目を
瞑った。

少しして目が覚めた。時間にして30分くらいしか経っていない。うだるような暑さで目が
覚めてしまったのだ。またトマトをひとつ買ってむしゃぶりつきながら、俺はケータイに目をやる。
ミソラさんのことを思い出した。俺は今北に向かっていることをメールした。すぐに返事が返って
来た。やっぱ女の子は文字打つの早いなぁとか思いつつメールを見る。"今御蕎麦屋さんにいます。私も北に
向かっているけど最北端に着くのは明日の夕方くらいかなぁ。アキヒロ君はどの
くらいで着きそう?"俺もミソラさんと同じくらいに着きそうだとメールした。"じゃぁ一緒に夜ご飯
食べようね!"と来たもんだ。俺はちょっとウキウキしてきた。俺はおばちゃんに礼を言ってそこを後にした。

夜になった。俺は道の駅に寄ったが例のごとく"珍"なご一行様がいらっしゃったので
ちょっと不安になったが一般人もたくさんいたのでここで一晩を明かすことに決めた。そして、
駐車場の隅に寝袋を敷き眠りについた。

まだ5時をまわったばかりだ。しかし暑くて目が覚めてしまった。ちらほらとテントから人影も見え始める。俺は
さっさと寝袋を箱にしまい、地図で適当に温泉を探した。まずはそこまで走ることにした。やはり
風に当たるとすこし肌寒いがすぐに暑くなってきた。温泉に着いた。ふとミユキのことを思い出した。
もしかして一人で温泉に行ったりしていないだろうな。俺は北海道旅行が終わったときの事を
考えていた。ミユキの現在を知ってしまった今、横浜に帰った後も彼女のことが気になるだろう。
俺にとっての愛しいミユキが何百kmも離れた土地で暮らしていることが不安になるに違いない。
しかし悩んでいても始まらない、とりあえず風呂に入った。俺は考え事をすると本当に周りが見え
なくなる。その時もまた考え事をしていた。風呂に入り、ブハァとか言ってリラックスした後今夜の
ことを考えていた。ミソラさんと何食うかなぁ。私を食べて、とか言われたらどうしよう、とか
ありえない妄想をしていたら顔がほころんでいたらしく、向かいのおっちゃんが奇妙な目で俺を
見つめていた。俺は目をそらす。またミユキのことを考えた。ちゃんと学校行ったかな?叔母さん
はちゃんと帰ってくるかな?いろいろ頭を駆け巡った。ふと気づくとじいちゃんが髪の毛を洗いながら
こっちを見ている。どうやら俺はじいちゃんの萎びたおいなりさんを凝視していたようだ。また俺は
さっと目をそらす。ウホッな展開になったら厄介だからな。そういえば俺はモテナイと言ったが
実は状況によってはモテモテだ。出会い系で顔を晒せば男性からのお誘いが結構来たし、海外に
行けばアラブ系のお兄様に手を握られて離してくれなかった。そうそう繁華街では外国の女性に
よく声をかけられたものだった。たしか"マニーマニー"とか言ってたけど、まぁいいや。

風呂上りで寛いでいると。メールが来た。"予定通りに着きそうです"ミソラさんからだ。俺は待ちあわせ
場所と時間をメールした。場所は最北端に近いコンビニを選んだ。"OK、じゃぁ後でね〜"すぐに
返事が来た。俺は温泉を後にした。さて、目的地まで250kmあるのだが。どうするか。まぁ走る
しか無いわけで。俺は半そでになりグローブもつけずにバイクに跨った。さぁて日焼けするか。
エンジンに火を入れ北へ向かった。

無事にコンビニに着いた。1時間前。俺は立ち読み気にしない派に属しているので1時間なんて
気にしない。ふとケータイを見るとちゃっちいLEDがピコピコと光っていた。いつの間にかメール
が来ていたようだ。誰だろう?いくつかメールが来ていた。"パパ事故に気をつけてね"、"気をつけて
帰ってきてくださいね"、"お土産待ってま〜す"、"はじめまして担任の○○と申します。バイクで
北海道を周っていると聞きました。事故に気をつけてください。それでは。"どうやら友達と担任に
までメアドを教えてしまったようだ。どんな学校なんだか。まぁ女の子にメールを貰うのは気分の
悪いことではない。ニヤニヤしてしまった。隣で立ち読みしているガキがこっちを見てる。俺がそれ
に気づくとさっと目をそらした。俺はまた漫画を読み始めた。

メールが来た。ミソラさんだ。"着きました"俺は外を見る、手振ってるし。俺は外に出た。
俺「お疲れ様。」
ミソラ「待った?」
俺「さっき着いたばかりだよ。」
ありきたりのセリフを言った。
俺「どこでご飯食べる?」
ミソラ「途中で本屋さんに寄って情報誌見たんだけど近くにはあまりおいしそうな処はなさそうね。」
俺「じゃぁコンビニでなんか買って夜の宗谷岬を楽しもうか?」
ミソラ「いいわね、神秘的で。」
またコンビニに入った。オニギリと午後の紅茶とガムを買う。彼女は化粧品とかも買ったようだ。

俺「じゃぁ行こうか。」
ミソラ「飛ばさないでよ。」
俺「どう見てもそっちの方がスピード出そうだよ(笑)」
ミソラ「大型をゆっくり乗るのがかっこいいのよ。」
俺「俺もそれには同意だね。」
ミソラ「さっ、行きましょ!」
俺「うん。」
宗谷岬は夜は意外に寒い。二人とも革ジャンを着たまま公園内を歩いていった。
海の方へ向き腰掛けた。俺は思った、神秘的と言うよりもなんか殺伐としている。また選定を
誤ったと思った。彼女を見た。
ミソラ「うわぁすごいね、波の音が。風も結構強いね。でもさ、生きてるって感じがする。ご飯食べよ?」
俺「そうだね、腹減った。」あまり彼女は雰囲気に拘らないらしい。
ミソラ「今日はどこに泊まるの?」
俺「全く決めてないよ。寝袋あるしね。ミソラ・・・さんは?」
ミソラ「"さん"はつけなくていいよ(笑)。」
俺の"わざとらしい大作戦"がうまくいったようだ。
俺「じゃぁ俺も呼び捨てにしてね。」
ミソラ「うん、わかった。でね、ライダーハウスに泊まろうと思ってるの。」
俺「女性一人だと不安じゃない?」
ミソラ「今日は彼氏がいるから安心ね。」
俺「どこに?」
彼女は俺を指差した。定番だが俺は後ろを振り向く。
俺「ん?誰もいないよ?」
ミソラ「こらっアキヒロ!あんただよ。」
俺「あっやっぱり?で、いつもはどんなところに泊まってたの?」
ミソラ「場末のシティホテルとかかな。」
俺「結構金かかるんじゃない?」
ミソラ「まぁね。でもライダーハウスって安いんでしょ?」

俺「うん。安いところはたしか500円くらいから泊まれたような気がするな。」
ミソラ「うわっ本に書いてあったの本当なんだ〜。」
俺「まぁ値段なりに汚いよ?」
ミソラ「それがいいんじゃない?旅行なんだしいい思い出になるよ!」
俺は食い終わったのでガムを噛み始めた。彼女にもあげた。
ミソラ「妹さん元気?」
俺「あぁ、元気だよ。」
俺はさっきのメールの話をした。
俺「女子高って変だよね?」
ミソラ「わかるわ〜。私も女子高出身なんだけど大学に入ってから自分の居た環境が
特殊だったことに気づいたもん。男の先生のうちにみんなで集まって誕生パーティとか
したしね。たぶんあの先生ロリコンよ。」
俺「ははは。」
ミソラ「あとは好きな先輩にチョコあげたりね。」
俺「それは良く聞く。」
ミソラ「そこまではよくある話なんだけど、レズっていうの?意外にいるのよね〜。
しかもみんなそれがそんなにおかしいことなんて思ってないの。私だって全然
おかしいと思わなかったもん。」
彼女はぺらぺらとしゃべった。こちらから話題を振らないですむので会話も楽だった。
俺「バイクの免許はいつ取ったの?女の子だと珍しいよね?」
ミソラ「お父さんがバイク乗りなの。よく学校まで送ってもらった。で先生に怒られるの、
お父さんが(笑)。」
俺「かわいいお父さんじゃん。」
ミソラ「うん、大好き。」
俺「その影響で免許取ろうと思ったんだ?」
ミソラ「うん。大学入ってすぐに車とバイクの免許一緒に取った。バイクは転んではお父さんに直してもらってた。」
彼女は腕をまくって見せた。女性なのにすごい傷だらけだ。
ミソラ「これすごい傷だけど最初に2,3回だけでこんなになっちゃった。それ以降はたちゴケ以外
は転倒無し!お母さんが泣いてバイクに乗らないように言うんだけど、お父さんがフォローして
くれた。」

俺「普通は両親揃って反対するよね。」
ミソラ「ホントよね。でも一度人を引っ掛けちゃったことがあったの。相手はかすり傷程度だったん
だけど。お父さんに話したら、グーで殴られた。お父さんとその人の家に謝りに行ったわ。私が
口から血流しながら謝るものだから相手のご両親が逆に私の手当てしてくれて・・・。」
俺「すごいな年頃の女の子をグーで殴るなんて。」
ミソラ「でもそのおかげでバイクとか車を運転する側の責任っていうの?重く考えるようになった。」
バイオレンス父ちゃんか・・・

ミソラ「あっごめんごめん。また辛気臭くなっちゃったね。」
俺「いや、そんなことないよ。君のこと、よく知ることができたし。」
ミソラ「アキヒロはあまりしゃべらないね。」
俺「やっぱわかる?」
ミソラ「なんとなくね。」
俺「つまらないんじゃないよ。人の話を聞くのが好きなんだ。だから君みたいなおしゃべり・・・
じゃなくてたくさん話してくれる人といると楽しいよ。」
ミソラ「はいはい、どうせ私はおしゃべりですよ。」
俺「いや、悪い意味はないんだよ。ホント。」
ミソラ「わかってるって。」
ミソラはガムの包みを開けて口に放り込んだ。
ミソラ「アキヒロは明日の予定は?」
俺「全く決めてない。もし邪魔じゃなければミソラと一緒に走りたいな。」
ミソラ「惚れた?」
俺「まぁそういうことにしておこう。」
ミソラ「ふふふっいいわ。一緒に走りましょ。」
俺「もう遅いしライダーハウス行こうか?」
ミソラ「そうね、その前に。」
俺はほっぺに暖かいやつをもらった。俺がえ?ってな顔をしていると、
ミソラ「ガムのお礼。」
俺「はい。」俺は残りのガムを彼女に差し出した。
ミソラ「コラコラ、調子乗ってんじゃないの。」
俺「やっぱ駄目か。」
2人して笑った。

ライダーハウスに着いた。いくつかバイクが停まっている。2人は恋人ということにして泊まる
ことにした。結構賑やかだな。女の子の笑い声も聞こえる。部屋に行くと皆でトランプを
していた。男3人に女2人、そして俺たち。軽く自己紹介した後一緒にトランプをやらないか
という話になったが俺は複数で騒ぐのは苦手なので遠慮して外に出た。ミソラは自然に輪の
中に入っていった。外で深呼吸した。気持ちいい。ミユキは元気にやっているだろうか?
ミユキのことなんか知らないでいれば良かったのかな?そうすればミユキについて悩むこと
なんて無かったのに。電話したかったけど止めておいた。するとメールが届いた。ミユキだ。
"おやすみ、明日も気をつけてね"・・・・俺は・・・

部屋に戻るとみんな寝る準備をしていた。
ミソラ「何してたの?」
俺「都会では吸えない空気をいっぱい食べてきた。」
ミソラ「え〜じゃぁ私も食べたいなぁ。もう一回外いこ?」
俺「あ、うん。」
ミソラ「わぁ星が綺麗ね。都会じゃあんなにくっきり見えないよね〜。」
俺「うん、このまま星空眺めて寝ると気持ちいいよ。寝袋で寝たことある?」
ミソラ「ないない。こんな可憐な乙女が寝袋で寝てたら大変でしょ?」
俺「そういえば、そうだね。」
ミソラ「ノリ悪いなぁ。乙女じゃないだろ!って突っ込むところなんだけどね。」
俺「でも実際美人なんだから、野宿は止めたほうがいいと思うよ。」
ミソラ「よくもまぁそんなこと平気で言えるね〜。」
俺「そう?俺って嘘つくと顔に出るからなるべく嘘はつかないようにしてるんだ。」
ミソラ「ありがと。嬉しいよ。」
俺「あ、うん。」
ミソラ「うふふ、今頃照れてる。かわいいね。ところで水着持ってきた?」
俺「いや、俺泳げないし。」
ミソラ「でも初めて会った時海だったよね?」
俺「泳げないけど、海は好き。ちっぽけな自分を認識できるから。」
ミソラ「あなたって不思議な人ね。」
俺「変ってこと?」
ミソラ「う〜ん、表現しにくいんだけど、純粋すぎるのかなぁ?」

俺「数日前に妹のブラかぶりながら洗濯してたけどね。」
ミソラ「あははははは、変態だぁ。」
俺「純粋な人はこんなことしないんじゃない?」
ミソラ「でも変態と純粋が相容れないわけじゃないしね。ほら、AキャップBみたいな。」
俺「ブラのサイズ?」
ミソラ「それはカップ!」
俺「?」
ミソラ「数学の集合でAキャップBっていうのはAとBの共通部分って意味なの。Aが純粋さ
Bが変態。純粋であり、変態であるのがあなた(笑)。」
俺「なんとなくわかったよ。」
俺はまた星空を見上げた。何年経っても綺麗なんだろうな。永遠ってやつだな。
ミソラ「アキヒロって時々黄昏るよね。」
どこかで聞いた言葉だ。デジャヴ?そうだ!俺がミユキに対して思っていたんだ。ミユキのそんな
ところを心配していた。今はミソラに心配されている。原因はわかる。ミユキに対しての接し方で
悩んでいたんだ。ミユキも俺に言えない何かを悩んでいるんだ。でも教えてくれなかったけどな。
ミソラ「・・・お〜い。聞こえますかぁ?」
俺「あっごめんごめん。またボケーとしちゃったね。」
ミソラ「ところで、彼女はいるの?」
俺「どう思う?」
ミソラ「いるような気がするけど。北海道旅行に一人で来るんだから、いないかな?」
俺「うん、いない。」
ミソラ「ふ〜ん。で?」
俺「?」
ミソラ「いや、普通そうきたら君はどうなの?って聞くもんでしょ?」
俺「あぁそうだった。でもいると思うな。君みたいな知的で積極的で顔もいい女性がひとりなはず
ないもん。」
ミソラ「はずれ。」
俺「でもつい最近までいたんでしょ?」
ミソラ「それは当たり。」

俺「おれレベルの男だとさ、彼女作るのに一苦労、関係を維持するのに一苦労、って感じでなかなか
長くは続かないし、それ以前に彼女もできないんだよ。」
ミソラ「女が本当のあなたを見抜けないのよ。男ってさ、女が男を選ぶのにかっこよさとか金持ちか
とかで選んでると思っているでしょ?」
俺「違うの?」
ミソラ「いや、その通りなんだけどね。」
俺「なんだよ、それ。ますます凹むよ。」
ミソラ「まぁまぁ最後まで聞きなさいよ。でもね、お話ししたり、その人と交流するうちに本当の良さ
とかがわかるともう大変。顔とか、地位とか、関係なくなるの。わかる?」
俺「言いたいことはわかる。でもさ、そのお話したり交流するまでが大変だってことわかる?」
ミソラ「そこはもう自分で何とかするしかないわね。それさえもできない男はたとえいいもの持って
いても子孫を残せないのよ。」
俺「そういうもんかなぁ。」
ミソラ「そういうもんなの。」
俺はまた空を見上げる。そしてミソラを見た。今度は唇を奪われた。
ミソラ「もう寝ましょ。」
俺「うん。」

部屋に戻るともうみんな寝ているようだ。っと思ったら部屋の中から何か聞こえる。俺はミソラに
人差し指で"し〜"とやった。どうやら一組いたしてるらしい。ミソラも察したようだ。
俺「他の部屋行ってみようか?」 小声で言った。
ミソラ「そうね。邪魔しちゃ悪いし。」
奥の部屋に行ってみた。月明かりが綺麗に差し込んでいる。
俺「うぉ綺麗だな。この部屋のほうがよかったね。」
ミソラ「じゃぁこの部屋で30分くらいお話しましょうか?」
俺「そだね。」
2人とも月明かりのあたる壁とは反対の壁に揃って座った。話しかけようと思ったその時、
大人のキスをされた。

信じられなかった。・・・過去に出会い系にはまったことがある。会社には女性がいなかった。ナンパなんて恥ずかしくてできないし、それについて来るような女の子と付き合うことなんて考えられない。出会いはネットで探すしかなかった。
なんとか会うところまでこぎつけるが毎回決まってその日で終わる。女の子をもてなすことが苦手だからだ。会っては見たものの話は続かない。またある時同僚に女の子を紹介してもらってやはり二人で話したことがあったのだが、その日で終わった。同僚の彼女から詳細を聞いたのだが、俺の話が堅すぎるというかつまらないらしい。俺は付き合いさえすれば、また会ってくれさえすれば、自分の良さをわかってくれると思っていたが現実は厳しい。出会い系は一発勝負だった。
何度か繰り返した後それに気づき出会い系はスッパリと止めた。

やはり、信じられなかった。そんな俺が今・・・夢中でキスをした。ひたすら、たぶん10分以上していたと思う。
ミソラ「落ち着いた?」
俺「ごめん。」
部屋に反射した月明かりがミソラの顔を照らしている。ミユキとは違う大人の美しさだ。
俺「何で?」
ミソラ「何が?」
俺「何で君みたいな綺麗な人が俺みたいなやつにキスできるの?」
ミソラ「何かおかしい?」
俺「俺は、君とは付き合っていないし、例え付き合っていたとしても周りから見たら・・・」
ミソラ「美女と野獣?」
俺「そう、それに見えるだろうし。いや、付き合っていないけどさ。」
ミソラ「キスしたいからしたの。もしかして初めて?」
俺「いや、そうじゃないけどさ。」
ミソラ「一時の感情でキスしたと思う?」
俺「わからない。」
ミソラ「実は私もわからない(笑)。傷づいちゃった?」
俺「いや、でも君が、ミソラがしたいと思ってくれたのはなんだか嬉しい。それは確か。」
ミソラ「少なくとも今はアキヒロが好きだよ。」
俺「今は?」

ミソラ「キスから始まる恋愛もあるってこと。これからもっとお互いを知ったら進展しちゃうかもね。」
俺「セックスから始まる恋愛もあるのかな?」
ミソラ「あると思うけど私は無理。私の大和撫子がそれを許さないわ(笑)。」
俺「大和撫子はキスも駄目だと思うけどね。」
ミソラ「そこはあまり突っ込まないで。私には私の基準があるの。」
俺「うわっ。」
ミソラが馬乗りになって俺の口を手で押さえる。
ミソラ「し〜。誰か起きてきちゃうよ。もう少し楽しもっ?」
俺「うん、賛成。」
その夜は生きていて良かったなぁと素直に思える夜だった。

朝が来た。食堂でおばちゃんの素朴な料理を頂いた。みんな集合していたが昨日の2人組はすぐに特定できるほど
いちゃいちゃしていた。女の子の顔を見る。この子が昨夜あんなことをしていたなんて想像もつかない。まぁ他の人
からしたら俺とミソラがキスしていたことすら予想できないだろう。みんなでこれからどこに行くのだとか話している。
俺はなんだか輪に入れない。ミソラは俺と西のほうへ行くんだとか勝手に言っている。まぁ俺がついて行くって
言ったんだからどこに行こうと気にはしないが。結局男3人組、女2人組み、俺たちは見事に別々の方向へ行くことが
決まった。荷物をまとめておばちゃんにお金を払いお礼を言う。俺とミソラは先にハウスを出た。
俺「すぐに取り出したいものとか濡れちゃいけない物があったら、こっちに入れなよ。完全防水だぜ?」
ミソラ「羨ましいなその箱。ダサいけどね。」
俺「まぁかっこいいとは思わなかったけど。やっぱダサいのか・・・」
ミソラ「ちっちゃいこと気にしないの!じゃぁ適当に入れさせてもらいましょうか。」
ミソラが荷物を入れている最中に話しかけた。
俺「あの女の子ゆきずりのえっちしたのかな?」
ミソラ「そんなの当人同士にしかわからないよ。」
俺「まぁそうだろうけど。ミソラは何であの2人がえっちしたんだと思う?」
ミソラ「アキヒロらしい質問ね。でも私にはわからないわ。積み終わったわよ。」

俺「かなり詰まっている気がするんですが・・・」
ミソラ「男でしょ?気にしない、気にしない。」
俺「どこかあてはあるの?」
ミソラ「適当に海岸線走りましょうよ。陽が高くなったらちょっと海に入りたい。」
俺「わかった。止まりたくなったらホーンならしてね。」
ミソラ「リョーカイ!」

俺たちは適当に南下して行った。時々ミソラが俺を追い抜き、そして俺が追い抜く。ミソラのフォーム
は綺麗だった。レーサーレプリカタイプに初心者が乗るとおしりを突き出してしまったり、背筋が
反り返ったり、ハンドルに体重をかけて乗ったりしてしまう。だが彼女は、そう、かっこ良かった。
しばらく走ると彼女は横に並んだ。
ミソラ「トイレ!!」
大声で指差す。そんな大声で叫ばんでも・・・俺たちはその道の駅みたいなところで休憩した。
俺はバイクのそばに座って待っていた。
ミソラ「お待たせ。はい、どうぞ!」
午後の紅茶だった。
ミソラ「好きなんでしょ?」
俺「あ、うん。」
ミユキが好きだから買っていたなんて言えない。
俺「それは・・・」
ミソラ「あぁコレ?コレ飲むと元気でるのよねぇ。おっさんみたい?」
"25時間がんがれますか?"って書いてある。
俺「いやそんなこと無いよ。ミソラは何やっても似合うよ。」
本当だった。キムタクはどんな服装をしても似合う。俺はキムタクと同じ服を着てもかっこよくはなれない。
ミソラはキムタク側だ。そして俺はそちら側には永遠に辿り着けない。
ミソラ「どうしたの?疲れた?」
俺「いや、全然。横浜から青森まで東北道かっとばしたこともある男だぜ?」
ミソラ「そんなことでいばるなって(笑)。そういえばさっきナンパされたよ。」

俺「えっ?」
ミソラ「安心しなさい。大丈夫よ。ほら、あそこの外車軍団。」
彼女は指差す。
そちらを見るとBMWやらDUCATIやらわかりやすいバイクばかりの集団があった。
俺「うわぁ、あれ200万くらいするんじゃなかったっけ?一度乗ってみたいな。」
ミソラ「乗らせてもらえば?あれ?でもアキヒロ大型持ってるの?」
俺「あるよ。」
ミソラ「そうなんだ。なんでおっきいの乗らないの?」
俺「精神的な問題かな。」
ミソラ「また小難しくなってきました(笑)。」
俺「聞く?」
ミソラ「うん。」

俺「ミソラは教習所で取った?それとも試験場?」
ミソラ「一発試験。」
俺「一緒だね。当時まだ教習所じゃ取れない頃でさ。大型を取るっていうのはすごくステータスだったんだ。ミソラはどう?」
ミソラ「う〜ん。私の場合はお父さんからとれって言われて取っただけで、特に何も。」
俺「君らしいよ。まぁ俺にとってはすごく難しい試験だったんだ。しかも神奈川県って一番難しいらしいよ。それで何度も通って取れたわけなんだけど。」
ミソラ「で?」
俺「嬉しくてすぐに750買ったよ。それで400以下のバイク見るたびに優越感感じていたんだ。ダサいだろ?」
ミソラ「うん、ダサい(笑)。」
俺「正直だな。そんなところ好きだよ。それで、買ってから一ヶ月もしないのに事故った。初めての事故だった。車発見して、ブレーキして・・・吹っ飛んだコンクリートの上で気がついた。メットの周りが血の海だったよ。しかも意識はすごくはっきりしてた。運転手が降りて来て謝ってんだけど俺は寝ながら怒ってた。」
ミソラ「どんな事故?」
俺「俺が直進、相手が右折。まぁよくあるパターンだよ。まぁいいや、そのつまり、驕りからその事故が起こったのは自分でもわかってたんだ。それに俺が直進、相手は右折、相手は止まるだろう。俺のハイビームに気がつかないわけないだろうっていう勝手な解釈も自分中心の運転=大型が偉い、みたいな図式が頭の中にあったと思うんだ。」
ミソラ「その驕りがあるから乗らないようにしてるの?」
俺「何度か乗ったよ。600からリッターまで。でもね乗っていてまたその優越感が出てくるんだ。事故は起こさなかったけど。たぶん俺の歪んだ性格のせいだと思うんだ。」

ミソラ「ふ〜ん。ちゃんと考えているのね。」
俺「一応かっこ悪いところは無くして行こうっていつも思ってるんだ。一向にかっこよくならないけどね。って暗くなっちゃったね。」
ミソラ「昨日と逆ね、アキヒロのことがまた少しわかったわ。」
俺「ははは。」
ミソラ「ねぇキスしよっか?」
俺「ここで?」
と言うや否や大人のちっすされた。30秒くらいだろうか。俺は両手をぶらーんと下げたまま唇を奪われる感じだった。傍から見たら
マヌケだったはずだ。ミソラは外車軍団を見た。俺も見た。
こっちをキョトンと見てる。
ミソラ「おもしろいでしょ?」
俺「うん。」
ミソラ「そろそろいこっか?」
俺「そだね。じゃぁまた止まるときにはホーンか"トイレ!"って叫んでね。」
ミソラ「ふふふ、わかった。」

海岸沿いの道は時折海岸から離れて大きなカーブを内陸側に描く。そして、あるいはトンネルをくぐりまた海岸沿いに戻る。海が見えたり消えたり、天気も最高、ミソラもいる、幸せだった。こんな俺でも幸せを感じることができるというのが不思議だった。
小さい頃は"成功した人"のみが幸せを感じることができるのだと信じていた。ミソラといると俺の汚い部分をどんどんさらけ出せた。
変われるかな?ふと、ホーンが聞こえる。ミラーを見る。パッシングの嵐だ。お前は煽り屋かと(笑)。俺は路肩にバイクを寄せた。
俺「どうしたの?」
ミソラ「後ろ見て。あそこの駐輪場。初めて会った場所に似てるでしょ?」
俺「ホントだ。」
ミソラ「あそこに止めて海に行きましょ。」
俺「いいね。よしUターンだ。お先!」
ミソラ「あっ待ってよ。」

ミソラは俺の箱から袋を取り出した。
ミソラ「じゃぁ浜辺へ行きましょ。」
俺「うん。」
俺は彼女の手をとった。
ミソラ「紳士ね。」
俺「手を繋ぎたいだけさ。」
ミソラ「そこは嘘も方便で、紳士ぶるほうがいいわよ。」
俺「無理。」
ミソラ「ホント、珍しい人ね。」
俺「なんせブラかぶって洗濯するからね。」
ミソラ「あはははは、思い出しちゃった。あっ、ちゃんと前見て!」
俺「はっ?」
・・・こけた。砂浜で良かった。コンクリートだったら頭から血流して一気に興醒めモードに突入するところだった。
ミソラ「あそこの岩陰がいいわね。行きましょ。」
俺「何するの?」
ミソラ「着替えるの。」
ミソラの袋には水着が入っていた。
ミソラ「見ちゃ駄目よ。」
この人ホント変だ。俺のほう向きながらシャツを脱ぎだした。どんどん脱いでいく。下も脱いだ。と思ったら着替え終わってる。
ミソラ「どう?」
俺「何が?」
ミソラ「私のバディ(笑)。」
俺「その腕が修羅場をくぐってそうでかっこいいよ。」
ミソラは俺の股間に目をやった。
ミソラ「嘘もつけるようになったのね。」

俺はとりあえず前かがみでミソラの後を追い、浜辺に座った。彼女は海に浸かった。なんだか夢みたいだった。砂浜は熱いし、腕をつねっても痛い、でも夢の中では夢とは気づけない。今が夢じゃないという証拠は全く無かった。またボケーとしてしまった。

俺「冷たっ」
ミソラが水を引っ掛けてきた。なんかベタベタだが俺は彼女をおいかけた。ベタなシーンも実際に体験すると楽しいもんだ。
しかし、泳げない男は水深が深くなると急に現実に戻った。俺泳げない・・・ミソラはこちらへ走ってくる。手を掴まれた。
ミソラ「えいっ」
俺は簡単に砂浜に倒れた。また馬乗りだ。そして予想していたことが起こる。俺は拒否なんてできない。
俺「ミソラは恥ずかしくないの?」
キスをしながら言う。
ミソラ「誰が見てたっていいでしょ。あなたと私が主人公なのよ?二人が楽しむことが第一。あなたは人の目を気にしてばかり。」
ミソラの髪はうっすらと濡れている。時折太陽の眩しさで隠されるミソラの顔がまた見えた。下から見上げると女性ってすごく妖艶だ。
俺「恥ずかしいって思うことがおかしい?」
ミソラ「おかしくないよ。今っていう時は今しかないの。例えば私が1ヵ月後に死んだら・・・」
俺「怖いこと言うなよ。」
ミソラ「あなたは必ず後悔するわ、あの時キスしておけば良かったって。時は戻らないのよ。今決めるの。私たち生きているのよ。」
俺はなぜか涙が出てきた。
ミソラ「ごめんね。」
俺「違うんだ。涙出てるんだけど。悲しいわけじゃないんだ。ごめん、表現できないや。でも俺はミソラが好きだ。」
俺は夢中でキスをした。彼女もそれに応えてくれる。昔の俺がこれを見たらただのバカップルにしか見えないだろう。俺が子供なら親に見ちゃいけませんとか言われるだろう。でも今は嫌悪感は全く無い。ミソラは俺を短時間で変えてしまった。いや全部ではない、一部だ。でもこれは俺一人で生きていたら一生変えることが出来なかったものかもしれない。

ミソラ「すっごいね。」
俺「あぁ。」
ミソラ「お腹空いた〜。」
俺「飯処探そうか?」
ミソラ「うん。」

しばらく走るとミソラは俺を追い越していった。そして食堂みたいなところへ減速していく。俺もそれに続いた。
適当に注文して水を飲みながら話をした。
ミソラ「家族構成はどんな感じ?」
俺「両親+男3匹」
ミソラ「うわ〜むさいね。」
俺「同意だね。ミソラは?」
ミソラ「一人っ子だよ。」
俺「まぁ予想通りだな。」
ミソラ「実家はどこ?」
俺「実家も俺の住処も横浜。」
ミソラ「何区?」
俺「実家が○△区で俺のアパートが□◇区。」
ミソラ「じゃぁ意外と近いんだね。私◎×区だもん。」
俺「どこかですれ違ったことあるかもね。」
飯が運ばれてきた。俺のがまだ来ない・・・
俺「先に食べなよ。」
ミソラ「言われなくても食べちゃうよ。はい、あ〜ん。」
やばい、幸せだ。
ミソラ「私梅干あまり好きじゃないの。」
俺「オレ残飯処理係?」
ミソラ「はい、あ〜ん。」
俺「今度は?」
ミソラ「私の大好物。」
俺「良かった。おっ来た来た。」
ミソラ「どこか行きたいところある?」
俺「一緒ならどこでもいいよ。」
ミソラ「うわぁそれだめだよ。男ならどこどこ行きたい!って言わないと。」

俺「じゃぁラブホテルかな。」
ミソラ「じゃぁ決定ね。」
俺「えっ?」
ミソラ「まぁ沿道にあったらね。無かったらそのまま南下しましょ。」
俺「あ、あぁ。」

そこからの俺の走りは怪しかったと思う。沿道にそれっぽい建物を見つけてはチェックしていった。
気にし出すと意外に無いもんだ。ホーンが鳴る。ミラーを確認して路肩へ止めた。
俺「どうしたの?」
ミソラ「上の方になんか見えるでしょ?公園みたいなの。」
俺「あぁ、あるね。」
ミソラ「あそこへ行きましょ。」

ただの公園だった。でも海が一望できた。潮風もすごく気持ちいい。
俺「何か飲むもの買ってくるよ。栄養剤にする?あるかわからんけど。」
ミソラ「う〜ん、お茶とか砂糖が入って無いやつ。」
俺「わかった。自販機探してくる。」
またいつの間にかメールが入っていた。そういえばまだ返信していなかったような気がするな。
昨日と似たようなメールが来た。先生からは来ていなかった。たぶん昨日はあいつらに送るように
言われただけなのだろう。ミユキには函館へ向かっていると言うこと、結構早めに帰れるかも
しれないこと、を返信しておいた。友だちたちには適当に返信しておいた。自販機があった。
午後の紅茶があったが俺は他のジュースを選んだ。ミソラにはお茶を買う。
ミソラ「自販機遠かった?」
俺「いや、妹とその友だちに返事書いていなかったから適当に返信してたんだ。はい、お茶。」
ミソラ「ありがと。うわっ何そのジュース。」
俺「クリームソーダ嫌い?」
ミソラ「いや、それって小学生とかが飲むやつだよ。」
俺「こういうの好きなんだよね。でもこの前飲んだスイカのジュースはさすがにまずくて飲めなかったよ。」

ミソラ「夜御飯どうする?」
俺「北海道らしい食べ物があればそれ食いたいけどね。情報誌とか持ってる?」
ミソラ「バイクにあるよ。」
俺「どっちのバイク?」
ミソラ「そっち。」
俺「わかった。取ってくる。」

2人寄り添うようにその本を見た。なんだか寄り添っているのが普通だった。昨日から24時間も経っていないのに。
ミソラ「ここは?」
俺「たぶん通り過ぎたと思う。」
ミソラ「じゃぁこれ。」
俺「おっいいね。時間とか休業日とか大丈夫?」
ミソラ「う〜ん。問題無さそうだよ。」
俺「じゃぁ行こうか?」
ミソラ「もう少しゆっくりしよ。ちょっとだけ寝る。ひざまくらして。」
俺「いいよ。」
ミソラ「んじゃオヤスミ。」
俺「はい、おやすみ。」

うわ〜タイミング悪いな。コール音が鳴った。ミソラが目を覚ます。
俺「ごめん。マナーモードにしておくよ。」
ミソラ「出なくていいの?」
俺「うん。妹からだから。」
ミソラ「仲いいのね。」
俺「そうだといいんだけどね。」
ミソラ「仲悪いの?」
俺「そう言うわけでも無い。」
ミソラ「ま、それは後で聞こう。オヤスミ。」

キスを交わしたりハグしたりした。そこには確かに感触があった。こんな天気の良い日に、潮風の気持ち良い海の見渡せる公園で、ひざの上には不釣り合いな美人が寝ている。映画マトリックスを思い出した。実は今起こっていることは虚構の世界での出来事なのではないか、と。いや、ヴァーチャルでも構わない。問題なのはずっと続くかどうかだ。前の彼女と別れたことを考えていた。
そして思った。この恋愛はどうやって終わるのであろうか?永遠に続くと言う発想は経験上できなかった。どうせまたつまらないことで終わるはずだ。またいつものネガティブ思考が頭をめぐっていた。そのときメールが入った。ミユキからだ。
"走ってる途中?私は寂しくないからね。ホントだからね。" 確信犯だな。まぁかわいいからいいけど。

俺「お〜い。そろそろ行こうぜ。」
ミソラ「うん。どのくらい寝てた?」
俺「かなり。」
ミソラ「太陽も若干落ちてきてるね。行こうか。」
俺「うん。」
俺達は暖機した。ミソラは俺の太ももをパンッと叩いた。
ミソラ「この枕良かったよ。」
俺「良かったらあげるよ。」
ミソラ「あはは。じゃぁこれからはこれで寝よう。私専用だからね。」
俺「うん。」
ミソラ「よし、出発!」

途中食事をし、他愛も無い話に花を咲かせ、また俺たちは走り続けた。単調になりがちな
ナイトランも2人だと楽しい。俺はミソラの後を走っていた。そして彼女はゆっくりと減速した。
ミソラ「ライダーハウス発見!!」
俺「あれ?」
ミソラ「今日はここ。文句ある?」
俺「無いです。」
ミソラ「よし、荷物出そうか。」
俺「うん。」
やはり冗談だったのか。会って一日でそんな所行く訳無いもんな。また現実をひとつ噛み締めた。
ミソラ「しかし、ここはバイク多いね〜。アキヒロの好きな外車も停まってるよ。」
俺「外車が好きなわけじゃないんだけどね。さっ入ろう。」
ミソラ「うわっ男ばかりだよ。前は女の子もいたのにね。」
俺「あそこは偶々女の子が来てただけだよ。普通は遭遇しないもんだよ。」
ミソラ「へぇ〜。」
俺たちは部屋の皆に軽く挨拶をしてベッドの上にふたりで寝転んだ。
俺「ミソラはいつ横浜へ帰るんだっけ?」
ミソラ「このまま南下して函館に着いたら帰ろうかな。仕事も探さなきゃいけないしね。」
俺「そうか。」
ミソラ「寂しい?」
俺「もちろん。」
ミソラ「アキヒロは?」
俺「妹のところに寄って、後は祖父母のところで肩揉んで、それで帰ろうかな。」
ミソラ「孝行するのか。偉いね。」
俺「そう思うだろ?実際はそんな偉いもんじゃないんだ。」
ミソラ「どういうこと?」
俺「ある時仕事で配送してたんだよ。雨の日に。結構急ぎの荷物でね。そしたらおばあちゃんが道端、いや道路の真ん中だった。雨の中倒れてなんかもがいているんだよ。俺はちょっとバイクを停めたんだけどすぐにそこから立ち去った。」

ミソラ「最低だね。」
俺「・・・その時天秤にかけたんだ。会社への責任と見知らぬおばあちゃんを。俺はろくに仕事もできないからな。
せめてヘマをするわけにはいけないって考えたんだ。人道的にはおばあちゃんを助けたほうがいいのは俺だって
わかってた。でも助けなかった。おまえならどうするんだよ!!」
部屋の野郎どもが一斉にこちらを見た。俺はミソラを見た。
ミソラ「怒ってるの?」
俺「ごめん・・・ごめん・・・ごめん。いやもうこの話は止めよう。つまり俺は別に老人に優しいわけじゃないんだよ。
人が困ってても見捨てるんだよ。損得勘定で行動する最低野郎なんだよ。じいちゃんばあちゃんに孝行しようと
思ったのも自己満足だよ。2人は喜ぶだろうよ。孫が肩揉みに来てくれたらな。でも俺は自分が満足するために
孝行するんだよ。・・・ちょっと外行ってくる。」
ミソラ「待ちなさいよ!勝手にぺらぺらしゃべって出て行くの?かっこ悪いわね。男なら逃げるんじゃないわよ!」
俺「逃げてるわけじゃねーし、会ったばかりのお前に何がわかるんだよ!」
ミソラ「わからないから色々話すんじゃない!とにかく座って!」
俺「ここじゃみんなに迷惑かけるよ。」
ミソラ「落ち着いて話しましょ。そうすれば迷惑にならないわ。」
俺「わかった。」
ミソラ「誰だって完璧じゃないんだから。」
俺「でも俺は老人を見捨てたし、ミソラはそれを最低って言った。」
今度は悲しくて涙が出そうになった。
ミソラ「ごめんなさい、言い過ぎたわ。」
俺「何で謝るんだよ。ますます惨めじゃねぇかよ!」
もう周りの視線も気にならないくらい熱くなっていた。
ミソラ「何であなたに興味持ったかわかったわ。」
俺「・・・」
ミソラ「あなたは自分のこと正直に何でもしゃべってくれる。でも触れられて壊れてしまいそうな部分に関しては
決して晒そうとしていない。そんな危うい繊細な部分を共有したいのかもしれないわ。」
俺「俺はおまえが怖い。何でも見抜くし、おまえの一言一言は納得できるものばかり。そんなに人を見る力が
あって何で・・・俺なんか。」
ミソラ「もし私が何でもあなたのことわかるとしたら、今あなたを怒らせたこともわかってやったってこと?
私そんなに性格悪い?答えてよ。」

俺「いや、反論は無いよ。ミソラの性格を悪いなんて思ったことも一度も無い。さわやか過ぎてこっちが恥ずかしいくらいだし。とにかくごめん。これがキレるってやつなのかな?だとしたら俺やばいね。」
ミソラ「仲直りのチューしよっか?」
俺「うん。」
ミソラ「恥ずかしくないの?」
俺「何を恥ずかしがるの?」
俺からキスしてやった。
俺「外行こうぜ。」
ミソラ「はい。」
俺「なんだよ、それ。らしくねぇな。」
俺は部屋のみんなに謝った。拍手が起きた。みんなノリいいなぁ。

俺「にちゃんねるって知ってる?」
ミソラ「知らない。」
俺「フラッシュは?」
ミソラ「カメラ?」
俺「パソコン持ってる?」
ミソラ「無い。」
俺「そうか、説明面倒くさいな。」
ミソラ「時間はいっぱいあるよ。」
俺「喉渇いちゃった。何か買ってくるよ。」
ミソラ「私が買って来るわ。」
今日も星が綺麗だ。初めて北海道に来たときはいつも雨か霧だったのにな。女の子といると晴れるのかな?
前の彼女と来たときも見事に晴ればかりだった。

そういえば、いつも身近な人に対して怒ってしまう。両親、前の彼女、そしてミソラ。みんな俺のこと心配してくれる人だよなぁ。
やっぱ俺に原因があるんだろうな。

ミソラ「はい、どうぞ。ダーリン。」
俺「ミソラ、さっきは本当にごめんね。」
ミソラ「どうしよっかなぁ。」
俺「あのまま君が消えたら一生後悔するところだったよ。ちゃんと向き合ってくれてありがとう。」
ミソラ「じゃぁ貸しね。」
どこかで聞いたセリフだな。
俺「あぁ、つけといて。」
ミソラ「貸しの意味わかってる?」
俺「まぁわかってるつもりだけどね。」
ミソラ「どんなことでも守らないといけないのよ。」
俺「約束する。」

ミソラ「ところでさっきのパソコンの話は?」
俺「あぁあれね。パソコン使わない人に説明するのは難しいんだけど。例えば・・・ミソラは小説読んで
泣いたり感動したりするでしょ?」
ミソラ「ええ。」
俺「インターネットってわかるよね?」
ミソラ「うん。」
俺「そのインターネット上でそんな小説みたいなのが紙芝居みたいなものだったり、文章だったりで公開されているんだよ。そこでね人の命にかかわる感動した話があったんだ。それで急に祖父母が気になって、肩揉んであげたいなって思ったんだ。で、ついでにツーリングなどって感じ。」
ミソラ「いい男じゃん。」
俺「だからぁ、それは・・・」
ミソラ「さっきも言ったでしょ。みんな完璧じゃないの。あなたは自分の悪いところをわざわざ強調しているだけ。みんな欠点はあるわ。みんな隠したり、それが平気になっちゃって気づかないだけ。」

俺「じゃぁミソラは例えばどんな欠点や隠してることがある?」
ミソラ「そうねぇ。失業給付もらいつつツーリング来ていることかしら。」
俺「おいおい、俺の納めた税金無駄にしないでくれよ。ただでさえ垂れ流ししてるんだから。」
ミソラ「本当は税金納めてないんでしょ?」
俺「実は年金は納めてない。納めたら生きていけない(笑)。」
ミソラ「おぬしも悪よのう。」
俺「おぬしこそ、ふっふっふ。」
またキスをした。間があればそのたびにキスをした。どこでもキスをするようになった。
ミソラ「部屋に戻りましょ。」
俺「あぁ。」

今日は男ばかりだ。夜更かししてお茶目しているものはいないようだ。おばちゃんは食堂でテレビを見ていた。
ミソラ「おばさん、ちょっと彼と喧嘩しちゃってお話したいんだけど開いてる部屋ありません?」
俺「おい、さっき謝ったじゃん。」
ミソラ「黙ってて。」
おばちゃん「一番奥使っていいけど汚しちゃ駄目よ。掃除したばかりなんだから。」
ミソラ「ありがとうございます。」
俺「おい。」
ミソラ「奥使っていいって。」
小声で言った。
ミソラ「ドア閉めて。」
俺「まさか・・・」
ミソラ「喧嘩した後っていいみたいよ。」
俺「いいって、おま・・・」
断る理由なんてひとつも無かった。

暑い、ただでさえ小さいベッドなのに。こいつはずっとくっついていたのか?意外に甘えん坊タイプなのかもしれない。
外に出た。外のほうが涼しい。見知らぬ土地の朝ってホント気持ちいい。海外旅行に行くようになってから国内旅行が
馬鹿馬鹿しく見えてきたものだったが、今北海道で楽しい毎日を過ごしている。一緒にいられる人がいるから楽しく
感じるのだろう。それは間違いないと思う。

ミソラ「こらっ。」
俺「うぉっ、なんだよ。」
ミソラ「一人にされたら犯されるじゃないか!」
俺「あぁそうだった。ごめんな。(棒読み)。」
ミソラ「な〜んか、お兄さんぶってない?」
俺「別に意識してないけどね。」
ミソラ「私のほうがお姉さんなんだけど。」
俺「じゃぁネーチャン、どこ行く?」
ミソラ「チンピラのナンパじゃん!」
俺「もうあんまり観光できる場所無いよね、西部って。」
ミソラ「そうね。函館行って観光しようか?」
俺「うん。そうしよう。あそこならバイクですぐにうまいもん食いに行けるしね。」

俺たちは他のライダーに冷やかされつつ声援をうけつつライダーハウスを後にした。人と話すのが苦手なのは治りそうに無いが、
彼らの励ましなどを受けたことはすごく、どう表現すればいいのか、恥ずかしいのだがいいと思った。
ミソラ「じゃぁひたすら函館目指して走りましょう。」
俺「うん。昼飯もいらないや。」
ミソラ「函館でたくさん食べましょうね。」
俺「おぉ。」
キスをしてメットをかぶり俺たちは函館を目指した。

俺「ここだよ。」
ミソラ「いいの?本当に上がっちゃって。」
俺「あまり自身無いんだけど。まぁ叔母さんと妹だけだから。」
ミソラ「まぁ雰囲気見てまずそうだったら他に泊まるから。」
俺「その時は俺も一緒に行くよ。」
ミソラ「えっちしたいだけでしょ?」
俺「違うよ。」
ミソラ「したくないの?」
俺「したい。まぁいいや、入ろう。」

俺はインターホンを押す。
ミユキ「あっお兄ちゃん。こんばんはなのら〜。」
俺「これが俺の妹。好きな飲み物はウィスキーにブランデーに日本酒です。ってミユキ酒飲んでんのか?」
ミユキ「だれ?このひろ」
俺「大切な友達だよ。ミユキ、叔母さんは?」
ミユキ「はじめまりて、お兄ちゃんのいもうろれす。」
こいつ人の話聞いてねぇな。
ミソラ「は、はじめまして。」
俺「まぁ、とにかく中へ入ろう。」

と、その時後ろから声がした。
女の人「こんばんは〜。」
俺「あ、はい、こんばんは。」
見つめ合う。誰だろうこの女の人。
俺「どちら様でしょうか?」
女の人「あっ、もしかしてお兄さん?」
俺「あっ、はい、お兄さんです。」
女の人「彼女の担任の中山京子といいます。はじめまして。」
俺「あ、はい、はじめまして。でも何で先生がここへ?」
先生「彼女、最近時々落ち込んだりするんです。ずっとそんなこと無かったのに。それにご両親が家にいないって言うし。」
俺「えっ、叔母さんいるはずだけどなぁ。」
ミユキ「あっ、京子ちゃんら。待ってましらぁ。」
先生「あ、やっと学校終わったわ。待たせたわね。ってあんたお酒飲んでるの?」
ミユキ「みんら〜京子ちゃんきらよ〜。」
俺「みんな?」
女の子A「先生お疲れ様〜」
女の子B「あっもしかしてお兄さん?はじめまして。うわぁなんていうか、予想と全然違う〜」
なんだこの失礼な女の子は?
女の子A「こっちの綺麗な人は誰ですか?」
俺「あ〜、とにかく家の中入ろう。わけわからんわ。」

先生「ミユキ!お酒なんか飲んじゃだめじゃない!」
ミユキ「らってれいろうこにあったんらもん。」
先生「ご両親の勝手に飲んじゃだめでしょ。」
ミユキ「うちはられものまらいよ。」
先生は俺を見た。
俺「そういえば、買った記憶があるような・・・」
先生「駄目じゃないですか!未成年がいるのに!」
俺「はぁ。」
先生「あなたが保護者の代わりしているんでしょ?」
俺「別にそういうわけじゃ・・・」
先生「ミユキに聞いたんですよ。ご両親旅行だからお兄さんが来てくれてるって。」
俺「いや、出かけるからミユキには叔母さんに帰ってくるように電話しろって・・・」
先生「とにかく、もっと責任持ってください!!!」
俺「はぁ。」
何でこの年で怒られなきゃならないんだ。しかもこの人たぶん俺より年下だぞ。
ミユキ「きゃはは、お兄ちゃんおこられれるぅ。」
俺「ミソラ、ちょっとこいつ上に連れて行ってくれないか。」
ミソラ「うん、わかった。」

状況が掴めて来た。ミユキの友達たちは時々泊まりに来るそうだ。先生は心配になって
来てくれたという。生徒との仲はすごく良さそう。ミユキは叔母さんには連絡していなかったようだ。
少しの間とはいえミユキをこの家に一人ぼっちにさせていたことがわかった。

皆で簡単に自己紹介をした。
中山京子:ミユキの担任。27歳。よくいる先生だ。お洒落とかあまり興味なさそう。
鈴元雅:ミユキの友達。可愛さはミユキクラス。
高嶺やよい:ミユキの友達。メガネっこ。普通に可愛い。
そして、俺も簡単に自己紹介した。ミソラが降りてきた。
ミソラ「無理やり寝かしたわ(笑)。」
俺「おいおい、みぞおちにパンチ入れたりしてないよな?」
ミソラも自己紹介した。落ち着いて来たらお腹が減ってきた。
俺「そういえばお昼食べて無かったね。」
ミソラ「死にそうだよ。」
先生「じゃぁ夜ご飯作りますよ。そのために買い物もして来たんだし。」
俺「いや悪いですよ。」
先生「どうせ作るつもりで来たのだから悪いも何も無いですよ。雅、やよい、一緒に作るわよ。」
雅・やよい「え〜。」
先生「家庭科の評価上がるかもよ?」
やよい「あっ、私やる気出てきた。」
雅「私も〜。」
ミソラ「私も手伝います。」
先生「ずっと走ってきたんですよね?休んでいてください。それに4人も台所に入れないですよ。」
ミソラ「じゃぁお言葉に甘えて。」

ミソラ「何だか楽しいわね。」
俺「まぁ、そうだけど。ミユキを一人にしてしまっていたなんて心が痛むよ。」
ミソラ「ちょこっとだけお話ししたけどいい妹さんね。あなたとの関係聞かれたわよ。」
俺「腹減った。」
なんだかミユキへの気持ちを見透かされているようで咄嗟に話を逸らした。
ミソラ「私明日には帰るわ。」
俺「そんな急がなくてもいいんじゃない?」
ミソラ「急いでいないわ。十分楽しんだわ。アキヒロとも会えたし。」
俺「これで最後じゃないよね?」

ミソラ「もちろんよ。横浜行ったらまた会いましょ。」
ミソラはキスをしてきた。さすがにコレには焦った。周りにいるのはまったくの他人ではなく身近な人だからだ。
俺は台所を見た。どうやらこちらには気づいていないらしい。
俺「ここでやるのはまずいって。」
ミソラ「ちょっといじめただけよ。」
俺「おれってからかいたくなるキャラなのかなぁ。」
ミソラ「そう言われるとそうかもしれない。」
俺「俺ってさ、イジメっていうのはあった事無いんだけど、からかわれることはしょっちゅうなんだよね。親とか兄貴からとかも。
あっ、別に陰湿なやつじゃないよ。ライトなやつなんだけど。でも子供の時はそれで泣いたりしてたなぁ。」
ミソラ「相手にしちゃうからじゃない?」
俺「たぶんそんなような気がする。でもさ解ってもらいたくて必死に説明したりしちゃうんだ。ドンと構えていればいいのに、言い訳がましく必死に誤解を解こうとするから逆に信用とか得られない・・・のかな?とか思う。何かあると真っ先に疑われるタイプなんだ。俺って。」
ミソラは黙って俺を抱いてくれた。
俺「なんだか安心するよ、ミソラに抱かれてると。」

先生「はいはい、そういうのは生徒の前ではやめて頂けますか?」
しまった。見られた。でも、どうやら彼女たちには見られていないようだった。
ミソラ「ごめんなさい。」
先生「テーブルの上片付けますよ。」
ミソラ「あっ、そのくらいやります。ほらっアキヒロ。手伝って。」
俺「あ、うん。」

まるでクリスマスパーティだった。次々とおいしそうな料理が運ばれてくる。早く食べたい。
ミソラ「ミユキちゃん起こしてこないとね。」
俺「あ、俺起こしてくる。」
俺は2階へ向かう。なんだか奇妙な感じだ。ミユキに女を感じ、いったんは家を出た。今はミソラを連れて帰ってきた。
そういえばミソラはミユキに俺たちの関係をなんと話したのだろう。
俺「入るよ。」
返事が無い。俺はそっとドアを開けた。寝ていた。少しの間寝顔を見つめていた。
俺「おい、ミユキ。夜ご飯だよ。」
ミユキ「う〜ん、あまりお腹空いてないよ。」
俺「眠いのか?」
ミユキ「そうでもない。」
俺「じゃぁご飯みんなで食べよう。」
ミユキ「うん。あっ、お兄ちゃん。」
俺「何?」
ミユキ「お帰りなさい。」
俺「あ、うん。ただいま。」

1階ではもう準備が出来ていた。皆座る。
先生「じゃぁ、夏休み突入に乾杯!!」
「かんぱ〜い!」
俺「夏休み?」
先生「私はまだ仕事あるんですけどね。」
雅「先生今年こそ彼氏できるといいですね〜。」
やよい「ホント、ホント先生だけだよ。彼氏いないの。」
先生「はい、やよいは生活態度0ね。かわいそう。大学行けないわね〜。」
やよい「きゃぁーごめんなさい。ごめんなさい。」
何なんだこのノリは。いやまて、こいつら皆彼氏がいるのか。こんなあどけない顔して。

ミユキ「ミソラさんはお兄ちゃんのこと好きなの?」
ミソラ「ええ、好きよ。」
ミユキ「キスした?」
ミソラ「内緒。」
ミユキ「私はしたよ。」
何この爆弾娘。しかし、俺だけ輪に入れない。男同士の輪には入ろうとしないのに、女同士の輪に
入れないと悲しいのは何でだろう?俺は空きっ腹にどんどん詰め込んでいった。

先生「お兄さん!」
俺「はい、何でしょう。」
先生「お友達にいい人いない?紹介してよ。」
このアマ自分はビール飲んでいいのかよ!すっかり出来上がってるよ。
俺「友達いないんで。」
先生「え〜!ミユキはたくさんいるのに。」
俺「アニメ好きなロリコンオタクとか、いつも遅刻する風俗通いの男とか、無趣味のケチ男とかなら同僚にいますんで紹介できますよ。」
先生「うわっ全部却下。顔は普通以上で、年収は最低でも700万くらいは欲しいわね。お兄さんは年収どのくらい?」
俺はミソラをちらっと見た。ミユキと会話している。姉と妹みたいだ。仲良さそうに見える。
俺「年金払うと暮らしていくのが困難になるくらいです。」
先生「ホントにミユキのお兄さん?」
俺「まぁ従兄という意味でお兄さんです。」
雅「先生お見合いしたら?玉の輿乗れるかもよ?」
やよい「でも会話してたらボロが出そうな気がする。」
先生「ますます推薦の道が遠ざかったわね。かわいそうなやよいちゃん。」
やよい「ひぇ〜。冗談ですぅ。でも先生スタイルだけはいいんだからホントうまく行くって。」
先生「だけ?」
雅「やよい、もうあんた黙ってなよ(笑)。」

ミユキ「えっ、お兄ちゃんにナンパされたの?」
ミソラ「そうなの。しつこくケータイの番号教えろだのメアド教えろだの。参ったわ。」
ミユキ「へぇ〜。お兄ちゃんってナンパとかできないように見えるけどな。」
俺「ミソラ、嘘教えるなよ。」
ミソラは華麗にスルーする。
ミユキ「お兄ちゃんのどこが好きなの?」
ミソラ「あなたはアキヒロのどこが好きなの?」
ミユキ「えっ?別に。」
ミソラ「好きじゃないの?」
ミユキ「好きだってば。じゃぁミソラさんは?」
ミソラ「そうね、私にだけ秘密話してくれるわ。ミユキちゃんも知らないこと。」
何この挑発的な会話。
ミユキ「む〜。お兄ちゃん!」
俺「何?」
ミユキ「お兄ちゃんはミソラさんと私どっちが好きなの?」
俺「どっちって、どっちも大切だよ。それにミユキには彼氏いるんだろ?」
ミユキ「いない。」
俺「えっ?」

やよい「お風呂〜!!!」
今度は何だ?
雅「ミユキ、そろそろ皆で温泉行こうよ。」
ミユキ「もうそんな時間か。じゃぁ準備しようか。」
3人は2階へ上がり、先生は自分の荷物をごそごそやっている。俺とミソラは外に出た。
俺「ミソラの下着とかこっちだっけ?」
ミソラ「いや、こっち。ブラ勝手にかぶられても困るからね。」
俺「何言ってんだよ。ちゃんと許可取ってからかぶるって。」
ミソラ「楽しいわね。」
俺「えっ?」
ミソラ「こんなに楽しい雰囲気は久しぶり。ミユキちゃんはいい女になるよ。」
もうすでにかわいすぎるんだけどな。
俺「君みたいになるのかな?」
ミソラ「わからないわ。はい、準備OK。」

変な感じだ。女子高生3人を含む女5人と "うだつ" の上がらない男が1人。俺は会話に入れずに
後ろからついて行く形となった。これはどう見てもストーカーの構図だ。やっぱ輪の中に入るのって
難しいな。
雅「ねぇお兄さん。私のこと覚えてますか?」
ミユキの友達のうちしっかりした方の女の子が話しかけてきた。
俺「今日始めて会ったんだよね?」
雅「私お兄さんにメールも電話もしましたよ。」
俺「あぁ、君だったんだ。メールありがとね。」
やよい「お兄さん、お土産まだもらってないよ。」
あ〜、この子かあのメールよこしたのは。
雅「あっち行ってなさい。」
彼女は続けた。
雅「ミユキね、いつもお兄さんのこと話すんですよ。」
俺「へぇ、そうなんだ。」
雅「私付き合い長いからわかるんですけど、ミユキお兄さんに惚れてますよ。」
俺「へ、へぇ、そうなんだ。」
やばい、何だこの展開は。

今日は1時間後に集合ということになった。俺は1人でつまらなかった。湯船に浸かって5人の様子を妄想した。
俺は湯船から出られなくなったことに気づいた。いろいろ考えていると時間の経つのも早い。俺は先ほどの会話を
思い出していた。ミユキが言ったひとこと、彼氏は"いない"。俺は少し早めに上がった。

しばらくすると5人が一緒にやってきた。ミユキが手を振っている。俺たち6人は畳みの上でくつろいだ。
俺は皆に飲み物を買ってこようとしたが一身上の都合によりそれは不可能になってしまった。皆レベル高すぎ。
なので、ミソラに買ってきてもらうことにした。そのうちミユキがしゃべりだした。

ミユキ「お兄ちゃんねぇ、寝ているときに勝手にキスするんだよ〜。」
やよい「きゃ〜危険〜。襲われたらどうしよう?お嫁に行けないわ〜。」
雅はくすくす笑っている。先生の顔はこわばっていた。
先生「お兄さん・・・」
俺は遮った。
俺「すみません。もうしません。ちょっと寝顔がかわいかったから。すみませんでした。」
この変な集団は周りからの視線が熱い。たとえ俺がいないとしてもこれだけの上玉(でいいのか?)が集まっていたら
誰だって振り向くだろう。俺は心地よかった。

ミソラ「はい、好きなの選んで。」
ミユキ「あっ、これお兄ちゃんの好きなやつだ!前も2人の時に飲んでたよね?」
ミソラ「どれ?」
ミユキは"25時間がんがれますか?"を指差した。
先生「お兄さん、ミユキはまだ高校生・・・」
俺「先生考えすぎですって。これ普通の人だって飲むんだから。ねぇミソラ?」
ミソラ「へぇそうなの?あなたがコレ飲むと体中に元気が漲ってやる気満々になるぜ、とか言ってたから買ってきたのよ」
嘘ついてんじゃねぇ。自分のためだろ〜。
しかし、結局残り物は"25時間がんがれますか?"だった。俺はしょうがないのでそれを飲むことにした。
やよい「ますます今夜は危険ね。」
俺を見ながら吹き出しそうに言った。
ミソラ「気をつけたほうがいいわよ。私も何度危険な目にあったことか。」
この演技派め。
先生「やっぱ今日は帰ろうかしら?」
お前は狙ってねぇよ!
雅「かわいそうなお兄さん。私は味方よ。」
この子はやさしい子だ。
ミユキ「私もお兄ちゃんの味方だよ。」
お前が火種を蒔いたんだよ。こいつめ。

ミユキ「京子ちゃんおっぱい大きいよね〜。」
ミユキだけは先生を名前で呼ぶらしい。
先生「こらっそういうこと言うのはやめなさい。」
やよい「ホント、ホント、着やせするタイプっていうの?羨ましいわぁ」
先生はまんざらでもないようだ。
雅「私も頑張らなきゃ。」
何を?
やよい「ミソラさんのくびれも見事だったわ。ミロのビーナスね。」
そろそろ周りの視線が熱くなって来た。
俺「体が温かいうちに帰ろう。」
俺は洗面具を前に持ち一番最後に立ち上がった。

家に着いた。居間でまたおしゃべりが始まった。女の子ってこういうの永遠に続けられるんだろうなって思った。
12時を過ぎた。先生の一言で寝ることになった。しかしながら俺は"第一級危険人物"として1階に隔離されることとなった。
まぁでもこれは"想定内"だ。疲れていたのもあって2階の騒ぎも気にせずに寝てしまった。

なんだか重い。
俺「わっ!」
ミソラが乗っていた。
ミソラ「し〜。」
俺「もしかして・・・」
ミソラ「そのもしかして。」
俺「やばくない?」
ミソラ「もし今私がこのまま2階に戻っちゃったら?」
俺「いやだ。」
ミソラ「正直でよろしい。」
音を立てないようにそれでいて夢中に激しく、最後の夜というのも手伝ってすばらしい夜だった。

朝になった。また6人でテーブルを囲み楽しい食事を取った。寝ぼけているミユキとやよいは意外にポイント高い。
雅はなんというか親の教育が良かったのだろうか、振る舞いに隙が無い。2人のボケを暖かく見守ってそうな子だ。
先生は意外と家庭的、料理はうまい。まぁ結婚の心配はなさそうだ。ミソラは昨晩のことなど微塵も感じさせない。
大人だなぁって思う。先生はちゃんとミユキの世話をするよう俺に軽く説教し、学校へと向かった。

俺「ミソラを送ってくるけど皆の予定は?」
やよい「ドライブ!」
俺「もう誰か免許持ってるの?」
3人揃って俺を指差す。俺はミソラを見た。
ミソラ「遊んであげなさいよ。」
俺「じゃぁ大人しく待ってるんだよ。」
「は〜い!」

俺「出航は何時頃?」
ミソラ「まだ1時間はあるわ。」
俺「じゃぁ話でもしようか。」
ミソラ「ホント楽しかった。あなたに会えて良かった。」
俺「なんだかこれで終わりのように聞こえるんだけど。」
ミソラ「心配?」
俺「当然だよ。ミソラがいなかったらまた、う〜ん、難しいな、とにかくお前と一緒だと生活に潤いが出るっていうか、生きているって感じもするし、何でも言えるし。本当は男がこういう立場になるべきなんだろうけど、頼れるっていうか安心できるっていうか、とにかく必要な存在だよ。」
ミソラ「好きな人ができれば誰にでもそう思うんじゃない?」
俺「それは違うと言い切れるよ。前の彼女とはすれ違いがあっても冷静に話なんかできなかったし、精神的に深い部分まで晒しもしなかったし、相談もできなかった。ミソラに対しては信頼がある。」
ミソラ「私もあなたのこと好き。それと、私は意外に嫉妬深いわよ。ミユキちゃんもライバルよ。」
俺「ミユキはまだ子供だよ。」
ミソラ「ホント嘘は顔に出るのね。あなたの気持ちもわかるのよ。」
俺「・・・」

ミソラ「信頼は本当に大事。あなたはまだ自分と私とが不釣合いだと思ってる?」
俺「うん。」
ミソラ「私があなたに対して100パーセントの信頼を感じたとき、私はあなたを追いかけるわよ。」
俺「どういうこと?」
ミソラ「前にも話したでしょ。顔や金や地位でも権力でも無い。本当に理解できて好きになったら、
美人は野獣を追いかけるってこと。あなたはこんないい女に追いかけてもらえるのよ。」
俺「ミソラの俺に対する信頼は何パーセント?」
ミソラ「100ひく "あなたのミユキちゃんへの想い" かな。」
俺「俺はどうすれば・・・」
ミソラ「あなたの行動に対する責任はあなたが負うの。あなたの決断があなたの人生なの。」
俺「俺に言ってくれよ。ミユキと一緒に住むのは止めろって、函館に留まるのは良くないって。
ミソラが言ってくれるなら俺はそれに従う。」
ミソラ「ごめんね。それはできない。」
また雲行きが怪しくなって来た。俺は元気に彼女を送り出し、横浜に戻ったら楽しい日々が始まる。
そういうはずだった。
ミソラ「ちょっと売店行って来るね。」
俺「あぁ。」

俺はミユキの事を考えた。雅が言うには俺を男として見ているようだ。"彼氏がいない"という昨夜の発言も気になる。
付き合うことができたとしても結婚には両親や親戚の目がある。いとこ同士の結婚は合法だが倫理的にはあまりよく思われていないのも事実。たとえ大人だからと言って勝手に結婚してミユキと家族との間に確執が生じても困る。
彼女を困らせることはしたくない。
そしてミソラについて考えた。彼女のような俺のマイナスを中和してくれる人間はまず、今後は現れないであろう。
自信の無い俺にいろいろアドヴァイスをくれたし、生きる楽しみもたくさん教えてくれた。そしていつもの汚い俺が表面化した。
"ミソラと付き合えば、たとえ別れてもミユキがいる。逆は難しい。" 単純な論理だ。ミソラは、人は欠点や汚い部分を誰だって持っていると言う。でもこんなひどい考えを持っている人間がまともな人間と言えるのだろうか?女を予備や保険として考えるなんて・・・益々混乱する。こんな時頼りたいのはミソラだ。だが当の本人は関知しないと言う。まぁ当然と言えば当然だ。
どうやって判断し、解決すれば良いのか俺にはわからなかった。

ミソラ「はい、元気出して。」
俺「またコレか。」
ミソラ「でもコレのおかげで昨日は楽しめたでしょ?」
俺「からかわれるターゲットになっただけじゃん。」
ミソラ「その夜楽しんだでしょ。」
俺「まぁ、うん。そうだった。」
ミソラ「雨の日の老婆の話。」
俺「うん。」
ミソラ「どちらを選ぶべきかわからない問題なんて腐るほどあるよ。正解も無いしね。難しいのはわかるわ。」
俺「俺が今考えているのは、俺が結論を出したとして・・・」
ミソラ「うん。それで?」
俺「それが正しいのか、間違っているのか、どう判断するんだ?そして正しい判断は俺を幸せにできるのか?
どんどんわからなくなって行くよ・・・。ミソラを失いたくないことは確かなんだ。」

ミソラ「・・・そろそろ行かないと。そうだ、コレあげる。」
俺「何コレ。ガム?」
ミソラ「うん、あげる。」
俺「まだ封切ってないじゃん。」
ミソラ「お礼ちょうだい。」
俺「お礼?」
俺は宗谷岬でのキスを思い出した。
ミソラ「10枚くらい入ってるんだから、気合入れてよね。」
俺「俺のはすげーよ?」
ミソラ「そうそう、かなりしつこいよね。あっ・・・」
俺たちは出航ギリギリまでキスをした。ミソラも俺も泣いていた。何に対する涙かはわからない。
ただただ泣きながらキスをした。

俺は少しの間呆然としていた。また会えるのか不安で仕方なかった。そういえば住所を聞いていない。
わかるのはメアドとケータイの番号のみ。再び相見えることができるのであろうか?

俺「ただいま。」
「おそ〜い!」
俺「ごめんね。ところでどこ行きたい?」
やよい「ゴルフ!」
雅「五稜郭。」
ミユキ「ディズニーランド!」
ナイスコンビネーションだな。こいつらは。
俺「じゃぁ五稜郭行こうか。その前にはこだてどっくあたりで昼飯にしよう。いい?」
「は〜い。」

女子高生3人を連れたおっさんは五稜郭の散歩を終えた。みんな車に乗った。
ミユキ「じゃぁねまずは、やよいちゃんち。」
俺「は?」
ミユキ「やよいちゃんを家に送るの。」
俺「今日も泊まるんじゃないの?」
ミユキ「お兄ちゃんが帰ってくるまでの約束だから。」
俺「そっか。じゃぁ行こうか。俺はナビにやよいの住所を入れた。」

ほ〜。なかなかいいお家だ。この子もやはりお嬢様だったのか。
ミユキ・雅「バイバイ。」
やよいは手を振っている。今度は雅の家に行く。
こ、これは。これもまた。すごい。京都にありそうな日本家屋だ。まぁイメージ通りではある。
雅「ありがとうございました。」
ミユキ「じゃぁまたね〜。」
雅「ミユキ泣かせないでくださいね。」
小声で彼女は言った。

俺「また2人になったね。」
ミユキ「うん。」
俺「いい友達だね。」
ミユキ「うん。」
俺「もう暗くなっちゃったね。」
ミユキ「うん。」
俺「他にもなんとか言えよ。」
ミユキ「お帰りなさい。」
俺「それはもう聞いたよ。ところで叔母さんに電話しなかったんだって?」
ミユキ「うん。」
俺「1人で寂しかったろ。」
ミユキ「うん。」
少し肩を震わせ、ミユキはまた泣いた。溜め込んでいたもの全てを吐き出すように泣いた。車を路肩に停めた。

俺「ごめんね。俺の心が弱すぎたんだよ。」
ミユキ「・・・」
俺「正直に話すから俺のこと・・・軽蔑したり、嫌いにならないで欲しいんだ。ちゃんとミユキの疑問にも答える。
だから・・・その、つまり俺はミユキとは仲良くしていきたいから。」
ミユキ「うん。」
俺「ミユキは俺にとってのたった一人の妹なんだけど、その・・・ひとりの女の子としてもすごく魅力的なんだ。」
ミユキ「・・・」
俺「ふ〜・・・・で、一緒にミユキと過ごすうちにミユキを自分のものにしたいって思ったんだ。・・・話止めようか?」
ミユキ「続けて。」
俺「でもミユキを自分に振り向かせるためにはハードルが多すぎたんだ。その上、あの日・・・」
ミユキ「お兄ちゃんが家をでる前の日。」
俺「あぁ、その日にゴールまで消えたんだよ。ハードルが多い分にはいいんだ。ただゴールが無いとハードルを
越す意味が無くなる。」
ミユキ「やさしいお兄ちゃんって言ったこと。」

ちゃんと覚えてたんだ・・・
俺「そう、今思うともうその時には妹というよりも女として見ていたんだ。俺にはミユキを手に入れることができない。
しかも妹として接することも辛くなった。それで・・・」
ミユキ「彼氏はいないよ。」
俺「?」
ミユキ「何人か付き合ってみたけどつまらないの。みんなえっちすることばかり考えてるし。平気で嘘つくし!
友達といる方が楽しいよ。」
俺「・・・」
ミユキ「ただ見栄張りたいから友達には別れた事言ってないだけ。」
俺「お前が見栄張りたいなんて意外だな。」
ミユキ「普通の女の子だよ。」
ミユキは俺の目をしっかりと見つめた。
ミユキ「お兄ちゃんはミソラさんとえっちしたの?」
俺「・・・」
ミユキ「どっち?」
俺「した。」
ミユキ「二人は付き合ってるの?」
俺「・・・俺もわからない。見送りで彼女といろいろ話した。彼女は俺のミユキに対する感情を見抜いてた。
俺がミユキを想う限り彼女とは完全には結ばれない。そんな話をした。」
ミユキは外を見ながら言った。
ミユキ「お家帰ろ。」
俺は無言で車を発進させた。こんなに辛い話をしていても、車窓から見えるのはいつもの綺麗な夜の函館だった。
途中ガソリンスタンドで給油している最中もミユキは一言もしゃべらなかった。

俺「さぁ着いたよ。」
ミユキ「・・・キスして。」
俺「からかってるのか?」
ミユキ「私が求めたらおかしいの?自分からはするくせに!!!」
ミユキの目を見つめた。涙は浮かべていない。覚悟を決めた目だった。そしてひとりの大人としての雰囲気があった。
俺「本気にするからな!」
俺はキスをした。ミユキが"他の男とはして欲しくないような"キスをした。俺が与えることのできる最高のキスをした。

次第に車の走る音や近所の犬の鳴き声が耳に入り始めた。ミユキは泣いていた。
俺「なんで泣くの?」
ミユキ「ふふっ、うれし泣きだよ。」
俺「そうか、ミユキはすぐ泣くからいつも心配だよ。」
ミユキ「これからもっと心配させて上げる。」
俺「やっぱおまえは小悪魔だよ。」
ミユキ「私ね、ミソラさんには負けないから。ミソラさんは尊敬できる人だけど恋愛においてはライバルなんだから。
負けないからね!」
・・・
ミユキ「お兄ちゃん麦茶飲む?」
俺「あぁ、ちょうだい。」
結局俺の選んだ道はなんだったんだろう。ミユキとキスをしたことはイコールミソラを手に入れることはできないということだ。
自分の心に正直に生きろってよく言われるけど、それに従うならミユキもミソラもどちらも欲しい。二人に愛情注ぎ、
二人から愛情を受けとる、これはいけないことなのか?
ミユキ「お兄ちゃん、お風呂いこ。」
目の前に俺を慕ってくれる女の子がいる。絶対に失いたくない。これは真実だ。
俺「ミユキ。」
ミユキ「なぁに?」
俺「好きだよ。」
ミユキはニコッと笑った。

ミユキ「お兄ちゃん、キス。」
俺「ここで?」
ミユキ「前は突然ここらへんでチューしてきたよね?」
俺「まぁ、したけどさ。」
ミユキ「してくれなかったら、泣いちゃうよ。」
俺「ミユキあれなんだろう?」
ミユキ「えっ?」
ほっぺたにキスした。
俺「OK?」
ミユキ「ずる〜い!」
俺「家に帰ったらちゃんとしたやつしようね。」
俺はミユキに微笑んだ。ミユキも幸せそうな顔をする。

俺「じゃぁ・・・」
ミユキ「45分後ね。」
俺「そう、それ。」
ミユキ「また後でね。」
俺「ああ。」
俺は今夜のことを考えていた。2人きりだ。前と違うのはお互いの距離。ミユキの兄たちや叔父さん、叔母さんのことを考えていた。
もしそんなことになったら、皆はどう思うだろう。俺がミユキの本当の家族だとしたらミユキにたかる男は全て排除したくなるはずだ。
でも俺は家族じゃない。ただの従兄だ。ミユキは欲しい。確執は生みたくは無い。とにかくハードルは高いしいくつもあるが、ひとつひとつ解決して行くしか無いだろう。

ミユキ「はい、どうぞ。」
俺「コレは・・・」
ミユキ「お兄ちゃんの大好物。」
俺「・・・」
ミユキ「どうしたの?」
俺「いや、ありがとう。」
俺は例のドリンクを飲み干した。特に好きでも無いのに毎日飲んでいるような気がする。ミユキはいつものやつを飲んでいる。
っていうかミユキはわざとコレを買ったのだろうか?

俺「ミユキと俺が並んで歩いていると周りからはどういう風に見えるのかなぁ?」
ミユキ「若いパパと娘。あとは・・・ふけたお兄ちゃんと妹。」
兎にも角にも、ミユキから見て俺がかっこいいお兄さんでは無いであろう事はわかった。
俺「俺がいる間は叔母さんは帰ってこないの?」
ミユキ「たぶんね。」
俺「ミユキはさ、俺と初めて2人きりの夜を過ごした時、つまり石川啄木の墓行った日の夜なんだけど、
男と2人きりっていうのは何も感じなかったの?」
ミユキ「・・・別に。」
俺「叔母さんは何で俺をそんなに信用できるんだろうね?」
ミユキ「知らない。」
俺はふと気づいた。叔母さんが叔父さんのところにステイしているということは、叔父さんも俺がミユキと
一緒に暮らしていることをもちろん知っているはずだ。叔父さんまで俺のこと信頼しているのか?それとも
娘のことはあまり興味が無いのだろうか?俺がその日暮らしみたいな仕事をしていることも、独身だということも、
頼りない男だということも知っているはずだ。いとこという関係に男女の関係は無いと信じ込んでいるのであろうか?
また不安が増えてしまった。不安を少しでも消すためにミユキの手を握った。ミユキは体を寄せてきた。
俺「・・・夜ご飯は何がいい?」
ミユキ「お兄ちゃんは何がいいの?」
俺「ミユキが作ってくれるなら何でもいいや。レパートリーある?」
ミユキ「スーパー行こうよ。そこで決めよ。」
俺「うん、そうだね。」

ミユキ「おいしい?」
俺「うん、すごくおいしい。いいお嫁さんになれるよ。」
ミユキ「ねぇ、お兄ちゃん。」
俺「何?」
ミユキ「いつ帰るかまだ決めてないの?」
俺「・・・うん。」
そうだった。ミユキは北海道で学校に通う、俺は横浜で仕事をする。今は偶々二人の休みが一緒なだけだった。
その時玄関に物音がした。
「ただいま〜。」
ミユキ「お母さん・・・何で?」
俺「お、お帰りなさい。」
叔母さん「ミユキ、アキヒロ君困らせたりしなかった?」
俺「そんなこと全く無いから。ミユキはしっかりしてるよ。」
ミユキ「お父さんはいいの?」
叔母さん「大丈夫よ。それよりミユキ、お母さんもお腹空いちゃった。私も食べるから用意して。」
ミユキ「うん。」
俺「麦茶は?」
叔母さん「貰おうかな。」

叔母さんはお皿を洗ったりしている。俺とミユキはソファーに座った。
俺「お母さん帰ってきて良かったね。」
ミユキ「・・・」
俺「どうしたの?」
ミユキ「お部屋いこ。」
どうしたんだろう?ミユキは机に向かったまま黙っている。
俺「どうしたの?考え事があるなら出て行こうか?」
ミユキ「行かないで!」
俺「わかった。」

相変わらずミユキはじっとしたままだ。しょうがないので、俺は久しぶりにジョジョの続きを読むことにした。
しばらくするとノックの音がした。
叔母さん「はい、差し入れ。あれ?勉強しているんじゃなかったの?アキヒロ君漫画なんて見てないでミユキに
勉強教えてあげてね。この子ずっとアキヒロ君のこと・・・」
ミユキ「お母さん!」
叔母さん「そうだ、お風呂入らないと。アキヒロ君覗いちゃ駄目よ?」
俺「は、はぁ。」
叔母さん「じゃね、ミユキ。」

また静寂が訪れた。俺はまたジョジョを手に取ろうとした。ミユキはそっと近づき抱きついてきた。
ミユキ「帰っちゃやだ・・・」
俺はミユキを抱き返す。
俺「俺だって帰りたくないよ。でも仕事しないと生きていけないしさ。このまま休んだらクビになっちゃうよ。」
ミユキ「こっちで働けば?」
俺「そんな簡単にはいかないよ。」
ミユキ「お兄ちゃんと一緒に行く。」
俺「アホか、学校はちゃんと卒業しろ。」
ミユキ「違うよ。ディズニーランド行こ。」
俺「あれ?ホントに行きたかったの?」
ミユキ「うん。」
俺「でも一緒には行けないよ。」
ミユキ「何で?」
俺「悲しそうな顔するなよ。ただの冗談だよ。俺はバイクだから無理ってこと。あっちで待ち合わせしような。」
ミユキ「いじわる。」
俺「ミユキいじめると楽しいよ。」
ミユキ「む〜。」
俺「そういうかわいいとこ見られるからね。」
ミユキ「東京の大学合格したら一緒に住みたい。」
俺「ちゃんと考えているのか?」
ミユキ「何を?」

俺「俺とお前はいとこ同士だよな?たしかに仲が良ければ一緒に暮らしても不自然じゃぁないだろう。
でもミユキは女で俺は男。もうすぐ30歳にもなろうっていう独身男の家になぜか場違いなかわいい
女子大生が一緒に住む・・・ミユキの家族、俺の家族みんなどう思う?」
ミユキ「私だってもう大人だもん。責任取れるよ。人のせいにしないよ。」
俺「いや、法律上は問題ないし、世間一般で非難を浴びるほどのことでも無いと思う。ただ誰でも簡単に
容認できるような関係じゃぁ無いんだ、俺たちは。わかるか?」
ミユキ「一緒に住みたくないの?」
俺「違うって。周りの協力が必要なんだ。家族の反対押し切って結ばれても常に家族に対して負い目を
感じるんだよ。ミユキはお兄ちゃん達好きだろ?家族と仲が悪くなったらどうだ?」
ミユキ「もうばらばらもん・・・」
俺「えっ?」
ミユキ「ううん、でもお兄ちゃんの言うことは理解できたよ。」
少し重くなった。ミユキは全体重を俺に預けた。そしていつの間にか眠っていた。俺はミユキを抱いたまま
部屋の隅のぬいぐるみを見ていた。

ふとノックの音がして叔母さんがドアから中を覗いた。少し間を置き言った。
叔母さん「大事な娘なんだからね。行動には責任持つのよ。」
俺「はい。」
いつもは叔母さんとはざっくばらんに話すが、返事は丁寧に答えた。叔母さんはこんな状況を予想していた
ようだった。俺はミユキをベッドに寝かせ部屋を後にした。

1階に降りると叔母さんがテレビを見ていた。俺も近くに腰掛けた。
俺「ミユキは東京に出たいって言ってるけど叔母さんはどう思うの?」
叔母さん「近くにいて欲しいけど、あの子がやりたいって言うことを頑なに否定することはできないわよ・・・。
アキヒロ君と住みたいって?」
俺「・・・えぇ。」
叔母さん「先のことはわからないわ。ただあの子が幸せになる選択肢なら私は止めることはできない。」
叔母さんは疲れているように見えた。こんな叔母さんは初めてだった。
叔母さん「そういえばアキヒロ君はここで寝るんだったね。ミユキは一緒に寝たがらないの?」
俺「ずっと別々で寝ていました。」
時々敬語になってしまう。
俺「まだ眠たくないからテレビ見ててもいいよ。ミユキの部屋で漫画読んでるから。」

俺は2階へ行きそっとドアを開けた。ミユキは寝ている。しばらくミユキの寝顔を見ていた。幸せなはずなのに
胸が苦しかった。ミユキのケータイのLEDがピカピカと綺麗に光っていた。俺はふと自分のケータイを見た。
俺のケータイも安っぽい光が点滅していた。雅とやよいからのお礼メールだった。二人ともいい子だ。
ミユキとずっと友達であって欲しい。先生からも入っていた。俺は先生に叔母さんが帰ってきたことを
返信しておいた。俺はそのままミユキの部屋の床で眠ってしまっていた。

朝、叔母さんに起こされた。今朝は元気だった。いつもの叔母さんだった。朝食は3人でテーブルを囲んだ。
ミユキ「お母さん、お兄ちゃんとディズニーランド行って来ていい?」
叔母さんはちらっとこちらを見た。
俺「実家に泊まればいいよ。父ちゃんと母ちゃんしかいないし。部屋も余ってるし。叔母さんも来たら?」
叔母さん「そうねお兄ちゃん(俺の父ちゃん)にも全然会ってないから行こうかな。」
俺「それとさやっち兄たちにも会ってきなよ。気分転換になるんじゃない?」
昨日の叔母さんの疲れた顔が思い出された。たぶん何かしらあったんだと思う。
俺「じゃぁ決まりね。じゃぁ叔母さん父ちゃんに電話しておいてね。」

ミユキと俺は部屋に戻った。
ミユキ「やったね。お兄ちゃんとデートだよ。」
俺「ディズニーランド以外に行きたいところある?」
ミユキ「横浜散歩しよ!」
俺「いいね、中華街とか行こうか?」
ミユキ「どこでもいいよ。一日中歩きたい。」
俺「じゃぁ俺は一足先に帰る準備しないとな。フェリーだと時間かかるし。」
ミユキ「寂しいな。」
俺「すぐに会えるだろ?そうそう、うちの両親には俺たちの仲は秘密だからな。」
ミユキ「何で?」
俺「普通の日本人だからな。普通以外のものを嫌う傾向にあるんだよ。」
ミユキ「もうちょっと簡単に言ってよ。」
俺「いとこ同士の男女関係は良くないと思う人たちだからってこと。」
ミユキ「は〜い。」
俺「宿題とかは大丈夫?」
ミユキ「3年生にもなると宿題はほとんど無いの。それにこの前やよいちゃんの写したから。」
俺「彼女は勉強できるの?なんか意外だな。」
ミユキ「完璧ってやつ?でも運動は普通。私が一番運動神経いいよ。」
俺「だろうな。雅は?」

ミユキ「私と同じくらいかな。でも勉強してないんだよ。私は勉強してるのに。お稽古事があるから家じゃ勉強しないみたい。」
俺「茶道とかやってそうなタイプだよね。」
ミユキ「そんな感じのやつ3つくらい習ってるんだって。でも夏は休んで家族で旅行行くって言ってたよ。」
俺「あ〜!!!忘れてた。」
ミユキ「何?」
俺「じいちゃんの家行くんだった。」
ミユキ「じゃぁ行こうよ。今日別に予定無いしさ。」
俺「だな。」
俺とミユキは1階へ降りた。
俺「叔母さん、ミユキとじいちゃんのところに行って来るね。」
叔母さん「お兄ちゃん(俺の父ちゃん)いつでも来ていいって行ってたけどどうする?」
俺「ミユキはすぐ行きたい?」
ミユキ「うん。」
俺「じゃぁ叔母さんとミユキは明日にでも飛行機で行きなよ。俺は一番早く乗れるフェリーで行くから。」
叔母さん「わかったわ。」
俺「じゃぁ、とりあえずじいちゃんとこ行ってくるね。」
ミユキ「行ってきま〜す。」

俺「じいちゃんとばあちゃんの好物知ってる?」
ミユキ「塩辛とかだったような気がするけど。
俺「普通にスーパーとかに売ってるね。」
ミユキ「うん。」
俺「もっとおもしろい物お土産にしようぜ。」
ミユキ「じゃぁデパート行こうよ。」
俺「OK、駅前行けばあるよな?」
ミユキ「うん。」
俺「じゃぁまずは駅に向かうよ。」

駐車場に着いた。ミユキが目を瞑って唇とんがらせてる。俺は軽くキスをした。昨夜したはずなのに久しぶりな感覚が襲う。
俺「実家では俺に甘えるなよ。」
ミユキ「は〜い。」
1階から見ていくことにした。
俺「食い物よりも物がいいと思うんだ。」
ミユキ「何で?」
俺「かわいい孫が買ってくれた物なら部屋に飾っておきたくなるんじゃない?」
ミユキ「そうだね。コップとかは?」
俺「いいね、毎日使うものだからな。むしろ湯のみとかの方がいいか。」
ミユキ「でもさ、割れちゃったりひびが入ったりしたらなんか不吉だよね。」
俺「確かにそうだな。割れないものにするか。」
ミユキ「お兄ちゃん、あれ見て!」
俺「おっ、こんなところに!やるか?」
ミユキ「うん!」

俺「キスはやばいって。」
ミユキ「何で?」
俺「記録に残っちゃうじゃん。誰か見たらどうするの?」
ミユキ「じゃぁ抱っこ。」
俺「一緒だって。もうちょっとなんつーか、健全なやつで。」

俺「キスはやばいって。」
ミユキ「何で?」
俺「記録に残っちゃうじゃん。誰か見たらどうするの?」
ミユキ「じゃぁ抱っこ。」
俺「一緒だって。もうちょっとなんつーか、健全なやつで。」
とりあえず俺たちは2人揃って笑顔を作り、プリクラを撮った。
俺「よし、探索再開な。」
ミユキ「割れなくて、部屋に飾れて・・・」
俺「大き目の額縁は?大きい写真とか入れられるやつ。」
ミユキ「あーっ、いいね。で私とお兄ちゃんの写真引き伸ばして飾っておこう。」
俺「まぁ何入れるかは別として、それに決定な?」
ミユキ「うん。」
そして俺たちは雰囲気のある額縁を選んだ。俺は店員にマジックペンを借りた。
俺「ミユキ、メッセージ書くぞ。」
ミユキ「何て?」
俺「思ったこと書けよ。」
俺とミユキはそれぞれ透明なアクリル板の下のほうに小さくメッセージを書いた。ミユキはとんでも無いことを
書いたが俺はそのままにしておいた。
俺「ミユキ、さっきのプリクラ貼ろうぜ。」
ミユキ「今日のお兄ちゃん冴えてるね。」
俺「そうそう、いつもはドジでマヌケで・・・」
ミユキ「タンス漁ったり、ブラいじったり、・・・」
俺「タンスは漁ってねぇよ。」
ミユキ「やっぱりブラはいじるんだ。ふ〜ん。まぁいいや、こんな感じ?」
俺「う〜ん、いいね〜。」
俺たちはそれを贈り物用に包装してもらった。
俺「さぁじいちゃんの家行くぞ。」

インターホンを押した。
俺「アキヒロだよ。」
ミユキ「ミユキだよ〜。」
じいちゃん「お〜アキヒロか。ヒロマサ(俺の父ちゃん)からこっちに来るって聞いてたぞ。」
ミユキ「ちょっと、おじいちゃん、私もいるんだからね。」
じいちゃんは年齢のせいか毎年同じ顔だ。
俺「ばあちゃんは?」
じいちゃん「琴の稽古に行った。」
ミユキ「はい、私たちからのプレゼント。」
じいちゃん「あぁありがとう。」
ミユキ「・・・ちょっと、おじいちゃん、しまわないで今開けてよ!」
じいちゃん「あぁ、すまんな。そういえばそうだ。」
じいちゃんはバリバリと無造作に包装を破いていく。たぶんこの大雑把さが俺の父ちゃんに遺伝したんだろう。
俺「その下に貼ってあるのは俺とミユキの写真だよ。大事にしてね。」
じいちゃんは嬉しそうだった。
ミユキ「おばあちゃんはいつ帰ってくるの?」
じいちゃん「たぶん終わったあとお茶とかしてくるからな、夕方だろ。」
俺「じゃぁそれまで俺は肩揉むかな。ミユキはお掃除な。」
ミユキ「うん。」
ばあちゃんの帰宅後マッサージをしてあげ、一緒に温泉に行った。孫が2人も来たんだから、いい孝行になったと思う。
ところで、ミユキの書き込んだメッセージにはじいちゃんもばあちゃんも特に気にしないでいたが、その家に飾って
あるということが後々ちょっとしたイベントを引き起こすことになる。

帰宅後夕食をとり叔母さんに今日の報告をしてミユキの部屋へと引き上げた。
俺「さてと、今夜がミユキと過ごせる最後の夜になるのかな?」
ミユキ「えっ?どういうこと?」
俺「横浜行ったらミユキはうちの実家に泊まるだろ?俺はそこに住んでいるわけじゃないからね。
横浜から函館に戻ってきたらまたしばらく会えなくなるな。」
ミユキ「そういえば、そうだね。でも、また函館に来てくれないの?」
俺「ツーリングを建前に来ることはできるけど、冬になったらそれは通用しないだろ。
ミユキだけに会いに来るのはなんだかまずいような気がするんだよね。俺の言いたいことわかる?」
ミユキ「うん、じゃぁ今日は一緒に寝よ。」
なんだか誘導しちゃったみたいだな。
俺「叔母さんがそんなこと許すわけ無いだろ。」
ミユキ「別にえっちするわけじゃないんだから。」
俺「まぁ、そうだけど。でもどうやって?いつの間にか2人が一緒に寝ていたら叔母さんは疑うだろうし、
それとも叔母さんに許可取るの?それも怪しいよな。」
ミユキ「う〜ん、お母さん帰ってこなければ良かったのに。」
俺「冗談でもそんなこと言うなよ。」
ミユキ「ごめんなさい。」
結局その日は別々に寝ることにした。そして俺はその夜またとんでもない体験をしてしまうことになる。

俺「・・・ミユキ。何してんだ?」
ミユキ「来ちゃった。」
俺「来ちゃったって・・・。」
ミユキ「布団入っていい?」
俺「いいよ。後でちゃんと2階に帰るんだよ?」
ミユキ「うん。」
ミユキはそっと布団を捲りゆっくりと布団の中へ入る。
俺「眠れないの?」
ミユキ「そういうわけじゃないんだけど。」
俺は何となく察した。俺はミユキの手を握った。俺が力を入れるとミユキも握り返す。それを何度も繰り返していると眠くなる。しかし、すぐに唇に触感を感じてまた目が覚める。俺もお返しした。いつの間にか両腕をミユキの腰にまわしていた。
ミユキの柔らかい胸はパジャマ越しに俺の体に密着している。経験の少ない俺でもわかる。これはもう確実にイケル状況だった。
ダブルリーチで変則4面待ちしているくらい確実にイケル状況だった。しかし、こういうのを地獄というのかもしれない。
俺は叔母さんに"行動に責任を持つ"約束をしている。俺の葛藤が始まった・・・

しばらくキスをし、体を委ね合った。たいていは男が相手に同意を得てこの先に進むのがセオリーだ。
しかし、踏み切れない。首から下の理性は全開で吹っ飛んでいた。しかし脳における理性だけが歯止めを
かけている。このまま何も起こらなければミユキに対して失礼だし、下手したら傷ついてしまうかもしれない。
俺「ミユキ、上に叔母さんいるしやばいよ。」
ミユキ「寝てるよ。」
俺「俺だって、本音はすごくしたいんだよ。」
ミユキ「・・・いいよ。」
俺「いや、だから。」
ミユキ「ミソラさんとしたのに私とできないの?」
俺「ミユキわかってくれ、俺は堂々とお前を手に入れたいんだ。」
ミユキ「お兄ちゃんの一番好きな人は?」
俺「ミユキだ。世界で一番好きだ。一生をかけて守りたいと思ってる。お前を正式に手に入れて、
お前がこの世に生まれてきて俺に会えて良かったと思えるような生活を与えてあげたい。
本当に愛してる。一時の感情で失いたくないんだ。わかってくれ。今ここでお前を抱いたら俺は
堂々とお前を奪うことができなくなる。」
ミユキはじっとこちらを見つめる。俺も見つめ返した。

ミユキ「・・・ありがと。気持ち伝わったよ。」

俺「ごめんな。」

ミユキ「ううん、嬉しいよ。」

翌日の午前中に皆で家を出た。二人はタクシーを拾い空港へ向かった。俺はまだ時間があったので
市場で早めの昼食をとり、雑誌や軽食を買い港へと向かった。バイク乗りが結構いた。やはり女性は少ない。
俺は話しかけられないように距離を置いた。手続きをした後椅子に座りつい数日前に別れたミソラのことを考えていた。
そういえばメールも電話もしていなかった。ミソラの言う通りなら彼女の家は俺のアパートからバイクで30分も走らずに着けるはずだ。しかし今はミユキがいる。ミユキを悲しませたくない。俺は連絡はしないことにした。

船上では今回の旅のことを考えていた。旅と言ってもほとんど函館に居ただけだし最北端に行って帰って来ただけだ。
だが色々なことがあった。今でも信じられない。自分が体験したこと一つ一つが信じられなかった。俺はフェリーに乗っている、ミユキは横浜へ向かっている、ミソラは横浜へ帰った、ケータイを見ればプリクラが貼ってある、
二人とも笑顔のプリクラが貼ってある、俺は今夢ではなく現実にいる。トラブルや葛藤もあったが幸せな方向に
向かっている…はずだ。いつの間にか甲板にいるカップルを呆然と見ていた。俺は船内に入り、幸せなはずなのに
不安におののく心を鎮めるため眠ることにした。

アパートに着いたが疲れていたのでミユキにはメールもせずにその日は寝た。
次の日父ちゃんからの電話で目が覚めた。実家に来いということだ。
言われんでも行くつもりであったがわざとらしく渋々感を出しておいた。
実家で飯を食っていた。俺とミユキは山下公園などへ行くという流れになった、
というかした。そして車に乗り横浜中心部へ向かうのであった。
ミユキ「うまく行ったね。」
俺「なんだか親の視線が痛かった気がするけどな。お前が10歳くらいならもっと自然に遊びに行けたんだが。」
ミユキ「ロリコン?」
俺「そういう意味じゃないから。」
ミユキ「どこ行くの?」
俺「どこかに車停めて散歩しよう。」
横浜でミユキとドライブしていることがすごく新鮮だった。そう、地元にいるということは現実を感じさせてくれた。

俺「ミユキが生まれる前、ここからボートに乗って叔父さんの仕事場まで遊びに行ったことがあるんだよ。
俺は泳げなかったからボートが恐くてね。よく覚えてるよ。」
ミユキ「ふ〜ん。」
俺「前の仕事の時は日本中飛び回ってたそうだからね・・・。港の見える丘公園行こうか?」
ミユキ「うん!」
元町通商店街に寄り道してアイスを食べながら歩いた。一杯の掛けそばは悲しいが、
一つのアイスを2人で食べるのは幸せだ。外人墓地を通り、遠回りして港の見える丘公園に着いた。
夏の暑さが海からの風で緩和される。

ミユキ「お兄ちゃん、座ろうよ。」
俺「そうだね。」
日陰のベンチに腰掛ける。
俺「まだ正式に言葉にしてなかったけど・・・」
ミユキ「何?」
俺「俺と付き合って下さい!!」
なぜか敬語だった。お巡りさんを"まわりさん"と言うのがおかしいのと似たようなもんだ・・・と思う。
ミユキ「いいよ。付き合ってあ・げ・る!」
俺「ありがと。俺、ミユキのこと大事にするからね。」
ミユキ「私幸せだよ。」
俺「俺のほうが幸せだって!」
ミユキ「あはは、じゃぁ同じくらいね。」
俺「そうだね、同じくらい大きいんだ。」
この日、兄と妹から正式に彼氏彼女になった。

ミユキ「明日はディズニーランド行ける?」
俺「大丈夫だよ。」
ミユキ「仕事はいいの?」
俺「同僚に休み交換してもらったから問題ないよ。ミユキのいる間は毎日逢えるよ。」
ミユキ「やったね。」
少しの間ベンチに腰掛け、お互いに寄り掛かりながら眠った。
じっとりとした汗が体中を覆い、目が覚めた。いつの間にかベンチには陽がたっぷりと差し込んでいた。
俺「中華街行こうか。着く頃にはお腹も空くはずだから。」
ミユキ「さんせ〜い。」
坂道を手を繋いで下りる。お互いを見て存在を確認し合う。時々軽くキスを交わす。でもついつい考えてしまう。
こんなに幸せなことがあっていいのだろうか?"このまま時間が止まればいいのに"そのありふれた言葉の意味が理解できた。
幸せが続くことを願うのではない、目の前にある幸せが終わらないように願うのだ。幸せに程遠い人生を送って来た自分には、幸せの存在を素直に受け入れることができなかった。

ミユキ「おいしかったね。」
俺「二人で食べたからだよ。」
ミユキ「うん、うん、私もそう思う。」
俺「陽も落ちて来たけどまだやりたいことある?」
ミユキ「お兄ちゃんち行きたい。」
俺「う〜ん、どうしようかなぁ。」
ミユキ「えっちな本とか気にしないよ。」
俺「いや、そういうことじゃなくて。まぁそんな本も無いんだけどね。」
ミユキ「見るだけだって。」
俺「見たらすぐに帰るの?」
ミユキ「え〜と、ちょっとお茶するだけ。」
俺「お茶したらすぐに帰るの?」
ミユキ「じゃぁちょっとお話する。」
俺「指きりしよう。」
ミユキ「何で?」
俺「お互いに理性的な行動をとること。」
ミユキ「私そんなえっちかなぁ?」
俺「違う、俺がやばい。だって叔母さんいないんだぜ。二人きりなんだぜ。だからミユキも責任重大だよ。ちゃんと拒否しろよ。」
ミユキ「自信ないなぁ。」
俺「やっぱ実家戻ろう。」
ミユキ「えぇ〜。わかった頑張る!」

俺「ここだよ。」
ミユキ「綺麗だね。」
俺「ふっ。」
ミユキ「?」
俺「はい、ようこそ。恐怖の館へ。」
ミユキ「ぎぇ〜、これは、汚い!」
俺「だろ?」
ミユキ「今度大掃除しようね。」
俺「そうだな。じゃぁ中へどうぞ。」
ミユキ「うわっ、座る場所ないよ〜。」
俺「すごいだろ?これが世間一般で言われている"独身男性の部屋"ってやつなんだよ。」
ミユキ「じゃぁシャワー浴びるね。」
俺「はぁ?何言ってんだよ。さっき約束したばかりじゃん。」
ミユキ「汗かいたからシャワー浴びるだけだよ。勝手に妄想しないの!」
俺「あ、ああ・・・そうだな。ごめん、でもこれが"独身男性の性(さが)"ってやつなんだ。」
ミユキ「はいはい、ところでタオルは?」
俺「はい、どうぞ。」
ミユキ「覗いちゃ駄目だからね、独身男性さん。」
俺「覗かないって。」
ミユキ「ブラいじっちゃ駄目だからね。」
俺「・・・」
ミユキ「ふふふ、なんでそこで沈黙するのよ、もう。・・・でも一緒に入る?」
ミユキはさっきの約束忘れたのだろうか?とか考えつつ、返事もせずに神速で衣類を脱ぎ
バスルームへと飛び込む俺がいた。俺の方こそ約束忘れてる。

・・・本当に、本当に綺麗だった。ありふれた表現になってしまうが、ハリのあるみずみずしい、
そして透き通るような美しい肌だった。ミソラと比べると若干幼さは残るが胸の大きさ、形、体のライン
全てが及第点だった。時々軽く浮き出る腹筋に健康的な美しさを感じる。
できるだけ自分を落ち着かせゆっくりとキスをした。シャワーに濡れた髪が少し顔を覆う、
それをかき分け唇に軽く何回か触れたあと、より深いキスをした。自分のアパートで起きている
出来事なのに現実感がなかった。ふわふわとしていて夢見心地だった。体を洗ってあげたかったが
俺のようながさつな男が触れるにはあまりに美しく芸術的すぎた。俺は自分とはあまりに対照的な"作品"に
劣等感を覚えた。なんだか居心地が悪くなり、結局さっさと体を洗い先に出てしまった。数分後にミユキは出てきた。

ミユキ「どうしたの?突然上がっちゃって。」
俺「いや、別に。」
ミユキ「お願い教えて。」
俺「・・・。」
ミユキ「お兄ちゃんが隠し事しててもすぐわかるんだよ。」

俺のうそを見抜けるのはミソラだけじゃなかった。やはりミソラに連絡しないで良かった。
態度でばれていただろう。例えミソラと恋人としてではなく、友達として会ったとしてもだ。

ミユキ「どうしたの?私何かしちゃった?」

また泣かせてしまいそうだ。俺ってなんでこうなんだろう。自分では一生懸命生きているつもりなんだけどな。
人と一生懸命の基準が違うのかな?違うんだろうな。俺は頑張っても頑張っても1年前の俺と変わらない。
変わるのはふけ顔がさらにオヤジ面になるだけだ。実は禿げてはいないがおでこは広いし、生え際が
同年齢の人より明らかに後退している。金さえあれば紀尾井町に行って毛根増やせるのに、そんなこと考えていた。

ミユキ「何とか言ってよ。」
俺「ミユキ、俺不安なんだよ。」
ミユキ「何で?」
俺「おまえは顔もスタイルも頭も運動神経もいい。社交的だし友達も多い。それに比べて俺はどうだよ。
お前俺の何がいいんだ?かわいそうだからつきあってやってんじゃないのか?いとこだから邪険にできないのか?
もしそうなら謝るよ。いつの間にかお前にプレッシャーかけていたのかもしれないしな。」
ミユキ「お兄ちゃんのこと大好きだよ。なんでそんなこと言うの?」
俺「だから!何が好きなんだよ!俺はかっこいいのか!そもそも何でお前は俺がシャワーに一緒に入るのを
拒まないんだよ。他の男ともそんなことしてたんじゃねぇのか?」

俺は、はっとした。またやってしまった・・・。死にたい。いや、死ぬ前にミユキを俺の暴言を聞く前のミユキにまで
時間を戻してあげたかった。ミユキだけは悲しませたくない。もう終わったと思った。ミユキは泣いていた。

ミユキ「・・・お兄ちゃんが好き、小学生の頃ピアノうまいって言ってくれた、かわいいって言ってくれた、
アイスくれた、私のことちゃんと考えてくれてる、函館の最後の夜にお兄ちゃんが言ってくれたことすごく嬉しかった・・・」
ミユキは泣きながら続けた。
ミユキ「好きなところなんてまだまだいっぱいあるもん。何でお兄ちゃんがそんなこと気にするのかわからないよ。
それに男の人の前で裸になるのだって今日がはじめてだもん。私そんな軽い女じゃないもん。」

俺は謝りたかった。しかしどうやって謝ったらいいかわからなかった。むかつく女と別れるときくらい、
いやそれ以上の暴言を、俺の大好きで大好きで大好きな最愛の人に吐いてしまった。俺は猛烈な勢いで
床に頭を何度もぶつけて謝った。じゅうたんが無ければ頭が割れたんじゃないかってくらい床に打ち付けた。
頼めるなら殴って欲しかった。顔面に、みぞおちに思いっきり殴って欲しかった。こんなに汚い言葉を
熱くなっていたとはいえ吐いてしまったことが悔やまれた。ミユキは何かしゃべっていたような気がするが
ひたすら頭を床に打ち付けていた。気がつくとミユキがそれを必死に止めようとしていた。
そして軽く眩暈がして体勢を崩した。・・・意識はあった。ミユキを見上げた。泣きながらおでこをさすってくれている。
こんなクズのためにこの天使は泣いてくれている。

俺「・・・ミユキ、ごめん。全部・・・全部俺が悪い。お前に吐いた暴言を消し去るような
謝罪の言葉が見つからないよ・・・。たぶんそんなもの存在しないと思う。それくらい酷い事
言ってしまった。今・・・お前に何をすべきかわからない。本当にすまない・・・」
ミユキ「ちょっと待っててね。」
ミユキはタオルを湿らせて俺のおでこに当ててくれた。
俺「痛っ!」
ミユキ「あっ、ごめんね。」
俺「あっ、違う、違うんだよ。ありがとう。」
ミユキ「お兄ちゃん・・・」
俺「はい・・・」
ミユキ「心配しないで。」
俺「ごめんなさい。」
ミユキ「お兄ちゃんの優しさはわかってるから。見た目とかじゃないよ。」
俺「やっぱかっこ悪いの?」
ミユキ「うん。」
俺「そうか・・・、いやわかってたけどね。」
ミユキ「お兄ちゃんの本当の良さ知ってるから。誰にも渡さないよ。でもかっこ悪いから私は安心だけどね。」
俺「かっこ悪いことが初めて役に立ったよ。」
ミユキ「でも今度一緒に洋服とか買いに行こうね。あまりに気にしなさすぎだよ。」
俺「うん、お願いします。」
ミユキ「変なの。」
俺「ミユキ・・・」
ミユキ「何?」
俺「これからもよろしくお願いします!大事にします!感情的にならないように気をつけます!本当に大好きです!」
ミユキ「うん。よろしくね。」
俺はバスタオル姿のミユキとベッドの上に寝転んだ。ただ抱き合っているだけですごく安心できた。
不思議と行為に及びたいとは思わなかった。真夏の夜の暑さも俺たちの前では裸足で逃げるくらいの熱い抱擁を続けた・・・。

翌日朝早くにミユキをピックアップしに実家へと向かった。
俺は両親と二言三言交わし、叔母さんにも意味深な笑顔で見送られ車を発進させた。
ミユキ「伯父さんから聞かれたよ。」
俺「何を?」
ミユキ「"アキヒロとつきあっているのか?"って。」
今お茶を飲んでいたら見事に吹けたと思う。自分では隠していたつもりだったが、
やはり俺のような女と縁の無い人間がかわいい姪と仲良くしていることに違和感を感じていたのかもしれない。
俺「で、何て答えたの?」
ミユキ「はい、そうです!って。」
俺「内緒にしようって俺言ったよな?」
ミユキ「あのね、昨日皆で話しててお兄ちゃんの話になったのね。」
俺「ほ〜、で?」

ミユキ「伯父さんが、"あいつは奥手だから結婚できなさそうだな。"って。」
失礼な親だ。まぁ実際に奥手だし話すの苦手だし顔も良く無いし運動も苦手だし…って、俺へこむ。
ミユキ「それで私に言ったの。"ミユキ、アキヒロの嫁さんになってやれ。"って。」
俺「なんだかすごいことが起きてたんだな。父ちゃんは本気そうだった?」
ミユキ「笑いながら言ってたけど本気かどうかはわからない。でもそんなこんなでさっきの話題になって。」
俺「気が弛んじゃったのか?」
ミユキ「そんなに気にすることじゃ無いのかな?って思って言っちゃった。」
俺「まぁ、言っちゃったんならしょうがないな。叔母さんと母ちゃんはどんな反応だった?」
ミユキ「お母さんは別にいつも通り。伯母さんはちょっと表現し難い。」
俺「微妙だな。ま、でも俺の家族はあまり問題無いんだ。問題なのはミユキの家族のほうだからな。」
ミユキ「どういうこと?」
俺「つまり俺は男でお前は女だってこと。」
ミユキ「?」
俺「俺は例え家族が反対しようとミユキのためなら意志を貫く。でもミユキが家族と不仲になるのは嫌だ。
ミユキの家族にとってみればたった一人の娘、そして妹だからな。」
ミユキ「私達つきあえないの?」
俺「まぁつきあうだけなら、問題無いだろ。問題になるのはその先だよ。
とりあえずミユキはお兄ちゃんたちには秘密にすること。」
ミユキ「うん。」
俺「今日みたいに口滑らせないようにね。」
ミユキ「あぅ、ごめんなさい。」
俺「ははは、そんな責めて無いよ。」

俺「着いたよ。」
ミユキ「着いたね、デートだよ。」
俺「昨日もしたじゃん。」
ミユキ「なんか昨日は散歩だったから実感湧かなかったんだよ。好きだよ、アキヒロ。」
俺「何それ恥ずかしいじゃん。お兄ちゃんでいいよ。」
ミユキ「私達恋人なんだからね。」
実は名前で呼ばれたことは嬉しかった。俺の友だちいない人生において女の子からファーストネームで
呼ばれたことはほとんど無かったからだ。すごく新鮮だった。でもやっぱ"お兄ちゃん"がいいのは秘密だ。
この日は俺たちが知り合ってから一番楽しんだと思う。ミユキが小学生の頃に会っているから知り合ったと
言うのはおかしいな。女になったミユキと知り合ってから、というのが妥当な表現だろう。しっかりと手を繋ぎ、
アトラクションに並んでは軽くキスをする、アイスを二人で食べ、お土産を楽しそうに選ぶ。大切な人と感情を
共有することの素晴らしさを知った。今まで人との接触を避け続けて来たことが悔やまれた。

俺「さぁ、帰ろうか。」
ミユキ「楽しかったぁ。」
俺「足がガクガクだよ。運動不足がたたった。」
ミユキ「大丈夫?おじいちゃん。」
俺「頼むから冗談でもそれはやめてくれ。ふけ顔の俺にとってそういうのマジで辛いんだよ。」
実際ビジュアル面で不安のある自分は時々恐くなる。このまま結婚もできずに年をとってしまうのか、と。
もちろん男は顔だけじゃないがそれ以外に何かあるかと言ったら何もなかった。給料は安いし、財産も無いし、
将来性も無い。ある時履歴書を書いていた。資格欄に"運転免許証"しか書けないことに恐怖を覚えたことがある。
職歴もアルバイトと肉体労働しか無い。しかも時々海外に旅行に行っていたので仕事を長続きさせたことがなかった。
こんな虫食い状態の職歴に感心を示す企業などあるはずも無く、結局今の誰でもできるような仕事をすることになった。

…駐車場は帰りの人たちで賑やかだった。北海道までとは行かないが関東地方なりに星は綺麗に輝いていた。
気持ちの良い真夏の夜だった。俺たちは車に乗り込んだ。
ミユキ「暑いよ〜。」
俺「クーラー入れたからもうすぐ涼しくなるよ。」
涼しくなってくると当然起こるべきことが起きて、そしてそんなことをゆっくりと続けていた。
ミユキ「う〜ん、帰りたくないよ。」
俺「また明日も会えるだろ。」
ミユキ「そうだけど…。」
俺「そろそろ帰ろう。心配されちゃうよ。」
ミユキ「…うん。」
渋滞した高速でインターFMをBGMにミユキは寝てしまった。俺はボリュームを落とした。ブレーキを踏み、
停まるたびにミユキの寝顔を見た。自分の隣でぐっすりと寝てくれる女の子がいる。これは自分にとって
すごく嬉しいことだった。これは信頼だと思う。自分には程遠いと思われたものだ。そのうち渋滞を抜け、
ブレーキの踏む必要のない流れになった。

ミユキ「…おはよ。」
俺「夜だけどな。」
ミユキ「アキヒロくん。」
俺「何だよ。」
ミユキ「照れてるね。」
俺「まぁな。」
ミユキ「今日も一日あっという間だったね。」
俺「ホントだよ。仕事してると中々一日って終わらないのにな。」
ミユキ「仕事つまらないの?」
俺「つまらないわけじゃ無いけど、生活していくためにやっているだけで何も得られることが無いんだ。」
ミユキ「好きな仕事やれば?」
俺は自分が職を選ぶ立場に無いことを言いたく無かった。
俺「そうだね、今勉強してるやつの資格がとれたらそれを活かせる会社に就職しようと思ってるんだ。」
ミユキ「そうなんだ、頑張ってね。」
俺「ああ。」
嬉しかった。好きな人に言われる"頑張ってね"という一言がこんなにも大きいとは思わなかった。
親に頑張れって言われたことは腐る程あるが何も感じたことは無いし、期待には応えられなかった。

俺「ミユキ、そろそろだよ。」
ミユキ「何が?」
俺「横浜の名物を通過するよ。」
ミユキ「名物?」
俺「ベイブリッジだよ。本当はランドマークあたりのホテルから見ると綺麗なんだけどね。ほらっ。」
鶴見つばさ橋を過ぎベイブリッジにさしかかった。俺は桜木町のビル群が見えるように追い越し車線へと移った。
俺「ほらっ、あっち見てごらん。あの目立つ建物がランドマーク。」
ミユキ「あっ、知ってる。綺麗だね。」
俺「ランドマークは展望台上ったことある?」
ミユキ「無い。行きたい。連れてって!」
俺「よし、じゃぁ明日はランドマーク行こうな。」
ミユキ「やった!」

他愛も無い会話をしているうちに実家に着いた。軽くキスをする。玄関ではあまり親達の方を見ずに早々に別れを告げた。
ミユキとの仲に言及されることを懸念していたからだ。

毎日実家に通いミユキを楽しませた。俺はいつも幸せで、ミユキもいつも笑顔でかわいかった。しかし刻々と帰らなければならない日は近付いてきていた。そして、前夜。

ミユキ「帰りたく無い。」
俺「俺だって離れたくないよ。でもしょうがないだろ。数カ月の我慢だよ。」
ミユキ「お兄ちゃんは何で平気なの?」
俺「全然平気じゃねぇよ!ホントは今すぐにでも結婚して一緒に住みたいくらい好きだっつうの!」
ミユキ「どうしよう?」
俺「どうしようも何も帰って学校卒業しないとまずいだろ。」
ミユキは泣いた。ずっとここ数日は泣かなかったのに。ミユキを抱き締めしばらくそうしていた。

ミユキ「…したい。」
俺「何?」
ミユキ「えっちしたい。」
俺「せっかく我慢してきたんだぞ。」
ミユキ「だって、このまま離れて…うまく言えないけど・・・繋がりが欲しい。」
俺「じゃぁ、中華街行こう。」
ミユキ「何で?」
俺「アクセサリー屋があるんだ。そこでお揃いのアクセサリー作ろうぜ。それ見てお互いを思い出すんだよ。
その後おれんち寄ってから実家行こう。」
ミユキ「うん。」

俺は服装のセンスとか無いし、アクセサリーもつけない。その店は前に家族で来た時に見つけた店だった。
ミユキに選ばせた。貴金属ではなくてアジアンテイスト溢れる手作りの輪を作った。二人で綺麗な石やらガラスやらを
ヒモに通していった。恥ずかしいけどミユキのアクセサリーには俺の名前、俺のアクセサリーにはミユキの名前を入れた。
ミユキ「いつもつけててね。浮気防止だよ。」
俺「ミユキもな。他にも買う?」
ミユキ「これだけで充分だよ。」
俺「じゃぁ行こうか。」
ミユキ「うん!」
俺の家ではずっと抱き合っていた。キスして、少ししゃべり、ぎゅっと抱き合いお互いの存在を確かめる。
そんなことをひたすら…ひたすら…ひたすら繰り返していた。

翌日ミユキと叔母さんを迎えに行った。空港に着いても叔母さんがいるせいか
なかなかいつものように会話ができない。そのうち叔母さんがお土産を買うからと
人込みに消えていった。俺達は人目もはばからずにキスをした。こんなに寂しい
別れに周りなんぞ見えるはずも無かった。時間を忘れてキスをしていた。
ミユキは何も言わず泣いている。しばらく抱き合っていた。叔母さんが戻って来た。

叔母さん「こらっ、大事な娘泣かすんじゃないよ。」
でも叔母さんはいつもの陽気な調子だ。
俺「一緒になれたら絶対に泣かしません。本気です。」
俺ははっきりと、そして少し大きめの声で答えた。
叔母さんは無言で笑った。そして出発の時刻はやって来る。

俺「笑えよ。思い出した時に泣き顔しか思い出せないじゃないか。」
ミユキ「うん。」
俺「うん、って。笑ってないじゃん。」
ミユキ「ふふっ、そうだね。」
ミユキは笑った。

2人がゲートの奥に消えるまで後ろ姿を見送った。俺は飛行機が離陸するのを
待たずに横浜へと車を走らせた。この気持ちを走ることで払拭できればと思ったからだ。
窓を全開にし腕のアクセサリーに滲む汗、そして溢れて止まらない涙を飛ばしながら俺は走った。
まだまだ暑い日は終わりそうになかった。

ミユキが北海道へ帰った。毎日メールや電話をする。しかしミユキはそばにいない。
毎日のように、ミユキのことを考えていた。日中に来るメールには時々、雅ややよいの
メールも一緒にあった。ミユキがメールを打つと一緒にメールを始めるのだろう。
雅は相変わらず礼儀正しく、やよいも相変わらずフレンドリーなメールを送ってくる。
ミユキからは一度写真つきのメールが送られてきたが俺のケータイでは見ることが
できなかった。近いうちに機種変更することを返事した。毎日メールをしていると話題も
枯渇してくる。俺は一生懸命話題を探した。そばに居れば抱いたりキスしたりできるが
メールはそれができない。メールというのは意外に辛いものだと知った。でもそれが
良かったのかもしれない。ミユキのために自分の時間を割けたから。今はメールと
電話だけの関係だからミユキを泣かせてしまう心配も無かった。ちゃんと元気に
暮らしているようだ。

平和に、静かに、そして着々と時間は過ぎて行く。

師走らしい忙しさに追われ寒さも本格的になって来た頃、父ちゃんから電話が来た。
じいちゃんが入院したと言う。末期の癌だった。俺は会社に休みをもらい北海道へと
向かった。病室には、ばあちゃんだけが居た。俺は手を洗うように言われ消毒した後
じいちゃんのベッド脇へと座った。じいちゃんの手を握った。何かしゃべっているが
聞き取れなかった。言葉になっていなかった。

俺は、実はじいちゃんに会いに北海道へ行ったのは記憶にあるものではほんの数回だ。
それ以外は幼い頃に家族に連れられて来たことがあるそうだが覚えていない。じいちゃんは
好きだが特に遊んでもらった記憶も無かった。昔は警察署で柔道だか剣道だかを教えていた
そうだ。年寄りなのに体格はがっちりしていてかっこよかった。でも目の前でしゃべっても言葉に
ならないじいちゃんを見て悲しくて涙が止まらなかった。ばあちゃんはずっと俺の頭をなでていた。
家族が遅れて到着し、俺は無言で病室を後にした。

ミユキから着信がいくつも入っていた。マナーモードにしていたため気づかなかった。
しかし、こんな状況でミユキと会ったらじいちゃんに申し訳なかったので放って置いた。
メールもいくつか入っている。それも放って置いた。身内にこんなことが起こるのは
初めてだった。ばあちゃん曰くいつ亡くなってもおかしくないそうだ。

俺は病院を出た。ちらほらと降る"積もるまでも無い"雪の中突っ立っていた。
数十分ほど立っていたと思う。雪は徐々に多くなってくる。雪の降る空を見上げると
すごく幻想的だ。天上の中心部から放射状にふわふわと自分に向かってくる。呆然と
空を見上げていた。寒かったけど悲しみのせいでそれは中和できた。普段はミユキ以外
誰からも来ないケータイがさっきから着信回数が増えていく。俺は全て無視して空を見上げる。
そのうち病院入り口の街灯が灯った。車寄せにタクシーが停まる。ミユキと叔母さんだった。
二人はこちらに気づき叔母さんは中へ入った。ミユキが雪と泥の混じったコンクリートの上を
子供みたいにばしゃばしゃと走ってきた。抱きついてきた。俺は両の手を下に垂れ落としたまま
抱きつかれた。やはり嬉しかった。ミユキは俺の首の後ろに手を回し、そしてキスをした。
やっとミユキが口を開く。

ミユキ「電話したんだよ。」
俺「うん。」
ミユキ「メールも。」
俺「うん。」
ミユキ「中入ろ。風邪引いちゃうよ。」
もう一度空を見上げたと同時に、ミユキが俺の手を引っ張り中へ連れて行く。
ミユキの学生靴は泥だらけになっていた。俺はハンカチでその汚れを拭き取ろうとしていた。
ミユキはそんなことしなくてもいいと言う。でも俺は無言で拭いていた。

ミユキ「お兄ちゃん?」
俺「服も靴も濡れちゃったな。ごめん。」
ミユキ「気にしないで。」
俺「じいちゃんのとこ行かないでいいのか?」
ミユキ「一応昨日も来たの。行こっ。」
病室の前に俺の家族、そしてミユキの家族、つまり兄たちも揃っていた。俺とミユキが揃って現れた
ことが不思議だったに違いない。父ちゃんから、さっきから俺を探していたことを告げられた。
今夜泊まるところの話し合いをしていたようだ。ばあちゃんのところに俺の家族が泊まることになったが
狭いので俺がいとこの家に行けということだった。うちの兄と弟は比較的社交的だし友達もいる。
俺は非社交的で友達もいない。しかし実際奇妙なことだが"いとこ"と一番接触のあるのが俺だった。
それにツーリングで泊まっていることもあったので自然な流れだった。俺は親に適当に数日過ごした後
帰ることを告げた。叔父さんはいつまにか消えていた。

翌日ミユキの兄たちは帰ることとなった。次に来るときはじいちゃんが亡くなった時だろう。
俺とミユキと叔母さんと3人で病院へと向かった。ばあちゃんや俺の親たちは既に来ていた。
兄と弟はもう帰ったそうだ。俺とミユキはおじいちゃんの手を握り、叔母さんをおいて病院を後にした。

ミユキ「お兄ちゃん、大丈夫?」
俺「・・・ああ。」
ミユキ「もうすぐクリスマスだよ。」
俺「友達とパーティでもやるの?」
ミユキ「お兄ちゃんと一緒がいいな。」
俺「俺も一緒に過ごしたいけど不自然だよ。」
ミユキ「何で?」
俺「じいちゃんのそばに居てあげたいし、ばあちゃんのそばにも居てあげたい。
でも何もしてあげられない。長居する理由が無いよ。」
ミユキ「浮気はしてない?」
俺「な、なんだよ突然、全く問題ないよ。浮気したくても毎日メールで忙しいからな。」
ミユキ「浮気したいの?」
俺「言葉の綾だよ、ミユキとのメールがそれくらい忙しいっていう。」
ミユキ「メールいや?」
俺「違うって。ケータイで文字押すのが慣れなくてね。パソコンのキーボードなら楽なんだけどな。
ミユキは浮気してないか?」
ミユキ「何人か言い寄ってくる人いたよ。」
俺「で?」
ミユキ「好きな人がいるのでごめんなさいって、断った。」
俺「そんなに好きなの?」
ミユキ「うん。」
俺「じゃぁ、キスしてあげなよ。」
ミユキ「はいっ、どうぞ」
ほっぺたにもらった。"ほっぺちゅう"は久しぶりだった。
ミユキ「おうち行こうよ。いっぱいキスしたい。」
俺「じゃぁ、マックかなんかで食い物買って帰ろうか。」
ミユキ「さんせ〜い。」

家に着いた。叔母さんはまだ帰ってきていないようだ。俺とミユキは部屋に入るや否や
激しく抱き合った。キスも荒っぽい。時々音を立てて歯があたる。ベッドに倒れこみ
そのまま床へと転がった。夢中だった。数ヶ月の空白を埋めようと必死だった。
ミユキも同じような気持ちだったと思う。時間も忘れてそんなことしていた。
そして、徐々に時の流れが緩やかになる。

ミユキ「まだ足りないね。」
俺「そうだな。あまりにも逢えなさすぎた。」
ミユキ「できるだけ帰る日延ばしてよ。」
その時ノックがした。俺とミユキは素早く離れ不自然な位置で部屋に座り込む。
叔母さんが覗く。居間へ呼ばれた。

予想とは逆のことを言われた。もう少しここにいて欲しいということだった。
また叔父さんのところへ行くそうだ。ミユキを1人にするより俺が居た方が
まだましということだろうか?俺は胸を撫で下ろした。その後叔母さんを送り、
家に戻った。ミユキと"恋人"になってから初めての2人きりの夜だった。
俺たちは居間のコタツでテレビを見ていた。

ミユキ「お兄ちゃん、同棲してるみたいだね。」
俺「そうだね。」
ミユキ「大学受かったら一緒に暮らせるかなぁ。」
俺「無理だろ。俺がミユキの親だったり兄だったら絶対に許さないよ」
ミユキ「いつ一緒に暮らせるの?」
俺「大学卒業したらかなぁ。」
ミユキ「後4年以上あるよ!」
俺「しょうがないよ。ミユキは箱入り娘だもん。」
ミユキ「お兄ちゃんのアパートから近いとこに住む!」
俺「大学から近いところの方がいいよ。4年間通うんだから。まぁ、キャンパスが
分かれているところは2年間とかだけどな。」
ミユキ「近くに住みたくないの?」
俺「いや、ミユキのためを思って言ってるんだよ。遠くてもバイクで逢いに行くし。
俺のためにわざわざ苦労することは無いよ。それに近すぎたら怪しいだろ。
何で大学から遠くて俺の近くに住むんだろうってね。」
ミユキ「・・・お兄ちゃん、私たちロミオとジュリエットみたいだね。」
俺「コタツで暖まるロミオとジュリエットか。絵にならないな。」
ミユキ「もう〜、全然ロマンチックじゃないなぁ。」
俺「ロマンチックにしてやるよ。」

俺は適当にクラシックCDをデッキにセットした。知らない曲だが気にしない。
俺「立てよ。踊ろうぜ。」
ミユキ「えっ?うん。」
ミユキはそそくさと立ち上がる。
ミユキ「お兄ちゃん、ダンスできるの?」
俺「できない!けど、適当に映画で見るようにやってみようぜ。あんなの適当だよ。」

俺はミユキの手を取り、狭い部屋を一緒に踊る。ぎこちないけど気にしない。
俺のかわいいミユキと映画のようなダンスをしている、それだけで幸せだった。
俺「どう?」
ミユキ「おもしろいね。適当なのに楽しいよ。」
俺「良かった。実はこういうの初めてだったんだけど俺も楽しい。」
ミユキの手を引き寄せ適当にポーズをつけ、キスをした。ミユキは、はにかんで
こちらを見つめる。本当に楽しかった。くるくるとうまくは回らないし、足も時々もつれる、
でもそれは幸せで思い出に残るようなダンスだった。

ミユキ「お風呂入ってくるね。」
俺「いってらっしゃい。」
ミユキ「一緒に入る?」
俺「2人入ったらきついんじゃないか?」
ミユキ「大丈夫だって。」
俺「じゃぁ、一緒に入ろうか。」
ミユキ「うん。」

ミユキ「久しぶりだね。」
俺「そうだね。」
初めて一緒にシャワーした時は喧嘩してしまった。いや、違う。俺が一方的にキレてしまった。
その時の話題には触れないようにした。寒いのでお互いにさっさと体を洗い湯船に浸かった。
ミユキ「温泉は一緒に入れないから家で入るのもいいね。」
俺「もうちょっと広さが欲しいけどな。」
俺が座ってその目の前にミユキが同じ方向を向いて座る、そんな感じで狭い湯船に浸かっていた。
ミユキ「これくらいが丁度いいの。そう思わない?」
俺「そうだな。言われて見ればその通りだ。」
ミユキ「幸せだよ〜。」
ミユキは俺の肩に頭を乗せた。素直に幸せを噛み締めたいが何かが引っかかる。
そういえば、ミユキを引き止めて置けるだけの何かが俺にあるのか?まだ最後の一線を
越えていないというのがひとつの要因なのだろうか?これだけ接近しているのに、
不安は"ある大きさ"のまま一向に小さくなることはなかった。

ミユキ「お〜い、お兄ちゃん、どうしたの?」
俺「ミユキ。」
ミユキ「なぁに?」
俺「俺のこと捨てないでくれな。」
ミユキは体を捻り上半身を湯船から出してこちらを向いた。
ミユキ「どうしたの?」
俺「不安なんだよ。ミユキと一緒にいられる時間がいつまで続くのか・・・。」
俺は少し見上げながら答えた。
俺「風邪引くから湯船に入りな。」
ミユキは腰を落とし、俺たちはお互いに向き合って足をクロスさせる。
ミユキ「ずっと一緒だよ。」
俺「うん。ずっと、いつまでも一緒にいたいんだ。」
ミユキ「一緒にいようね。」

そして時は過ぎクリスマスとなる。今日は家で小さなパーティをすることとなった。
俺とミユキはコタツで足を絡ませながらテレビを見ていた。インターホンが鳴る。雅がやって来た。
雅「お久しぶりです、お兄さん。」
俺「はい、こんにちは。大きくなったね。」
雅「あはは、そんなわけないじゃないですか。お邪魔しますね〜。」
ミユキ「やっほ〜、やよいは?」
雅「遅れて来るって。」
3人でコタツに入る。

雅「ミユキ、今日は彼氏は?」
ミユキはちらっと俺を見る。俺は雅を見た。そして雅は首を傾げてミユキを覗き込む。
ミユキ「あのね、ホントはね、前の彼氏とはとっくに別れてて…。」
雅「お兄さんといい仲なんだ。」
ミユキ「そうなの。ごめんね隠してて。」
雅「ミユキ、いつもお兄さんのこと話していたものね〜。」
ミユキ「そんなことないよ〜。」
雅「でも、うまくいっていたみたいで良かった。ミユキさ、こっちから聞かないと彼氏のこと話さなかったものね。でもお兄さんのことは聞かないのに話して来るし。」
ミユキは顔を赤らめている。かわいいやつめ。
ミユキ「ジュース持ってくる。」

雅「お兄さん、良かったですね。」
と小声で言う。
俺「君のおかげでもあるんだよ。ありがと。」
雅は笑顔でこちらを見た。インターホンが再び鳴り、今度はうるさい奴がやって来た。
やよい「遅れてごめんね〜。ワイン選んでたらすごいたくさん種類があって。あっ、お兄さん。
久しぶりです。あ〜、寒い、寒い。ミユキ、グラス4つね。」
ホントにぎやかな子だな。っていうかワインって、こいつらうまいと思って買って来てるのか?
俺なんか未だにアルコール弱いし特にうまいとも思わないのにな。
ミユキ「乾杯はまだだよ。お料理まだできてないんだから。」

雅「じゃぁ、始めようか。お兄さんはここでテレビ見ていてくださいね。」
やよい「私もテレビ見てる。」
雅「だ〜め。」
雅がやよいを引っ張って台所へ連れていく。そして、台所からは楽しそうな会話が
聞こえ始める。学校でもあんな感じなのかな?親友がいるミユキが羨ましかった。
ミユキは俺みたいな対人スキルの低い人間を何とも思わないのだろうか?俺に
友だちがいないことを何とも思わないのだろうか?ついつい比較してしまう。
普段の生活では時々しか感じることのない劣等感も、ミユキの前ではあふれ出してくる。

前の彼女に対してはそんなこと思わなかった。なぜなら俺が劣等感抱く程可愛いってわけでも
なかったし、スタイルがすごくいいってわけでもなかった。ついでに言えば性格とかも引っ込み思案だったし、
社交性も俺と似たようなものだった。似た者同士がくっついていたわけだ。

しかしミユキは、彼女の持つものは、何であろうと全てにおいて平均を大きく上回っていた。
いわゆる高嶺の花というやつだ。言葉に表すと惨めになるが、俺はそのような身分の違う女性と
付き合えるなんて思うほど自分に自信は無い。普通に暮らしていたならばヒエラルキーの異なる
俺たち2人は出会うことなど無かったであろうし、接触しようとも思わなかったに違いない。
2人のベクトルは一生交わることの無い"ねじれ"の位置にあったはずだ。だが、"いとこ"という
繋がりが2つのベクトルを結び合わせた。しかしながら接点はできたもののそれは2人が釣り合うと
同義ではないことは俺でもわかることであり、すなわちミユキと一緒にいるということは常に不安も
一緒にあるということでもあった。

ミユキ「はい、あ〜ん。」
俺「ん?あ〜ん。」
ミユキ「おいしい?」
俺「うん、おいしいよ。」
今は目の前の幸せを味わおう、俺は思った。
やよい「本当においしい?」
俺「うん、何で?」
やよい「毒味成功だよ〜。」
俺「えっ?」
やよい「あはは、冗談冗談。」

また3人は台所でわいわいと料理を始めた。なんだか妹が3人できたみたいでいい気分だった。
そのうちクリスマスらしいおいしそうな料理が運ばれて来る。俺はテーブルを軽く片付けて
盛り付けられた皿を適当にアレンジしていった。そしてみんなコタツに入る。
 「高校最後の冬にかんぱ〜い。」
皆でワインを飲む。みんな少しだけ口をつけてグラスを置く。もし俺が今ころっと逝ってしまったら
たぶん満面の笑みで死亡していることだろう。友だちのいない俺はクリスマスパーティとか小学校以来
やったこと無い。誘う友だちもいないし、当然誘ってくれる友だちもいない。しかし今俺は楽しんでいる。
もしかしたら幸せというのは人間に平等に与えられる物なのかも知れない。無神論者の俺だけれども
ジーザス・クライストに心の中で感謝をした。

やよい「お兄さん、ワイン嫌い?」
俺「いや、アルコール弱いんだよ。見て判ると思うけど一口で赤くなっちゃうんだ。やよいは飲めるの?」
やよい「普通かな、雅がすごいよ。」
雅「私だって酔うよ。」
やよい「酔うけどいくら飲んでも眠たくならないし、いつもの調子だよね。」
雅「でもあまり記憶ないけどなぁ。ミユキはすぐだよね。」
ミユキ「うん、すぐ酔っちゃう。」
俺「ミユキ、あまり飲みすぎるなよ。」
ミユキ「大丈夫だよ、今日はお兄ちゃんと一緒だし。」
そういえばあの時は酔っ払っていたな。ミユキを1人きりにさせてしまったんだっけ。もう悲しませたくないな。

やよい「お兄さん、彼女は?」
俺はミユキの方を横目で見る、から揚げを食べている。雅を見る、ワインを飲みながらニコニコしている。
俺「あ、ああ、いるよ。」
やよい「どんな人?」
俺「かわいい、かな。」
やよい「写真は?」
俺「無い…ね。」
やよい「結婚は?」
俺「まぁ、時期が来たら、したいかな・・・。」
俺はワインの入ったグラスを持て余した。
やよい「で、お兄さんいつからミユキとそんな仲なの?」
口の中に何も入っていなくて良かった。危うく料理すべてをダメにするところだった。

俺「え〜と、それはどういう意味かな?」
やよい「ミユキ、もうえっちしたの?」
今度はミユキに言った。ミユキは少しむせた。
ミユキ「ばれちゃった?」
やよい「あんた隠し事できるような性格じゃ無いでしょ。ばればれだよ。」
なんだかすごいことになってきた。しかしミユキの若干不器用な面を知って嬉しかった。
結構しっかり者だと思っていたけど3人の中ではまるで俺のような不器用さを見せる。

やよい「で、どうなの?」
ミユキ「?」
やよい「えっち。」
ミユキ「まだだよ。」
もぐもぐしながらミユキは答えた。そしてやよいは続ける。
やよい「お兄さん、ホント?」
俺「あ、うん、本当だよ。」
やよい「信じられない。ひとつ屋根の下にいて…。」
雅「純愛なのよ。」
俺「そうそう、それ。」

なんだか恥ずかしくなって来た。俺の中では女子高生というものはそういう話をもうちょっと
恥ずかしく語るか、あるいはそんなこと話さないイメージがあった。もちろんガングロイケイケで
ナウでヤングな女子高生はふしだらな"やから"がいてもおかしくは無いと思っていた。
しかしこの子達は一応お嬢様だ。雅もいつも通りな感じだし。俺は女子高生を少々神聖化しすぎていたようだ。

やよい「ミユキはしたくないの?」
まだ続けるか、この子は。まぁ、実は楽しいからいいんだけどね。
ミユキ「したいよ。でもお兄ちゃんがダメだって。」
相変わらずもぐもぐと、から揚げばかり食っている。
やよい「お兄さん、何で?」
俺「まぁ、色々事情があるんだよ。」
やよい「ふ〜ん。」
やよいはそれ以上は聞いてこなかった。俺としてもそれ以上聞かれても答え難かったので良かった。
ここで俺の決意を話しても場がつまらなくなるだけだ。雅はあまり食べずにワインばかり飲んでいる。
聞かれっぱなしもなんなので、やよいに聞いた。

俺「やよいは彼氏いるんでしょ?」
やよい「うん。」
俺「えっちするの?」
やよい「女の子にそんなこと聞くかなぁ、普通。」
おいおいおい、なんだよそれ。…まぁでもそうだよな。
俺「いや、ごめんなさい。」
やよい「会う度にえっちしたがるのよね。」
話すのかよっ!俺は心の中でダイナミックに突っ込みを入れた。
雅「本当、男ってみんな一緒ね。」
ほ〜、君んとこもそうなのか。ミユキが上目遣いでこっちを見る。輪に入れないミユキかわいそう。俺だって辛いんだよ。

そんなこんなで時はあっという間に過ぎた。彼女達は今夜他の用事があるそうだ。たぶん家族や彼氏と過ごすのだろう。
ミユキ「すごい余っちゃったよ。雅もやよいも持って帰りなよ。」
雅「私達は家に帰ったらまた食べなくちゃいけないんだから。持って帰れないよ。」
やよい「そうそう、明日食べればいいじゃん。」
俺「おばあちゃんの家に持って行こうぜ。」
ミユキ「それもそうだね。」
ミユキはそこら辺のタッパにどんどん詰めていく。
俺「みんな忘れ物無い?」
「は〜い。」
前回同様2人を送ることになった。やよいを送り、雅を送り、病院へと向う。
じいちゃんを見舞い、ばあちゃんを家に送り、そして家に帰ってきた。

俺「叔母さんはいつ帰ってくるんだ?」
ミユキ「ん〜、わからない。」
俺「このままここに居たらお正月になっちゃうよ。」
ミユキ「一緒に初詣行こうよ。」
俺「まぁ、それもいいとは思うんだけど。ミユキの兄ちゃんたち帰ってくるだろう?そうすると俺とミユキの関係がさ・・・。」
ミユキ「この前会った時は問題なかったでしょ。」
俺「叔母さんいたし、一日で帰っちゃったからな。正月になったらたぶん数日はいるんじゃないか?」
ミユキ「私は気にしないけどな。」
俺「俺が気にするんだよ。」
ミユキ「とにかく早めに帰っちゃうのは駄目だからね!」
俺「わかってる、俺だってずっと一緒にいたいんだ。」
ミユキが両腕を前へ広げる。抱いてのサインだ。ミユキと抱きしめあうと安心する。すごく気持ちいい。
このまま何時間でも抱き合っていられそうな気がする。時々キスも交わせるなら一日でも抱き合って
いられそうだ。夏にミユキが北海道に帰り、そして今回俺が北海道に来るまでは耐えられた。
あまりに遠い場所に住んでいたから。今は手を伸ばせばすぐに届く位置にいる。
だから触れてしまう、キスをしてしまう、抱きしめてしまう。もっと、もっと、欲しくなる。
目の前に居るのに、俺の理性は大した事無いのに、将来への希望を守るためミユキを守る自分が居る。
ミユキとは一緒にいたい、でも早く離れたかった。幸せなのに、辛い。この日々から抜け出したかった。
でも結局は待つしかないんだ。ミユキが大学に入れば非日常のような今という時が、いつもの日常になるはずだから。

叔母さんから年明け前には帰るという電話を受けた。
飛行機の予約もなんとか取れミユキと二人で叔母さんの帰りを待った。
ミユキ「何でもっといてくれないの?」
俺「叔母さんも帰って来るしあまりベタベタしているところ見せたく無いよ。」
ミユキ「やだぁ〜。」
俺「泣くなよ。夏から数カ月我慢できたんだし、卒業まで3ヶ月だよ。」
ミユキ「何で、何でこんなに辛い思いしなきゃいけないの?」
俺は少し考えた。理由を言ってもしょうがない、ミユキだってわかっているはずだから。
俺「もう少し、もう少しだよ。」
ミユキを抱き締めた。本当に辛いことだ。一緒にいてもいい、仕事なんてまた探せばいい、
ミユキを安心させてあげたい。でも俺がここに残る理由が無い。じいちゃんに関しては
既に絶対安静の状態だ。ばあちゃんだってそう簡単に会えない。このままこの家にいる妥当な理由も
もちろん無い。帰るしかなかった。
俺「ミユキ。」
ミユキ「何…?」
俺「腕を見せてごらん。」
ミユキは少し考えたあと俺の言動を理解し、アクセサリーを着いている方の腕を俺に差し出す。
俺「ちゃんと学校でも着けてる?」
ミユキ「当然だよ。」
俺「俺も毎日ちゃんと着けてるよ。」
ミユキ「私だけ見てね。」
俺「ミユキ以外は見えないよ。」

叔母さんの帰りが遅いので俺はミユキをおいて去った。年が明け、いつも通り一人きりの正月を過ごす。
実家はバイクで簡単に行ける所にあるが、行ってもすることが無いという理由でもう何年もこんな感じだった。
ミユキが来ている時は足繁く通っていたのに、正月に会いに行こうとしない俺は親から見たらやはり変なヤツに
見えていたことだろう。

1月も終わりそうな頃じいちゃんの訃報を聞いた。父ちゃんから身内だけで葬式をやるとか聞いていたが
俺は行かなかった。別に親も来いとは言わなかったし俺の中で葬式に行かないことは"なぜか"気にすることでは
無かった。今思えば俺は身内だから行くべきだったし、父ちゃんは俺に是が非でも来いというべきだったと思う。
でも日常のよくある出来事のように普通にそれは過ぎ去った。俺がじいちゃんに対して流した涙は何だったのだろう?
俺はミソラに打ち明けた"雨の日の老婆の話"を思い出していた。

やはり俺には何かが足りない。自分の中に垣間見える冷酷さと他人への無関心さに俺は不安になった。
心の根底にあるものを簡単に変えることが難しいのはよくわかっていたからだ。

ミユキとの電話やメールでのコミュニケーションはずっと続いていた。受験勉強に関しては
問題なく進んでいるようだったし、不安とかストレスとかそういうものも感じていないようだ。
まだ高校生なのにそういう面では精神的にしっかりしている。一方俺は過去に3流大学に
落ちた後浪人した。次の年のセンター試験の二日目にドラクエ6が発売された。
俺は悩んだあげく二日目をサボりドラクエを買いに行ったことを思い出した。
結局今は高卒の身分だ。このエピソードに関してはミユキにはもちろん話していない。
もし話したらどうなるのだろう?ミユキとは好きな音楽、好きな映画、好きな食べ物いろいろと話した。
しかし前述のようなどうでもいい、それでいて話す必要の無いことはまだまだたくさんあった。
俺のこと全て知ったらどうなるのだろう?また不安は増えていく。ミユキは安心を得るために、
俺は不安を消すために、二人は二ヶ月後を待ち望んだ。

光陰矢のごとし。あっという間に二ヶ月は過ぎた。二ヶ月前は待ち望んでいたから永く感じたのだろう。
俺は年なんか取りたく無いがあっという間に20代後半になってしまった。実際は月日の過ぎるのは"早い"のだ。

早速物件探しにミユキと叔母さんは上京して来た。幸運なことに俺はネットでの物件探しは毎年やっている。
それを活用する名目で実家に行った。親の前ではあえて自然な振りをする。そしてネットに繋ぐために
俺とミユキは他の部屋へと移る。
ミユキ「会えたよ。」
ミユキは小声で言う。
俺「会えたね。」
俺も小声で応え、軽いキスを交わす。
ミユキ「ちょっと問題があるの。」
俺「何?」
ミユキ「お母さんも一緒に住むことになったの。」
俺「それは、なんだか、まぁ、いいんじゃない?大した問題じゃないよ。」
ミユキ「お泊まりできないよ〜。」
俺「昼間逢えばいいよ。」
ミユキ「・・・うん。」
俺「場所はどこらへんがいいって?」
俺は検索ページで条件を入力していく。いくつかに絞り叔母さんを呼んで見てもらう。物件も検索ページも
たくさんあるので数日はミユキと会う口実ができた。その時はミユキと逢えた嬉しさで気付かなかったのだが、
なぜ叔母さんが一緒に住むのかということをちゃんと考えておくべきだった。後々そのことがミユキを大きく
苦しめることになるとは夢にも思わなかった。

住むところも決まり引っ越しも終了した。ミユキは自由に出かけることができるようになった。
俺はミユキを"デート"へと誘った。と言っても通学路を一緒に歩いたりそこら辺で飯を食ったりというものだった。

ミユキ「お母さんが今日はゆっくり遊んでおいでって言ってた。」
俺「あ、そうなんだ。」
どういう意味だろう?夜遅くなってもいいってことかな?
ミユキ「大学も受かったし、引っ越しも一段落したし、後は…。」
ミユキは俺の腕を両手で掴み上目遣いにニィと笑って見上げた。そう、俺だって待っていた。
ミユキの高校卒業と言う制約はクリアされ、誓約は解禁されたのだ。

俺「ミユキ、服買いに行かないか?」
ミユキ「いいよ。でもどうしたの突然?」
俺「ミユキに失礼だからだよ。これからは俺もミユキに相応しい男になれるように中身も外見も
いい男になるよ。とりあえず今日は見た目を変えよう。」
ミユキ「かっこよくなったらモテちゃうじゃん。」
俺「そんな簡単にモテるようになんてならないよ。」
ミユキ「浮気しちゃダメだからね。」
それは俺のセリフだった。俺こそ言いたかった。でも何度も言うのはかっこ悪いし惨めなのでそういうのは控えていた。
俺「どんな女もミユキの前じゃ霞んじゃうよ。浮気なんて考えもしないって。」
ミユキは無言で俺の手をぎゅっと握った。
俺「じゃぁ、お店探そうか。」
ミユキ「うん。」

店員とミユキはああだこうだ言っては、俺に着せ替え人形のようにいろいろ着せる。そうこうするうちに決まったようだ。
はっきり言って俺はこれがかっこいいのかどうかはわからない。でもミユキも店員も納得している。こういう時に感じる、
やはり俺ってセンスないんだろうなって。その後、他の店でミユキにも自分の服を選ばせプレゼントした。
さりげなく俺の趣味が反映されるように誘導したのは秘密だ。二人は着て来た服を紙袋に入れ、買った服を着て歩いた。
普通の恋人のように手を繋ぎ、普通の恋人のように語り合い、普通の恋人のようにキスを交わした。
そして恋人だからお互いを欲しかった。表通りから一本裏に入ると、活気の無い冷たいコンクリート群が
それぞれの存在を場違いなデザインや下品な彩りで主張して建ち並んでいた。繋いでいたミユキの手に力が入る。
俺はミユキを見る。ミユキは下を向いている。俺達はその"街並みに微妙に不釣り合い"な建物に入った。

ミユキ「・・・来ちゃったね。」
俺「うん。大丈夫?」
ミユキ「ずっと待ってたんだもん…。」
俺「シャワー浴びておいで。」
ミユキ「…一緒に入ろ。」
俺「…そうだね、今までも何度か一緒に入ってたもんね。」

ミユキの家と違ってここのお風呂は二人で入りやすい。しばらくの間お互いの存在を抱き合うことで感じ合った。
そして風呂を出て無言で体を拭き二人ともバスタオルのままベッドへと向かう。ミユキがふわっとベッドに仰向けになり
バスタオルがはだけた。そして両手を俺の方へ広げた。俺は上に覆い被さる。しばらくお互いを抱き締めあう。
そのうちキスが始まる。もう止まらなかった。いつものブレーキは今日は必要無かった。障害となる物も何も無かった。
好きなように思ったままに進めばいいだけだった。たった数時間なのに、今までの数カ月間に知り得ることのできなかった
ミユキのかわいらしさ、しぐさ、表情などをたくさん発見した。ミユキに逢うまでの人生すべてを凝縮しても、
今という時の密度には敵うはずもなかった。至福というやつだった。

ミユキ「いや〜ん、恥ずかしいよ〜。」
ミユキは俺をポカポカ叩く。もう外は薄暗くなりかけていた。いつもの夕暮れが今日だけの夕暮れになった。
目に入る街の景色、空のグラデーション、ミユキの表情、すべてを記憶できるくらい精神が落ち着いていたように思える。
俺「ミユキ、これからもよろしくね。」
ミユキ「うん、アキヒロ大好き!」
ミユキは俺が倒れそうなくらい勢い良く飛びついて来てキスをした。俺はミユキをしっかりと受け止め、
その"人通りはあっても決して賑わうことの無い"通りで少しの間見つめ合う。
建物と建物の間から、地平線へと沈み行く夕日のオレンジがミユキの顔へと差し込む。
最高に美しかった。そして俺はミユキの唇を軽く奪う。

俺「今世界中で一番幸せな人って誰だろうな?」
ミユキ「お兄ちゃんと私!」



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