− エリ◆OAyPn2Aft2 さんの恋愛話 −

満開の桜が散り始めた朝、入社二年目で新人教育係を任された私は一時間早く出社するため、
愛車のbw’s100で通勤ラッシュの裏道を走っていました。
会社まであと百メートルと言うところで濡れたマンホールに後輪のグリップを奪われ、立て直そうとして
大きく路肩に逸れたときに運悪くスーツ姿の男性と接触してしまいました。
私はコケずに住んだのですが、男性は転倒して膝を抱えていたので、当然私は駆け寄って様子を伺いました。
「すみません!大丈夫ですか?」
「大丈夫、ちょっと膝を打っただけだから・・・」
男性はそう言いながら立ち上がり、その場を去ろうとしたのですが、高そうなスーツは転倒の際に汚れ、
膝が破れて彼の膝からは血が流れていました。
「ちょっと待ってください、スーツ弁償します!それと治療費も・・・」私は彼を追いかけました。
「急いでるんで、擦り傷だし、スーツも今回汚れたら捨てるつもりだったし、会社に着替えがあるので結構です。」
彼は、追いすがる私に足を止めずに言いました。
「すみません、後ほど改めてお詫びに伺いますので、名刺だけでも頂けないでしょうか?」
私が自分の名刺を差し出すと、
「じゃあ、何かあったらこちらから連絡します。」彼はそう言って名刺を受け取り、足早に去っていきました。

何とか早番に間に合い、慌しく午前中が過ぎ、ランチタイムに彼の事を思い出しました。
思い出してみるとなかなか私好みのスポーツマンタイプだと思いました。

彼からの連絡を待ちながら、忘れつつあったゴールデンウィーク、天気が良かったのでふらっと
最愛の愛車スパーダと共に海を見に行きました。
波に乗るサーファー達を見つめていると、一人のサーファーが荷物をまとめてこちらに歩いてきました。
あれ・・・もしかしてあの人?

近づいてくるに連れてサーファーの目付きが変わってきたような気がしました。
「確か・・・この間のバイクの子?」
意外にも擦れ違いざまに声を掛けてきたのは彼の方からでした。
「そうです、怪我は大丈夫でしたか?連絡が無かったので気になっていたのですけど。」
「そっか、それでわざわざここまで俺を探しに来たの?実は俺に惚れてない?」
初めて会ったときのクールな感じが見事に一転して再会した彼はかなりおどけていました。
「冗談冗談!もうなんとも無いよ。」彼は怪我が治っている膝を指差しながら言いました。
しばらく、あれから連絡を待っていた事や、たまたまふらっとバイクで海を見に来たら偶然会ったことなどを話していると、
「おう、英二!珍しいなナンパかよ!ま、頑張れよ!」と後ろからサーファー仲間に声を掛けられました。
彼は照れ臭そうに掌で仲間を追いやりながら言いました。
「腹減ってない?近くにピザの旨い店があるんだけど。付き合わない?」
「え、はい、この前のお詫びになるかどうかは分かりませんが、ご馳走させてください。」
「いいよ、誘ったのは俺だし、一人で食べても味気ないから。」
彼はそう言いながら、ウエットスーツを脱ぎ、私の目の前で着替えを始めました。
さすがに下半身はタオルを巻いていましたが、目のやり場に困りながらも彼の筋肉のついた上半身を見ていました。
「考えてみれば君の乗る場所が無いな。」
着替えを終えた彼は二人乗りのオープンカーの助手席にサーフボードを乗せながら言いました。
「私、エリって言います。バイクで着いて行きますから大丈夫です。英二さん。」
「あれ?何で俺の名前知ってんの?」彼が不思議そうに尋ねましたが、
「さっきお友達にそう呼ばれてたから。」私が答えると彼は納得してはにかみました。

私が彼の車の後をバイクで追いかける事3分で住宅街の中にある自宅を改装したような
小洒落た雰囲気のイタリアンに到着しました。
ディナータイムにはまだ早かったので店内はわりと空いていました。
「いつもの2人前とエスプレッソ、エリちゃんは飲み物何にする?」
彼は顔なじみな様子で、迷わずオーダーを決め、私はミルクティを頼みました。
「いつものってどんなピザなんですか?」
「魚介類は大丈夫だよね?後は来てからのお楽しみ。」
彼は悪戯好きな少年のような目をして居たのが印象的でした。

ピザの内容を言うと分かる人には分かってしまうので言いませんが、とても美味しかったです。
食事中は当たり障りの無い会話で終始しまして、連絡先の交換には至らず、
何故かすっきりしない気持ちで帰途に就いたのを今でも思い出します。
恋愛感情より憧れと言った気持ちが私の中で強く芽生えたことだけは確実であったと思います。
オープンカーに乗るサーファーってちょっとブランドかな?などと妄想してました事も事実です。

2日後の連休最終日、買い物先で彼と同じ車を発見し、暫く張り込むとやっぱり彼。
ナンバーが同じ市だったことは覚えていましたので、ご近所だなとは思っていましたが、生活圏まで一緒・・・
今考えるとストーカー行為ですが、私は衝動的にこっそりと後をつけてみることにしました。
あれ、全く私の帰り道と一緒だ・・・家の前を通り過ぎて2〜300メートル先の最近出来たマンションに入って行きました。
こんなに近くに住んでいたの・・・呆然としていると荷物を持った彼と目があってしまいました。

「エリちゃんどうしてこんなとこに居るの?もしかしてここの住人だった?」
彼は少し驚いた様子で声を掛けてきました。
「いえ、あの、すぐそこが私の家で、英二さんの車が見えたからそうかな?って思って・・・」
「ふーん、これも何かの縁だね。」
「そうですね・・・」私は何かの縁って言われた所に期待感を抱いてしまいました。

「あっそうだ、今からカレー作るんだけど食べてく?」
彼は食材の詰まったスーパーの袋を私に見せながら言いました。
前回のピザもそうですが突拍子で下心の感じられないさわやかな誘い方につい、
「いいんですか?この前もご馳走になっちゃったし・・・」と乗ってしまいました。
軽い女と思われたかな?そんな事を考えながらエントランスからエレベーターで彼の部屋まで来ました。
玄関に入りリビングに案内されたときは緊張してしまいましたが、ソファに座り部屋を見渡すと壁にはサーフボードが
綺麗に掛けられていて、掃除が行き届いていたのを覚えています。
男性の部屋に入るのは初めてではありませんが、こんなに片付いている部屋は記憶にありませんでした。
「綺麗な部屋ですね、一人暮らしなんですか?」
「親父とお袋は定年後、実家を売って海外に行ってしまったし、兄貴も姉貴も結婚して世帯を持ってるからね。」
「そうなんですか、妙に片付いてるから誰かと住んでるのかと思っちゃいました。」
「俺が掃除をしない男に見えた?」彼はおどけながら私に缶ビールを差し出しました。
「ごめんなさい、私バイクだし・・・」
「押して帰ればいいじゃん、それとも飲めないの?」
「ほとんど初対面の男性の部屋でいきなりお酒を飲む女ってどう思います?」
「俺は全然気にしないし、身元がここまで知られてるエリちゃんに何か悪いこと出来ると思う?」
彼の言葉って本当に爽やかで下心が見当たらなくてつい・・・
「そうですよね、英二さんの言うとおりですね。」と缶ビールで乾杯してしまいました。
対面式キッチンの向こうでは彼が料理に取り掛かり手際よくこなしているのが見えます。
「あの、何か手伝いますか?」少し落ち着かない私が訪ねると、
「お客さんなんだから座っててよ。」と彼の笑顔に窘められてしまいました。
彼は料理しながら、自分の事を色々と話してくれました。
高校時代、海の近くに住んでいたのでバイクに乗るか波乗りをするかで迷い、波乗りを選んだこと。
大学生の頃は波乗りに夢中になりすぎて留年しかけたこと。
私の会社の近くの超までは行かないけど一流企業に繰上げで就職できたこと。
今作っているカレーは一週間分の食料だということ。(笑)
そんな事を面白おかしく聞いているうちに食事の支度が出来たようです。

「ワインは赤でいいかな?」私がダイニングテーブルに座ると彼は私にワインを勧めてきました。
「はい。」お酒は飲めるのですが、あまり強くない私は、もう酔ったら酔ったどうにでもなれ!と言う気持ちで返事しました。
「おいしい!」ワインを一口飲み、カレーを食べた私の口からそんな言葉が溢れ出て来ました。
「嬉しい事言ってくれるね、唯一の得意料理なんだ。」彼は少し照れながら言いました。

食事が終わり、私が自発的に後片付けを買って出て、少し酔いが回っていたせいか、少し大胆な発言をしてしまいました。
「料理も上手いし、綺麗好きで・・・英二さんの奥さんになる人って幸せですね。」
「だったらエリちゃんがなってくれる?」リビングのソファでワイングラスを片手に英二さんがおどけて言いました。
これってもしかして告白?真顔でOKしたらどうなるんだろう・・・と硬直して返答に困っている私に
「ごめんごめん、冗談がきつかったね、少し酔ってるみたいだから気にしないで。」と彼がフォローしてくれました。
そのときの私は残念なのかホッとしたのかどちらかというと残念な気持ちの方が強かったと思います。

後片付けが終わり、食事のお礼を言って帰ろうとすると、
「バイク押して帰るんだし、外は暗いから送るよ。」とバイクを押しながら家まで送ってくれました。
車庫にバイクを入れて玄関先での別れ際に、煙草を買って帰ってきた父と鉢合わせしました。
「はじめまして、(苗字)と申します。エリさんを暗くなるまでお引留めして申し訳ございませんでした。」
と彼が丁寧に挨拶をしてくれましたので、それに好感を持った父が早とちりして
「ご丁寧にどうも、娘を宜しくお願いします。」と勘違い発言(笑)
少し照れながらでも満更でも無さそうな彼に期待感を覚えつつ家に入りました。

家で父に英二さんの事を聞かれたので、順を追って説明すると
「そうか少し気が早かったな。」と照れ笑いしていたのを今でもはっきりと覚えています。
その夜、携帯番号とメアドを交換していたので、
「今日はどうもありがとうございました。今度は私の手料理を食べてください。」
とお礼のメールを打つと、
「お礼だなんて気にしなくていいけど、肉じゃがと鯖の味噌煮が食べたいな。」
と5分後に返信がありました。
翌日、普段料理などしない私は書店で料理本を買いました。

料理本を見ただけでは心許ないので母に料理を教わり、次の週末に英二さんのマンションを訪ねました。

自宅で母の助けを借りて(内緒)下ごしらえをタッパーに詰め歩いて英二さんのマンションに着くと、
ちょうど波乗りから帰ってきたところらしく、住民用の洗車場でボードを洗ってました。
「ちょっと来るのが早かったですか?」確かに約束の時間には20分早かった。
「すぐ終わるから先に入っててよ。」と部屋の鍵を渡されましたが
「ううん、何となく気が引けるから待ってる。」と洗物が終わるのを待ちました。

部屋に入ると、キッチンの何処に何があるのかを説明され、彼はシャワーを浴びに行きました。
数分後・・・
「うん、いい匂いだね。」と彼がバスタオルを腰に巻いて出てきたのには少しびっくりしましたが、
おもむろに冷蔵庫から牛乳を出し腰に手を当てて飲んだのはコントみたいで笑ってしまいました。
「そんな風に牛乳を飲むのってテレビの中だけだと思った。」
「そう?銭湯なんかでは普通にある光景だけど・・・」
彼は少し照れながら寝室に着替えを取りに行きました。

「何かこうしてるとドラマの中の夫婦みたいだね。」
彼がリビングのソファで缶ビールを片手に寛ぎながら言いました。
「じゃあ、夫婦になっちゃおうかな?」って言葉が出掛かりましたが、冗談冗談wと交わされると悔しかったので、
「ドラマの中だから現実とは違うんじゃないの?英二さん生活感無いし・・・」
と、少し受け流してみました。

「俺ってそんなに生活感無い?」
「だって、部屋は私の部屋より綺麗だし、片付いてるし、男の一人暮らしの部屋じゃないよ。」
「部屋の整理整頓は親の躾が厳しかったからね。で、男の一人暮らしって?彼氏の事?」
「内緒・・・私だって恋愛経験くらいはありますよ。」

そんな話をしているうちに料理が出来上がり、ワインで乾杯しました。
英二さんは鯖の味噌煮を一口食べると私に言いました。
「へぇー、何かお袋の味付けを思い出すなぁ〜。」
「母親に教えてもらいながら作ったから・・・」私は言わなくてもいいことを自分から暴露してしまいました。
その後の会話は緊張していてあまり覚えていないのですが、食後に彼がコーヒーを入れながら言いました。

「俺、鯖の味噌煮とか肉じゃがとか上手に出来る女性って理想だよ。」
ここでどう反応しようか少し迷いましたが、ワインでほろ酔いになっての事だから取り消しは効くだろうと思い、
「それは私が理想の女性って事ですか?」と真顔で反応してしまいました。
真顔の私に彼は一瞬動揺を見せましたが、
「冗談冗談!ってはぐらかすのも失礼だからちゃんと言う。俺、エリちゃんの事好きだから付き合って欲しい。」
と、私に告白してくれました。
「えー、まだ4回しか会って無いけど・・・」私は少し困った風に切り出しました。
「そっか、そうだよね。まだ・・・」ここまで彼が言いかけたとき、
「初めて会った日から気になってたんですよ。」と目一杯の笑顔で言えたかな?<実際には引きつっていたかも。
「その言い方、ちょっと酷くない?」と言いながら彼は私の頬にキスをしてくれました。

私達は暫くテーブル越しに見詰め合っていました。
「エリちゃん、まだお互いの事よく知らないけど、これだけは約束して欲しいことってある?」
「構ってくれないと寂しくなるから、毎晩電話か、忙しければメールが欲しい。」
「分かった、約束する。」
彼はそう言うと私の両手を握り締めてくれました。


それから数ヶ月の付き合いを重ね、彼のオープンカーはミニバンに換わり、気が付くと私はサーファーになっていました。
BW’S100は通勤で使ってますが、スパーダはガレージで眠ったまま・・・
寂しい気もしますが、今はバイクに乗っているより彼と波乗りをしている方が楽しい時間に思えます。
そんな日々が一年近く続き、私は親公認で実家と彼のマンションでの二重生活を送っていました。

ある日、いつもは10時過ぎにならないと戻らない彼が6時前に帰ってきました。
「エリちゃん、来月からオーストラリアに行く事になっちゃった・・・」
「えーっ!それでどれくらい向こうに居るの?」私は正直びっくりしました。
「短くて一年、長ければ3年・・・」彼は複雑な表情で答えました。

どうしよう、年に1〜2回帰国するとしても長ければ3年も英二さんと会いたい時に会えなくなる・・・
一緒について行くわけにもいかないし、第一英語なんて理解不能・・・
彼の話では向こうで実績を上げて帰国すれば若くして役職が貰えるとの事。
雑誌でも読みましたが>>193の言うように波乗りには最高のシチュエーション・・・
彼はスーツで気持ちをスイッチングし、仕事に対しては責任を持って取り組むタイプ。
事実、スーツを着た英二さんはまるで別人格が出たように軽口を叩きません。

私たちの事を考え、複雑な表情をしてはいるものの、100%向こうに行く事になるだろう。
私は遠距離恋愛に耐えるか、ここで別れるか、を選択しなければならない。
言葉の違い、今の仕事、親への体裁(籍を入れなければ許可は下りないと思う)などで、
一緒に向こうへ行くという選択肢は考えられなかった。
私は「遠距離恋愛に耐える。」という選択をしました。

「3年なんてすぐじゃない。行ったきりになるわけではないでしょう?」
「うん、盆と正月には帰って来れるけど、待っててくれるの?」
「そのかわりマメに連絡頂戴ね。私もお金貯めて何回かは会いに行くね。」
「ありがとう、今夜は外食しよう。ちょっとシャワー浴びてくる。」
彼は目に溜めた涙を隠すように浴室に向かいましたが、私には見えてしまいました。

翌日から引越し準備が始まり、と言っても大した荷物ではなく、サーフボードを丁寧に梱包した程度・・・
私は通信手段としてパソコンを買い、国際電話の安い電話回線を契約しました。
出発の朝、仕事の関係で空港まで見送りにいけない私は、前夜から彼のマンションに泊まり、
朝食を作り、行ってらっしゃいのキス、まるで妻が夫を玄関先で見送るような状態でのしばしの別れでした。

彼と離れ離れになって初めての週末、私は数ヶ月振りにスパーダのシートをめくりエンジンを掛けました。
すんなりとエンジンがかかり、乗らなかった事へのお詫びも兼ねて洗車しました。
ピカピカになった最愛のスパーダは、
「せっかくだから海まで走ろうよ、その海の向こうには英二が居るんだよ。」
と私に語りかけているようで・・・<そんなことは無いですね。
気が付くと何度も波乗りに行き、偶然再会した海に向かって走っている私が居ました。
「もう寂しくなっちゃったのかな?」
あの時の砂浜で水平線に見えるはずの無いオーストラリアを見つめながら自分に問いかけました。
以来、寂しくなるとここへ来て海の向こうを眺めることが何回有ったでしょうか?

お正月に英二さんが帰国した時は、トイレ以外は一緒に居る生活でした。
GWに私が向こうに行った時は波乗り三昧で楽しく過ごせました。
お盆に彼が帰国、秋に休みを取って私が会いに行く、そしてお正月・・・
今年のGWには両親を連れて渡豪し、お盆に婚約しました。
取り合えず彼の携わっていたプロジェクトは成功し、現地の人に引継ぎを残すのみとなりました。
先週来たメールではクリスマスに一時帰国して二月半ばに完全帰国、二月中に本社報告をすれば、
3月はリフレッシュ休暇が与えられ、四月からは役職付きで本社勤務だと書いてありました。

笑ってしまったのは、追伸に
「こっちの波に慣れちゃって日本の波じゃ物足りなくなるだろうから、バイクに乗ろうと思ってる。
リフレッシュ休暇中に免許を取るから、バイクの乗り方教えてね!」
と書いてあった事です。



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