− ヒゲカメラ さんの恋愛話 −
| 夏の同窓会の時の話し。 車の無い俺と友人はバイクで行くことにした。で、人も集まってきて乾杯!! 俺は、バイク置いておくのが心配だったのでウーロン茶・・・。 で、花火しに行こう!と言うことになって、飲酒したやつは飲酒してないやつの 車に乗って移動する事に。女の子達が「名無し(俺)のバイクの後ろにも人乗せられる?」 と言ってきたがヘルメット一つしか無かったから「ヘルメット一つしか無いから無理」と答えた。 そこに、泥酔状態の友人石井(仮名)が 「俺、飲んじゃったからぁ〜メット貸すよ。女の子乗せてやれよ〜へへへ」と・・・。 一人、車からあぶれてしまった夏希ちゃん(仮名)を乗せることに。 「おっきいバイクだね!!」と、なかなか好印象。で、目的地の川原に出発。 腰に回された手がなかなか・・・。川原で、花火してると友人達也(仮名)が俺のところに来て、 「よぉよぉよぉ!どうだったよ?夏希ちゃんは?」と俺に聞いてきた。 「何も無かったよ」と普通に答えると。彼は。「しかしなぁ、お前みたいな カメラマン崩れのヒゲ顔にも女寄ってくるんだなぁ(ゲラ」の一言に、カチンときた。 (俺は、高校卒業してカメラマン目指して修行中。今は小さなスタジオでアシスタント してる。彼はそれをネタにしたようだ)で、震えがくるくらい怒った。思いあまって、ぶん殴って しまった。普通の人なら、思いっきりぶん殴るんだろうけど、小心者な俺は軽く殴った。 そこで、石井(仮名)が来て止めに入ったけど、こんがらがって最終的には5人くらいの殴り合い・・・。 取りあえず、殴り合いは終わったけど、楽しめるような雰囲気じゃなかったから、その日は帰った。 普段は安全運転なんだけど、その日は遠回りして峠を南海も走った(上手い訳じゃないけど・・・)。 それで、その日は上手くも無いのに峠を走って家に帰った。 寄ってたかって殴られたり蹴られたりしたから、顔や体中が アザだらけ(その日峠で転んだときのアザもあるんですが・・・)。 痛てぇ〜なぁ〜、と思いつつ。ボーっとしてると、中学生の頃の事を 思い出した。俺は、クラスの中では目立ちもしない目立たないわけでも ない人間だった。クラスの中には当然、派閥みたいなのができてて、一番 人数の多い派閥のリーダー格が、達也(仮名)だった。彼は夏希ちゃんの事 が好きで、その当時告白したけど断られた。今回、達也(仮名)が、俺に 突っかかってきた理由が分った。大して、目立つわけでも無い俺がバイク なんかに乗って現れて、夏希ちゃんとタンデム。これが彼にとっては 気に食わないことだったんだろうと。俺もひそかに夏希ちゃんの事が前から 好きだったから、調子に乗ってたかもしれないけど。 次の日、お盆休みで何もやることが無くてバイクの手入れをしてたら、 石井が連絡してきた、「昨日はあんなだったから、今晩やり直そう!夏希ちゃんも ちゃんと呼んだから!」と。行く気は無かったんだけど、気分転換もしたかったから 行くことにした。何よりも、夏希ちゃんの顔を見られるのが嬉しかった。 待ち合わせの場所に、バイクを止めて待った。誰も来てなかったから、バイクに 跨ったまま、ボーっと色々考えてたらバランスクズして転んだ。いつもなら、一人でも 笑ってごまかせるんだけど、笑えなかった。あまり、吸うことのない煙草を吸って 待ってると、みんな集まりだした。しかし、石井黄色いVTR1000F格好いいなぁ、と思って眺めてると彼は半キャップだった・・・。(後から聞いた話、彼は昨日のゴタゴタでヘルメットを無くした らしい。多分、川に流れていったんだと思う。) 達也はやっぱり来なかった。「あ、昨日は乗せてくれてありがとうね。 バイクって結構気持ちいいね。」夏希ちゃんが声を掛けてくれた。二人っきりで話した 訳じゃないけど、嬉しかったなぁ。 その日、集まったのは6人だった。誰かが、花火を問屋から 大量に買付けてきたらしく、昨日の騒動が無かったかのように 盛り上がった。楽しい事は確かなんだけど、やっぱり心の底か らは楽しめなかった。石井と、バイクの話しをしてると可菜ちゃん(仮) が俺らのところに来た。「昨日は大変だったね、凄いアザ!w でも、 悪いのは達也だからあまり気にしない方がいいよ」と、それから 可菜ちゃんと石井とで、バイクの話しをした。少し立つと、何人かが 集まってきて、バイクの話しにわいた。誰かが、「俺、免許持ってないから 後ろ乗せてよ!」と、言ってきたので石井のヘルメット(半キャップ)を 借りて、自分のフルフェイスを後ろのお客様wに使わせて、何人か乗せてみた。 普段乗ることのないバイクに乗って、楽しかったらしく、免許を取りたいと言う人 が何人かいた。(俺が、試乗wさせてる間に石井は可菜ちゃんと川原の端っこ で仲良く話しをしていた)「私も、もう一回乗せて〜」と言ったのは、夏希ちゃん だった。周りの連中が俺を冷やかす。でも、なんだか良い気分だった。 「どこに行きたい?」と聞くと、「バイクの広告とかって峠道とか走ってるよね? もし良かったら峠道とか行ってみたいけど、いい?」と、少し申し訳なさそうな 顔で言ってきた。断る理由はないから、もちろん快諾。 夏希ちゃんは、キャミ一枚で寒そうだったし、転んだ時の事を考えてレザージャケット と石井のグローブを貸した。そして峠に向かった。 途中信号待ちの時、声を掛けようかどうかかなり迷った。自分が 憧れていた夏希ちゃん、俺には手の届かないところにいる夏希ちゃん。 そう考えると、緊張してしまう。でも、声をかけてきたのは夏希ちゃんだった。 「あんまり飛ばさないんだねぇ、バイク乗ってる人って、マナー悪いくらい飛 ばすのかなぁって思ってた。」俺は、交通の流れとかの事を話すと、納得して くれた。目的の峠へは、まず反対側の比較的短い峠を登って、回り道して 目的の峠へ行く。夜になると全く通る車が無く、夜景がすごく綺麗な所で、 一度、好きな人と来てみたかった場所だった。 峠に入って、きついコーナーを回るとき、俺の腰に回された夏希ちゃんの 手に力がグッと入る。俺は、コーナーを回るたびに緊張した。峠の中腹に は、駐車場と小さな東屋がある。そこが一番夜景が綺麗な場所。そこに バイクを止めて、少し休憩することにした。 「やっぱり、バイク気持ちいいねぇ!風を切る感覚がすごくいいね!」 夏希ちゃんは、かなり満足してくれた。俺はそれだけでも感激だった。 「昨日は、何か俺のせいで楽しい場ぶちこわしちゃったなぁ。ごめんね」と 謝ると、表情に少しかげりが見えたような気がした。しまった!!と思って 、何て話しかけようか迷ってると、夏希ちゃんの方からまた話しかけてきた。 「達也って、見た目格好いいけど性格がアレだよね・・・。ヒゲカメラは知らないと 思うけど、高校に入って4回も付き合おうって、言われたんだよ・・・。」達也が 夏希ちゃんに好意を抱いてるのは知っていたけど、そんなに必死になってるとは 思わなかった。「でも、あいつは他に付き合ってる人が2人いたんだよ!それも 噂だと、体目的だったらしいよ・・・。」俺は、まともに恋愛経験も無かったし、 女の子と話す機会はスタジオにいるアシスタント仲間の、女の子くらいだった。 だから、こういうときどういう風に話しをすればいいのか分らなかった。 困った俺の気持ちに気付いたのか、夏希ちゃんはバイクの話しにそらしてくれた。 夏希ちゃんは、俺のバイクに跨って「私にも免許取れるかなぁ?」と、 にっこり笑顔で俺に聞いてきた。街灯にてらされたその笑顔がとても 可愛かった。「大丈夫だよ、女の子で免許取って運転してる人はいっぱい いるから。もしかして、バイクはまっちゃった?」夏希ちゃんは、俺のバイクで モトGPのライダーのような真似をしながら、「うん!私って特に趣味無いから バイク趣味にしたいなぁ、って思って。」夏希ちゃんは、足の届かない俺の バイクからトン!と軽く跳ね降りた。珍しげに、タンクの所をさすったり、ポンポン 叩いていた。俺は、その時決心した。どうせ駄目だろうけど、夏希ちゃんに思い切って 告白してみようと。でも、その決心はすぐに崩れた。もう、どうでもいいことなんだろうけど 、達也の事が気にかかった。結局、その日は何も出来ずじまいで終わってしまった。 最後に、夏希ちゃんに好きな色を聞いておいた。「白と赤かかなぁ、何かおめでたい 感じするでしょ?」 次の日の朝、石井や俺、他のライダー仲間が集まるバイク屋に歩いていって、 フルフェイスのヘルメットを一個買ってきた。夏希ちゃん用にだ。自分の彼女で も無いのに何やってるんだろうなぁ・・・。陽炎をぼんやり見つめながらダラダラ と歩く。ポケットに入れてあった、型遅れの携帯が鳴った。見たことが無い番号 だったから、出るのに躊躇した。取りあえず出てみることにした。「ヒゲカメラ? 俺だけど。」聞いたことのある声、手と背筋が冷たくなる。達也だった。 達也の声は少し暗かった、むしろ怒ってるような声だった。 怒っても仕方ないのかもしれない、みんながいるところで 殴って恥をかかせてしまったから。「お前、今日の夜どうせ 暇だろう?×○峠の駐車場まで来いよ。俺とお前で勝負 するからな!」勝負する理由は簡単に分った。夏希ちゃん の事だろう。「お前、バイクの免許持ってるのか?」と、聞くと 「あるわけ無いだろ。誰が、あんなチャリにエンジン付けたような モノに乗るかよ!ばーか!俺は車だ。今晩の12時までに来いよ、 来なかったら、お前フクロにすっからな!」そして、間髪入れずに 電話は切れた。 最初は、やるかやるまいか迷った。もちろん公道で危ないことを する、しかも車とバイクで。こんな、小心者の俺でも夏希ちゃんの 事はどうしても譲れなかった。だから、勝負することに決めた。 取りあえず石井に連絡して、脊椎パッドを借りてきた。理由を 聞いてきたが適当にごまかした。家に帰って、普段あまり着ることの ない、革ツナギと履くことのないレーシングブーツを出した。この格好で メットかぶって喧嘩したら痛くないかな?と、変な事を考える。ツナギには プロテクタ付いてるし、脊椎パッドもある。何よりメットがある。そんな事を 考えてると、昼を回った。昼飯を食べて昼寝した。 昼寝して起きると、2時だった。ボーっとしてると、良くないことばかり 考えそうだったから、庭の草むしりをした。木に蝉を見つけた。捕まえ ようとして、おしっこをかけられた。普段なら怒って追いかけるんだけど 今日はそう言う気分になれなかった。 畑に行って、トマトとキュウリを獲って食べた。ドが付くほどの片田舎 だから、土地は無駄なくらい広い。野菜を作るには最適だ。玄関の前で ガリガリムシャムシャしてると、仕事や大学で一家離散状態の両親と妹 が帰ってきた。「せっかく家族みんなそろったんだから、今日は盛大に飲 むぞ!」と、親父は俺に言ってきたけど、丁重にお断りした。「レーシング ブーツ出してるから、変だと思ったけど、そうかわかった。気を付けて行って 来いよ。俺が事故った時の話し覚えてるな?」親父は、若いときにバイクで 3回事故って3回目で、小指の第一関節までを切断したことがある。上手く くっついたけど、今でもくっつけた跡がおかしく曲がってる。 妹のKLXのチェーンを親父と張り直してると、電話がかかってきた。達也だった。 「お前、逃げようなんて考えるなよ。逃げたらフクロだからぁ。笑ったり泣いたり 出来なくしてやる!」どこかで、聞いた台詞だ。確か、フルメタルジャケットの 鬼軍曹の台詞だったと思う。 食卓にはたくさんの料理が並べられていた。「この野菜、あんたが作った野菜だよ。 若いのに良くやるわね」と、母に誉められたけど。素直に喜べなかった。部屋に戻って その時間を待った。じっとイスに座って、チェッカーフラッグの描かれたコーヒーカップ を見つめた。俺に振られるのかな?変な事をずーっと考えてると時間が来た。 イスから立ち上がって、脊椎パッドを装着してツナギを来た。 あまり似合わないなぁ、と思いつつ部屋を出た。家族にばれないように こっそりと、玄関を出た。エンジンをかけて、暖機していると親父が 玄関から現れて、「気を付けて行けよ。あまり熱くなるなよ!」と、言われた。 でも、熱くならずにはいれなかった。とにかく、頷いてバイクを走らせた。 峠までは、20分くらい。途中、緊張のあまり喉が渇いてコンビニで少し休憩 した。時間にはまだ、余裕がある。その間、どう勝つか考えていた、危ない ことは絶対に出来ない。平謝りは格好悪い。また、変な事ばかりだった。 峠の一番上には、車を止めて休めるように駐車場と、トイレがある。そこで 待ち合わせする事になっていた。もう、そこにはギャラリーが押し寄せていた。 まさか、ギャラリーなんているとは思わず、びっくりした。達也が、歩んできた。 「良く、逃げなかったなwみんなにお前の負け犬姿っみせる為に、みんな集めて やったんだ、有り難く思えよ。」このとき、殺意が芽生えた。「負け犬」この言葉が カチンと来た。度し難いバカに罰を与えてやる。普段、思わないような暴言が頭の 中をよぎる。 駐車場には、車高を下げた高級車やワゴン、スポーツカーが停まっていた。 達也は自分の車に寄りかかって、女の子達と話しをしていた。車の事には 無知だから、よく分らなかったけど、彼の乗る車はシルビアというそれ系の 車だった。「何!?あのバイクぅ〜、派手だねぇ。バカぁ?ははは!」と、 他の女の子達が笑っている。確かに、イタリアンレッドは目立つ。彼女らに 怒っても仕方ないな、と思い黙って要所のチェックをする。全て問題なし、自分の テクニック以外は。 達也はまだ、走る気はなさそうだ。俺は、一人で縁石に座りながら煙草を吸っていた。 電話鳴る。「お前、何考えてんだ!?それで脊椎パッドかよ!」石井が、半ば怒ったような 口調で、電話してきた。「ごめんな。どうしても譲れないからさ、それで・・・。」数秒の 沈黙が続いた。「俺も今から行く。待ってろよ!」さっきと違って、明るい口調になった、 「ピットクルーがいないと、レースにならないだろ?ドクター石井が行ってやる!」 頼もしいやつだ。けど、半分楽しんでるだろ?そう、思ったけど言わなかった。 「見届け人来るから、もう少し待ってよ。」俺がそう言うと、達也は、ニヤニヤ笑 いながら肩に手をかけた。 「なに?一人じゃ寂しいから、女でも呼んだの?夏希呼んでやろうか?」と、俺を バカにしてきた。熱くなるなよ!親父の言葉がよぎった。「そう言う訳じゃないけど、 石井が見たいっていうから。それで・・・。」必死でこらえた。グローブを持つ右手 に力が入った。 石井が来た。「何だ、この連中は。邪魔だな!セッティングしてきたのか?」 石井は俺のバイクを見なが言った。「ちゃんとやってきたんだな。負けるなよ! あんなチンピラに負けたら恥だぞ!!いいな!!!」石井は強く俺の肩を叩き がら鼓舞した。俺は、無言で強く頷いた。言葉は出なかった。 エンジンかけて。スタートラインに着く。達也は空ぶかしして俺を威嚇してきた。 俺の顔をバカにしたような顔で笑う。シールドを降ろして、前を見る。闇に飲み込 まれそうなほど暗く見えた。スターターが手を振り落とした。タイミングがつかめず 少し、出遅れた。達也のすぐ後ろに付いた。約50メートル先に、Rの少しきつい 右コーナー、まずはいいラインで突破。とにかくそのコーナー以外で、あまり覚えてる ところがない。 何とか追い抜いたが、達也は俺に車の鼻先を何度がぶつけた。バランスが崩れる。 危ない!!そう思ったが何とか立て直せた。あの時、運良く立て直せたけどもし、 転んでたら、そのまま崖下に落ちて行ったかもしれない。 どれくらい走っただろうか、ゴールが近くなってきた。もう、ギャラリーが見えてきた。 後ろから、おかしなエンジン音が響く。今まで聞いていた達也の車のエンジン音 ではない。猛スピードで、まさに俺にぶつかる勢いだった。殺される。そう思って、 必死に前を睨んで走った。そのままゴール。すぐ左端にバイクを寄せた、達也の 車はそのまま突っ切って行った。 ヘルメットを脱ぐと、一気に緊張が解け体中が震えて立っていられなくなった。 その場に座り込む。それから、すぐに石井がやってきた。「どうだった!?勝ったのか? 負けたのか!?」息が切れて喋れない。震えた体で、何とか頷いた。達也が戻ってきた。 車から、へらへらしながら降りてきた。「お前、ぶっ殺してやるよ!!」と、言われ一発 殴られた。でも、殴り返す余裕は無かった。石井や他のギャラリーが止めに入ったが、 何回か殴られ蹴られた。脇腹に思いっきり蹴りが入った、たまらず側溝に吐いた。 とても苦しかった、できるなら抵抗して思いっきり殴ってやりたかった。でも、抵抗出来るだ けの体力はすっかり消耗していた。体力があったとしても、まともに喧嘩なんてしたことの 無い俺が抵抗しても勝てないと思った。 達也は俺が苦しんでる間にどこかに行ってしまった。勝ったのは 自分だけど、小心者の俺は彼に悪いことをしたような気がしてならかった。 取りあえず、ゆっくり運転しながらスタートした地点まで戻った。さっきは、 風景なんて見る余裕は無かった。ふ、と横を見ると夜景がとても綺麗だった。 駐車場に戻ると、さっきまでいたギャラリーは数人が残ってるくらいで、後は いなくなっていた。「勝ったんだから、もう少し元気出せよ。記念にその脊椎 パッドはやるよ。ちゃんと今日の日付入れとけよ。」石井は、自分が勝ったかの ように喜んでくれた。俺は、どうしても心の底から喜べなかった。俺が勝ったとし て何かいいことあるのだろうか?夏希ちゃんはこれで、俺になびいた訳じゃない、 俺が告白しても、成功するかは分らない。むしろ、振られる方が確率としては 大きいかもしれない。 緊張が解けたせいか、腹が減った。石井と、近くのファミレスで食事した。 「なんだぁ?それだけかよ。もっと、喰えよ。俺のおごりだぞ!!」そう言うと、 カツカレーを2つと、フライドポテトを注文した。 石井に全てを話した、大体のことは彼も知っていた。「夏希ちゃん心配してたんだぞ。 お前らの事聞いて。もうやめろよ、こんな危ないことは。」石井に笑顔はなかった。無言で 頷いた。「俺のやったことって、正しかったかな?勝ったって夏希ちゃんが俺を好きに 鳴ってくれる訳ないし・・・。」カツカレーを食べながら、石井に聞いた。石井は、「お前、 勝てたんだぞ!!勝てたんだ!これで少しは自信付いたんじゃないか?今回の事は お前に色々な面で、もちろん夏希ちゃんの事もだけど、自信付けるための勝負だったんだよ! そう思えば無駄じゃない。」この言葉にかなり救われた、涙が出てきた。 今まで、何をやってもうまくいかなかった。運動も勉強も、写真も恋愛も。でも、石井に言われ て、今回の事で自信が少しついたような気がした。 その日は、石井と色々なことを語っては色々な物を食べた。 家に帰ると両親と妹はまだ酒盛りをしていた。「お帰り!お前も飲むだろ?」 親父は、顔を真っ赤にしてウイスキーの入ったグラスを差し出した。「なんだ? 顔がやつれてるぞ。そんなに白熱したのか?」と、いきなり核心を付かれた。 酒を飲むような気分じゃなかった。 風呂に入る。汗でびっしょりになった革ツナギを脱ぐ、スッポンポンになると 体中がアザだらけだった。かれこれ、二回くらいボコボコにされたからだろう。 「情けない!」と、独り言を言ってシャワーを浴びる。体を擦ると痛い。 勝ったんだけど、何故か喜べない。夏希ちゃんに、まだ告白して成功したわ けじゃないから。俺が、「付き合ってくれる?」と聞いて、返ってくる返事は だいたい分る。取りあえず、その事は考えないことにした。 部屋にはいると、机の上におにぎりと漬物、お茶があった。母が差し入れてく れたんだろう。それを頬張りながら、カメラバックからカメラを取り出す。何気なく 自分の顔にレンズを向けてシャッターを切った。今の自分の顔は一体どんなだろう? 悲壮感と疲弊感のにじむ顔なのか?それとも、誇らしげな顔なのか?これ以上、 やることがない。全てやりつくした感じだった。おにぎりを全部食べて、その日は 寝た。 次の日、石井から電話。「起きてたか?天気いいからどっか遊びに行かないか? 他に誰か連れて。」その日は、気分がすっきりしていたので、遊びに行くことにした。 バイクで行くのかと思いきや、今日は石井が車を出すと言う。支度をして、待ってると 石井が来た。車に乗り込むと、冷たいコーラの缶を股間にポンと落された。「昨日は よく眠れたか?」昨日は疲れもあったせいかよく眠れた。「ん、よく眠れた。腹も一杯 だったし。昨日は悪かったなあんなに奢ってもらって・・・」石井は、照れながら煙草に 火を付けた。「あぁ、別にいいんだ。たまにはな。あぁ、出かける前にちょっと寄ってく ところあるから。」そう言うと、いつも通る道をそれた。着いたところは、知らない家。 「ここ、誰の家?親戚?」と、俺が聞くと石井はにやりと笑って「可菜ちゃんち・・・」 と嬉しそうに答えた。何で独り身の俺がお前のデートに付き合わされないといけないんだよ。 そう、言おうと思ったが彼にはかなりの借りがあるので、「そうか・・・。」とだけ答えた。 15分待った、コーラを空けて飲む。20分待った、あまり吸わない煙草を吸う。25分待った、 「いつ来るんだ?可菜ちゃん」石井は、煙草を吹かしながら「女は時間かかるんだ・・・。」 とうとう、待ちきれずに電話をかけようとしたら可菜ちゃんがやってきた。「ごめんごめん!! 服選ぶのに時間かかっちゃった!!ごめんね・・・。」としょんぼりとした顔で言う。石井は 「あぁ!大丈夫大丈夫!こいつと話ししてたからあっという間だったよ!」と、実際話したの は、「そのコーラ美味い?」「うん」「一口ちょうだい」「ほら」、くらいだった。「あ、ヒゲカメラも 来てたんだ!話し聞いたよ、けがとかしなかった?」可菜ちゃんは何故このことを知ってるんだ ろうか?昨日の今日なのに・・・。石井が漏らしたんだろう。適当に可菜ちゃんに答えた。 「もう一件、寄ってくから。」 車の中で可菜ちゃんが心配そうな目でまた言った。「ねぇ、なんか顔がやつれてるよ。 本当にどこも怪我しなかった?」心配してくれるのはとてもうれしかったけど、なんだが 心配されると恥ずかしかった。「うん、大丈夫だよ。ちゃんと食べたし、休んだから」 とりあえず、できるだけの笑顔を作って答えた。 「これからどこに行くんだ?」石井に聞くと、にやりと笑って答えた。「海に行くんだぁ。今日 は天気もいいし。最高だぞ!これからお前の会いたい人も一緒に連れてくから、その元気 なさそうな顔は着く前に何とかしろよ。」と言われた。俺の会いたい人と言えば夏希ちゃんしか いなかった。石井の言うとおり顔を何とかしようとサイドミラーを見てイーと笑顔を作ってみた。 可菜ちゃんに思いっきり笑われた。それが良かったのか、車の中が盛り上がった。 夏希ちゃんの家の前に来ると、夏希ちゃんはもう待っていた。「おはよう!!」と元気に挨拶 してくれた。昨日のことを思うと少し気まずかった。 車の中では、なぜか昨日の事には誰も触れなかった。そのかわりバイクの話で盛り上がった。 「えっ!?あれってブレーキじゃなくてクラッチだったんだ!?」どうやら、夏希ちゃんは バイクにクラッチがあるのを知らなかったようだ。「ヒゲカメラって本当にバイク好きなんだねぇ、 バイクの話してるときは本当に楽しそうだよ!」と、言われて少し照れた。 俺たちが住んでるところは、内陸の田舎だから海に行くのには少し時間がかかる。 話も尽きて、後ろに乗っている女の子二人は眠っていた。「元気出てきたようだな。」と 石井が小さな声でつぶやいた。苦笑いしながら頷いた。「まぁ、後は楽しむだけだ。その後 の展開はお前に任せる」そう言われて思った。石井は俺に、ここで決着を付けてしまえ、と 言いたいのだろう。静かに頷いた。 少し坂になった信号の手前まで来た。坂の向こうには海が見えいた。女の子二人は いつの間にか起きていたらしく、海を見てはしゃいでいた。「みんなにいいもの聞かせて やろうか!?」石井が一枚のCDRをオーディオに入れた。なんだか聞き覚えのある シンセサイザーの音色・・・。「え〜、この曲はヒゲが演奏したものでぇす!ちなみに、 シンセベース俺でぇす!」やめてくれ!恥ずかしい!この後俺の声が入るんだ!! そう思っても言えなかった、ここでそう言って止めると白ける・・・。「えぇー、これヒゲが 弾いてるの!?凄い凄い!って、ピアノとか弾けたっけ!?」可菜ちゃんが思いのほか 喜んでくれた。「あぁ、そういえば小学生の時ピアノ教室通ってたよね!」と夏希ちゃんが 思い出したくないことを思い出させてくれた。 白いタイツをはいてステージに立って演奏しようとイスに座る。何をすればいいのか分からず そこで泣き出してしまった・・・。嫌な思い出。 「うん、まぁ。少しだけどね、弾けるんだよピアノ。中学の合唱際の時も俺弾かせられたしねぇ」 と、苦笑いで答える。「なんて言う曲?」可菜ちゃんが聞いてくる。曲名は、YMOの千のナイフの ライブヴァージョン。でも、彼女らにYMOだよ、と言ったらどう思うだろう・・・。いい若い男が、おじさんが 聞くような曲を聞いていると言うと、やっぱり白ける!!少し、う〜んと何だっけ?ととぼけた。 「あぁ、この曲ねYMOの千のナイフって曲のライブバージョンだよ。俺たちふが 生まれる前にはやった曲だよ!」石井が言ってしまった・・・。案の定二人はきょとん として、不思議そうな顔していた。「YMOって?」と、夏気ちゃんが聞いてきた。「え〜と ねぇ、昔はやったテクノのグループだよ」と言うと、「へぇ〜」とあまり関心のなさそうな 返事。「でも、いい曲だよねぇ〜」と少し気に入ってもらえたようだ。スピーカーから 「メンバーを紹介します・・・」と、自分の声。笑われた、「声震えてるねぇ。ww」とか、「緊 張してるねww」とか・・・。「こいつ、出番前に何度も何度も大丈夫?大丈夫?って、聞いて くるんだよwww」石井の一撃・・・。完全にいいネタにされた。 そんなくだらない話をしてると海に着いた。勢い良く、車から降りると足に痛みが少し 走った。昨日のせいだな・・。一人で昨日嫌な事を思い出してしまった。 着替えて自分の肌をさらけ出すのが怖かった。無数のアザや傷。これを見てみんななんて 言うんだろうか。みんなの所に行くと、アザを見つつも知らないふりをしてくれた。 夏希ちゃんの水着姿がとても可愛かった。ずーっと見ていたい気持ちを抑えた。「可愛いね、 似合ってるよ」と言ってしまった。夏希ちゃんは顔を真っ赤にしながら照れていた。失敗した・・・。 昼になり太陽がいっそうぎらぎらと輝いていた。石井が、ツーリングの時に使うガスストーブの 上でフライパンを動かしている。女の子二人は石井に寄って、石井をほめていた。俺も、料理 勉強してみようかな・・・。と、思いつつ紙コップにお茶を注ぐ。昼食も済んで、マットの上でゴロゴロ してると、「俺ちょっとカキ氷買ってくる。」と、石井が立ち上がった。「あ、私も行く二人とも何がいい?」 と聞かれて、俺は「あずきがいいな!」とボケた。ウケた!!やった!喜ぶのもつかの間、二人きりに なってしまった・・・。石井が、後ろちらちらと見ながらニヤニヤ笑っていた・・・。良く思い出せないけど そのとき、可菜ちゃんも一緒にニヤニヤ笑ってたような気がする。 二人がカキ氷を買いに行ってる間、昨日のことを聞かれないかとドキドキしていた。 結局何も聞かれなかったが、罪悪感を感じた。ただ、アザとか傷に付いては聞かれた。 それと達也のこと。どうやら俺らが勝負した理由を、ただの喧嘩が原因だと思っているよう だった。それはそれでなんだがホッとした。 そのあとも、何事もなく楽しむことができた。その日は夕日を見て帰った。 家に帰ってボーっと昨日のことを考えた。とても恥ずかしくて情けない気持ちになった。 石井に言われたことをすっかり忘れていた。弱いいつもの自分は変わらず。風呂で冷水を 浴びる。 結果はどうであれ、夏希ちゃんには昨日ことと、自分の思いを全て打ち明けよう。そう、思い 電話を取ったが、なかなか踏ん切りがつかない。やっと、プッシュボタンを押すまでに20分も たっていた。「明日、もし暇だったら・・・ 少しバイクに乗ってみない?用事とかあるならいいけど 、もしよかったら・・・。」緊張して声が震えているのが自分で分かった。心拍数もバイクで峠を 走ってるとき以上に上昇している。「あ、乗りたい乗りたい!」ホッとした。本来なら、ここで 喜び歓喜するのだろうけど、小心者の自分は事を話したときのことを心配していた。素直に 喜べなかった。 朝、目を覚ますと相変わらず天気は良かった。ドライブには最適だ。夏希ちゃんとの約束は 午後の2時。それまで、することがなかったから部屋で一人パズルをしていた。気が重くすぐに やめた。昼ごはんも食べず部屋でゴロゴロしていると、もう1時半だった。 |