− ホンダ親父◆Lv8Y84lwmQ さんの恋愛話 −

朝7:30、念入りに髪形を整えた俺は愛車DJ1で最寄の駅に向かう。
当時は原付にヘルメットは不要だったし、髪が乱れるのでノーヘルだ。
だぼだぼのボンタンを風になびかせながら朝の街を颯爽と走っている(つもり)。
駅に向かう最後の直線の手前でフルブレーキングした俺は、胸ポケットから櫛を出し、
バックミラーを見ながら再度髪形を整える。
そして人目もはばからずセブンスターを一服w
時計が7:43を指した所で駅に向かって猛ダッシュ・・・
そろそろあの娘がこっちに向かって歩いてくるはず・・・
いたいた、毎朝擦れ違うだけで片思いしている彼女だ!と言っているうちに彼女の後姿はミラーから見えなくなる。

そんな毎日を過ごしている俺もついに中免を取得、親ローンで憧れていたホンダのインラインフォーを手に入れた。
バイク屋の親父から出世払いで中古のコブラ管を譲り受け、セパハン&バックステップという当時のデフォな改造を施した。
勿論、朝の儀式はDJ1からインラインフォーに引き継がれた。
ただ、ヘルメットを被らないといけないのが難点だったが、DQNな俺は駅に向かう直線だけはのーへるで走っていた。
彼女と擦れ違いざまにシフトダウンしてフルスロットル!REV+コブラ管の重厚な音を挨拶代わりにする。
この音に彼女は反応して一瞬だが俺を見てくれる。

今思い出すとかなり恥ずかしい事をしていたと思うが、卒業までずっとそれの繰り返しだった。
彼女に声をかけたことなど一度もない。
高校3年間、他にも恋愛のチャンスはあったけど、何故か彼女一筋だった。

それから18年の月日が流れ、気が付くと3児の父親になっていた。
先日、娘の保育園の父兄参観日に妻の代わりに、いまだ現役のインラインフォーで出向くと、
母親の一人と目が会った。
あれ、どこかで見たことがあるな。その時はその程度にしか思わなかった。
参観の内容は親子で粘土細工をする程度だったので父母同士で話をすることは出来る。
「あの、人違いだったらすみません。A高校出身でB駅までバイクで来てませんでしたか?」
駐輪場で目が合った母親が話しかけてきた。
「もしかして麻巳子ちゃん?」
「は?」
会話が噛み合わないのも当然だった。
その母親は擦れ違いを楽しみにしていた当時の片思いの相手で、当然名前など知っているわけがない。
麻巳子とは当時流行った「おニャン子クラブ」の高井麻巳子に似ていたから俺が勝手に付けた仮名だ。
俺は事情を思い出話の一環として彼女に話すと彼女は大爆笑してしまった。
それを聞いた周りの母親達も笑っていた。
「そうだったんですか、告白してくれればOKしたのに。今だから言えるけど私もいいなぁって思ってました。」
と話を合わせてくれた麻巳子(仮名)はこう言っては何だが・・・
当時のスリムな体つきは崩れ「そう言えば・・・」って感じで見なければ面影は残っていなかった。

保育参観が終わると俺は娘をバイクに乗せ、当時の音と共に保育園を後にした。



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