− ハイエナ◆zAcJXQn3X. さんの恋愛話 −
| 3年前の春の話。 1月のちょうど仕事初めの次の日、いつもの様に会社に出勤して その月に使う経費を下ろしに銀行にバイクで向かった。 その道中に事件は起きてしまったんだ。 オレは、3車線ある国道の1番左側を走行していた。 少し前に中央車線を走る商用車が見える。 その商用車が左にウインカーを付けたが、距離的にまさか車線変更しては こないだろうとそのまま走り続けた。 しかし車線変更どころか、わき道めがけて一気に左折してきたんだ。 オレはブレーキをかける間もなく車のわき腹に激突!ボンネットを飛び越え 地面に叩きつけられた。 意識が遠のいたが何とか踏みとどまり、愛車に目をやるとそこには無残な姿の HDスポーツスターが横たわっていた。 全治3ヶ月決定!! 担ぎ込まれた救急病院の医師に宣告された。 オレの身体は右手薬指粉砕骨折・右足首靭帯損傷・右ひざ半月板損傷と、かなりの深手を負って しまった。中でも膝の皿に関しては、完治は不可能で通常歩行が出来れば良い方だとか・・・ 医師からそんな話をきいても、根っからのお調子者のオレは「まぁ何とかなるだろ!」と お気楽に考えていた。でも、それは間違っていたんだ。 オレは事故から2週間後、およそ1年間におよぶリハビリを強いられる事になった。 全治3ヶ月どころか、全治約1年の大怪我だった。 病院に入院してから2ヶ月が経過して、かろうじて歩行が出来るか出来ないかという時に 退院の許可が下りた。 入院生活の退屈さからオレはすぐさま退院し自宅療養に切り替えた。 だが、自宅にいても退屈さ加減は相変わらずだ。 しかし病院と一つ違った点は、夕方には仕事を終えた友人達が自宅を訪れてくれる。 今思えば、これにはかなり助けられた気がする。 書き忘れたが、オレは事故る少し前に6年間付き合っていた婚約者がいた。 結局、お互いのすれ違いから破局。婚約破棄してしまった。 その後の事故だけに、オレはかなり落ち込んでいたんだ。 そんなオレを気遣ってか3月のはじめころ、いつも訪れる友人の一人である秀樹(仮名)が こう言ってきた。 秀樹「なぁ、お前にはやっぱり支えになってくれる人が必要だよ。そう自分で思わんか?」 当時のオレにとっては友人達が一番の心の支えだったので、この言葉の意味が少し理解出来なかった。 オレ「えっ?どういうことよ?」 秀樹「そろそろ彼女でも作ったらどうかなってことよ。」 オレ「オレにはまだ無理だよ。第一、こんな身体じゃ無理だべ。」 秀樹「・・・ふっふっふっ、オレにまかせとけって。」 オレ「・・・」 オレは何か嫌な予感がしたが、この時点では秀樹が何をするか全く見当も付かなかった。 秀樹「なぁ、ちょっとお前の携帯見せて。」 そう言うと秀樹はオレの携帯を手に取り、早速何かしているようだった。 オレ「何してんの?」 秀樹「あるサイトに登録してんだよ。」 オレ「はぁ!?」 どうも秀樹は携帯の出会い系サイトに登録したようだ。しかもオレの名前を勝手に使って・・・ オレ「おいっ! 何、勝手に携帯いじくってるんだよ! オレはそんなの絶対やらねーぞ!」 秀樹「まぁ、そう熱くなるなって。騙されたと思ってやってみろ! お前どうせヒマだろ。」 オレ「・・・」 確かにオレは、日中リハビリ以外やる事もなくヒマを持て余していた。 しかし、いきなり出会い系サイト登録は無いだろう。 秀樹とオレは幼馴染で子供の頃から仲が良い。だが、さすがにコレには頭にきた。 オレ「とにかく、オレは絶対やらねぇからなっ!!」 秀樹「ガタガタぬかすと、もうお前んとこ遊び来ねぇぞ!!」 オレ「・・・・・・・わかったよ。」 逆ギレされてしまった。 秀樹はどうしてもオレに彼女を作りたいらしい。 仕方なしにオレは言われるがままにサイトを閲覧してみた。 そのサイトの説明を見てみると、どうやら出会い系サイトというよりもお見合い系サイトに 近いものがあるようだ。 秀樹「どうだ? システムは理解できたか?」 オレ「大体は分かったけど、オレはこんなのやった事ないからなぁ。」 秀樹「まかせとけって! 文章は全部オレが書いてやるよ!!」 オレ「はぁ・・・」 そう言うと秀樹は再びオレの携帯を手に取り、一人の女性のプロフィールをオレに見せてきた。 それには、26才・加藤あいに似ているらしい・体型はスレンダーという事が書かれていた。 秀樹「この子どうだ? 結構良さそうだろ? じゃ、この子にメッセージ送るわ!」 オレ「・・・好きにしろ。」 秀樹は手際よくメッセージを送信すると、オレの方を向いて 秀樹「んじゃ、あとは待つだけだな。」 その時のオレは返信など来ないと思っていた。 それから2日後の事。 何とメッセージが着信した!! オレはすぐさま飲みに来ている秀樹に携帯を差し出した! 秀樹「なっ!? やっぱり来ただろ?」 オレ「あぁ、正直ちょっとだけ驚いた。」 秀樹「とりあえず、オレの言う通りに返信してみ?」 とりあえず、それから1週間位は彼女と普通に世間話を交わした。 そこで分かった内容だが、彼女(以下アイ)はバツイチ子無しで実家住まい 音楽が好き、休日は家族と行動する事が多い。 と、いった位だった。 オレは、彼女のバツイチ子無しといった部分にとても好感を持った。 なぜならオレはバツイチではないが、準バツイチといっても過言ではない人間だったからだ。 それから更に1週間が経過し、オレの一方的なアプローチから電話で話す事になった。 この時点でオレはアイに惹かれはじめていたと思う。 オレ「こんにちは! ハイエナです。お互い声聞くのは初めてだね。」 アイ「こんにちは! そうだね。 結構渋い声だったんだね。私の声はどぉ?」 オレ「とりあえずアイが女性で良かったよ! キッカケがキッカケだから少し心配だった。 そして、ずいぶん透き通った声だね! オレは好きだよ。」 アイ「おだてても何も出ないぞ!」 オレ「アイはどんな感じの人かな? 声を聞いたら余計に興味が出てきたよ。」 アイ「どんな感じって、どこにでもいる普通の人だよ。 ハイエナさんは?」 オレ「オレもごく平凡な男だよ。 会っても面白くないかもね。」 アイ「はははっ、ハイエナさんは充分面白いよ!」 初めての電話では、こんな感じの会話を交わした。 もともとEメールで話していたので、既にお互い結構打ち解けていたんだ。 そして、会話の部分でも触れているが、アイが本物の女性である事が確認出来たのでかなり安心した。 よく出会い系サイトでは、美人局やネカマが潜んでいる事が多いと聞いていたからだ。 オレ「イキナリ聞くけど、明日会わない? オレがアイの地元まで行くからさ。」 アイ「・・・えっ!?」 オレ「どうしても会ってみたいんだ。」 アイ「でも私の地元は面白くないよ。 来ても何も見る所なんて無いし・・・」 オレ「いや、何かしらあるはずだよ。 アイが案内してくれればいい。 オレ、普通の人と 感性が逆方向行ってるから、どこにいっても楽しいんだよ。」 アイ「・・・でも。」 オレ「じゃあ、駅まで来てくれる? オレも駅の改札まで行くから。」 アイ「・・・分かった。」 アイは明らかに直接コンタクトをとる事を嫌がっていたが、オレはどうしても会ってみたかった為 かなり強引に会う方向に話を持っていった。 これで翌日アイが駅に来ていなかったら、オレはあきらめるつもりでいたんだ。 そして翌日。 その時のオレの膝は、走れはしないが歩く事は普通に出来る位にまで回復していた。 アイの地元とオレの住まいは、車でおよそ1時間半の距離にあった。 しかしオレの車は、車検で整備屋に預けてあったので足が無い状態だった。 だが秀樹に相談したら、ヤツの愛車TL1000Rを貸してくれた。 オレは約束した時間に間に合う様、秀樹のTLで高速道を快調に飛ばした。 駅の改札に着くと同時に、携帯のEメールでアイに到着した事を報告する。 すると5分位遅れると返信があったので、改札前で高鳴る胸を押さえて待つ事にした。 当時の携帯にはカメラ機能が付いていない機種が多く、お互いの写真交換などはしていなかった。 なのでオレはアイの姿を見た事がなかった。 「今、駅に着いたよ! ハイエナさん、何処にいる?」 アイからのEメールが着信した。 オレは辺りを見回したが、どこにもそれらしい女性は見当たらない。 仕方がないので、アイの携帯に直接電話してみる事にした。 オレ「オレは改札の所にいるけど、アイはどこにいる?」 アイ「今、そっちに向かって歩いてるよ。」 オレの目に飛び込んできたのは、携帯で話しながら歩いてくる巨漢の女性だった! (やっぱり、出会い系サイトではこんなモンだろうな・・・) そう思ってため息をついていたら、後ろから肩を叩かれたので振り返ってみた。 アイ「ハイエナさん?」 オレ「・・・アイ!?」 そこには、さっき目にした巨漢とは打って変わって、スレンダーでモデルのような女性が立っていた。 この日は少し肌寒かった為か、アイは、ローライズジーンズとロキシーの白いジャケットを着ていた。 彼女はオレの中では、加藤あいよりも断然可愛く写った。 オレは完全に舞い上がってしまっていた。 オレ「・・・」 アイ「どうしたの?」 オレ「・・・あっ! いや何でもない。 とりあえずどこかでお茶でもしようかっ!」 アイ「うん! ここから歩いて5分位のところにファミレスがあるから、そこがいいかな?」 オレ「OK! じゃあ、そこにしようか。」 オレとアイは、早速二人で駅周辺のファミレスへと向かった。 時間にして、およそ5分から6分程度だったと思うが、二人で一緒に歩いた時間はやたらと 長く感じられた。 オレ「以外と空いてるね。」 アイ「ここのファミレスって結構穴場なの。」 店員「いらっしゃいませ! お客様は2名様ですか? 喫煙席と禁煙席どちらも空いてますが?」 アイ「喫煙席で!」 オレ「!!?」 アイ「へへっ、私タバコ吸うんです。」 オレはこの時点で初めてアイが喫煙者だと知った。 でも、オレもタバコを吸うので気を使わないで済むなと感じた程度だった。 そして、なにより自分を飾らずに出してくる姿勢に好感を持った。 ここでの話はかなり長くなるので、重要な部分だけを書く事にする。 アイ「ハイエナさん、急に会おうってなったけどどうしたの?」 オレ「電話で話した通り、アイにとても興味を持ったからだよ。」 アイ「どの辺に?」 オレ「実はオレも6年付き合った婚約者が居たんだ。 でも、その彼女と失敗したから今こうして ここに居るワケで・・・ だから、アイがバツイチだって聞いた時に似たような境遇だし とても興味が湧いたんだ。」 アイ「そっかぁ。 私の結婚生活は1年半くらいだったんだ。 で、離婚する半年まえから徐々に 元旦那の暴力がエスカレートしてきて・・・ それで結局、別れたんだ。」 オレ「暴力って結構ハードだね・・・ オレの場合は、彼女の両親が理不尽すぎてね。 オレとの婚約が決まった後すぐに、彼女の母親がわざわざ別の縁談話を持ってきたんだ。 彼女もそれを断らないで、当たり前の様にお見合いした。 結局、彼女とその両親から オレ達一家はバカにされていたんだ。 頭にきたから、オレの方から彼女と縁を切ったんだ。」 アイはオレが聞かなくても、自分から内面をさらけ出してくれた。 Eメールで話はしていたが、 初対面でこんなにサバサバした女性と出会うのは、俺にとって初めての経験だった。 アイ「ハイエナさん、今日はどうやって来たの?」 オレ「友達にオートバイ借りて来たんだ。駅のそばに止めてあるよ。」 アイ「えっ!? 足は大丈夫なの? バイクで事故したんだよね?」 オレ「うん。足は大分良くなってきたからね。 普通に走るだけなら歩くよりも楽だよ。」 アイ「じゃあ、バイクが置いてあるところまで送るよ!」 オレ「ありがとう。」 この日、結局ファミレスでアイと5時間くらい話込んでしまった。 外が暗くなってきたと同時に初めてのご対面は終了となった。 アイ「えっ? これで来たの?」 オレ「カッコいいでしょ!? スズキのTLってヤツなんだ。」 アイ「結構大きいの乗れるんだね。」 オレ「でも、友達のだからね。 オレも新しいのが欲しいんだ。」 アイ「本当に気を付けてね。」 オレ「うん。・・・あっ、次はいつ会おうか?」 アイ「いつでもいいよ。」 オレ「じゃあ、来週の土曜とかどう? 車が整備屋から帰ってくるからドライブでも行こうよ。」 アイ「分かった! じゃあ、また連絡するね!」 オレ「うん。オレも連絡する!」 アイ「それじゃ!」 オレ「あぁ、またね!」 この日は、Eメールでは上手く話せなかった事を、お互い話しあった。 アイは、容姿だけでなく中身もとても魅力的な人だった。 一緒にいる時間は常にオレを気遣ってくれたし、なにより自然体で背伸びしない。 オレは自宅までの道中、秀樹にどう報告するかを考えていた。 秀樹「どうだった?」 オレ「お前のTLは相変わらず鋭くフけるよな! 調子良かったぜ!」 秀樹「バカっ!! バイクじゃなくてアイちゃんだよ!」 オレ「・・・モデルみたいだった。」 秀樹「当たりか?」 オレ「あぁ、大当たり。」 オレは別れた彼女の事もすっかり忘れて、アイに夢中になっていった。 そして、その夜は秀樹に焼肉を奢らされた・・・ 次回アイに会うまでに、およそ1週間程ある。 オレはさすがにいつまでも会社を休むワケにはいかないと思い、復職の準備を始めた。 しかし足の怪我はまだ完治していない。とりあえず本屋に行き、理学療法関係の本を買い漁り 自分でリハビリを続ける覚悟を決めた。 何より休職中の身ではオレとアイは対等ではない。それが自分の中で嫌だというのもあったと思う。 そして復職の準備が整い、晴れて職場復帰した。これでオレとアイは対等だ。 オレにとって「気になる存在」だったアイは、「好きな人」に変化した。 さて、どうやって口説こうか? そんな事を考えても、オレはこれまでにあまり人を好きになった事がなかったので、どうして良いか 全く見当もつかない。出会いのキッカケも少し特殊だし、全てに頭を抱えていた。 秀樹「惚れたんだろ。」 オレ「あぁ。すごい勢いでな。」 秀樹「じゃあ、答えは一つしかないだろ。 簡単な話だ。」 オレ「どうすればいいんだ?」 秀樹「告白れ!」 オレ「・・・はぁ!? ちょっとばかり早くねぇか?」 秀樹「オレはウジウジ悩むのは嫌いだ!まずは、お前がアイちゃんをどう思っているかを早いうちに 伝えるべきだ!話はそれからだろ!」 オレ「お前バカか!? そんなんでうまくいくか!! この単細胞がっ!」 秀樹「うるせぇ!単細胞でいいんだよ!とにかく告白れ!!言えずじまいよりかはナンボかマシだ!」 オレ「・・・・・」 秀樹「お前は、昔から難しく考えすぎなんだよ。相手に自分を意識させないと、結局仲の良い友達で 終わるぞ。だとしたら、オレはダメモトでもいいから自分の気持ちを相手に伝えた方がいいと 思うぞ。」 オレ「そんなモンか?」 秀樹「オレの考え方ではな。」 情けない話だが、オレは自分で答えを出せずにいた。 秀樹の言う通りに友達で終わるのは絶対嫌だし、かといってイキナリ面と向かって「好きだ。」 と、言うにもまだ早すぎる気がした。 だが秀樹の言う事にも一理ある。そして悩んだ末、思い切ってその恋愛論に便乗してみる事にした。 ・・・しかし、この時点ではこれが間違った考えだという事に気付けなかった。 アイとの2回目の待ち合わせ場所は、彼女の家とオレの家との丁度中間点にある駅の改札だった。 オレは車検から帰ってきたトランポの中を丁寧に掃除し、走行中ガタガタうるさい工具等を降ろした。 助手席にはドリンクホルダーを取り付け、車内には消臭剤を撒いた。 早速、待ち合わせ場所の駅を目指して出発。改札に向かうと、アイは既に到着して待っていてくれた。 オレ「ゴメン、待った?」 アイ「遅いぞ!って、実は今着いたところだよ。」 オレ「そっか、よかった。 んじゃ、早速出発しようか!」 アイ「いこ、いこ!」 オレはアイを駐車場に止めてあるトランポに案内した。 アイ「この車?」 オレ「そうだよ。」 アイ「仕事で使ってるヤツ?」 オレ「いや、自家用車。バイク積む為には、これが一番なんだ。」 アイ「バイク積むって、修理屋さんか何か副業やってるの?」 オレ「違う。趣味でレース場走ってたんだ。」 アイ「へぇ、ちょっと意外だ。」 オレ「本物のレーサーみたく速くはないけど、走る事が好きなんだ。じゃ、出発しようか!」 アイ「どこ行くの?」 オレ「湖の方にでも行ってみようと思ってる。それでいいかな?」 アイ「うん、おまかせします!」 二人でトランポに乗り込み、およそ1時間程で行ける近場の湖を目指した。 アイ「あれ?バイク積んであるよ?事故したんじゃなかったっけ?」 オレ「あぁ、これはレース場を走る専用のヤツだよ。一般道は走れないんだ。」 アイ「へぇー、本当にバイク好きなんだね。これはなんてバイクなの?」 オレ「スズキのGSX−Rってヤツだよ。ボロボロだけど、オレの宝物なんだ。」 アイは、トランポに積んであるオレの宝(ゴミの山!?)が、物珍しいようで目的地に着くまで ずっと質問攻めしてきた。 湖に到着すると、早速遊覧船に乗り景色を楽しんだ。 アイとは初めて出会ってから今回で2度目だが、もうずっと前から知り合いだったかのように 打ち解けている。 オレはこの日、アイに告白する決意を固めていた。 オレ「晩飯は海岸線沿いのカレー屋でもいい?」 アイ「お腹空いちゃったから、どこでもいいよ。」 オレ「そうだね、オレも腹減った。」 ちょっと洒落たカレー屋に入り、出てきた料理をほとんど食べ終えたところで、オレはいよいよ 本題に入った。 オレ「結構美味かったね。」 アイ「うん、美味しかった!」 オレ「この後はどうしようか?」 アイ「とりあえずドライブの続きをしようよ。」 オレ「わかった。・・・えっと、その前にちょっと聞いておきたいんだけど、 アイはオレをどう思ってる?」 アイ「えっ?どういうこと?」 オレ「いや、言葉の意味そのまんま。ずっと友達確定か、それとも恋人候補かってこと。」 アイ「うーん、イキナリきたね。それって、今すぐ答えないとダメ?」 オレ「別に今すぐでなくても良いけど、できれば聞きたい。」 アイ「・・・困ったな。」 アイは唐突なオレの問いかけに、かなり困った表情を浮かべていた。 オレはその時流れていた空気に嫌なものを感じていた。相手の性格にもよるが、イキナリこの様な 質問をぶつけると女性の返答はおよそ3通り考えられると思う。 @ テレながらも「恋人候補かも」なんて答える。 A 「モチロン友達だよ!」と答える。 B 今回の様に質問から逃げようとする。 高飛車なオレの予想では、アイの答えは絶対@だと思っていた。 しかし、返ってきたのはBだった。Bは結構厄介だ。その場で答えをもらわなくても、結局 返事はAへと変化する確率が高いからだ。 オレとアイは、無言のままカレー屋を出てトランポに乗り込んだ。 オレ「オレ、アイを好きになってしまったみたいなんだ。」 アイ「・・・」 オレ「とりあえず、今日は家の近くまで送るよ。」 アイ「・・・じゃあ、○○駅がいいかな。」 オレ「了解。」 重苦しい空気が漂ったまま、オレはトランポを指定された駅まで向かわせた。 オレ「答え待ってるから。」 アイ「・・・わかった。」 アイを降ろし、オレは複雑な心境のまま自宅に走った。 ここまでのやり取りを思い返すと、ハッキリいって勝算はかなり薄いなと自分でも気付いていた。 自宅まであと5キロ位の地点で、車内に携帯のメール着信音が鳴り響いた。 「アイからだ!」 オレはその内容を、「気を付けて帰ってね!今日は楽しかったよ!!」と、いったようなモノだと期待したが それはとんでもなく甘い考えだった。 「今、電話してもいいかな?さっき話したことについて答えたいんだ。」 と、いった内容だった。オレは急いでトランポを路肩に駐車し、アイに電話をかけた。 オレ「おつかれ!」 アイ「おつかれさま!今、運転してる?」 オレ「あぁ、車止めたから大丈夫だよ。」 アイ「帰る途中にゴメンね。さっきの返事なんだけど、やっぱり早く答えた方が良いと思って・・・」 オレ「おっ、いよいよだね!」 電話では先ほどよりアイの声が明るかった為、オレは少しだけ調子に乗っていた。 アイ「私、まだハイエナさんは友達としてしか見れないよ。第一、まだ2回しか会ったことないし ハイエナさんの事も良くわかっていない。それなのに、恋人候補とか考えられないよ。 だから、・・・ごめんなさい。」 オレ「そっか・・・」 ここでハッキリと、アイには秀樹の恋愛論が通用しない事がわかった。 そして、もう時すでに遅しだった。 オレは一気にヘコまされたが、ここで食い下がらなければ終わってしまうと思い、頭をフル回転させた。 オレ「友達かぁ。なら友達でもいいよ。オレが勝手に好きになったんだしね。」 アイ「えっ?」 オレ「今までアイは友達から恋人に発展した事ってない?」 アイ「それはあったけど。」 オレ「なら、別に問題ないよね!」 アイ「でもその場合は、お互い自然な関係じゃないと成立しないと思うよ。 どちらか片方が盛り上がってしまうと、なんかギクシャクしてしまわない?」 (く、苦しいが頑張れ!オレ!!) オレ「ってことは、オレがアイを「好き」って気持ちをひたすら隠せばいいんだよね! 難しいことだけど、オレ頑張るよ。「好き」ってのもあるけど、アイには人としてとても 魅力を感じるし、ここで終わってしまうのはすごく寂しいしね。」 アイ「・・・そう。でもね、それじゃあ私が嫌だよ。」 オレ「じゃあ、オレはどうすればいいのかなぁ?」(もう滅茶苦茶!!) アイ「う、うーん・・・」 オレは無理矢理食い下がり、アイの断り文句を何とか煙に巻いた。(この間1時間前後だったと思う。) オレがアイの立場なら、「本当に困った男だ!」と思うのだが、それでも諦めたくなかったんだ。 アイ「とっ、とにかくハイエナさんの気持ちはよくわかったよ。でもね、この先しばらくは二人で会うのは ちょっとキツイかも・・・」 オレ「てことはさ、オレとアイの他に誰かいれば良いんだよね?」 アイ「・・・うーん、それなら。」 オレ「よし!なら、次はオレの親友を連れてくる!それで良い?」 アイ「・・・だったら私も友達連れてくる。いいかな?」 オレ「もちろんですっ!!反対する理由など一切ありません!!!」 何とかオレは屁理屈で窮地を脱した。 しかし意外な展開になった。とりあえず、アイとの電話を切って再び自宅へとトランポを走らせた。 駐車場に着き、コンビニで缶ビールを買って自宅に戻るとそこには一人で酒盛りしている秀樹がいた。 オレは開口一番に言い放った。 オレ「てめぇ!失敗したぞ!!どうしてくれるんだよ!!」 秀樹「おぉ、お帰り!鼻息荒いな。どうした?聞こうじゃないか!!」 オレ「お前の単純パワーが、一気に負のパワーに変わった出来事があったんだよっ!」 とりあえずオレはアイとの一部始終をヤツに話した。 秀樹「そっか。やっぱり上手くいかなかったか。」 オレ「おい!ちょっと待て!!やっぱりって何だよ!」 秀樹「いや、こっちの話だ。それより、お前が次にアイちゃんとこに連れていく親友って、モチロン。」 オレ「絶対お前でない事は確かだ!!!」 秀樹「まぁ、お前の気持ちも良くわかる。けど、オレが言うのも何だが適任者はオレ位しかいないだろ。 てか、お前の親友ってオレしかいないだろ。」(確かにおっしゃる通りなのがツライ・・・) オレ「てめぇはいつも思い上がりやがって!!まぁ、お前のアドバイスのせいでこうなったんだからな! モチロン責任を取る義務はあるよな!」 秀樹「あぁ、任せとけって!何とかなるさ!!きっとな。」 本当に大丈夫なのだろうか?昔から適当なヤツだったが、今回の件で更に「適当さ加減」に拍車がかかっていた。と感じた。 それから2週間前後、アイとオレは連絡を取り合って次に会う場所と日時を相談した。 アイは、そのスレンダーな体型とは裏腹に食べることが大好きなようで、オレの地元の隠れた名店に連れていって 欲しいとせがまれた。 オレ「オレら食には無頓着だから、あまり期待されても・・・」 アイ「でも何かしらあるでしょ。例えばラーメン屋さんとか。」 オレ「あるにはあるけど、そこってかなり店ん中汚いよ。大丈夫?」 アイ「へへっ、汚い店でも味が良ければ大歓迎だよ!」 オレ「でも、友達も来るんだよね?」 アイ「私の友達って、あんまり女らしい子いないから平気だと思う。」 オレ「わかった。じゃあ、そこ行こっか!」 アイ「やった!」 ってなことになったので、オレは秀樹に報告してアイとの再会の日を待った。 ちなみに当日はアイの要望からオートバイで移動することに決定した。 そして再会の日。 秀樹とオレは、アイ達と待ち合わせた地元の駅へと向かう。 約束の時間15分前位に到着したオレ達は、アイの友達がどんな子か期待に胸を膨らませていた。 秀樹「どんな子が来んのかなぁ?」 オレ「知らん。」 秀樹「女って、男の前に友達連れてくるとなると絶対自分よりかわいい子連れて来ねえからなぁ。」 オレ「それは正しい。」 秀樹「酷い子だったらどうしよう?」 オレ「知るかよ!!」 こんな会話をしながら改札で待っていたら、到着した電車から二人が降りてきた。 オレと秀樹「!!?」 アイとその友達は少し駆け足でこちらに向かって来た。 秀樹「あれか?」 オレ「そうだと思う。」 秀樹「本当にデルモだよ・・・で、どっちがアイちゃん?」 オレ「向かって右側の子。」 秀樹「お前、今度は寿司おごれ!!」 オレ「ふ・ざ・け・ん・な!!」 アイと友達がオレ達の所に歩いてきた。 アイ「ハイエナさん、少し遅れちゃった。ゴメン!」 オレ「あぁ、いいよいいよ。オレ達も今さっき着いたとこだから。」(ベタなフォロー) 秀樹「こんにちは、このバカの兄貴分やってる秀樹です!今日はよろしく!」 オレ「おい、いつからお前はオレの兄貴分なんだよ!おい!」 秀樹「まぁまぁ、それよりも・・・」 アイ「あぁそうだ、この子は私の短大時代の友達で京子です。」 京子「はじめまして!京子です。よろしくね!」 オレ達「よろしくです!!」 京子はアイに負けず劣らずの可愛い子だった。ぱっと見は酒井彩名に似ている。 「こんな子達とタンデムで遊びに行けるんだ!」と、オレ達はかなり浮き足立っていた。 早速、彼女達をオートバイが止めてある場所へ案内してヘルメットを二つ手渡した。 アイ「あれ、こっちのはこの前乗ってきたヤツだよね? で、こっちは?また誰かに借りたの?」 オレ「あぁ、事故の保険金が入ったから買ったんだ。中古なんだけど結構いいでしょ?」 アイ「すごいね!何てバイク?」 オレ「ビューエルってヤツ。ハーレーの親戚みたいなモンだよ。」 秀樹「オレはスズキがいいよって言ったのに。コイツは・・・」 オレ「次、乗り換える時はスズキにするよ。アメ車はこれで最後にするつもり。」 京子「へぇーアメ車なんだ。私、こっちに乗ってみたい!」 京子は、おもむろにオレのビューエルを指してそう言った。きっと「アメ車」に惹かれたのだろう。 ニューマシンでの初タンデムにはアイを乗せたかったが、断ると場の雰囲気を悪くすると思ってあきらめた。 秀樹はアイを、オレは京子をそれぞれ後ろに乗せて足早にラーメン屋に向かった。 途中の信号待ちでは、早速秀樹とアイが楽しそうに話している。 オレは軽い嫉妬心のようなモノを胸に抱いたが、そんな事は前面に押し出せない。 オレはアイと約束しているんだ。 「好きという感情を押し殺す」 振られそうになって苦しまぎれにした約束だが予想以上にシンドかった。 そんな事を一人で勝手に考えていると、信号待ちで京子はオレに話しかけてきた。 京子「ハイエナさん、アイに告ったんでしょ?」 オレ「・・・うん。」 京子「あの子の性格的にはすぐにOK出さないと思う。けど、聞いた感じだとハイエナさんとなら うまくやっていけそうだと思うよ。でもさぁ、ハイエナさん告るの早すぎだよぉ。」 オレ「やっぱそう思う?」 京子「うん、思いっきり!」 オレ「断言したね。」 京子「うん。でもね、私は応援するから!」 オレ「マジッすか?」 京子はどうやらオレの味方になってくれるらしい。 意中の彼女の友達が味方になってくれるのはとても心強い。 そんな会話を交わしていると、すぐに目的地のラーメン屋に到着した。 アイ「結構並んでるね。ここ人気店なの?」 オレ「あぁ、丁度昼時だしね。」 京子「いい匂いがするね!」 秀樹「味もいいよ!チャーシューが美味いんだ。」 アイと京子「じゃあ、チャーシュー麺に決定だね!」 オレ「でも、アイは結構食べるのに太らないんだね。羨ましいよ。」 秀樹「ほんと、二人共モデルみたいなのにな。」 アイ「そんな褒めても何もでないぞ!」 京子「二人でよくスポーツジム行ったりしてるんだよ。やっぱり食べたら消費しないとね!」 アイ「そっちこそ凄い体してるじゃん!何かやってるの?」 オレ「オレと秀樹は趣味でサーキット走ってるって話したよね。あれって、普通の人が思ってる以上に体力 使うんだ。だから筋トレとか毎日やってないと、途中でへばって最後まで走りきれないんだ。」 京子「へぇー二人共サーキット走るんだ? 走ってるとこ見てみたいな!」 秀樹「じゃあ、今度行ってみる? でも、つまらないと思うよ。」 アイ「私も見てみたい!」 後で聞いた話だが、どうも京子は「F1グランプリ」が大好きらしい。 普通の女の子は、オートバイになど全くといっていいほど興味を示さない。 オートバイが好きというよりはサーキットが好きで、一度行ってみたかったのだろう。 列にならんで色々話しているとオレ達の順が回ってきて、アイ達はとても美味そうにラーメンを完食した。 その後、街に出てぶらぶら散歩したりカラオケに行ったりして4人で楽しんだ。 アイは相変わらず秀樹と仲良く話している。 オレはアイとはあまり話さず京子とばかり話し込んでいた。 そして夜はファミレスで軽く食事をとる事になった。 京子「今日は楽しかったです。ありがとう!」 アイ「うん、みんなでワイワイやるのって楽しいよね!」 オレ「喜んでもらえて良かったよ。この後はどうする?もう帰る?」 京子「私、家でちょっとやりたい事あるから帰ろうかな。」 アイ「じゃあ、私も帰ろうかな。」 秀樹「バイクでいいんなら送るよ!」 京子「えっ、そんな悪いよ。」 オレ「いいって。気にしない気にしない。」 アイ「じゃあ、送ってもらっちゃおうか!」 オレ達「OK!」 皆で駐輪場に向かうと、アイは秀樹に送ってもらおうとしている。 一方、京子は既にオレのビューエルの横で待っていた。 二人の自宅は方角的には同じだが途中で別々の方向に向かう事になるので、それぞれ別行動になってしまう。 オレは出来ればアイを送りたかったが、今となってはもう遅い。 秀樹とオレは中間地点まで並走して、それぞれの自宅に向けて別れていった。 道幅の狭い県道に入ってから、オレは信号待ちで京子に話しかけた。 オレ「出発してからしばらく経つけど、トイレは平気?」 京子「少し行きたいかも。」 オレ「了解!次に見えたコンビニで止まるね。」 京子「ハイエナさんって、細かいところまで気を使ってくれるんだね。」 オレ「そうか?」 京子「普通、男の人はトイレの心配までしてくれないよ。だから、女の子は男の人とドライブデートするときは トイレを我慢する事が多くて大変なの。ほら、なかなか自分からは言い出せないでしょ?」 オレ「ふーん、そんなモンなんだ。」 京子「そんなモンだよ。」 こんな会話があった後、オレはたまたま次の交差点の角にあったコンビニでオートバイを止めた。 早速、京子はトイレを借りに店内へ入った。 オレは、京子がトイレに入ったのを見計らってから店内に入り ペットボトルのお茶を2本購入して駐車場にタバコを吸いに戻った。 京子「お待たせ!」 オレ「(お茶を差し出して)どっちがいい?」 京子「えっ?そんなに気を使わなくてもいいのにぃ。」 オレ「いや、ただ単にオレが飲みたかったから、ついでにもう1本買ってみた。」 京子「ありがとっ!本当に優しいんだね。アイは、ハイエナさんに思われて幸せモノだよ!」 オレ「いや、そんな事ないよ!」 京子「そんな事ある!」 京子とオレはこの会話の後、少し話し込んでしまった。 時間も大分経っていたので、オレは帰り支度をしながら京子にこう言った。 オレ「家着くの遅くなっちゃうし、そろそろ行こうか?」 京子「そうね。今日は色々ありがとうね!本当に楽しかった!!」 オレ「こちらこそ!!じゃ、行こう!」 京子「うん!」 オレ達はコンビニを後にして、京子の自宅付近を目指した。 オレは「ここでいいよ」と、京子に肩を叩かれたので、オートバイを停車させた。 京子「ハイエナさん、ありがとう!!」 オレ「こっちこそ!!」 京子「アイとの事で何か相談があったら連絡して!」(メアドと携帯番号が書いてある紙切れを渡された。) オレ「おぉ!ありがとう!!」 京子「じゃあ、またね!!」 オレ「バイバイ!」 京子と別れると、オレは近場のインターから高速道に乗り自宅のアパートを目指した。 本当に長い一日だったが、本来振られていてもおかしくなかったアイと再会できた事がうれしかった。 また、京子に励まされた事によって失っていた自信を取り戻せた事も大きかった。 オレは自宅周辺のコンビニで「下町のナポレオン」を購入。早速一人で晩酌をしようとアパートの扉を開けると、 秀樹「随分と遅かったな!」 オレ「・・・」 秀樹「なんだよ、待っててやったのに。」 オレ「なんでお前はここにいるんだよ?帰れ!このウスノロ間抜けバカ!」 秀樹「そうかよ(怒)。じゃあ帰るよ!折角アイちゃんに聞いた情報持ってきてやったのに!」 オレ「えっ!?スミマセンでした!帰るのだけは勘弁して下さい!!」 秀樹「わかればいいんだよ!!で、アイちゃん、お前のこと優しいってさ。以上!」 オレ「・・・そんだけ?」(京子にも言われたような・・・) 秀樹「うん。」 オレ「やっぱ帰れ!!!」 秀樹「何だよ!『いいちこ』飲ませろよ!!」 秀樹とオレはお互い、いつものように冗談を言っては酒を飲んだ。 この日の酒は最高に美味かった。 だが、この後だんだんとオレの周りに不穏な空気が立ち込めていく事になる。 4人で遊びに行った日から1週間が経ち、久々にオレは秀樹と2人で練習の為、某サーキットに出掛けた。 秀樹のサーキット練習機は、待ち乗りに使っているTL−Rだ。 この日、膝が本調子でないオレは秀樹のサポートに徹する事にした。 駐車場に到着すると、早速車からTL−Rを降ろして走る準備をはじめた。 秀樹「いやぁ、暑いな。」 オレ「そうだな。今日は無理しない方が良いな。マシンの前にライダーがヘバっちまうよ。」 秀樹「わかってる。このタイヤもそろそろ終わりそうだしな。」 オレ「家に帰ったら、注文しといたのが届いてるから交換してやるよ。」 秀樹「あぁ、よろしくな。ついでにオイルとクーラントも頼むよ。」 オレ「OK!それじゃ、一応もう一回マシン点検しとくから着替えたり準備して来いよ!」 秀樹「わりぃな。」 オレ「気にすんな。」 そんなやり取りをした後、秀樹は着替えたり各種手続きをしにバタバタしだした。 一方のオレは、TL−Rの各部ワイヤリングやハーネス類、各ホース類の継ぎ目等の点検を始めた。 よく見るとキャッチタンクのパイプ根元の溶接部にクラックが入っているのを発見! オレが自作したモノだけあって信頼性ゼロだ。(オレ特製、SUS316Lの板を切ってつなぎ合わせたモノ) 責任を取って、早速ハンディガスバーナーとフラックス、 銀ロウを用意し、マシンから外したキャッチタンクのクラックを補修した。 そうこうしていると秀樹が帰ってきて、 秀樹「あり!?どしたの?」 オレ「あぁ、オレの超ウルトラスペシャルキャッチタンクが悲鳴上げてたからさっ!」 秀樹「・・・お前、溶接失敗したべ。」 オレ「・・・はい、すいませんでした。」 秀樹「コースにオイル撒いたら他の人に迷惑かけるからな。」 オレ「だよな。」 やはり素人は自分で手を入れた箇所は、特に入念にチェックしないと危ない。 それを痛感しながら、オレは残りの作業を終わらせた。 そして、秀樹の走行がはじまる。 オレ「気ぃ付けてな!」 秀樹「おう。じゃ、また後で!」 3周程ウォームアップを行い、いざ全開走行へ! 秀樹は順調に周回を重ねていく。 ヤツのコーナリングフォームは相変わらず綺麗だ。 オレの前乗りリーンアウトぎみのフォームとはまるで正反対だ。 しかし、どんどん後続車両に抜かれていく姿には哀愁を感じてしまう。 まぁ、オレ達「亀コンビ」の、いつもの光景だ。 しばらくして、走り終えた秀樹がオレの元へと戻ってきた。 秀樹「時計はどうよ?」(モチロンP−LAPとか持ってない。) オレ「まぁまぁだな。前に来た時よりはマシかな。」(タイムを書き綴ったノートを見せる。) 秀樹「うーん・・・思ってたよりイマイチだな。」 オレ「まぁこんな日もあるよ。次、気合入れればいいべ!」 秀樹「次はお前も走るんだろ?」 オレ「膝の回復次第でな。」 秀樹「相変わらずなのか?」 オレ「あぁ。」 まだ、オレの膝の半月板は力を入れると何か違和感を感じる。 そして、激しく動かすと足全体に痛みが走る。 この状態では、サーキットでの全開走行はとても無理だ。 そんな事を考えていたら、ふとアイ達とした約束を思い出した。 「今度走ってる所、見てみたいな!」 「私も見てみたい!」 この言葉がオレの足りない脳の中を駆け巡る! オレは何としてでも、短期間で膝を本調子にしたかった。 オレは自分の部屋に戻り、冷蔵庫から取り出した缶ビールのフタを開けると一気に喉へ流し込んだ。 「やっぱ、出掛けた後のビールは美味いねぇ!」 そんな独り言をつぶやきながら、早速誰かから連絡が来ていないかと携帯をチェックした。 すると、アイからメールが着信していた。 『この前はありがとう!とても楽しい一日だったよ。今度会うときも、またバイクがいいな!今日はどこか 出掛けてるのかな?帰ってきたら連絡してね(はぁと)それじゃあバイバイ!』 「おいおい、随分フレンドリーなメールだなぁ!」オレはそんな事を思いながら、早速アイに電話してみた。 オレ「ハイエナっス!メールありがとっ!!今日は秀樹とサーキット行ってたんだよ。」 アイ「あっハイエナさん!そうだったんだ。お疲れ様!」 オレ「どしたの?連絡って?」 アイ「うん、明日もし良ければ、また4人で遊べるかなぁ?」 オレ「えっ?マジっすか?モチロンだよ!!」 アイ「よかった!」 オレ「じゃあ、今回は何処行こうか?」 アイ「うん、ちょっと遠いんだけど牧場がいいな!」 オレ「牧場?ソフトクリームでも食べたいの?」 アイ「そう、当たり!何で分かっちゃうの?」 オレ「アイの事だから、何となくそんな気がしたんだ。」 電話を切ったオレは、早速秀樹に連絡を取り翌日を待つ事にした。 目的地の牧場は、オレ達の家から出発した方が近かった為、待ち合わせ場所は前回と同じ駅になった。 そして当日。 前回同様、待ち合わせの15分前に駅に到着。オレは秀樹とタバコを一服していた。 オレ「なぁ秀樹、アイは何で急に親しげに話す様になったと思う?」 秀樹「よう分からん。女は根本的に、男と脳のつくりが違うからな。」 オレ「前にあった時には、ずっとお前と話していたからなぁ。」 秀樹「あぁ、そうだな・・・ ・・・おい、ハイエナ!単刀直入に言う!アイちゃんはやめとけ!かなり難しいぞ!!」 オレ「へっ!?何でだよ急に!?意味わかんねえよ!!」 秀樹「こないだアイちゃんと話してる時にチラッと見えてしまったんだ。左手首に剃刀で切った様な傷跡がな。 きっと、何か心に深い傷があるはずだ。そんな子を、お前が乗りこなせるか?」 オレ「・・・多分、大丈夫だよ。だったら尚の事、傍に居たいよ。」 秀樹「お前が考えてる程、甘いモンでは無いと思うぞ?」 オレ「うるせぇな!!何で今さらそんな事言うんだよ!!大丈夫ったら、大丈夫なんだよ!!!」 オレはこの時、秀樹から伝えられた内容にかなり動揺していた。 正直、こんな話を聞くまで全く気付かなかった。 こんな精神状態のままアイ達と再会するのは気が重かったが、既に待ち合わせの時間は少し過ぎていた。 そして、待ち合わせの時間から丁度10分遅れ位に、アイからEメールが着信した。 『もう着いてる?ゴメンね!あと5分位で着くと思います!秀樹さんにもヨロシク!!』 アイ達が遅れていた5分間、秀樹とオレはお互い無言のまま待っていた。 アイ「ごめんね〜!かなり待ったでしょ?はい、お茶買ってきたよ!どっちがいい?」 オレ「・・・こっちかな。」 秀樹「・・・あぁ、ありがとう。」 アイと京子「もしかして遅れた事怒ってるの?・・・本当にゴメンなさい。」 オレ「いや、そうじゃないんだよ。こっちこそムスっとしててゴメン!」 秀樹「そっ、そうそうゴメンね!じゃあ早速出発しようよ!!」 アイ「・・・うん。私、今日はハイエナさんのバイク乗りたいな。」 京子「・・・私は秀樹さんの後ろがいい。今日はよろしくね。」 アイ達はオレ達の応対に???な事だっただろう。本当に申し訳ない事をしたと思う。 オレはアイとタンデム出来る事は嬉しかったが、秀樹と口論になった事とアイの手首の事を気にしてしまい 素直に喜べずにいた。それはおそらく秀樹も同じだろう。何か気まずい雰囲気のまま、オレ達は目的の牧場を 目指す事になった。 オレは自分の腰に回っているアイの左手首をそっと確認した。 確かに秀樹の言うとおり、横に細長い傷が3本確認できる。 そして途中、オレは何度か信号待ちでアイと話したが、やはりぎこちない応対になってしまう。 そんな自分に少し嫌気がさしていた時に、隣に止まった秀樹にこう言われた。 秀樹「なぁハイエナ!まだ距離もあるし、次に見えたファミレスで昼飯にしないか?」 オレ「あぁそうだな、みんな疲れも出てきているみたいだしな。」 秀樹「じゃあ、お前が先走ってくれるか?ついてくから。」 オレ「了解!」 一般道をタンデムで長距離走ると、どんなに丁寧なアクセル・クラッチワークを心掛けても セカンドシート側は加減速Gでかなり疲労が溜まるはずだ。それが女性ともなれば尚更の事だ。 オレは最初に目に入ったファミレスで愛車を止めた。 オレ「出発から結構距離走ったから疲れたっしょ?」 アイ「うん、少しお尻が痛くなった。でも平気だよ。」 京子「私もお尻と腕が痛い。あとどれ位で着きそう?」 秀樹「もう20`前後で到着だよ。時間にしたら大体30分程度だね!」 昼食の席では、明らかにアイ達がオレらに気を使っている様子が伺えた。 オレは沈んだ気分に喝を入れてアイコンタクトで秀樹に合図を送り、二人で努めて冗談を言うようにした。 苦し紛れに始めたつまらないギャグだったが、場の雰囲気は多少和んだ様に感じられた。 しかし、人間は一度気になり出した事は、中々頭から離れないモノだ。 もちろんオレもその例外ではない。 まして、自分が好きになった女性の手首にリストカット痕があるなんて・・・ その場しのぎで回復させた場の雰囲気だったが、オレにはこの後もそれを継続していく自信は無かった。 でも、「逃げるワケにはいかない!」 自分のエゴかもしれないが、一度好きになった女性の事は全て知っておきたい! これが自然な感情かはオレには到底分からないが、この時は素直にそう思ったんだ。 大体、30分前後は休憩しただろうか。ファミレスを出発したオレ達は、残りの道程を快調に飛ばした。 そして牧場に到着すると、早速オレ達は目的のソフトクリームの売り場へと足を運んでいった。 アイ「やっぱり牧場のソフトクリームは別格だね!!」 京子「うん、本当においしい!」 オレ達は、二人とも喜んでくれた様だったので、本当に来て良かったと思った。 さて、目的は果たしたし、この後どうしよう? そんな事を考えていると、京子が牧場散策を提案してくれた。 京子「ねぇ、せっかく来たんだし牧場の中を散歩しようよ!」 アイ「賛成!私、馬に乗ってみたい!」 秀樹「オレは、とりあえず牧場の中を全部見てみたいかな。ハイエナ、お前は?」 オレ「オレも、馬に乗りたい。」 京子「じゃあ、二手に別れようか?」 結果、アイとオレ、京子と秀樹のペアで別行動をとる事になった。 このおかげで、オレは少しだけアイの心の闇に触れられることになる。 アイ「ハイエナさん、やっぱり馬って可愛いね!」 オレ「そうだね、愛らしい目がいい。オレ、動物も人間も目に力のある人に惹かれるんだよね。アイは?」 アイ「私もそうかな。『目は口ほどにものを言う』ってあるけど、アレは当たってる気がする。」 オレ「オレ、アイの目を見ていると何ていうか凄い深みがある感じがするんだよね。」 アイ「えっ?どんな風に?そんな事、初めて言われたよ。」 オレ「うまくは言えないけど、人があまり体験してないような事をしていたりとか。そういう人独特の目かな。」 アイ「・・・どういうこと?」 オレ「単刀直入に言うと、アイの手首にある傷跡。オレ、ずっと気になってたんだ。」 アイ「・・・・・」 オレ「別に言いたくなければ言わなくてもいい。話せる時が来たら話してくれればそれでいいから。」 アイ「・・・隠すことでもないし、聞きたいなら話すよ。」 オレはどうしてもアイから『手首の傷』の理由を引き出したかった。 そんなオレに答えてか、アイは自身の辛い過去について語ってくれたんだ。 アイ「私の結婚生活が、元旦那の暴力が原因で終わった事はもう話したよね。 でも、離婚した原因はそれだけじゃないんだ。 元旦那の暴力が始まる少し前、私のお腹の中には赤ちゃんがいたの。 でも、あの男はそれを承知で私のお腹を蹴飛ばしたんだ。 ・・・どうなるかわかるよね? 当然、流産した。 私のお腹から生まれてくるはずの生命が消えてしまったの。 それだけじゃない。さらに、あの男は私が妊娠してすぐに別の女を作っていたんだ。 これは、その時に自分でつけた傷。 ・・・ちょっと重い話でしょ? 早いなぁ、あれから3年も経つんだなぁ。」 オレ「・・・・・」 不覚にもオレは言葉を失ってしまった。 アイの心の闇は、オレが思っていたよりも深く暗いものだったんだ。 だが、オレは何とか気を取り直して口を開いた。 オレ「大変だったんだね。ゴメン、無理に聞いてしまって・・・」 アイ「うぅん、今はもう平気。 本当に辛かったけど、友達や家族も支えてくれたし何とか乗り切れたよ。 でも理由はどうあれ、私はお腹の子を守れなかった。それだけは忘れられない。 だからこの手首の傷を見るたびに、今でもあの時の事を思い出してしまうんだけどね。」 オレ「そうだったんだ・・・」 オレは目の前にいる年下の女性が、自分よりも辛い過去を背負って生きてきた事に驚いた。 そして、何とも言葉に表せない複雑な感情に襲われた。 うまくは表現できないが、とにかくアイに対する気持ちが更に大きくなった事は確かだった。 その後、アイとオレは牧場を散策して楽しむ事にした。牧場はとても見晴らしが良く空気も美味かった。 しばらくして場内の時計を見てみると、京子と秀樹ペアと待ち合わせた時間まで残り15分程だった。 オレ「あとちょっとで、待ち合わせの時間だね。」 アイ「あっ、本当だ。」 オレ「そろそろ行こうか?」 アイ「そうだね!」 オレ「・・・アイ。」 アイ「えっ、何?」 オレ「これから先、やっぱりまた二人で会えないかな?」(言ってしまった・・・) アイ「どうして?」 オレ「アイは悲しい過去を背負っているけど、とても前向きに生きているよね。 その力強さに改めて惚れなおした。そして、これから先は辛い思いをして欲しくない。 オレも人に裏切られる辛さは、充分すぎる程わかっているつもりだからさ。 だから二人だけで会ってほしい。オレ、もっとアイと仲良くなりたいんだ。」 アイ「いいよ!!」(間髪入れずに) オレ「・・・へっ?」 アイ「いいよって言ったんだけど。」 オレ「あ、ありがとっ!」 正直、予想外だった。 オレとしては「ちょっと考えさせて。」とか、「・・・う〜ん、どうしようかな。」とか、 そんなリアクションを想像していた。でも、アイはサラッと「いいよ!!」と答えてくれた。 これはこれで嬉しかったが、何だかちょっと拍子抜けした気分だった。 その後、待ち合わせの時間ピッタリにオレ達は京子+秀樹と合流した。 秀樹「空暗いけど、この後どうするよ?」 オレ「みんな疲れてそうだから帰った方がいいだろ。」 京子「うん、さすがに少し疲れたかも。」 アイ「私も。」 秀樹「そんじゃ、帰るか!」 オレは、帰りもアイをセカンドシートに乗せて走る事にした。 そして秀樹の方に目をやると、京子も笑顔で秀樹のバカ話に受け答えしている。 今回は出発で少しつまずいたが、結果的にはウマくいった様だ。 その後、秀樹とオレは二人を無事自宅に送り、いつもの様にオレのアパートで一杯飲む事にした。 オレ「なぁ、やっぱりオレ、上手くやれそうな気がするよ。」 秀樹「まぁ、いいんじゃねーの。お前が決めた事ならオレはとやかく言うつもりはねーよ。」 オレ「てめぇ、昼間はとやかく言ってたじゃねぇか!!このやろう!!」 秀樹「まぁまぁ、とにかくアイちゃんからお許しが出たんだろ!よかったじゃねぇか!!」 オレ「でも、今度は簡単にOK出してくれたぜ?どうしてだ?」 秀樹「まぁ、アイちゃんも少しはお前を認めたって事じゃねぇの?オレにも分からんよ。」 オレ「そんなモンか?」 秀樹「難しく考えるなって!頭、破裂するぞ!」 オレ「そうだな。これからは前だけ見て歩く事にするよ!」 秀樹「お前は本っっ当に単純だな!!や〜〜い、単細胞!!ば〜〜か!!」 オレ「てめぇ!ちょっとこっち来い!!」 秀樹「オレ、酒買ってくる!!!」 オレ「あっ待て!!逃げんなよ!!!」 一応、秀樹とも仲直りしたオレは、次の日からアイに電話&Eメール攻撃を仕掛けることにした。 もともと聞き役に回る事が多いオレは、アイの職場での出来事や、普段不安に感じている事、色々な話を聞いた。 そして、大体週に2〜3回は会っていたと思う。(いつもファミレスだが・・・) オレがアイと親密になっていくのに、それほど時間は必要なかった。 そして、牧場デートから3週間位経過したある日。 平日22時頃、いきなり呼び出されたオレは、急いで愛車ビューエルに飛び乗りアイの元へと走った。 オレ「急に話したい事って何?」 アイ「ハイエナさんは、今でも私と付き合いたい?」 オレ「そっ、そりゃ〜ね〜・・・まぁ・・・」 アイ「そこのキミ!ハッキリ言いたまえっ!!」(鬼軍曹みたいだ。) オレ「はいっ!!自分、もちろんアイ殿と付き合いたいでありますっ!!!」 アイ「よろしい!!じゃあ、今日から付き合おう!!これからも宜しくね!」 オレ「・・・・へっ?」 アイ「だから、今日から私とハイエナさんは恋人同士なの!!」 オレ「まっ、まじっすか!?自分、メチャクチャうれしいっス!!!」 何だかよく分からない展開だったが、この日から正式にアイとオレは恋人同士になったんだ。 それから暫く、アイとの交際はとても順調だった。 今までのデートがファミレスばかりだった事もあり、毎日のようにタンデムで走り回った。 オレのアパートは都内にあるので、デートスポットへのアクセスはとても簡単だ。 しかし前にも書いたかもしれないが、アイとオレの家はかなり離れている。 毎日のように会ったりデートをしたりでは、お互い体力的にも金銭的にも辛いモノがあった。 それと、アイはちょっと前にこんな愚痴をこぼしていた。 「この前、会社で部署移動があったんだけど、なんと元彼と同じ部署に配属されてしまったんだよ。 今でもしつこく付き纏われてるし、ホント悩みの種なんだよね〜。」 オレはこのセリフがずっと頭から離れなかった。 自分の彼女に別の男が付きまとっていてる。この事実を想像しただけでイライラしてくる。 「これではいかん!!」 そう思ったオレは、アイにある提案をしてみる事にした。 オレ「ねぇ、ちょっと話があるんだけど。」 アイ「ふぇ!?何?」(オレのアパートで、寝そべりながらポテトチップスをムシャムシャ食べている。) オレ「オレ達の付き合い方って、かなり疲れると思わない?」 アイ「う〜ん、確かに毎日寝るのが遅くなったりするからね。」 オレ「金も貯まらなくない?」 アイ「うん。それはいえてるかも。」 オレ「だったらさ、このアパートで一緒に暮らさない?」 アイ「う〜ん……!? えっ?同棲ってこと?」 オレ「あぁ。一緒に暮らした方が、お互い楽だしプラスになると思うんだよね。 どう?」 アイ「でも、私の行ってる会社がどこにあるかは知ってるよね? ここからじゃ、とても毎日通えないよ。」 オレ「わかってる。だから、思い切って辞めちゃえよ! 次の仕事が決まるまでは、オレが養うからさ。」 アイ「でもねぇ……ちょっと考える時間もらえる?」 オレ「あぁ、いいよ。」 いきなりこんな提案をされれば、どんな人間だって戸惑うだろう。 そんな事は百も承知だったが、しかし、オレは何とかして現状を打破したかったんだ。 それから1ヶ月は、とても平穏な日々が過ぎていった。 アイは地元を離れた事が一度も無かったらしい。なので、現状ある生活を捨て去るには抵抗があった様だ。 答えを貰えずにいたオレは、半ば同棲を諦めかけていた。 だが何も進展しなかったこの状況も、京子から貰った一通のEメールによって激しく動き出す事になった。 【送信元】○○京子 【題名】 報告があります! 【本文】 やっほ〜久々! 元気してる? 今日は、ちょっとした報告があってメールを打ちました。 ハイエナさんはもう聞いてるかもしれないけど、私と秀樹さんは付き合う事になりました。 もし知らなかったら、連絡遅くなってゴメンね m(__)m ところでアイは元気? 最近メールしても返信こないし、電話しても繋がらないみたいだから… ハイエナさんと仲良くやってるんなら別にいいんだけど。 それじゃ、また連絡するね! 京子のEメールの内容はこうだった。 これを見て、オレは単純に驚いてしまった。 なぜなら秀樹は、京子にモーションをかけている素振りなど、オレには全く見せていなかったからだ。 しかも、彼女から先に報告が入るとは…… あぁぁ、思い出したらまた腹が立ってきた!! でも、二人が付き合うという事はとても嬉しい事だし、別段問題も無い。 重要なのは、アイと京子が全く連絡を取り合っていないという事だ。 アイが京子からの連絡を拒んでいるとなると、何か悩みでもあるに違いない。 親友にも話せない悩み…… まだ交際を始めて日が浅いオレには全く見当も付かなかった。 「やばい!これは大問題だっ!!」 単純思考ですぐに次の行動が割り出せるオレの頭でも、今回ばかりはどうしようもない。 この問題を解決するには、誰かに相談するしかないだろう。 こんな事を相談できるヤツ…… やはり秀樹しかいない。 普段はただのバカだが、こういう時には本当に頼りになるヤツだ。 オレは早速、秀樹に電話をかけた。 そして、オレが今までの経緯を全て説明し終えた後、ヤツは口を開いてくれた。 秀樹「お前なぁ、そりゃアイちゃん悩んで当然だよ。」 オレ「悩むのは分かるけど、オレはどうすりゃいいんだよ。」 秀樹「お前は全然女を分かってないよ。 いいか? まず一番の問題点は、お前が同棲を迫った事だ。 次は、自分が地元を離れる事。 ここまではお前の考え通りだ。 そして、ここからがとても重要。 耳の穴かっぽじってよく聞けよ? 1、転職を余儀なくされる為、未来の自分の収入が未知数である。 2、仮に1で失敗したとしたらどうだ? そして、お前との関係も失敗したら… 3、男と生活を共にして、また自分が暴力に襲われないか。 4、そして、もしお前とアイちゃんの間に子供ができたらどうするか………」 オレ「ちょ、ちょっと待て。いくら何でもそこまでは考えんだろ?大体、夢がなさすぎるぞ!」 秀樹「バカ!!きっと女はその位考えるぞ。まして、アイちゃんの過去は普通ではないだろ? 女は、男が思っている以上に現実を直視しているぞ!! 要するに俺が言いたいのは、お前が同棲に誘うならキチンと現実を見据えて最後まで 責任を持てって事だ。 それが出来ないのなら同棲なんて考えるな。 アイちゃんだって、すぐにOK出せねぇよ。 お前は良かれと思って提案したんだろうが、それがかえって相手を苦しめる事になるんだぞ。 悪い事は言わん。 もう一度よく考えた方がいいぞ?」 オレ「……お前だったらどうするんだよ?」 秀樹「あれっ? 言わなかったっけ? 俺は京子を連れてくよ。」 オレ「へっ!?どこによ??」 秀樹「だから、俺は来月から3年間ドイツに転勤なんだよ。」 オレ「はっ!? ……てめぇは何でそんな大切な事、早く言わねぇんだよ!!!」 オレは、京子と秀樹が付き合うというだけでも充分お腹一杯だったのだが…… この時ばかりは本当に驚いた。 牧場でアイにされたカミングアウトに匹敵した事は言うまでもないだろう。 とにかく、歯車が動いているのはアイとオレだけではなかったという事だ。 オレは秀樹との電話を切ると、すぐにアイへ連絡をとっていた。 オレ「京子と連絡取ってないんだって?」 アイ「……あぁ、聞いたんだ。私にも色々あるんだよ。」 オレ「悩んでるのは、同棲の事だよね? オレも考えたんだけど、アイにばかり色々失わせるのは悪いから こっちも大切にしているモノを捨てる事にするよ。」 アイ「えっ?何?」 オレ「オレ、バイク降りるよ。 レースも辞めるし公道も走らない。 工具やパーツも全部売っ払う。 そしてアパート引っ越す。そうすれば今より広い家に住めるじゃん。 いいアイデアじゃない?」 アイ「それ本気で言ってるの?」 オレ「あぁ、本気だよ。 やっぱりオレも覚悟見せないとね。 アイと対等じゃないじゃん。」 アイ「……う〜ん……… わかった!! 同棲してもいいよ!」 オレはこの話の後に、京子と秀樹が交際している事と、二人揃って海外に引っ越す事を伝えた。 やはりアイも、開いた口が塞がらなかった様子だった。 そして、改めて同棲を躊躇っていた理由を聞いてみると、ずばり秀樹のアドバイスと同じ答えが返ってきた。 しかしこんな頼れる親友も、翌月には自分のそばからいなくなってしまう。 全てが大きく変化する。それぞれが新しいスタートを切るには、丁度よい環境が整っていった。 次の日の晩、オレはアイの実家に出向き同棲の了承を得た。 アイは母子家庭で育っており、お母さんはとても心配してはいたが快く承諾してくれた。 そして、オレは公約通りバイクに関する物を全て処分し、結構な額の現金を手に入れた。 アイも会社を退職し、新しい家も契約した。 全ての準備が終わり、秀樹達の出発前には同棲生活を始める事ができた。 そして成田から秀樹達を見送り、その一ヶ月後にアイとオレは入籍を済ませ現在に至っている。 |