− ジュウザ さんの恋愛話(その1) −

某カニの家がプレハブで建物の前に新幹線があったころの話。
ほとんど利用者も無く貸しきり状態だった。
俺は管理人に許可を貰い、荷物を置いてベースとして利用し、林道走行や2〜3泊のツーリングを楽しんでいた。
あれは酷く暑い日だった。俺は堪らずに外に出て柄パン一丁で行水をしていた。

すると小柄なライダーがバイクを押してやってきた。汗だくだくになり足元もたどたどしかった。
「危ない!」俺は我を忘れ柄パン一丁でライダーに駆け寄り、倒れかけたバイクを支えスタンドを掛けると、
蹲ったライダーを抱えて起こした。
俺「大丈夫ですか?」
ライダー「み、水・・・」とかすれた声で答えた。

なぜ炎天下にジャケットを着てフルフェイスのヘルメットをかぶってバイクを押してきたのだろう?
そんなことを考えながら俺はコップとホースをライダーの近くまで持っていった。
ヘルメットを取った小柄なライダーは女性だった。彼女はコップではなくホースを受け取り浴びるように水を飲んだ。
何でも襟裳で財布を落として無一文、帯広まで行けば土日でもお金を貸してくれるところがあるだろうと帯広を
目指したが、十キロ手前でガス欠になり、助けも呼べないままここまで押してきたとの事。

取りあえず俺は彼女を担いでRHの畳の上に寝かせ、近くのスーパーまで氷を買いに行き、彼女の頭を冷やした。
明日の釧路発のフェリーを予約してあるので何としてでも行かなければと彼女は半べそ状態・・・
押してきたバイクはガソリンが空で、押しているときに倒したのだろうか?クラッチレバーが根元から折れている。
「お金の事はどうにかなるとしても、クラッチレバーがこれでは無理だよ。」

俺の言葉に彼女は泣き出してしまった。別に3〜4万なら身分がハッキリしていれば貸しても良かったのだが、
部品屋が休みで、おそらくバイク屋も休みである盆時期ではVTーZのクラッチレバーなど入手困難である。

そこで駄目元で少し回復した彼女とタンデムして帯広市内で開いているバイク屋を探して回った。
開いている店もあったが在庫をおいているところは無かった。

「取りあえず釧路FTまで送ろうか?」
と尋ねると、現在無職で帰る日が伸びても構わないし、予約も電話予約だけなので電話でキャンセルできるし、
バイクと一緒に帰りたいので、家に電話して局留めで送金してもらうまで待つとのこと。
開いていたバイク屋にレバーを注文し、公衆電話から自宅とフェリー会社に電話してRHに戻った。

時計を見ると午後3時、二人とも朝から何も食べていない、乾麺のうどんを茹でて水で冷やして流し込んだ。
腹が膨れてほっとしたからだろうか?彼女はうどんをすすりながら安堵の涙を流していた。
ここでマジマジと彼女の顔を覗き込む、肌が露出している部分が埃まみれだ。
俺は彼女を後ろに乗せ晩成温泉までバイクを飛ばした。
湯上りの彼女は色白で髪もつややかで見違える程であったのを覚えている。

夕食は今は無き「らむ亭本店」で俺の立替&彼女のおごりで食事した。
その夜、今まで名前しか知らなかった彼女が酔いに任せて色々と語り始めた。

彼女は酔いに任せて語り始めた。
短大卒業後、4年勤めた会社をリストラされ退職金で自分探し?の旅に出てきた事。
リストラと同時に婚約間際の彼氏に逃げられた事、両親の不仲ect・・・
色々あったとは言えほとんど初対面の俺にそんなことまで話すとは。
その夜は夜明け近くまでお互いの身の上や夢(若かったな)を語り合いいつの間にか眠りについていた。

翌日は雨、それも土砂降りの雨、何をするわけでもなくひたすらゴロゴロしていた。
彼女も昨夜の饒舌は何処へやら別室に引き篭もって本を読んでいる様子だ。
その日は一歩もRHから外に出なかった。

そしてまた翌日も雨、更に土砂降りの雨・・・
しかし午後には部品が入るので帯広市街まで行かなければならない。
午後になり更に雨風が強くなってきたタンデムするのも危険なので俺は単独で部品を取りに行った。
ライハに戻ると雨は小降りになり、レバーの交換が終わる頃には晴れ間が見えてきた。
「海でも見ながら温泉に行こうか?」レバーが直りガソリンが満タンになった愛車にまたがり、
彼女が嬉しそうに呼びかけた。

2台で連なり晩成温泉までバイクを走らせ「神田川ごっこ」(待たされるのは俺だったがwを満喫し、
いざ帰るかとなると・・・待ち受けていたような土砂降り。
2〜30分待っても止む気配は無い、勿論、カッパなど無い。
日没後にこの土砂降りは危険なので、ゆっくりと帰ることにした。
走行中、容赦なく大粒の雨に降られ男の俺でさえ体温が奪われていくのが分かる。
丁度行程の半分が過ぎたところに屋根付きのバス停があったのでそこに一時避難した。
彼女は唇が真っ青で震えながら涙を流していた。
「もう駄目、タクシー呼んで帰ろうよ!」と俺に訴えるが当時携帯電話も無く、バスも来るのは2時間後だ。

とりあえず暖かいものを・・・と思い俺は少し先の自動販売機で温かい缶コーヒーを買って彼女に飲ませた。
自動販売機の先のガソリンスタンド(ホクレンの小さなやつ)があったので、
そこにバイクを預けてタンデムで帰ろうと彼女に提案し、彼女はためらいながらも承諾した。
もう震え方が半端じゃない、このまま運転して帰るなど自殺行為だと思った。
スタンドで訳を話し一晩バイクを預かってくれるようにお願いすると、親切な店主は、
自宅がライハの近くなので、あと20分待てば閉店だから、そしたら彼女のバイクを積んで、
軽トラで送って行ってくれるとの事で、ずぶぬれの俺達にタオルと毛布を貸してくれた。

軽トラにバイクを積み込む頃には雨は上がっていたが、冷え込みは更に厳しくなってきた。
店主にゴミ袋を貰い穴を開けて被ってみたが、盆明けだと言うのに以上に寒い。
鳥肌全開で乳首はビンビン、玉袋が縮み上がっていたw

先にライハに着いた俺は着替えも後回しに湯を沸かして彼女を待った。
十分後、彼女が戻ってきてお礼を言いながら店主を見送った。
彼女は大急ぎで着替えたが、まだ震えが止まらない。
俺は荷物の奥からフリースの上下を引っ張り出してきて彼女に貸してあげた。
「ごめんなさい、私が温泉に誘ったばっかりに・・・」
熱いコーヒーを片手に彼女が呟いた。

「ごめんなさい、私が温泉に誘ったばっかりに・・・」
熱いコーヒーを片手に彼女が呟いた。

別にこんなことでいちいち目に涙を溜めて謝らなくたって・・・と思いながらも、
「天気は君のせいじゃないだろ。」と彼女の両手を握った。
その夜はスーパーで食材を買い込み、彼女が味噌鍋を作ってくれた。
料理する彼女を見ながら少しずつ彼女に対して特別な感情を持ち始めている自分に気付いた。
うまく言えないが、ずっと一緒に居たいと言うより俺が付いていてやらなければって心境。

食後、日本酒を煽りながら昼間の話で盛り上がった。
さっきまでは半べそ状態だった彼女が楽しそうに苦労を語っている。
「私って貴方と出会えなかったらどうなってたんだろう?」急に少しまじめな顔になった。
「出会えたんだから出会えなかったことなんて考えなくてもいいじゃん。」
「そうだね」
彼女が俺の肩にもたれかかってきた。

俺の欲望が沸々と込み上げて来たが、この場は自分の理性が勝った。
まず、OKサインなのかどうか分からない、玉砕しても実家からの送金が届く明後日までは一緒に居なければならない。
玉砕した自分にとっては苦痛な時間だ。
そしてま旅人間の情報網の早さから、まだ滞在時間のある自分にとって変な噂が広まるのは嫌だ。
それに金を貸している立場で力技を出すのも弱みに付け込むようでカッコ悪い。

今日はパス!彼女とイーブンな立場になったら考えよう。

今考えると自分の気持ちは決まっていたのだと思う。
それに気付かない当時の自分が今、とてももどかしく思える。

その後、何処をどう走って何を見たのか覚えていないが、ライハに戻り、ワインを飲みながら焼肉をしていた。
これが最後の晩餐になってしまうのだろうか?
食後、俺は公衆電話から地元の女に意味も無く電話した。

電話の向こうの女の様子がおかしいので問い詰めると、他に好きな男が出来たことが発覚した。
それもよりによって相手は金と女にだらしないことで有名な地元の先輩だ。
俺も女に対してやましい感情をここ数日の間抱いていたので、さほどのショックは受けなかった。
女を地元に残して上陸後1ヶ月、絵葉書を1枚送っただけで電話もしていない。
付き合ってまだ3ヶ月経ってないし、見切りを付けられて当たり前である。

俺は少し度数の残っているテレカを捻り潰し、道端に投げ捨てた。<DQN行為スマソ
自販機で上陸と同時にやめていたタバコを買い、防水マッチで火をつけた。少しクラッときた。
ライハのある公園のベンチに座り頭を抱え込んだ俺は、数日振りに一人になれた気がした。
これで彼女に気持ちを伝えることが出来る!そう考える事にしよう。
と都合よく自分に言い聞かせてみる。少し?かなり?気が晴れた単純な俺がそこに居た。

何も悩むことは無い!明日、彼女に打ち明けよう。
ココでハッキリした単純明快な気持ちが脳裏からまるでプリンターで印字されるかのごとく押し出されてきた。
「俺は彼女が好きで、彼女を守るなんて保護者的心境でなく、彼女に必要とされる男で居たいんだ。」

何故か足取りも軽くライハに戻ったのを覚えている。
ここ数日の思い出を清算しているかのように、彼女は溜まった旅日記を書いていた。
考えてみれば自分の気持ちは決まっているが、彼女の気持ち次第である。
「明日になれば借りてたお金返せるよ。本当に助かった、ありがとう。」
日記を書き終えた彼女が言った。
「そうだね、これで帰れるね。フェリーの予約は大丈夫なの?」
「釧路でキャンセル待ちする。もう一人旅は怖いよ。」そういうと悲しそうに俺に背を向けパッキングを始めた。

もう一人旅は怖いよ、これは彼女から俺への投げかけなんだろうか?
今考えればどうでも良い事なんだけど、俺は金を返してもらい、互いにイーブンな立場になるまでは、気持ちを伝える気がなかった。
「明日さ、出発する前に伝えておきたいことがあるんだ。」俺は彼女の背中に呼びかけた。
「え、何何?今じゃ駄目なの?」彼女の細い肩が一瞬動揺を見せたが、笑顔で振り返った。
俺はまたやめていたタバコに火をつけ、答えた。
「今夜の雰囲気が壊れたら嫌だから、分かれ間際にするよ。」
「そうなんだ、タバコ吸うんだね?」
「うん、上陸してからやめてたんだけど迷惑かな?」
「別に平気だよ。吸えないけど匂いは好きなんだ。」
こんな感じで話が逸れ、いつの間にか消灯していた。

俺は心臓がバクバクと鼓動していてなかなか寝付けない、三度目の寝返りで彼女が目を覚ました。いや、彼女も眠れない様子だ。
「明日伝えたいことって何?気になって眠れないよ。」彼女が震える声で問いかけてきた。
「大した事じゃないから気にしないで寝ようよ。」
俺は彼女に左腕を差し出した。昨夜のように腕枕の俺に背を向け左手を握り締め、静かな寝息を立てた。

明日が待ちきれない俺にも地球が自転している限り時間が経てば朝はやってくる。
いつの間にか寝ていた俺は腕枕の左腕の痺れで目が覚めた。
彼女を起こさないようにそっと腕枕を外し、水の音を気遣い公園の水飲み場で顔を洗った。
盆過ぎだというのに水道の水が冷たくて気持ちよかったのを覚えている。
意味も無くラジオ体操をしてベンチに腰掛けタバコに火をつけた。
どんよりとした曇り空にタバコの煙が吸い込まれていくのを意味深な気持ちで眺めた。
腕枕を外す際に畳と俺の掌が涙で濡れていたのが鮮明に脳内印画紙に焼きついていた。

ライハに戻るとまだ寝ている彼女を気遣い、外で昼食の準備をした。
只今6時半、9時に郵便局が開くので、早ければ3時間後には彼女と別れることになる。
付き合えるかどうかより今の気持ちを伝える方が大事なんだ。
と俺は自分で自分を言い聞かせながらコンソメとカットした野菜を煮えたぎるクッカーの中に放り込んだ。
スープが出来上がり、コーヒーを落とし始めた頃彼女が目を覚ました。
少し目が腫れてる様子だったが、顔を洗うといつもの彼女の笑顔が戻った。

無言の朝食の後、パッキングした荷物をバイクに積んでいる彼女を背にくわえタバコでゴロ寝していた。
荷物を積み終わった彼女の背中が震えてたのを肩越しに見つめる俺に彼女が言った。
「これから郵便局に行って来るから待っててね。」
「ああ」俺は彼女を背中で見送った。

俺は一人、ライハで彼女を待っている。
2時間くらい経ったように思えるが時計の針は3分しか動いていない。
どうやって気持ちを伝えようか?俺の脳内に冷たい木枯らしのような臆病風が吹いてきた。
今考えると彼女の気持ちは充分分かっていたはずだけど、当時の不器用な俺には気付かなかった。

Q・俺は彼女の何処に惚れたんだろう?
A・泣き虫だけど笑顔が可愛いから。理屈じゃない、失いたくないから好きなんだ。
Q・このまま気持ちを伝えずに別れられるか?
A・そんな事出切る訳が無い!
Q・振られたらどうする?
A・知るかそんな事、三日も自棄酒すれば気も晴れるだろ?
そんな自問自答を繰り返しているうちに彼女が帰ってきた。

「お待たせ、これ、借りていたお金。」彼女は取り繕った笑顔で俺に封筒を差し出した。
何故取り繕っていたと分かるのか?俺が惚れた彼女の笑顔ではないからだ。
「じゃ、行くね、本当に助かったよ。ありがとう。」
目尻に涙を溜めそう言って彼女が出て行こうとしたとき、俺は一瞬金縛りに会ってしまった。
駄目だろ、呼び止めないと、このままじゃ本当に行ってしまう。
「あ、あ、あう、hじゃyrsf!」
彼女が敷居を跨いだ時、俺の喉の奥から声にならない叫びが勝手に込み上げてきた。
驚いて振り向いた彼女に、深呼吸した俺は問い掛けた。
「出発前に伝えたい事があるって言ったじゃん!」

驚いて振り向いた彼女に、深呼吸した俺は問い掛けた。
「出発前に伝えたい事があるって言ったじゃん!」

意識していたわけではないが、かなり大きな声だった。
彼女は一瞬立ちすくみ、目を潤ませていた。
よし、今だ、言っちゃえ!足の震えを隠しながら切り出そうとした瞬間、砂利を踏む音が聞こえた。
近所の爺さんが犬の散歩で通りがかったのだ。
通り過ぎるまで二人はただ見つめあうだけだった。
爺さんの足音が遠ざかる頃には足の震えが止まっていた。
よし、気を取り直して言うぞ!
「(彼女の名前)さん!好きです!このまま別れたくない!行かないでくれ!」
今ならもう少し気の効いた告白も出来るのだろうが、当時の俺にはそれが精一杯だった。
彼女は急な夕立にでもあったようにその場で固まっていた。
一歩、二歩、三歩、俺は彼女の前に立った。
彼女は泣き出してしまった。
俺は彼女の肩に手をやり、土間の小上がりに座らせた。

「駄目かな?」
俺の問い掛けに彼女は泣きじゃくりながら答えた。
「何でもっと早く言ってくれなかったの?私の気持ちは知ってたんでしょう?
それに荷物積んじゃった!あwrつmbふぃmhykんjhgv!」
彼女は俺の胸に顔をうずめ暫く泣いていた。
さっきの犬を連れた爺さんが戻って来て横目で見て行ったが今はそんな事気にしない。
「ごめん、振られるのが怖かったし、お金を返してもらってからじゃないとフェアじゃないような気がして、
今まで何も言えなかったんだ。」
そう言い終わった後、彼女が顔を上げ、しばし見詰め合い彼女が頷いて目を閉じると、
俺は彼女の額と唇に軽くキスをした。

その後、俺達は彼女が断念して帰ろうとした最北端まで2日掛けて走り、稚内のビジホで結ばれた。
それから道北、道東を一週間走り、意味ある再会の約束をして釧路で彼女を見送った。
彼女を乗せたフェリーが見えなくなった後、思い出したように返してもらった金が入っている封筒を開けた。
貸した金は2万円だったのに封筒には3万円と手紙が入っていた。
「色々助けてくれてありがとうございました。
 あなたの事が好きになってしまいました。
 もし、私を受け止めてくれるなら釧路港で待ってます。」

二週間後、北関東にある彼女の自宅を目指し、俺は東北自動車道を南下していた。
もう、決めていたんです。彼女のご両親に挨拶しに行くって。
彼女の両親は俺が定職に就くことを条件に結婚を許してくれた。
その後、不仲も解消されたと聞いた。

俺はすぐに仕事を決め、3ヵ月後に事業を始め一緒に暮らした。
運よく事業は軌道に乗り、出会った日から一年後に入籍、9月に車で北海道に新婚旅行に行った。

しかし、1996、8.15終戦記念日、単独でバイクで帰省した彼女は居眠り運転のワゴン車に追突され、
2日後に帰らぬ人となった。

彼女を失ったショックで会社を右腕に譲り、暫くは廃人同様だった。
彼女の両親は俺の今後を気遣い、遺骨と位牌を引き取ってくれ、分骨もしてくれた。
実家で約一年、引き篭もりを続けた俺は1997.8.17彼女の墓前に花を備え、
僅かな貯金と車や私財を売り払った金で、居るはずもない彼女を探しに4号線を北上した。



戻る