− ジュウザ さんの恋愛話(その2) −
| 人物を設定を変更します。 ・自分の事は原田泰造または俺 ・死別した前妻はちえみ 実家で約一年、引き篭もりを続けた俺は1997.8.17彼女の墓前に花を備え、 僅かな貯金と車や私財を売り払った金で、居るはずもない彼女を探しに4号線を北上した。 給油以外ノンストップで大間までたどり着き、朝一のフェリーに乗り込み、 函館に上陸後、一気に帯広まで走り切った。 「ココも変わって無いな・・・」俺は呟きながら上陸後一本目の煙草に火をつけた。 くわえ煙草で、あの時腕枕で眠った畳の上に寝転がり、天井を見上げた。 意味も無く寝返りを打ちながら、辺りを見渡してみる。 目に映る風景はセピア色で3年前と変わらない。 タバコを消して瞼を閉じるとちえみの笑顔が見えるわけもなく、瞬時に眠りについていた。 気が付くと朝6時、途中、管理人に起こされたような記憶があるが、ゆうに13時間は眠ったようだ。 突然、雷のように腹の虫が鳴った、考えてみれば出発してから何も食べていない。 俺はカロリーメイトを齧りながら、あの時と同じようにコーヒーを入れた。 居るはずもないちえみの分まで入れたことに気付いた俺は不覚にも涙を流していた。 晩成温泉で長旅の垢を落とし、ジーンズの裾を捲り上げて走った海に行き砂浜に座り込んだ。 「何やってるんだろうな・・・俺・・・」 晩成温泉で30分も出てくるはずのないちえみを待ち、ここでは居るはずもない波と戯れるちえみを探している。 砂浜に穴を掘り、捨てられなかったちえみの思い出を入れ、小一時間ためらったが、ジッポオイルをかけ火を点けた。 当然だけど瞬く間に火は大きくなり、俺はその火でタバコに火をつけ、深呼吸した。 吐き出した煙にちえみの笑顔が浮かんでは消えていき、またしても涙を流していた。 最後に残った片身はネックレスにつけてある結婚指輪だけになった。 (勿論、遺影や披露宴の写真は別ですよ。) その後、暫く砂浜に蹲っていた俺は訳の分からない力に引き起こされ、北へとバイクを走らせた。 勿論、行き先は宗谷岬だ。 途中、ガス欠手前でスタンドが開くのを待ちながら仮眠したが、俺は翌朝宗谷岬に立っていた。 最北端の碑に目をやるが当然ちえみはいない・・・「ん!」 まさかと思って目を凝らしたが記念撮影している髪形の似た女性だった。 初めてちえみと結ばれたビジネスホテルを探したが、場所を忘れたか潰れたかで辿り着けなかった。 近くのキャンプ場にテントを張り、コンビニ弁当をつまみに酒を煽っていると近くのキャンパー達と話の輪が出来たが、 俺は愛想笑いはするものの話など上の空だったのを覚えている。 何となく動くのも面倒なので翌日から買出し以外バイクのエンジンを掛けない俺が居た。 4日後か5日後か覚えていないが、飲んだくれていた俺に一人の女性が声を掛けてきた。 「ここにテントを張ってもいいですか?」 辺りを見渡すと昨夜より混み合っていたので、「どうぞ。」とぶっきらぼうに返事をした。 その後、テントで安酒をあおりながら地図を眺めていると、隣の女性から声が掛かった。 「良かったらご一緒してもいいですか?」前室のメッシュの向こうでコンビニ袋を提げてこちらを覗き込んでいる。 周りには人の目もあるし、今の俺には下心など微塵もないが、さっきぶっきらぼうな態度をとった負い目もあるので、 女性をテントに招き入れた。 女性の名前は優子、偶然にも自宅は隣の市で地元ネタで盛り上がった。 俺に声を掛けてきた理由は、隅の方にテントを張り、周りとつるんでなかったから、似たもの同士と思ったからだ、 と俺に打ち明けた。 一言で言うと、大勢で飲むより一人の相手と語りたいタイプのようだ。 当然の事ながらその夜は何事もなく、地元に帰ったら思い出話をしようって感じで連絡先を交換した。 翌朝、ここ数日は目が覚めると温いビールを飲んでいたが、久しぶりにコーヒーを入れた。 例によってちえみの分も入れてしまって少しブルーになったが、 丁度、洗顔を終えて戻ってきた優子に飲んでもらえたので無駄にせずにすんだ。 優子はこれから礼文島に渡る予定で、一緒に行こうと誘われたが、俺は気乗りせず。 彼女は仕事を辞めて来たので9月一杯は滞在するとの事で、再開を約束して別れた。 俺は取りあえず撤収してサロベツに向かう。 サロベツの海岸線を走っていると何故か長渕剛のJEEPを口ずさんでしまう。 特に彼のファンと言う訳ではないが、旅先で知り合った友人から貰ったテープに入っていた。 余談だが、十勝川の流れを見ているとガンジスを思い出す。 稚内を出て4、5日後、何処で時間を潰してたか覚えていないが、カニの家にいた。 ちえみと出会う前のように林道を走ったり登山をしたり、そんな日々が一週間から10日くらい続いたと思う。 その頃にはコーヒーを2杯入れたりとか晩成温泉でちえみを待ったりなどしなくなっていた。 ただ、ライダーが到着するバイクの音を聞くと一瞬だが気になってしまう。 その日は九月の声も聞こえたのに暑い日だった、昨夜の酒でガンガンする頭で同泊したライダーを見送り、 二日酔い覚ましにポカリスエットを買って戻って来た時・・・ そこには荷解きしている優子の姿があった。 「ここを拠点にしてるって聞いたから来ちゃった。」 ずいぶん早い到着だなと思ったが、話をしているうちに昨夜は某牧場の家に泊まったとの事。 彼女は利尻礼文の事、その後走ったコースなどを語り始めたが、俺は二日酔いが酷く寝に入ってしまった。 丁度昼ごろ寝汗をかき捲くった俺は何とか頭痛から開放されたようだ。 優子がそうめんを煮ていた。 どうやら寝ている間に洗濯をしてきたらしく、彼女のバイクには乾燥機で乾ききらなかったジーパンが干してある。 そうめんをご馳走になり、彼女のバイクのチェーンを張って更に一汗流し、夕べの酒は完全に消えた。 汗だくの俺を見て優子が言った。 「この前話してた海の見える温泉に行きたいな。」 考えてみれば今日で3日風呂に入ってない。 「分かった。行こう!但しカッパを持って行かないと駄目だよ。」 「え?こんなに天気がいいのに?」 「夕立とか心配だし、苦い経験もあるからさ。」 彼女は何も言わずに微笑むとカッパと銭湯準備一式をタンデムシートにくくりつけた。 優子はかなり乗りなれている様子で、ちえみと違いバックミラーを注意する必要もなく、 快適なペースで走る俺の後ろを付いてくる。 晩成温泉に到着して時計を見るといつもの自分のペースとほとんど変わらなかった。 「なかなか乗り込んでるでしょう?男だって道を知ってる俺のペースに付いてこれないのに。」 「そう?結構怖かったけど道を知ってる人の後ろを突いていくだけだから。」 その後の話によると親の反対を押し切り十六歳で免許を取り、兄のDT50を受け継ぎ走り込んでいた様だ。 温泉に入り、俺は一時間待たされたのはどうでも良いことだが、 エンジンを掛けた瞬間、タンクに大粒の水滴が落ちてきた。 ポツンと言うよりバシャンって感じで、バシャン・バシャンがバチバチバチとなり、 ドシャーッと来る前に俺達はアイコンタクトをしてロビーに逃げ込んだ。 「もしかして天気予報のお兄さん?」 と優子が茶化した。まさに嫌な予感的中と俺は苦笑いしながらカッパを着た。 あの時もこんな感じの雨だったが、今回はカッパ持参w楽勝のはずだったが・・・ 急激に気温が下がり、ブーツカバーとグローブのカバーのない俺は指先とつま先の感覚が無くなり掛けていた。 ライハに戻ると、チャリダーが二人来ていたが挨拶もそこそこに使い捨てカイロで指先を温めた。 「カッパ準備と自分で行っておきながらw」と優子は湯を沸かしながら微笑んだ。 どうやらチャリダー二人と優子は昨夜牧場の家で一緒だったようで話が盛り上がっている。 予定ではもう少し先に行く予定だったが雨に降られ、優子に聞いていたのでここに非難したようだ。 その夜は近所の人がラム肉を差し入れしてくださったので、ジンギスカンで宴会となった。 チャリダー二人組みは秋田から来た婚約者同士で宗谷岬で指輪を交換し、帰ったら籍を入れるとの事。 今の自分にとっては少し酷な話だったが、彼らはそんな俺の事情なんて知る由もないし、語る気もない。 少しトーンダウンしてしまった俺に優子は気付いた様子だった。 あまり酒の飲めない彼等は、明日、本日の遅れを取り戻すため、 「俺達は寝ますので気にせず飲んでいてください。」と隣の部屋へ入っていった。 数分後、ガサゴソと音が聞こえ、暫くしてかすかなうめき声が2〜3回聞こえた後、十分程度でイビキが聞こえてきた。 それよりも最中の俺と優子の気まずさはご想像にお任せするが、二人とも顔を見合わせて呆気に取られていた。 気を取り直し、とり止めのない話を始めると優子が先ほどの俺のトーンダウンに付いて問いかけてきた。 酒に酔っていたからではなく、隠す必要もなかったので、 ここで前妻と出会い、温泉の帰りに雨に降られ往生した事、ここで告白して宗谷を目指した事、 結婚して死別したことを淡々と語った。 語り終わった後、優子は涙を流していた。 「ごめんね、嫌なことを思い出させちゃって。」 「いや、気にすることはないよ。」 更に俺は、彼女が居なくなったことをハッキリさせるには引き篭もりの一年と言う時間は俺にとって充分な時間だった。 ただ、居なくなったことを認識して受け止める事と忘れられると言うことは別問題だ。 だが、俺はちえみを探しにここに来たのではなく、思い出を返しに来たと気付き始めている事。 そんな心境を補足し終わった頃には優子は眠りについていた。 失礼な奴だなwと思いながら俺はそばにあったシュラフを掛けてあげて、自分のシュラフに潜り込んだ。 翌朝、明るくなる前にチャリダー二人が土砂降りの中を出ようとする音で目が覚めた。 日程的に詰まってる様子がパッキングする彼らの背中からひしひしと伝わってくる。 どうやら襟裳回航は諦め日勝を越えるらしいので、それは無謀だとアドバイスをしたのだが、 彼等は「何とかなりますよ^^」と大粒の雨の中へ消えていった。 大丈夫かな?と言う表情で見送った俺達は再びシュラフに潜り込んだ。 この雨は翌日の昼まで降り続き、ラジオでは「日勝峠頂上付近は2度C」と放送していた。 雨上がりの午後、天気は一気に回復した。 雲が風に流され、見る見るうちに晴れ渡っていく空を見ながら優子が言った。 「ねぇ、タンデムで温泉に行こうよ。」 「何でタンデム?」俺は訳が分からなかったが、 「湯上りにジャンケンして勝った方が湯上りのビールを飲めるから。」と言われ納得した。 保険の関係で彼女のバイクで行く事になったのだが、ジャンケンで負けたのは俺だったw 帰り道に大声で拗ねながらアクセルを握っていた俺は若かった。 ジャケット越しに優子の胸の膨らみを感じながら俺は思った。 このままではマズイ、優子に惚れてしまう・・・ ちえみが居ないのは充分認識できているが、俺の気持ちの中にはまだ・・・ 少なからず優子が俺に好意を持ってくれているのは気付いていたが、それを受け入れる自信が無かった。 明日の朝、優子が出て行かなかったら俺が出よう。 決心が着いた頃、ライハに到着した。 明日の朝、優子が出て行かなかったら俺が出よう。 決心が着いた頃、ライハに到着した。 ライハにはちょっと怪しげな男二人と女性が一人の三人組がいた。 どうやら車で来たらしい、関西ナンバーの今にも壊れそうなアルトが停まっていた。 挨拶しても何もなし、黙々と土間で米を炊いている。 優子は俺の手を引き外に出て、少し離れたところでこう言った。 「ちょっとあの人達怖いよ、それに不潔だし・・・」 「そんな事言ったってもう日も暮れるし、どうしようもないよ。」 確かに3人とも薄汚れた服を着ていて少し匂った。見た目は俺達より少し年上の30前後。 放って置けば害は無さそうな気がしたので、今夜は外で食事をして様子を見る事にした。 居酒屋で食事をして戻ると男二人が土間で全裸で行水していた。 優子は目を覆いしゃがみこんでしまった。 「あの、ちょっとこれは酷いのでは?一応ここは公の場所でしょう?」 と俺が注意した脇で奥の部屋から女が下着姿で身体を拭いたタオルをすすぎに出て来た。 「すいません、まだ帰ってこないと思ったので・・・」 股間をタオルで隠して男の一人が謝ったが、股間を隠しているタオルは干してあった俺の私物で、 女がすすいでいたのは優子のタオルだった。 「誰のタオルを使ってるんですか?」俺は少し言葉を荒げた。 「すいません、備品だと思ったんで・・・あ、洗って返します。」下着姿の女がヘラヘラと答えた。 「結構です、差し上げますから早く服を着てください。」優子がキレた様だ。 彼らも場の雰囲気が読めたのだろうか、慌てて服を着ていた。 しかしその後がまた・・・ 2〜3畳しかない土間を占拠して大々的に洗濯を始めた。 (ライハの間取りの説明をすると土間の小上がりの8畳位の一部屋と土間の奥から引き戸で入る8畳位の 奥の部屋がある。トイレは奥の部屋の引き戸の中にある。) 俺達が荷物を置いているのが小上がりの部屋、彼等は奥の部屋を陣取っている。 「もう嫌、ココを出ようよ。」見に涙を溜めながら優子が俺に耳打ちする。 「だって飲んでるじゃん!」俺も出て行きたい気持ちが満々だったが、飲んでいる事がネックだった。 「じゃあ、何があっても私を守ってくれる?」 「何とかするよ。」俺は優子の手を握り答えた。 彼等は3人x一週間分の洗濯をしているようだ、途中管理人が来て苦笑いしてたのを覚えている。 俺達は寝酒を飲んで寝に入る方向で、荷物の奥から秘蔵のワイルドターキーを取り出してチビチビ飲んでいる。 彼等は洗濯しながら視線を投げかけるが一切無視、酔って気が大きくなったせいもあるが、 刃物でも振り回されない限り乱闘になっても何とかなりそうだと思った矢先・・・ 洗濯を終えた彼らの一人が自炊に使っていた包丁を研ぎ始めた。 別に彼らの行動に問題があるのかって聞かれれば猥褻物陳列以外は普通と言えば普通だが・・・ 洗濯を終え、包丁を研ぎ終わった彼等は奥の部屋に入っていった。 暫くすると大声で会話を始めたが、聞く耳を立てる気にもならず俺達は消灯した。 シュラフに潜り込んだものの話し声で寝付けない俺達、優子が話しかけてきた。 「明日はどうするの?林道を走ってピョウタンの滝が見たいんだけど・・・」 俺はそう言われた瞬間、出る覚悟が固まった。 「明日はココを出るよ、明日の朝お別れだ。」 優子は一瞬固まったが、「私何か悪い事した?」と問いかけてきた。 「はっきり言う、明日別れれば友達のままで居られる、ズルズル引きずったら、そうじゃなくなりそう・・・」 そう言うと優子は長い沈黙の後、呟いた。 「忘れるにはまだ早いよね。私が入り込む余地もないね。ごめんなさい。」 今度は俺が沈黙してしまった。 「ちょっとやだぁー、ここじゃやだぁー」 沈黙を破ったのは奥の部屋の女の声だった。 その後の展開はご想像通りで(ry− あきれ果てて頭を抱えていた優子が言った。 「何も望まないけど、(ちえみを)忘れられるまで原田さんの傍に居たい。」 「・・・」 「(ちえみを)忘れられたときに原田さんの隣に居るのが私じゃなくてもいいから・・・」 俺は何と言えば良いのか分からなかった。 「時間が欲しい。」そう言って優子の手を握り締めてあげる事くらいしか当時の俺には出来なかった。 今だから言えるけど奥の部屋の情事に悶々として優子と行為に及ぼうか?って思ってた別の俺が居た。 一人の男の生理現象であると自分を宥めていた。 恥ずかしい話だが、その夜はちえみではなく優子との淫らな夢を見て上陸後初めて衣服を汚してしまった。 翌日、三人組が出て行かなかったので、俺達はライハを後にした。 それから約一週間、別々のテントで道南を回り、東北自動車道の途中で別れた。 再開の条件は二人とも定職に付く事とした。 別れた後、俺はちえみに会いに墓前に向かう。 「あのさ、なんて言ったらいいのかな? まだ決まったわけじゃないんだけど、次の幸せが見えてきた気がするんだ。 先の話なんだけど・・・ お前を忘れようと努力をしてもいいかな? もしかしたら来年の夏は二人で来るかもしれない。 許してくれるよね。」 俺は墓前に跪き、涙目で墓標に問いかけた。 当然だけど答えなんて返ってくるはずもない。 残酷だけどその時の俺には、一生をちえみの思い出と共に終える気は無かった。 地元に戻った俺は今までとは別の業種に就職した。 電話や手紙の交換はしていたけど、優子との再会はクリスマスイブだった。 その時は思い出話に花を咲かせただけで何事も進展は無かった。 ただ別れ際に「待ってる。」と言われただけだった。 俺はその一言を特にプレッシャーに感じなかった事を覚えている。 今考えると優子は待っていてくれると信じていたからかもしれない。 初詣やバレンタインの義理チョコで月一で優子と会っていたが、月一で墓参りもしていた。 三月の彼岸に俺はちえみの両親に今の状況を打ち明けた。 「もう充分にちえみの事を悲しんでくれたんだから、泰造君もこれからは自分の人生を考えて当然でしょう。 これからは法事も何も貴方の今後を考えて声は掛けないけど、ちえみに会いたくなったらいつでも来てね。 ここは貴方とちえみの実家なんだから。」 義母はそう言うと悲涙ではなく嬉し涙を流して祝福してくれた。 その夜は義父とちえみの仏壇の前で乾杯した。 気のせいかもしれないけどちえみの遺影が俺に微笑んでくれたように思えた。 その夜は義父とちえみの仏壇の前で乾杯した。 気のせいかもしれないけどちえみの遺影が俺に微笑んでくれたように思えた。 八月最初の金曜日、夜中に突然携帯が鳴った。 優子がどうしても話したい事があるので、すぐに会いたいと言ってきた。 俺は寝酒を煽っていたので優子が俺の部屋まで来る事になった。 バイクでこの時間ならかかっても10〜20分だが一時間を過ぎてるのに連絡もない。 携帯に電話してみるが、ベルは鳴っているものの一向に出ない。 走っている最中かな?と思い時間を置いて何度も掛けてみるが・・・出ない。 時計を見ると2時間が経過している、再度携帯にかけてみるが「電源が・・・」のガイダンス。 夜中に申し訳無いと思ったが、優子の自宅に電話してみた。 父親が不機嫌そうに電話に出たが、優子の携帯電話の音がうるさかったので電源を切ったとの事。 子供ではないのだから警察から連絡が来るまで放っておいても良いのでは。と言われた。 警察から電話があってからじゃ遅いんだよ・・・ 俺は、部屋着のまま家を飛び出し、優子が通ってくるであろうルートを逆送した。 外はもう明るくなっていた。 自宅から大通りへ出て右に曲がると、歩道の100m先にフラフラと歩いている優子を見付けた。 俺は彼女の元へ駆け寄り、抱き締めた。 「ごめんなさい、途中でバイクが動かなくなって、スタンドで見てもらったけど直らなくて・・・ タクシーに乗るお金も無くて、携帯も忘れてて・・・携帯が無いと原田君の番号がわからなくて・・・ 」 優子は泣き出してしまった。 俺はしがみつく優子に背を向けしゃがんだ。 「ほら、おぶってやるよ。」俺は彼女を背負い、自分の部屋に戻った。 部屋に戻り優子が落ち着くのを待つ・・・ 優子「もう、ちえみさんの事は忘れなくていいから、私を代わりにして・・・」 俺 「何だよ急に。」 優子「だから、私をちえみさんだと思って付き合って下さい。」 俺 「そんな事出来るわけが無いだろ!少し落ち着けよ。」 俺はそう言いながらテーブルをドンと叩いた。優子は泣き崩れる。 優子「だから、髪型や服もしゃべり方も、ちえみさんになるって言ってるでしょう!料理の味付けも、 音楽の趣味も、全部が全部ちえみさんになる!」 もう俺には返す言葉が無く、優子の気持ちが痛い程に良く分かった。 逆にそんな事まで優子に言わせてしまった自分に無性に腹が立った。 ためらいの理由は、自分のちえみに対する感情では無く、バツイチ男の世間体の問題だったんじゃないか? ここまで自分を思ってくれる女は生涯、ちえみと優子だけに決まってる。 正直、自分の中ではもう優子の存在の方が大きくなっている事に気付いている。 「何も言ってくれないの?」優子が涙目で訴えてきた。 俺は立ち上がると、寝酒に飲んでいたウイスキーのビンを手に取り、大きく一口飲み深呼吸をした。 「俺は今の優子のままでいい。」 その一言で肩を落としていた優子は顔を上げた。 俺は少しカッコ着けて優子に背を向け窓際に立ちブラインドの向こう側を見た。 立ち上がり、俺の背中に額を当てた優子に振り返り、そっと抱き締め、視線を合わせ、悪戯っぽく呟いた。 「ちえみの髪型なんて、忘れたくても思い出せなくて苦労してたんだよ。」 優子は一瞬、ぽかんとした目で俺を見ていたが・・・ 「忘れたくても思い出せない?忘れちゃって思い出せないんじゃなくて?」と笑った。 「どっちでもいいだろ、とにかくちえみの事は吹っ切れた。」 「そうなの?」 「今はまだこれしか出来ないけど・・・」俺は苦笑いしながら優子の額にキスをした。 1999.8.17 俺は優子と肩を並べ、ちえみの墓前に手を合わせた。 「ちえみ、紹介するよ。 去年話した優子さん、これから彼女と付き合おうと思う。 多分、一緒になると思う・・・ 俺がそっちに逝くまで待ってても何十年先の話だしさ・・・ 俺がそっちに逝っても、きっと優子と一緒になると思うから。 待ってなくてもいいから、ちえみもそっちでいい人見付けなよ。」 笑顔で語るつもりが、最後には涙を流してしまった。 「ちえみさんごめんなさい、ちえみさんの分まで泰造さんと幸せになります。」 優子は墓前に深々と頭を下げ、花を手向けた。 順調に交際は続き、クリスマスイブに婚約指輪をプレゼントしようと思い、サイズを尋ねた。 「泰造さんが嫌でなければ、出会った頃に首から下げていたちえみさんのがいいな。」 「何で?気を使ってるの?」 「ううん、泰造さんが悲しみを乗り越えて婚約してくれた事を忘れたくないから。」 幸いにもサイズは一緒だった。彼女の希望により「TtoC(Taizou>Chiemi)」のイニシャルは残し、 新たに「TtoY」のイニシャルを加えイブにプレゼントした。 俺がバツイチと言うことを打ち明けると優子の父親も初めは難色を示していたが何とか結婚を許してくれた。 二人で話し合った結果、ちえみの命日に墓前と実家に報告して翌日に籍を入れ、宗谷を目指した。 ベタだけど宗谷岬で指輪の交換をし、急ぎ足で知人に挨拶回りを済ませ、あえて某カニの家には寄らず帰宅した。 翌年ハネムーンベイビー(死語?)を授かり、俺は独立した。 翌々年には二人目を授かり、小さな家を手に入れた。 人並みな暮らしに家族と言う幸せを感じながら、俺は今暮らしている。 欲を言えばキリが無いし、欲しい物より失いたくないものがあるだけで充分だ。 |