− ロキ◆ozOtJW9BFA さんの恋愛話 −

バイク海苔なら、一度はこんな彼女がいたらと夢想しないか?
革ジャンにチャプス。使い込んだエンジニアブーツでギアを入れ、
乾いた集合管の音を残して軽々と大型バイクを走らせる女。
一緒にツーリングに行けば、同じペースで気楽に走れる・・・そんな女。

そんな彼女だんたんだ。

一緒が嬉しかった、楽しかったんだ。


そして その日が来るまでは幸せと思ってたんだよ おれは。


ハナシは数年前のコト

彼女とは遥か前に別れていた。

昔の仲間との飲み会に呼ばれて行くと
彼女がいた。

別れて随分経つ。年月がそれなりに経っている。
それにしてはやつれ過ぎな彼女だ。
何か変だ?彼女は憔悴しきっている。

他愛の無い話をして、その日は携帯番号を交換して別れた。

数日後、携帯に着信。
居酒屋で待ち合わせる。

どちらともなく近況を話すと彼女は一人暮らしを
しているという。 家族はどうしたのだろう?

家族の話をしたがらない。困った・・・・
どうにも、雲行きが怪しい。

その後、何度かに分けて延々と話を聞かされるハメに。
どうも昔の仲間に同じ様なハナシをしまくり相手に
されなくなった様子なのだ。

終電も近くなったのでタクシーに彼女を詰め込み帰宅させた。

仕事中に携帯に着信。
妙に明るい声で「バイクを買った!」とのこと。
乗れないのにどうする気なんだろう!!

仕方ないので乗り方を教える約束をする。
もう一度教習所にでも行って欲しい位なのだが、
頑張って教える事にした。

なんで、オレが乗り方を教えているのかは
あえて考えないようにした・・・・。

休憩の合間に彼女、携帯でしゃべってる。
相手はどうやらバイクを一緒に買いに行ったヤツらしい。

携帯が鳴る。今すぐマンションに来いという。
来なきゃ死んでやると言って切れた。
かけ直すと電源が切れている。

マンションにつくと、がらんとした部屋に
バイク雑誌が散乱して、ウエアがぬぎすててある。

わめく彼女をなだめて、外出。
バーのテーブルに落ち着かせた。

彼女の話は終わらない・・・・。

閉店したバーをあとにして
マンションに彼女を担ぎ込む。

こんなことが何度も続いた。

短い距離ならバイクに乗れる様になった彼女。
週末や平日夜間に彼女とランデブーする。

さながら教習所の教官のように運転を指導。

休憩の時は長い長い話を根気良く聞いた。
話は全て生活への不満など・・・・
いかに自分が愛されていないかと訴える、でも彼女は愛が判らないという。
難問、難題を何度も問い詰められたが
話を全て聞く事で彼女の病状が良くなればいいと思った。
そして普通にバイクに乗れる様になればいいと。


こんな事を2年は続けた。

二年目、スズキRF400は度重なる転倒で
外装がぼろぼろに。 
重さ大きさに慣れていないのもあって
アクロスに代替。軽い250で軽快なツーリング。
のはずが、軽いので怖い事も増える。
「こんなの違う!話が違う!!」

彼女は不満。生活も不満。仕事も不満。
発作の様にオレに浴びせられる罵詈雑言に
こちらが参ってきた。不毛なケンカが増えた。

「いっそ、大型を取ったらどうなんだ??」

苦し紛れの戯言を彼女は本気にして教習所に通いだした。
流れが変わった。彼女はどんどん明るくなった。

教習所通いが楽しい時期が続いた。
細かなアドバイスも素直に聞き入れる彼女。
倒し込みが苦手な彼女の為に大きめのバイクを
用意して一緒に練習した。楽しかった。
彼女の表情も今まで見たことが無い位に明るかった。

「免許が取れたらGSF750買ってあげるよ!」

酔ったいきおいで約束してしまったが、
まぁいいかと思っていた。
彼女は蓄えを教習費などで遣ってしまっていたので、
バイクは買えないと諦めていたからだ。
それに、病気が直った(と思っていた)のだから
快気祝いにあげてもいいと思っていた。

検定に挑んだ彼女は一本橋で落ちてしまい不合格。
今まで何とも無かった一本橋が苦手になった。
それからは練習が楽しいものでは無くなった。
すぐに落ち込んでしまう。
こんな時「頑張れ」などと励まそうものなら
相当な逆効果で、絶対に言ってはいけない。
落ち込んだ彼女を快復させてやる気を出させるには、
ほめてほめてほめまくり、ヨイショと悟られないように
彼女を「ノせる」必要があった。

そして彼女は次の検定も落ち、その次も落ちた。
検定に落ちる彼女を鼓舞し、ヨイショして、一緒に痛飲し、
カラオケでノドが潰れるまで歌った。
その一方で俺は仕事をこなし、家庭生活もきちんとこなした。
誰にも文句は言われず、やるべき事はやった。
俺がおかしくなりそうだった。
いや、おかしかったんだろう。
四六時中、携帯を握り締め彼女の話を聞き
アドバイスをして、励ました。

だが、オレを励ましてくれるヒトは
誰もいない。

そうして彼女は合格した。二人で涙しあい祝杯をあげた。
GSF750は用意してあったのでリボンをかけて渡した。
ヘルメットも新品だ。ヨシムラの集合もつけた。

ツーリングは伊豆半島 
旨いサカナを食べ大いに盛り上がった。
いつも愚痴や悩みをずぅっと語っていた日々が
嘘の様だ。明るい話題、明るい笑顔。。
ケラケラ笑う彼女はまるで別人だった。

「こんなに幸せでいいのかなー」と彼女が言う。
(何を大袈裟な)と思いつつ「いいんだよ」と
つとめて明るく答える。暗い話題に流れない様に
気を遣った。オレは彼女の治療をしているつもりで
どんどん深みにはまってゆくのに気が付かないでいた。

彼女はGSF750と相性が良かったらしく
どこへゆくのにもバイクで行くようになった。
表情は朗らかで以前の彼女とは別人のようだ。
もう安心だ、ほぼ完治したのだろう。
本人も「もう直ったから心療内科には通わない」
と言ってきた。

そろそろ一区切りつけて俺は静かに消えようと
思っていた。
が しかし彼女もオレもそれは無理な状態だった。

彼女の運転は上手くなり、本当に楽しそうだ。
お互い忙しいのだが、ツーリングは彼女の予定
が優先と自然に決まった。
だから、何度も何度も中止の憂き目をみた。
あんまり気にはしない様にしたが割り切れない
モノを感じる事が増えた。

たまのツーリングでも携帯でやたらメールを
打っている。なんだかなぁ・・・・

彼女がパソコンを買いネットをやりだすと
加速度的に態度が変わってきた。

話は前後するが、折角スズキに乗ってるのだから
スズキの「ツーリングオアシス」に二人で参加しよう
と計画していたのだが、オレが前日に都合が悪くなり
参加出来なくなった。彼女は泣いて抗議してきた(!)
のだが、どうにもならない。いつもはそっちが
すっぽかすのだからお互い様なのに・・・・

そうして彼女は抗議なのか、新たな出会いを
求めてなのかは不明だが、ネットの掲示板に
一緒に「ツーリングオアシス」に行ってくれる
ヒトを募集した。女性の募集ならまだ理解が
出来るが、募集は男性だった。

その日彼女は「750にのるカッコイイ主婦」として
一躍有名になり、掲示板には読みきれない程の
レスがつき、彼女の携帯には山ほどメールが送られて
きて、オレのメールや着信は殆ど無視された。

その後、間もなくのツーリングでの光景が
「休憩中ずっと、昼食中もずっと、メール」
なのであった。「今、箱根だよ〜」なんて
携帯で嬉しそうにしゃべっている。
怒る気力すら失せた。いくら病気とはいえ、
なんでここまでの仕打ちをうけなきゃならないのか。

彼女はオレの事を彼氏と思っていた時期も
あったようだが、それは彼女にとっては苦痛だった。
彼女の立場では、一緒に朝を迎える事も出来ない。
いつも一緒に居たいのに、俺はいない。
旦那はいるが、以前の様に愛してくれない。
旦那のデザイン事務所の若いデザイナーと
出来てるに違いないし。

こうなると説教くさい俺が疎ましいが
いきなり付き合いを切るワケにもいかない。

この頃の彼女との日常会話から積み重ねて
いくと、こんな所のようだ。

GSF750は中古車だった。
新車をプレゼント出来たのだが、旦那の手前、怪しい
事はさける必要があった。したがって彼女でも買えそうな
値ごろなヤツだった。 当然故障やらで、メンテを煩雑に
やらないといけない。

彼女は掲示板の「彼氏」達とツーリングに行き激しい走りを
体得しつつあった。三ヶ月もするとブレーキパッドは無くなり
タイヤはドロドロに溶けて段減りし、チェーンはタラタラに
なった。
正直、そこまでのチカラを付けるなど予想もしていなかったが、
驚くほど上手くなり、オトコどもは一目置くようになった。

クタクタのGSFのメンテは俺の担当で、付き合いはその為だけに
残されたとしか思えなかった。

彼女は俺とのツーリングは「忙しい」とか
「予定が入った」と中々行きたがらなかったのだが、
掲示板の「彼氏」達のお誘いとなると子供を旦那に
預け、きちんと出かけた。何があろうとも。
どうしても行けない時は、集合場所に見送りに行った。

そうして彼女は掲示板で益々有名人になっていった。
ある日俺はイタズラ心を起こして、プレゼントをした。
ライダースの革ジャン、チャップス、エンジニアブーツ。
「この3点セットでツーリングに行けばモテるぞ」
シャレのつもりだったのだが、強烈なインパクトが
あったらしい。 彼女は年下の彼氏は沢山出来た。
掲示板の主、関連の掲示板、彼女の掲示板・・・・。

全国に兄弟が出来てしまった俺はマヌケだ。

そんなある日、彼女に相談を受けた。
「彼の所に行きたいんだ、子供連れて」
??何の事??・・・話を聞くと、
掲示板の主の所(静岡)に行き旦那とは
別れるという。行きたきゃ行けばいいのだが、
電話をしてくるって事は・・・・。
「やめておけ。遊ばれてるだけだ。」
「アタシには自由は無いの!!どうしていけないの!!」
なんだか猛烈にハラが立つが、落ち着いて彼女の
話を聞いてやろうじゃないか、ええ!!

居酒屋でほろ酔いの彼女は、どめどもなく話す。
静岡には二週間に一度の割合で通ってる事。
他の彼氏とのおのろけ。掲示板での恋愛相談に
のってる事。・・・・テキトーに聞いていた
のに業を煮やした彼女、だんだん静岡の彼氏
の話になってきた。

「若いっていいわよねぇ〜 二回しちゃった」

たいがいの事には耐えれた俺だが、こいつは堪えた。
バットで殴られる衝撃ってこーゆー事か?
エッチが二回連続で出来るからってそれがなんだ、
俺だって出来るぞ・・・考えてる事が意味不明。
「んじゃぁ、オマエ掲示板の連中とみんなやったのか!」
「え〜、名古屋に呼ばれて〜、そん時も二回したよ」
「し 新幹線で行った時の事??」
「そう〜、何?気になるの。あんまり聞かないほーがいいよ」
「気になるって、オマエ・・・」
「アンタだって、やってんでしょ?ちがうの?」
(いつそんなヒマあるんだよ)

このとき、俺は彼女が別人に見えた。

「俺帰るわ・・・・」

その日 どうやって帰ったか記憶は無い。
その後、悔しくて寝れない日々が続き、
寝れる様になると夢で彼女が「二回しちゃったよ」
と明るく笑う。叫びながら起きてしまう。
この時期が一番辛かった。誰にも言えない。
誰も助けてくれない。

猛烈に仕事をして、好きなクルマを買った。
自分のバイクウエァを新調してスズキを
売り、テキトーにヤマハを買ったりした。

ちゃんと寝れる様になるまで2年かかった。
今は全く彼女の夢は見ない。

彼女は直る心の病にかかってると信じていたが
事実は違った。彼女は直らない。
気が付いたのが遅かった。おれは愚かだった。

彼女は相変わらず掲示板の彼氏達と楽しんでる。
相手を変えて、同じことを繰り返している。
そうゆう幸せもあるのかなと最近は思う。
元気だった掲示板は寂れて同じメンバーが
同じ話題で続いている。

彼女のお陰か、仕事はそれなりに順調になり
家庭は円満な小市民になれた。
休みには子供と遊び、バイクにはうっすら埃がかかってる。

倉庫にはカバーをかけたGSF750がある。
2年後取りに来ると彼女が置いていった。
彼女は公認会計士になりたいと勉強中だそうだ。



彼女を恨む気持ちは一切無い。



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