− メイ さんの恋愛話 −

その日、俺はバイクで10分くらいの自宅近くのパチンコ屋で
一人、スロットをしていた。だいたい給料日になると、スロット好き
のツレと一緒に朝から並んだり、暇な時はふら〜っとひやかし程度
に遊んでいた。夏も終わり、9月にしては、その日は蒸し暑かった。

昼前から店でスロットをしていて、その日はいつもよりも調子が良く、
夕方くらいにはメダルがドル箱に2箱一杯と半箱くらいまでになっていて、だいぶ減ってきた
のもあり、このまま続けるか、止めて帰ろうか迷っていた。

「待てよ・・・ そういえば前にナオミさんと一緒にスロットに行った時に
散々だったな。お詫びをするって言ったけどまだ何もしてなかったな・・」

前の会社の同僚で、年も俺と同じ同級生。俺が先に前の会社を辞めてからも
一緒に飲みに行ったり、メシを食べに行ったり、遊んだりと俺にとって何気なく付き合える
数少ない女友達がナオミさんだった。”友達”として付き合ってもう4年半が経っていた。

一ヶ月ほど前に俺はナオミさんと朝からスロットを打ちに行っていた。
ナオミさんから誘われるままに。

ナオミさんと一緒にスロットをしている時に散々だったのは
全く目押しの出来ないナオミさんの代わりに、俺がビッグボーナス
を揃えてあげる役目を半分しか果たせなかった事が自分では
情けなく、自分の心の中に後味の悪いものを残していた。
その日はなぜかビッグボーナス以外の小役の目押しが全くうまく
いかず、取りこぼしのオンパレードで、もの凄く自己嫌悪になっていた。

おまけに自分の調子も悪く、朝から財布の中身はかなりヘコんでいた。
対照的にナオミさんはハズレ知らずの連チャンを繰り返して、昼過ぎに
はかなりの金額が浮いていた。

全くいいトコ無しでしょげている俺に、

ナオミ「しょうがないよ、メイくん。何かアタシが誘ってこんなになって
     ごめんね。一緒に昼ご飯食べに行こうよ。おごるしさ。」

俺「いや ほんとゴメン 小役取りこぼしまくりで・・あれがなけりゃ
  まだメダル増えてたし・・」

ナオミ「ううん 全然 気にしてないよぉ。だってアタシだけじゃ
    揃えられないし、何かおいしい物食べに行こ。ねぇ」

少し考えてから

俺「いや 今日はやめとくよ。今日のお詫びを兼ねて、
   今度、俺が勝ってメシおごるよ。」

俺の心の中は自己嫌悪と情けなさでズタズタになって
いて、ナオミさんの優しさにチクチクと心が痛んでいた。

ナオミ「そっかぁ じゃさ 今度スロットに行く時は絶対メールしてよぉ
ほんと気にしなくていいからねぇ。こんな日もあるし。ね」

俺「わかった」

その日は、そのまま別れて俺はバイクで部屋に戻った。

その日の事が頭をよぎり、俺はポケットから携帯を取り出して
ナオミさんにメールを打ち始めていた。
仕事かどうかナオミさんに聞き、時間が空いていたら、一緒にスロットをしない
かどうか誘ってみた。

そのメールが俺にとっての忘れられない日の始まりになる
なんて思ってもいなかった。

時間は夕方の6時を回っていた頃で、ナオミさんが仕事だとしても、もうすぐ
終わるくらいの時間でちょうどいいかなと俺は思っていた。

ナオミ「今日は休みでさっきまで寝てたよぉ メイくん 
    今スロットしてるの?」

眠そうな顔文字と一緒に、ナオミさんからメールが返ってきた。

昼前から近くの店で一人でスロットをしている事と、かなり調子が良い事を
メールで打ち返して俺は返信を待っていた。

ナオミ「あ〜 アタシを誘わずに黙って一人で行ってるな〜
     しかも○○(店の名前)はアタシ好きなとこなのにぃ」

オコり顔の顔文字に俺は、黙って行ってる事の謝りのメールと、晩メシがまだだったら
この前のお詫びにおごるので食べに行こうよと誘ってメールを返信した。

ナオミ「さっき起きたばかりだから、そっちに着くの一時間くらいかかるけどいいかな?」

俺がいる店までは、ナオミさんの住んでいる所から車を飛ばしても30分はかかる
のを知っていたし、俺はナオミさんをほとんど周りの男のツレと変わりなく付き合っていた
のもあり、待たされるのは全く、苦にならなかった。
待っている間、他の台に移り暇つぶしのような感じでスロットを打っていると
わけもわからず連チャンでボーナスを引いていた。

時間は夜の7時を少し回っていた頃、俺の携帯に
ナオミさんからの電話が鳴った。

携帯を取ると、ナオミさんは店の外まで来ていた。
俺はナオミさんと話しながら店の駐車場まで歩いて迎えに行き、
外に出てみると昼間は晴れていたのに、少し雨がパラついている
事に気がついた。
ナオミさんの白い車体の軽自動車が止まっているのを見つけ、携帯で話しながら、
車の中で片手で手を振っているナオミさんを見つけた。

ナオミ「ごめんねぇ 途中で雨が降ってきて、少し遅れちゃった
     メイくん待った?」

俺「いや メール打ってから、台変わったらまた少し出てさ そのメダル使って
   一緒にやらない?」

ナオミさんは大きな目をぱっちりとさせて、少しおどけた感じで
ナオミ「え?すごいね〜 今日は勝ってますねぇ メイさん
     何を食べさせてくれるんでしょうか?」

俺「何でもいいですよ 姉さん 少し店内でも見に行きますか?」

と同じ調子で返した。

ナオミさんと二人で歩き、明るい店内に入り、ナオミさんを見ると、肩まである髪は少し濡れた
感じで、俺のの知らない新しいコロンの香りがしていた。
いつものナオミさんの雰囲気とは違う感じに俺は友達として接してきたナオミさんに
今まで感じた事のないドキドキを
ナオミさんに抱いた。

ナオミさんと二人で店内を一通り見て回り、自販機の近くにある椅子に
座った。

俺「どうする?少し打つ?」

ナオミ「う〜ん 何かすごく混んでるし、あんまやる気しないかな」
確かに店内はほとんどの席が人で埋まっていた。

俺「そっか、でもメダルはまだ余ってるし、俺の使ってちょっとだけやんない?」

正直、俺の中ではこの前の事が頭に残っていて、ナオミさんの前で
イメージを払拭したかった。

ナオミさんは少し考えてから
「やっぱ 今日はやめとくよ 」

俺「そっか じゃ交換してくるよ その後メシ行こうよ まだやろ?」
ナオミ「うん。 あ、そうだ、どうせなら飲みに出ない?そういえば、前はよく一緒に飲んでたけど
     最近はあんま一緒に飲みに出てないよね?」

以前は二人きりではないが、前の会社の先輩とナオミさんとで
(4〜5人くらい)、よく飲みに出ていた。
ナオミさんはけっこう飲む方で、俺からすると、男のツレと飲んで
るみたいに後半まで同じくらいのペースで飲める、”いいやつ”だった。

俺がいいよと言うと、ナオミさんは子供のように、
「やったぁ うれしい〜」
と言って、いつもの大きな瞳を細めて、無邪気に笑った。
いつもは一緒に笑ったり、話したりしていても特に気にも留めていなかった
が、その笑顔に隣りで調子を合わせて笑ったが、俺はかなり
ドキドキして少しまともに見れないほど、ナオミさんを意識し始めていた。

俺の余りのメダルを換金して、
少し雨がパラついている外に出てから、どの辺りに飲みに行くかを
二人で話し、最近できた居酒屋とか、料理がうまい店だとか
を二人で知っているところを挙げて、話したが、結局は市内に出てから
少しブラブラしてから決めようという事になった。

市内に出る前に雨がひどくなりそうだったのもあり、俺は一旦バイクを
家に置いて、車を取りに帰る為、ナオミさんと市内で待ち合わせをして、
そこで一旦別れ、小雨の中をバイクで家に向かった。

バイクで家に戻る途中、なぜか俺の心の中には靄がかかっていて
妙なテンションになっていた。
ナオミさんに会って、別れてからは自分で落ち着きを保てなくなってしまって
いて、気がつくと、狭い一般道で100キロ近くのスピードを出し、
前の車との車間距離もギリギリくらいだった。

今、思うとその時の気持ちは、これから自分に起きる出来事
を予感してたのかな、なんて今は思ったりする。

家に戻り、汗と雨に濡れたTシャツを脱いで、新しいシャツに着替え
車のキーだけをポケットに入れて、ドアを開けて外に出ると携帯が
鳴った。着信を見るとナオミさんだった。

俺「もしもし」

ナオミ「もしもし、メイくん今どこ?」

俺「今、家出たとこだけど。 もう市内についた?」

ナオミ「うん さっきね。まだかかりそう?時間」

俺「いや 10分くらいで行けるよ 市内は混んでる?」

ナオミ「ううん 全然だよ 早く来てねぇ 待ってるから」

電話で話しながら、俺はもう車に乗ってエンジンをかけて
いた。少し急いでいたせいもあって、少しだけ息が上がって
いたけど、それとは全く別の、胸の鼓動が早くなっていた。
自分では気づいていたけど、少しだけ気づかないふりをしていた。

家に戻っている時よりも少しひどくなった雨の中を俺は
市内(繁華街)に向かって、車を走らせていた。
だいぶ中心街の方に近づき、運転しながらナオミさんの車を
探していた。キョロキョロとかなりわき見をしながら探した
が見つからず、俺は携帯を取り出してナオミさんに掛けた。

俺「もしもし、今どこにいる?」

ナオミ「うしろだよ ふふっ」

俺「え?」

と振り返ると大通りに面した白線で囲まれた無料のパーキング
スペースに駐車してる車の中で手を振っている笑顔のナオミさんを見つけた。
携帯を切り、
俺は近くのパーキングに車を止めて、ひどくなった雨の中、傘をさして雨の中
ナオミさんの車まで歩いていった。

時間はもう夜の9時を少し回っていた。

雨がひどくなっていたせいもあって、結局、前にもよく行っていた
パーキング近くで人気のあるけっこう広い居酒屋に行く事になり、2、3分二人で歩き
その店に入った。店の中はかなり混んでいてテーブルは埋まっていて
とりあえず、カウンターの席にナオミさんと俺は並んで座った。

座って少しだけ、さっきの店の事や車をどこに止めたとか
話しながら、俺がメニューを取ってナオミさんに渡した。

ナオミ「ここ 焼き鳥がおいしかったよねぇ 何にしようかなぁ?」

俺「そうだね」

ナオミ「ねぇ メイくん、まず 飲み物頼もうよ?何にする?」

俺「うん・・・ そだね 先に頼んでいいよ」

ナオミ「?」

大きく瞳を開けて、ナオミさんは不思議そうに俺の顔を覗き込んだ。
「どした?体調あんま良くないの? メイくん」

俺「ううん 何でもない 何飲もっか?俺、焼酎にしようかな」

カウンターも混んでいて、俺とナオミさんの席はかなり
密着していた。少し動くと肩が触れるくらい位置のナオミさんが
俺の意識を勝手に高めていた。

俺はナオミさんと、普段のままいつもと変わらないように話そうとした。
初めのうちは焼酎を飲んで、酔いが回ってくればいつもどうりの
”友達”としてのナオミさんとして話せるだろうくらいに考えていたが、
飲み始めて1時間くらい経った頃、かなり飲んでいるのにもかかわらず
あまり酔っていない自分に気づいた。

笑ったり、周りのガヤガヤとした雑音に消されないように少し大きめの声を
出して二人で喋っていると、言葉を聞き取ろうとして顔を近づけた俺の耳あたりに
ナオミさんの吐息がかかり、さらに俺のドキドキが一人歩きしていた。

ナオミ「そういえばさ メイくん 真樹子先輩って連絡ある?」
俺「いや 最近は電話もないし会ってないよ 」

ナオミ「アタシも。 先月くらいまではよく飲みに行ったり、ご飯
     一緒に食べたりしてたんだけどね、何か最近彼氏と
     同棲始めたとかで、全然会ってないのよ」
俺「え?そうなん 俺は3、4ヶ月くらい会ってないし」

前の会社にいた時に同じ店舗にいて、俺がまだ入りたての頃に
いろいろ仕事を教えてもらったのが真樹子先輩だった。
ぱっちりとした瞳で体格は小柄な感じのナオミさんとは対照的に
ヒールを履くとスラッとした感じで、涼しげな目をしている
5つ年上の大人の女性。という印象が俺の中での真樹子先輩だった。

ナオミ「ねぇ 真樹子先輩呼び出さない?会いたくない?」

ナオミさんはけっこう会ってない真樹子先輩にかなり
会いたいんだろうなと俺は思った。

でもナオミさんのその言葉は俺にとってかなりの助け舟だった。
このままナオミさんと二人だけだと、俺がまともに気持ちを保てる
かどうかわからなかった。

俺「いいね。呼ぼうよ 一緒に飲みたいし、会ってない間の事
  何かいろいろ聞きたいし。」

ナオミさんは自分のバッグから携帯を取り出して、メールを打ち始めた。
少しして、メールが返ってきた。

ナオミ「まだ仕事してるって。でも、もうすぐ終わるから終わったら
     来れるみたい。」

ニコニコしながら無邪気にそう話すナオミさんの笑顔を見て
俺の心は少しずつ動いていた。

真樹子先輩を呼んだ事が結果として良くない方に進むとは
俺はこの時微塵も思ってなかった。

30分くらいしてから、真樹子先輩は俺とナオミさんの
飲んでいる居酒屋に来た。入り口のところで以前よりも
少し痩せた感じの真樹子先輩がキョロキョロとして、
俺とナオミさんの姿を探していた。
それに気づいたナオミさんが立って、手を振った。

ナオミ「こっち こっちぃ〜 マキさぁん」

すぐに気づいた真樹子先輩が微笑みながら、混んでいる店内を人を避ける
ようにしてナオミさんのいるカウンターの席まで歩いて来た。

真樹子「久しぶりだねぇ〜 元気だった?あ、メイくんもいるじゃん」
ナオミ「元気ですよ それよりマキさん 最近遊んでくれないからぁ」

真樹子「ごめんねぇ 最近仕事変わったばかりでね、何か色々忙しくてねぇ」

ナオミ「 仕事よりも忙しい事があるんじゃないですかぁ〜?」

真樹子「こらっ! 何よそれ からかわないの」
そう言われるとナオミさんは
少しだけ舌を出して、おどけていた。

真樹子さんを真ん中に挟んで座り、適当にメニューから
飲み物と料理を頼んだ。

俺「久しぶりですね 元気でしたか?真樹子先輩」
真樹子「元気よ 久しぶりね メイくん それより今日は何?
     二人だけで飲んでるんだ?」

ナオミ「そうですよぉ メイくん今日勝ったから」

真樹子「 そっかぁ  じゃぁ 財布は気にせずに飲めるね〜
     ね?ナオミ」
ナオミ「そうですねぇ たくさん飲みましょうねぇ マキさん」

俺「ちょっと 待ってくださいよ そんな無理にしてたくさん
  飲まなくてもいいですよ 真樹子先輩」

真樹子「 別に無理してないわよ ねぇ ナオミ?」
ナオミ「うん 全然!ねぇ マキさん 」

以前は俺の上司だった真樹子先輩を仲間に入れた、ナオミさんと
女同士で結束されると、もうそれ以上俺は、ほとんど口を
挟ませてもらえなかった。
まぁ いいかと俺は思いながらカウンターで三人飲みながら、
前の会社にいた頃の話から最近の事まで
とりとめのない話しを始めていた。

それからはナオミさんと真樹子先輩がほとんど二人で
喋っていた。俺はたまに話に入るくらいで聞き手に回って
いる時間がほとんどだった。
友達のオカンと自分ちのオカンが二人で喋っている時に
一人でぽつんと手持ち無沙汰にしてる子供みたいな状態だった。

これだけ喋れるってほんとにすげーなと思うほど
二人はずっと女同士で喋っていた。
三人で一時間くらい飲んだ頃、ふいに真樹子先輩が俺に聞いた。

真樹子「ねぇ メイくん 今、彼女いるの? 」

俺「! いや 居ないですよ 突然何ですか?」

真樹子「てゆーかさ 二人は今、付き合ってるの?
      アタシに隠さなくてもいいよ」
と言うと、真樹子さんはナオミさんと俺の方を交互に見た。

俺は少しドギマギしながら、黙っていた。

ナオミ「アタシとメイくんは付き合ってないですよぉ マキさん 」

真樹子「 じゃ何で今日、アタシが来る前に二人きりで飲んでたのぉ?」

俺「 俺がスロットで偶然勝ったからですよ 」

真樹子「ほんとにぃ? ちょっと怪しいけどぉ」
ナオミ「 マキさん。 メイくんとアタシは付き合わないですよぉ 
    だって友達だもん」

ナオミさんのその言葉に俺はさっきまで抱いていた気持ち
にちょっとグサッときたのを抑えながら、

俺「そうですよ 真樹子さん ナオミさんは俺の中で
  女のツレだし」

真樹子さんは少し考えるように
ふ〜んという表情を顔に浮かべながらうなずいていた。

その居酒屋で三人で飲み始めてから、2時間近く経っていて、
時計を見ると、もう11時半を少し回っていた。

真樹子「 けっこう飲んだねぇ もうそろそろ帰ろっか?」

俺「そうですね  かなり飲みましたね。
  真樹子先輩、明日仕事ですか?」

真樹子「ううん 明日はお休み メイくんは?」
俺「 明日は朝から仕事ですよ。」

真樹子「そっか じゃ帰って寝なきゃね ナオミは?」

ナオミ「仕事ですよぉ え〜?まだいいじゃないですか
     マキさぁん もうちょっと飲みましょうよぉ」

真樹子「だめだよ ナオミ、ちょっと今日飲みすぎじゃない?
      酔ってるでしょう?」

ナオミさんと俺はそれまで何度か一緒に飲んだ事があったが、
その日のナオミさんは今まで見た事がないような姿で、
とろんとした瞳に唇には微笑みを浮かべて、真樹子さんに
少し体を預けてしなだれかかっていた。

真樹子「ナオミ、どうしたの?普段はこんなに飲まないのに。
     何かあったん?」

ナオミ「 楽しいじゃないですかぁ マキさんと久しぶりに
     一緒に飲むし。 あ、さっきねマキさん ジュン先輩に
      誘いのメール打って、この後一緒に飲もうって誘ってある。」

真樹子「え?ナオミ、あんた飲もうってジュン誘ったの?」

ナオミ「うん。 ジュン先輩、今日は会社の飲み会で近くの店にいるって言ってたから。
    だからそれ終わってから一緒にみんな
    で飲みに行こうって、メールしましたぁ!」

少し大きめの声で、ナオミさんの最後の方の言葉は
テンションが上がっていた。

真樹子さんはふぅと少しあきれた風にため息をつくと、

真樹子「それで、さっき何かゴソゴソと携帯触ってメールしてたのね
      はぁぁ あんたにはまいったわ、ナオミ。 」

ナオミ「 まいったでしょぉ? 行きましょうよ マキさぁん
     お休みだし、もうちょっといいじゃないですか〜?
     ジュン先輩も待ってるしぃ。ね?」
真樹子「どうする?メイくん ナオミ、ジュンも誘ってるみたい」

真樹子さんのその言葉に俺は少し酔ってる頭を整理して、
どうするか考えていた。

ジュン先輩は俺とは店舗は違ったが、前の会社の先輩だった。
真樹子さんとは同い年で、ショートヘアのよく似合う少しだけキツい
目が印象的な綺麗で華奢な感じがする女性の先輩だった。

俺「いいですよ 少しだけなら ジュン先輩にもずっと会ってないし」

俺の頭の中では、このまま帰るって事になったら、俺は何とか
なるにしても、ナオミさんがこの状態で車を運転するのはマズイなというのが、一番にあった。

ナオミ「ほらぁ メイくんもOKだし。決まり〜 行きましょ マキさん」

真樹子「わかったわ。 でもほんと少しだけよ ジュンに会って少し飲んだら帰るのよ。それと、
     ナオミは行ってもあんまり飲んじゃダメだからね。 」

真樹子さんに窘められて少しだけナオミさんはしおらしく返事を返して、
ナオミ「はぁい。 でも、やったぁ!何か前みたいにこうやって集まるのって
     すごいうれしぃ。 」

真樹子先輩に会ってからのナオミさんは終始、本当にうれしそうな笑顔を浮かべていた。

居酒屋を出て、ジュン先輩のいる店に着く頃には12時前になっていた。

ジュン先輩のいる店は座敷のある、まさに会社の宴会とかでも
使えそうなけっこう大きめの居酒屋だった。

その店で、ジュン先輩の会社の飲みがあったらしく、店の
入り口でたぶんジュン先輩の会社の人達であろう人間と
何人もすれ違った。

三人で店の中に入って行って、いくつもある座敷の横の廊下を歩いていくと、
見覚えのある、ジュン先輩が廊下を向かいから歩いてきていた。

純子「あ、 久しぶりぃ マキ、ナオミも」

真樹子「久しぶりだねぇ 元気?ジュン」

純子「うん 全然 あ、ナオミ ちょっと太った?」

ナオミ「太ってないです。 もぉ〜 ジュン先輩?」

ジュン先輩は少し笑いながら

「うそ。うそ。 変わんないねぇ かわいいよ〜 ナオミは
 あ、メイいたのか? 元気でやってるか?」

その言葉に、たまに俺に対しては男のような口調で話しかけてくるジュン先輩も
まだ、四人がみんな同じ職場だった頃と何も変わってないなと少し懐かしくなった。

その店で四人で飲み始めてからも、ナオミさんは終始
ご機嫌だった。座敷にテーブルを挟んで向かい側に
ジュン先輩と真樹子先輩、俺とナオミさんは足をくずして隣りに座っていた。

初めのうちは四人が会社にいた頃の昔話をしていたが、
少ししてからはジュン先輩と真樹子先輩がほとんど二人で
今の彼氏の愚痴だとか、最近は一緒にどこに行ったとか、
色々と話しているのが聞こえてきた。

ナオミ「いいなぁ〜 ジュン先輩もマキさんも  彼氏とうまくいって
     そうでぇ。 ねぇ メイくん?」

俺「 そうやね 幸せそうだね」

純子「そんな事ないわよ ナオミだってもう付き合って
     長いんでしょ? 最近はどうなの?」

少し怪訝そうな顔をして、
ナオミ「え〜 いつの話をしてるんですかぁ?もう別れましたよぉ
     今はたまぁに電話するくらいしかしてないです。向こうは
     どう思ってるかわかんないですけど・・・。」

純子「そっかぁ。 そういえば遠距離だったよねぇ。やっぱ
    難しいんだねぇ。」

真樹子「だからぁ、メイくんがいるじゃない。ナオミ、ねぇ
     メイくん?」

俺「 そのネタ、さっきも使いましたよ 使いまわしすぎ
  ですよ。 真樹子先輩」

純子「え?何?メイ、ナオミと付き合ってるの?」

ナオミ「ほらぁ〜 ジュン先輩も勘違いするでしょ〜 マキさぁん  
     メイくんはアタシにとって友達ですよぉ。」

真樹子先輩、ジュン先輩と合流して飲んでいるうちに俺がナオミさんと
二人きりで飲んでいた時に感じていたドキドキは消えていて、俺はいつも
どうりの雰囲気でナオミさんと話すことが自然とできていた。


でもナオミさんの雰囲気はさっきと違ってきていた。

ナオミ「ねぇ〜 二人の幸せ分けてくださいよ〜 ちょっと
     でいいからぁ。ねぇ メイくん」

俺「そうだ 分けろよ ジュン!」

ちょっと酔っていた俺はジュン先輩の口調をまねして、
ふざけて呼び捨てで呼んだ。

純子「何〜? 今日の勝ち分全部飲んでやろうかぁ 
    マキ、何から食べようか?」

俺「すんません 勘弁してください。 調子に乗ってました。」

それを見て、隣りでナオミさんはずっと笑っていた。
酔いにまかせて、ジュン先輩と真樹子先輩にからんだり、
これまで俺はナオミさんをツレとしてしか意識してない事を
二人を相手にして延々語っていた。

それまではよく笑って、いろんな事を喋っていたナオミさんは一人
黙って、俺が二人に話しているのをずっと聞いていた。

その店を四人で出て、帰る頃には時計は1時半を回っていた。
四人ともけっこう飲んで、喋りすぎるほどいろんな話をした。
外に出ると、もう雨は上がっていて、雨上がりのアスファルトの
匂いと、少しだけ蒸し暑かった。

真樹子「はぁ〜 よく飲んだねぇ〜 久しぶりだなぁ 」

純子「ごちでした、メイ。今度また飲みに行こうよ 」

俺「そうですね また。 今度はオゴッてくださいよ。」

純子「勝ったらメールするよ、メイ。」

ナオミ「また 近いうちに絶対行きましょうよ〜 マキさん ジュン先輩。」

真樹子「そうね。 その時はメールしてね。ナオミ アタシもするから」

ナオミ「はぁい 絶対しまぁす。」

純子「じゃねぇ ナオミ、メイ。アタシこっちだから。」

真樹子さんは彼氏の迎え、ジュン先輩は俺達とは
反対方向に車を止めていたからその店の前で二人
とは別れた。結局、その場には飲み始めた時と同じように、
俺とナオミさんだけが残っていた。

さっきまでの雰囲気の余韻が少し残ったままの店先で
俺とナオミさんは立っていた。
その店からはナオミさんの車を止めたパーキングまで歩いて
2〜3分くらいだった。

俺「じゃ 帰ろっか。車のとこまで送るよ 」

ナオミ「そうね・・・ ありがと〜。ふふっ」

ナオミさんは、ジュン先輩のいる店に着いてからも前の店と
変わらないペースで飲んでいた。かろうじてまともに歩ける
けど、とても自分で車を運転できる状態じゃないように見えた。

俺「大丈夫? 歩ける?」

ナオミ「うん〜 大丈夫ぅ アタシ何か楽しいよ メイくん〜」

俺「ダメだな、こりゃ」

と俺は独り言のように言葉が出た。ニコニコとしてるナオミさんと話しながら
片手でナオミさんの腰に手を回し、支えていないとフラフラ
してどうしようもなかった。

途中、途中で酔っているせいでよく聞き取れないナオミさんの言葉を
うまくかわしながら、ナオミさんの車のところまで辿り着いた。
大通りにもかかわらず、時間が遅い事もあって、人通りもまばらだった。

俺「着いたよ。ナオミさん、ちゃんと乗れる?」

ナオミ「あ〜 アタシの車だぁ よぉし 帰ろっかぁ」
と、運転席の方に乗り込もうとした。

俺「ちょっと待って こっちは助手席。反対側。」

ナオミ「ん?そうだっけ 違ったぁ ちょっと酔ってるのかな?アタシ」

俺はナオミさんにカマをかけてみて、
どう返ってくるか試してみた。予想どうりどっちが運転席
かの判断もつかないほど、酔っていた。

俺「ふぅ。 どうするべ 」

ここからナオミさんの部屋まで車で40分くらい、
俺の車もパーキングに止めっぱなし。
酔っ払ったナオミさんはとても車を運転できそうにない。
全くのシラフとは言えない俺も、ここからどうするか
頭の中を整理して、考えをまとめるのに時間がかかった。

でも正確なナオミさんの部屋を知らない俺のとる行動は
一つしかなかった。

何か俺に喋りかけている、ナオミさんを少しシカト気味に
あやすように車の助手席に乗せて、俺は運転席
に乗り込み、ドアを閉めた。

俺「よし! 帰ろっか ナオミさん、車のキー貸して。」

ナオミ「あれ〜? アタシ助手席に乗ってるぅ 何で〜?キャハハッ」

俺「 ダメだ 聞いてねーや、ちょっと ごめんね」

そう言って、変な意味に取られないように、ゆっくり
ナオミさんの着ている長袖のシャツのポケット
を調べてみた。
無い。
キーは入っていなかった。 

俺はさっきの店を出る前のナオミさんの
行動を思い出してみた。
確か飲んでる時は携帯と車のキーはテーブルの上
に置いてあった。店を出る時は・・・
 
あ、バッグの中にキーと携帯を一緒に入れるのを
何気に見たのを思い出した。

助手席のナオミさんを見ると、両手で自分のバッグを
大事そうに抱きかかえて、ほとんど抱き枕がわりにして
シートにもたれかかり、気持ちよさそうにニコニコしていた。

俺「ナオミさん バッグの中に車のキーがあると思うんだけど
   ちょっと見せてもらっていい?」

ナオミ「バッグ?」
と言ってゆっくりと自分の抱きしめているバッグを見て、

 「あ、これはダメ〜 だってアタシの枕だもん」

俺「マジかよ? ここで拒否られるんか」
とため息まじりに俺はつぶやいた。

ナオミ「じゃぁさ アタシにじゃんけんで勝ったらバッグの中、見ていいよ〜」

俺「わかった」

俺がチョキを出したら、あっさり勝った。
「ちょっと バッグ借りるよ」

と言って、ナオミさんの両手のバッグに手を伸ばした

ナオミ「キャッ エッチィ〜 今メイくん変なところ触ろうとしたでしょ〜? 」
俺「?? してないし。」

俺は少し疲れてきていた。
ナオミさんはもうダダッ子に近いものがあった。

何とかナオミさんの両手からバッグを借りる事ができ、
バッグを開けて、中を見てみるとすぐにキーは見つかった。
キーだけを取り出して、
俺「キーあったよ。ほい、バッグ返すね。」

ナオミ「おかえりぃ アタシの枕〜。 ねぇ メイくん、アタシの車運転するのぉ?」

俺「そうだよ。ナオミさんの家まで送っていくよ。」

ナオミ「ダメだよ〜 メイくん飲んでるんだから、捕まっちゃうよぉ」

俺「そんなに飲んでないし、ジュン先輩の店じゃ食べてばかりだった
   から。大丈夫だよ。 全然」

俺の中では正直大丈夫かな?というのが本音だった。でも
その時は、なぜか俺が何とかしなきゃという気持ちが強くなっていた。

ナオミ「わかったよぉ メイくん 任せたぁ。」

その言葉を聞く前に俺はもうエンジンをかけて、どこの抜け道を通っていくか考えていた。
車の中にはオーディオの音が流れ、運転席のデジタルの時計は
2時前になっていた。

俺はゆっくりと車を出した。

10分くらい車を走らせ裏路地を通り繁華街を抜け、ナオミさん
の住む街に通じるバイパスに差し掛かった。
車を走らせている間もナオミさんは上機嫌だった。

ナオミ「ねぇ メイくん ちょっと眠くなってきちゃった。」

俺「ああ、寝てていいよ ナオミさんの家の近くになったら
   後で起こすし。」
ナオミ「いや! 楽しいのに寝たくないもん 」

俺「眠いって言ったやん」

ナオミ「キャハハ メイくん楽しい〜 ねぇ ドライブしようよ」

俺はナオミさんの言葉にはほとんど適当に返しながら、
さっきよりは酔っているナオミさんのあしらい方にも俺は
少し慣れてきていた。

ナオミ「ねぇ ドライブ! しよっ」
俺「うん しよっか 」
と適当に返し、方向はナオミさんの部屋のある街に。

ナオミ「やった ねぇ どこ行こうか?それとも
    このままホテル行こっか?」

俺「え?」

今まで適当に返していた俺もその言葉にはさすがに
止まった。

ちょっとふざけてるなと思い、俺は黙っていた。
その間、ナオミさんは上機嫌でオーディオから
流れる音楽を聴きながら、楽しそうにその曲を口ずさんでいた。

もうそろそろバイパスを抜け、ナオミさんの住んでいる街
に入る所だった。
俺は黙っている間、少しだけ冷静に考えて、とりあえず
かなり酔っているナオミさんをまともにする方法を見つけようとして
バイパスを降りた所にコンビニがあるのを思い出した。

俺「ねぇ ノド乾かない?俺、水飲みたいんだけど。
  コンビニ寄るよ?」

ナオミ「いいよ〜 アタシまた眠くなっちゃったぁ」

コンビニの駐車場に車を止めて、ナオミさんを車内に
残して、俺だけ店に入り自分とナオミさんの適当な飲み物を
買って戻った。車のドアを閉める音で浅い眠りから
ナオミさんが目を覚ました。

ナオミ「あ、おかえり〜 ちょっと寝ちゃった キャハハ」

俺「ん、これ 飲むといいよ」
ナオミ「ありがとう〜 優しいね メイくん」

冷たいものを飲んで、アルコールが抜けてくれば、
俺はいつもどうりのナオミさんに戻るだろうと思っていた。

俺もナオミさんも黙って、冷たい飲み物を飲み、少し落ち着いた
雰囲気が車内に流れた。
俺は一息ついて、

俺「じゃあ、もう○○(ナオミさんの街)に入ったし、あと少し
   だね。ここからナオミさんの部屋はどんくらい?」

ナオミ「・・・」

俺「どした?気持ち悪くなった?」

ナオミ「・・・ 帰るの?」
俺「うん。明日も仕事、朝からやろ ナオミさん。」

ナオミ「 アタシ、今日は帰れないの。部屋の鍵持ってくるの忘れちゃったし。」

俺「え?」
俺はとっさに聞き返していた。

ナオミ「・・・」
その言葉が嘘だろうと、俺はうすうす感付いていた。

ナオミさんはさっきまでの明るい雰囲気とは明らかに変わっていて、
黙って少し潤んだ瞳で俺の目を見つめていた。

見つめられると、ナオミさんの大きな潤んだ瞳と薄い唇に、
また最初のドキドキが甦ってきていたが、
俺の頭の中で、ナオミさんと一線を越えるのをためらっていた。

二人とも黙ったまま、車内に沈黙が流れていた。
ナオミさんはじっと俺の目を見つめていたまま。

俺は、その瞳から、たまに視線をずらして考えるふりをしていた。

俺は、ナオミさんが以前、今は弟と二人暮しを
している事をふと思い出した。

俺「ねぇ ナオミさん、弟に鍵、開けてもらえないん?」

少し間を置いて、

ナオミ「・・・ ダメ 一度寝たら起きないから。」

ナオミ「ねぇ エッチしよう」

正直、その言葉に俺の頭の中は混乱して、理性や今までの
我慢も崩れ去るのは時間の問題だった。

その言葉に何も答えないまま、俺は車のエンジンを
かけた。ナオミさんは少しだけ驚いた顔をした。
もう深夜で道路に車はほとんど走ってなく、コンビニの駐車場を出ても
信号にもかからず、車は進んだ。

俺の運転するナオミさんの車は、前にナオミさんと遊んだ時に何となく聞いた
ナオミさんの部屋の近くのコンビニに差し掛かった。
先に沈黙を破ったのはナオミさんだった。

「ねぇ メイくん・・・ アタシとじゃイヤ?」
とぽつりと言った。

さっきまでの明るいナオミさんの
雰囲気は微塵もなかった。

俺の頭の中はもう考えをまとめられる状態じゃなかった。
”友達”として付き合ってきて、以前はただの同級生の同僚、
そこをやめてからも普通に遊んだり、話したりしていたナオミさんが
”女”として、今、自分の前にいた。

俺「 俺も正直になるよ。 行こうか。」

ナオミさんに言ったその言葉に
もう俺は後戻りはできないと心に思っていた。

そのホテルは車で20分くらい走ったところで結構山の中
にあった。
そこに着くまで、俺もナオミさんもほとんど無言だった。
ホテルの駐車場に着いた時、口を開いたのはナオミさんだった。

ナオミ「じゃ、行こう メイくん」

まだ、少しだけ酔いが残っているナオミさんはドアを
開けづらそうにしていたので、俺が先に出て、助手席に回り
ドアを開けた。

ナオミ「ありがとう〜 優しいね メイくん。」

と言って車から出ると、ナオミさんから俺の手を取って
つないだ。俺も自然に手を握った。

部屋は駐車場から階段を登り、2Fだった。
ヒールの高いパンプスを履いていたナオミさんは歩きにくそうにして、
一段登るたびに、つないだ手にギュッと力を入れて、
そのだびに俺の二の腕に微かにあたるナオミさんの
胸と香るコロンの匂いに俺はドキドキしていた。

部屋に入ると、意外に古いタイプのホテルだと気がついた。
駐車場が暗かったせいもあり、あまり気に留めてなかったせいもあった。
ナオミさんはあまり気にしていなく、ソファに座り

ナオミ「ふぅ 何か登ってくるので疲れちゃったぁ。」

俺「何か 飲む?」
と言って俺は冷蔵庫の中を確かめた。

ナオミ「うん。お酒〜 お酒が飲みたぁい」

俺「え?まだ? じゃ全部はダメ。半分だけだよ」
缶チューハイを開けて、そのまま渡した。

ナオミ「やったぁ!」
俺は他の飲み物が無いか冷蔵庫の前にしゃがみ込んで
見ていた。その時、背中を指でトントンとつつかれ、
振り向くと、そこにはナオミさんの唇があった。
そのままキスをして、俺はナオミさんからチューハイを飲まされた。

ナオミ「半分コだね。 おいしい?」
俺「うん。おいしいよ。」

そう言いながら、自然に俺はナオミさんの上着に手をかけ、脱がし始めていた。

ナオミさんの上着を脱がせ、俺はキャミソールだけに
なったナオミさんの胸に触れた。

ナオミ「あ、エッチな人がいるぅ」

俺「普通だよ。」

ナオミさんを抱き寄せて、俺から唇を求め、キスをした。

ナオミ「ん、ダメ 」

その言葉を無視して、俺はもう止まれなかった。


俺とナオミさんはそれから一緒にお風呂に入るまで、汗とコロンの匂いを
そのまま、少しだけ求め合った。

二人でお風呂に入り、あまり長湯せずに上がった。
ナオミさんも俺もかなりの量の酒を飲んでいて、少し
湯船に浸かっていただけでのぼせ気味になっていた。
タオルを巻いただけのナオミさんは

ナオミ「ふぅ なんか少しクラクラするぅ、しない?メイくん」
俺は冷蔵庫からウーロン茶を出して、

「ほい、お茶飲む?」

ナオミ「ありがと〜、何か気が利くねぇ、メイくん」
    「ん、」

と言って少しだけ飲んだ缶を俺に渡し、俺もそれを飲んだ。

二人でソファに座り、ウーロン茶を飲みながら取りとめのない話をしながら、
俺は煙草を吸っていた。体はポカポカして、そのまま寝ても気持ちいい
だろうなと思った。
話は一緒に勤めていた頃の会社に入る前の話をしていた時だった。

ナオミ「アタシね。一度だけ真剣に結婚を考えていた事があるの」

俺「そう。」

これからナオミさんが何を言うのか俺は全く予想もつかなかった。

ナオミ「けっこう長く付き合っていて、同棲もしていたの。アタシのこと
     をすごく好きでいてくれて、アタシも同じくらい好きだったの。」

俺は黙って聞いていた。

ナオミ「でも・・・  最後はね。アタシのわがままなの。その人は結婚しよう
     ってアタシに言ってくれたけど、どうしてもアタシが踏み切れなかったの・・・
     その人と別れて、仕事を辞めて、すぐにこっち(地元)に戻ってきたの。」

俺はナオミさんにどんな言葉をかけていいのかわからなかった。
ナオミさんは寂しそうで今にも泣き出しそうな表情になっていた。

ナオミ「 どうしてだろ、何でアタシ、こんな話しちゃったんだろう
     何かごめんね、メイくん」

ナオミさんがすごく小さく見えて、隣りにいるナオミさんをいとしい気持ちに駆られた。
俺の気持ちは確かに動いていて、止めようがなかった。
もうすぐにでもナオミさんを抱き寄せたかった。

その後、少しだけ沈黙が流れ、俺はナオミさんを抱き寄せよう
と左腕を肩に回そうとしていた。

ナオミ「じゃ、明日も早いし寝よっかぁ もうあんまり寝れないかな」

俺「え?」

そう言うと、すっとナオミさんは立ち上がって、ベッドの方
へそのまま歩いて行った。
俺は煙草を手に持ったまま、少しどうしようかとたじろいで
とりあえず、煙草を最後まで吸った。

一口だけウーロン茶を飲み、俺もベッドのある部屋の方へ。

ナオミさんを見ると、ベッドに横になり肩までシーツをかぶって
目を閉じて眠って?いた。

俺は少しだけシーツをめくって、ナオミさんの隣りに入り、
横になった。ナオミさんは吐息まじりに、
「うう・・ん」と小さく言った。

ベッドの中で俺は後ろからナオミさんを抱き寄せて、俺の方に向かせて
ナオミさんの体に巻いてあるタオルをほどいた。ナオミさんは閉じていた
目をゆっくりと開けて、

ナオミ「 メイくん やっぱりエッチだよぉ」

俺「普通だよ。」

俺はナオミさんを抱いた。今もそれだけは変わらない。

一度うまくいかなくなり、、ナオミさんをベッドに残したまま俺は
無言でベッドを出て一人ソファに座っていた。
なぜうまくいかなかったのかは今でもわからない。
ナオミさんは気を使ってくれて何度も俺に優しい言葉をかけてくれた。
でもそれが逆に俺が自分自信を追い込んだ。

深夜4時を過ぎたホテルのソファで一人、煙草の煙を燻らせたまま
何を考えるともなく座りつくしていた。

軽い寝息をたてて眠るナオミさんのベッドに行き、そっと起こさないように
シーツをはぐり、俺が入ったのは朝5時半過ぎだった。
寝返りをうって、ナオミさんはゆっくり目を開けた。

ナオミ「ん、ねぇ」

と言って、ベッドの中で俺を受け入れようと両手を広げた。

目の前にいるナオミさんの体に俺は全てを委ね何も考えず
ただナオミさんを抱いた。

ベッドの上で少しだけ話をして、もう時間がないと二人ともわかっていた。
シャワーを浴びて、お互い服を着て、髪をとかして身支度を
していた。俺の中には理解できない複雑な感情が入り混じっていた。
それが何かもわからず、支度が終わると二人でホテルを出た時はもう当たり前
のように外は明るく、朝日が昇っていた。

ナオミ「メイくん 車置いたままだよね?送るよ」

俺「いいよ 仕事おくれちゃうよ 駅まで送ってもらっていい?
   そっからタクシーでも拾って帰るし。」

ナオミ「ダメだよ 」

俺「いいって 久々にタクシー乗ってみたいし。」
と俺は訳のわからない事を言いながら、ナオミさんに
駅まででいいと説得した。駅に着き、ナオミさんは車を止めた。

ナオミ「ねぇ メイくん 」
俺「何?」

ナオミ「昨晩の事は二人だけの秘密ね。」
俺「わかった。」

ナオミ「じゃね 仕事頑張ってねぇ 後でメールするからね」
俺「じゃね また」

俺はナオミさんの車を見送り、駅前に並んでいるタクシーに
乗り、地元までの帰り道の中、微かに残るナオミさんのコロン
と感触を肌にまだ残したまま、一人浮かれていた。

そこから今まで何を残して、何を失ったのか
その時は知る由もなかった。

その日の仕事を終え、体はぐったりして、キツかったが、
頭はすっきりしていた。
俺の中でナオミさんへの気持ちは大きくなりすぎていて、
告白せずにはいられない状態になっていた。

何気ないメールをナオミさんにうち、その後でメシでも
食べにいかないか誘ってみた。

俺<来週、都合いい日があったらメシでも一緒に食べない?>

ナオミ<来週はちょっと仕事忙しくてちょっと無理かな>

またそれから何日か経ち同じように誘ってもやっぱり結果は
同じで約束はできなかった。

俺は以前とは明らかに違うよそよそしい雰囲気を俺は感じていた。
もうダメかな・・・
諦めに似たような気持ちともう二度とナオミさんに会えないと
勝手に思っていた。

いや、ここで何もしなかったら確実に後悔する。
ダメならダメでも答えを出さなきゃ前に進めねぇ

今、思えば俺の気持ちにナオミさんは気づいていて
今までどおりこれまでの関係を続けたかったんだと思う。
一晩だけの事として、片づけたかったんだと。

もっと時間をかけて、会う約束を取り付けていれば、
直接会うこともできたはずだった。でもその時の俺にはそんな余裕は無くできなかった。
とにかく自分の気持ちを伝えたいというのが先に立っていた。

俺は自分のナオミさんを想う気持ちをメールで伝えて、
返信を待った。
しばらくメールは返って来なかった。

メールが返って来たのは3時間近く経った夜の9時過ぎだった。
そのメールの内容はナオミさん自身、何で俺とそういう風になった
のかは自分でもただわからないとだけ。

そのメールを受け取ってから俺は一度ナオミさんの携帯に電話を入れた。
でもナオミさんは出なかった。
勝手にダメだと判断をした。なぜかわからないが
その時はきっとかなりネガティブになっていたからだろうと思う。

簡単にわかったよと言う内容のメールを打ち返して、そのまま
にした。俺は勝手に自己完結していた。

その日はツレと飲む約束をしていて、居酒屋で一緒に飲んでいた。
ナオミさんの事を以前話した事があり、飲んでいる途中、俺がコクった
事に話が及んで、その前のいきさつも含めた話をしていた。

ツレ「まだ、終わってないじゃん 電話に出ないのも向こう(ナオミさん)はまだ迷ってるからだよ
    出れないんだ。どうしてお前とHしたか、どうして自分から誘うような事を言ったのか
    きっとほんとにわかんねーんだよ。」

俺「!」

ツレ「今すぐ、メールしろよ。もう一度はっきりとおまえの気持ちを伝えろ」

諦める事になれていた。ダメだと決めて、早く楽になってしまいたかっただけだった。
時間をかけて、その場で俺はメールを打ち始めていた。
時計はもう深夜0時近くだった。

その日メールは返って来なかった。
次の日、夕方になり、俺の携帯にナオミさんから返事が
帰ってきていた。

<メイくん この前の事はほんとにゴメン 付き合ったりとかは
  できないんだ。>

その後には気持ちは変わらない事が続けてあった。



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