− 300 さんの恋愛話 −

その娘と出会ったのは呑み屋でだった。
お互い皆でわいわいガヤガヤやってる中の1人だった。
出会った頃、俺は失恋とか仕事が辛くなってきた頃で、
バイクで危ない事をしていたが、
それだけでは飽き足りずに酒に逃げ始めた頃だった。
いろんな店に出入りしていたので、
最初は別に彼女が特別ではなかった。
夜通し呑んで歩いたり、
ホストクラブに二人で行ったりと、
夜の街だけの付き合いだったが、
夜に誰もいないアパートに帰るのが辛かった俺にとっては性に合った付き合い方だった。
彼女が店から遠ざかると、
俺も自然と、
その店に行かなくなった。
めぼしい店もほとんど行き尽くしてしまったから、
夜の街は少し遠ざかったが、
彼女との付き合いは続いていた。
この頃すでに俺は特別に意識していたが、
「彼女と付き合えたなら……」そんなウマい話しはある訳がないと思い、
あくまで友達として接していた。
ちょっと舞い上がっってしまう事もあるけれど、
彼女が俺に特別気があるとも思っていなかったかし、
やはり想いを告げて辛い思いはしたくなかった。
そんな時、彼女がバイクで事故を起こした。

知らせを聞いて、俺は居ても立ってもいられなかった。
昼間はワークホリックのごとく仕事に没頭していたあの頃の俺にとって、
営業途中で病院へスッ飛んでいくなどとんでもない事だった。
幸い傷はたいした事もなかったのだが、
俺の心中は穏やかではなかった。
でもポーカーフェイスで、「バイク舐めたらいかんぜよ〜」とエラそうに強がってたっけ。
でも、この時を境に彼女との関係がぎくしゃくしてしまったのだ。
彼女の入院により、俺が幹事だった皆で行く旅行がお流れになってしまった。
旅行は彼女が言い出した事なだけに、
自分の入院で旅行がお流れになった事に、
多分彼女は責任を感じているだろうと思った。
だから俺は「確かに残念だけども、そんな事よりも怪我を治す事を考えろ!」という旨の発言を、
少し強い口調でしていた。
周りの皆は「怪我が軽くてよかったね〜」と言っている中での発言だった。
しかしそれが「アタシの身体の心配よりも、旅行の方が大事なんだ……」そう言われて、
俺はとてもショックだった。
確かに俺のボキャブラリーが足りなかったのかもしれないが、
このような状況下で、俺がそういう考えを持っていると、
彼女に思われている事がショックだった。
どうせ彼女と付き合えるとは思っていなかったけれど、
彼女の中で、俺という人間がそういうふうに評価されていた事がショックだった。
どんなに心配をしても、彼女の中の「俺の像」は、その程度の人間なんだと悟った。
話し合えば、釈明をすれば、少しは分かってもらえたかもしれない。
でも、なかなか二人で話せるチャンスがなかった。
それより何より、彼女とそういった話をしたくなかった。
何故なら、今までフレンドリーにやってきた二人の間柄が、
そんな話をすると壊れてしまうと思ったからだ。
ましてや俺は特別な感情を持っていながら、その想いを押し殺しているのだから、
彼女とそんな話し合いなどしたくなかった。

カットアウトする事は簡単だが、
でも俺はフェイドアウトしたかった。
しかし、この件を切っ掛けに俺の一挙手一投足が、
彼女の目には俺の思いとは正反対に写るようになった。
「私よりも周りのみんなとの関係の方が大事なんだ」
そうまで言われるようになっても、俺はフェイドアウトする事を選んだ。
周りの皆に勘付かれると、皆と彼女の関係がギクシャクすると思ったからだ。
最終的には
「もう電話もメールもしません。皆といる時でも、アナタには話し掛けません。でも、これだけは信じて下さい。貴方に悪意を持って接した事はありませんでした」
とメールが来てしまった。
彼女が悪意を持っているなんて考えた事などある訳がなく、
逆に彼女に変な気を使わせたくないから、
自分の想いを誰にも知られないように振る舞っていたのに。
当然俺は反論しなかった。
メールの返事も出さず、それを機に会う事もなくなった。
その後、彼女は結婚して、夜の街ともバイクとも縁がなくなった事だろう。
俺が仕事で北海道へ行く事を人づてで知ったらしいが、
俺からは何のアクショクもしなかった。
俺は今また地元に戻ってきているのだが、
もう、あの頃の仲間達とは何の接点も無くなってしまっている。
当然彼女も、俺が地元に戻ってきている事は知らないだろう。



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