− 641 さんの恋愛話 −

もう20年以上前の話だヨ
オレはいつものダチとつるんで走りに行ったのサ
小一時間ほど走った後の休憩はいつもの西湘バイパス、国府津PA。
ヤツとふたりで海を見ながらタバコをふかしてたら女のコが話かけてきたんだ

そのコは今で言えば相川七瀬風?ストレートの茶色い髪がきれいだったけど
顔自体は正直、そんなにグッとくるってことはなかったかナ
でも、なんか話が弾んでサ、そのまま箱根まわって富士山まで一緒に走る事になったんだ

そのコのバイクはダチとおなじGPz400F。オレはVT250E。そんときすでに
「400の女のコ」にたいして「250のオレ」は引け目感じてたナ、正直

それよりもなによりもオレは彼女がいったい「どっち目当て」なのか気になってた。
ダチとオレは背格好も同じくらい、顔だって、タイプは違えど大きな落差があるようには
思えなかった。きっとダチも同じ、「このコはどっちが目当てなんだ?」と
フルフェイスの下で考えながら、オレたち3人の妙なグループは富士スカを登っていったんだ。

だってそうだよナ?男二人でつるんでる所に女のコ一人で声かけてきたんだ。
やっぱり二人のうちどっちかが「目当て」って考えるゼ、フツー。
でもそんなこと露骨に聞けないオレたちは「偶然出会った良い子のバイク好き」
同士ってのを装って、「にわかグループツーリング」をしてたのサ

走る順番はダチがアタマでまんなかに女のコはさんでオレが最後尾。
おたがいフルヘルかぶって走ってりゃ、何人で走ったって話すものもいない
一人っきりの世界。前を走る彼女のヒップラインを眺めながら、アタマの中は
ぐるぐるいろんなことを考えてたヨ。いや別にオレが特別自意識過剰で
助平なヤツってわけじゃないと思うんだ。当時19で童貞のオレには相当難しい状況だったよ。

事態が動いたのは富士スカも登りきってもう新5合目のパーキングももう少しって
所。前を走る彼女の様子がおかしいんだ。バイクが全然走ってない。それまでは
後ろから見てても危なげなく走ってたのに、突然失速したんだ。
オレには理由はすぐに分かった。相当標高あげてきたから空燃比が狂って
フケなくなってるだけだったが、彼女はもちろん、同じバイクに乗るダチにも
事態がピンときてないみたいだった。

オレはすぐさまバイクを降りて彼女のそばに駆け寄った。
そしてあと少しの距離をオレが彼女のGPzに乗り換えてあげてゆく事になった。
オレのVTは4気筒ほど気圧の影響は受けないからエンジンは安定していた。
彼女でも無理なくのれた。ここで俺は気付いたんだ。頑張って400乗ってるけど
実は中免取ってまだそんなに経っていない、ほとんど初心者に近いんじゃないかってね。
ここでオレは少し優位に立てた。250のオレが400の彼女に対して。
そしてオレのようにすばやい対処が出来なかったダチに対しても。
当時は同じ中免の範囲内でも明確な排気量によるヒエラルキーがあったんだ
当人が意識してようとしてまいと。初心者がいきなりハーレーとか買っちゃう
今じゃ想像もつかんだろうケドね。

そうこうして何とかパーキングにたどり着いたオレたちは、またたわいもない
話で盛り上がったんだと思うヨ。はっきり言って何しゃべったかなんて
ちっとも覚えちゃいない。オレは最初のうちちょっと得意げだったかもしれない
もちろん恩着せがましくなんてしなかったヨ 女がそういうの一番嫌がるって
いくらオレでも分かってたからさ。でも精神的優越ってのは自然と自分をいい気持ちに
させてくれるもんサ PAで最初に話しかけられたときよりはずっとスムーズに
打ち解けて話が出来たように自分では思った。正直PAでは彼女がオレの方よりダ
チのほう向いてしゃべってることが多いような気がして正直へこんでたんだよナ

でも最後にオレは打ちのめされた。
記念に写真を撮ろうって事で、オレが持ってたカメラで一枚づつツーショット
を撮ったんだ。そしたら彼女、オレと撮る時は「髪型がとんでもないから」とかいって
ヘルメットかぶったままだったのに、ダチと映るときはヘルメットとったんだヨ
もともとシャギーっていうの?ストレートでシャキシャキした髪型だから
ちょっとくらいヘルメットかぶったって乱れるような髪形じゃないんだよナ
それでオレにもわかった。オレは「Out Of眼中」彼女のお目当ては同じバイクに乗る
ダチだったんだってね。事実それでもめげずに「写真を送るから」と住所を聞いたけど
「来週はまたイギリスに帰っちゃうから」と教えてもらえなかった。
「イギリス???」オレの頭は少しパニくったよ、正直。

彼女が言うには自分は英国留学中で、夏休みに帰国したけど、また新学期が始まるから
イギリスに戻るんだとの事だった。彼女は話した限りでは誠実そうで
ぺらぺらうそをつくコには見えなかった。だからその話も作り話には思えなかったケド、
ただひとつ、オレと写るときはメットかぶって、ダチと写るときはメットをとった、
その事実だけですでに打ちのめされてしまったんだ。その後は積極的に話す事も出来なくなった
その後何日かしてダチが彼女と連絡取ったと言うのを聞いたけど、そんなに
驚きはしなかった。でもイギリスに帰るってのはやっぱり本当だったみたいで、
ダチもその後になにか進展があったなんてことはなかったみたいだ。
もっともオレにはそんなことはどうでも良かったが。でも少しだけ救われたのは
あの19の夏の終わりに少しだけ心揺さぶられた女のコがオレを避けるために
大ボラ吹いたんじゃないって事が分かったことだ。いまでもその時の写真は持ってる。
ヘルメットのままの彼女の胸が結構大きかった事は後で写真を見てから気付いた。
その隣のオレは引きつった作り笑いを浮かべている。
彼女、今頃どこでどうしてるかな? 久しぶりに西湘BP経由で箱根とか走りたくなっちゃたナ

今思えば彼女の目当てはオレでもなく、もちろんダチでもなく、
たまの帰国中に好きなバイクでちょっと走りに出て、同じバイクに乗ってる
人がいたからちょっと声かけて、一緒に走って、ああいい休日だった。
ってことなんだろう。彼女オレらよりひとつふたつ年下だったけど、
やっぱり女は大人だよね、ましてイギリス留学中じゃね。
まあ、今ではいい思い出だよ。



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