− 692◆Jfd4hQCdnE さんの恋愛話 −
| 俺が彼女(仮に佳織)と出会ったのは高校生活2年目の春だった。 それまでは彼女との接点も特に無く、廊下等ですれ違った時に軽く会釈をするぐらいだった。 所が二人の共通の友人が間に入ってくれて、俺は佳織と話すようになり、次第に仲良くなっていった。 俺と佳織との共通の話題はゲームや漫画等の、今から思うとちょっと…って感じだったのだが、それは問題では無い。 とにかく、俺は佳織に段々と惹かれていった。 そして俺は生まれて初めて女性に対して恋愛感情を伝える行為、つまり自分の気持ちを告白した。 佳織は返事に戸惑っていたが、それには理由があった。 詳細は控えるが、ある事が原因の"心の病気"だった、とだけ言っておこう。 だが、それでも俺は引かずに自分の正直な気持ちを伝えて、 最終的に佳織も俺の気持ちに答えてくれて、俺達は付き合い始める事になった。 それから俺と佳織は、ゆっくりと、でも確実に絆を深めていった。 喪男だった漏れは女性と交際するのなんて初めての事で、 とにかく佳織を大切に守るんだと言う気持ちを信条に付き合っていました。 佳織と初めて手を繋いだのは付き合ってから二週間してからだし、キスをしたのは3ヶ月後と言うぐらい。 学校が終わるのは夜になってからなのだが、俺は雨の日も風の日も、毎日欠かさずに佳織を家まで自転車で送っていた。 ちなみに学校から佳織の家までは12km程。学校から俺の家までは1.5kmぐらいだった。 だけど、俺も佳織も二人一緒の時間が過ごせるというのが嬉しくて、いつも楽しい帰り道だった。 俺が佳織を毎日毎晩送っていたのは、上の理由もあるのだが、それだけではなかった。 ここで話は俺が中学生だった頃になるのですが、 俺には中学時代にお世話になった年上の女性(仮に涼子)がいました。 俺が中学2年生だった時、涼子は19歳だったのだが、俺達の間に恋愛感情などは無くて、 年齢が離れた近所のお姉さんと弟って感じの付き合いだった。 涼子はタレントに例えると…誰に似てるか、少し古いけど森高千里に似ていた気がする。 そんな涼子はF1やラリーのようなモータースポーツが好きで、俺もその影響でレースやラリーが好きになった。 週末になると涼子の家に遊びに行ってゲームをしたり、色々な雑談をしたりしていた。 他にも涼子と一緒に遊びに行ったりしたし、自分に取っての恥ずかしい思い出も多少ある(苦笑) とにかく、俺は涼子と仲良くしてもらっていたのだが…。 ある日、俺が涼子の家に遊びに行くと彼女の様子がいつもと違っていた。 いつもなら元気良く俺を迎えてくれるはずの涼子が部屋から出てこない。 新しいゲームを買ったから一緒に対戦しようと言っても、彼女に頑なに拒否された。 どうしたんだろうと思ったが、機嫌が悪い時もあるかと思い、その日は特に気に止めずに家に引き返した。 所が、次の週末に行っても、そのまた次の週末に行っても、涼子は俺と会ってはくれなかった。何度も掛けた電話はスルーされた。 ここで俺も涼子に何か異変があったのかと思うようになった。 どうも様子がおかしい、何があったのかと悩み込んだ俺は、 次に涼子の家に行った時は会って話をするまで帰らないと心に決めて出掛けた。 で、次の週末に涼子の家に行った時は朝から夜中まで、ドアの前で涼子が家に入れてくれるまで待っていた。 (トイレなどは仕方が無いので、近くのコンビニまで走ったが、事を済ませたらすぐに戻りました) その日は雨が降っていたのだが、ずっと待っていた俺に、涼子は家に帰れとドアの向こうから何度も声を掛けてきた。 だけど俺は涼子と直接会って話がしたかったから、その度に「直接会って話がしたい」と繰り返した。 そんな流れが何度も繰り返されて、いつの間にか辺りは暗闇に包まれ、ドアの前で待ちぼうけの俺は、誰が見ても不審者のように見えただろう。 「今日は家に帰れないな」と思いながら雨雲を見上げながら考えていたのですが、 ふいにドアが開かれて涼子が玄関から出てきました。 「馬鹿、何やってるんよ。風邪引いちゃうじゃん…」と、涼子が弱々しい声で俺に話しかけてきた。 「何って、涼子姉ちゃんがドア開けてくれないから待ってただけ…風邪なんて、別にどうって事ないよ。」 正直な所、雨風の中でずっと待っていたのは辛かった。寒さで何度もくしゃみもしたし、凍えていた。 だけど、それ以上に俺は涼子と会って話がしたかった。 「部屋に上がっても良いん?」と言う俺の問いに対して、涼子は無言で俺を部屋の中に招き入れた。 数週間振りに上がった涼子の部屋だったが、前にお邪魔した時とは雰囲気が全く変わっていた。 台所やリビングの床に無数に転がる酒の瓶に、お菓子の空袋。少なくともちゃんとした食事が取ってなかった事が分かる。 いつもの彼女ならば、絶対にありえない様な光景だった。 だけど、それ以上に俺の関心が向いたのは涼子自身だった。 ちゃんとした食事を取ってなかったのだろう痩せこけた顔に、泣き腫らした痕が見えた。 「…どうしたん、これ…ってか姉ちゃん、何があったんよ??」 中学生だった俺は、状況が飲み込めずに呆気に取られた質問をするしか出来なかった。 だけど涼子は何も答えてくれない。それどころか今にも泣き出しそうな困った表情をしていた。 俺は、この時の涼子の顔を忘れる事は未だに出来ていない。 子供だった俺はオロオロとするだけで、気の利いた言葉も掛けてあげられなかったし、ただ立ち尽くすしか出来なかった。 数分だったか数十分だったかが過ぎると、涼子が消え去りそうなか細い声で話掛けてくれた。 「…風邪引くとアカンから、取り合えず身体と頭拭いて。タオルはお風呂場にあるから」 重たい雰囲気に耐えられなかった俺は黙って従う事にして風呂場でタオルを探す事にした。 女性が暮らしてる部屋で探し物をするのは、やっぱり抵抗がありました。 今でもそうだが、思春期真っ只中の当時の自分に取ってはかなり…その…刺激的と言うか…恥ずかしいもんだった。 出来るだけ早く見つけるようにして風呂場の収納ボックスを開けてタオルを探してたのだが、 俺はその時にとんでもない物を見つけてしまった。 その"とんでも無い物"とは、風呂場に転がる剃刀だった。しかもその近くにはタオルが放置されていた。 中学生の自分にだって、これがどういう事をした後かというのは察しがつける事が出来た。 俺は涼子の所に戻って彼女を問い詰めた。 「姉ちゃん、これ何??どういうこと??何があった??」 カッとなって涼子に詰め寄ったけれど、彼女は何も答えてくれなかった。 「姉ちゃん何してん!?このタオルと剃刀、どういうことやねん!?」 涼子は何も答えてくれなかった。 ただ膝を抱え込み顔を伏せて泣いているだけ。 そんな涼子の姿を見て、俺は何も言えずに立ち尽くすしか出来なかった。 「ごめん」と繰り返す彼女に対して、自分はここでも何も出来なかった。 暫くの間があって、涼子は嗚咽しながらだけど自分に何があったのかを話してくれました。 その内容は自分の精神を吹き飛ばせるには十分な話でした。 ネタ臭いと言われればそれまでだが…。彼女はレイプされてた。 詳細は書かないが、とにかくそういう事があった。 俺が新しいゲームを買って涼子の部屋に遊びに行く前に事件は起こっていて、 涼子は男性恐怖症と人間不信に陥っている事を告白してくれた。 何も知らなかった俺は、涼子が辛い思いをしていたにも関わらず、それに気が付くことが出来なかった。 そればかりか、無理やり彼女の心に入り込むような行為をしていたと言う事に気が付いたんだ。 弟みたいに可愛がっていた俺までも信用する事が出来なくなって、ずっと一人で苦しんでいた。 そして俺が気が付いた時は彼女の精神はボロボロになっていたんです…。 自分がもっと早く気が付いてたら、そして彼女の為に何か出来ていたらと思うと…今でも胸が切り刻まれる気持ちになる。 それと同時に、卑劣で下劣な行為を行う奴に対しての殺意を今でも無くす事が出来ない。 涼子との話はまだ続きがあるのですが、スレ違いにもなるし取り合えずここまでにさせてもらいます。 唯一つ、涼子は今では結婚もして、旦那との間に元気な子供も生まれて、幸せな家庭を持っている事だけ書いておきます。 で、このような事があって、俺は佳織を一人で帰らせる事を絶対にさせなかった。 田舎の街とは言え、女性の一人歩きは危ないから。 もう涼子のように悲しむ女性を増やしたくなかったのが一番の理由だった。 その思いを胸に、俺は毎日毎晩彼女を家まで送り届けた。 ちなみに送り狼のような行為はしなかった事を明言しておく。 この頃の佳織との恋愛は俺に取って幸せの絶頂期だった。 初めてキスをした時のこと、デートに行ったこと、涼子の部屋に初めて入った時のこと、 つまらない事で喧嘩したこと、今でもハッキリと覚えてる。 お互いが空気のような存在で、いつも何をするのにもどちらかが居るのが当たり前になっていた。 思えば、このような存在になった事が、俺が駄目になっていった原因なのかもしれない。 彼女がいてくれるのが当たり前、何かを話すのも、相談するのもお互いが当たり前、そんな関係が続いてた。 俺より二歳年上だった佳織は恋愛経験があったし、自分以上に多くの人間を見てきたのだろう。 だけど、いつも俺を頼ってくれたし、俺も彼女に甘えることが多かった。 年月を重ねていっても、彼女が愛しいという感情は無くならなかったし変わらなかった。 ただ…"愛しい"という思いが溢れる事で、俺の理性に歯止めが掛からなくなっていた。 佳織と身体を重ねる行為も次第に増えていった。 「ねぇ、私のこと愛してる?」佳織が俺に何度も問い掛けると、 「もちろん愛してるよ、佳織。好きだよ、佳織の全部が大好きだ」と答えていた。 今から考えてみても、大分とクサイ言葉を言ってたと思うが、自分の感情は包み隠さずに素直に伝えていた。 そんな関係がほぼ毎日続いて、佳織は高校を卒業した。 俺より早く卒業した佳織はとある専門学校に入学して、 俺はとある大学に入学する為に受験勉強を始めるようになった。 佳織が卒業した事で、俺も佳織も会えるのは週末ぐらいになった。 電話は毎日毎晩掛けていたが、それでも実際に会えないのはやはり辛い。 俺もだが、佳織も会えないという事に対して鬱憤が溜まり、切なさも溜まっていった。 佳織が会いたいと泣けば俺は夜中でも朝でも時間を気にせず自転車で佳織の家まで会いに行った。 俺も佳織も週末に出会えた時は寂しさからお互いを求め合う事もあった。 寂しさや悲しさ、切なさや愛しさが混ざり合ってする行為は切なかったが、それでも気持ち良かった。 行為の内容は置いておくが年頃の俺には刺激的だった…。 佳織はどうか分からないが、俺は確実に快楽に溺れていった。 そんな関係が続いて俺も高校を卒業し、希望していた大学に入学する事が出来た。 佳織は専門学校の二年生、俺は某大学の一年生として、新しい生活が始まった。 俺が大学に入学しても佳織との付き合い方は変わらなかった。 だけど、高校に比べて時間が比較的楽に取れるようになったので、会える機会は増えていった。 だが、大学生活に慣れなかった俺は入学して半年も経たない内に学校をサボりがちになる(苦笑) そんなのだから単位は少ししか取れなかったが、佳織と一緒にいれた時間は比較的多く取れた。 佳織は精神的に不安だった事が多かったのだろうか、感情の起伏が激しくなっていった。 衝動的に泣き出してしまったり、佳織の家族と喧嘩を繰り返す事もあった。 その度に俺は佳織に会いに行き、佳織を抱き締めて話をして佳織を落ち着かせてなだめていた。 俺の腕の中で泣き続ける佳織を包み込んで、彼女の苦しみや悲しみを少しでも取り除いてあげたかったんだ。 佳織が落ち着いてからは、明るい話をして一緒に笑い合い、惚気合ったりしていた事を今でも覚えている。 そして、ある時に佳織が何気なく口にした言葉、 「ねぇ、免許取りにいかない?」 これが俺とバイクがまつわりだす恋愛の始まりだった。 「免許って急にどうしたの?」 佳織の突然の提案に俺は耳を疑った。 今まではどこに行くのも電車と自転車だったので、今更と言う感じだったからだ。 「だって免許あると便利だし、どこでも行けるようになるやん」佳織が言うにはこういう事だった。 俺もそういう事なら、原付免許ぐらい持ってても悪くはないし、大学への通学に使うのも良いかと軽い考えだった。 そんな軽い流れで俺と佳織は原付免許を取りに行くことにして、 試験勉強を一週間掛けてしてから試験場に行く事にした。 お互いに交通問題を出し合ったり、合格したらどんなのに乗りたいかとか、色々な話もしあった。 俺はどちらかと言うと原付より普通二輪の教習所に興味があったのだが、 順序良く行こうと言う事にして原付から始める事にした。 たかが原付、されど原付。そう思って真面目に勉強もしたし一発合格を目指していました。 そして夏の終り頃に俺と佳織は試験場に行き、原付免許試験を受ける事にした。 夏も終りがけだと言うのに人が多くて、佳織は相当焦っていた。 俺は佳織を励ましつつ、最後の復習をして試験時間を迎えた。 「大丈夫、自信を持って。合格したら二人でツーリングに行こうな」と励ますと、 佳織は返事の代わりに笑顔で答えてくれた。 試験自体は直ぐに終り、俺も彼女も数十分の差で会場から出てきた。 合格発表を待っている間の佳織は沈んでいたが、俺はなるようになるという感じだったのを覚えている。 試験結果は俺も佳織も合格して、午後からの講習を終わらせて無事に原付免許をもらう事が出来た。 「これで二人でどこへでも行けるね。約束通り、一緒にどこかに走りに行こうね。」と、佳織も上機嫌だった。 二人で喜びながら試験場から帰ろうとしていた時に、俺は一台のバイクが目に入った。 試験場に何らかの用事があって来た人だろうか、その人は真っ赤なバイクに乗っていた。 自分には何故かそのバイクから目をそらす事が出来ずに、 まるで女性に一目惚れしたかの様にバイクを見つめていた。 そのバイクはホーネット。 その時は名前までは分からなかったけれど、 特徴的なスタイルをしているから、はっきりと覚えている。 「俺、あんなのに乗りたいんだよ。佳織はどんなのに乗りたい?」 「私は良く分からないんだけど、可愛いのに乗りたいな。貴方はあんなバイクが好きなんだ?」 「好きだな。レプリカとか今のみたいなのが大好きだし。ああいうので一緒にデート出来たら最高だよ」 「いつか、ああいうバイクの後ろに乗せて、私をどこか素敵な場所に連れてってね。」 「もちろんOKだけど、中型免許が取れてバイクが買えればね。それまでは二人で原付デートだな」 「私はこれでも十分嬉しいし、一緒に出掛けられるなら幸せかな。」 佳織はバイクの事は分からないけど、可愛いのに乗りたいと答えてくれた。 どこか素敵な場所へデートに行きたいと言う彼女の願いにOKと約束を交わし、 俺達は貰ったばかりの免許証を見せ合いながら試験場を後にした。 思えば、この時が俺と佳織二人の"恋人と言う関係"での最後の幸せだったのかもしれない。 |