− 762 さんの恋愛話 −

数年前、
2年ほど付き合っていた半同棲の彼女に反対されながらも
中免取得・バイクを購入した俺(当時25歳)。
彼女は俺がバイクに乗ることを快く思ってはいなかったようだ。
初心者期間は当然2ケツもできず、彼女がウチに来ているにも関わらず
バイクで1人出かける俺。事故らないか心配なうえに、
彼女をおいて自分1人でばかり愉しんでいるなんて、
今思えば酷いことをしてたと思う。

彼女と付き合うきっかけは彼女からの一言だった。
大学のサークルで先輩後輩の関係だった彼女から
サークル内のSから告白されたという相談を受けたのは
社会人になって数年経ったころだった。
当時彼女の俺に対しての気持ちを少なからず感じ取っていた俺にとって
それは俺に対しての告白と同等だった。
断っておくが、俺は決してモテるタイプではない。
なによりの証明として俺はその時まで彼女いない歴=年齢だった。
彼女からの気持ちはそれとなくわかってはいたが、
それに対して応えられる経験も余裕もなかった。

しかし、学生の頃から
東北出身の純朴な彼女の人柄に惹かれていた俺にとって
それは逃してはならないチャンスだった。
にもかかわらず、その時彼女に対して俺が発した言葉は
「Sもやるなぁ〜」などというアホな一言だった・・・。
半笑いしながらも複雑な表情をする彼女。
家に帰ってから死ぬほど後悔する俺。

そして数日後、
彼女を大学の寮まで送る機会に恵まれた俺は
その後悔を取り戻すべく一生の勇気を振り絞って言ったのだった。
「お前さえよければ俺と付き合って欲しい。
 何があっても俺がそばにいてお前を守るよ。」
今にして思えばなんて恥ずかしい台詞だ、と思う・・・。
でもその時は精一杯だった。

それでも彼女は受け入れてくれた。
あのときの彼女の驚いた顔、嬉しそうな様子は
今でも忘れない。
その後近所のバーミヤンで寮の門限までお茶したのでした。
「なんか○さんと付き合えるなんて信じられない」とか
語るにも恥ずかしい会話をしながらあの時は
今思えば人生の中でも輝いていた頃だったかもなぁ・・・。
そして、とにもかくにもそれから俺と彼女は付き合う事になったのだった。

付き合い始めてからはもう人並みのイチャイチャ生活を楽しんだ。
それまで彼女のいなかった俺にとってそれは楽しい日々だった。
実家を出て1人暮しを始めてからは、ますます彼女との距離も縮まり
将来のことも考えたりする事もありました。
そして話は冒頭に。
そう、彼女の反対を押し切って中免取得に踏み切り、
400ccのバイクをローンで購入したのだった。
高校の頃から憧れたバイク。愛車の軽自動車を売っぱらって
1人で楽しむバイクにのめりこむ俺に
当時彼女は何を感じていたんだろうか・・・。
そしてそれは唐突だった。
そうこうするうちに彼女はドイツへ留学することになったのだ。
環境問題や福祉について先進国であったドイツへ
行ってみたい、というのは彼女の口癖でもあった。

彼女の留学期間は1年間。
毎日のように会っていた二人には遠く長い1年となるが、
俺に否定するだけの理由は無い。
内心は行って欲しくない、という気持ちでいっぱいだったが・・・。

出発は、とある2月の平日だった。
成田空港近くのホテルで前泊し、翌朝6時頃の便。
仕事を休めなかった俺は見送りできなかったが、
出発前の夜、仕事後にあえて連絡せず
バイクで彼女の泊まるホテルを訪ねた。
驚きながらも喜びを隠せない彼女の顔が嬉しかった。
そして深夜までベッドの中で二人で過ごした。
「行きたくなくなるから見送りはしなくていいよ」
という彼女の言葉もあってホテルでお別れ。
ホテル玄関で彼女をぎゅっと抱きしめた後、
刺さるような寒さの中、高速を深夜ひた走る。
家に着いたのは夜中の3時頃だった。
そして彼女は旅立った。

ドイツへ行った彼女は、とにかく頻繁に手紙をくれた。
当時は二人ともパソコンを持っていなかった。
通信手段は手紙か電話しかなかったのだ。
電話は一応社会人である俺からかけることが多かった。
月に数回話すだけでも電話料金は平均2〜3万/月もかかった。

彼女は手紙や電話で「会いたい」を繰り返すが、
ドイツはさすがに遠かった。
バイクで行ける所なら何日かけてでも行ったんだが・・・。
島国ニッポンを恨めしく思った。

金も無かった。
バイク、カメラのローンに、家賃、生活費、そして国際電話。
貯金もほとんどゼロに近い俺には、
飛行機のチケットを買う余裕は無かった。
いや、買おうと思えばそんなものはいくらでも買えるのに
超利己主義な俺はそれをしなかった。
彼女と自分の趣味を天秤にかけて、趣味を取るような男だったのだ。

夏が訪れて、1週間の休暇を得た俺は、
ドイツではなくバイクで北海道を目指すことを選んだ。
エアチケット代を惜しむ俺は
テントやコンロ、シュラフなどのキャンプ道具や
レインウエアやキャリアなどのツーリング用の装備には
金を注ぎ込んだ。
今思うとなんて奴だ・・・と我ながら思う。

しかし彼女はそんな俺に
「気をつけて行ってきてね」
と言った。

結局ツーリングは台風の影響もあり岩手県で引き返してきた。
彼女の実家周辺を散策してみたり、そこから手紙を書いたりした。
そんなことで彼女への申し訳をしているつもりだったのか…。
ツーリングは終始雨に追われる散々なものだったが、
気ままな旅をした満足感に1人で浸っていたのだった。

そして彼女に会えないまま半年以上が過ぎ、秋が訪れた。
10月。お兄さんの結婚式のため彼女が一時帰国する事になった。
帰国後、真っ先に俺の家へ来てくれる彼女。
3日間という短い日本滞在の間、式以外の時間は
ほとんど俺と過ごす彼女。
半年と言う時間を埋めるにはあまりに短い時間だったが、
お互いの想いを確かめ合う幸せな時間だった。
あっと言う間に3日間は過ぎ、彼女は再びドイツへ旅だった。

彼女は心底俺に愛を注ぎ込んでくれていたと思う。
全身で愛情を表現し、俺への思いを最優先して行動する。
そんな彼女に対して俺はどれだけの愛情を注ぐことができていたのだろうか。

再び手紙と電話での関係が続いた。
しかし彼女の心境に微妙な変化が起きていたことに俺は気づくことすら出来なかった。
そして、その時は訪れた。

年末も差し迫ったある夜にかかってきた彼女からの電話。
「○○に話さなきゃならないことがあるの」
それまでの明るい彼女の声色とは明らかに異なる
深刻な様子に急速に不安を感じる俺。
俺「な、なに…?どうしたの?」
彼女「あのね……、私と別れて下さい」

それまで彼女の関係に甘んじていた俺には
まさに急転直下。晴天の霹靂。寝耳に水。
真っ白になる頭で彼女の告白を聞く。
ドイツにいる日本人留学生で好きな人ができた、と語る彼女。
「その人と付き合う前に○○にはちゃんと話しないと、と思って…。」
「ごめんね、ホントにごめん……。」
泣きながら謝る彼女へ俺は
「な、なんで?」「ちょっと待って…」
などとうろたえるばかり。
「○○と過ごした3年はすごく楽しかった…。ありがとう。」
という言葉を最後に呆然としたまま切れた電話。
静まり返る狭いワンルームで半ば思考停止したまま
そして涙も出ないまま眠る事も出来ず夜は明けた。

次の日は会社の忘年会だった。
仕事はもちろん忘年会中も、まるで心と身体が別々になったような
不安定な状態で何をやっているのかもよく分からなかった。
夕べの電話は本当にあったことなのか?などと現実逃避までし始める始末。
忘年会が終わり、同僚のごろ〜と家路に着く途中、
なぜか自分の部屋に帰るのが恐ろしくなり、
ごろ〜を誘い行きつけである池袋の焼き鳥屋へ入った。

そこでごろ〜に対し、最初は強がって
「昨日彼女と別れてさ〜」
などと軽い態度を装っていたのだが、話をしている内に
今ごろになって急にその別れ話が現実味を帯びてきて
…嗚咽した。
ごろ〜の目をはばかることなくオシボリを目に押し当てて泣いた。
ごろ〜は黙って俺に付き合ってくれた。

彼女を失ったという喪失感と
自分のしてきた愚かな行動に今更ながら気づき、
こみ上げるものに耐えられなくなってしまった。

彼女をおいて一人バイクで目的も無く走り回る俺
ドイツへ行く彼女の見送りよりも仕事を優先させる俺
ドイツへ行くよりもツーリングを選ぶ俺
一時帰国の時も仕事を理由に空港への出迎えもしない俺

思い返すこと全てが後悔のタネばかりだった。

俺は彼女の俺への気持ちに甘えていたのだ。
全て、こうした方がいいだろうな・・・と少しは思うのだが、
自分の欲望や周囲の状況に負けていたと思う。
当時は彼女に対するごく当たり前の気遣いや配慮に全く欠けていた、と思う。

俺は彼女の浮気を責めるよりも、激しい自責の念にかられた。

とにかく彼女に謝りたくて(あわよくばヨリを戻したいとも考えてたと思う)
カッコ悪いことに翌日、翌々日と彼女へ電話をするが、
ホームステイ先のホストファミリーが取り次いでくれない。
そうして漫然とした日が過ぎるうちに彼女から1通の手紙が届いた。
それは俺への謝罪と、電話で言えなかったこれまでの想いが書かれたものだった。

その手紙は大体こんな内容だったと思う。
「この間は本当にごめんなさい。○○には本当に申し訳無いと思っています。
○○と過ごした3年間は本当に幸せでした。優しい○○と付き合う事ができて
幸せだったと思います。私にとって○○はとても大事な存在でした。
(中略)
でも私は○○にどう思われているのかいつも不安だった…。
いつも私の言うことには反対しない○○。それは○○のいい所ではあるけど、
私は○○ともっとケンカがしたかった。ケンカして本音を言い合いたかった。
そんなことは今更ただの言い訳にしかならないよね。本当にごめんなさい。」

確かに俺は彼女との言い合いを意図的に避けていた。
ケンカして仲が悪くなるのを恐れていたのだと思う。
今にして思うとなんて青臭い発想だったのだろう…。
彼女と付き合っているという事実に満足し、彼女を人として認めていないも同然だった。
3つ年下の彼女に対し、いい歳した俺はいったい何をしていたのか…。

手紙を読んだ俺は彼女と元に戻ることはありえないことを悟った。
彼女との想い出は自分の宝物として胸に刻み、新たな気持ちで
次のステップへすすまなければならないと思った。
彼女への想いをまだ少し引きずりながらも…。

そしてそれから数ヶ月経った春のある日。
突然彼女から電話があった。
彼女「久しぶり…、元気? なんて私が聞く権利ないよね…。」
俺「…久しぶりだね。元気にしてるよ。」
俺「あの時は相当ヘコんだけど今はだいぶ回復したつもり。
  そうか、もう日本に帰ってきてるんだね。」
彼女「うん。」
彼女「あのね、○○にこんなこと言うのも何なんだけど、
  お兄ちゃんの式の時に預けてた服を返してもらいたいな…と思って…。」

そう、秋に帰国した際に、新調した結婚式用のスーツを
俺の家のクローゼットに置いたままだったのだ。
一瞬、ヨリを戻せるかと想像した俺の期待はもろくも崩れ去った。
とりあえず外で会う約束をし、その日を待つ俺。
別れてからは気持ちを切り替えようとしつつも、
やはり吹っ切れずにいる気持ちもあり、
彼女と会える日を密かに心待ちにする俺。

そして当日。
借りたクルマで彼女を拾い、服を返した後食事をすることに。
「食事でも…」
と言い出したのは彼女だった。

別れてから自分なりに色々と考えたつもりの俺は、
とにかく彼女と話をしたかったので
時間稼ぎも兼ねて上野からわざわざお台場まで行くことを提案したのだった。

他愛もない話をしつつ、レインボーブリッジへ差しかかった時、
彼女の携帯が鳴った。「ごめん」と断わりつつ電話に出る彼女。

彼女「ごめん。いま人と会ってて話せないの」
彼女「またあとでかけなおすから…。」

電話を切った後、申し訳なさそうにする彼女。
俺「あ、今の彼氏?」
彼女「…うん。ごめんね。私って最低だよね…。ホントごめん」

謝る彼女に苦笑いしつつ、「気にしなくていいよ」と言う俺。
僅かな期待を砕かれ、
内心は穏やかではないけど平静を装う。

そしてお台場のDECKSで食事をし、海浜公園を二人で歩く。
かつて付き合っていた頃何度か繰り返したコースだ。
そして、桟橋に腰掛けてしばらくの沈黙の後、彼女は言った。

彼女「私ね。○○と別れたこと、少し後悔してるの…。」
俺「?!」
彼女「こんなこと言ってごめん! 実は今の彼とちょっとうまく行ってなくて…。」
彼女「ごめん気にしないで…」

「気にするっつーの!」とは言えない俺は愛想笑いしかできなかった。

そして夕方になり、クルマに乗りこんだ俺達は、
再びレインボーブリッジを越えて帰路へ着く。

上辺だけの会話をしつつ時間だけが過ぎる中、
浜離宮を過ぎた辺りで俺は賭けに出た。

俺「あのさ、俺で良かったら話聞くよ…。」
彼女「え?」
俺「いや、話しにくいのはもちろん承知してるけど、
  少なからず△△(彼女)のこと分かってるつもりだし…。」
彼女「……」
俺「俺、△△にはホントなにもしてあげられなかったから
  もう、元に戻れないのは分かってるけど何か力になれることがあれば言ってよ」
なんという苦しい強がり…。
しかしそれは彼女の心のどこかに触れたらしい。
彼女「……○○の部屋に行きたい…。」
あまつさえも彼女とのヨリを戻す事を未だ妄想していた俺には
それを断わる筋書きは考えられなかった。

部屋に着き、
とりあえず、付き合ってた頃はしたこともないお茶を出したりしながらも
会話をする二人。微妙な緊張感が漂う。

彼女「○○の部屋は変わらないね。あ、カメラの道具が増えてる…。」
彼女「あ…、私のヘルメット…。」
そう、免許取得後1年に満たないのに二人でディ○ニーランドに行こう!と
ブクロのハンズで買った半キャップ。
恥ずかしい話だが、ハンズから幕張へ出発した直後、
多分5kmにも満たない護国寺の交差点で信号待ちしてる時に、
挙動に不振さを感じたのか交番のお巡りさんが近寄ってきて「ハイ、免許見せて」と
交番にキャプチャーされ、青キップ…。
その時以来使っていないヘルメットを大事にとっておいたのだった。

彼女「バイク…まだ乗ってるんだ…」
俺「うん。バイク乗ってるとイヤな事も忘れて運転というか操作にのめりこめるんだよね。」
俺「あ…、ゴメン。別に悪気は無いんだけど…」
彼女「…。」
俺「俺、△△とは色々あったけど、△△のこと恨んでなんかいないよ。
  むしろ色んなことに気づかせてくれた△△には感謝してる。」
これは本心だった。
今、彼女が苦しんでいるのならそれを助ける方法は無いかと
真剣に考えていた。

彼女「なんで○○はそんなに優しいの…? 
  私、○○に非道いことしたのに・・・」
うつむいて肩を震わせる彼女に俺ができることは、
後ろから優しく抱きしめることしかなかった…。

そして…、泣きながら、時折抵抗する彼女を俺は抱いたのでした。

行為の後、彼女は言った。
「ごめん…。私、○○の優しさに甘えてるよね。」
「もう連絡しないから…。」
身支度を整え、帰る準備をする彼女。

俺は…、なんと言っていいのか分からなかった…。
「いいから、何かあったら連絡しろよ」→キレイ事にしか聞こえない
「また俺と付き合ってくれ」→負い目を負っている彼女につけこむ気か?
貧弱な思考回路をフル回転するも、結論には辿りつけず、
彼女はやや後ろめたそうな表情をしながら部屋を出ていった…。

そして…、彼女とはそれっきりとなった。
いや、正確にはその後何度か連絡を取り、会うこともあったが、
お互いに深い会話をするような関係にはなり得なかった。

その後は、時とともに連絡を取ることも無くなって行った。

サークルの後輩から聞いた話では、
結局その時の彼氏とは別れ、大学院へと進んだらしい。
そして以前は真面目一辺倒な性格だった彼女は、
その後フリーターとなり、まぁボチボチやっているらしいが、
俺との関係のせいか、サークルの集まりには一切顔を出さないようだ。

俺はといえば、その後数人の女性と付き合う機会に恵まれ、
今現在は結婚して娘が一人。二人目の子供が夏に生まれる。

俺にとってこの最初の彼女との付き合いは、
本当にいい想い出、いい経験となったと思う。
彼女と別れたことにより様々なことを考え、
性別に関わらず人との付き合い方を改める良い機会となったと思う。

まあ、今でも嫁には
「自分勝手すぎ!」とか罵られてますが…。



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