− 815 さんの恋愛話 −
| 去年の今頃、首都高速にて。 ZRX400の女性(知らないひと)の後ろをまったり走っていると 渋滞に突入。ZRXもおれも徐々に減速。 車の間には通り抜けるようなスペースもない。先は長そうだ。 並んで停まって何か彼女に話しかけようかなどと考えつつ 左コーナーの中程で左足をついた。 ZRXの女性は、おれの少し先で左足を出した。 ところで、首都高はRのきついコーナーにバンクがついてる。 おれが停車した付近はかなりの左下がり。 彼女の左足がスカッと空を切った。 ZRXがニュートン先生の教えに従って左側に勢いよく倒れた。 乗っていた女性は左側に転がった。 心の中で「やった!」と喝采してしまった。お恥ずかしながら。 だって、こんな自然にバイク女とお近づきになれるなんて。 しかも展開上、おれは彼女にかなり感謝されるに違いないんだよ。 はやる気持ちを抑えて、とりあえず自分のバイクのエンジンを切り、 ギアをローに入れてサイドスタンドを立て、メットを脱いで彼女の ところへ。大丈夫ですかー、とね。 メットを脱いだのはさ、だってこれは出会いだからね。 ちゃんと顔を見せなきゃいけないでしょ。 「大丈夫ですかー」と駆け寄ってキルスイッチをぱちん。 「えっ、ええ」と小さな声の返事。 彼女の方へ回り込みながら顔を確認しつつ、 バイクを起こして再度スタンドを立てた。 彼女、黒目が大きくて目尻はインド人のようにきりっとしてて 目フェチなおれの好みだった。メットを脱ぐと、たぶんかなり 美しいんじゃなかろうかと思える。 おーおーお おーお!(i wana hear it loud)と、心の中で雄叫びをあげてしまいました。 渋滞といっても、きわめてゆっくりとだけど車は一応流れている。 すぐ後ろの車はバイクがこけるところを見てただろうから 理解を示してくれるに違いないが、一車線つぶしてしまったまま ぐずぐずしていたら、他の車がクラクションを鳴らすだろう。 彼女はこけたばかりで精神状態が平穏でないだろうし、 クラクションの追い打ちは阻止したい。彼女がめっためたに たたきのめされてしまったら、せっかくの出会いが台無しだ。 後ろをちらっと見ると、車は右ウインカーを出して、もう1つの 車線に入れてもらおうとしていた。 車線のイン側(左側)には、エスケープゾーンてほどじゃないが、 ちょっとした路肩というか、カベと白線のあいだにふくらみがあったので、 「怪我ないのね。じゃ、ちょっとそっちへ行ってて」と顎をしゃくった。 いきなり丁寧語を止めたのは、この方が手っ取り早く仲良くなれるだろうと 思ったからだ。丁寧語からはいると、ため口の関係になるまでがもどかしくって どうも性に合わない。 まず、動かし易い自分のバイクを端に寄せた。 コッチの方が車線の中央寄りにあったからってのもある。 「ちょっと待ってて」と声を掛け(注)、小走りでZRX のところへ行った。 注:このときすでにおれの顔はZRXの方を向いている。 彼女の顔は見ない。その方が危地にあってテキパキ行動できているという 好印象を与えるのではなかろうかと思ってのこと。また、自分のバイクだけを 安全なところに移してのんびりしているのでは印象悪かろうからね。 ギアをニュートラルに入れようとしたら、 あらまぁ、ステップが上を向いてるよ。 可倒式じゃなくてステップ換えてるのね。 クラッチレバーもぐんにゃり。 重力の法則通りに倒れたからそりゃあそこそこ激しいコケかただったけどね、 とはいえ限りなく立ちゴケに近いのに、それにしてはダメージ大きいように思う。 既に何度かこけていたんじゃなかろーかって感じもする。 それはともかくカチカチカチっとニュートラルを出して ZRXも端によせた。 「ほんとに大丈夫? こーいうときって興奮してて痛みを感じづらいけど、 じつはねんざしてたなんてことも」 「ちょっと痛いけど大丈夫。です。・・・あの、ごめんなさい。ありがとうございます」 これでよーやく彼女と会話ができる・・・。いや、ダメだ。 おれと彼女は横に並んでおり、速度は遅いけどすぐ前すれすれを 車の列が通り過ぎていく。 ここは落ち着かない。それ以前に、安全じゃぁない。 「ステップがひん曲がってるけど、どう? 乗れそう?」 「・・・・」 何かぼそぼそと答えたようだったけど聞き取れなかった。 彼女は沈鬱とした表情。さて、どーしたものか。 このまま並んで話していてもラチがあかないし、仲良くなるのも無理っぽい。 いくつかの選択肢が思い浮かんだ。 1.じゃ、気を付けてねーとサヨナラする。(せっかくの出会いを捨てるなんてありエン) 2.先へ進んでJAFを呼ぶからそこで待っててねーとサヨナラする。(同上) 3.後ろ乗りなよといって、とりあえずZRXを置き去りにする。(うーむ) 4.おれがZRX,彼女がおれのバイクで、最寄りの出口から降りる。(コカされたらヤダな) 5.ケータイから2ちゃんねるに書き込んで相談する。(スレが盛り上がりそうだ) 6.ワンボックスカーを止めて、彼女とバイクを乗せてもらう。(このエサはおれのものだ) 顔を見たいんだけど、彼女はメットをかぶったままだ。 そりゃそ−だろうね。壁際に立って、横には痛んだバイクがあって、 目の前は車が通ってて落ち着けるような領土もない。 こういうとき自分が無傷(?)だと、なおのこと傷ついたバイクに 申し訳なくってさ、ほんのちょっとしたミスでこんなことになるなんて と自分を責めてしまうんだよね。 ま、そーいうことなのか違うのか分からないけどさ、ともかく彼女は メットをかぶったまま呆然自失の状態。 はやいとこ何かを提案しなきゃいかん。 とぎれとぎれの会話で、こんなとこに突っ立ってちゃ、 おれの存在意義がなかろーもん。 「今日はさ、これから何か用があったの?」 「ううん。友達の家で遊んで帰るところ・・・です」 「じゃあ、もう特に何もないんだよね。あとは今の状態が何とかなれば」 「ええ」 「大型免許ある?」 「・・・いいえ」 「ところでZRXでは、跨って足はついてた?」 「え?」 「地面への足つき、どーだったの」 「あぁ。あのぅ、腰をずらして」 「おっけ。なら平気だ」とにかく行動すべきだ。 そーすりゃ、ちょっとは頼もしくみえるだろう。 815はそう考えた。 「ならさ、おれのバイク。ZRXより足つき悪いけど、乗れるよね」 「えぇ?」 「足つくときは尻をずらせばいいはなしだし。大型っていっても なにも変わらないから大丈夫。あ、クラッチは400より重いから 指は3本か4本掛けた方がいいだろうけど」 >4.おれがZRX,彼女がおれのバイクで、最寄りの出口から降りる。(コカされたらヤダな) そう。815が選択したのはコレだった。 このまま道路の端につったってたら、「どーしたんですか?」と 通りかかった親切なバイク乗りが声をかけてきてくださいますだろうから、 とりあえずこの場は移動すべきだと彼は考えたのだった。 彼女は革のズボンとパッド入りのジャケット。見た感じは活動的で 気さくな印象。それなのに鬱っぽい今の状態からは、動転したまま であることが伺える。そんな彼女に自分のバイクを任せるというのは 815の主観においてはかなりの賭けでもあった。 とはいえ下心云々はギャグとしておいといて、人道的にもションボリ さんをおいて独りで立ち去るわけにもいかないし、この状況から 救おう(ってのもおこがましい表現だが)と思ったら、これ以外の 選択肢が考えつかなかったというのも本当だ。 「とりあえず下道におりよう」といって815はZRXに跨り、 切るスイッチを戻してセルをおした。 きゅるきゅるきゅる・・・きゅるきゅるきゅる・・・。 彼女が不安そうに見つめている。 きゅるきゅるきゅる・・・ぶすん、どっどっど。 「さぁ」とおれのバイクの方を腕で指し示した。 彼女はおれのバイクに足を回し、よっこいしょってな感じで右足出しになって かちかちかちっとニュートラルを探す。それからエンジンを掛けてまた よっこいしょと左足立ちになる。 よっこいしょの尻ずらしはほんのコンマ何秒かなんだろうけど、バイクの 重心が傾くなかで両足とも地面を離れている瞬間というのはひどく不安感を かき立てる。たぶん出口をおりるまで極低速だろうし、彼女は慣れないバイクで ふらふらしたりするんだろう。815がバイク交換を思いついたのは、以前ZRX1100 に乗っていたという事実も後押ししたのだろう。ステップが曲がっていたって 自分はちゃんと操ることくらいできる。そういう自信が影にはあったようだ。 しかし、すでにこの選択を後悔していた。 慣れないバイクで渋滞の中を走るのだから、こけることは十分あり得る。 一層落ち込むんだ彼女の悲しそうな瞳は容易に想像できる。 そのときはやはり慰めてあげて、たいしたことないよというふうを装うべきだろう。 彼女に自分のバイクを勧めたのは自分なのだから、そのくらい自己責任だ。 そんな事態を想像するだけで非人間的のようにも感じたが、思考がマイナス方向に かっちりハマってしまい、抜け出せそうもなかった。 で、815は、なんだか一生懸命書き込んでも話が全く進まなくって、 それは自分が悪いんだけど、なんでだろうね。 ごめん。ぱっとけりをつける。 ・首都高を降りて、彼女を落ち着かせるために歩道に座り、缶ジュース。 ・過去自分がコケタ話しをオーバーに語り、バイクのキズはしばらくつらいけど やがてイイ想い出になるよ、と慰める。結構うちとけてやや仲良くなる。 ・彼女のバイク屋への道すがら、ついにやった。コケてくださりました。 ・気まずくならないようへらへらしてたけど、おれの顔は引きつってたかもしれない。 ・彼女のバイク屋は、おれのアパートの近所(3kmくらい)だった。 ・結局、名前も聞かず別れた。恩着せがましく近寄るのは嫌だし、 おれのバイクをコカしたという負い目が彼女にはあるからね。 対等な関係じゃないところで「また会おうよ」なんて言えるわけがない。 ・縁があったら会えるだろう、ってことで終わり。どうやら縁はないようだ。 |