ダム決壊(博士号取得その後)


  ダムは大型人工物の代表例である。強度計算や設計基準に基づいて設計され、見るからに頑丈そうなダムであるが、世界にダムの決壊例は実は数十とある。
  その数十の中に入らない、小さな貯水池用ダムの決壊例であるが、米国のアイダホ州アイダホフォールズ市北方で約20年前に起きたダム決壊例を取り上げたい。このダムは決壊侍完成直後で本格供用前の時点にあり、決壊は大雨のさなかに起こった。当時この貯水池に釣り人が3人居り、そのうち2人は付近の大木の上に非難して命を取り止めたが、逃げ遅れた一名が落命している。そして生き残った者の証言によると、決壊直前に貯水池の液面が大きく揺動していたそうである。
  人命にかかる事故であったため、調査団が組織され、まず手抜き工事が疑われたが、結局そのような痕跡はなく、縮小モデルによる再現実験も成されたが再現できず、結局原因不明のまま調査はうち切られ、貯水池は廃止になった。以上は私が十年ほど前にアイダホフォールズ市に滞在していたときにこの地域の公務員から聞いた話である。
  私は帰国して後に、業務上の関連で液面流れの安定性の研究を行って博士号を取得したが、そのとき解析対象としたのが、容器内対流下自由液面流れの安定性であった。当時はボイラーの設計改良のために行ったのだが、この時に私が解析したのが、東京大学工学部のM教授が発見した「強制対流下の液面自励揺動現象」であった。金魚鉢や風呂の浴槽のように容器内にあって液面を有する流体に動力で強制対流を与えると、外から揺すらなくても液面が左右に揺動し、振幅はどんどん大きくなって液体が容器から飛び出すほどになるのである。
  この時の特徴として、液面に液面をせり上がる形で非線形波ができる。そしてこの波は反射しない。私は数値解析を多面的に用いることにより、この非線形波が液体を持ち上げることにより揺動が成長することを証明して発生条件も与えたが、小規模の貯水池のように斜面をせき止めて造るダム内液面の形はまさにこの発生条件を満たしているのである。そして、再現実験では発生しなかったのは、縮小モデルでは相対的に摩擦が大きすぎて非線形波の持ち上げるエネルギーが摩擦により散逸されるエネルギーに勝てないためだと思われる。このことを私はまだ、当時私にこの事件を教えてくれた人々や関係者たちに伝達していないが、機会があったら提案してみたい。(以上)

<参考>
1、物理成分境界適合座標法の開発 計算力学IV 養賢堂 1995 PP.68-90
2,"Development of PCBFC Method for the Analysis of Free Surface Flow" NONLINEAR MATHEMATICAL PROBLEMS IN INDUSTRY I, GAKTO International, 1993, PP.1-16
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