(がつ)

()くることかなしとおもふ山峡(やまさや)ははだら雪ふり月(ゆきふりつき)照り(てり)にけり

(秦野市弘法山 山頂)

 

()負う(おう)(むぎ)ふみをる農婦(のうふ)あり、富士(ほう)へさくさくふみ()り(烈風(れっぷう)

 

○いま、つきをへた(かね)(きり)のなかでゆれてゐる、(そら)すこしあをい

(しょう)()15(ねん)月作(がつさく)。その祈り(いのり)弘法山(こうぼうやま)夕暮(ゆうぐれ)(58(さい)

 

       

丹沢雪景色 秦野盆地より望む

 

 

椿(つばき)(はな)

          

2005.3.16 撮影 秦野市三嶽神社  

    

(わたし)子守(こもり)()(ちゅう)1)から(みち)ばたの(くさ)(うえ)におろされた。ねんねこに(つつ)まれて()(もつ)(なに)かのように。それでも(たお)れぬやうに、とうしろの椿(つばき)()()かたに()せかけておかれたのである。

(わたし)(となり)にも(わたし)(おな)じやうな()きた荷物(にもつ)(ひと)つ、()(ぱっ)椿(つばき)()にもたせてある。

二人(ふたり)子守(こもり)は、荷物(にもつ)(ほう)はとうに忘れ(わす)でもして仕舞(しまい)つたやうに、二三(けん)(ちゅう)2)さきの往還(おうかん)(ちゅう)3)に出て()赤い(あか)お手玉(てだま)をとつている。

私達(わたしたち)二つ(ふた)荷物(にもつ)は、二人(ふたり)子守(こもり)のとつてゐる(あか)いお()(だま)をみてゐる。お()(だま)二三尺(にさんじゃく)(ちゅう)4)(うえ)(そら)二段(にだん)になったり、交叉(こうさ)したり、(たか)(ひく)く、(ぬま)(そこ)から水沫(みなわ)(みなわ)がうきあがるやうに()げあげられる。

ほたりと(おと)がして、(わたし)直ぐ()(まえ)におちた(あか)いものがある。お()(だま)がこんなところにおちて()たのかと(おも)ったら、それは椿(つばき)(はな)だつた。(わたし)は、ねんねこの(なか)()をむづむづ(うご)かしたが、とても()(とど)くわけのものでない。(あま)()をもがいたので、とうとう(まえ)にのめって、(つめ)たい椿(つばき)(はな)(うえ)(かお)うつ伏せ()にする。()かうと思った(おも)が、椿(つばき)(はな)(くち)がふさがれて(こえ)が出ない。が、(おも)()って(ぜん)(しん)(ちから)をこめていけむ(注5)とわつといふ(こえ)(ようや)()る。とうとう(ママ(まま)泣けた()思う(おも)嬉しく(うれ)なって()をもがく。ころりと一轉(いってん)して仰向け(あおむ)にまろげる((ちゅう)6)。(おも)ひきり(おお)きな(こえ)でわあつと()いてやる。

泣きながら()(うえ)見る()と、赤い(あか)椿(つばき)(はな)()ぱい(あお)()かげから(わたし)(ほう)覗いて(のぞ)ゐる。(わたし)(いっ)(そう)(おお)きな(こえ)でわあわあと()けるだけ泣く。

 

(ちゅう)1 ()() ()夕暮(ゆうぐれ)書き癖(かきくせ)。「()」と()いてもいる。

(ちゅう)2 二三間(にさんけん)() 1間(1けん)1.8メートル(1.8めーとる)

(ちゅう)3 往還(おうかん)() 街道(かいどう)往来(おうらい)

(ちゅう)4 二三尺(にさんじゃく)() 一尺(いっしゃく)30.3センチメートル(30.3せんちめーとる)

(ちゅう)5 いけむー いきむの(なまり)。「息む(いきむ)(いき)をこめ(はら)(ちから)()れる。

(ちゅう)6 まろげるー (ころ)げる

()(あさ)青く(あおく)描く(かく)()少年(しょうねん)(はる)

出典(しゅってん) 郷土(きょうど)文学(ぶんがく)叢書(そうしょ) 第15巻(だい15かん)

前田(まえだ)夕暮(ゆうぐれ) ふるさとのうた(うえ)」〜詩歌(しいか)歳時記(さいじき) 生い立ち(おいたち)()〜 村岡(むらおか)嘉子(よしこ)編著(へんちょ) 11p

発行(はっこう) 秦野(はだの)市立(しりつ)図書館(としょかん)

藪椿(ヤブツバキ)1   藪椿(やぶつばき)2

 

前田夕暮歌碑めぐり 前田夕暮の散文

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