(がつ)

 

すかんぼの酸味(さんみ)(した)(かん)()(はる)()()()(おも)()いづるとき陰影(いんえい)

 

菜の花相模(さがみ)()(くに)(かね)のなるあしたを(ゆめ)はゆきてかえりぬ

(うすひ()昭和(しょうわ)15年(15ねん)2月作(2がつさく)

 

   

2006.421 撮影 秦野市大倉

 

 

 

(うなぎ)()

 

(にわ)(すみ)(たば)()苗場(なえば)から、あたたかく(かすみ)があがって、(あさ)(そら)(はる)はうつすらと()をあいてゐる。

 苗場(なえば)(やわ)らかい(つち)から()えた煙草(たばこ)(なえ)は、どれもこれもさしわたし一寸(いっすん)(ほど)の、楕円(だえん)(あつ)()をつけていかにも()(ひかり)(あま)さうに()つて、心持(こころもち)汗ばんで(あせ)ゐる()

 (わたし)手頃(てごろ)()(だけ)(ぼう)をもつて()て、苗場(なえば)(はた)ひの(わら)の上からずぶりと突き出す(つきだす)と、金色(こんじき)(ひかり)つた(あか)(おお)きな蚯蚓(みみず)(みみず)が、すつと(あたま)をあらはす、二尺(にしゃく)ほどの(なが)さにのびて、煙草(たばこ)(なえ)にぬるぬると(まつわ)(まつは)りながら()()すのを、(ゆび)さきでちよつとつまんで、(ざる)(ざる)のなかに()()む。(ざる)(ざる)のなかに堆肥(たいひ)(すこ)()れてある。かうして十疋(じゅっぴき)ほど()()すと、それをもつて(わたし)田圃(たんぼ)行く()()(あぜ)には(うなぎ)()がある。(うえ)()から(しも)()(あな)がぬけて、(みず)がごぼごぼと(おと)(たの)しさうにたててゐる。()(くろ)(くろ)には、(つば)()(つばな)がほほけて、きんぽうげや(きつね)牡丹(ぼたん)()いろゐ金平(こんぺい)(とう)のやうな(はな)をつけてゐる。すかんぼも(あか)()をだして、(かぜ)()かれてゐる。

 (わたし)は、それらの(つめ)たい(くさ)(うえ)(こし)をおろして、(ざる)のなかからとり()した蚯蚓(みみず)三四度(さんよんど)(あぜ)(つよ)(たた)きつけ(すこ)(よわ)つたとところを(はり)のついた(ほそ)(あさ)(なわ)にとほして、(うなぎ)()のなかに(しず)かにながし()()のである。そして、(あさ)(なわ)(はし)(ゆび)にからませて、()ごたへをまつてゐる。

 (あたま)をあげて見渡す(みわた)と、田圃(たんぼ)のあちこちで、(しろ)(ほお)かぶりした(ひと)が、ぼしやり、ぼちやりと水音(みずおと)をたてて()()(かえ)してゐる。()(あぜ)にはところ、どころ()(はな)()いてゐる。乾田(かんでん)には大根(だいこん)(はな)咲き(さき)蓮華(れんげ)(そう)(べに)(むらさき)盛上(もりあ)つてゐる。

 (わたし)はつひうとうとと眠く(ねむ)なる。()がちろりと()つて、(あか)るい(すい)(こう)が、(かお)反射(はんしゃ)する。(どろ)くさい(におい)があたたかくふところに這入(はいい)つてくる。

 突然(とつぜん)釣糸(つりいと)をからんでゐた(ゆび)さきが、きと引締(ひきしめ)つてぐつと()かれる。はつと(おも)つて(いと)両手(りょうて)()()()りあげた(とき)三尺(さんじゃく)にあまる銀色(ぎんいろ)太い(ふと)(うなぎ)が、溌剌(はつらつ)として、日光(にっこう)のなかで躍る(おど)

 (わたし)は、やあといふ歓聲(かんせい)をあげて、()(あぜ)往還(おうかん)(ほう)へ、(うなぎ)をさげたまま(つき)走る(はしる)

 

(ちゅう)1 (かや)(はな)()()(がや)(ちがや)の(はな)イネ科(いねか)多年(たねん)(そう)(わか)()()野焼き(のやき)(あと)によく()える。(わか)()甘味(あまみ)がある。それが()けて(ぎん)(はくしょく)色に光る(ひか)

(ちゅう)2 きんぽうげー金鳳花(きんぽうげ)(はな))、(うま)脚形(あしけい)(はな)2センチ(2せんち)(ほど)黄色(きいろ)()(べん)()()(うま)(ひづめ)(あと)()ている。「(きつね)牡丹(ぼたん)」も(おな)()有毒(ゆうどく)(みせ)同じ(おな)

(ちゅう)3 すかんぼーすかんぽに(おな)じ。夕暮(ゆうぐれ)はすかんぼと()くことが(おお)い。

 (けむ)れる田園(でんえん)』「(はる)

出典(しゅってん) 郷土(きょうど)文学(ぶんがく)叢書(そうしょ) 第15巻(だい15かん)

前田(まえだ)夕暮(ゆうぐれ) ふるさとのうた(うえ)」〜詩歌(しいか)歳時記(さいじき) 生い立ち(おいたち)()〜 村岡(むらおか)嘉子(よしこ)編著(へんちょ) 30p

発行(はっこう) 秦野(はだの)市立(しりつ)図書館(としょかん)

鰻(うなぎ) 

 

前田夕暮歌碑めぐり 前田夕暮の散文

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