5月
○大凧は五月の麥風にあがれりふるさとの大凧の唸りりゆうりょうたり
(夕暮歌集)「生まれし村」昭和24年作

2007年5月5日子どもの日 撮影 秦野市立中央運動公園
○我を生みし母にはあらぬ母親の敷きてくれにし夜の白き床
(深林)(ふるさとの歌)大正4年5月作
注1 母にはあらぬ母親―継母こずゑ。父久治はイセの没後再婚した。
畦草に眠る
頰かぶりした作男は、私を荷車の上のいちこ(藁で編んだ畚(もっこ)の類)のなかに入れて、青麥畠のなかの野路を、小唄をうたひながらぶらりぶらりと暢氣(ようき)さうに行く。
私は車の上から青い一面の穂麥畠をぼんやり見ながら、あたたかいのでつひうつとりと居眠りをしさうになる。車の輪がはらはらと麥の穂をすつて行く。雲雀が空で、遠い遠い空でちいちく、ちいちくと鳴いてゐる。私は、とうとう我慢しきれなくなつて、こくり、こくりと居睡りをはじめる。と、後向きに乗ってゐたので、居睡りするたびに體が少しづつ下の方へずりさがつて行く。作男が車の梶棒を少しあげたかと思ふと、私は、いちこごと軟かい畦草の上に、ころりところげおちて仕舞ふ。はつとして私は眼を開いたが、どこも痛くなかつたので、そのまま蒲公英の花の上に打臥せになつてこころもちよく寝込んで仕舞ふ。

2006.4.21 撮影 秦野市大倉
『烟れる田園』「春」
出典 郷土文学叢書 第15巻
「前田夕暮 ふるさとのうた上」〜詩歌歳時記 生い立ちの記〜 村岡嘉子編著 35p
発行 秦野市立図書館
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