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安心の記憶
多くの精神障害の根本に「不安」があるように思います。また、精神的な障害に至らなくても精神的に不安定な場合にも、やはり「不安」がまとわりついています。
繰り返しの体験
幼い子供は、親に同じ絵本を何度も読むことせがんだりします。また、同じアニメのビデオを何度も見たりします。大人にしてみれば、すでにストーリーの分かっているのに、なぜ何度も見たがるのか不思議です。
おそらく、幼い子供にとっては絵本やビデオも知的な体験ではなく感覚の楽しみであり体験なのです。 子供は、大人に「たかいたかい」をしてもらうのが大好きです。あきもせずに何度もせがみます。「たかいたかい」は身体的な体験ですが、感覚の楽しさという点では同じかもしれません。
子供の不安
子供はいろんなものを怖がります。暗闇やおばけを怖がるのはもちろんですが、台風の強風なども怖がる対象です。これらは恐怖というよりも不安なのだと思います。
「ひとりぼっち」や「おいてきぼり」も子供にとっては不安であり恐怖です。目覚めた時に母親が居ないだけ泣き出します。 また、宇宙の果て、さらに果ての果てを想像して、自分の孤独さに果てしない不安を感じたりもします。
安心な場所
子供は母親の「だっこ」や「おんぶ」が大好きです。安心できる「ぬくもり」の感覚が好きなのだと思います。また、子供は何かあると母親にしがみつき、その後ろに隠れようとします。子供にとって母親は自分を守ってくれる安全で安心な存在です。
母親だけでなく、父親や親しい大人も子供にとって安心できる場となります。子供は大人の膝の上など、大人に包まれるような場所も好きです。安全で安心できる場所だし、そのぬくもりや身体的な接触が好きなのだと思います。 普通の幼い子供は、母親や家族との安心のぬくもりを繰りかえし経験しながら成長していきます。
なまはげ
秋田の伝統的な行事に「なまはげ」があります。鬼の面をつけた異形の者たちが「悪い子はいねがー」、「泣く子はいねがー」と叫びながら突然来襲します。
幼い子供たちは怯えて泣きながら逃げまどい家族にしがみつきます。子供にとっては強力なしつけ効果があります。 ただし、この効果があるのは、おそらくは小学校低学年までです。年齢が行くにつれて知識が身につき次第に恐れなくなります。「なまはげ」の中に入っているのは近所の誰かだと分かってきます。
子供の成長
子供が「なまはげ」を恐れなくなるのは、単に知識が付いたということだけではないと思います。子供が成長して「繰り返しの安心」を求める時期を過ぎたのだと思います。逆に言えば幼い子供にとっては「繰り返しの安心」を経験することが成長のために必須なのだと思います。
精神的な安定
長じて精神的に不安定になったり問題行動を起こしたりするのは、この「繰り返しの安心」の経験が不十分なのだと思います。
また、幼い子供でも問題行動があるようでしたら、この「繰り返しの安心」を十分に経験しているかどうか疑うべきだと思います。
子供のしつけ
子供に「良いこと」と「悪いこと」を教えるのは、もちろん必要なことですが、一方で「繰り返しの安心」を与えることも必要です。しかし、これを間違える例も多くあります。
たとえば、調教師的に「しつけ」を行う母親です。幼いうちから厳しく叱りつけて教え込もうとする母親です。まわりに、それを止めるやさしい祖母などが居ればまだ良いのですが、それもない核家族などの場合、その子が精神的に不安定になるのは必定です。更に「しつけ」が虐待や暴力になると、幼い子供への影響は、はかり知れません。 また、家庭不和も幼い子供に大きい影響を与えます。子供にとって安心であるべき家庭が、不安心な場となります。子供は精神的に不安なまま成長することになり、将来的に問題が起こることにもなりかねません。
犯罪と育ち方
殺人事件など大きな犯罪をおこした人には、幼いころの家庭環境に問題があることが多いようです。不幸なことに「繰り返しの安心」を十分経験できなかった人たちです。もちろん、問題のある環境で育っても全員が犯罪者になるわけではありません。
連続幼女誘拐殺人事件(1988年) 宮崎勤(当時26歳)は4人の女児を誘拐し殺害しています。父親は地元新聞社を経営する名士ですが、彼の家族はバラバラで親密な交流はなかったようです。彼は祖父にかわいがってもらい育っていますが、事件は祖父が亡くなって間もなく発生しています。彼には統合失調症、解離性同一性障害(多重人格)などの精神鑑定が出されています。彼には生まれつき手のひらを上に向けることができない障害がありましたが、精神障害の程度を考えると子供のころに虐待があったと考える説もあるようです。 神戸連続児童殺傷事件(1997年) A少年(当時14歳)は、連続通り魔事件で女児1人を殺害し3人にけがを負わせ、その後、小学生を殺し遺体の頭部を小学校の正門に置くという猟奇的事件を起こしました。少年の家族構成は両親と弟2人の5人家族です。少年は幼時期から母親から虐待的なしつけを受けていたようです。小学校入学時期から祖母と同居しており、彼を守ってくれていたようですが、この祖母が事件の4年前に亡くなっており、そのころから異常な行動が始まったようです。 光市母子殺害事件(1999年) 少年(当時18歳)は排水検査名目で訪問した家で母子2名を殺害しています。彼には「幼少期より実父から暴力を受けたり、実父の実母に対する暴力を目の当たりにしてきたほか、中学時代に実母が自殺するなど、成育環境には同情すべきものがある」と裁判所が認めています。彼の知能指数は中程度であったが心理検査では「発達レベルは4、5歳と評価できる」とされています。 大阪教育大学付属池田小学校事件(2001年) 宅間守(当時37歳)は、1、2年生の児童8人を殺害、教員も含めた15人にけがを負わせました。彼は幼少期から父親による家庭内暴力を受けており虐待されて育ったようです。 奈良小1女児殺害事件(2004年) 小林薫(当時36歳)は、小1女児を誘拐し殺害しています。彼は、父親から激しい虐待を受けて育っており、かばってくれた母親は小4の時に亡くなっています。 秋田連続児童殺害事件(2006年) 畠山鈴香(当時33歳)は、娘(9)を川に落とし殺害。その後、近所の男児(7)を絞め殺し川に遺棄したとされています。彼女は、父親(砂利運搬会社を経営)が暴力を振るう家庭に育っています。精神鑑定では解離性健忘が認定されています。 土浦無差別殺傷事件(2008年) 金川真大(当時24歳)は、荒川沖駅で無関係な2人を殺害し、7人にけがを負わせました。彼は、家族の団欒がない家庭に育っています。「家族の雰囲気が嫌い。会話がないし、両親の雰囲気が悪い。家族全員が本音を隠していて、関係が希薄でバラバラ。子ども4人は家族がバラバラになっているのをわかっていた」と妹が証言しています。彼の家族は、両親と本人・弟・2人の妹で、父親は外務省の準キャリアで母親は専業主婦です。 秋葉原無差別殺傷事件(2008年) 加藤智大(当時25歳)は、秋葉原の歩行者天国にトラックで突っ込み、ナイフで通行人や警察官を殺傷しています。彼は、母親の虐待的なしつけを受けて育っています。 中央大学教授刺殺事件(2009年) 山本竜太(当時28歳)は、恩師の中央大学教授を大学内のトイレで襲い刺殺しています。彼の家族構成などは不明ですが、彼は子供のころから厳しい母親に多くのならいごとをさせられており、同級生と遊ぶのは禁止させられていたようです。裁判では妄想性障害と判断されています。
参考文献
「子どもの「心の病」を知る」岡田尊司 PHP新書
「子どもを叱る前に読む本」平井信義 PHP文庫 「子どもの精神科」山登敬之 筑摩書房 「お母さんはしつけをしないで」長谷川博一 草思社 「こころの本質とは何か」滝川一廣 ちくま新書 「「思春期を考える」ことについて」中井久夫 ちくま学芸文庫 「現代のエスプリ別冊 現代家族と異常性」至文堂 「改訂版 宮崎勤 精神鑑定書」瀧野隆浩 講談社+α文庫 「「少年A」この子を生んで・・・・・・」「少年A」の父母 文春文庫 「殺人者はいかに誕生したか 」長谷川博一 新潮社 MSN産経ニュース・法廷ライブ 2011.10.12 野沢 清 kiyoshi_nozawa@yahoo.co.jp |