いじめの原因

いじめ問題の浮上

80年代の中頃に、校内暴力が沈静化すると今度はいじめが社会的に問題となります。「いじめと何か」(森田洋司著、中公新書)によれば、日本でのいじめには三つの波があったようです。
第一の波
86年、東京都中野区の中野富士見中学で鹿川裕史君がいじめを苦に自殺する事件が起きました。鹿川君に対するいじめである「葬式ごっこ」に先生も参加いたことが分かり、社会に衝撃を与えた事件です。
この事件の後にいじめを発見するための教員への研修などを実施しています。
第二の波
94年、愛知県西尾市で中2の大河内清輝君が、いじめが原因で自殺しました。この事件で、再びいじめが社会問題として取り上げられました。
この時には学校への「スクールカウンセラー」の配置が行われています。
第三の波
05年の北海道滝川市の小6女子の自殺、06年の福岡県筑前町の中2男子の自殺が発生し、再びいじめは社会問題として浮上します。
この後、学校では児童会や生徒会の活動にいじめ対策を組み込む動きが増加しています。
これらのいじめ事件で気になるのは学校の隠蔽体質です。閉鎖的・官僚的で表面を取り繕う組織が多いように思います。また、そのような組織だからいじめが発生するのではないかとも思います。

いじめの普遍性

いじめは昔からあったし、しかも日本だけの問題でもありません。スウェーデンやイギリスは、いじめに熱心に取り組んでいます。
スウェーデン
82年に10〜14歳の少年3人が激しいいじめを受け自殺しています。これを契機にいじめ防止の全国キャンペーンが始まっています。
イギリス
89年に「エルトン・リポート」でいじめについての報告が発表され、学校での取り組みの必要性が勧告されています。
そして「シェフィールド・プロジェクト」でいじめに関する大規模調査が行われました。
アメリカ
99年にコロンバイン高校銃撃事件が発生ました。ギーク(オタク)の少年2人がいじめに対する復讐として起こした事件でした。
この後、「反いじめ法」が各州で制定されたようです。

コロンバイン高校銃撃事件

99年の米国コロラド州のコロンバイン高校の銃撃事件では13名が殺害されるという悲惨な結果となりました。
事件を起こしたのはギークと呼ばれる2人の少年です。ギーク(GEEK)というのはコンピュータ・オタクとも呼ばれますが、テクノロジーに興味を持つ理系の成績優秀な生徒たちです。米国の高校などではフットボール選手など体育会系の生徒たちがヒーローであり、ギークはそんな体育会系にいじめられる存在です。
犯人の少年たちは、いじめに対する復讐として事件を起こしましたが、復讐の対象はいじめた相手だけでなく学校全体でした。おそらく学校の組織、体質などにも問題があったのです。事実、学校はいじめなどなかったかのような態度を取り続けました。また、地元警察も事件での不手際を隠蔽しようとしています。地域社会全体が閉鎖的な隠蔽体質だったのかもしれません。

いじめのステップ

精神科医の中井久夫は、戦時中の小学校やヒトラーユーゲントの猿真似である大日本少年団で受けたいじめの経験を元に、いじめの過程について優れた分析を行っています。(「アリアドネからの糸」中井久夫著、みすず書房)
孤立化
最初のステップは孤立化です。誰かを標的に定め、その子がいかにいじめに値するかPRを行い、孤立化させます。こうしていじめは開始されます。
無力化
次に、いじめの被害者に反撃が無効であることを認識させます。もし、反撃があれば懲罰的な過剰暴力を以って罰します。そして、誰も被害者の味方にならないことを繰り返し味あわせます。被害者は、これにより逆らう気力が次第になくなっていきます。
透明化
加害者は、今日だけは勘弁してやるといった恩寵により被害者の迎合を得ていきます。そして、大人の前では仲よしを装うことができ、単なる遊びやからかいにして見せることができます。こうして、いじめは周りから見えにくくなり透明化されます。
いじめが進むと、加害者は被害者から金銭を搾取することがあります。被害者は小遣いや貯金を差し出し、さらには家庭から盗み出す、あるいは万引きを行うなどの罪を犯します。これにより家族や社会からも孤立してしまい、誰にも話せなくなってしまいます。ここまで来てしまうと、この泥沼から抜け出すには、もう自殺しかなくなってしまいます。

いじめの解決方法

いじめを見つけた場合、その解決方法は比較的はっきりしています。外部から介入してやることです。
いじめの加害者は、遊びとして軽い気持ちでやっています。そのため、自分のやっているいじめがややこしい問題になったら、止めてしまうのが普通です。
警察の介入
もし、暴力をともなうようないじめであれば傷害事件として警察に通報するのが普通です。
親や学校の介入
また、親がいじめを察知したら、学校管理者へ通報し、加害者の親も巻き込んで解決をはかります。
そして、いじめのなくすために、クラス全体での取り組み、あるいは学校全体での取り組みを行うことになります。また、さらにはPTAを巻き込んでの取り組みになるかもしれません。
こうして、いじめに対して外部から介入してやることにより、とりあえずは解決できます。しかし、いじめは時間がたてば、また発生するというのが現実かもしれません。

いじめのないクラス

小学校教師の向山洋一は、すばらしいクラス、知的な授業のあるクラスにはいじめはないと主張しています。反対に授業が面白くないクラス、まとまりのないクラスはいじめなど問題の起きやすいクラスだそうです。
いじめのない素晴らしいクラス(小学校)の作り方の一例は、次のようなものです。
先生の気配り
先生が常にクラスの中心にいる。
先生が一人一人に気を配る。
いじめの発見
いじめを早期に発見し、すぐに手を打つ。
問題があればすぐに解決する。
一人ぼっち
一人ぼっちができないグループ分けを行う。
一人ぼっちの子を把握する。
その子の事情を理解する。
その子に手をさしのべる具体策を決める。
子供に考えさせる
いいこと、悪いことを考えさせる。
差別や仲間はずれについて考えさせる。
問題があれば子供たちに自主的に解決させる。
子供を信頼する
頭のいい子だけでなく、どの子も信頼する。
クラスを組織する
当番や係りを組織する。
日常的な活動をほめて動かす。
チャレンジするイベントを組織する。
みんなを伸ばす
みんなが伸びる教育をする。
全員がリーダーになれる教育をする。
どの子にも友だちができるように配慮する。
先生の心構え
差別を許さない。
子供をどなりつけない。
体罰をしない。
どの子も大切にされる。
どの子の意見も大切にされる。

グループ活動

80年代の校内暴力、差別、いじめ、不登校などの問題に取り組んだ中学校の教師たちの記録があります。(「先生!僕の居場所がない」葦書房)
ここでは卒業記念作品の制作、文化祭での演劇の上演、文化祭の展示物の製作などを行い、校内暴力やいじめについての解決で成果をあげた例が報告されています。共通の目標に向かって協力し、あるいは役割分担をして作業を行い、そして成果を得ることで良い結果を生んでいます。
目的に向かって協力して活動するグループは、時限的ですが、一つの理想的な組織です。こうした組織がうまく機能している時には校内暴力やいじめなどの問題は起きようがありません。

組織の問題

いじめは問題のある組織、病んだ組織で発生するように思います。おおむね次のような特徴があります。
閉鎖的な組織
固定的な人員構成でメンバーの出入りが少なく変化のない組織。
義務教育の学校も簡単に抜けることのできない組織です。また、問題があっても外部からは窺い知れないのが閉鎖的な組織です。
表面的な平穏
ことなかれ主義で表面を取り繕い、問題があっても隠蔽してしまう。
いじめのあった学校などでは、問題を隠蔽しようとするのは、よくあることのようです。こうした組織だからいじめが発生のだと思わざるを得ません。
希望がない
怒られることはあっても褒められることがない。
前向きな意見はなく、常にあきらめている。
変化がなく面白くもない日常が続き、ストレスがたまっている。
こうした小さなストレスが、いじめに向かう原因だと思います。褒められて希望を持って努力している時には達成感はあっても、ストレスなど感じられないものです。
派閥の発生
仲よし同士がつるんでおり、一種の派閥ができている。
組織への不平不満を言い合う派閥ができると、自分たちの不遇の原因となっている犯人さがしが始まります。そして、適当なスケープゴートを見つけると、それへの攻撃が始まるかもしれません。不毛な内輪もめです。
目的意識
全体として同じ方向を向いておらず目的意識がない。
目標に向かって活動を行い、成果を出して、みんなが満足していれば、いじめなど発生しないと思います。
このような閉鎖的で希望のない組織でいじめなどの問題が発生します。ストレス発散のため、暇つぶしのため、遊びや冗談での軽い気持ちのからかいなどから、いじめが起きるのではないでしょうか。
一般的には問題を起こしそうな組織は次のようなものが考えられます。
駄目な学校
儲からない会社
怠惰な役所や団体
勝てないチーム
いじめとは少し違いますが、セクシャル・ハラスメントやパワー・ハラスメントを起こすような会社や組織は、こうした病んだ組織ではないでしょうか。

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参考文献
「いじめとは何か」森田洋司 中公新書
「いじめの構造」内藤朝雄 講談社現代新書
「いじめの構造を破壊せよ」向山洋一 明治図書
「学級を組織する法則」向山洋一 明治図書
「教室の悪魔」山脇由貴子 ポプラ文庫
「いじめと戦おう!」玉聞伸啓 小学館
「先生!僕の居場所がない」今村Y子他 葦書房
「アリアドネからの糸」中井久夫 みすず書房
「コロンバイン・ハイスクール・ダイアリー」ブルックス・ブラウン他 太田出版
「GEEKS ギークス」ジョン・カッツ 飛鳥新社

2012.04.19 野沢 清 kiyoshi_nozawa@yahoo.co.jp