オカルトの80年代

80年代にはオカルト、新興宗教、ニュー・アカデミズムなどがブームになりました。その背景には経済的豊かさへの疑問がありました。精神的な豊かさを求めて方向転換を目指したのだと思います。しかし、そうした傾向は90年代には終焉を迎えます。
ここでは、そうしたオカルトの歴史と背景を振り返ってみたいと思います。

70年代:オカルトの始まり

日本の高度成長が終わりかけた70年代にオカルトブームが始まっています。日本テレビのディレクターである矢追純一が日本に持ち込んだといってよいのだと思います。
超能力
テレビでユリ・ゲラーのスプーン曲げが紹介されると、日本中に超能力ブームが始まりました。自分にもスプーン曲げができたという少年が多く出現しました。その結果、清田益章のような超能力少年が80年代にかけて活躍します。
スプーン曲げは、今ではマジック(奇術)のネタのひとつですが、このころは本当に超能力があるのだと信じる人も多かったのです。
UFO
70年代の後半にはUFOがブームとなりました。映画「未知との遭遇」のせいでしょうか。このころピンクレディーの「UFO」という曲も大ヒットしています。また、テレビゲームが出現し「インベーダーゲーム」に皆が夢中になったのもこの時期です。
さらに80年代に入ってからは可愛らしい宇宙人が登場する映画「E.T.」が大ヒットしています。

80年代:オカルトブーム

73年の石油ショック以降は不景気が続き、これからは経済的な豊かさよりも精神的な豊かさを求めるべきだというような論調が増えていきます。
日本人が別の価値観を求め始めたのだと思います。いってみれば、その可能性のひとつとしてオカルト的な分野が若い人たちにうけたのかもしれません。
精神世界
70年代の末には精神世界への興味が高まり季刊誌「the Meditation」(平河出版社)のような雑誌が発行されています。この雑誌では瞑想、曼荼羅、密教、ヨーガなどの精神世界が特集されています。後述のオカルト雑誌が通俗的で雑多なのに比べると比較的にハイブローな内容になっています。また、同誌には阿含宗の桐山靖雄も度々登場しています。
オカルト雑誌
80年前後に「ムー」や「トワイライトゾーン」のようなオカルト系の雑誌が創刊されています。怪しい内容が多いのですが、青少年の好奇心を引きつける雑誌でした。おもな内容は下記のような項目です。
UFO、宇宙人
 ジョージ・アダムスキー、ケネス・アーノルド
 フーファイターズ
 ロズウェル事件、ヒル夫妻誘拐事件
 キャトルミューティレイション
 MJ−12、エリア51
 第三の選択
超能力
 スプーン曲げ
 遠隔透視、念写、テレパシー
 テレポーテーション
 ダウジング
予言、予知
 ノストラダムスの予言
 エドガー・ケイシー
 ジーン・ディクソン
失われた大陸
 アトランティス大陸
 ムー大陸、レムリア大陸
未確認生物
 ヒマラヤの雪男
 ビッグフット、サスカッチ
 ネッシー
 ツチノコ、河童伝説
心霊現象
 心霊写真
 霊視
 ミステリースポット
前世
 輪廻転生
キリスト教の奇跡
 ルルドの泉、ファティマの予言
 聖骸布
 ロンギヌスの槍
 涙を流すマリア像
 聖痕
古代文明
 ピラミッドとスフインクス
 マヤの神殿
 ナスカの地上絵
神智学と魔術
 ブラバッキー夫人
 ルドルフ・シュタイナー
 黄金の夜明け団
 アレイスター・クローリー
インドの奇跡
 サイババ
 アガステアの葉
心霊治療
 ヒーリング
 手かざし治療
 心霊手術
オーラ
 オーラ
 キルリアン写真
明治大正の超能力
 福来友吉博士の心霊研究
 三田光一の念写
 長尾郁子の念写
 御船千鶴子の千里眼
 長南年恵の霊水
日本の超古代史
 竹内文書
 東日流外三郡誌
日本の不思議
 戸来のキリストの墓
 天狗と仙人
 陰陽師、阿倍清明
その他
 ツングース大爆発
 ミステリーサークル
 バミューダトライアングル  フィラデルフィア実験
 地球空洞説
超能力
スプーン曲げに代表される超能力は80年代に入ってもブームが続いています。 週刊誌でスプーン曲げのインチキが暴かれた記事も報道されましたが、真贋をめぐっての議論が続いていました。
この時代にはスプーン曲げで有名になったエスパー清田益章や自称超能力者の秋山眞人などが活躍していました。
ピラミッドパワー
一般の人が超能力を獲得するのは無理ですが、そんな人に受けたのが不思議な力を持つピラミッドパワーでした。ピラミッド状の立体の中では物が腐りにくい、剃刀の切れ味が落ちないなどの効果があるとされました。
また、三角形を2つ重ねた六芒星の形状をしたヒランヤという製品が売り出されました。ピラミッドパワーと同様に不思議な力があるという製品です。オカルト雑誌にはいつも広告が載っていました。
ニュー・アカデミズム
80年代には従来の哲学・思想とは少し違った「現代思想」が流行り始めました。これらはポストモダン思想あるいはニュー・アカデミズム(ニュー・アカ)と呼ばれました。フランスの現代思想の影響を受けているようですが、学究的な論文などではなくエッセイや体験記などを通して発表されていました。
この時代のニュー・アカを代表していたのは栗本慎一郎、浅田彰、中沢新一などでした。
浅田彰
スキゾ、パラノという言葉を流行らした浅田彰の著書はベストセラーになりました。
パラノというのはパラノイア(偏執狂)の略で、「誰もが相手より少しでも速く、少しでも先へ進もうと、必死になっている」、「各々が今まで蓄積してきた成果を後生大事に背に負いながら、少しでも多く積み増そう、それによって相手を出しぬこうと、血眼になっている」このような人たちのことです。
一方、スキゾはスキゾフレニー(分裂症)の略で、「追いつき追いこせ競争に追い込まれたとしてもすぐにキョロキョロあたりを見回して、とんでもない方向に走り去ってしまう」。浅田彰はこうしたノマド(遊牧民)的自由を薦めています。
浅田彰は、伝統的な社会(エディプス的家族)を否定し、そこから逃走する自由を主張していますが、そうした思想は、後にオウム真理教や統一教会から子供を奪還しようとする親と子供の対立を想起させます。また、自由な労働形態として一時期もてはやされたフリーターも浅田彰の影響かも知れません。
中沢新一
中沢新一は、自身の密教体験などを著作として発表しています。たとえば中沢新一の著書の「虹の階梯」では密教の修行のやり方そのものが内容となっています。この本は、オウム真理教の入信の手引き書であるとかオウム真理教でテキストとして使われたなどとして、後に批判を浴びています。
ノストラダムスの予言
ノストラダムスの予言は人類滅亡を思わせる次の予言詩で有名になりました。
 年は一九九九年と七ヶ月
 恐怖の大王が天より姿を現すだろう
 彼はアンゴルモアの大王を蘇生させ
 その前後は火星が幸せに支配する
 (「ノストラダムス全予言」エリカ・チータム著、山根和郎訳)
世紀末の99年に人類が滅亡する、ハルマゲドン(最終戦争)が起こるとされ、雑誌などで盛んに取り上げられるようになりました。
新宗教ブーム
80年代の精神世界への興味も盛り上がりのせいでしょうか、あるいはオカルトブームのせいでしょうか、それとも世紀末への不安のせいでしょうか、この時代には多くの新興宗教が流行りました。
統一教会
世界基督教統一神霊協会(通称:統一教会)は韓国の文鮮明が教祖のキリスト教系の宗教。90年代に霊感商法や合同結婚式で世間の物議をかもすことになります。
オウム真理教
麻原彰晃を尊師とする密教系の宗教。ヨーガを中心とした修行で超能力が得られるとして若い人を中心に多くの信者を集めていました。また、ハルマゲドンがやってくるとして、その対策が必要であると説いています。 ハルマゲドンの概念はキリスト教(ヨハネの黙示録)から来ているので、密教とは関係ないはずですが、この辺が新興宗教らしい雑多な面をあらわしています。
阿含宗
桐山靖雄が創設した密教系の宗教。麻原彰晃が入っていたことがあるといわれており、オウム真理教に先行する教団とも言えます。 オウム真理教と同様に修行すれば超能力が得られるとしています。また、ノストラダムスの予言を元に「一九九九年七の月が来る」という桐山靖雄の著書もあります。オウム真理教と同様に世紀末を意識していたようです。
真光系教団
手かざしによる浄めや癒しを行うことで有名な教団です。街頭で手かざしを行い盛んに若い人を勧誘していました。世界真光文明教団や分派の崇教真光が有名です。
幸福の科学
東大法学部出身で「仏陀の生まれ変わり」という大川隆法が創設した宗教です。テキストなど多くの本を出版し、それらをベストセラーにすることで布教を行う変わった宗教です。

90年代:オカルトの崩壊

バブルの崩壊した90年代は、超能力などのオカルトや新興宗教のブームが崩壊して行く時代でもありました。
また、一時期はブームになったニュー・アカデミズムも90年代には急速に姿を消していきました。
ハンドパワー
マジシャン(奇術師)のMr.マリックがハンドパワーと称してスプーン曲げなどを行うようになると、従来の「超能力」はたちまち勢いを失うことになりました。 ユリ・ゲラーがマジシャンであることがばれたと言ってもよいかもしれません。また、米国ではジェームズ・ランディというマジシャンが、いわゆる超能力を暴く活動をしています。ジェームズ・ランディは超能力を実証できた人に100万ドルを贈呈するとして挑戦を募っていますが、未だに成功者はいないようです。
霊感商法
統一教会の霊感商法が批判を浴び、94年には裁判で統一教会の責任を認める判決が出ました。また、作家の飯干晃一が娘でタレントの飯干景子を統一教会から奪還する事件が92年に起きています。このころから新興宗教による洗脳やマインドコントロールが問題にされるようになりました。
また、同じ92年には桜田淳子や山崎浩子が統一教会の合同結婚式に参加することが分かり霊感商法と合わせて世間の物議をかもしました。
サイババ
大学講師をしていた青山圭秀が「理性のゆらぎ」でインドの宗教家サイババを紹介すると日本でサイババブームが起きました。
サイババは空中からビブーティ(聖灰)や時計、宝石を取り出す奇跡を行っていましたが、まもなくこれらがトリックであることを暴いた本も出版されています。
また青山圭秀は著書「アガステアの葉」で自分の過去と未来を記述した不思議なアガステアの葉について書きましたが、これについてもそのインチキを暴く本が出版されています。そのためか、サイババやアガステアの葉のブームも直ぐに終わってしまいました。
ヒーリング
広告代理店勤務の超能力サラリーマン高塚光の映画「超能力者・未知への旅人」が公開されたのが94年です。高塚光はスプーン曲げも行いますが、おもに病気治療などヒーリングで、その超能力を使っていました。単なる見世物でもなく、宗教でもなく、純粋にヒーリングとして超能力を使った点が新しい傾向で一時的にブームになりました。その後、表舞台から消えていましたが、現在もヒーリングは行っているようです。
地下鉄サリン事件
95年3月のオウム真理教の起こした地下鉄サリン事件は日本のみならず世界に衝撃を与えました。日本の政治の中心である霞ヶ関を狙った前代未聞の宗教組織による毒ガス(サリン)を使用したテロ事件でした。自らハルマゲドンを起こそうとしたのかもしれません。
90年の総選挙に麻原彰晃(松本智津夫)や教団幹部が立候補しましたが惨敗しました。これをきっかけに反社会的行動が強まったとも言われています。
ただし、この選挙に先立つ89年にはオウム真理教は坂本弁護士一家殺害事件を起こしています。これは、出家信者の母が息子を奪還しようと坂本弁護士に相談した結果、坂本弁護士がオウム真理教への訴訟を始めようとしたことがきっかけになっています。
また、地下鉄サリン事件の直後に國松警察庁長官が出勤時に自宅前で狙撃される事件が起きています。これもオウム真理教が自身への捜査を妨害するためにおこした事件だと推測されていますが未解決ままとなっています。
その他にも、オウム真理教は94年の松本サリン事件、95年の仮谷清志さん拉致事件などを起こしています。
こうした一連の事件の結果、オウム真理教は世間からの強いバッシングを受けることになりました。また、統一教会の一連のトラブルがあった後だけに新興宗教(カルト宗教)に対する風当たりも強くなりました。
エヴァンゲリオン
アニメ「新世紀エヴァンゲリオン」の背景にも多くのオカルト的な要素が使われています。ユダヤ神秘主義(カバラ)やユダヤ教あるいはキリスト教的な要素です。
 死海文書(裏死海文書)
 セフィロトの樹
 ロンギヌスの槍
 使徒
 アダムとリリス
また、ハルマゲドン的な事象であるセカンド・インパクト(大爆発)が2000年に南極で起こり地球規模の大災害となったのが物語の背景となっています。 そして、次のサード・インパクトを防ぐことをめぐって、この物語は展開していきます。
また、このアニメの監督である庵野秀明にはニュー・アカデミズムの浅田彰の影響も感じられます。エヴァンゲリオンについての対談集が2冊発行されていますが本のタイトルにスキゾとパラノが使われています。
 「庵野秀明スキゾ・エヴァンゲリオン」大泉実成編、太田出版
 「庵野秀明パラノ・エヴァンゲリオン」竹熊健太郎編、太田出版
エヴァンゲリオンの作品自体は他とは一線を画す人気アニメですが、80年代的な神秘主義やニュー・アカデミズムの影響を大きく受けているように見えます。
なお、この物語で主人公シンジは父親の進める人類補完計画を最後に裏切り元に戻しています。これは80年代の神秘主義の終焉の物語なのかもしれません。
ハルマゲドン
世紀末が近づくとハルマゲドンやノストラダムスの予言への興味が高まり、98年には映画「アルマゲドン」が公開されヒットしました。
しかし、ハルマゲドンは起こらず、1999年の8月は無事に通り過ぎました。その後、2000年問題が浮上し、コンピュータの誤作動で問題が起きることが懸念されましたが、これも何ごともなく過ぎていきました。

00年代:エピローグ

2000年になると、オカルトや新興宗教への熱狂は過去のものとなりました。テレビでは、UFO信者は物笑いのネタとなっています。
それでも穏やかなオカルトのブームは続いていますが、癒しやヒーリングが中心です。
オーラの泉
三輪明宏、江原啓之、国分太一によるスピリチュアルなトーク番組が人気となりました。ゲストのオーラの色や前世、守護霊を中心に江原や三輪が語り、アドバイスするというテレビ番組でした。しかし、人気が低迷したのか、何か事情があったのか、この番組は4年ほどで終了してしました。
パワースポット
若い人、特に女性の間で神社などのパワースポットがブームになり、テレビや雑誌などで盛んに紹介されましたが、今は一段落した感じになっています。 また、癒しがブームになり、やはりテレビや雑誌で盛んに取り上げられるキーワードとなりました。

経済的な豊かさより精神的な豊かさを求めて80年代のオカルトや新宗教などのブームが始まりました。
しかし、現在の日本では景気低迷が続き、産業の地盤沈下も目立ってきました。経済的な豊かさそのものが危うくなってきているのです。
さて、3.11の大地震以降の日本は、いったいどういう方向に進むのでしょうか。

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参考文献
「季刊the Meditation」平河出版社
「隔月刊たま」たま出版
「世界超能力大百科」学習研究社
「不思議世界百科'86」KKワールドフォトプレス
「清田益章の超能力開発講座」清田益章 学習研究社
「奇跡の超能力者」秋山眞人 竹書房文庫
「超能力おもしろ実験室」秋山眞人 河出書房新社
「ノストラダムス全予言」エリカ・チータム著、山根和郎訳 二見書房
「トンデモ超常現象99の真相」と学会 宝島社文庫
「超常現象の科学 なぜ人は幽霊が見えるのか」リチャード・ワイズマン 文芸春秋
「逃走論」浅田彰 ちくま文庫
「虹の階梯」中沢新一 平河出版社
「ポストモダンとなんだったのか」仲正昌樹 NHKブックス
「ザ・超能力 秘密の開発法」麻原彰晃 オウム出版
「日出づる国、災い近し」麻原彰晃 オウム出版
「求聞持聡明法秘伝 究極の超能力開発システム」桐山靖雄 平河出版社
「一九九九年七の月が来る」桐山靖雄 平河出版社
「別冊宝島114号 いまどきの神サマ」JICC出版局
「アガステアの葉」青山圭秀 三五館
「裸のサイババ」パンタ笛吹 ヴォイス
「アガステアの葉の秘密」パンタ笛吹、真弓香 たま出版
「超能力サラリーマン タカツカヒカルのヒーリング・セミナー」高塚光 東急エージェンシー
「宝島30 1995年6月号[総力特集]オウム真理教の世界」宝島社
「オウムと全共闘」小浜逸郎 草思社
「庵野秀明スキゾ・エヴァンゲリオン」大泉実成編 太田出版
「庵野秀明パラノ・エヴァンゲリオン」竹熊健太郎編 太田出版
「エヴァンゲリオン用語事典 第2版」エヴァ用語事典編纂局 八幡書店

2012.05.19 野沢 清 kiyoshi_nozawa@yahoo.co.jp