落ちこぼれの反乱

70年代から80年代にかけて校内暴力が社会的な問題になった時期がありました。同じころ暴走族が路上を派手に駆け回っていました。
しかし、こうした社会現象も、いつのまにか沈静化していきました。ここでは、その背景や原因を探ってみたいと思います。

大学紛争

校内暴力は高校や中学で発生しましたが、その多くは中学で起きていました。
こうした校内暴力が問題となる以前には、大学での紛争や学生運動が大きな社会問題となっていました。この大学紛争は一部の高校まで飛び火しています。
大学紛争の大きな原因は、日大全共闘の例に見られるように、封建的な管理体制でしたが、大学が民主化され開放的になるにつれて紛争は沈静化していきました。また、高校でも制服の自由化など改革が実行されています。
そして、大学や高校での紛争が収束すると、今度は中学での校内暴力が多く発生するようになっていきました。

70年代の熱血教師

70年代には、なぜか熱血教師が活躍する青春学園ドラマが多く放送されていました。
 「おれは男だ!」森田健作主演
 「飛び出せ!青春」村野武範主演
 「われら青春!」中村雅俊主演
 「熱中時代」水谷豊主演
しかし、現実の学校では理想的な先生は少なく、「落ちこぼれ」の生徒を差別する暴力的な教師が生徒を押さえつけていました。理不尽な暴力を振るう先生、理由も聞かずに殴る先生、生徒を信用していない先生が学校を支配・管理していました。
「なんだ、その目付きは、先生をナメるんじゃねえぞ。口でいって分かんなきゃブッとばしてやろうか。」
「分からないくせに手をあげて、ふざけるんじゃない。」
「きさま、教師に逆らうのか。」
「教師のいうことを素直に聞かないと、内申書に響くぞ。おまえ高校に行けなくなってもいいのか。」

校内暴力の発生

大学紛争では成績優秀なエリートたちが反乱を起こしましたが、校内暴力は落ちこぼれ生徒たちが起こした反乱です。
「面白くない授業ってあるじゃん。教え方がへたちゅうのかな。そすとみんな騒ぐわけ。すると「静かにせんか!」とどなるわけ。オレだってうまい先公の時は静かに聞いてるよ。」
「授業中「おまえは馬鹿だからわかんないよな」とみんなを笑わせやがるの。どうせ馬鹿だとは思ってるけどよ、みんなの前で言わなくてもいいじゃん。」
「オレがやった時どなるのはわかるよ。しかし、オレがやってない事をどなりやがったから怒ったさ。第一ろくろく調べもしねーんだから。わかるはずないじゃん。」
「担任があたいのことを「キャバスケ」といいふらしてるのがわかったの。頭にきたなーその時は。信頼ゼロだよその先公。」
「何かにつけ理由もいわずに殴るんだよね。いきなり後ろから来てポカンだからね。卑怯だよね。実際頭きちゃうよ。」
「あの先公、オレが学校休んでる時はすごく威張ってるちゅうんだよ。オレがおっかないんだよね。態度変えやがるの。威張るならいつも威張っときゃいいのにさあ。」
「目上だからエライから自分らを殴ってもいいということじゃないと思うよ。それなのに先公は殴ってくる。文句いってくる。だから自分らも殴るし、文句いっていくんです。」
落ちこぼれ生徒たちは、やがて番長グループを形成し他校との抗争を始めます。そして、彼らは中学を卒業すると暴走族を組織し路上にその活躍の場を見出して行きます。
また、教師への不信感は落ちこぼれ生徒だけではなく、一般の生徒にも広がっていました。そのため荒れた中学が大きな社会問題となったのです。

金八先生

荒れた中学が大きな社会問題となると、それをテーマとしたテレビドラマが作成され人気となりました。武田鉄矢主演の「3年B組金八先生」です。かつてのスポーツを中心とした青春ドラマの熱血先生ではなく、泥臭い人情味厚い別のタイプの熱血先生です。

校内暴力の沈静化

現実の校内暴力の解決に向けた努力も始まりました。
基本的には生徒との信頼関係の回復です。まずはクラス全体と教師の信頼関係を築き、落ちこぼれ生徒のクラスへの仲間入りをはかり、落ちこぼれ生徒への手助けを行う努力がなされています。
落ちこぼれ生徒も基本的に良い子であり向上心もありました。教師の側が子供の心を傷つけ未来を潰していたのでした。
ある学校では次のような活動で校内暴力の解決を目指しています。
 ・朝の挨拶運動
 ・教師による落書き消し作戦
 ・マン・ツウ・マンの指導
 ・生徒の自主性尊重
結果的には、こうした対策で生徒たちは落ち着きを取り戻し、校内暴力はなくなっていきました。
考えてみれば当たり前の対策ですが、これまでは封建的ともいえる高圧的に押さえつける管理が普通だった時代です。また、切り捨てられていた「落ちこぼれ」たちへの配慮もようやくなされるようになったのだと思います。

暴走族

校内暴力事件を起こした落ちこぼれ生徒のツッパリたちは中学を卒業すると暴走族に入るようになります。学校内では肯定感や承認感を得られない彼らは居場所を求めて路上での示威活動を繰り広げました。
しかし、校内暴力が沈静化すると暴走族も衰退していきました。背景には警察の取り締まりの強化などもあるかもしれませんが、暴走族のピークは80年代の前半だったようです。
それを象徴しているのがスケバンたちの長いスカートです。番長グループやツッパリの女性版であるスケバンたちは長いスカートのセーラー服で街をかっぽしていましたが、80年代の後半には、この長いスカートは次第に消えていきます。「おニャン子クラブ」で女子高校生のブームが到来したころです。
この後、90年代の女子高校生の制服のスカートは、逆にどんどん短くなっていっています。

ツッパリ文化

暴走族が隆盛を誇っていた70年代から80年代にかけてツッパリ/ヤンキーの文化が流行っています。
なめ猫
暴走族の格好をした「なめ猫」のキャラクター商品がブームになったのがこのころです。(1980年代前半)
スケバン刑事
漫画が原作のようですが「スケバン刑事(デカ)」のテレビドラマ、さらには映画も作られています。(1985−1987)
ヤンキー漫画
ツッパリ/ヤンキーを主人公にした漫画「ビー・バップ・ハイスクール」が人気となり映画化されています。(1985)
こうしたヤンキーを主人公にした漫画は、その後も根強い人気を誇っています。
ロックバンド
70〜80年代の日本のロックバンドの主流はツッパリ系だといっても良いかもしれません。多くの人気バンドがありました。
 キャロル(矢沢永吉)
 クールス(舘ひろし、岩城滉一)
 ダウン・タウン・ブギウギ・バンド(宇崎竜童)
 ARB(石橋凌)
 アナーキー
 ザ・ロッカーズ(陣内孝則)
 横浜銀蝿(嵐、翔)
 シャネルズ(鈴木雅之、田代まさし)

原宿ストリート文化

80年代に原宿などの路上で踊ったりパフォーマンスを演じたりしたのも、落ちこぼれ/ツッパリ系の人たちです。
竹の子族
カラフルで無国籍風の衣装で踊っていたグループです。これ以前の日本のファッションは外国の影響を受けたものばかりでしたが、彼らの衣装は外国の影響を感じさせない独特のものでした。
ローラー族
革ジャンにリーゼントなどアメリカ50年代風のファッションで、ロックンロールにのせてツイストを踊っていました。
一世風靡セピア
哀川翔、柳葉敏郎などの「一世風靡セピア」も、80年代に路上パフォーマンスを行なっていました。
後の「YOSAKOIソーラン祭り」などは、このグループの影響を受けているのかもしれません。

昔、学校の先生には威厳がありました。先生というのは偉い人だったのです。でも権威を笠に着て生徒を押さえつける先生も多かったのです。そんな先生の権威を壊してくれたのが落ちこぼれのツッパリたちでした。おりしも元総理大臣の田中角栄が逮捕されたのは76年です。古い権威が崩壊していった時代でした。

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参考文献
「校内暴力」稲村博・小川捷之編 共立出版
「先生!僕の居場所がない」今村Y子他 葦書房
「理由ある反抗」南英男 集英社文庫
「おれたちは先生を殴った」生江有二 角川文庫
「高校紛争1969−1970」小林哲夫 中公新書
「暴走族のエスノグラフィー」佐藤郁哉 新曜社
「ヤンキー文化論序説」五十嵐太郎編著 河出書房新社

2011.04.05 野沢 清 kiyoshi_nozawa@yahoo.co.jp