良い子の結末

親なら誰でも自分の子供を良い子に育てたいと思うはずです。しかし親から見ての「良い子」に仕立て上げるのは危険です。小学校時代に成績優秀で、親の言うことをよく聞く優しい子は、挫折する可能性も大きいのです。
子供は社会に出て自立して行かなければなりません。いわゆる「教育ママ」は、そこまで考えが回ってないように見えます。子供の成長過程と子育てについて考えてみたいと思います。

幼児期から学童期へ

小学校も学年が進むと知識が増え、知的な判断力も付いてきます。親にまとわりついていた子供が次第に自立して行く過程が始まります。
一番
この時期には、子供っぽい議論が始まります。「何が一番強い」、「誰が一番偉い」などの議論が始まります。子供は競争が好きで勝つことが大好きです。そして、自分の家族が一番だと思っています。
良い子
学童期の子供は基本的に良い子です。親の教え、学校の先生の言いつけをよく守ります。まだ、疑うことを知らないと言ってよいかも知れません。 また、誰かの役に立ったりして褒められることも大好きです。こうした喜びの記憶や成功体験を積み重ねて成長していきます。
空想世界
この時期には一種の万能感があり、純粋な将来の夢を持ったりします。まだ、現実を知らないし挫折の経験もない時期です。そして、空想世界も好きでオカルトやSF、魔法の世界にはまったりもします。そうした世界がどこかにあると信じています。
好奇心と冒険
好奇心が増えて、子供たちの冒険も始まります。好奇心で自分のまわりの世界を探索し行動範囲も広がってきます。子供の世界は案外と狭く家庭と学校と近所くらいです。また、まだ大人への距離感があり、子供は自分たちの閉じた世界の中で行動していますが、好奇心は自発性や自主性を発揮するきっかけにもなっています。
マンガ、アニメ、ゲーム
子供たちは、楽しいことが大好きでマンガ、アニメ、ゲームに夢中になります。大人にしてみれば、これらは害毒のようにも見えますが、一方で子供の世界を広げてくれる役割も持っています。日本のマンガ、アニメ、ゲームなどは案外、子供のための教訓に満ちています。
ケンカやイジメ
今どきはガキ大将もいないかも知れませんが、子供たちは集団で行動するなかで人間関係を学んでいきます。ケンカやいじめも子供に必須の成長過程ではないかと思います。子供は自他の違いに敏感です。他の人も自分と同じだと思っています。世界は等質だと思っています。そこで他人に違いを発見しそれを指摘する、それが結果的にいじめにつながります。しかし、ケンカやいじめの後味の悪さなどに気づき、そのことを通して子供は成長して行きます。この時期の子供は基本的に良い子です。本質的な悪意は持っていないと思います。
いたずらや悪さ
好奇心から来るいたずらや悪さも大人に叱られたりして、その結果への反省をせまられることになります。これにより、やって良いことと悪いことの区別が次第についてきます。

家庭環境

家庭環境や親のしつけの方針は子供の成長に大きな影響を与えます。現代では母親が子供の教育やしつけの中心になっていますが、子供を母親の思う理想とする鋳型にはめ込むのは危険です。
しつけ
子供のころから厳しいしつけを行い、学業優先で近所の子供たちとの遊びも制限するような教育ママもいるかと思います。
おそらく、小学校時代の成績は良くなるでしょうが結果的には問題を残します。小学校時代に成績が良くても、たいていは、中学高校と行くにつれて成績は落ちて行きます。そして、中学や高校で成績が下降し挫折を感じると、ひきこもりなどの問題行動につながるおそれがあります。また、厳しいしつけで母親が子供を精神的に支配し強制した場合、子供は指示待ち状態で自立的な思考能力を失う結果にもなり、情緒的にも不安定になります。
一方で、祖母などに溺愛され育った子供の場合、誤った万能感を子供に与えることになります。なんでも自分の思い通りになるような経験を子供に与えることになり、その子はわがままになるのは当然ですが、一方でその子に何か困ったことが起こると、誰か大人が尻拭いしてくれるので、その子は無責任な人間に育ちます。
また、厳しいしつけをする母親も子供が外で問題を起こすと、世間への体面もあり親が尻拭いをしてしまうことが多いので、この場合もやはり依頼心の強い無責任な子供が育つことになります。
子供の自主性
子供の生活面や行動面でのしつけは必要だと思いますが、しつけを行うには子供の自主性や主体性を尊重することが必要です。そのことが、精神的に自立して行く子供にとって大事なことだと思います。学童期の子供に勉強を押し付ける必要はないと思います。「東大生の多くが子供のころ勉強しろと言われたことがない」というような話もあるくらいです。それでも優秀な子供を育てたい場合、読書などで国語力をつけさせることをお奨めします。読書で読解力や理解力を付けた子供は、たいてい将来においても優秀です。
学童期も終りに近づくと進路の問題が出てくるかもしれません。ここでも最終的には子供の意思を尊重することが必要です。気の進まない学校に進学させられた子供が挫折した場合、親に恨みを持つことがあり、それが家庭内暴力につながることがあります。
暖かい家庭
学童期においても子供は親を求めています。この時期においては幼児期のようにべたべた甘えてくることないとは思いますが、親が子供を見守り容認し受け止めてあげることは必要です。
また、家庭内の不和やトラブルは子供を不安にさせ、子供の精神的な安定に悪影響を与えます。落ち着いた家庭環境があって、情緒的に安定した子供が育ちます。

第二次反抗期

学童期の終りに第二次反抗期の時期がやってきます。良い子を育てたい親にとっては歓迎できないかもしれませんが、子供が大人へと成長する重要な関門です。
今まで自分のうちが一番と思っていた子供が、自分の親や家庭について疑問を持ち始めます。自分の親や家庭を主観的にしか見られなかった子供が、自分の親や家庭を客観的に見られるようになったのです。同時に具体的な自分の将来についても考えるようになります。人によっては早く独立して家を離れたいと思うようになります。子供の家離れであり、独立心の芽生えです。
これ以降の子供は、無口になり大人っぽくなっていきます。無口になるのは、従来のように子供っぽく親に甘えられなくなるからですが、自分の考えがまとまらないせいもあります。親に何か言われて十分反論できるだけの考えをまだ持っていないからです。
反抗の程度は人によって異なると思いますが、親は子供を暖かく見守る必要があると思います。いずれ落ち着いて、親に頼らない大人に成長していくはずです。
しかし、ひきこもりや家庭内暴力が始まるようでしたら、これは単なる反抗期ではないと思います。しかるべきところに相談するなどの対処が必要だと思います。

思春期ひきこもり

ひきこもりについては、その家庭環境などについて特徴があることが昔から専門家によって指摘されています。
 ・両親とも高学歴で中流以上の家庭
 ・仕事熱心で養育に無関心な父親
 ・過敏で過干渉の母親
 ・家族や周囲に優秀な人間が多い
 ・長男がなりやすい
 ・中二、高一での発症が多い
 ・小学校で成績優秀な子も多い
本人の性格などについては次のような例が多いようです。
 ・内向的で手のかからない良い子であった
 ・反抗したこともなかった
 ・几帳面すぎる子
 ・価値観が狭く自己中心的
 ・高すぎる理想とプライドを持っている
そして、いったんひきこもってしまうと本人の自尊心や世間体のため、ひきこもりから抜け出られなくなるようです。また、ひきこもりにより家族関係が悪化し悩みや葛藤がより大きくなることもあります。
密着した母子関係がある場合、犠牲的で献身的な母親が何もかもなげうって本人の世話にあたるような例もあります。
さらにひきこもりが長引くと被害妄想や強迫症状や対人恐怖症、摂食障害のような精神障害の症状も現われるようです。
こじれたひきこもりでは家庭内暴力もともない、本人は次のような主張を行います。
 ・こんな状態に育てたのは親が悪い。
 ・こんな惨めな自分があるのは育てた親の責任である。
 ・本当は行きたくない学校に無理に行かされた。
 ・中学生からやり直したい。時間を戻して欲しい。
それでは、ひきこもりの原因はどこにあるのでしょうか。上の記述で大体想像がつくでしょうが、おそらく大部分は学童期の養育に問題があったのだと思います。
教育ママにより本人の主体性や自主性を無視した教育が行われています。一番大きいのは進路選択などを親が強制していることです。小学校で成績優秀だった子供が、結果的に中二や高一で挫折しひきこもりに入っています。また、愛情よりしつけ優先の子育ての結果、情緒的に不安定な子供に育ったのも要因のひとつだと思います。
(例1)
中2の男子生徒。父親は一部上場企業の社員、母親は教員で2つ年下の妹がいる。小6の時に一生懸命頑張ってきて緊張の糸が切れたが、それでも頑張って中1では学校で一番になり燃え尽きてしまい、中2でひきこもり生活に入る。空気が読めないタイプで、好きな話になると止まらない。また、冗談や皮肉を文字通りに受け止める。
(例2)
高1の女生徒。父親は大企業の社員で小6の弟がいる。母親は教育ママ。小中とも成績優秀だったが、中3から成績は頭打ちになり、高校では真ん中より下に下がる。高1の二学期から学校を休むようになり三学期は一日も行っていない。母親への暴力が始まり、過食と嘔吐を繰り返す。
(例3)
男子の浪人生で姉がいる。末っ子で長男なので母親が過保護に育てた。何ごとも姉より長男が優先。小中時代は活発で成績も良く問題がなかった。母親の言いつけをよく聞く優しい子。高校に入り、夜中までゲームに熱中し学校の成績も下降。友達つきあいも減っていった。高校は卒業したが大学受験に失敗。母親に暴力をふるうようになり入院。被害関係妄想や軽い幻聴があり、統合失調症を徐々に発症。
(例4)
十代後半の女性で、教育熱心な母親に育てられた。母親は娘にピアノを習わせ、決められた課題は必ずやり通すことを娘に要求。娘のピアノの腕は上達し学校の成績も良好であった。高校進学後、ピアノにも学校の成績にも自信を失い不登校になり、母親に暴力をふるうようになった。
(例5)
本人は高2で長男。父親は会社員で優柔不断なタイプ。母親は教育ママで中3と中1の妹がいる。自己臭妄想があり不登校になり、母親に暴力をふるうようになった。

青年期ひきこもり

社会に出てからひきこもりを始める人もいます。家庭環境が良かったり、成績が良かったりして自己万能感が傷つく体験がなかった人が、何かにつまずいてひきこもりに入ってしまいます。これには次のような人が多いようです。
 ・高学歴でプライドの高い人が多い
 ・まじめな話はできるのに世間話ができない
 ・冗談が通じない
 ・人間関係が苦手
 ・相手のニーズが理解できない
 ・人間関係の駆け引きができない
青年期になってひきこもりする人も、やはり学童期に問題があったのではないでしょうか。学童期に友達をつくり遊ぶようなことを十分にやってないように見えます。おそらく母親にとっては良い子だったのではないでしょうか。
(例1)
20代後半の男性。父親は教師で母親は専業主婦。2歳下の妹と5歳下の弟がいる。父親は「成績が全て」という厳格な人で点数や成績でしか子供を評価していない。下の妹弟は優秀だが本人は勉強が得意ではない。スパルタ式の学習塾に無理して通い、私立大学の文学部に進学。20歳で自殺未遂をおこし、不安障害・うつ病と診断される。大学卒業後、大学院を目指してアルバイトを始める。体力、気力、能力が欠けているという自覚があり就職は考えなかった。27歳でひきこもりを始めた。本人いわく「ダメ人間の自分を友人に見せたくなかった。」
(例2)
会社員男性。父親は教師で母親は専業主婦、弟も会社員。私立大学を卒業後、小売店に就職。仕事上のストレス、トラブルで布団から出られない。不安障害と診断される。1年後に会社を退職しひきこもり生活に入る。
(例3)
父親は公務員、母親は高校教師、一男一女の家族。父親は職場では有能、家庭では頼りない人。長女が二十代半ばにリストカット、男性遍歴に走る。長男は家で錯乱状態になり、職場に行かずひきこもり状態になる。

壮年期うつ病

うつ病は中年の男性に多いと言われています。典型的な例は、仕事中心の生活を送り勤勉、几帳面で良心的。他者とは協調的で、他人からの評価に敏感。そんな人が昇進、転勤、引越し、家の引越しなどをきっかけにうつ病を発症することが多いようです。
たとえば、一人でコツコツと仕事にまじめに取り組むタイプの人が、その仕事ぶりを評価されて昇進すると、部下を使って仕事するということに自信がなく、責任の重さにストレスと不安を感じてうつ病になるというパターンです。
こうした人は、いい加減さがなく小学生のころの良い子のままではないでしょうか。指示されたこと以外はできない自主性のない良い子に見えます。おそらく反抗期もなかったのではないでしょうか。 教育ママに育てられたタイプとは違い変なプライドの高さなどはないし、まじめにコツコツと仕事するいい人です。それだけに、こうした人が病に倒れてしまうのは残念です。もう少し、いい加減さとたくましさあれば良いのにと思います。

ひきこもりもこじれると精神障害の症状が現れることがあります。うつ病も精神障害として治療の対象です。これらの精神障害が後天的な環境だけによるものか、それとも生来持っていた器質的な要素が大きいのかは、私には判断できませんが、もし発症したら専門的な機関での診断、治療をおすすめします。

追記

NHKテレビ「ためしてガッテン」(2012.01.11放送)によると脳内の背内側前頭前野が不安な心理に関係しているようです。この部分が分厚い人は自分の心を客観視でき、精神的に安定しているらしい。 第二次反抗期で自分や自分の家族を客観視できるようになるのは、この部位が発達することによるのかもしれません。

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参考文献
「子どもの「心の病」を知る」岡田尊司 PHP新書
「子どもを叱る前に読む本」平井信義 PHP文庫
「子どもの精神科」山登敬之 筑摩書房
「お母さんはしつけをしないで」長谷川博一 草思社
「わが子を「メシが食える大人」に育てる」高濱正伸 廣済堂出版
「社会的ひきこもり」斎藤環 PHP新書
「ドキュメントひきこもり」池上正樹 宝島新書
「「思春期を考える」ことについて」中井久夫 ちくま学芸文庫
「「つながり」の精神病理」中井久夫 ちくま学芸文庫
「現代のエスプリ別冊 現代家族と異常性」至文堂
「現代のエスプリ 境界例の精神病理」至文堂

2011.10.21 野沢 清 kiyoshi_nozawa@yahoo.co.jp
2012.01.12 「追記」