まなとアトラクション(上)
1
あらゆる分野には「例外」が存在する。
専門家たちにとって李七水葉(りなの みずは)はその「例外」であった。
彼女の家庭環境、人物像、それらから「あの出来事」を予測するのは極めて困難であった。
2
ジェットコースター
メリーゴーランド
急流すべり
観覧車
コーヒーカップ
様々なアトラクションとそれを楽しむ人達で賑わう遊園地
私は人ごみに紛れながらアトラクションを眺めていた。
「遊園地か……」
かつては好きだった……気がする。
だが今となっては嫌な思い出しかない。というかそんな気がする。
何で嫌いなんだろう?
嫌な思い出って何だろう?
本当に嫌な思い出?
何か大切なことを忘れてる気がする。
何か……
「止めときなって」
「!!」
来た。
いつもそう、私が何か大切なものをも出だそうとすると必ずヤツは現れる。
「意睡(いねむり)……」
ボロボロの服を纏いこれまたボサボサの髪を後ろで結った男。
無精ひげを生やし、すべてを見透かしたような表情でにやにや笑い背後のベンチに腰かけていた。
「思い出したってさー、ロクなことなんかないよ。嫌なものは忘れてた方が健康的なの」
不思議なことに彼の言葉と共に私の中にあったざわついた感情がおさまっていく。
「そうそう、それでいいんだよ。思い出すだけ「無駄」なんだから」
「そうね……」
「ミズハちゃんさ、この間は面白いことしてたよね。ほら、トーストの男の子」
不思議な事を言う。
単に欲望が変な方向へ働き自滅した男の話に過ぎない。
「そんなに面白い?」
「だってさ、最後カラスにその子をあげてたじゃないか。ホント、君って出会った時のままだよね」
楽しそうに笑う。
何だろう。
また感情がざわつきはじめる。
単にカラスに餌をあげただけだ。
カラス……餌……人……食べる………
何かが頭の中でぬるりと動いてる感覚がする。
ふと手を見ると何かがこびりついている感触が……
「あっ、いいよ。思い出す必要はない。「無駄」だからね」
彼がそう言うと再び感情のざわつきがおさまった。
変な感覚も、手の違和感も消えていた。
変な男……
彼はニヤニヤしつつ酒瓶を傾けのどに流し込んでいた。
まあ、中身はジュースなのだけど…
「さあ行っといで。新しい物語が待ってる」
そう言うと意睡はすっとベンチに溶け込むように姿を消していった。
3
世の中不公平だと思う。
夏と言えば青春だ。
海で泳いで、山じゃ昆虫採集
BBQやら花火大会やら
一夏のホットロマンスが待っている
でもそれってやっぱ相手がいないと成立しない。
現に俺は今、遊園地で一人ベンチに座っている。
いや、実際は一人じゃない。
先輩とその彼女が一緒だ。
俺は月牙真人
地元の大学に通う1年生でT研と呼ばれるサークルに所属している。
たまたまバイト先のお得意さんが遊園地のチケットをくれたのだが一人で行くのもむなしく
先輩の四季天狗(しき てんぐ)を誘ったところ彼女である火乃輪あげは(ひのわ)もついてくると言い出し先輩のデートに俺が同行するという 謎の図式が完成した。
まあ、冷静に考えれば男同士で遊園地に行くのも変な話だし何で俺は男に声をかけたのだろう。
断じていうが俺はベーコンレタス系ではない。何のことかと?察してほしい。
単に口下手なのだ。
小学校、中学・高校と同級生とどう話していいかわからずとりあえず逃げの気持ちもあってひたすら休み時間は読書にふけっていた。
そうすると周りは壁を作ってると感じたようで見事に友達0状態だった。
大学に入り、T研に入ってようやく人とまあまあしゃべるようになった。そんな人生だ。
さて四季先輩は「よし、現地でナンパしてみるといい」と励ましてくれたがまあ当然のごとく
「ナンパか……」
出来るわけがない。
というかふと疑問なのだが、俺はどういう女性が好きなのだろう?
よくわからない。
一応、男なので彼女とかにあこがれはあるが恋愛とかよくわからない。
やはり、刺激的なものなのだろうか……
「刺激的……」
考えていると
「あなた、面白いカタチだね」
少女が、目の前に立って微笑んでいた。
「え?」
「刺激は人生にとって大きな経験だと思うよ。カレーもちょっとは刺激がないと美味しくないよね。私は甘口と辛口を足してちょうどいい感じにするよ」
何だこいつ。
何故俺はいきなり見ず知らずの少女からカレーについて語られてるんだろうか?
「えっと」
「刺激はあなたのそばに。シ・ゲ・キ・テ・キ」
少女は微笑むとすっと後ろへ滑って行き人ごみの中に消えていった。
意味がわからん。
見た感じ中学生くらいだろうか。
なるほど、あれがいわゆる中二病か……いや、違う気がするな、うん。
4
ふと、ベンチの端にもう一人女性が座っていることに気づく。
腰まで伸びた長い髪
茶色く染めてはいるが見難いものでもなく程よい色合いだ。
「ナンパか」
とりあえずやってみてはどうだろうか。
やってみたけどやっぱダメでしたと先輩にも言えるしもしかしたら意外とそこから刺激的な何かが始まるかもしれない。
だがどう声をかけよう?
最近の女性は一騎当千(自分でも意味不明)。普通の声かけでは見向きもしないだろう。
ならば普通と違うことをしよう。
「やあ。よく、ナンパナンパと言われるけどナンパが独自の意味を持つようになったのは1980年頃でありそのころから独立して動詞に……」
バカか俺は!!
普段からしゃべってないからこんな場面で変なうんちくを披露するんだ。
今、どう考えても俺はただの変人じゃないか。
このまま逃げられるか下手したら警備員を呼ばれるかもしれない。
迅速かつ的確な軌道修正が必要だ。
「とまあ、ちょっと変わった話題から入ったのだが」
ふと、気づく。
女性は微動だにしなかった。
こちらを向きもせず、ベンチに寄りかかりうつむいていた。
さて、どういった状況が推測されるのだろうか。
1.寝てる。そもそも聞こえてない。だがこんなところで寝てしまってはいろいろ危ないだろう。声をあっけて起こしてあげるべきだろうか。
2意外に受けてて笑いをこらえている。うむ、人間ってわからないものだな。
3.恥ずかしがってこちらを向けない。そういう純な女性、嫌いじゃない。
そうだな、総合的に考えて俺は女性の肩をたたいて反応を見ることにした。
「あの、もしもし」
軽くたたいた。
すると女性はそのままバランスを崩し横に倒れ……
ベンチから落ちた。
ゴンッ
鈍くて嫌な音が響く
「え?」
「あの……えっと」
返事がない。
「もしもし、あの……!?」
覗き込んだ時、嫌なものが見えた。
女性の後頭部あたり
花壇の角の部分についた赤いもの。
ペンキの塗り損ない?
いやいや、そうじゃない。
俺は答えを知っている。
これはその、人間の体の中を流れるあの赤いあれだ
「血………ま、まさか」
慌てて手を取り脈を図る。
「何て……ことだ」
脈がない。
つまりはこれ……
「嘘、だろ……」
まずい。
白昼堂々、遊園地での凶行 若い女性の未来を閉ざす凶悪犯
殺す気はなかった 容疑者は殺意を否定
行き過ぎたナンパ
そんな新聞の見出しが頭をよぎる。
「に、逃げる?」
いや、目撃者は多数いる。
逃げたところで無駄だろう。
そう、これは事故だ。
故にすぐ介抱して救急車を呼ぶという選択が考えられる中ではベストの…
「月牙、お前何してんの?」
唐突にかけられた一声
先輩とその彼女だった。
人間というのはおろかなものだ。
パニックを起こすと明らかに間違った行動をとる。
気づけば俺は倒れていた女性を抱き起し寄り添うような形でベンチに座り
「い、今そこで仲良くなったんですよ」
完全なる下手を撃った。
続く