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生命はいかにして誕生したのか?



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こうした問いかけやそれに対する説明は古代から行われていた。遡れば、人類は古くから神話においてそれを行っていた。また、様々な宗教においても古くからそれは行われていたし、現在でも行われている。

古代ギリシャにおいては、「アルケー」つまり万物の起源・根源はなにか、という考察が行われた。それと同様に、哲学者によって、生物の起源に関する考察も行われた。なかでもアリストテレスによる説は、その後およそ二千年間も支持されることになった。

近代でも自然哲学者らが考察を行った。さらに19世紀になり科学者という職業が誕生すると、この科学者たちも同様の考察・研究を行い、生命の起源の仕組みを何とかして科学的に説明しようとする試みが多く行われてきた。

現在、科学の領域における仮説の多くは、チャールズ・ダーウィンの進化論を適用することによって、おそらく最初に単純で原始的な生命が生まれ、より複雑な生命へと変化することが繰り返されたのだろうと推察している。また、われわれヒトの誕生(人間の存在)を分子生物学的に説明するという試みも行われている。だが、生命の誕生の場所は地球上ではなかったとする説を支持する人もいるなど、最終的な解答はいまだに得られていない。

尚、自然科学においては、ただ「生命の起源」と言っても、そこには、生命とは何か(生命の定義)、生命はどこから・どのように誕生したのか(狭義の生命の起源)、生命はどのように多様性を獲得したのか(種の起源)、という問題・テーマが関連してくることになる。

この項では生命起源論を歴史に沿って追うことにし、中でも自然哲学や自然科学における様々な学説に重点を置いて説明することにする。

生命とは何か(生命の定義) [編集]
生命の起源を厳密に論ずるためには、まず生命や生物を定義する必要がある。しかしこれらを明確に定義することは難しい。

一説には「生命とは生物に備わっているもの」であり「生物とは生命をもつもの」であるという循環に陥ってしまうためだともいう。

人間の文化における生物と無生物の区別は習慣的、直観的である。

生命現象を元素の組み合わせである分子化合の総体として解明しようとする分子生物学の方法では両者の区別を立てられない、との指摘がある。近代科学を錬金術の時代から区別するのは、任意の法則で物質の振る舞いを予測・説明する、仮説と検証の方法の確立による。この近代科学の方法は、何より研究の対象を決定論的に取り扱うことを前提としたからである。この問題は有機化学の出発点における「生物の体内でしか生成されない」という有機物の定義が、徐々に曖昧化してしまった歴史とも深い関連がある。

最近の生物学では便宜的に以下の3点の性質によって生物を定義し、生物の(生物として自己を維持、増殖、外界と隔離する)活動の総称を生命と定義することが多い。

外界および細胞内を明確に区別する単位膜系を有する。
自己を複製する能力を有する。
外界から物質を取り込み、それを代謝する系を有する。
ただし、ウイルスは、他の生物の細胞を利用して増殖するが、細胞を構成単位としないため、非細胞性生物または非生物として位置づけられることになる。(詳しくはウイルスの項が参照可能)

生命はどこからきたのか(狭義の生命の起源) [編集]
次に、最初の生命の誕生について概観してみよう。

「生命はどこからきたのか?」という問いは、時代・思想・技術などといった背景の相違によって、論点・観点が変化する。

例えば古代ギリシアのアリストテレスが記した『動物誌』ではミミズやウナギは泥などの無生物から自然に発生するという説明がなされている。この説は詳細な観察に基づいており、生命現象には物質以外の生命特有の何かが働いているとしていた。(現在では生気論と呼ばれている)。

近代に入って発展した自然科学では物理学による説明が試みられている。まず顕微鏡の発明により、動植物の細胞や微生物が観察され、すべての生物が細胞からできているという細胞説が確立され、ルイ・パスツールらによる自然発生説の否定により、現在地球上に見られる生物は、生物からしか生まれないことが証明された。これらの知見により「最初の生命はどこから生じたのか?」という問いが、生物学における大きな命題となった。

具体的なレベルでは諸説あるものの、原始地球の海において、海水に溶けた有機物の化学進化を通じて生じたとする化学進化説が、現代科学において最も有力な学説とされることが多い。というのは、生物の原子組成が海水のそれと類似しているためである。この、化学進化説で想定されている最初期の生命は原始生命体とよばれる。

もっとも、大枠として化学進化説という仮説を採用するとしても、最初のきっかけとなる物質は何であったか? 誕生の場所はどこか? などの諸問題に関しては、様々な説があり、一致しているわけではない。そもそも、現時点では生命の誕生を再現することは困難であり、また化石標本による検証も難しいため、自然科学における最大の難問の一つと言える。

また、化学進化説が生物学者・科学者全員に受け入れられているというわけではなく、パンスペルミア仮説のように地球外で生じた生物に由来するという説を支持している人もそれなりの数いる。

生物が作り出し利用しているアミノ酸の光学異性体の型は、ほぼすべてが左手型であることが知られている(ホモキラリティー)。これは、その理由が昔から問題提起されていたことである。最近、宇宙には多数のアミノ酸分子があることと、宇宙放射線を浴びたアミノ酸は右手型のアミノ酸が破壊されることから、地球の生命の元になったアミノ酸は宇宙から降り注いだのではないかとする説が有力になっている。アミノ酸などの有機物が、隕石が海に衝突する際の化学反応で合成できるという発表もある。[2]

生命は、進化と多様化を繰り返しており、これは生物進化をさかのぼることで、生命の起源を探るアプローチ(#生物進化から生命の起源へ)の有効性を示唆しているともされる。このことから、最初の生命は単純であり、またあらゆる生命は、共通の祖先をもつということが示唆され、現在の自然科学では最初の生命は単純な共通祖先であったという前提で研究が行われている。現在、古細菌を含めた好熱菌や極限環境微生物の研究から、生命の起源に近いとされる生物群の傾向が明らかになってきている、ともされる。

生命はどのように多様性を獲得したのか [編集]
詳細は「進化」、「生物多様性」をそれぞれ参照

ヒトのような複雑な生命がどのようにして生じうるのか(種の起源)という問いかけには、進化と生物多様性の概念によって手がかりが与えられた。この、進化を説明する理論には、ダーウィンの自然選択による進化と、メンデルの遺伝子の理論を統合した、進化の総合説と呼ばれるものがある。

アリストテレスの自然発生説 [編集]
生命の起源に関する最初の体系的な学説は、紀元前4世紀にアリストテレスが唱えた『自然発生説』だとされている。「生物は無生物から自然に生ずる」という主旨のものであり、前4世紀から17世紀までの、実に二千年もの長きにわたり支持された。

アリストテレスは、『動物誌』や『動物発生論』において、昆虫やダニなどは、親以外からも露や泥やゴミや汗から自然に発生し、エビやウナギといった動物らも泥から生じる、とした。アリストテレスは解剖や詳細な観察に基づきこの説を立てた。[3]

自然発生説の否定 [編集]
レディの実験 [編集]
1665年にイタリア人医師フランチェスコ・レディによって、長らく支持されていた自然発生説を否定する実験が行われた。レディは以下のような実験を行った。

2つのビンの中に魚を入れる。
一方のビンはふたをせず、もう一方のビンは布で覆ってふたをする。
そのまま、数日間放置する。
結果、ふたをしなかったビンにはウジがわくが、ふたをしたビンにはウジはわかなかった。
この実験の素晴らしいところは、フタをしたビンのほかに、フタをしなかったビンを用意したことである。この方法は対照実験と呼ばれ、現在でも応用がなされている。本実験と対照実験の中で違いを見つけていくことは、科学的方法に基づいたあらゆる実験の基礎とされる。

しかしながら、この実験では目に見えない細菌などの微生物が発生した可能性を否定できない点で不完全であった。またビンや布が真に生命を有していないのかが論じられていない。他にも多くの間違いは指摘できるが、顕微鏡が発明されていない当時では微生物の存在を確認することが困難であった。事実、微生物がアントニー・ファン・レーウェンフックによって発見されると、微生物の自然発生説に関する論争は避けられなくなった。

パスツールの実験 [編集]
この後、衛生学的な必要性から微生物学が発展し、無菌状態、即ち生命の存在しない状態を作り出すことが可能になった。ルイ・パスツールは微生物学の発展に貢献した中心的な人物であり、1860年代に微生物の発生について調べるために、白鳥の首フラスコを用いた実験系を考案した。実験の概要は以下の通りである。


ルイは、このような白鳥の首フラスコを2つ用意し、対照実験を行ったと考えられている無処理の肉汁エキスを入れたフラスコを二つ用意する。
フラスコの首を白鳥の首状に変形させ、首の途中にある程度の水分が溜まる様に加工する。
肉汁を入れたフラスコの一方を煮沸する。蒸気は白鳥の首を伝って外部に出る。
フラスコ内部はこの段階で無菌となる。
煮沸しなかったフラスコでは腐敗が起こるが、煮沸したフラスコは長期間放置しても腐敗しない。
ただし白鳥の首を折ると腐敗が起こるようになる。
この実験は、空気中に存在するカビや細菌の胞子が白鳥の首にトラップされてフラスコ内部まで侵入しないことを仮定している。これによって自然発生説を否定する上で決定的な証拠が提示され、アリストテレスの説にまつわる論争には決着がついた。

この段階で初めて、生命の起源に関する科学的な論争が始まった。

ちなみに、パスツールはあくまで自然発生説を反証する実験的を行なっただけであって、生命の起源に関する実験は行なっていない。これは、生命の起源に関する問題は、実験的に証明できるものではないと考えたからだ、と言われている。(詳細は自然発生説を参照)

化学進化説 [編集]
化学進化説は、「無機物から有機物がつくられ、有機物の反応によって生命が誕生した」とする仮説であり、現在の自然科学ではもっとも広く受け入れられているものである。化学進化説を最初に唱えたのはソ連の科学者オパーリンである。

有機物の生成、蓄積を説明する実験や説としては、ユーリーとミラーによる実験に始まり、バーナルらによる表面代謝説や、彗星からもたらされた、とする説などがある。

パスツール以降、1922年にオパーリンが『地球上における生命の起源』と題する本を出版するまで、生命の起源に関する考察や実験が行われたことはなかった。この本は生命の起源に関する科学的考察のさきがけとなった。彼の説は『化学進化説』と呼ばれる他、『スープ説』、『コアセルベート説』等と呼ばれている。これはこれらの『化学進化説』が生命の起源に関する段階で多くのものを含んでいるからである。化学進化説は最も理解が簡明かつ、基本的な生命発生のプロセスであり、これらの細かなプロセスごとに様々な仮説が提示されているが、その基本は化学進化に依る。オパーリンの生命の起源に関する考察は以下の要点にまとめられる。

原始地球の構成物質である多くの無機物から、低分子有機物が生じる。
低分子有機物は互いに重合して高分子有機物を形成する。
原始海洋は即ち、こうした有機物の蓄積も見られる『有機的スープ』である。
こうした原始海洋の中で、脂質が水中でミセル化した高分子集合体『コアセルベート』が誕生する。
『コアセルベート』は互いにくっついたり離れたり分裂したりして、アメーバのように振る舞う。
このようなコアセルベートが有機物を取り込んでいく中で、最初の生命が誕生し、優れた代謝系を有するものだけが生残していった。
この化学進化説を基盤として、生命の起源に関する様々な考察や実験が20世紀に展開されることとなる。なお、化学進化説で論じられている初期の生命は有機物を取り込み代謝していることから『従属栄養生物』であると考えられている。(栄養的分類を参照)

ユーリー-ミラーの実験 [編集]

ユーリー-ミラーの実験の概念図オパーリンの唱えた『化学進化説』ではその第一段階として『窒素誘導体の形成』が行なわれるとされていた。そのことを実験的に検証したのが1953年、シカゴ大学ハロルド・ユーリーの研究室に属していたスタンリー・ミラーの行なった実験である。その実験は『ユーリー-ミラーの実験』として知られており、生物学史上、最初の『生命の起源』に関する実験的証明である。

ユーリー-ミラーの実験の趣旨は以下の通りである。

当時、原始地球の大気組成と考えられていたメタン、水素、アンモニアを完全に無菌化したガラスチューブに入れる。
それらのガスを、水を熱した水蒸気でガラスチューブ内を循環させる。
水蒸気とガスが混合している部分で火花放電(6万ボルト)を行う(つまり、雷が有機化の反応に関係していたと考えている)。
1週間後、ガラスチューブ内の水中にアミノ酸が生じていた。
この1週間の間に、アルデヒドや青酸などが発生し、アミノ酸の生成に寄与したと考えられている。ユーリー-ミラーの実験で用いられた大気組成は、当時考えられたものであり、現在考えられているものとは若干異なっている。

アポロ計画によって持ち帰られた月の石の解析結果から、地球誕生初期には隕石などの衝突熱により、地表はマグマの海ともいえる状態にあり、原始大気の組成は二酸化炭素、窒素、水蒸気と言った現在の火山ガスに近い酸化的なガスに満たされていたという説が有力になった。よって、還元的環境を基礎とするユーリー-ミラーの実験を支持しない研究者もいる。

ユーリー-ミラーの実験で発生した4,5種のアミノ酸(グリシン、アラニン、アスパラギン酸、バリン)を基準に遺伝暗号がタンパク質から生まれたとされる仮説に、GADV仮説がある。

なお、ユーリー-ミラーの実験の応用として、放電や加熱以外にも、様々なエネルギー源(紫外線、放射線など)が試験され、その多くの実験が有機物合成に肯定的な結果を示しているという。

簡単な物質から複雑な有機分子が生成することを示した点でユーリー-ミラーの実験は大きな意義を持つ。また、生命の発生との関連では、ホモキラリティー、即ちアミノ酸を例にとると、どの様にL-アミノ酸が選択されたかという問題が、次に重要な課題となる。

表面代謝説 [編集]

黄鉄鉱の表面でのギ酸生成は発エルゴン反応(自発反応)である1959年、ジョン・バーナルによって「粘土の界面上でアミノ酸重合反応が起きる」とした『粘土説』が提唱された。何らかの界面は化学反応が起き易くなっており、化学反応の触媒としての機能を界面が有することは当時から良く知られていた(詳しくは酵素の項を参照)。この説自体は、赤堀四郎によって提唱された『ポリグリシン説』を基にしている。

こうした界面上で有機物が発生し、それらがポリマーに進化していく様子をさらに具体的に論じたのが1988年発表の『表面代謝説』である。論文の筆者はドイツ人弁理士ギュンター・ヴェヒターショイザー(ヴェヒタースホイザー; G.Wachtershauser)である。表面代謝説の主な趣旨は以下の通りである。

黄鉄鉱(FeS2)表面で有機物の重合反応を含めたあらゆる化学反応が発生した
初期の生命は単位膜によって覆われず、黄鉄鉱表面に存在する代謝系が生命であった
黄鉄鉱界面上に発生した代謝系は独立栄養的(二酸化炭素などの無機化合物を炭素源とする)生物であり、最初に生まれた生命は独立栄養生物である
黄鉄鉱界面上で発生した、イソプレノイドアルコールは古細菌脂質を構成する物であり、単位膜によって覆われた最初の生命は古細菌である
ほか、多くの主張が見られるが、単位膜系を有しない点、自己複製能力を有しない点で、表面代謝説は生命の定義から逸脱する。しかし、生命の定義というものを再認識させたと言う点で興味深い主張である。

オパーリンの化学進化説の主張によると、初期の生命体は有機物スープを資化していった従属栄養生物だったが、表面代謝説では炭酸固定を行なった独立栄養生物であるとの主張がなされている。その証拠として、以下のギ酸生成式があげられる。

CO2 + H2 → HCOOH (G0'= 30.2kJ/mol)
FeS + H2S + CO2 → FeS2 + H2O + HCOOH (G0'= -11.7kJ/mol)
1行目は吸エルゴン反応(非自発反応)でありエネルギーの外部からの投入を要求する。2行目は黄鉄鉱上でのギ酸生成反応であるが、これは発エルゴン反応(自発反応)であり、黄鉄鉱上で有機物の生成がおきやすいことを示している。

さらに、こうした有機物生成反応のみならずグリセルアルデヒド-3-リン酸およびジヒドロキシアセトンリン酸は、リン酸基(負に荷電している)が黄鉄鉱界面(正に荷電)に吸着され、配向を保ったお互いの分子が重合するという反応が発生し、生成物としてリン酸トリボースという、そのままDNAやRNAの材料となる糖新生反応が起きる。このトリボースにイミダゾール環であるプリン、ピリミジン塩基が結合することによりTNA(トリボ核酸)が生成し、DNAやRNAの雛形となる。グリセロリン酸を基点として各種アミノ酸が生じるモデルも提唱されている。

膜脂質については、前述のイソプレイノイドアルコールの生成モデルがある。イソプレノイドアルコールは脂肪酸に比べて、界面に吸着しやすいため重合反応が見られる。極性脂質誕生以降、ある濃度で脂質がミセル化し、同時に生じたRNA、DNA、タンパク質なども同時に遊離し、そうしたミセル化した脂質の袋こそが、祖先型の古細菌であるとヴェヒターショイザーは主張している。

表面代謝説は、一見非常に理論的で明快な結論を引き出しているようだが、以下の説明が不十分であるために不完全な理論であると言える。

古細菌から真正細菌への分化の原因
転写、翻訳の成立
能動輸送系の成立
溶媒中で効率の良い触媒(酵素)の形成過程
しかしながら表面代謝説は深海熱水孔周辺に黄鉄鉱が多く見られることから、熱水孔を生命の起源と支持する学者の間では人気のある仮説の1つである。事実、黄鉄鉱上で酵素の関与無しに代謝系が生じる可能性を示唆した点は非常に興味深い。また、生命の定義にも波紋を投げかけた点において、生命の起源に関する説得力ある仮説として支持され続けている。

生物進化から生命の起源へ [編集]

全生物を対象にした系統樹。3つのドメインを3色で表している。青が真正細菌、赤が真核生物、緑が古細菌、真ん中付近が共通祖先化学進化説に関する考察や実験は、無機物から生命への進化を論じたものであり、1980年代まではそのような流れが支配的であった。1977年、カール・ウーズらによって第3のドメインとして古細菌が提案されると、古細菌を含めた好熱菌や極限環境微生物の研究が進行した。これらの研究から、生命の起源に近いとされる生物群の傾向が明らかになってきた。これにより生物進化から生命の起源を探るというアプローチが可能となった。

生命誕生以降の生物進化から生命の起源を探る試みは、化学進化とは異なり非常に多くの生命のサンプルを要する。多くのサンプルを用いながら、真正細菌、古細菌、真核生物の系統樹を描くことから、そうした試みが始まったと言える。進化系統樹を描く試みは従来、低分子のタンパク質アミノ酸配列(フェレドキシン、シトクロムcなど)を元にしたものが多かったが、DNAシークエンシング法やPCR法の確立などにより、より大きなデータを取り扱うことが可能になってきた。そうした生物の系統関係を論じるうえで最も一般的なものが16S rRNA系統解析である。また、コンピューターの計算能力の発展もその一翼をになった。

16S rRNA系統解析による3ドメインを含めた系統樹は、生命の起源が単系統であるか否かを論じるには当たらない無根系統樹である。しかしながら複数のDNA配列データを基に系統樹を作成すると系統樹に根をつけることに成功した(これは、生命の起源が単系統であることを系統樹上で意味する。こうした生物を共通祖先と言う)。そのような3ドメイン分子系統樹によると、共通祖先に近い原始的な生物は好熱性を示すものが多く見られることが判った。

例えば、真正細菌の根に一番近いのはAquifex属(超好熱性水素細菌)やThermotoga属(超好熱性水素細菌)である。そして古細菌は真正細菌に比べて系統樹の長さが短く(進化速度が遅く)原始的な性質を反映したが、根に近いものは好熱性のものにしめられていた(Thermococcus属、Thermoproteus属など)。また、好熱菌は概してゲノムサイズが小さい傾向にあり、これは共通祖先のゲノムサイズも小さいものであったことを示唆している。

3ドメイン分子系統樹の共通祖先はある時期に真正細菌および古細菌に分岐したことを示しているが、その祖先がいずれの性質を示していたのかと言う命題に対しては中立的である。真正細菌および古細菌は同じ原核生物であるものの、生体膜脂質の構造や転写、翻訳機構などの相違により、別系統の生物と言わざるを得ない。どのようにして、なぜ、共通祖先が真正細菌と古細菌に分かれたのかは今なお良く分かっておらず、今後の研究が待たれる。

なお、系統樹を用いた共通祖先を探る試みは定量的であるものの、別の遺伝子を使用すると時として真正細菌の枝の中に古細菌が入ったり、真核生物の枝の中に古細菌が入ったりと、統一的な見解が得られているわけではない。これは、遺伝子の水平伝播が盛んに起こっていると考えられている原核生物間の遺伝子のやり取りが影響していると考えられており、系統樹のみに依存すると本質を見誤ることを示唆している。系統樹を参照してください。

古細菌、真正細菌の細胞内共生説、原始生命体のゲノムサイズや性質については原始生命体の項を参照してください。

化学合成独立栄養生物群の世界 [編集]
生命の起源の考察の中に、最初の生命は独立栄養的か従属栄養的か(炭素源は無機化合物であるかどうか)という論争は絶えない。しかし1970年代に深海熱水孔がアルビン号によって発見されたときから独立栄養生物を支持する説がいくつか上がってきている。

深海熱水孔の発見は当時、深海はほとんど生物の存在しない世界であるとされていた学説を一変するものであった。太陽エネルギーの存在しない深海で、原核生物や多細胞生物を含めた真核生物が独自の生態系を形成している様子は、多くの学者を驚かせた。

地上の生態系は、植物が一次生産者となり、動物を消費者、細菌や菌を分解者とする太陽エネルギーに依存した物質の流れが基本である。しかしながら深海熱水孔においては、熱水孔から排出される還元物質を酸化しながら炭酸固定をしている化学合成独立栄養生物(硫黄酸化細菌など)が一次生産者であった。こうした、太陽エネルギーに依存しない生態系の発見から、生命の起源は還元的物質が地球内部から発生する深海熱水孔に由来するのではという説が現れるのは自明の理であった。

また、深海熱水孔のみならず、海底あるいは地上を掘削すると地下5km程度まで化学合成独立栄養細菌群の支配的な生物圏が存在することが明らかになった。これが『地下生物圏』の発見であり、地下数kmで発生した化学合成独立栄養生物を生命の起源とする新たな説も現れている。

新しい化学進化説 [編集]
DNAを遺伝情報保存、RNAを仲介として、タンパク質を発現とする流れであるセントラルドグマは一部のウイルスの場合を除いて、全ての生物で用いられている。1950年代から、これら3つの物質のいずれが雛形となったのかが、論じられてきた。そうした説の名称がDNAワールド仮説、RNAワールド仮説、プロテインワールド仮説である。

この3つの説を統一するような見解は得られておらず、情報の保存、触媒作用を争点にいまだ論争が絶えない。なお、これらの説を一部融合させたDNA-プロテインワールド仮説のような説も存在する。

DNAワールド仮説 [編集]
セントラルドグマが生命誕生以来、原則的なものであれば、まずはじめに設計図が存在していたと考えるべきであるが、DNAワールド支持者はRNAやプロテインワールドに比べて分が悪い。なぜならDNAは触媒能力を有しないとされていたからである。

2004年にDNA分子を連結させるDNAリガーゼ機能を持つデオキシリボザイムが発見された。[4]デオキシリボザイムは、遺伝情報の安定性と触媒能力を有するが、触媒効率は非常に低い。触媒効率の高いデオキシリボザイムが発見されれば、DNAワールド仮説の復権が期待できると思われる。

RNAワールド仮説 [編集]
詳細は「RNAワールド」を参照

RNAワールド仮説は、「初期の生命はRNAを基礎としており、後にDNAにとって替わられた」とするのものである。1981年、トーマス・チェックらによって発見された触媒作用を有するRNAである『リボザイム』がその根底にある。また、レトロウイルスによる逆転写酵素の発見もその拍車となった。RNAワールド仮説の趣旨は以下の通りである。

RNAは自己スプライシングやrRNAの例もあり、自ら触媒作用を有している
RNAはRNAウイルスにおいては遺伝情報の保存に役割を果たしている
RNAはDNAに比べて変異導入率が高く、進化速度は速い
RNA自体が触媒作用と遺伝情報の保存の両者をになう点は、生物学者に大きなインパクトを与え、RNAワールド仮説は、いまだ生命の起源の論争の中でも主たる考察であると言える。しかしながら、RNAワールドを否定する意見としては、以下の点があげられる。

リボザイムの持つ自己複製能力は、それ自体では存在しない
リボザイムの触媒能力はタンパク質のそれに比べてきわめて低く、特異性も存在しない
RNAは分子構造が不安定であり、初期の地球に多量に存在したであろう、紫外線や宇宙線によって容易に分解を受ける
しかし、特異性に関しては近年ではハンマーヘッド型リボザイムを筆頭に顕著な改善が認められる。

プロテインワールド仮説 [編集]
プロテインワールド仮説は、「タンパク質がまずはじめに存在し、その後タンパク質の有する情報がRNAおよびDNAに伝えられた」とする仮説である。RNAワールド仮説と双璧をなす生命の起源に関する考察のひとつであり、近年プロテインワールドを支持する化学進化の実験結果が多く得られている。プロテインワールド仮説の趣旨は以下の通りである。

タンパク質は生命反応のあらゆる触媒をになっており、代謝系を有する生命には必須である
20種類のアミノ酸から構成されており、多様性に富んでいる
セントラルドグマのあらゆる反応に酵素の触媒は関与している
ユーリー - ミラーの実験で生じた、4種のアミノ酸(グリシン、アラニン、アスパラギン酸、バリン)を重合させたペプチドは触媒活性を有している(GADV仮説)。
さらにそれらのアミノ酸の対応コドンはいずれもGからはじまるものであり、アミノ酸配列からDNA、RNAに情報が伝達された痕跡であると考えられる(GNC仮説)。
GADV仮説は奈良女子大学の池原健二教授によって提唱されたプロテインワールド仮説を支持する新説である。この説により、プロテインワールド仮説がより重みを増したと言える。しかしながらプロテインワールド仮説にも以下の反証があげられる。

ペプチドには自己複製能力が存在しない
タンパク質もRNAほどではないが、分子構造が不安定である
ランダムに重合したアミノ酸から特定のコンフォメーションを有する酵素等が自然に出来上がるとは考えにくい(サルが適当に打ったタイプはシェークスピアとなるか?)
第一の点に関しては鋳型とモノマーを材料としたポリマライゼーションのみを自己複製とするなら指摘の通りだが、広義の自己複製ならその限りではない

パンスペルミア仮説 [編集]
パンスペルミア仮説は、「生命の起源」について人々が知らぬ間に前提条件としてしまっていることについて注意を喚起するもので、「地球上の最初の生命は宇宙からやってきた」とする仮説である。「胚種広布説」あるいは「宇宙播種説」と訳されている。この説のアイディア自体は1787年アッペ・ラザロ・スパランツァニ(スパランツァニも自然発生説を否定した実験で有名である)によって唱えられたものである。この後、1906年にスヴァンテ・アレニウスによって「パンスペルミア(仮)説」という名前が与えられた。

オパーリンの論じた化学進化よりも時代的に先行している生命の起源に関する仮説の一つであるが、仮説とするには余りにもブラックボックスが多いと考える学者は大勢いた。一見、判らないものは宇宙に由来させよう、という消極的な考えに見えるが、「地球上で無機物から生命は生まれた」ということを否定しているのみで、また化学進化は否定していない。

アレニウスによる、より具体的なパンスペルミア仮説の主張として、以下の文章をあげたい。

「生命の起源は地球本来のものではなく、他の天体で発生した微生物の芽胞が宇宙空間を飛来して地球に到達したものである。」
前述の通り、生命が宇宙のどこかで発生したという説は一見消極的に見えるが、この説は化学進化と同様現在でも支持されている学説の一つである。このパンスペルミア仮説を支持する点は以下の通りである。

38億年前の地層から真正細菌らしきものの化石が発見されている。地球誕生から数億年でこのようなあらゆる生理活性、自己複製能力、膜構造らしきものを有する生命体が発生したとは考えにくい。パンスペルミア説では有機物から生命体に至るまでの期間に猶予が持てる。
宇宙から飛来する隕石の中には多くの有機物が含まれており、アミノ酸、糖など生命を構成するものも多く見られる。
地球の原始大気は酸化的なものであり、グリシンなどのアミノ酸が合成されにくい。地球外にはユーリー-ミラーの実験に相当する還元的な環境があったかもしれない。
他にも多くの主張が見られるが、多くはSFと科学の境界領域に属するため、割愛する。特に、地球誕生後数億年で生命体が発生したと言う点で、パンスペルミア仮説が支持されることが多いが、この数億年は生命の発生にとって短いのか、長いのか、その辺りの論証がなされない以上、パンスペルミア仮説の妥当性を判断するのは難しいと言える。なお、この説の支持者としてはDNA二重螺旋で有名なフランシス・クリックほか、物理学者・SF作家のフレッド・ホイルがいる。


http://nihon.matsu.net/seimei/03.gensiseimei.html

 生命を構成する成分がどこから作られたかには、いくつかの説があります。隕石から供給された説、大気中のメタンや二酸化炭素に放電が起こり作られた説、海の満ち引き時に汐だまりに生命のスープがたまり、アワが作られた説などです。
 今一番信憑性が高いとされているのは、海底火山の噴出口付近の高温・高圧の環境の元で、メタンやアンモニアから硫化水素の還元でアミノ酸などの有機物が作り出されたという説です。

 いずれにせよ最初はアミノ酸が化学的にくっついたり離れたりしているだけだったものが、次第に自己の形を持ち増殖することが出来るようになり、生命というものになっていったようです。フラスコ内の実験でも、ある種の有機物が自分の周りと物質交換をしたり、粒子を成長させたりすることが確認されています。分かりやすいところでは、遺伝子もないのに増殖をできる存在としてプリオンのようなものもあります(厳密には、隣の正常タンパク質を異常タンパク質に転換させるので、"自己の複製"ではありませんが)。

 いろんな有機物の種類が形成される中で、より効率的に増殖できる能力を持ったものが増殖していき、その“子孫”を殖やしていきました。
 「より、増える能力を持ったものが増えていく」という法則は、今に至るまで、生命の進化を貫く、基本的な原理となっています。


 最初の生命は地球誕生から8億年たった、約38億年前頃に誕生したといわれています。海の誕生が約40億年前といわれているので、海の誕生からまもなく生命はできたことになります。

 その生活場所は海底火山の噴出孔付近と言われています。
 地表には有害な紫外線などが降り注ぎ、生命が住める環境ではありませんでした。最初の生命は光の届かない海の奥底で噴出口から出される硫化水素を分解することによりエネルギーを得ていたようです。


 現在でもその末裔と思われる細菌類が存在します。海底の噴出口付近の数百度に達する環境の中で、大昔と変わらぬ暮らしをしている生命も地球にはあるのです。

 原始の生命は一つの細胞でできた単細胞で、核膜を持たず遺伝子が細胞膜の中に存在する原核生物でした。必要最低限な遺伝情報しか持たず体も小さな彼らは、硫化水素を食べながら細々と暮らしていました。

 生命にとって、まだ光は遺伝子を傷つけ命を奪う存在です。暗闇の中で光を避けながら、次の段階に進むにはまだ気の遠くなるような時間が必要です。