精神科エッセイ2
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精神科エッセイ2をここから続けます(H.16.2.26〜5.18の分までこのページにあります。H.16.7.1〜の分がその後に続きます。ここでは統合失調症、痴呆、児童思春期精神疾患(ADHD、摂食障害、PTSD、抜毛症、解離性障害、不登校など)、境界性人格障害、パニック障害、全般性不安障害、強迫性障害、社会恐怖、初期分裂病、ECT、睡眠相後退症候群、睡眠薬、軽症うつ病、非定型うつ病、脆弱性ーストレスモデル、感情表出について主に書いています)。
統合失調症(従来の精神分裂病)について、いよいよお話しすることにしましょう。統合失調症は精神病院の入院患者さんの中では、もっとも多い病気です。20歳前後に病気になる人が多く(10代から40歳近くまでばらつきはありますが)、おおよそ100人に1人がこの病気にかかります。確率的にいうと、100人の学年なら、そのうち1人は統合失調症になる計算になります。決して珍しくない病気であることが、この数字からもわかります。
慢性に治療が必要になる重大な病気です。現在のところ「患者の脳の一部が、ほかの人に比べて敏感すぎるのではないか?」といわれています。敏感な脳が、環境の変化やストレスによって症状を生むようです。
少し専門的に言いますと、主として思春期以降に発症し、幻覚、妄想をはじめとする異常体験を訴えるなど特異な症状を示し、しばしば慢性に経過し、放置すると自我障害、感情障害、意欲障害、思考障害、人格障害をきたし、精神荒廃状態に陥る可能性のある予後不良な原因不明の精神障害といえます。
原因不明と書きましたが、脳のドーパミン作動性ニューロンの異常を始めとした様々な原因が推測されています(H.16.2.27)。
症状には不眠、食欲不振、元気がない、不安、緊張、身体の不都合といった他の病気でもみられるものがあり、最初にこのような症状が気付かれる場合があります。仕事や学校などの普段の生活ができなくなってしまったり、人との付き合いがうまくいかないという変化がみられます。
また、目立つ症状として「(いないはずの)人の声が聞こえる。悪口を言われる」などと訴える「幻覚(幻聴)」、「人から見られている。見張られている。意地悪をされる。暴力団が殺しに来る。毒をもられている」などありえないことを確信する「妄想」、話の筋道が通らなくなりめちゃくちゃな会話になってしまう「連合弛緩」。落ち着かず、極端に興奮したり、怒りっぽい、奇妙な行動をするなどの異常もみられます。これら幻覚や妄想を陽性症状といいます。
反対に、感情の動きが鈍くなり(感情鈍麻)、やる気がなくなったり(意欲減退)、だらしなくなって日常生活も十分にできない、部屋の中に閉じこもってしまう(自閉)などの変化も起こります。これらは陰性症状と呼ばれます。
また自分の状態を病気とみないことも多くの例でみられます(病識欠如)(H.16.2.28〜3.2)。
診断は身体や脳の他の病気や、覚醒剤など特殊な薬の影響でないことを確認します。その上で、上記の目立つ症状の有無などを調べて診断します。
治療は「敏感な脳」に対してまず、抗精神病薬という薬を使います。抗精神病薬は現在たくさんの種類がありますが、作用は次の3つの要素が基本です。すなわち、1.気持ちを落ち着ける効果(鎮静効果)、2.幻覚、妄想を弱める効果(抗精神病効果)、3.元気をつけ、意欲を出させる効果(賦活効果)です。抗精神病薬の薬理作用は、この3つのバランスでだいたい説明できます。たとえば興奮の強い患者さんには鎮静効果の強い薬が必要です。意欲減退して無為な生活が続く患者さんには賦活効果が強い薬を使います。幻聴などの強い患者さんには抗精神病効果の強いもの・・という具合にです。
副作用には手足のふるえ(振戦)、やこわばり(筋強剛)、よだれ(流ぜん)、口の渇き(口渇)、立ちくらみ(起立性低血圧)、眠気、だるさ(全身倦怠感)、生理不順などがあります。しかし副作用には一般に重大なものは少なく、薬の種類や量の調節、補助薬(副作用止め)の追加で対応できます。薬は、目立つ症状に効きやすい、続けて飲む必要がある、その人の状態にあった薬を飲むなどの注意が必要です(H.16.3.3〜3.4)。
その他、日常生活の指導を行ったり、作業やレクリエーションを通じて症状の軽減をはかることも重要です。また主として会話を用いて本人の苦痛に共感し、安心を与えたり、本人の誤った考えを正す、苦手な部分を援助するなどの精神療法も行います。いずれの場合も根気のあるかかわりが必要となります(H.16.3.5〜3.6)。
家族の方は、大切な家族の一員が精神病になったことで、大変なショックを受けると思います。なかには自分たちの育て方が悪かったからだとか、家系が悪かったとか「原因さがし」をしたり、何かの罰ではないかと考える場合もあるようです。しかし有効な考えは「脳という身体の一部が調子を崩した」と考え病気として対応することだと思われます。
また患者さんは望んで病気になったのではないことは、確認すべきです。「なまけ」に見えるときや、「わざと意地悪をしている」ように見えることもありますが、多くの場合患者さん自身が病気のために苦しんでいるのです(H.16.3.7〜3.8)。
お断りが遅れましたが、この統合失調症(精神分裂病)の項は、私が以前に勤務していた病院の院長先生の作成された、家族指導用のパンフレットを参考にさせていただいています。
ここからあとは、前にも述べたところですが、重要なことなので、繰り返させていただきます。統合失調症は再燃の多い病気ですが、そのきっかけとして、1.抗精神病薬の中断、2.家族が患者に批判、敵意、過保護をもって接する、3.生活や人生上の過度のストレス、などがあげられます。
周囲の人は、本人の苦痛、病気のためにできないことを考え、服薬を確実にさせ、思いやりをもって暮らす必要があります(H.16.3.9〜3.10)。
患者は「融通がきかない」「変化が苦手」「抽象的な考えが苦手」などといった行動上の特徴があります。したがって「分かりやすく、具体的に」「繰り返しをいとわず」指導します。仕事で「適当にやっておいて」というのは患者には苦痛なことがあります。きちんと手順を示します。一般に、人を相手にする仕事、あまりに細かい仕事、状況をみて判断していく仕事、本人のペースでできない流れ作業などは苦手とされています(H.16.3.11〜3.12)。
少し中休みを・・。かつて痴呆老人の方が、食事を摂れず、点滴も難しくなったので胃ろうを作るため、他院に受診に出したことがあります。胃ろうとは腹部に簡単な手術をして穴をあけて直接流動食を滴下させる仕組みのことですが、胃ろうをする際にはまず胃カメラで胃に異状のないことを確かめます。その胃カメラで、なんと胃潰瘍がみつかってしまって、胃ろう造設は胃潰瘍治療のあとということになりました。その痴呆の方は徘徊がひどく家族も手を焼いて入院になって1か月めくらいだったんですが・・。徘徊ができず狭い病棟に閉じ込められてストレスが溜まっていたんでしょうか?胃潰瘍はストレスだけでなるのではなく、最近はヘリコバクター・ピロリという菌の有無もおおいに関係があるといわれていますので、入院したストレスだけで潰瘍になったのかどうか何とも言えませんが、判断力、思考力の低下した痴呆老人でも潰瘍にはなるという一例です(H.16.3.13〜3.14)。
患者さんが何かを訴えて来たり、相談してきたときは、必ずしも長い時間でなくてもよいので、原則として訴えに共感し、親身になって聞いてあげること。「あまり気にせずに」「気楽に」「忙しいからまた今度」などは原則禁忌です。苦痛に共感することが重要です。人格障害など特殊な病態では事情は異なる場合もあります(H.16.3.15)。
学校の先生だと生徒さんが卒業してからも、先生のお宅へ遊びにいったり、年賀状のやりとりをしたりといったことがありますが、精神科の患者と医師の間ではそのようなことは原則としてありません。分裂病(統合失調症)の患者さんは児戯性といって、50代や60代の患者さんでも青少年のように子供っぽく、自分より年上でも可愛くさえ思うこともあります。しかし少なくとも私の場合、多くの精神科医も同じだと思いますが、プライベートなことや自宅の場所、電話番号などを患者さんに話すことはしません。あくまでも医師と患者として適度な距離をおくことにより、診療もスムーズにゆくものと思います。訴えに共感し、親身に話を聞くべきと書きましたが、思い入れのしすぎで治療関係が近くなりすぎるのは問題です。治療者も負担にならない適度な治療距離が必要です。人格障害の治療では特にこの「適度な距離」が必要となります。また知人などから、家族の精神状態について相談を受けることがありますが、診療の場でなく知り合いからの伝聞で安易にアドバイスをすることの怖さも知っておくべきだと思います(H.16.3.16〜3.19)。
患者さんが治療者に対して持つ好意的な感情を陽性転移といいます。また患者さんが治療者に対して持つ不快な感情を陰性転移といいます。陽性転移があるからといって、手放しで喜んだり、必要以上に患者さんに入れ込み過ぎるのは禁物です。陽性転移を持っている患者さんにも適度な治療距離が必要です。また「あんたの出した薬のおかげで、頭をおかしくされている」という妄想を持っている患者さんがいたとしますと、これは陰性転移の一種ですが、必要以上にその患者さんを嫌うこともまたあってはなりません。前にも述べました妄想に対して「不思議がる」対応など適切な精神療法をほどこす必要があります(H.16.3.20〜3.21)。
精神分裂病(統合失調症)の話にもどりましょう。この項は少し難しいので読み飛ばして下さい。統合失調症とは「主として思春期以降に発症し、幻覚、妄想をはじめとする異常体験を訴えるなど特異な精神症状をしめし、しばしば慢性に経過し、放置すると自我障害、感情障害、意欲障害、思考障害、人格障害をきたし、精神荒廃状態に陥る可能性のある予後不良な原因不明の精神障害」ということになります。但し予後不良と書きましたが、人格荒廃などの少ない、人格的な予後は良好なものもあります。従来「非定型精神病」と呼ばれた一群に近いものです。また「原因不明」と書きましたが、単純なものではありませんが、原因の一部は研究などで突きとめられつつあります。
アメリカ精神医学会の診断基準では1.奇異な妄想、幻聴あるいは思考障害が存在する、2.病前の社会機能レベルからの退行、3.慢性の経過、症状の持続は6か月以上、4.器質性の精神障害でない、などが挙げられています。6か月たたないものは統合失調症じゃなくて6か月たったとたんに突然統合失調症になるのかというと、字句通りいうとその通りなんですが、要は幻覚妄想など一見統合失調症みたいな症状があっても1か月間だけとか短期間でおさまるものは「心因反応」の一種であり、本当の精神病とは異なるという意味なんです。(H.16.3.22〜3.23)。
先日相談を受けた「うつ状態」らしき娘さんの親御さんから、また相談を受けました。仕事を休んだ方がよくなるといわれたのだが、休んだら治りますかねというんです。親御さんとしては「治ります」という言葉が欲しいのでしょうが、実際に診察もしていない上、本当にうつ病、つまり感情病圏なのかも疑問が残ります。若い方のうつ病ならば適切な治療をほどこせぼ完治し、人格の荒廃なども残しませんが、「元気がない」など非特異的な症状は精神病圏でもみられます。つまり診断名もはっきりしていない訳です。診察の場でのコメントではないので責任がないといえばそれまでですが、このように伝聞による相談の場合ちょっと返事に困ることが多々あります(H.16.3.24〜3.25)。
統合失調症の思考障害で代表的なのは連合弛緩(支離滅裂)と妄想です。連合弛緩とは考えがまとまらなくなって、このため言うことが意味の通じないまとまらない内容となり、何を言っているのかわかりにくくなることです。程度のひどい場合は支離滅裂と言って、患者さん本人は一生懸命喋っているのですが、何を言っているかほとんどわからなくなってしまいます。妄想とはご承知のように誤った内容の考えを強く確信しており、適切な証拠によっても訂正できないものをいいます(H.16.3.26〜3.27)。
日頃、患者さんに薬を忘れずに飲むように指導しておりますが、実際に自分が薬を飲む立場になると、一日3回薬を飲むというのは結構大変なことですね。飲んだか飲まないか忘れてしまったりします。入院中の患者さんにも退院後に備えたり、薬物療法の重要性を認識してもらうため薬の自己管理というのをやってもらうことがありますが、飲み忘れたり、朝と夕の薬を逆に飲んだり間違いが結構あります。このため薬の種類にもよりますが、半減期の長い薬などは一日1回とか2回とかにまとめて、忘れずに服薬できるよう工夫しています.。職場では昼飲みにくいという方も多いですからね(H.16.3.28〜3.31)。
自我障害は幻覚・妄想などと違って目立つ症状ではありませんが、統合失調症の本質的な代表的症状といえます。自我意識とは「自分自身をどのようにとらえているかということ」であり、自分で考え、感じ、行動しているという意識(能動性)、自分が一個の、唯一の存在であるという認識(単一性)、自分が過去、現在を通じて同じ存在であるという意識(同一性)などがあります。一見当たり前のことですが、統合失調症ではこの自我障害の典型例として、離人体験(自分が自分でないような感じ、自分がやっているという気がしない、現実感喪失)、作為(させられ)体験(自分の考えや行動が他の誰かによって操られているという体験)などが見られます(H.16.4.1〜4.3)。
精神病の治療には家族の協力が不可欠です。心の支えであり、最も身近な治療者です。一方で家族の不適切な対応が再燃のきっかけとなることも多いようです。これが家族指導が重要なゆえんです。再燃に関与することが確実な因子として1.抗精神病薬の中断、2.家族の不適切な感情表出(批判、敵意、過保護)、3.Life event(ストレス)があげられます。コミニュケーションの仕方などを家族が留意すべきです。まず、批判的な言動は避ける。指示は具体的に行い、適切な状況であるかにも配慮する、などが大切です(H.16.4.4〜4.6)。
よく看護師さんの申し送りを受けていると、「○○さんは妄想が強いようです」とか「○○さん妄想的発言著明です」などという話を聞くことがあります。妄想とは1.事実ではない、2.誤った考えで、3.適切な証拠によっても訂正できないものをいいますが、精神障害者が仮に訳のわからないことを言っていても、必ずしも妄想とは限りません。実現のきわめて難しい正当な欲求であったり(たとえば親から兄弟の代になってしまった実家へ退院したいとか.)、仮に病的体験の一種であっても幻聴、させられ体験など妄想以外の病的体験も多くあります。また妄想にも様々な種類がありますので、仮に妄想だとしても、妄想気分なのか妄想着想なのか被害妄想なのか誇大妄想なのか、などを考える必要があります。患者さんの訴えから即時に何と言う精神医学用語を当てればよいか判断するのは精神科医であっても必ずしも容易ではありませんし、忙しい業務のなかでの時間的制約もあります。そのようなときは変に用語を使わず、患者さんの訴えをそのまま記載して申し送るのが親切かつ中身の濃い精神科看護につながるでしょう。客観的評価は少なくなりますが、「妄想」と一言で片付けられてしまっては訴えている方は身も蓋もありません。患者さんの希望を少しでも叶えることにも支障をきたす訳です(H.16.4.7〜4.9)。
長期入院患者を退院させるには受け皿作りと同時にデイケア、作業所など日中通う場所の確保もひとつの問題かと思います。前に勤めていた病院では、私の在任中にグループホームの設置やデイケアの開始を見ることが出来、また何十年と入院していた統合失調症患者さんを1年くらいかけて準備してグループホームへ退院させました。何十年も病棟生活しか送ったことのない患者さんでしたので日常生活に必要な物品の購入や服薬自己管理などはじめは手取り足取り教えました。そして入居後、週一回元の受け持ちナースに訪問看護に行ってもらっていました(H.16.4.10〜4.13)。
思考障害について。自我障害とともに外見からはわかりにくいですが、重要な要素です。思考障害には思路の障害と内容の障害がありまして、思路の障害の代表は連合弛緩(支離滅裂)です。内容の障害の代表は妄想で誤った内容を非常に強く確信しており、適切な証拠によっても訂正できないものをいいます。このほか統合失調症では思考化声(しこうかせい・・自分の考えていることが他人の声になって聞こえてくる)、思考奪取(考えが奪いとられる)、思考伝播(自分の考えていることが(喋らないのに)他人に伝わってしまう)などの不思議な病的体験があります。統合失調症では自我の境界があいまいになっているので(自分の思考と他人の思考の境界が不鮮明)、これらは思考障害であると同時に自我障害の一種でもあり、統合失調症の本質的な障害のひとつです(H.16.4.14〜4.17)。
たとえば妄想(自分は天皇の子であるとか、テレビが悪口を言っているとか)は統合失調症の他にも妄想性障害(パラノイア)、器質性の精神障害、薬物による精神障害でもみられることがありますし、幻覚妄想状態だからといって、必ずしも統合失調症だとはいえません。しかし自我障害は統合失調症にかなり特異的な症状といっていいでしょう。シュナイダーという人が分裂病(統合失調症)に特異的な症状を「一級症状」として挙げていますが、「シュナイダーの一級症状」には思考化声(自分の考えていることが他人の声で聞こえてくる)、話しかけと答えの形の幻聴、自己の行為へ注釈する形の幻聴、身体的被影響体験、思考奪取(考えが奪い取られる)、思考伝播(喋らないのに考えが伝わってしまう)、作為体験など自我障害が多く含まれています(H.16.4.18〜4.21)。
統合失調症の予後は、調査方法にもよりますが、約25%ずつ完全寛解、不完全寛解、欠陥状態、人格荒廃などとなっています(寛解とは治癒ではないが、服薬など治療を続けていれば、症状の再発がない状態をいいます。)。25%は服薬がなくても再燃しないとか、10%は自殺企図で生涯を終えるとのデータもあります(ケースによります、参考まで)。再燃を繰り返すほど、薬の効き方も悪くなり寛解しにくくなりますので、初回のエピソードで完全に寛解させ、二度と再燃させないことが大切になります。現在のところ、治療は根治療法ではありませんが、精神療法、生活療法(レクリエーション療法、作業療法など)、薬物療法などを適切に組み合わせるならば、かなりの割合の統合失調症患者がある程度の社会適応を可能にできる、といえます。環境因を重視する説は一時ほどの勢いはないですが、再燃にかかわる因子として、家族の感情表出があり、敵意、批判、過保護は危険因子とされます(H.16.4.22〜4.25)。
いったん正常に発達した知能が、後天的な脳の器質障害により持続的に低下した状態を痴呆といいます。アメリカ精神医学会の診断基準によりますと、A.短期および長期記憶の障害、B.以下のうち少なくとも1 項目(1)抽象的思考の障害、(2)判断の障害、(3)その他の高次皮質機能の障害(たとえば失語、失行、失認)、(4)人格変化 とあります。
抽象的思考の障害とは単語や概念の定義づけができないことなど、高次皮質機能の障害の一例はたとえば構成失行と言って三次元図形の複写、積木の組立てができないことです。痴呆のタイプとして代表的なものに老年痴呆(アルツハイマ−型老年痴呆)と脳血管性痴呆があります(H.16.4.26〜4.28)。
アルツハイマー型老年痴呆は脳細胞自体が変性(アルツハイマー神経原繊維変化、老人斑などと呼ばれる)を起こして痴呆をきたすもので、一方脳血管性痴呆は脳梗塞(小さいものがたくさん集まった多発性脳梗塞も含む)などの脳血管障害のため、神経細胞を栄養する血管が破壊されて二次的に脳細胞の壊死をきたし、痴呆の原因となるものです。それぞれの痴呆には特徴的な症状、経過があります。たとえば脳血管性痴呆では感情失禁(些細なことで泣いたり笑ったりする)が目立つ,、段階的進行、症状に動揺がある、部分的な痴呆(まだら痴呆)、人格、病識が比較的保たれるなどといった特徴がありますが、アルツハイマー、脳血管性両者の混合型と思われるケースも多く、典型例以外では痴呆のタイプ分けが難しい場合もあります。頭部CT、MRI、脳血流検査などが痴呆のタイプ分けには有効ですが、実際の診察場面では画像診断の情報なしで、家族の話だけから診断しなければならない場合も多く(特に初診患者)、タイプ分けは必ずしも容易ではありません(H.16.5.3〜5.5)。
言葉を換えて言いますと、痴呆は大きく分けて、「神経細胞の減少」と「脳血流量の低下」が原因として考えやすい、といえます。神経細胞は「再生」しないし、正常な人でも一日約十万の神経細胞が死滅しているといわれています。アルツハイマー型痴呆では、一次的な脳細胞の減少がみられ、一方脳血管性痴呆では脳の血管の障害が一次的に起こり、その結果脳の組織に壊死などの変化、神経細胞の障害が二次的に起こります(H.16.5.6〜5.8)。
痴呆の症状には大きく分けて「中核症状」と「辺縁症状」(問題行動、精神症状など)があります。「中核症状」とは記銘力の低下、見当識障害(時間、場所などがわからなくなること)、思考力、判断力の低下などを指し、現在の医学では治療は困難であるとされています。「辺縁症状」はたとえば問題行動として、徘徊、火の不始末、不潔行為、暴言、暴力があり、精神症状として、幻覚、妄想、不眠、不穏、せん妄状態などがあります。幸い家族、本人の主訴となるのはこれら問題行動や精神症状であり、これらはある程度、治療ないし介護での変化を期待できます。なお「せん妄状態」とは意識レベルの低下に精神運動興奮、幻覚が加わったもので、痴呆老人の感覚入力の低下する夜間などに多くみられます(夜間せん妄)(H.16.5.9〜5.11)。
痴呆老人が入院を余儀なくされる原因のひとつにせん妄状態があります。本来施設などに入るべきであるが、家族が介護しきれず、また施設の空き待ちの間入院する場合もありますが、せん妄による入院の場合は抗精神病薬、脳の代謝を調整する薬などの投与が必要になります。それだけでは興奮した際には危険であるし、転倒のおそれもあるため、必要に応じて身体拘束(抑制)や隔離室に入室してもらいます。身体拘束の判断は精神保健福祉法にのっとり、精神科医のなかでも精神保健指定医(「精神科エッセイ(1)」のH16.2.18〜2.21の記事参照)のみに許されています(一般病院での身体拘束には精神保健福祉法は適応されません)。隔離の場合は12時間までは一般の医師でも判断が可能です。適切な治療を施せば、せん妄状態自体はケースにもよりますが、数日〜1,2週間内にはおさまります(H.16.5.12〜5.14)。
せん妄は痴呆による脳の機能低下のために起こりますが、入院による環境の変化だけでもせん妄の誘因となることがあります(もちろん痴呆のない方が病気やけがで入院したというだけでせん妄が起こることはまずありませんけど・・)。一部の薬剤の副作用や手術(術後せん妄)その他の因子がせん妄を悪化させる場合もあります。せん妄は夜間など感覚入力が低下しやすい時間帯に起こりやすいです(夜間せん妄)。また痴呆老人は目や耳の遠い方も多く、感覚入力が低下していますので、それだけでもせん妄の危険因子をかかえているともいえるでしょう(H.16.5.15〜5.18)。
児童・思春期の精神障害に対する向精神薬の寄与についての市川宏伸氏(東京都立梅ヶ丘病院)の講演要旨が今月の「児童青年精神医学とその近接領域」に載っているので紹介しよう。この講演は第44回日本児童青年精神医学会総会(2003年、福岡国際会議場)の教育講演として行われたものである。(1)薬物療法が治療の中心となる疾患、(2)薬物療法が併用される疾患、(3)薬物療法が行われることもある疾患の3つに分けて話す。
(1)薬物療法が治療の中心となる疾患:小学校高学年から発症者のある統合失調症や中学校高学年からみられる気分障害(躁うつ病など)では初期段階では治療の第一選択は薬である。統合失調症では抗精神病薬が使用されるが、副作用が生じないよう抗パーキンソン病薬を併用する。最近は不快な副作用の少ない薬が開発されており、統合失調症では非定型抗精神病薬、気分障害ではSSRI(特異的セロトニン再取り込み阻害薬)やSNRI(特異的ノルアドレナリン・セロトニン再取り込み阻害薬)などの新しい抗うつ薬が使われ始めている。また抗てんかん薬の多くが気分安定作用を持つことが知られている。
(2)薬物療法が併用される疾患:広汎性発達障害(自閉症)、注意欠陥多動性障害(ADHD)、トーレット障害(チックのうち頻度や部位が多く、器質的要因の関与が示唆されている一群)、摂食障害(拒食症、過食症)、強迫性障害、行為障害などでは環境の調整や対応の改善が重要であるが、症状の程度や治療の段階に応じて薬が使われる。
広汎性発達障害(自閉症)では環境調整や対応の見直しで改善されない場合、激しい行動障害(かんしゃく、自傷など)に対して薬が使われる。これらの行動障害には抗精神病薬が主に使用されてきたが、こだわり症状の改善を目的に抗うつ薬であるSSRIが使用されるようになった。自閉症の約20%にてんかん発作の併発が知られており、抗てんかん薬が使用される。
(3)薬物療法が行われることもある疾患:夜尿、抜毛、心身症、解離性障害(心理的葛藤や不安から逃れるため失立、失歩、麻痺、視野狭窄など身体症状や健忘、遁走、多重人格など精神症状がみられる疾患)、夜泣き、境界性人格障害などでは薬は治療上主たる位置を占めていない。心理的ストレスで生じる夜尿は、心理的要因の除去が主たる治療であるが、抗利尿ホルモン薬の投与や、抗うつ薬(膀胱括約筋への直接作用?)が使われることがある。
(この記事は「児童青年精神医学とその近接領域」45巻2号より抜粋した)
(H.16.7.1)。
一番の問題点は、客観的な臨床評価が行われている薬が少ないことである。ほとんどの薬が「15歳未満についての知見はない」とされており、使用責任は投与する医師にある。例えば自閉症が効能に記載されている薬はピモジドのみであるが、他の抗精神病薬に比べてこの薬が特別に有効であると考える専門医は少ない。新たに発売が期待されている薬についても、15歳未満は切り捨てられる可能性がある。効果の認められている薬の場合は、科学的根拠や使用理由を診療録に残すことで、使用を認められている国もある。国内では、皆医療保険制度が取り入れられており、医師個人の判断で効能記載以外の目的に薬を使用することは難しいのが現状である。
(この記事は「児童青年精神医学とその近接領域」45巻2号より抜粋した)
(H.16.7.2)。
ADHD(注意欠陥多動性障害)と中枢神経刺激薬使用の現状について。国内で使用されるのは、メチルフェ二デートがほとんどである。多動、集中困難が標的症状とされる。約三分の一に著効、三分の一に無効であり、軽度有効例まで含めれば約70%に効果がある。薬への反応性は数日で判明するが、薬の特性上、毎日服用していると効果は減弱するため、学校のない週末や、長期休暇(夏、冬、春休みなど)に休薬日を設定する。弱い覚醒作用のある薬であり、就寝前の服用は避ける。朝一回の服用で有効性が確認できれば、昼の服用も考慮する。効果が乏しいからと漫然と増量するのは意味がない。服用対象は原則として学童期とすることが望ましい。就学前は発達・成長への影響が不明であり、思春期以降は幻覚・妄想などの出現が報告されているからである。
(この記事は「児童青年精神医学とその近接領域」45巻2号より抜粋した)
(H.16.7.3)。
抗うつ薬について:本来は、うつ病の治療が中心であるが、夜尿、摂食障害、強迫性障害などにも使われる。脳内神経伝達物質のセロトニンやノルアドレナリンに作用していると考えられている。化学構造からは三環系、四環系などがあるが、SSRIやSNRIなどの使用が拡大している。最近、自殺の報告があり、17歳未満の大うつ病への使用は、禁忌または慎重投与となった。SSRIを中心に軽度の強迫症状への有効性が認められ、使用頻度が増大している。
(この記事は「児童青年精神医学とその近接領域」45巻2号より抜粋した)
(H.16.7.4)。
今度は松木邦裕氏(福岡共立病院、精神分析オフィス)の講演要旨を紹介しよう。この講演は第44回日本児童青年精神医学会総会(2003年、福岡国際会議場)の教育講演として行われた。
摂食障害(拒食症、過食症など)の患者さんでは自己(self)のスプリット(分割)がおこっています。つまり「健康になりたい自分」と「やせた自分を維持したい病気の自分」のスプリットがとてもはっきり感じられています。
ですから治療においては、まず「自分の中にふたつの自分がいる」ということを話題にするのは大変意義があります。
早いうちに「あなたには、なんとか治って健康になりたいというあなたと、いや、やせたままでいるんだというあなたと、両方のあなたがいつも闘ってるんじゃないですか」と伝えますと、病気が始まって3年以上を経過した患者さんは、たいてい力強く肯定します。
(この記事は「児童青年精神医学とその近接領域」45巻2号より抜粋した)
(H.16.7.5)。
それから、ふたつの自己(「ふたつの自分)の存在をお互いの共通認識にしておく必要があります。
その上で、彼女の「健康な自分」の発言は、私たちは支持します。例えば、「昨日夜に過食をしましたけれど、なんとか吐かないようにして、いつの間にか寝てました」と患者さんが話したのなら、それは吐かないでいるという健康なあり方を成し遂げたのですから、その健康な自己の判断を支持します。
その一方で、「病的な自己」の発言は、その問題点を明らかにしてやらないといけません。患者さんが、例えば「スポーツをしたい気持ちになったから、アスレチックに行こうと思います」と言い出したりします。一見それはあっていいようなことに聞こえますから、私たちがまき込まれやすいんですけれども、そういう時には「あなたは健康な活動と言われていますが、実際にはそれは、あなたの中のやせたい自分があなたを動かしてるんじゃないんでしょうか」という必要があるのです。
「病気の自己」が表しているものを私たちは見逃さないようにしないといけません。私たちは耳を傾けるだけでなく、きちんと見ていないといけません。
(この記事は「児童青年精神医学とその近接領域」45巻2号より抜粋した)
(H.16.7.6)。
今度は山下仰氏(日生病院神経科精神科)の講演要旨を紹介しよう。この講演は第44回日本児童青年精神医学会総会(2003年、福岡国際会議場)のシンポジウムとして行われた。
<日本におけるPTSD診療の現状>
日本でPTSD(Post-traumatic Stress Disorder)が一般社会に広く知られるようになったのは、1995年1月の阪神大震災を契機としてである。この直後から精神科医の間でもPTSDへの関心が急激に高まった。引き続いて同年3月に東京で地下鉄サリン事件が起きた。このような大規模な自然災害、人為的災害が続いたことでPTSDの診療に対する需要が高まった。
日本でのPTSDの診療の歴史はまだ10年に満たないため、今でもPTSDなど診たことがないという精神科医もいることはいる。しかし成人の典型的なPTSDであれば、外傷の事実を語ってもらえさえすれば、診断自体はあまり難しくない。成人の一般の精神科臨床では交通事故とDV(domestic violence)によるものが多い。DVもすぐには語られにくく、PTSDを見逃すことがある。
(この記事は「児童青年精神医学とその近接領域」45巻2号より抜粋した)
(H.16.7.7)。
大阪教育大附属池田小事件は2001年6月8日に発生し、小学1〜2年生の4クラスが襲われ、8名の児童が亡くなり、13人の児童が負傷した。それ以外に、殺傷現場を目撃した児童がおよそ70〜80名程度いるものと推測される。目前で友達が刺され血を流すのを見た子や、友達が死んでいくのを見ていた子もいる。阪神大震災やO157に比べれば被害者数は少ないが、この事件の心的外傷としての衝撃度は非常に大きい。従って当初からPTSDの発症が危惧された。また学校の教室が惨劇の現場であり、PTSDになれば学校生活すべてが回避される可能性があった。時代の違いもあり、池田小事件では直後からメンタルサポートチームが結成され、トラウマのケアが重視された。
事件後に2か月半余り学校を休校にしたこと、および事件現場から離れた仮設校舎で学校を再開したことは、PTSDやその他のトラウマ反応の予防と回復に大きく役立ったものと思われる。一方で事件から数ヵ月たってから症状が悪化する子供が少なくなかった。ようやく回復傾向に入ったと思われたのは1年少したってからであった。すなわち全体的なPTSD症状のピークが6〜9ヵ月と遅かった。
(この記事は「児童青年精神医学とその近接領域」45巻2号より抜粋した)
(H.16.7.8)。
興味の減退、ひきこもり、他者からの疎隔感、孤立感、感情の縮小・鈍麻などを「麻痺」と呼ぶ。睡眠障害、いらいら・怒り、集中困難、過剰な警戒心などを「過覚醒」と呼ぶ。睡眠障害と集中困難が改善しない限り、PTSDはよくならないと思われる。またいらいらや怒りはPTSDの病勢がまだ強い時にみられやすい。
重症の治りにくいPTSDでは、必ず「過覚醒」と「麻痺」が強く残っている。これらを予防し軽減することがPTSDの治療では不可欠になる。
外傷体験を思い出すきっかけとなるreminderの取り扱いにも原則がある。外傷直後やまだ再体験が強い時期にはreminderにさらしすぎないようにする。
PTSD症状がピークを過ぎ心理的余裕が出てくれば、reminderの吟味、すなわち本当に恐れるべきことはどれで、それほど恐れなくてもよいものはどれなのかという検討をすすめ、過剰な回避を抑えていくことが適切と思われる。
(この記事は「児童青年精神医学とその近接領域」45巻2号より抜粋した)
(H.16.7.9)。
わが国では、思春期・青年期の子どもにとっては、交通事故や災害とともに、日常的にはいじめが大きなストレスの原因となる。例えばPTSDに関する一応の知識がある看護学生104人のアンケート調査では、DSM−WのPTSD診断基準の死ぬほどの恐怖・戦慄(A基準)体験は8名(8%)、それほどではないが強いストレス体験は52名(50%)などであった。A基準に相当する体験者と強いストレス体験者60名の原因としては、いじめや対人関係によるもの24人(40%)、肉親や友達やコンパニオンアニマル(飼い犬が他人を噛んだ為薬殺した)との死別(喪失体験)18人(30%)などであった。この事からわが国では、いじめなどの対人関係の問題は、この年代のPTSD症状を生じる最大の出来事といえる。
(この記事は「児童青年精神医学とその近接領域」45巻2号より抜粋した)
(H.16.7.10)。
今度は山末英典氏(東京大学大学院医学系研究科精神医学分野)の公演要旨を紹介しよう。この講演は第44回日本児童青年精神医学会総会(2003年、福岡国際会議場)のシンポジウムとして行われた。
<PTSDの生物学的背景〜脳画像所見を中心に>
核磁気共鳴画像(MRI)やポジトロン断層法(PET)さらに最近多く用いられている磁気共鳴機能画像法(f−MRI)などの脳画像技術の進歩が、この10年ほどにもたらした数多くの知見によって、統合失調症や気分障害などの内因性精神病については、その病態の背景に脳の形態的・機能的異常が存在することが確実視されるようになっている。
個人の持つ素因が重要視される内因性精神病において、脳の形態的・機能的異常が存在するということは比較的想像しやすいと思われる。しかし、最近の脳画像技術の応用により、外的要因により引き起こされたPTSDにおいても、脳の形態的・機能的異常が存在することが示唆されてきている。90年代半ばに報告された、PTSD患者では海馬体積が小さいというstructural-MRIを用いた報告は、大きな驚きを持って受け止められた。
(この記事は「児童青年精神医学とその近接領域」45巻2号より抜粋した)
(H.16.7.11)。
PTSDの海馬体積を測定した報告のうち、戦闘体験や被虐待体験による成人のPTSDでは一貫して海馬体積減少が認められている。それに対して、救急受診患者やテロ事件などの急性で単回の外傷体験では海馬体積減少が認められていない。これについてBonneら(2001)は、海馬体積減少は1年以上におよぶ戦闘体験や、繰り返される虐待体験のような長期にわたる外傷体験から生じるという可能性を指摘している。
(この記事は「児童青年精神医学とその近接領域」45巻2号より抜粋した)
(H.16.7.12)。
<海馬体積減少を否定する報告および小児PTSDの報告>
海馬体積減少を報告している研究では、いずれも対象の7割以上にうつ病やアルコール関連障害の併発が見られる。Schuffら(2001)はうつ病やアルコール関連障害でも海馬体積減少が報告されている事から、過去のPTSDでの海馬体積減少はこれらの影響を否定できないとしている。Schuffらは、戦闘体験によるPTSD患者でもアルコール関連障害やうつ病の既往の有るものを除外すると海馬体積減少が認められないと報告している。
小児期のPTSDについての脳画像研究は比較的少ない。De Bellisら(1999)はPTSDと診断された児童と対照群を比較し、海馬体積には差を認めず、脳梁面積の減少と側脳室の拡大を報告した。Carrionら(2001)も海馬体積に両群の差はなく、PTSD群では健常者でみられた前頭葉体積の非対称性がみられず、全脳体積も小さいと報告した。
(この記事は「児童青年精神医学とその近接領域」45巻2号より抜粋した)
(H.16.7.13)。
PETやf−MRIを用いた研究では、症状賦活中や認知課題遂行中の脳血流の変化が検討され、前部帯状皮質(Anterior cingulated cortex; ACC)などを中心とした部位の機能障害もPTSDの病態において重要であることが示唆されている。
また、虐待による小児期のPTSD患者には、学習や記憶などの海馬と関連した機能の障害は乏しく、注意機能や実行機能といったACCや前頭前皮質と関連した認知機能が障害されているという研究結果とも併せて、反復される虐待のような小児期の外傷体験は、海馬には影響が少ないが、前頭葉やACCの発達を妨げる可能性が指摘されている。
(この記事は「児童青年精神医学とその近接領域」45巻2号より抜粋した)
(H.16.7.14)。
ACCは扁桃体(へんとうたい)との関連が強く、扁桃体の活性化による情動賦活の制御機能において重要な役割を演じている事が知られている。PTSDにおいて、扁桃体の過賦活による強い不安や恐怖の発生を抑制しきれないACCの障害が、恐怖反応の形成において重要である事が示唆されている。
(この記事は「児童青年精神医学とその近接領域」45巻2号より抜粋した)
(H.16.7.15)。
<PTSDの病態仮説>
遺伝要因および生育環境における反復される外傷体験などによって脳神経の発達は制限されていき、成人後のPTSDなどの精神疾患への罹りやすさを形成する。そしてあらかじめ脳形態レベルでPTSDに罹りやすさを持つ個体が、外傷体験を契機にPTSDを発症する、という可能性が示唆される。もちろんこうした仮説の確認には、更に多くの実証的研究が行われ、知見が蓄積される必要がある。
(この記事は「児童青年精神医学とその近接領域」45巻2号より抜粋した)
(H.16.7.16)。
<子どもの精神障害(症状)と主な使用薬物>
抗精神病薬:鎮静作用の強いものを興奮、幻覚、妄想などに対して、賦活作用中心のものを意欲低下、 引きこもりなどに対して用いる。またトーレット障害などチックの一部に対しても抗精神病薬を用いることがある。
抗うつ薬:抑うつ状態に対して用いるほか、強迫症状、夜尿などに一部の抗うつ薬が効果がある。
抗不安薬:鎮静作用を期待して不安、不眠に対して用いるほか、抗痙攣作用を期待して痙攣に用いることがある。
この記事は市川(1999)の表を参考とした(「児童青年精神医学とその近接領域」45巻2号より抜粋した)(H.16.7.17)。
<発達障害と薬物>
発達障害(精神遅滞や自閉症など)に伴う行動上の問題である、自傷、他害、こだわりなどの症状は、環境調整、接し方の見直し、適切な課題設定など療育的対応が中心となるが、薬物療法も補助的に用いられる。特にさまざまな療育的対応を行っても変化がみられない場合に、薬物療法の適応となる。あくまで対症療法ではあるが、抗精神病薬や気分安定薬(ムード・スタビライザー)が、主として用いられる(H.16.7.19)。
AD/HDと中枢神経刺激薬(メチルフェ二デート;商品名リタリン)使用の現状については、H.16.7.3の項に述べたので追加となるが、米国のFDA(食品医薬品局)などは効能を認めているが、日本では厚生労働省がADHDへの使用を認可していないことである。したがって日本国内では医師の責任において使用されている。チック症状がもともとある場合は、服用により悪化することがあるため注意する。また弱い覚醒作用があるため、非合法的な使用(依存)が懸念されている。
今後、子どもを対象とした薬物が認可され、医療保険制度上も、正式に薬の使用が可能になることが期待される。
(この記事は「児童青年精神医学とその近接領域」45巻2号より抜粋した)
(H.16.7.20)。
AD/HDでは、多動、集中困難の改善には中枢神経刺激薬(メチルフェニデート;商品名リタリン)が第一選択であり、衝動性の亢進には気分安定薬(ムード・スタビライザー)や抗精神病薬が使用される。トーレット障害では、精神的な負荷を除くとともに、抗精神病薬が使われる。摂食障害では、気分の変動が著明な場合には、抗うつ薬や気分安定薬が使われる。激しい自己破壊行動がある場合には抗精神病薬が用いられる。
(この記事は「児童青年精神医学とその近接領域」45巻2号より抜粋した)
(H.16.7.21)。
強迫症状は、さまざまな基礎疾患に基いて生じるため、統合失調症や気分障害が根底に存在する際は、その治療が優先される。神経症圏の強迫性障害では、精神療法、行動療法が適応になるが、SSRIや抗不安薬も併用される。攻撃性、反抗性、反社会的行動が持続する行為障害では、気分安定薬、抗精神病薬がよく使用される。
(この記事は「児童青年精神医学とその近接領域」45巻2号より抜粋した)
(H.16.7.22)。
抜毛(トリコチロマニア)の場合は(脱毛症(アロペチア)のように毛が抜けるのでなく、自分で髪を抜く病気)、本人が、背景にあるなんらかのストレスに気付いていないことが多い。抜毛による容姿への不安から、二次的な問題が生じることもあり、その際に抗不安薬が用いられることがある。心身症は、発症や経過に、心理・社会的因子が濃厚に関与している身体疾患を呼ぶ総称であり、消化性潰瘍、気管支喘息、蕁麻疹、自律神経失調症などさまざまな病態が出現する。抗不安薬などを中心に処方する。
(この記事は「児童青年精神医学とその近接領域」45巻2号より抜粋した)
(H.16.7.23)。
解離性障害の症状としては、心理的葛藤や不安から逃れるための身体症状(失立、失歩、麻痺、視野狭窄など)や精神症状(健忘、遁走、多重人格など)が知られている。心理的要因の除去が主たる治療であるが、思春期以降では抗不安薬を使うこともある。人格障害と診断されるのは思春期以降が多いが、治療関係の成立が難しい。精神療法的対応が治療の中心になるが、衝動的な行動には気分安定薬(ムード・スタビライザー)や抗精神病薬、随伴的に生じる不安や抑うつには抗不安薬や抗うつ薬が使われる。
(この記事は「児童青年精神医学とその近接領域」45巻2号より抜粋した)
(H.16.7.24)。
不登校の治療では、対応や環境調整が中心であるが、不安、抑うつが強い場合は抗不安薬、抗うつ薬が使用される。家庭内暴力(子どもからの)の背景には、親子関係などの家庭内力動が重要な要因として存在しており、精神療法的な対応が中心になる。衝動性が強く、暴力が激しい時には、気分安定薬や抗精神病薬が適応になる。
(この記事は「児童青年精神医学とその近接領域」45巻2号より抜粋した)
(H.16.7.25)。
あくまでも市川、新井らの調査(1999,2003)に記載されていることなので、施設による違いはもちろんあると思うが、児童思春期精神障害の治療、研究のメッカである都立梅ケ丘病院での年齢、性別による疾患の種類の違いを見てみよう。男子では、小学校低学年と中学生年齢を中心に受診者数は二峰性であり、内容的には広汎性発達障害や注意欠陥多動障害などの発達上の障害が増加している。一方女子では中学生年齢が多く、神経症圏(適応障害、解離性障害、摂食障害、強迫性障害など)や統合失調症の比率が高いという。
(この記事は「児童青年精神医学とその近接領域」45巻2号より抜粋した)
(H.16.7.26)。
市橋秀夫氏(市橋クリニック;東京都渋谷区)の境界性人格障害の治療に関する論文を紹介する。
境界性人格障害(borderline personality disorder;BPD)はようやく精神科医も治療になれてきて、かつてほど治療者やスタッフに対する激しい混乱を招くようなことはなくなってきた。しかしかつては深刻な行動化を頻発し、患者の扱いを巡ってスタッフ間の深刻な対立を生んだ。BPDの治療の困難さは伝統的で支持的な精神療法に馴染まず、しばしば激しい治療者への逆転移やスタッフ間のスプリッテイング(解離)を引き起こしがちである。薬物療法が奏功せず、日常のムンテラ程度の精神療法では通用しない。
(H.16.7.27)。
BPDの治療を原則として外来で行うのは、治療が長期間にわたることがその最大の理由である。しかし国公立あるいは大学病院等の医療機関の外来には、多くの患者が殺到し、精神療法を行うことが現実的に不可能であること、また民間の診療所では精神療法の保険点数があまりにも低額なために、良心的に治療しようとしても現実的には不可能である。自由診療では患者の経済的負担が大きく、経済的余裕のない人は治療を受けられないという問題がある。
経済的な負担が大きいといっても自由診療にはいくつか利点もある。それは患者が診療時間を大切にし、経済的負担を考えて治療の進展が早まるという点である。また治療の契約も明確になり、転移や逆転移の問題に巻き込まれにくくなる。
(H.16.7.28)。
自傷他害の可能性が極めて高いケースでは医療保護入院や措置入院を要するが、そうでない場合は入院治療は(外来治療を含めて)治療効果が期待できないので、「本人自身が困るまで」治療は待った方がよいかもしれない。治療に対して拒否的な患者でも、多くの場合には内心ではどうにもならない事態に自分が陥っていることを知っており、親に無理に連れてこられたことに抵抗しているのである。
(H.16.7.29)。
BPDの患者では治療契約が重要である。以下に市橋の記載を引用する。
完全予約制を守ること(気ままに来院しないこと)、行動化を抑えること(具体的には自傷行為や万引き、自殺企図など禁じることを告げる)、入院にあたっては病院や病棟の規則の遵守などである。とくに主治医の許可を得ない外出や外泊、夜間や面接日以外の面接要求、処方された以外の眠剤等の要求などはあらかじめ禁じておくべきである。こうした約束を勝手に破るときには、「治療を止めるか隔離室へ入るか」どちらかを選択してもらうことなどを治療の初めに明確に伝えておくことが重要である。
(H.16.7.30)。
他方、患者に対する治療者側の契約は「嘘をつかないこと」、「治療を誠実に行うこと」、「決して見捨てないこと」ということが暗々裏に含まれることになろう。「こうしたことを守ってくれる限り、私は誠実にあなたを治療し、私の方からあなたを見捨てることは絶対にありません」という言葉を治療者の覚悟を持って伝えるのも一つの方法である。
BPDの患者は気味が悪いほど治療者の感情を見抜く。治療にあたっては治療者の「覚悟」が必要であり、逃げ腰の治療は早晩失敗に終わる。また容易に逆転移が起こるので、患者に入れあげるような接触は避けなければならない。
(H.16.7.31)。
距離と暖かさは両立しがたいが、初期治療では患者を受け入れながら適切な距離を維持しなければならない。治療の初期には受容的で暖かな関係づくりを目指すべきである。患者の持つ痛みに共感を持って話に聞き入る。言うまでもないが、患者との個人的な関係を持つこと(たとえば、せがまれて食事をするとか、喫茶店で会うとか)は応じてはならない。また電話での話はいっさい断るべきである(注;市橋氏の考え)。「電話では治せないからね。お話は診察の時に」と断固応じないことが重要である。
(H.16.8.1)。
BPDでは抑うつ症状を伴うのが普通であり、症候学的には大うつ病と変わりない精神運動抑止、抑うつ気分が出現する。ただし、大うつ病のようには抗うつ薬が奏功せず、その作用は限られたものである。抗精神病薬や抗不安薬では行動化をおさえることは困難である。しかし薬物療法は一定の範囲内では有効である。「薬は本質的には効きませんが、あなたの抑うつや危険な衝動を抑えてくれる効果はある程度あります。自分でその苦痛を耐えることができないと感じているなら、飲んでみませんか」と語りかけるとほとんどの患者は服薬に同意する。薬物は精神療法の状況の中で処方されるべきである。
(H.16.8.2)。
BPDの患者は破壊的な行動を止めたり、激しい感情表出をおさえたりすることを求めているのではない。彼らの行動は「自分でもわからないけど、そうしてしまう」という激しい感情衝動に突き動かされた結果なのである。彼らの苦しみはこのような破壊的な抑うつ感情を誰も理解できないと考えている点にある。患者の気持ちを酌むということの重要性はどの精神療法でも共通したものであるが、BPDではとくに見捨てられ抑うつの感情を理解し、その破壊的な感情体験からどうしたら自由になれるのかを探してゆくことを第一の目標にすべきであろう。
(H.16.8.3)。
<家族教育>病因を母親や父親に求めるような犯人探しは早晩激しい家庭内暴力を呼び起こすか、家族が治療を妨害するような結果に終わるだろう。そういう意味生活史了解的な精神療法は失敗する。
<基本症状と治療>
1.対人操作・・・・・逆転移を防ぐ唯一の方法は距離であり、「関与しつつある自分を観察する」行為である。入院では治療者だけでなく、多様なスタッフが存在するので、ボーダーラインシフトが必要とされるのである。
2.スプリッテイング・・・・・良い自分と悪い自分の二つの自分がいると彼らはしばしば述べる。BPDでは同一性障害はほぼ必発症状である。
3.行動化
4.抑うつ・・・・・服薬自殺企図の予測があるケースには抗うつ薬は慎重に投与されなければならない。
治療者が「変わらずにそこにいる存在」として機能し続けることが結局、「分離しても大丈夫」という感覚を供給する。
(H.16.8.4)。
ボーダーラインシフト(市橋、1991)
1)なにかしてあげてはならない。
2)医師の指示以外のことを行ってはならない。
3)話をきいてあげてもよいが、患者に入れあげない。
4)他のスタッフに対する批判を真に受けない。患者の話を真に受けない。自分に対する陰性感情は「症状」の1つと割り切ること。
5)起こしたことの責任を患者自身に引き受けさせること。
6)大丈夫といってあげること。
7)互いに情報を綿密に交換する。
8)自殺企図などの深刻な行動化が起こっても、過剰反応しない。たじろがない。
9)患者の冗談やユーモアの才能を引き出すこと。
10)待つこと、我慢させることが治療の力になる。
(H.16.8.5)
米国精神医学会(APA)の診断基準DSM−Wの「適応障害」の項目を記載する。
A.はっきりと確認できるストレス因子に反応して、そのストレス因子の始まりから3ヵ月以内に、情緒面または行動面の症状の発現。
B.これらの症状や行動は臨床的に著しく、それは以下のどちらかによって裏付けられている:
(1)そのストレス因子に暴露されたときに予測されるものをはるかに越えた苦痛。
(2)社会的または職業的(学業上の)機能の著しい障害。
C.(略)
D.症状は、死別反応を示すものではない。
E.そのストレス因子(またはその結果)がひとたび終結すると、症状がその後さらに6ヵ月以上持続することはない。
309.0抑うつ気分を伴うもの
309.24不安を伴うもの
309.28不安と抑うつ気分の混合を伴うもの
309.3行為の障害を伴うもの
309.4情緒と行為の混合した障害を伴うもの
309.9特定不能
昨今報道されている件についてはともかく、実際の臨床上(初診時)ではたとえばうつ病、うつ状態、統合失調症などの初期で、症状の持続期間がまだ十分長くない場合も(たとえば大うつ病では2か月以上、統合失調症では6が月以上の症状持続が必要)、「適応障害」と暫定的に診断されることがある。そういうケースでは症状が出揃い、十分な持続期間を経たのちに確定診断がなされるから(もちろんそうでない場合もあるが・・)、そういう意味では「病名」とは言いにくい「病名」かも知れない(H.16.8.6)。
<不安障害>
不安を中心症状とする疾患が不安障害としてまとめられ、1980年DSM−Vに登場した。その後二度にわたり改訂され、いくつかの新しい診断名も追加された(注;現在はDSM−Wを使用)。
パニック障害と広場恐怖、全般性不安障害、社会恐怖、強迫性障害には薬物が有効である。全般性不安障害は慢性の疾患であるが、類似の病像を呈する急性の全般性の不安障害があり、いずれもベンゾジアゼピン系抗不安薬が有効である。三環系抗うつ薬とセロトニンA1受容体作動薬の効果も示されている。強迫性障害にはセロトニン再取り込み阻害薬が有効で(注;セロトニン受容体への選択性の高いものはSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)という)、社会恐怖では高力価のベンゾジアゼピン系抗不安薬とMAO阻害薬の有効性が示唆されている。
(H.16.8.7)。
DSM-Wによれば、不安は二つの現れ方をする。一つは急性の不安で、突然に起こってくるパニック発作とそれに密接に関連したパニック障害(PD)が代表である。もうひとつは漠然としているが長く続く慢性の不安として現れるもので、これが全般性不安障害(GAD)である。
(DSM-Wでは、全般性不安障害と診断するには6か月以上にわたって不安や心配が持続することを必要としているが、臨床上はそれより期間は短いが、まったく同様の状態がみられることが多い(急性の全般性不安)。これら持続の短い急性の全般性不安に対する薬物療法としては、ベンゾジアゼピン系抗不安薬には即効性があることと、不眠と身体症状の軽減にすぐれていることから、第一選択薬である)。
薬物が障害そのものを治癒させるのではない。薬物によって自律神経系のバランスが回復し、不安が軽減されることで、患者は自分を取り戻し、自らの問題に適切に対処できるようになる。
慢性の全般性不安障害(GAD)には、ベンゾジアゼピン系抗不安薬に加えて、セロトニン作動薬と三環系抗うつ薬が試みられている。
これらの心配と不安には(1)落ち着きのなさ、緊張感、過敏、(2)易疲労性、(3)集中困難、心が空白になること、(4)易刺激性、(5)筋肉の緊張、(6)睡眠障害(入眠または睡眠維持の困難、落ち着かず熟眠感のない睡眠)といった自律神経系の過覚醒状態を中心とする身体症状がともなっている。
(H.16.8.8)。
1980年にDSM-Vによって精神科の臨床に登場したパニック障害は、その後DSMが改訂されるたびに診断基準が変化している。DSM-Vでは、パニック発作の頻度に重点がおかれ、3週間に3回以上の発作が起こることが条件であった。DSM-V-Rでは発作の頻度(4週間に4回以上)だけでなく、発作の頻度は少なくても発作後に予期不安が続くことからもパニック障害と診断できるようになった。そして最新のDSM−Wではパニック発作後の予期不安、発作の意味についての心配などが条件としてとり上げられた。すなわちパニック障害では発作を起こすことだけが問題なのではなく、発作を反復することで重大な生活上の障害が生じてくる点が重視されるようになった。
(H.16.8.9)。
<DSM-Wのパニック障害の診断基準>
1)予期しないパニック発作が繰り返し起こる。
2)少なくとも1回の発作の後1カ月間(またはそれ以上)、以下のうち1つ(またはそれ以上)が続いていたこと。
(a)もっと発作が起こるのではないかという心配の継続。
(b)発作またはその結果がもつ意味(例:コントロールを失う、心臓発作を起こす、‘‘気が狂う”)についての心配。
(c)発作と関連した行動の大きな変化。
(H.16.8.10)。
パニック障害は適切な治療を受けないと心気症、恐怖症性回避、続発性うつ病などを引き起こす。
パニック発作の治療には薬物を用いるものと薬物を用いないものがある。薬物を用いない治療法には、患者教育、行動療法、認知療法、パニックマネージメントおよび精神療法がある。薬物療法には三環系抗うつ薬、高力価のベンゾジアゼピン系薬物および選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)が用いられている。
(H.16.8.11)。
治療抵抗性パニック障害では身体疾患や身体疾患の治療のために服用している薬物(テオフィリンなどの気管支拡張薬)の影響を除外することも必要である。見逃されやすいものにコーヒーがある。カフェインの過剰摂取からパニック発作が生じることもある。
(H.16.8.12)。
パニック障害の発症や、症状の増悪にライフ・イベントが関与していることが珍しくない。生活環境の変化、転居、昇進、過酷な労働条件、家庭内葛藤、近親者の死などなんらかの喪失体験、あるいは対人関係や心理社会的なストレス因などに注意を払う。
(H.16.8.13)。
<パニック障害の急性期治療>
パニック発作に有効な薬物として、三環系抗うつ薬ではimipramine, clomipramineなど、高力価ベンゾジアゼピンではalprazolam, clonazepamなど、そしてSSRIとしてはclomipramine, fluoxetine, fluvoxamine, sertraline, paroxetineの有効性が確認されている(本邦では発売されていないものもある)。
三環系抗うつ薬は治療効果の発現に時間がかかり、副作用も比較的強い。高力価のベンゾジアゼピンは安全性が高く、効果の発現も速く、不愉快な副作用が少ないことから最初に使用されることが多い。しかし依存の可能性と、軽度ながら記憶障害がみられることが長期の服用に関して問題になる。また半減期の短い薬物では1日に複数回の服用が必要である。
したがってベンゾジアゼピン系薬物で治療を開始し、その後三環系抗うつ薬に置換してゆくのが実際的である。
clomipramine以外のSSRIは三環系抗うつ薬より副作用は少ないが、治療初期にいらいら、吐き気、頭痛などがみられることがある。この治療初期の副作用を乗り越えれば三環系抗うつ薬やベンゾジアゼピンよりも治療効果は高く、米国では第一選択薬になりつつあるという指摘もある。
(H.16.8.14)。
<パニック障害の維持療法、長期療法>
パニック障害の治療転帰は必ずしも楽観できるものではない。急性期の薬物治療後2〜6年のフォローアップ期間中に、回復した例は31%で、50%の患者には軽度の症状が残ったり、症状が再出現したりする。そして残り19%は重症な慢性の経過をとったことが報告されている。また長期予後のまとめでは29%にうつ状態が出現する。これらのことからパニック障害には長期の維持療法が必要なことが示唆される。
パニック障害の治療には薬物療法以外には、認知療法、行動療法のエキスポージャー、あるいは心理的パニックマネージメントが用いられている。
(H.16.8.15)。
治療抵抗性パニック障害の薬物に関する要因としては服用量が不十分なことが大きい原因である。薬に頼りたくない、副作用が怖いなどの理由から服薬のコンプライアンスが不良になりがちである。抗うつ薬では副作用のために十分な量が使用されていないこともある。また半減期の短いベンゾジアゼピン系薬物では服薬の間隔が長いと、次の服薬までの間に離脱症状や反跳性の不安を生じ、薬物は無効であると判断されることが珍しくない。
(H.16.8.16)。
<強迫性障害の薬物療法>
セロトニン再取り込み阻害作用の強い三環系抗うつ薬のclomipramineと選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)の強迫性障害(OCD)に対する有効性が報告されるようになった。Clomipramineは副作用が高度なことと過量服用した場合に致命的となることから、外国ではSSRIが次第に第一選択薬になりつつある。
(H.16.8.17)。
ClomipramineはOCD患者の45〜60%に有効であり、また効果の発現は遅く、無効と判定するまでに8〜10週間を要する。これらの問題に対し、clomipramineを静注(静脈注射)すると迅速に効果が発現すること、そして経口投与では無効であった例でも静注で反応がみられること、しかも静注で無効な例では経口投与を続けても効果がないことがKoran, L..M.らによって報告された。
(H.16.8.18)。
<社会恐怖の薬物療法>
社会恐怖の薬物療法研究は緒についたばかりであるが、ベンゾジアゼピン系薬物(alprazolamとclomazepam)、SSRI、不可逆性のMAO阻害薬、可逆性のMAO阻害薬の有用性が示唆されている。
人前でのスピーチや演奏を恐れる社会恐怖の中には、βブロッカーを用いて心悸亢進や振戦を軽減することで、恐怖状況に対処できる例がある。スピーチや演奏会の40〜60分前にβブロッカーを服用する。低血圧と徐脈の副作用に注意する。ベンゾジアゼピン系抗不安薬は鎮静作用と筋弛緩作用があるため、注意力や敏捷性が損なわれるので避けた方がよい。
(H.16.8.19)。
<ECT(電気けいれん療法)について>
電気刺激を用いる電気けいれん療法(electroconvulsive therapy: ECT)は薬物療法が発達した現在、限定した状況で使用されるが、うつ病や分裂病(統合失調症)の昏迷状態には薬物療法を凌ぐ治療効果がある。病状に応じて適応を選んで行うことで、入院期間の短縮をはかり、薬物療法による合併症や副作用を避けることができる。
ECTは薬物療法の補助手段だと考えるのが妥当である。
ECTはその性質上、救急治療に適していて、拒食、自殺企図や自殺念慮、興奮から患者を迅速に守る一時的な手段というぐらいに考えておけばよいだろう。また薬物抵抗性の患者の治療に試みてみるべきものである。病状を正しく評価し適応を選んでECTを行えば、短期間に病状を好転させ、合併症も防ぐことができる。
(H.16.8.20)。
遅ればせながら復習すると、SSRIというのは抗うつ薬の一種である。またベンゾジアゼピン系薬物というのは抗不安薬の一種である。抗精神病薬、抗うつ薬、抗不安薬・・・などを総称して「向精神薬」と呼んでいる。これまで述べてきたことからも分かるように、抗精神病薬というのは必ずしも精神病だけに用いるものではない。うつ病や神経症、人格障害などでも、抗精神病薬を使用することがある。抗うつ薬もうつ病、うつ状態にだけ用いるわけではない。パニック障害をはじめとした神経症圏の疾患にも適応のあるものがあるし、摂食障害などでも抗うつ薬を用いる。
これら薬物療法だけでは十分に効果が期待できない場合や薬物療法は補助的にのみ用いる場合のあることは、さきに述べた。その場合は精神療法、行動療法、身体療法(電気けいれん療法など)などを適宜併用する(H.16.8.21)。
少し脱線ですが、精神科の患者さんというか痴呆老人や知的障害の入院患者さんでは転倒、転落→頭部裂傷→縫合というケースが結構多いようです。縫うといっても1針だけとか多くても3〜4針までのことがほとんどですが・・。部位はやはり頭、額、顎など頭部がほとんどです。眠剤を服用したあと、もうろうとした状態でトイレとかに行こうとしてベッドから転落したり、ベッドに柵を作ると今度は柵を乗り越えて、もっと高い高さから転落したり、いろいろです。服用している向精神薬による影響もあると思います(特に眠剤とか)。頭皮が1〜2cm切れていることがほとんどで、縫合する代わりに止めるサージカルテープみたいなものもあるようですが、それでおっつかないと実際に針をかけることになります(H.16.8.22)。
大部分の向精神薬は、主に肝臓で代謝されるため、腎機能により大きな影響を受けることは少ないが、主に腎から排泄される炭酸リチウム(Li)、barbital、amantadine、sulpiride、tiaprideは腎クリアランス低下により容易に蓄積しうる。特に95%以上が腎排泄性であり、常用量と中毒量が接近しているLiは腎不全患者には禁忌である。
(H.16.8.23)。
炭酸リチウム(Li)は6.4〜30%の頻度で甲状腺機能低下を来すので、甲状腺疾患患者への投与は避けた方が良い。
(H.16.8.24)。
米国の心臓専門医、FriedmanとRosenmanが冠動脈疾患(CAD)患者の多くに独特の行動様式がみられることを発見し、1959年にこの行動様式がCADの危険因子であることを提唱した(タイプA行動パターン)。タイプA行動パターンとは、
1)目標を達成しようという強い欲求をもつ。
2)過剰な攻撃性と敵意を秘めており、いつも他人と競争したり、挑戦したりする。
3)つねに周囲からの高い評価や昇進を望む。
4)多くの仕事に没頭し、いつも時間に追いまくられている。
5)同時にいくつものことをおこなう。
などの特徴をもつ性格、行動パターンをいう(H.16.8.25)。
回想法は米国の老年精神科医Butlerにより提唱された、高齢者を対象とする心理療法の一技法であり、支持的精神療法を基礎に、高齢者のライフヒストリーを傾聴することを通じ、quality of life(QOL)の向上や心理的安定をはかろうとするものである。
従来、高齢者の回想は、過去に対する執着や、精神的老化のサインとして、否定的なプロセスとみなされてきた。しかしButlerは、あらためて回想の肯定的な側面を整理し直し、高齢者に対する心理療法の有力な方法として回想法を位置づけた(H.16.8.26)。
Butlerは高齢者の回想を支持的、受容的に傾聴することで、抑うつ症状の改善に効果をあげたと報告した。その後、回想法の対象は、抑うつ症患者、痴呆性疾患患者、末期癌患者、健康な高齢者などに拡大し、現在に至っている(H.16.8.27)。
初期分裂病とは、特異的症状の存在をはじめとする種々の特徴にもとづいて、1990年中安が、疾患単位としては広く精神分裂病(統合失調症)に属するものの一つの多少単位として独立して取り扱われることが適切であると考え提唱した、分裂病(統合失調症)の病期型である。ただしそれはすでにConrad,K.によってTremaとして報告されていた症状群ないし病期に相当するものである(旧来の一般的な理解にしたがえば前駆期に相当するものであり、また幻覚妄想状態や緊張病状態を主たる状態像とする極期分裂病とこの初期分裂病との関係は、進行癌と早期癌との関係に比すべきものである)(H.16.8.28)。
その臨床単位性は、1)特異的な症状が存在する、2)病識が保たれている、3)定型的な抗精神病薬が必ずしも有効ではなく、その病態生理にドーパミン系が関与しているとは考えられない、4)極期への進展に対する防御メカニズムの存在が示唆される、などの特徴によって保証されたものである(H.16.8.29)。
<初期分裂病の臨床像>
臨床像は主として「初期分裂病の特異的四主徴」によって構成される自生・過敏状態であり、診断はもっぱら特異的四主徴(自生体験、気付き亢進、漠とした被注察感、緊迫困惑気分)の確認によっておこなわれる(H.16.8.30)。
「自生体験」とは、自己の意思によらず、体験そのものがいわば勝手に生じてくると感じられるものであり、自生思考(勝手に・・他人の・・考えが浮かんでくる)、考想化声(自分の考えていることが、他人の声になって聞こえてくる)などがある。本来自分の体験であるはずの「考える」という行為が他人の考えとなって浮かんできたり、聞こえてくるというのは自我障害の一種であり、統合失調症(分裂病)の本質的、特異的な障害のひとつといって良い(たとえば幻聴、妄想などは他の精神疾患でも出現する)(H.16.8.31)。
「気付き亢進」とは、注意を向けている対象以外の、種々の些細な知覚刺激が意図せずに気づかれ、そのことによって容易に注意がそれることを述べたものである。聴覚性気付き亢進、視覚性気付き亢進などがある。
「漠とした被注察感」とは、まわりに誰もいない状況において、周囲から見られているということがありありと感じられる体験である。その「見ている」という対象については通例は漠として定かではない。
「緊迫困惑気分」とは、なにかが差し迫っているようで緊張を要するものの、なぜそのような気持ちになるのかわからなくて戸惑っているというような気分である。
以上が「初期分裂病の特異的四主徴」である(H.16.9.1)。
睡眠相後退症候群(delayed sleep phase syndrome: DSPS)とは長期休暇、受験勉強、夜間勤務などを契機として、睡眠時間帯が通常よりも非常に遅くなり、希望する時刻に入眠ならびに覚醒することがきわめて困難になり、結果的に睡眠・覚醒リズムの位相が持続的に後退することを特徴とする病態である。DSPSの診断には少なくとも1か月以上にわたって記録させた睡眠日誌が必要である(H.16.9.2)。
本症は、思春期・青年期に発症することがほとんどで、30歳以後の発症はまれである。DSPSの患者の多くは明け方から正午前後まで睡眠を取る場合が多く、通常の登校、出勤時刻に合わせた入眠・覚醒が困難である。努力して朝に起床しても、眠気が強く、昼間に覚醒を維持することが困難であり、重度の場合には社会生活にほとんど適応できないといった深刻な状況に陥ることがある(H.16.9.3)。
DSPSでは、早く入眠するためにアルコールや睡眠薬を摂取しても効果がみられないことがほとんどであり、受診時には、発症から数ヶ月もしくは数年間以上も経過していて、抑うつ症状、強い自己不全感、劣等感などの精神症状や、対人関係や社会適応の面に著しい障害をきたしていることが多い(H.16.9.4)。
DSPSの病態生理を理解するには、本症を入眠・覚醒障害としてとらえるだけでは不十分である。DSPSの発症機序には概日リズム(circadian rhythm)同調機構の障害が関連していると考えられている。DSPSでは、覚醒時刻が後退している結果として、概日リズムの位相を調整(位相前進)するために重要な意義をもつ早朝の自然光を浴びる機会が失われており、結果的に通常の生活スケジュールへの同調が困難であるという状態がつづいていると考えられている(H.16.9.5)。
DSPSの治療には、現在のところ、高照度光療法、時間療法、ビタミンB12、トリアゾラム、メラトニンの投与などが試みられている。
<高照度光療法(phototherapy)>ヒトの概日リズムの強力な同調因子である高照度光を特定の時間に照射して、睡眠・覚醒リズムの位相調節をおこなう治療法である。DSPSでは早朝の時間帯に患者を強制的に覚醒させ、人工的高照度光を浴びさせるのが一般的である(H.16.9.6)。
<時間療法(chronotherapy)>ヒトの睡眠・覚醒リズムの自由継続周期は約25時間であり、リズム位相を後退させる方向への操作が相対的には容易である。この特性を利用して、DSPSでの遅れた睡眠・覚醒リズム位相を1日につきさらに3時間程度ずつ後退させ、最終的に望ましい入眠・覚醒時刻に固定させる方法である。しかし多くの患者では、本法だけでは、いったん調整できた望ましい入眠・覚醒時刻を長期間にわたって維持させることが難しく、ほかの治療法の併用を必要とする場合が多い(H.16.9.7)。
<トリアゾラム(商品名ハルシオンなど)>DSPSに対して、超短時間作用型ベンゾジアゼピン系睡眠薬であるトリアゾラムが治療効果を有するとの報告がある。トリアゾラム投与後に、入眠時刻の前進および朝の覚醒感の改善が認められる。トリアゾラムの作用機序としては、直接的な催眠作用に加え、概日リズム調整機構にも直接的に作用することにより、睡眠・覚醒リズムの位相を前進させる可能性が考えられている。
<メラトニン>松果体ホルモンであるメラトニンは、概日リズム位相調整作用を有するとされている。
現在のところ、わが国では、メラトニンは市販されておらず、一般的な臨床応用はできない(H.16.9.8)。
以上の各々の治療法をおこなうことと並行して、昼間の精神・身体活動を高めたり、生活スケジュールを規則正しくさせるなどの適切な生活指導をおこなうことも重要である(H.16.9.9)。
<睡眠薬>
睡眠薬としてはまずバルビツレート系睡眠薬が導入されたが、耐性や依存の形成、さらには自殺目的での使用など多くの問題をかかえていた。こうした状況のなか、1967年に最初のベンゾジアゼピン(BZP)系睡眠薬として二トラゼパムが承認され、その後つぎつぎと新しいBZP系睡眠薬が開発された。1982年のトリアゾラム(商品名ハルシオンなど)の発売以後、それまでの長時間あるいは中間作用型のBZP系睡眠薬にかわり、短時間あるいは超短時間作用型のものが主流を占めるようになった。しかしその一方でBZP系睡眠薬に関するさまざまな問題が提起されたことも記憶に新しい(H.16.9.10)。
現在睡眠薬といえば、BZP系睡眠薬のほかチエノジアゼピン系睡眠薬のエチゾラム(商品名デパスなど)やブロチゾラム(商品名レンドルミンなど)、非BZP系睡眠薬のゾピクロン(商品名アモバンなど)があるが、いずれもBZP受容体を介して中枢に作用するといわれている(H.16.9.11)。
<新しい睡眠薬>トリアゾラムやゾピクロンよりさらに半減期の短い非BZP系睡眠薬(ゾルピデム)は臨床治験中であったが、商品名マイスリーとして発売された。入眠障害、熟眠障害に特に優れた効果を示すとされているが、適応症は不眠症(統合失調症及び躁うつ病に伴う不眠症は除く)となっている。効能書きには「本剤の投与は、不眠症の原疾患を確定してから行うこと。なお統合失調症あるいは躁うつ病に伴う不眠症には本剤の有効性は期待できない」とある。
もし、睡眠そのものを誘発する物質(睡眠物質)が同定されれば理想的な睡眠薬になりうるが、実用にはほど遠い状況であり、ここ当分はBZP系睡眠薬に取ってかわるものはないと思われる(H.16.9.12)。
BZP系睡眠薬は、その活性代謝産物を含めた消失半減期により、超短時間型(睡眠の前1/2)、短時間型(1晩)、中間型(1日)、長時間型(2〜3日)のように分類、記憶するのが実際の臨床においても便利である(H.16.9.13)。
BZP系睡眠薬の選択にあたっては、半減期や最高血中濃度到達時間(Tmax)、不眠の型(入眠障害、中途覚醒、早朝覚醒)、患者の年齢や身体、生活状況などを考慮しなければならない。特に翌日の仕事に安全性や精密さが求められるもの(公共交通機関などの運転手、パイロット、危険を伴う仕事など)や高齢者、呼吸器・肝・腎機能に障害のあるものには、筋弛緩作用の弱い短時間あるいは超短時間型睡眠薬を使用するのが望ましい(H.16.9.14)。
脆弱性ーストレスモデルは統合失調症(分裂病)の発症を説明するため1977年にZubinらによってはじめて提唱された仮説的モデルである。これは、各個体の素因である統合失調症へのかかりやすさ(脆弱性)があると、外部環境からの刺激によるストレスの影響を受けて統合失調症の発症につながるというものである。近年、統合失調症に対して生活技能訓練をはじめとする行動療法的なアプローチが盛んにおこなわれているが、それらは理論的根拠を脆弱性ーストレスモデルにおいている(H.16.9.15)。
外部環境の刺激には、ストレッサーと周囲からの支援の欠如などが含まれる。生活上のストレッサーは肉親との離別、結婚、昇進、転居、離婚などの人生上の出来事である。脆弱性が低い場合はストレッサーなどへの対処不全があっても大きな影響は受けないが、脆弱性が高い場合は対処不全は統合失調症(分裂病)の発症ないし再発へとつながる。脆弱性が高ければ高いほど、ちょっとしたストレッサーとなる出来事でも統合失調症症状の発現へとつながる(H.16.9.16)。
Libermanらは当初のZubinらの脆弱性ーストレスモデルを拡張し、それに対処のしかたや力量の面を加え、個体の対処技能を高めることによってストレッサーに対応するという脆弱性ーストレスー対処力量モデルを提唱した。最近、注目されている認知行動療法的アプローチである生活技能訓練(social skills training: SST)はこのモデルにもとづいており、社会生活上必要とされる生活技能をあらかじめ訓練することによって、対処技能を高め、ストレスを緩和し、再発を防ぐというものである(H.16.9.17)。
社会恐怖の基本的特徴は、最新のDSM−W(1996年)によれば、恥しい思いをするかもしれない社会的状況に対する顕著で持続的な恐怖である。そして恐怖の対象となっている社会的状況への曝露によって、ほとんど必ず不安反応が誘発される。この障害をもつ青年や成人は、その恐怖が過剰であること、不合理であることを認識している(H.16.9.18)。
ほとんどの場合、その社会的状況は回避されているが、時には恐怖を感じながら堪え忍んでいるということもある。この診断が適切なのは、このためにその人の毎日の生活、職業上の機能、または社会生活が著しく障害されているか、その人が著しい苦痛を感じているかである。また社会恐怖と診断される場合は、少なくとも6か月以上症状が持続していなくてはならない(H.16.9.19)。
社会恐怖と類似するものとしては、回避性人格障害があげられる。回避性人格障害は社会恐怖と多くの共通点をもっており、社会的状況への全般的な回避行動を主とする。必要に応じて、社会恐怖に対する追加診断として、回避性人格障害を考慮に入れるべきである(H.16.9.20)。
一方対人恐怖の定義として、笠原は「他人と同席する場面で、不当に強い不安と精神的緊張が生じ、そのために他人に軽蔑されるのではないか、嫌がられるのではないかと案じ、対人関係からできるだけ身を退こうとする神経症の一型」(1975)とする(H.16.9.21)。
対人的、社会的状況における恐怖として赤面恐怖が西欧でもわが国でも古くから知られていた。わが国では森田が1921年に赤面恐怖について報告し、そして後に対人的、社会的状況におけるさまざまな恐怖を対人恐怖症としてまとめた、つまり対人恐怖はわが国で命名され、その治療と精神病理がわが国の精神科医によって独自にかつ詳細に検討された数少ない病像の一つである(H.16.9.22)。
一方社会恐怖は、1980年に米国精神医学会が精神障害の分類と診断の手引第3版(DSM−V)ではじめて不安障害の一類型として取りあげた。それまでは、社会的、対人的状況におけるこのような不安障害はあまり西欧の精神医学では注意がはらわれていなかった。そこで社会恐怖と対人恐怖の異同が論じられるようになってきた(H.16.9.23)。
たとえば、自己の視線、臭い、自己の身体などが何らかの形で他者に好ましくない影響を与える、嫌がられる、忌避されるという恐れ(加害恐怖)が対人恐怖には存在する。これらは自己視線恐怖、自己臭恐怖などで一括して重症対人恐怖とよばれる。これらの恐れは対人恐怖に特有のもので、社会恐怖には含まれていない。またこの加害恐怖はしばしば妄想的確信をもつため、統合失調症(分裂病)との鑑別が問題となる(H.16.9.24)。
「思春期妄想症」は1967年に植元が提唱し、1970年村上らによって再定義された概念である。「自分の体から嫌な臭いが発散しているので、周りの人達に迷惑をかけている」と妄想的に訴える「自己臭妄想」、および「自分の視線が鋭いので、周りの人に不快な感じを与えている」と訴える「自己視線恐怖(/妄想)」、目、鼻、額、頬、唇など体、とくに顔の一部の形態に強くこだわり、「そのために他人に嫌がられる」と訴える「醜形恐怖」などを包括するものである(H.16.9.25)。
<軽症うつ病>
軽いうつ病と重いうつ病では病像が異なるという指摘は、すでにドイツでは20世紀の初頭よりなされていた。その際、軽症では抑うつ気分やほかの精神症状よりも身体的愁訴が優位に立つといわれた。現在わが国でも用いられる「仮面うつ病」も身体症状が前景の軽症うつ病とみなされている(H.16.9.26)。
薬物療法で留意すべき点は、症状が軽症なので少量を漫然と投与しがちであるが、十分量できちんと治療することを心がけるべきである。軽症うつ病は横断面でみると確かに軽症だが、縦断的にみると、慢性化しやすい傾向がある(H.16.9.27)。
本症は、日常の仕事や社会的活動をつづけるのにいくぶんの困難を感じる程度であるので、仕事をつづけながらの外来治療が多い。その点を考慮し、抗うつ薬は極力副作用の少ないものを選択する(H.16.9.28)。
軽症うつ病患者がまず受診するのは、神経科以外のプライマリケアの現場である。うつ病には軽症例があることを多くの臨床医や患者が認識し、抵抗なく早期受診や適切な早期介入がなされれば、より早い回復がもたらされる(H.16.9.29)。
<軽症うつ病の考え方>
本症は明確な定義づけがなされないまま容易に便利に用いられてきており、そのよって立つ立場により、イメージする病態、病像が異なり適切な診断や治療がなされなかったきらいがある。
*軽症の内因うつ病とみる立場
笠原は、軽症うつ病の増加を指摘するとともに、本症をその現代的病像から「内因性非精神病性うつ病」とみなしている。
(国際疾病分類第10版(ICD−10)には、うつ病エピソードの項目中に軽症うつ病エピソードが記載されており、病因は何であれ、一定のうつ病の症状から軽症うつ病を定義づけることができる。)
仮面うつ病は身体症状が優位な内因うつ病である(H.16.9.30)。
*症状の重症度からの診断
第1の考え方として抑うつ気分こそ、うつ病の中核症状とみなし抑うつ気分の程度により、重症か軽症かを区別する考え方がある。
第2の考え方として、うつ病の主要な症状である抑うつ気分、意欲減退、思考の異常、各種の身体症状を総合的にみて重症度を決める方法であるが、世界的によく用いられるハミルトンのうつ病評価尺度は、これらの各症状の評価が網羅されており、その総得点でうつ病の重症度を決定する(H.16.10.1)。
*性格や環境に起因するうつ病とみる考え方
神経症的要素とうつ病的要素をあわせもつ神経症性抑うつあるいは抑うつ神経症、さらに反応性抑うつとみなされる一群を軽症うつ病と定義づける立場がある(H.16.10.2)。
精神障害は、外因性、内因性、心因性に大別される。外因性精神障害とは、たとえば脳腫瘍、脳梗塞とか、薬物中毒など、外因によって精神症状を呈するものである。内因性精神障害とは、脳の神経伝達物質などミクロなレベルでの異常が推定されているものであり、統合失調症、躁うつ病や内因性うつ病がこれに含まれる。心因性精神障害とは、心因と精神障害の発症に関連があり、障害の程度が、心因から説明可能なもので、神経症、心因反応などが、これに含まれる(H.16.10.3)。
気分変調症(dysthymia)は従来抑うつ神経症とよばれてきたものをおもに含むとして、DSM−VRまでは括弧つきで抑うつ神経症の名が残されていたが、DSM−Wになってそれは消滅した。気分変調症の概念が抑うつ神経症といわれていたものとは本質的に異なるので、むしろ、当然の結果といえる。
DSM−Wの診断基準(抑うつ状態にあるとき、以下の症状が二つ以上あること; 1.食欲減退か過食、2..不眠か過眠、3.エネルギー減少か疲労、4.低い自己評価、5.集中力困難か決断力低下、6.絶望感)をみても、六つの症状は軽い程度の表現になってはいるものの、大うつ病の基準項目にあるもので、それが二つ以上あるというのは大うつ病の軽症型ともいえる。
しかし気分変調症の特異性は症状よりもむしろ経過にあり、間欠期間が2か月以上なく、病期が2年以上(児童、青年は1年)持続する慢性経過とされる点である。すなわち軽症慢性うつ病のことである(H.16.10.4)。
気分変調症は、若い年代に多い病態である。従来診断で10代の若者のうつ状態と状態像診断されているものの大部分は気分変調症とみてよく、慢性経過をたどり、同時に不登校などのほかの病態を合併していることが多い。ただし、統合失調症(分裂病)に伴ううつ状態は気分変調症とはいわないことがDSM−VR、DSM−Wとも明記されている(H.16.10.5)。
気分変調症発症後2年間を除いた経過のなかで大うつ病となるものは、気分変調症との合併を認めており、重複うつ病(double depression)とよばれる。大うつ病の1/4に気分変調症の先行を認めるとする報告もあり、重複うつ病は当初考えられたよりも頻度が高いことがわかる。この形をとるものはその後の大うつ病の再発率が高いことや、自殺の危険の高いことが指摘されており、注意を要する(H.16.10.6)。
<気分変調症の治療>
慢性経過という特徴から自明なように、抗うつ薬などの薬物療法の効果は不十分である。MAO阻害薬が有効との外国の報告はあるが、安全な薬剤がまだ市販されていないわが国の現状では確かめようがない。リチウム、カルバマゼピンなどの気分安定薬は試みる価値がある(H.16.10.7)。
若年の患者の場合、不登校、摂食障害、ひきこもりなどを合併する例が少なくない。そうした視点に立って精神療法をおこなうことが必要となる(H.16.10.8)。
<非定型うつ病>
非定型うつ病とは、MAO阻害薬に反応するうつ病亜型の研究に端を発した臨床概念であり、気分反応性(抑うつ状態にあっても何かよい出来事に反応して気分が明るくなれること)、過眠、過食などの逆転した自律神経症状、疲労感、不安症、対人関係での過敏性などをその症状の特徴とする(H.16.10.9)。
この疾患概念は、1959年、英国のWestとDallyによる報告にはじまる。彼らはその特徴として気分反応性、恐慌発作を含む不安、夕方に増悪する通常とは逆の日内変動、強度の疲労・倦怠感、身体へのとらわれ、月経前緊張症などの症状を指摘した。以降、MAO阻害薬が奏功する患者の特徴として、虚空な抑うつ、情動の増大、広範な不安、不機嫌で過剰な反応、気分反応性、不安、早朝覚醒の欠如、逆転した自律神経症状などの報告がなされてきた(H.16.10.10)。
このような研究の流れをふまえ、これに類ヒステリー気分不快症(hysteroid dysphoria)という独自の臨床特徴を加味したのがKleinらのコロンビア大学グループによる非定型うつ病の概念である。コロンビア大学グループは、気分反応性があり、かつ、過眠、過食、鉛様の麻痺(体が重苦しくつらいと感じ苦しむこと)、拒絶への過敏さ(他者に拒絶されることへの病的な過敏さ)の4項目中、2項目を満たすものを非定型うつ病とした(H.16.10.11)。
hysteroid dysphoriaとは、周囲から注目、賞賛されることを切望するタイプの人物が拒絶されたと感じるときに反復して生じる抑うつ気分をいう。コロンビア大学グループは、この臨床特徴と、気分反応性、逆転した自律神経症状(過眠、過食など)、極度の疲労感を非定型うつ病の要件とし、臨床薬理学的にこの疾患概念の妥当性を示す報告を積み重ねてきた。彼らの成果は、1994年に発表された米国精神医学会による精神障害の分類と診断の手引第4版(DSM−W)診断基準において、「非定型の特徴を伴うもの」(気分障害)として取り入れられている(H.16.10.12)。
非定型うつ病の臨床的特徴としては、MAO阻害薬がそれ以外の抗うつ薬にくらべて奏功することに加えて、コロンビア大学グループを中心に以下のような報告がなされている。(1)若年発症が多い。(2)軽症から中等度の重症度のものが多く、入院を必要としない場合が多い。自殺企図は演技的なものを別にすればまれである。(3)(略)。(4)独自の遺伝形式をもつ可能性がある(H.16.10.13)。
DSM-Wの「非定型の特徴を伴う気分障害」に記載されている「特徴」とは、つぎのうち二つ(またはそれ以上)とされている。
1)著明な体重増加または食欲の増加
2)過眠
3)鉛様の麻痺(すなわち、手や足の重い、鉛のような感覚)
4)長時間にわたり対人関係の拒絶を起こす敏感さ(気分障害のあいだだけに限定されるものでない)で、著しい社会的または職業的障害を引き起こしている
(H.16.10.14)。
急性分裂病(統合失調症)のいわゆる陽性症状が消褪したのち、陰性症状を基底にして抑うつ症状が前景化することがある。1976年、McGlashanらはこれを「精神病後抑うつ(post-psychotic depression)」と総称した。以後この概念が流布し、国際疾病分類第10版(ICD−10)では分裂病後抑うつ(post-schizophrenic depression)として分裂病(統合失調症)のサブタイプとして位置づけられた(H.16.10.15)。
この病像に対する見解は各文化圏で異なり、わが国では寛解後の「疲弊・消耗」状態とみる傾向のほうが強い(H.16.10.16)。
この病像の記述を歴史的にたどると、ドイツ語圏ではHuberの「精神病状態経過後の遷延性無力性基底期」、Heinrichの「寛解後疲弊症候群」などの記述がある。永田はこれに「寛解後疲弊病相」という名称を与え、この時期の分裂病(統合失調症)者の治療がその後の患者の経過を決するうえで重要な意義をもつことを強調した(H.16.10.17)。
<分裂病後抑うつの臨床像>
*抑うつ気分
*思考、作業能力の障害
患者は思考の散漫さ、集中困難などを訴え、読書は困難になり、他者の話を理解することができないという訴えもある。
*対人関係(略)
*睡眠過剰、身体的異常感
一般に病相の初期には入眠時間が早く覚醒が遅延する睡眠過剰が多く、その後は入眠遅延を伴う睡眠過剰に移行することが多い。さまざまな身体的異常感が訴えられ、高度の易疲労感、頭痛、頭重、胸痛、消化器症状などがある(H.16.10.18)。
なお、治療的には三環系抗うつ薬の有効性が再評価され、またリスぺリドンの効果が期待されている(H.16.10.19)。
平岩弓枝氏の時代小説「御宿かわせみ」シリーズ「秘曲」所収の「おたぬきさん」という話には、うつ状態を惹起する薬の話が出て来る。すなわち「あまり多用すると気力が減退し、気分が落ち込んで来て悪くすると死に至る」、「生きているのが億劫になるというか、重苦しい気分に耐えられなくなるような。その結果、首をくくったり、川へとびこんだりという・・・・・」、「あの薬には昂ぶった気分を鎮めたり、心を安らかにする効果はあるのですが、過ぎると今、申し上げたようなことにもなる」などとある。現代の薬物にもうつ状態を惹起する薬剤があり、すなわち降圧剤のレセルピンはうつ状態を惹起する薬物として有名であり、この副作用のためか、現在はほとんど使われていない。この薬は交感神経の神経終末部に作用して、モノアミンの貯蔵を枯渇させる作用があることがわかっている。この働きにより、交感神経の刺激を抑制することで高血圧の治療薬として用いられて来たが、このレセルピンの副作用が「うつ状態」なのである。脳内神経終末部のモノアミンが不足することで、スムーズな伝達が行われなくなった結果として、うつ状態が誘発されるということで、説明がつく。また統合失調症(分裂病)の興奮、躁状態などの鎮静によく使用されるゾテピン(商品名ロドピンなど)はときに過鎮静をもたらし、うつ状態を引き起こす(H.16.10.20)。
家族の感情表出(expressed emotion: EE)とは統合失調症(精神分裂病)などの慢性疾患患者と家族間に存在する家族関係の一側面であり、家族が患者に表出する感情の内容によって測定したものをいう。とくに統合失調症では、再発を予測する主要な社会心理的因子として世界的に認知されている(H.16.10.21)。
測定項目は、批判的コメント(critical comments)、敵意(hostility)、情緒的巻き込まれすぎ(emotional overinvolvement)、暖かみ、肯定的言辞の五つだが、再発に直接関係するのは、これまでのところ批判、敵意、巻き込まれすぎの3下位尺度といわれている。EEは、元来、統合失調症の再発を家族関係から予測する目的で開発された予測尺度の性格をもつ(H.16.10.22)。
高EEが再発をもたらす機序は統合失調症のストレスー脆弱性モデルから説明される。高EE状態にある家族が統合失調症者の慢性ストレス要因になり、高EEの家族との長時間の対面が、患者のストレスを蓄積させ再発に結びつくと考えられる(H.16.10.23)。
Creuzfeldt-Jakob病(CJD)などの疾患は、長い潜伏期間の後にチンパンジーなどの動物に伝播されうること、しばしば脳に特徴的な海綿状変化を生ずることから、遅発性ウイルス感染症とか伝染性海綿状脳症と呼称されてきた。その感染因子として、Prusinerは既知のウイルスなどとは異なるプリオン(prion)を提唱した(プリオン仮説)(H.16.10.24)。
一部の研究者には異論があるが、プリオン仮説は広く支持されてきており、現在、これらの一群の疾患はプリオン病と総称されている(H.16.10.25)。
突然、耐えがたいほどに強烈な不安に襲われ、呼吸はできず、心臓はいまにも破裂しそうに動悸を打つ、死の予感におびえ救急車で病院に駆けつける。しかし病院に着いたときには発作はおさまり、2,3の検査を受け、「何ともない」と帰される患者が少なくない。これらの患者は自律神経失調症や不安神経症、心臓神経症などとして対処されてきたが、このなかに多くのパニック障害患者がいる。パニック障害については、このページの初めの方で一度説明しているが、よくみられる病態であるので、別の文献を引用しながら、もう一度述べることにする(H.16.10.26)。
パニック障害は、米国精神医学会が1980年に発表した精神障害の診断と診断の手引第3版(DSM−V)で、不安障害の一つとしてとりだされた。そして国際疾病分類第10版(ICD−10)でも採用された(H.16.10.27)。
パニック障害は、自律神経の過剰な興奮による身体症状と認知面の強い不安感を伴うパニック発作が特徴である。発作がはじまってから10分以内に症状はピークに達し、60分以内にしだいに源弱する。発作には特徴的な症状のうち、四つ以上が存在する。とくによく出現する症状は、心悸亢進、呼吸困難およびめまい感である(H.16.10.28)。
思いがけないときに発作が反復し、発作後心理的あるいは行動面の変化(もっと発作が起こるのではないかという心配の継続、コントロールを失う、心臓発作を起こす、「気が狂う」などについての心配など)が生じてきたときに、パニック障害と診断される(H.16.10.29)。
パニック障害には、空間恐怖(広場恐怖;逃れることが困難だったり、困惑するような、あるいはパニック発作が起こったときに助けが得られないような場所や状況にいることへの恐れ)を伴うものと、伴わないものがある。空間恐怖(広場恐怖)を伴うほうがずっと多い(H.16.10.30)。
パニック障害の原因には、三つの要因ーすなわち心理的、行動的および生物学的ーがある。とくに生物学的な要因が重要であり、生化学面の遺伝的な脆弱性の存在が想定されている。しかし、発症前6か月以内に、何らかのライフイベントがある例が多い(H.16.10.31)。
米国の調査では、生涯有病率は1%前後で、男性より女性に高率で、発症のピークは20歳代にある。わが国では、発症頻度に男女差はなく、青壮年期に発症のピークがあると推測されている(H.16.11.1)。
最初から典型的なパニック発作が起こる例もあるが、約半数はめまい感だけとか、胸がしめつけられて息苦しいだけなどの症状ではじまる(症状限定発作)(H.16.11.2)。
このあとは「精神科エッセイ3」のページをご覧ください。