
第一話「決意」
| 「進路クリアー、お兄ちゃんムラサメどうぞ!」 間の抜けた声がコクピットに響く。 マユのやつ…またミハイルさんに叱られるぞ… 「シン・アスカ、ムラサメ行きます!!」 タケミカズチに敷かれた短い滑走路からの急加速。 ムラサメから来る重力を直に受け、俺はこの空へと旅立つ… コズミックイラ73 こうして俺はムラサメと共に、空の上にいる。 そこに答えがあるかはわからない。 けど、俺は…この生かされた命を。 ただ時間と共に浪費することだけはしたくなかった…… 「シン!マユ!後少しだ!頑張れ!」 父さんが僕達家族を連れ、港まで走る。 ウズミ・ナラ・アスハ代表の緊急会見から、もう随分と時間が経った。 あれから僕達は必要最低限の物だけを持ち、港を目指し走り続けた。 「大丈夫だ。目標は軍の施設だ、大丈夫」 父さんは、僕達に心配を掛けまいと辛い顔一つ見せずにそう励ましてくれていた。 目の前を爆風と共に見知らぬ地球軍のモビルスーツが飛び去っていく。 本当に戦争が起こるなんて思ってもいなかった。 戦争はテレビの中のもので、それで知らない国の人が沢山死んで… でも今、その戦争が僕達の目の前で起こっている。 船を目指し走る途中、僕達に迫る光にに気づいたのは 目の前に現れた一機のMSを見てからのことだった… 拙い… 蒼い重武装のヤツの矛先に、逃げ遅れた家族が映る。 俺は考えるよりも先にその家族の前に飛び出した。 「くっ!!」 機体が悲鳴をあげ、計器からアラートが鳴り響く。 無理な体勢からのシールド防御。 ――さすがにコイツでガンダムタイプの攻撃を受けるのは無茶もいいところか… サブカメラで家族が生きているのを確認する。 どうやら間に合ったようだ。 「行け!!」 俺はすぐさまスピーカーで叫んだ。 父親は家族をつれて走り出す。 その姿をを確認し、再びメインモニタへと目を移した。 目の前に迫る『災厄』が俺の愛機に狙いを定める。 「絶体絶命ってやつか…」 俺はいつもよりアストレイの操縦桿を強く握り締めた… 「焦らないで下さい!船には十分全員を収容することができます!」 オーブの制服を着た軍人に案内され、僕達家族は船に乗り込むことができた。 船の窓からオーブを見つめる。 ボロボロだった…街も、人も、そしてモビルスーツも…… 行け!! ――あの人どうなったんだろ… あの時助けてくれた赤と白のモビルスーツ――どうもアストレイというらしい――がどうなったのかは 結局わからずじまいだった。 「くそっ!!」 気がつけば俺は、壁に拳を叩き付けていた。 「俺は……何もできなかった!! 父さんや母さん…それにマユが死ぬかもしれないって時に…何も!!」 もしあのモビルスーツが庇ってくれなければ、俺達は確実に死んでいた。 あまつさえ、その後の俺は見ず知らずのパイトットの声に甘えて…ただ逃げ出すだけだった。 「畜生…畜生…ちくしょぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」 拳の皮が破れて出血していたが構わない、何度も壁を殴り続ける。 今日ほど自分の不甲斐なさを痛感した日は無い。 俺は、誰かの助けを借りなければ家族すら護れないほどに……無力だった。 「ハァ……ハァ……」 ひとしきり叫んだ後、俺は未だ戦闘の続く本土に眼を向け、名も知らぬパイロットに誓いを立てる。 「――あんたに貰ったこの命…無駄にはしない」 内に秘めた誓いを胸に、シンはその場を後にした。 「――!! お兄ちゃん、その怪我どうしたの!?」 家族のいるエリアに戻ってくると、俺の右手の怪我に気づいたマユが早速駆け寄ってきた。 「ああ、これ? 大丈夫、たいしたこと無いよ」 「たいしたこと無いって、それ――きゃん!」 ごちゃごちゃうるさいので、取りあえず抱きしめる。 「ちょっ――お兄ちゃん、恥ずかしいよぉ!」 顔を真っ赤にしてジタバタもがくマユを、力いっぱい抱きしめた。 ――俺達は、生きてるんだ。 触れ合っている部分から伝わる暖かさも、徐々に高鳴る互いの心音も、思いっきり踏まれて少々ズキズキ する爪先の痛みさえも、全部俺達が生きてる証だ。 俺の腕の中で今なお暴れ続けるマユに、安心させるように囁く。 「大丈夫だよ、この手の傷は…… 俺がマユたちを必ず護り抜くっていう、『証』だから――」 |