地域政府創設に8割が「ノー」 イングランドの地域政府誕生はおあずけに |
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【2004年11月14日】イングランド北東部で11月4日、公選の地域議会(Regional Assembly)を創設することの是非を問う住民投票が実施され、反対78%、賛成22%と大差で否決された。これにより、当分の間、イングランドに地域政府が誕生する見込みはなくなってしまった。 英国では、スコットランド、ウェールズ、北アイルランドの3地域にはすべて、ブレア政権発足の1997年以降、地方分権の方針に基づいて独自の議会が置かれている。特にスコットランド議会は、立法機能を持ち、所得税税率を変更できるなど、大幅な権限を与えられている。ロンドンには、「大ロンドン庁(Greater London Authority)」という自治体があり、ロンドン市議会も置かれているが、これを除くとイングランドには、スコットランドやウェールズのような地域政府は存在してない イングランド北東部に構想されていた議会は、25人の議員を住民の投票で選ぶというもので、議会の予算は年間5億ポンド(約100億円)。イングランド北東部とは、ニューカッスル・アポン・タイン、ミドルズバラ、ゲイツヘッドなど、スコットランドと隣り合うイングランドの端。失業率は6%と高く(英全土では4.8%)、裕福なイングランド南部に比べて経済格差が大きいが、地元に対する住民の愛着心は強く、地域にアイデンティティを感じている人が多いと言われる。 イングランドに地域政府創設というアイデアは、1997年と2001年の総選挙で労働党のマニフェスト(政策綱領)に謳われていたが、実はほとんど、プレスコット副首相の「パーソナル・プロジェクト」に近かった。プレスコット氏はこの構想を30年近く温め、その実現を悲願とし、今回は孤軍奮闘とも言える状況で賛成票の獲得に向けて運動を行ったのである。 ▼「完全な敗北」 有権者は190万人で、投票はすべて郵送で行われた。当初は、イングランド北西部とヨークシャー州・ハンバーサイド州でも同じ日に住民投票を行うはずだったが、郵送投票に不正の懸念が生じたことから、同2地域の投票は延期された。しかし実は、これは表向きの理由で、同2地域では否決される可能性が強いと判断した政府が先送りしたと見られている。 開票結果判明後の記者会見でプレスコット副首相は、巨体に苦虫を噛みつぶしたような表情を浮かべながら「完全な敗北だ」と認めた。投票率は48%と、悪くはなかった。しかし、投票が行われた23のカウンシル(自治体)のうち、賛成が多数を占めたところはゼロ。ブレア首相の選挙区であるセッジフィールドでは、反対2万3000票に対し、賛成はわずか9000票だった。政府内に敗北を予想する声はあったものの、これほどの惨敗になるとは考えられていなかったようで、閣僚らは驚いたという。今回の投票に関しては、賛成票奨励キャンペーンや投票の準備などで1100万ポンド(約21億円)の公費が使われたが、すべて無駄になった。 ▼権限少ない議会 しかし、「自分たちの地域のための独自の議会」という構想に対して、なぜこれほど多くの住民がノーを突き付けたのか? 実は、投票のわずか2ヶ月前の調査では、賛成派が21%もリードしていた。賛成派は、「中央政府ではなく、自分たちの議会で自分たちのことが決められるようになる」「議会は地元企業の雇用を支える」などと、地域議会の創出による利点を主張していた。 しかし実際は、構想されていた地域議会の権限はかなり限られたものだったのだ。土地利用計画や住宅供給、文化や観光などの分野では権限を持つとされていたものの、教育や医療・福祉、犯罪対策など重要な政策分野では一切の権限を与えられていなかった。住民や地元ビジネス界が望む経済成長や雇用創出をもたらすものではないことは明白だったが、議会の運営費は見積もりで年間2500万ポンド(約50億円)にも上った。目に見える利益は生まず、政治家の数だけ増やし、税金を食う。これでは住民の反発を招くのは当然である。劣勢が明らかになった投票直前、プレスコット副首相は、議会が権限を持つ分野に交通政策も加えたが、もはや有権者の意思は固まっていた。 ▼反EU派が強硬キャンペーン それにしても、反対が80%というのは多過ぎはしないか。その背景には、反対派「ノース・イースト・セイズ・ノー(NESNO)」によるアグレッシブなキャンペーンがあった。英語には「white elephant(白い象)」という言葉があり、「高くつく無駄なもの」「持て余し物」という意味を持つ。NESNOの街頭キャンペーンでのマスコットは、ビニール製の大きな白い象だった。これを従え、「より多くの政治家、より多くの官僚主義、より多くの税金」という、議会の欠点を強調したシンプルな謳い文句を繰り返し唱え、増税におびえる住民の恐怖心をあおって反対票へとなびかせることに成功したのだ。賛成派は、議会が権限を持たされていないばかりに、反対派の主張に効果的に反論することができなかった。 また反対派の多くは、EU(欧州連合)の覇権拡大に反対し、英国の主権を守ろうとする欧州懐疑派でもあった。彼らは、地域議会の創設は、英国の分断と主権の低下、そしてEUの覇権強化を招くものであるとし、イングランドでの地域議会創設案はEUの「陰謀」であるとさえ考えていた。NESNOの発起人は欧州懐疑派の地元のビジネスマン、ジョン・エリオット氏。キャンペーンの指揮役はわざわざロンドンから担ぎ出された右派シンクタンクの人物だった。反対派を支持した政党は、英国のEU離脱を訴える英国独立党(Ukip)と、欧州懐疑派の保守党。英国では、来年にも実施が予想される総選挙の後に、欧州憲法批准のための国民投票が行われる予定だが、この住民投票の結果を鑑み、批准を懸念する声も出ている。 議会に多くの権限が与えられなかったのは、イングランドでの地域議会創設という案を支持する者が政府内に少なく、各省が権限を委譲しなかったためだったという。ブレア首相でさえ、イングランドでの地域議会創設にはあまり乗り気ではないことを地方紙のインタビューで明かしており、実際、賛成キャンペーンの支援はほとんど行わなかった。賛成派だった野党自由民主党の議員は、「もっと多くの権限が議会に与えられていれば、結果は違っただろう」と語っている。 ▼2地域での投票はなしに 投票4日後の11月8日、プレスコット副首相は国会で、北東部での結果を鑑みて、北西部とヨークシャー州・ハンバーサイド州での住民投票実施計画を破棄したと述べた。当初の構想では、イングランド内の最大8〜9地域に議会を創ることとなっていたが、恐らく地域議会創設というアイデアそのものも、政府の政策案から姿を消すこととなる。プレスコット氏は、広い意味での地方分権という構想自体がなくなったわけではないとしているが、今後、どのような形でそれを探るのかは不透明である。 賛成派は、「いったん議会を創設すれば、将来、権限を拡大する可能性もあったのに。地方は、中央の支配から脱する重要な機会を逃した」と肩を落とす。実はスコットランドもウェールズも1970年代に一度、地域議会の創設を住民投票で否決し、20年後にやっと可決したという経緯があり、イングランドもまだ諦めるのは早いという声もある。しかし政府としてはとりあえず、総選挙を恐らく半年後に控えた今は、この惨敗を1日も早く国民の記憶から消し去りたいところだろう。 |
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