◇ ブロークバック・マウンテン完全解説
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ブロークバック・マウンテンの失楽園的見地

 失楽園とは、旧約聖書の創世記に出てくる話で、あまりに有名なので説明するまでもないとは思いますが、 「アダムとイヴが蛇にそそのかされて、神から食べることを禁止された知恵の実を食べ、エデンの園を追放される」という話です。
 知恵の実はリンゴに形容されることが多く、また、 最初に食べたのはイヴで、アダムはイヴから渡されて食べたとあります。

 失楽園的にこの映画を解釈すると、アダム=イニス、イヴ=ジャック、神=アギーレ(雇い主)となり、 イニスがコヨーテを仕留めた話の中で「リンゴ並みのタマだった」と言ってることから、 知恵の実=タマということになります。 もう一つ登場するのが「蛇」ですが、これに該当するものは見当たりません。 ジャックをそそのかして知恵の実を食べさせたのはいったい誰だったのか?
 それについては想像でしかありませんが、ジャックがブロークバック・マウンテンで羊飼いをするのは2年目だと言ってますので、 蛇=前年ジャックと一緒に働いた男だったというのが、私の考えです。
 ジャックの「俺達は地獄にいく」というセリフが、聖書で禁じられた行為を既に経験していることを示唆しています。 それに対してイニスの、
 "You may be a sinner, but I ain't yet had the opportunity."
 直訳「お前は罪人かもしれんが、俺はまだその機会はない」
というセリフは、イニスが未経験であることを示唆しています。 それと、ありふれた言い方なのかもしれませんが、 「機会がなかっただけ」とも取れるような微妙な言い回しが、これからの出来事を予感させます。
 結局、知恵(?)を身につけたイニスとジャックは、アギーレの言いつけを破って、夜、羊番をしなかったため、 アギーレの怒りに触れ、楽園=ブロークバック・マウンテンを下ろされ、 以来2度と戻ることが出来なかったという、典型的ともいえる失楽園のスタイルです。

 ちなみに、男女の楽園エデンの園は東方にあり、 男同士の楽園ブロークバック・マウンテンが西部にあるというのも意味深ですね。

 さて、楽園を追われたアダムとイブがどうなっかたというと、 イヴは「男を求め、男に支配される」ようになり、アダムは「生涯食べ物を得ようと苦しむ」ようになったとのこと。 まるで、ジャックとイニス、そのものですね。


 最後に、アダムとイヴにとっての知恵の実は、食べることを神から禁止された果実だったので「禁断の果実」とも言われますが、 イニスとジャックはソレを食べることをアギーレに禁止されたわけではないので、禁断の果実ではなく知恵の実と表記しました。

※ 創世記第2章に「神は東の方のエデンに園を設け」とあり、また、チグリス・ユーフラテス川の記述もありますので、 エルサレムやヨーロッパから見て「東方」にあると判断しましたが、日本から見ると東と西が逆になります。
 いずれにせよ、バビロニアのほぼ反対側にブロークバック・マウンテンがあることに興味をそそられました。 原作者がそこまで意識していたかどうかはわかりませんがw


追記1:
 創世記によると、イヴより先にアダムが創造されたので、ジャックより先にイニスが生まれていなければならない。 そこで、シナリオの段階で19歳と思われるイニスの年齢を、映画では20歳に改めたのかもしれない。→年代の註釈※08参照

追記2:
 「こうしてアダムを追放し、命の木に至る道を守るために、エデンの園の東にケルビムと、きらめく剣の炎を置かれた」(創世記第3章24節)
 ケルビム=ジャックの親
となり、イニスをブロークバック・マウンテンに行かせない役割があったのかもしれない。



ブロークバック・マウンテンのキリスト教的見地

 ジャックの母親が信者だというペンテコステ派は、翻訳本の註釈によると「聖書の教えを厳格に守る宗派」だそうです。 また、ジャックが裸で洗濯していたのは着替えを持って行かなかったからで、「旅に出るとき、二枚目のシャツは必要ない」という イエスの教えを守っていたのかもしれません。
 ジャックはイニスに、ペンテコステ派がどういうものか知らないと言ってますが、賛美歌"Water Walking Jesus"(水の上を歩くイエス)を歌っていますし、 母親の影響を受けて同性愛にかなり罪深さを抱いていたのではないでしょうか。
 イニス同様にジャックも相当苦しんでいたことが想像されます。