角田光代さんの本
「幸福な遊戯 ★」「愛してるなんていうわけないだろ」「ピンク・バス ★」「学校の青空」
「まどろむ夜のUFO」「カップリング・ノー・チューニング」「キッドナップ・ツアー」「草の巣」
「みどりの月」「東京ゲストハウス」「地上八階の海」「菊葉荘の幽霊たち」「恋愛旅人 ★」
「エコノミカルパレス
★」「だれかのいとしいひと」「空中庭園」「銀の鍵」「愛がなんだ」「今、何してる?」
「対岸の彼女★」 「予定日はジミー・ペイジ
」「八日目の蝉 ★
」「森に眠る魚
」
★一言★ 角田さんは、私の好きな作家・素樹文生さんと親しいということだったので読みはじめた。1967年、横浜市生まれ。早稲田大学文学部文芸科卒業。「幸福な遊戯」で第九回「海燕」新人文学賞受賞。「まどろむ夜のUFO」で野間文芸新人賞受賞。「ぼくはきみのおにいさん」で坪田譲治文学賞受賞。
■ストーリー
・「幸福な遊戯」男二人、女一人の共同生活。三人だったから良かったのに、あるバランスが崩れてしまったことにより、さまざまな事に影響していく。
登場人物/「私」、ハルオ、立人
・無愁天使
だらだらと過ごす毎日、浪費癖も直ることはない。出張エステで野田草介さんと出会い、母との確執を含む今までの人生について語り始める「私」。
登場人物/「私」、野田草介、母、ハルミ、
・銭湯
これも母への思いを中心にした短編。会社の愚痴、母への手紙、そして銭湯で出会う老婆たち、それについて八重子が思うこと。
登場人物/八重子、母、妙子
■目次
幸福な遊戯、無愁天使、銭湯
■感想
1990年「海燕」新人賞受賞作ということもあり、「幸福な遊戯」が今まで読んできた角田さん作品で一番良かった。テンポ、内容、言い回し、登場人物の心の動きなど、ひたすら良い作品だった。当時、23才でデビューしたそうだが、23才でこれほどの小説を書けるとは、やっぱりすごいと思った。
「無愁天使」は、暗闇を背負った主人公のじくじくした作品で、救われなさのフラストレーションが如実に語られてはいるが、表現のくどさ、固さが結構あった。しかしそれだけ純粋な気持が真っ直ぐに描かれているのだろう、もう一度読みたいと思わせてくれる。
「銭湯」は、これも主人公の心の葛藤を描いているが、ごつごつしてるだけに、愛着の持てる作品だった。派遣社員の嘆きといった感じ。妙子というお局OLとのいさかいのエピソード(いるいる、こんな人!)は面白かったが、妙子の良い面もあるとなお良かったのにと思う。全体的に文章が割れていて、そこまで必然性のないストーリーの羅列が多かったように思う。(2003/6/23)
■ストーリー
角田さん24才の時のエッセイ集。
■目次
★夜の向こうのパラダイス
タクシーをぶっとばす日まで、贈り物、おとなりさんの時間について、桃色眼鏡、天国と地獄、教師とパンチ、 愛してる、なんてゆうわけねぇだろ 、だんだんクズになってゆく、夜の匂い
★小さきものに幸せは宿る
「無駄じゃないよ」、私はこういう具合に人を好きになります、十五夜の夜、隠すからいけない、東京貧乏パラダイス、なんてたのしい占い、勇気を出してラッシュに乗るための様々な考察、小さきものに幸せは宿る、日常生活におけるデエトの重要性について、I've
been loving you too long、ちゃいろあたまの逆襲、不完全な楽園、フリーマーケット・デイ、電話大作戦、いざ行かん会社見学、悲しいベンチ
■感想
私自身の24才の頃を思い出しながら読んだ。年齢相応の悩み、悲しみ、苦しみなんかが明るく描かれた、等身大のエッセイで面白かった。24才前後の方、是非読んでね。「愛してるなんていうわけないだろ」っていうタイトルがまず良いなと思うし、その裏付けとなるエッセイもあるので。
「教師とパンチ」同感した。私も角田さんと一緒で、小学生から学生時代を終えるまで、なぜか教師から普通の態度で接してもらえることはなく、ものすごく好かれるかものすごく毛嫌いされるかの二通りだった。(詳しくは今日の日記に書こう)(2003/6/24)
■目次
ピンク・バス、昨夜はたくさん夢を見た
■ストーリー
★ピンク・バス
まだ結婚していないタクジとサエコに子供ができた頃、タクジの姉で、ちょっと変わった女性・実夏子が居座りはじめる。サエコは新しい生命をからだに宿しつつ、大学時代のレゲ郎と過ごした記憶を思い出している。「ピンクのバスがきたら、あれに乗って帰る」と姉は言い、そしてバスが来る・・。
★昨夜はたくさん夢を見た
イタガキとつきあっている、中古レコード屋ではたらく二十歳のカオル。二十年で十人が死に、香子が心のためのビョ−インに通いはじめ、イタガキはインドへ放浪の旅へと旅立つ。取り囲むさまざまな人々とできごとに、カオルの思いは・・。
■登場人物
★ピンク・バス・・サエコ、タクジ、レゲ郎(鉄男)、実夏子
★昨夜はたくさん夢を見た・・カオル、イタガキ、マリコ、香子、クロ
■感想
よくぞ書いて下さった、光代様!
角田さんのいわゆる代表作ではないが、わたしはこれが一番好き。これを越える作品、この先あるのかな? 素晴らしい作品を世に送り出してくれて、本当に嬉しい。(小説に対する充実感と圧倒的迫力を久しぶりに感じたので、興奮さめやらぬ文章になりました)
読んだ年齢による感覚が、わたしの今とカチリと合ったからだけど、そういうのも、縁のあるタイミング、と呼べるのだろう。今、会えて良かった。
角田さんが、この本を書いたのは二十六歳の時。当時に得たリアルを見据え、切り取って書いたものだと深く感じさせる。カプセルみたいな真空パックの作品内に、心ごとぎゅっと閉じ込められてしまった。
どちらの小説も温度が高くて非常に上質だが、『ピンク・バス』、特に気にいった。
あえて生きにくい道を選択する登場人物たち。わたしと似てるから、好き。その登場人物の描写の鮮やかさと、苦悩の度合いにくらくらした。
「人にはそれぞれの終着点があらかじめ決まっていて、その道中で、何を見、何をしたかが大切だ」と書かれていたのを読み、感情が昴ぶってしまった。(2003/8/15)
■ストーリー
学校生活を舞台にした四つの短編集。「パーマネント〜」は「私」とハルオが、死ぬことを前提に青春十八きっぷで二人旅をする。「放課後の〜」は、カンダという女をいじめていたマリが、新しいターゲットのカナコから逆襲されることに・・。「学校ごっこ」は、学校で先生から「頭の不自由な子」という役割を課せられた「私」が、放課後、友達と学校の先生ごっこを演じ合う。ある日財布泥棒事件が発覚して・・。「夏の出口」は高校三年生の「私」が、三者面談で行きたくもない短大を勧められて、やさぐれた思いを強くする。夏、ナンパを期待している女友達三人と船に乗り、島へ旅をすることに。
■目次
パーマネント・ピクニック、放課後のフランケンシュタイン、学校ごっこ、夏の出口
■感想
子供、少女特有のフラストレーションがたっぷり描かれていた。「放課後のー」と「学校ごっこ」が特に面白かったと思う。「放課後のー」は私自身の過去の思い出を懐かしむ機会にもなったし、「学校ごっこ」は、今までさまざまな先生から「あなたは○○な子ね」とキャラクターや色を押し付けられてきたことを思い出した。幼児殺害の事件など最近でも凶悪な少年犯罪が後を絶たないが、こういう本こそ中学生や高校生にも読んでもらいたいと思う。なぜ自分は学校に行かなくてはならないのか、なぜこういう窮屈な生活を送らなければならないのか、など客観的に考えることの出来るチャンスを与えてくれると思うから(ただし、「放課後のフランケンシュタイン」などは内容がやや過激なので、助長する結果にならなければいいのだが)。(2003/7/11)
■ストーリー
三つの短編集。東京の大学生「私」の家に泊まりに来た弟が怪しい行動を取っていく『まどろむ夜のUFO』、必ずとなりに誰かを住まわせ、ついには同居人だった女の彼氏と同棲、引越するまでの姿を描いた『もう一つの扉』、不思議な魅力を持つおばとのラブホテル泊まり『ギャングの夜』。
■目次
まどろむ夜のUFO、もう一つの扉、ギャングの夜
■感想
「魂のコミューン」という言葉が出てくるけれど、これこそが角田さんの伝えたいことだと思う。
これまで角田さん作品を読んできて気づいたことは、一貫して「疑似家族」「魂で結ばれた家族」を描いているということ。本来機能すべき「家族」から離れたところにある、血のつながらない「肉親」「兄弟姉妹」らしき存在に価値を置き、より幸せに生きていける方法を模索する主人公たちの孤独と、どこからか解放されたい思いを、まるで読者全員に伝わるまで何度も表現しているように見える。「小説」というものの存在の意義は、意識を解放することにあるのではないかと、改めて考えさせられる。
『まどろむ夜のUFO』も例に漏れることなく、姉の「私」が、怪しいUFO信仰や、宗教や、ドラッグにはまってしまった弟をクールに観察していく。
『ギャングの夜』は、距離こそ保っているけれど、自分たちにも気づかないどこかで依存しあっているおばとの関係がうまく描かれていた。
ちなみに今朝の朝日新聞に偶然、角田さんのエッセイが載っていた。肥りやすい体質らしく、現在ボクシングジムに通っているそうだ。身体を動かすからストレスもたまらず、小説の良いアイデアもポンと浮かび、相乗効果があるそうだ。皆さんもこの夏、運動をはじめてみない?(私もしなくちゃ!)
さらに昨日の新聞には、文芸評論家・福田和也さん(この方の著書も好きです)の文芸評論が載っていて、芥川賞と直木賞の成り立ちから、芥川賞を上げるべきだったのに上げていない80年代の作家たち(村上春樹や吉本ばなな、山田詠美、島田雅彦など)。無闇やたらに文学賞あふれる現状、受賞者の衰退についてということに加え、「角田さんの『空中庭園』は直木賞に値したのになぜ取れなかったのだろう」と書かれていたのに賛同した。たしかに私も、山本文緒や唯川恵よりまず角田光代だと思う。おそらくいずれ、取るだろう。
■ストーリー
買った車を誰かに見せたくて、自分を好きでいてくれた高校時代の同級生・春香に会う。春香とのドライブ中、ひょんな事で春香を下ろすことになり、今度は別の女を乗せることになってしまう。
■登場人物
「おれ」、春香、トモコ、女
■感想
最近、「危機感」と「必要性」、エキストラを削ぎ落とす、ということについて考えているので、いろんな小説を読んでいても、そのことが含まれているかが、まず気になる。「これは危なげだろうか」「これは本当に要るのか」と。無論、私のひとりよがりに過ぎない。が、ひとりよがりにすらなり得ないものは、味も素っ気も臭いもない脱臭剤・消臭剤みたいに思える。
「カップリングー」は、その点では今イチだったかな。プロ作家の技が光る、何を書きたかったことも分かる、よく計算された作品ではあるが、破綻度がゆるいというか、ためらいとふっきれなさが残るというか。抑制を考えてのことかもしれないが、この作品ならもっとエグくて良かったのかも。私が「生の露出型」をより求めるせいもある。
主人公が「おれ」でなく、「私」だったとしても通用したと思うし、むしろ女性主人公だった方がさらに風変わりかつ自然、リアルだったかも。(2003/7/21)
■ストーリー
母と別居(離婚?)している父に、夏休み一日目、「ユウカイ」されたハル。父と一緒に旅館やキャンプ場をわたり歩きながら、夏の日々を過ごしていく。ふたりで過ごして分かったことが、ハルにはある。
■登場人物
父、母、ハル
■感想
「おっ!? これまた良いねえ。うんうん」というのが第一感想。
ふりがなの振られた児童文学だが、大人でも十分に楽しめる。お父さんのぶっきらぼうさと、ハルちゃんのわんぱく少女ぶりが良い。キャラクターが光っているし、それぞれの側面からの愛情も感じる。「ユウカイ」というモチーフから家族を描きだすところが、憎いセンスだなぁと思う。(2003/9/9)
■ストーリー
「草の巣」は「私」ととある男のちょっと変わった逃避行。
「夜かかる虹」は「私」と妹リカコとの、拭いようのない過去から起こるダークないさかい、そして和解。
■感想
「群像」という文学雑誌に初出された二作品。最初の「草の巣」はあまり面白いと思えず人間描写やディティールなども平坦に思えたが、「夜かかる虹」は私自身もオーバーラップした点があって、興味深かった。特にこの作品は展開部(後半)からの勢いがよく、角田さんの魅力を発揮していると思った。暗い作品にもかかわらず、実体験と思わせる肉追したものだったせいか、読後感も良かった。(2003/6/14)
■ストーリー
「みどりの月」は、沢田南はキタザワと知り合い一緒にくらしはじめるのだが、二人の同居人も一緒だった。四人で奇妙な生活をしていくうちに、キタザワの「秘密」が首をもたげはじめる。
「かかとの下の空」は、離婚寸前の夫婦が、まだ行ってなかった新婚旅行の真似事をと荷物など全部売り払い、家を退去し、身辺を片づけて、長期新婚旅行を企てる。行き先はタイやその小さな島、そして列車でマレー、シンガポール。
道中、あるタイ人女性につかまり、どこまでもついて来られて・・・。
■登場人物
「みどりの月」沢田南、キタザワ、サルカワサトシ、マリコ
「かかとの下の空」私、キヨハル
■感想
「みどりの月」は、発狂気味の女を描きたかったんだと思うが、リアリティにかけるような気がした。
坂口安吾(白痴)、夢野久作(ドグラ・マグラ)、谷崎潤一郎(痴人の愛)みたいないびつな女性が描けていたらもっと良かったように思う。あと、人物描写にももう少しあたたかい魅力があるといいのにと思う。最近の文学はこういう、低空テンションが主流なのかな。都会を象徴するというか。ほかに、最初と最後の文体が微妙に違っているのが気になった。
「かかとの下の空」は、「みどりの月」よりも5倍ぐらい面白かった。旅を扱った物語だからかも。圧倒される描写もあるし、テンポもいいし、旅先の想像力も十分に沸く。街のディティールを描くのが上手だなと思う。
ただこれもやっぱり、キヨハル(男)の描き方に今一歩、魅力を感じられなかった。山場、オチもなかったような気がする。クライマックスで「ここまで来ているのだけど、お、惜しい」というのが正直なところだった。(2003/6/17)
■ストーリー
アジアからの長旅を終えた「ぼく」は戻る家もなく、彼女マリコのマンションに転がる予定でいたが拒否され、旅の最中に知り合った暮林さんという女性の、旅館並みに大きな一軒家に住ませてもらうことに。先客のヤマネさん、後から住みはじめたフトシとカナも揃い踏みで賑やかな家。皆、海外で出会った暮林さんに誘われたのである。「ぼく」は彼らと共に「日本の中のアジア」を感じながら生活していく。
■登場人物 「ぼく」、マリコ、暮林さん、フトシ、カナ
■感想
4年前、角田さんの小説で最初に出会ったのがこの本だった。『ダ・ヴィンチ』という雑誌の書評で知り、評者も褒めていて、タイトルからして面白そうだった。装幀は素樹文生さんだったし。読むまでは、東京に暮らす外国人向けの安いアパートか寮のようなゲストハウス。そこで繰り広げられる人間模様、かなと思っていた。ところがどっこい、読んでみたら、日本ズレした日本人ばかりの話だった。
同じアジアの中にいて、日本だけは異質に見える。アジア旅帰りの目から見たその異様さが良く描けていると思う。角田さんはアジア友好家なので、旅関係の小説は読んでいてほっとする。その鋭い観察力に嬉しくなる。(2003/6/26)
■目次
真昼の花、地上八階の海
■ストーリー
「真昼の花」は、あるアジアの国を舞台に、さまよう女の話。金に困り、日本人男の誘惑から逃れ、はては部屋をシェアしている男の子が病気になってしまう・・。
「地上八階の海」は、兄夫婦にできた赤ん坊と、母に対するいらだちを持った「私」の話。
■感想
好みが分かれるところだろうが(小説なんて、もともとそんなもんだけど)、私は「真昼の花」の方が好きだ。読後感が良く、余韻がたっぷり残った。
お金がなくて逼迫している姿と、そのくせ実は金の価値を見い出していない姿の対比がうまい。日本人駐在員の部屋での、危険なシーンもすごくリアル。表現もいきいきとみなぎっている。女(男)ひとり旅の好きな人に、是非読んでもらいたい。
「地上八階の海」は今ひとつ現実味がなかった。主人公「私」のもやもやが伝導してこない、というか。「嫌い、苦手、やだ」のうらみ節が羅列しているような、そんなストーリーだったせいかも。
タイトルはどちらも今ひとつ。小説のテーマとあまりにも外れている感じで、最後まで想像できなかった。もう少しテーマに近いものが良かったかな、と欲張りな欲求。(2003/8/9)
■ストーリー
「わたし」と吉元はかつての同級生。はじめて抱き合った仲でもある。今はつきあっていない、友達である。ある日、吉元が新居探しをするのに、仕事を失ったばかりで暇な「わたし」は付き添う。歩いて探し、「菊葉荘」というボロアパートを一目で気に入り、空部屋はなかったのだが、誰かを追い出してでも住みたいと吉元は言う。そこで「わたし」は、そのアパートの一室の男性・蓼科と同棲し、アパート全体を偵察するようになる。
■登場人物
「わたし」、吉元、蓼科、ヤス子
■感想
タイトル見るとホラーじみているがそんな事ないので、怖いの嫌いな方もご安心を!
話自体はそんなに私の好みではなかったが、角田さんは重いタッチも軽いタッチもどちらも等しく巧いなとつくづく思う。何でも書けるのがプロなんだなぁと思わせられる。これはとっても軽妙なタッチだった。ヤス子っていう女性が良い味出しているので注目してほしい。私の周囲にもヤス子に似た人がいるな、そういえば。(2003/6/28)
■ストーリー
旅先で出会った出来事を中心に書いてある、エッセイのような小説のような本。「恋愛旅人」というタイトルだが、旅人が恋愛しながら世界をまわるようなお話ではなく、どちらかというと、著者がその土地に恋をする話、といったところか。
■目次
「あんた、こんなとこで何してるの?」、夢のようなリゾート、トーマスさん、旅における言葉と恋愛の相互関係について、旅のシュールな出会い系、ナマグサ、超有名人と安宿、旅トモ、行動数値の定量、ツーリスト・インフォメーションの部屋にて、ベトナムのコーヒー屋、 宴のあと、午前三時、 ラオスの祭、ミャンマーの美しい雨、Where
are you going?、ポケットに牡蠣の殻ーアイルランド・コークにて、空という巨大な目玉ーモロッコにて、幾人もの手が私をいくべき場所へと運ぶ、あとがき
■感想
読んだ後の満足感が何とも言えない。
後半のエッセイ群、ずば抜けてうまい。
「Where are you going?、ポケットに牡蠣の殻ーアイルランド・コークにて、空という巨大な目玉ーモロッコにて、幾人もの手が私をいくべき場所へと運ぶ、あとがき」あたりまで、「my
mitsuyo best3」に入れてしまいたいくらい。
この作家とは、旅する時の価値観が私と似ていると前から思っていたけど、「右も左も分からない」中で旅をすることの心細さとたよりなさ、一方でそれを寛容していること。「地図にたよらず、自分の内にのみ地図を描く」のが近いのだと分かった。私も角田さんと一緒で、学生時代、地理にも歴史にも興味がなかった。国名も地名も、かつてどこで何が行われてきたか、さっぱり分からなかった。大人になり、旅をはじめ、売られている地図には未だに興味が湧かないが、自分の足で踏み入れた町だけが、自分オンリーの地図に組み込まれていく。組み込む中で、人々の笑顔を知り、歴史を知り、土地の文化を知っていく。
「行動数値の定量」のように、人にはあらかじめ定められた行動量があるのだとしたら、歴史や地理のことにはてんでだめだけど、旅を通して得られることを文章にしようと思うそこに、人より少し多い量を費やしているのかもしれない。(2003/7/20)
■ストーリー
経済的貧窮に直面した女性の、現代フリーター的視点の話。
■言葉
「私」、ヤスオ、立花光輝
■感想
何でも書ける器用な作家の、ある特定の個人の琴線に触れるメッセージがこめられた小説。その「個人」に私も該当し、はるか遠くまでぐいぐい連れ去られてしまった。他の作品と違って特に大きな賞をもらった小説ではないが、あちこちをひっかかれ、なぐさめられ、足跡をつけられたように思う。「まりんばの選ぶ夏の百冊」を刊行するなら、角田さんのはこれを選ぶと思う。傷み具合、飢え、危うさの波長が、現在の私とぴったり合う小説だったから。
お金とはいかなる物か、人にどういう影響を及ぼすのか、人生においてどれほどの価値があるのか、などを言及し、単なる小説にしては勿体ないほどの問題提起をしている。
「立花光輝」とのからみは秀逸だった。人間が良く描けているし、こんなやりとりこそ小説だ、と思わされた。(2003/7/6)
■ストーリー&目次
・転校生の会
彼は転校経験が豊富で、そんな経験のない「あたし」に、「転校生の気持なんて、きみには絶対分かりっこない」と言う。彼の気持を分かりたいと思って、「全国転校生友の会」に入会する。
・ジミ、ひまわり、夏のキャンプ
元カレの家の鍵をまだ持っている「わたし」は、「泥棒」になり、元カレの家で、おたがいの思い出がつまった、「ジミ・ヘンのポスター」を盗もうとする。しかし、床にへたりこむと・・。
・バーベキュー日和(夏でもなく、秋でもなく)
友人の彼とばかりねてしまう、「あたし」の空洞のココロをテーマにかかれている。
・だれかのいとしいひと
姉の子・チカと、「私」の彼、ツネマサ。三人で見る、どこかはぐれた風景。「私」は父の記憶、父の彼女の記憶を思い出してゆく・・・。
・誕生日休暇
ハワイひとり旅の「私」は、バーで男と出会う。男は、結婚を明日にひかえていた。オレンジが坂を転がり落ちるみたいな、男の不運さが面白く、せつない小説である。
・花畑
あたし、弟、ヤスノリ。三人がとことん不幸になっていく。出口の見えないトンネル、どんなに不幸で問題が解決しなくても、目を閉じればきれいな日々を思い浮かべられる。
・完璧なキス
喫茶店で「ぼく」が考えた、キス考察。
・海と凧
昔、元カレと江の島で凧上げをして、それを砂浜に埋めた「私」。今の彼が言う。「その凧、さがしに行こうよ」砂浜を探すふたり・・・。
■感想
「ジミ、ひまわり、夏のキャンプ」「バーベキュー日和(夏でもなく、秋でもなく)」「だれかのいとしいひと」が、ものすごくものすごく面白かった。秀逸。キュンとしちゃう、恋の小説を読みたいあなたは、是非是非手に取ってみて。
まりんば自身にもいる、いとしいひとは。
それはまだ会ったことのない人であり、会ったことのある人でもあり、会って気が合った人であり、まだなかなか打ち解けられない人であり。そう、複数のいとしいひとを、いつも抱えている。
私に、いとしいひとがいなかった試しがない。いつも心に、ひとがいる。
この本を読んで、今までに出会ってきた男の子、女の子、熱くいとしく思えたひとを、いちから思い出していった。
いとしさのエネルギーは、過去あるいは現在、あるいは未来のある地点でくっきりとどまってくれるからすごい。そのエネルギーは私がそこに足をのばしさえすれば、いつでもにこりと笑って招き入れてくれる。私はこれからもずっとぐるぐると、いとしさへの旅をするんだと思う。(2003/9/10)
■ストーリー
ダンチに住む家族全員のそれぞれが独白する形を取っている物語。実母とのあつれき、できちゃった結婚、忘れられない男、奇妙なつながりなど、ごく日常的なテーマ。
■目次
ラブリー・ホーム、チョロQ、空中庭園、キルト、鍵つきドア、 光の、闇の
■登場人物
父、母、マナ、コウ、おばあちゃん、ミーナ
■感想
「空中庭園」。天神イムズの十二階にあるような、一見パラダイス的楽園空間をイメージした。美しさの秩序は表面的には保たれていているのに、内部では花が枯れ、虫が死に、葉が溶けるというアンチテーゼ。それらを見逃しながら、時には内的爆発させながら、美しく過ぎて行かせようとする。
正直、好みから言うと私に合う小説ではなかったが、かつての直木賞候補作ということもあり、候補に上がったのも分かる気がする。角田さんのこれまでの集大成的作品だった。厳密に練られたストーリー展開、からみつく「因縁」、現代家族のあり方について。前半はゆるやかなわりに、後半は急に畳みかけるようにどどどーと一気に解決していった感じだった。
最初の書かれ方が悪者だっただけに際立ったのだろうか、魅力的なのはおばあちゃんとミーナ。二人とも、それぞれの人生がリアルにくっきり描かれていた。
「とくべつさみしくなんかないのに、さびしいってどんなことかわかるだろ」というコウの言葉は大きなテーマのように思えた。(2003/7/14)
■ストーリー
アキ・カウリスマキ監督の『過去のない男』の感想を文章化したもの。記憶喪失の子の物語。
■感想
こういう児童文学スタイルの、どこか柔らかい小説も良いなと思う。くどくないし、イラストもかわいいし。わたしも誰かの映画を観て、こういうサイドストーリー的な感想小説を作ってみたいな。(2003/8/16)
■ストーリー
「私」とマモちゃんとの、恋人でもきょうだいでも、三角関係でもない関係。言葉にならない関係。ずっとそばにはりついていたい、恋でも愛でもないような、サンプルのない間柄を描いている。
■登場人物
「私」、マモちゃん、葉子、ナカハラ君
■感想
若い層向きの、つらつら読みやすい長篇。東京を中心としたストーリーは、私が近くに住んでいることもあってリアルに面白いけれど(世田谷区代田までタクシー飛ばしてくれ、とか。友人のシュクんちだ! とか思ったり)、読んだ後に得られる物が少なかった、かな?わざとガキっぽく書いているというか。角田さんの観念的な作品をもっと読みたくなります。これも好みの問題ですね。(2003/8/9)
■ストーリー
雑誌や新聞に掲載されたコラム、エッセイ集。恋愛関係が主だっている。
人は皆、自分が「ごくふつう」だと思っているけれど、それはその人にのみ通用すること。世界中の人が、「ごくふつう」に生き、「ごくふつうの日々」を送っているんだということを伝えるエッセイ。ふつうの人々が、ふつうにしていることをあれこれ言わず、「今、何してる?」とただ聞けば良い、はずだと。深い言葉だ。
■目次
恋愛プリズム/恋の言葉に溺れるな!、旅と本の日々、本と一緒に歩くのだ
■感想
「さみしいと思うことにほっとするのだ。これでいいと思えるのだ」「永遠に流れる幸福な一瞬」
など、すてきな言葉と巡りあうことができる本だ。
書いている媒体によっていろいろと違うけれど、恋愛観、おすすめの本、角田さんの違う一面を見れて、どれも新鮮で読みごたえがあった。
読後、ある友だちにメ―ルを打ってみた。
「今、何してる?」
「昼寝してた」
そこで気づいた。わたしは人が寝ているのを知るのが好き、だと。寝ている=その時間だけはそこにいる、誰とも関わらずどこへもいかない、拘束、監禁、サディスティック感の妙味。わたしだけのもので在ってくれる。果てしない独占欲の一部を満たしてくれる。
皆さん、次にわたしが聞いたら「午睡してた」「うたたねしてた」「ジャスト・スリーピング」と教えてね。嬉しいから。たぬき寝入りでも良いから。(2003/8/18)
■感想
やったね直木賞!
でも聞いて下さい。
どの本屋に行っても角田さんの本を気にしてきた。私ほど気にしてきた人はいないんじゃないかぐらい。いつも各本1冊ずつしかなくて、平積みされたことがなかった。それが逆にマイノリティ的誇りだった。そこのあんたはベストセラーにうつつを抜かしているでしょうが、私だけはこの女性作家のコアなファンなんだぞって。
『対岸の彼女』に関してはなぜか平積みになってて、「嫌な予感」がした。
やばい。人気が出ちまうんじゃないかと。正解。人気どころか、歴史に残る作品になってしまった。
今まで隅の方に慎ましく過ごしていたハードカバーたちも、今日以降、本屋の一番良い場所に並んで、沢山の人に買われていくのね、ぐすん。重版され、死ぬまで直木賞作家という箔がついて、訳の分からない一見さんも、ただ直木賞というだけで着手していくのね。
売れる前が好きで、売れてみんなのモノになったら興味が失せちゃう。
そういう意味で今回の受賞は残念かな。
あとは・・・・・・角田さんと同じぐらい好きな素樹文生さんが取らないことを祈る!笑
肝心な作品について触れると、これまでの全作品のいろんな要素をミックスした完璧さだった。
『対岸の彼女』だなんて、何度読んでも苦手な作家・唯川恵や村山由佳系のタイトルで嫌だなーと思ってたけど、読んでみたら、これ以外にないだろうという嵌り方。自己撞着した形で発表されていた。ワンランクアップしたなあと思う。今まで角田さんに物足りなさを感じていたものが、ようやく発散できた。
実際、私自身が現在抱えている問題、抱えてきた問題がいっぱい書き込んであって、ファミリーサポートに預けることになったという所あたり、すごい作品だなと思った。私も薄々感じてはいるが、ここまで書ききれないだろう。そこがプロと趣味人の違いなんだろうし、角田さん、ここまで読ませてくれて有難うと思った。
新聞インタビューでは、「今までは暗い終わり方ばかりの小説だったけど、これは明るい感じで終わらせている」と書いてあった。だけど私からすると、今までのと大差ないような気がします。角田さんらしい、すてきな締め方。明るい暗いというのは問題ではなく、ただひたすら完成度が高かったような気がする。さまざまな心理がぎゅうっと網羅してあって。
以前候補に挙がった『空中庭園』での失敗というか、書き切れてない感が、うまくカバーされている感じがした。『対岸の彼女』は今のところこれ以上は書けないよぐらい、書き切れてたと思う。
これ、映画化されるよきっと。私のイメージでは小夜子はYOU、葵は松下由樹かな?で、ナナコはソニンかな。(2005/1/14)
■感想
これは私が長男を妊娠している時、新聞にさわりだけ載っていた作品。切り抜いてノートに保管していたら、長い文章になって再びお目見えしたのでびっくりした。どうやら、あの作品の手前の部分からを出版社に依頼され、後で書いたらしい。
主人公は妊娠中の「私」であって、角田光代さんの日記ではない。
なのに、読み終えた関係者やファンから続々届いたそうだ、お祝いが。小説ではなく随筆と勘違いしたらしい。あれは小説ですから、と後日説明書きを添えたお礼状をおくったそうだ。
それぐらいリアリティのある、妊娠経験のある私にも「わかるわかる」が沢山あった小説だった。
生まれる日が誰と一緒の誕生日か、すごく大事なことかもしれない。ジミーペイジと同じ日だったら良かったのに…、クライマックス、タクシーに乗りこむ姿にじんとくる。
■感想
『ナラタージュ』(島本理生)を読んだ時ぐらい涙が止まらなかった。
港で別れるシーン、ラストの希和子が薫と出会ってしまうシーン。母親だからだろうか。こういうシーンにめっきり弱くなった。『ホームレス中学生』の、母を恋うるシーンにもうるうるしたのを思い出す。
鴻巣さんという評論家が「角田光代の最高作ではないかと思う」と書いていたし、何ヶ月か前のダヴィンチには太田光が「最近読んだ小説の中で、この本が最も面白かった。角田さん、一皮むけた感じがする」のような事を書いていた。
角田シンパの私にとっても、この作品、ずば抜けてすごかった。凄みがあった。ここまで書き尽くすのに、大変緻密な取材が要っただろう。ヒリヒリしながら読まずにはいられなかった。希和子が出会う人たちが偶然にも?!良い人たちばかりで、世の中捨てたもんじゃないと思えた。
『八日目の蝉は、ほかの蝉には見られなかったものを見られるんだから。』
今までさんざん苦労してきた人に、ぜひ読んでもらいたい作品。