皮膚感染症の増加
脱ステロイドによる皮膚症状の悪化は、感染症や眼症状の合併のリスクを上げる。
アトピー性皮膚炎の病変部に存在する黄色ブドウ球菌の数
黄色ブドウ球菌をご存じだろうか?黄色ブドウ球菌は最も知られた細菌だ。皮膚の表面に常在している。この黄色ブドウ球菌が増殖すると伝染性膿痂疹(いわゆる「とびひ」と呼ばれる病気)を発症する。アトピー性皮膚炎の患者さんは、伝染性膿痂疹を合併しやすいので、なじみのある細菌だと思う。
以下に、アトピー性皮膚炎の患者さんにおける黄色ブドウ球菌の役割にについての論文(review)から、抜粋した一文を紹介する。
「Role of Bacterial Pathogens in Atopic Dermatitis」
Clinic Rev Allerg Immunol 33; 167, 2007
quantitatively, S. aureus counts between lesional skin and nonlesional skin in AD patients differ by 100 – 1,000-fold.
日本語訳(意訳):アトピー性皮膚炎の病変部では、非病変部(正常部)の100〜1000倍の黄色ブドウ球菌が検出される。
Clinic Rev Allerg Immunol 33; 167, 2007
quantitatively, S. aureus counts between lesional skin and nonlesional skin in AD patients differ by 100 – 1,000-fold.
日本語訳(意訳):アトピー性皮膚炎の病変部では、非病変部(正常部)の100〜1000倍の黄色ブドウ球菌が検出される。
他にも、病変部で黄色ブドウ球菌が増加することを検討した論文がいくつかあり、全ての論文が病変部で数が増加することを支持している。ここから言えることは、黄色ブドウ球菌が増殖すれば、伝染性膿痂またはそれ以外の黄色ブドウ球菌が起こす感染症のリスクを高めることになる、ということだ。
つまり、脱ステロイドにより湿疹が悪化することは、黄色ブドウ球菌の数の増加につながる。そして、この事実から皮膚感染症の合併率が上がると予測できるだろう。
アトピー性皮膚炎の病変部に存在する溶連菌の数
Streptcoccal toxic shock syndromeにて死亡したアトピー性皮膚炎成人例
まずは、以下の症例報告の論文(要約)を見てほしい。
「Streptcoccal toxic shock syndromeにて死亡したアトピー性皮膚炎成人例」
皮膚科の臨床 41; 315, 1999、Dermatology Today
41歳、女性。小児期よりアトピー性皮膚炎があり、36歳頃から重症化し、漢方薬や民間療法で主に治療されていた。2日間温泉療法を受けた後、両下肢に浮腫、発熱、下痢が出現。急速に症状は悪化し、3日後にはショック状態となった。血液、尿、皮下組織のすべてから Streptococcus pyogenes が培養され、検査結果などから Streptcoccal toxic shock syndrome と診断された。集学的治療を受けるも死亡した。
皮膚科の臨床 41; 315, 1999、Dermatology Today
41歳、女性。小児期よりアトピー性皮膚炎があり、36歳頃から重症化し、漢方薬や民間療法で主に治療されていた。2日間温泉療法を受けた後、両下肢に浮腫、発熱、下痢が出現。急速に症状は悪化し、3日後にはショック状態となった。血液、尿、皮下組織のすべてから Streptococcus pyogenes が培養され、検査結果などから Streptcoccal toxic shock syndrome と診断された。集学的治療を受けるも死亡した。
Streptcoccal toxic shock syndrome は、A群溶連菌感染症で、微細な外傷を侵入門戸とし、急激に敗血症から多臓器不全に陥る、致死率の高い疾患で、非常にまれな病気だ。
この症例は紅皮症化(全身に湿疹が拡がっている状態)しているにもかかわらず、ステロイド外用剤の使用を拒否していたそうだ。著者らは考察において、不十分な皮膚炎の管理のため菌が浸入しやすい状態であったのではないかと考察している。確かに、治療を自己中止し、皮疹が急激に悪化すれば「微細な外傷である侵入門戸」が増える。
当然のことながら、不適切な治療で、皮膚感染症の合併リスクが増加した可能性がある。
この症例報告に関連して、もう一つの論文を紹介する。
「溶連菌が分離されたアトピー性皮膚炎の臨床的・細菌学的研究」
日皮会誌 110; 969, 2000
……アトピー性皮膚炎(AD)患者110例の湿潤病巣の細菌培養を施行した。……ステロイド剤外用中の症例の溶連菌の検出率は14.0%であったが,ステロイド外用剤を使用していない症例は50.9%と高率であった。溶連菌が検出されたADは検出されなかったADに比べて血清IgE値と末梢血の好酸球の比率(%)が統計的に有意に高値で、LDHは高い傾向にあった。……以上、15歳以上でステロイド外用剤の不使用症例や、血清IgE値高値、好酸球増多、LDH高値で、ADとして重症な症例から溶連菌が多く検出され、湿潤性湿疹病変から検出されることが多い……
日皮会誌 110; 969, 2000
……アトピー性皮膚炎(AD)患者110例の湿潤病巣の細菌培養を施行した。……ステロイド剤外用中の症例の溶連菌の検出率は14.0%であったが,ステロイド外用剤を使用していない症例は50.9%と高率であった。溶連菌が検出されたADは検出されなかったADに比べて血清IgE値と末梢血の好酸球の比率(%)が統計的に有意に高値で、LDHは高い傾向にあった。……以上、15歳以上でステロイド外用剤の不使用症例や、血清IgE値高値、好酸球増多、LDH高値で、ADとして重症な症例から溶連菌が多く検出され、湿潤性湿疹病変から検出されることが多い……
つまり、皮疹が重症なアトピー性皮膚炎の患者さんほど、溶連菌が検出されている、ということだ。となれば、最初の症例のようにステロイド忌避があり紅皮症化している状態では、溶連菌が検出される確率が高い。感染のリスクが高まっていた可能性が高い。さらに、温泉療法というのはこの場合、最悪である。温めることは細菌の増殖を促す。
さて、紹介した症例は、ステロイド忌避の民間療法中の患者さんに、たまたま溶連菌が原因の Streptcoccal toxic shock syndrome が起こったのだろうか?それは、誰もわからないことである。だが、著者の考察や溶連菌が増加するという論文をみて、どのように考えるか?―私は偶然と思えない。紅皮症になる前に標準治療ができていれば、このような自体は避けられたのではないかと思う。
敗血症にて死亡したアトピー性皮膚炎患者
(効果のない健康食品、除霊の美容サロン)
こちらは2010年のニュースである。
「アトピー施術で娘死亡」除霊診断の美容サロンを提訴 千葉の夫妻
2010年12月5日 時事ニュース
効果のない医薬品を販売するなどの不適切な施術でアトピー性皮膚炎を悪化させ、長女=当時(37)=を死亡させたとして、千葉市の(夫)(64)と(妻)が、千葉県柏市の(美容サロン)を経営する薬剤師の親子に約9800万円の損害賠償を求め、千葉地裁に提訴した。
訴状によると、長女は「必ず良くなる」などと言われ、昨年8月から今年3月まで(美容サロン)に通院。健康食品などを購入し除霊を受けるなどしたが、次第に症状が悪化し、3月24日に敗血症性ショックで死亡した。
(美容サロン)には、効果のない健康食品を販売して無意味な施術をしたほか「魂の病気」などと診断して除霊を勧め、医療機関の受診を妨げるなどの不法行為があったと主張している。
柏市は5月、(美容サロン)を立ち入り調査し、医薬品でないものに効果を暗示するなどの違反があったとして行政指導した。
(美容サロン)は「訴状を見ていないのでコメントできない」としている。
(不要に個人名をあげるのは避けたいので、ここでは夫、妻、美容サロンとした)
2010年12月5日 時事ニュース
効果のない医薬品を販売するなどの不適切な施術でアトピー性皮膚炎を悪化させ、長女=当時(37)=を死亡させたとして、千葉市の(夫)(64)と(妻)が、千葉県柏市の(美容サロン)を経営する薬剤師の親子に約9800万円の損害賠償を求め、千葉地裁に提訴した。
訴状によると、長女は「必ず良くなる」などと言われ、昨年8月から今年3月まで(美容サロン)に通院。健康食品などを購入し除霊を受けるなどしたが、次第に症状が悪化し、3月24日に敗血症性ショックで死亡した。
(美容サロン)には、効果のない健康食品を販売して無意味な施術をしたほか「魂の病気」などと診断して除霊を勧め、医療機関の受診を妨げるなどの不法行為があったと主張している。
柏市は5月、(美容サロン)を立ち入り調査し、医薬品でないものに効果を暗示するなどの違反があったとして行政指導した。
(美容サロン)は「訴状を見ていないのでコメントできない」としている。
(不要に個人名をあげるのは避けたいので、ここでは夫、妻、美容サロンとした)
このニュースの続報はまだ聞かないので、どうなったのだろう。
一般に、「医薬品でもないのに効果を暗示」しているものは非常に多い。特にアトピー性皮膚炎は、この手の効果の実証されていないものが、アトピー性皮膚炎に効果がある、と明示されて売り出されている。
また、患者へ治療行為ができるのは、限られた職種のみのはずだ。こういったアトピービジネスは、いつになったらなくなるのだろう。
ところで、この患者さんはステロイド外用を使っていたのだろうか?このニュースの感じでは使っていないだろう。大概、この手のアトピービジネスは、ステロイドを悪者に仕立てて、ステロイドの恐怖を植え込んで、自分たちの商品を売る。
あくまで私の予測であるが、この症例は上の症例と同様に、アトピー性皮膚炎の悪化を放置していたため微細な侵入門戸から細菌が侵入し、最終的に敗血症にまで至った可能性があると思う。こういった事例が繰り返されないことを願う。