脱ステロイドの問題点を載せています。


アトピーニュースの問題点


1992年に報道されたニュースステーションのステロイド特集の問題点 1

ステロイド「外用」とステロイド「全身投与(内服、点滴)」の副作用は分けて考えるべきだ。


ステロイドバッシングを語る際に、1992年に報道されたニュースステーションのステロイド特集がよく引き合いに出される。この報道の問題点を以下に書く。

以下は報道された内容(ナレーションの一部)だ。

    アトピー性皮膚炎のような病気にステロイド剤を塗り続けたとすれば、外部から塗られたホルモンにより、一時的に皮膚炎は改善される。しかし、体が作り出すべきホルモンが外から与えられてしまうため、副腎皮質の働きは弱ってしまい、薬をやめてもなかなか元には戻らない。一方アトピーは、薬によって一見よくなったように見えるが、根本的には治っていないため、副腎皮質が弱った分、前よりも悪くなってしまう。アトピー以外の病気に用いられるステロイド剤にもこのような副作用がある。ステロイド剤が塗られていた皮膚は抵抗力が著しく落ちているため、雑菌の進入を招きやすく、ヘルペスなど別の感染症を引き起こすことも多い。また、長い間ステロイド剤を使い続けていると、消化器潰瘍や白内障、精神偏重などを引き起こしてしまうこともある。

この説明には、大きな問題・誤りがある。ステロイド「外用」とステロイド「全身投与(内服、点滴)」の副作用が混同して語られている。

「副腎皮質の働きは弱ってしまい、薬をやめてもなかなか元には戻らない」これは「副腎機能抑制」の副作用が語られているものだと思う。そして、ナレーションで語られている「消化器潰瘍」「精神偏重」。これらは、基本的にステロイドを全身投与した時の副作用だ。ステロイド外用の副作用と考えるべきでない。今であれば、こんなことは常識なのだが……。

ステロイド外用では、よほど多量に塗らない限り、全身投与と同様の副作用は起きない。今のガイドライン(アトピー性皮膚炎診療義度ライン 2009)には以下のように書かれている。「このような(副腎機能抑制をきたすような)多量の外用を日常診療で継続して行うことは極めて例外的である」

さて、その後、画面には「ステロイド剤の副作用」として以下の副作用が示される。。

    精神変調、注意力低下、頭痛、脱力感、骨多孔症、白血球増多症、急性副腎不全、発熱、発汗異常、奇形、皮下溢血、後嚢下白内障、緑内障、角膜炎、満月様顔貌、口渇、血栓症、食欲不振、悪心・嘔吐、胃痛、糖尿病、消化性潰瘍、多毛、脱毛、筋肉痛、関節痛、色素沈着

これらのほとんどは、ステロイドの「全身投与(内服・点滴)」の副作用である。アトピー性皮膚炎の話をしている中で語られるのは不適切だと思う。

さらに、いくつかの副作用は間違っている。「白内障」は、今はステロイド外用の副作用と考えられていない。さらに、ステロイド外用剤の副作用に「色素沈着」はなく、「色素脱失」だと考えられている(色素脱失の副作用も稀である)。アトピー性皮膚炎の患者さんに起こる色素沈着は、湿疹が長期に及んだ場合に起こる「炎症性色素沈着」である。だから、色素沈着を残したくなければ、早期に湿疹(炎症)を抑えることが肝要だ。

番組の中で紹介された「白内障をきたした患者さん」は、単純にアトピー性皮膚炎の悪化による掻破の影響で、白内障を発症したものと思う。ステロイド外用の副作用とは考えずらい。
ステロイド外用剤の主な副作用は、にきび、潮紅、皮膚萎縮、多毛、毛細血管拡張だ。

というわけで、ステロイド「外用」とステロイド「全身投与(内服、点滴)」の副作用は分けて考えるべきである。番組の内容に正しい部分もあるものの、このような基本的な間違いは、医師の監修がしっかり行われていれば起こらないように思うのだが……毎日の報道で、時間的に追われているテレビ番組で、医療を扱うことの難しさを感じる。
今の医療関連の番組でも、ときどき「?」を感じることがある。不安を煽る報道は、患者さんのためにならない。



1992年に報道されたニュースステーションのステロイド特集の問題点 2

問題点は、まだある。以下は、番組の冒頭である。

    (ナレーション)子供を中心に激増していると言われるアトピー性皮膚炎。この病気のかゆみや炎症を抑えるために劇的効果を発揮する薬がステロイド剤である。しかしこの薬には強い副作用もある。

    (患者1)「掻き崩してしまって、なんか、それで体液がもう止まらないような感じですね。枕カバーが1日ごとに替えなければならないような感じですかね。それとシーツとかも」

    (患者2)「汁が出て下着とかも全部ひっ付いてベリベリっていうんですか?」

    (ナレーション)いったいステロイド剤とはどういう薬なのか?なぜこのような副作用に悩まされる人が出てしまうのだろう?
    <ここで、画面に患者さんの写真が多数流れる>

ちょっと、待って待って。「このような副作用」と言っているが、患者1・患者2ともに、どこがステロイド外用の副作用なのだ!?重症のアトピー性皮膚炎の湿疹の症状を述べているだけで、ステロイド外用は無関係だ。
これはひどい。
そして、画面に出てくる写真。一瞬しか映ってこないので判断が難しいが、苔癬化した重症のアトピー性皮膚炎の写真などが流れる。で、どれがステロイド外用剤の副作用?ただの重症のアトピー性皮膚炎の患者さんの写真が流れている。少なくとも、私にはステロイド外用の副作用らしき写真は見つけられない。

その後、ステロイド外用剤で副作用が生じたという患者さんのインタビューにうつるのだが、どの症例も本当にステロイド外用剤の副作用なのか疑問だ。どの副作用が出ているのか明確な説明がない。ステロイド外用剤の副作用といっても、いくつかの副作用があり、それぞれ特徴がある。問題なのは、ステロイド外用剤の副作用なのか、それとも別の疾患を合併しているのか、アトピー性皮膚炎の悪化なのか、これを区別することである。

ステロイド外用剤の副作用が出たというからには、誰かしらが診断しているはずである(たとえば、酒さ様皮膚炎とか、ステロイドざ瘡とか)。その具体的な診断が、この報道には全く出てこないのである。ステロイド外用剤の副作用の具体的な名前(できれば診断医の見解)がないと、本当にステロイド外用剤の副作用なのかわからないし、議論しようがない。

この報道は、医療者の監修がなされていたのだろうか?ステロイド外用と全身投与の副作用を区別することもなく、紹介する患者さんが本当にステロイド外用の副作用が出ているのか確かめることもしない。これでは、ステロイドバッシングと言われても致し方ない内容だ。



最後に2つほど。

一つ目。
このニュースステーションの報道の後に、同番組で訂正の報道がなされたという。ただ、詳細は不明だ。

二つ目。
当時のステロイドバッシングで多くの人が脱ステロイドや不適切な治療を行い悪化した反省から、今のアトピー性皮膚炎のガイドラインが整えられてきた経緯がある。そして、今はタクロリムス軟膏(プロトピック)やシクロスポリン(ネオーラル)が保険適応になり、1992年の報道当時と異なり、治療の幅が拡がっている。1992年の報道を振り返ることも重要だが、今の医療状況と異なることを理解の上で振り返って欲しい。また、医療現場では、もはや「脱ステロイド」を議論する時代は終わっている。その効果には限界があり、アトピー性皮膚炎の治療には不適切だという認識が当たり前になっている。