SMOKE DREAM



§番外編§

 

死神ピース





 「さぁ、ラーク、若葉ちゃんの演奏会がレッド・アベンチュリン村であるそうよ。見に行きましょう。」
 そう言ったのは、ロングヘアでグリーン系のワンピースを着た女の子、ヴァージニである。
 レッド・アベンチュリン村の男の子が、蝶の化物FKにさらわれたが無事に奇跡的に助かった、あの日から一週間が過ぎた。
 あれから、ニュージェード村とレッド・アベンチュリン村を結ぶ道筋は目立った化物の出現跋扈はなく、今日もあちらの村から10人程がこちらの村に渡って来ていた。
 チェリー爺が水晶を見つめながら、
 「う〜む。まぁ、カプリが付いて行く事だし、レッド・アベンチュリン村からルーシアが迎えに来るそうだし、まず大丈夫じゃろう。安全じゃ、行ってもよいぞ。」
 許しが出た。
 チェリー爺が水晶を見た時、2つの村を結ぶ道筋には全く陰りが無かった。唯、一点小さな黒い影が見えている個所があったが、FKかミネが一匹たまたま居たのだろう。その程度なら、カプリが金の粉をパラパラと撒けば逃げて行ってしまう。

 ラークとヴァージニ、カプリの3人は、レッド・アベンチュリン村のある南西方向の白い道をトコトコと歩いてゆく。
 村を出ると緑色の木々は徐々に少なくなり、灰色の巨木や草が淋しげに生えている。
 レッド・アベンチュリン村までは2時間もかからずに着くことができる。
 途中の草陰で、ラークは女の人の泣いているような声を聞いた。
 「はて?何か声が聞こえない?」
 ラークが首を傾げた。
 カプリとヴァージニも足を止めた。
 ラークが草陰に割って入ると、衣服の乱れた女性が肩を震わせてシクシクと泣いているではないか。
 「え!?お、おい、大丈夫かい!?どうしたんだい?僕は何もしないよ、大丈夫だよ。ちょっと、ヴァージニ!カプリ!こっちに来てくれ!」
 と後ろを向いたラークに、女はあっと言う間に忍び寄った。
 生暖かい息がラークの首下に掛かった。
 次の瞬間、ラークは血を吐き出した。
 背から胸へ黒い鎌が突き抜けていた。
 「バ、バカな・・・。こいつは・・・。」
 ヴァージニが悲鳴をあげた。
 ドサリ、と地面に倒れたラークを跨いで、凶刃がヴァージニにまで襲いかかる。
 女は既に女の姿をしていなかった。
 女性の姿に成り済ましていたのは死神ピース。
 カマキリの様に厳つい容貌。
 両手は大きな鎌。
 『パッ!』
 死神ピースとヴァージニの間に割って入ったのは森の妖精カプリである。
 金の粉を目潰し代わりに投げやった。
 死神ピースが目の痛みに苦しんでいる隙に、カプリは羽をパタつかせながら、ヴァージニの手を強く引っ張った。
 ヴァージニは倒れているラークをチラチラと見やったが、走るしかなかった。

 2人は無我夢中で逃げていると、前からルーシアが飛んで来た。
 ルーシアもカプリと同様、森の妖精でレッド・アベンチュリン村の住人である。
 事のあらましを聞くと、ルーシアはカプリをじっと見た。
 カプリは何も言わずに、コックリと頷いた。
 2人とも何か強い決意が感じられた。
 「ヴァージニちゃんはここで隠れていなさいね。お姉ちゃん達が、あんな奴すぐにやっつけちゃうんだからね。」
 半透明なエメラルド・グリーンの布を身体に巻き付けているルーシアがそう言うと、
 「待ってるのよ。」
 カプリも片目をつむって見せた。
 そして、今逃げて来た道を2人は戻り始めた。
 あんなに澄み切っていた筈の空が死神の出現で、瞬く間におどろおどろしい雲に覆われてゆく。



        



 ラークは血を吐きながら応戦していた。
 ガクガクと震えながら立ち上がり背から大剣を引き抜くと、目を擦っている死神ピースの肩口に一刀をくらわせた。
 『ガキン・・・ン・・・』
 あまりの表皮の硬さに両腕が肩まで痺れた。
 「この人間、死に損ないがぁ!俺様に剣を突き付けるとはどう言う事だ!」
 ラークは死神ピースの肘で何度も殴り付けられた。
 「こいつかぁ、JPSが言ってた大剣付きの人間ってのは・・・。熟すと美味そうな魂だな、フシュフシュフシュ。それまで待つまでもない、今ここで俺が食らっちまうか。ん?」
 『パタパタパタパタ』
 空中に森の妖精カプリとルーシアが並んで飛んでいる。
 「それ以上、ラークに触れると許さないわよ。」
 カプリが叫んだ。
 「せーの、ダブル・アタッーク!!」
 2人の合わさった掌から流れ星の様に金の粉が放射された。
 『ドン!』
 死神ピースは反動で近くにあった灰色の岩に叩き付けられた。
 「さ、今のうちに。」
 ラークの両脇にカプリとルーシアが両手を入れて、パタパタと羽を振るわせた。
 ラークは2人に促されてそこから離れる事ができた。
 3人はどうにか、ヴァ−ジニがいる岩陰まで逃げる事ができた。

 ニュージェード村では、真っ青になったチェリー爺がマルボロが制止しようとするのを聞かずに、勇ましい形相で村を出ようとしている。
 「なんと言う事じゃ、一瞬で水晶が真っ黒に。よりによって死神が現れるとは・・・。あぁ、空が真っ暗になっておる。」
 レッド・アベンチュリン村への道筋へ、ヴァージニ達を助けに行こうと言うのである。
 「じっ様、彼女達が出てからもう3時間以上経っている。きっとあっちの村に到達しているか、近くまで行っている筈だよ。それにレッド・アベンチュリン村の救出チームが彼女達を助けに行くに違いない。」
 マルボロが現状を説明する。
 「ここはあっしにお任せを。」
 そう言ったのはネクストである。
 「あっしなら小柄だし、闇の化物が幾ら現れても足が速いからスイスイとかわせます。」
 『トンッ!トンッ!トンッ!』
 狐の姿をしたネクストが、あっと言う間に跳び出し草原に消えてしまった。
 うなだれるチェリー爺。
 「すまん・・・、頼んだぞ。ネクスト・・・。」

 暗くなった灰色の草原を猛スピードで進むネクスト。
 地面が盛り上がり、芋虫の化物ミネが台頭し始めてる。
 途中、道筋に血痕を見付けたネクストは、さらに厳しい表情をして走り続けた。
 そして、遠くにラーク達の姿を見付けると息を呑んだ。
 彼らはレッド・アベンチュリン村の方向へ逃げながらも、死神ピースや闇の化物を相手に応戦していた。
 ラークは、カプリの身体にまとっていたブルーの妖精の布を傷口に巻き出血を押さえ、大剣を振るって死神ピースの鎌を受けている。
 彼女達に守られて息を吹き返したラークは、気力を充実させる事が出来た。
 大剣はエメラルド・グリーンに輝いている。
 その剣で死神の鎌を受け切っていた。
 カプリやルーシア達も金の粉を振りまいては、化物を遠ざけていた。
 そこへ、黄金色に輝いた火の妖精ネクストが、
 『ポーン』
 ファイアー・ボールとなって跳び込んだ。
 死神ピースの背中に一撃をくらわすと、死神は炎に包まれた。



     



 暗雲が薄れてゆく。
 炭と化した死神ピースは、灰色の地面に溶け込み姿を消した。
 レッド・アベンチュリン村の方向から、見覚えのある人達が現れた。
 救出チームである。
 何も着ていなかったカプリが上着を貰ってまとった。
 「ネクストがもっと早く助けに来てくれたら、こんな恥ずかしい格好しなくて済んだのに。」
 ネクストが、
 「ゴメンよぉ、そうだよなぁ。もっと早く気付いて来るべきだったよなぁ。」
 それを聞いたラークが、
 「わりぃ、わりぃ。でも金の粉を掛けてもらって妖精の布で傷口を押さえたおかげで、踏ん張れたよ。サンキュー。でもなんか、もうちょっと見てたかったなーー。」
 「そうそう。」
 ネクストも頷く。
 「いい加減になさい!!!」
   

      (H17.05.)