
SMOKE DREAM(番外編 平成14年度版)
「さぁ、今日は、若葉のライブがあるのよ。ラーク行きましょう。いーえ、引きずってでも行くわよ!!」
「な〜に、それ?めんどくさいなー。俺、あんまそういうのって、興味ないよ。めんどくさいし・・」
と言いながらも、ラークは渋渋、ヴァージニに連れて行かれた。村のほぼ中央に当たる部分にそれはあった。ずるずると引っ張られながら、ライブ会場へ着くと、もう、夕方になり、暗くなりかけていた。ここ、スモークワールドでは、あまり電化製品がない。暗くなると、大きなたいまつをたくさん炊いた。平地が続く草原が、素敵な演奏会場となっていた。
『ぱたぱたぱた』
とこうもりのような妖精が飛び交っていた。ラークはそれを見て、ちょっと死神を思い出した。
「この会場ってさぁー、大丈夫なの?ちょっと暗黒よりじゃないか?」
「ん?大丈夫よー。そこがすっごく魅力的なのよ〜。」
開演時間が迫って来た。ぱらぱらと人が集まってきた。突然、弦が鳴り響き、女性の甘い声が流れて来た。舞台の真中に一人の女性が、ギターのような弦楽器を持って、演奏を始めていた。ラークはその声を聞いた途端、感動に包み込まれた。
「なんて、柔らかくて、感情のこもった歌声なのだろう。」
食い入るように、彼女を見つめていると、彼女の身体から、なにやら緑色の煙のような、光のようなものが、見え始めた。彼女の妖艶な動きといい、艶かしい仕草といい、それらに、囚われるように、虜になっていくラークであった。ヴァージニはというと、早くも大泣きしている。
果てさて、ライブも中盤となり、会場が熱くなってきた頃、あいつがやって来た。死神JPSだ。暗い空をくるっと大きく1週すると、若葉の会場めがけて、一気に下降してきた。泣き叫ぶ観客、突然のことに動けなくなったカップル。ラークも、まさか安全なはずの村の中央で、暗闇を支配する死神JPSが現れるとは思っていなかったので、剣も何も帯びていなかったし、助けるなんてどころではなかった。若葉の前を遮るように現れ、10メートルもあるであろういでたちで、大きな鎌を横殴りに
『ブーン』
と振った。人々の魂が白く何人もあっという間に抜き去られた。ばたばたと倒れる人々を前にして、絶句するラークとヴァージニ。
「フッフッフ、今宵の獲物はおまえら小者ではない。」
くるっとステージの方を振り向いて、
「若葉よ、おまえの魂をもらいにきたのだ。」
そう言うと、その大鎌を彼女に向けて横殴りに振り抜いた。
『バキーン』
若葉は、その鎌の刃をギターで受け止めた。しかし、そのまま勢いで空中に投げ出された。JPSはそのまま宙に浮いて若葉を黒布の中に納めると、暗黒の空へ吸い込まれるように消えて行った。残されて呆然とする人々、そしてラークとヴァージニ。少しの静寂の後、死神に魂を抜き去られてしまい倒れ伏している人々を前にして、いくつもの嗚咽が聞こえ始めた。
その事件はすぐさま、村中に知れ渡った。その話を先に聞いた、チェリーや、マルボロが血相を変えて、ラークとヴァージニを探しに行こうとするところへ、青白い顔をした2人が帰って来た。
「よかった、よかった。」
の連呼。ラークは悔しさのあまり、そのまま自分の剣を取り出して来ると、再び外へ出ようとした。マルボロとチェリー爺が、必死になって止めた。
「おまえが一人、行ったところで何になる。」
連れ去られた、若葉は、死神の黒布の中でも、落ち着いていた。そのうちに崖の岩が突き出ている部分に、JPSは到着した。そこに若葉を下ろすと、
「さ−て、もう逃げれわせんぞ。どう料理してやろうか。」
ずっと黙りこくっていた、若葉が口を開いた。
「あたいの演奏を聞きに着てくれた人達を不幸に陥れたな。」
以外に低音でどすのきいた声にJPSは戸惑った。
「何?生意気なこというな。この鎌が見えないのか?ほ〜ら。」
いたぶるように、鎌の切っ先を彼女の綺麗な頬に擦り付けた。
「なめんじゃねーよ!」
いきなり、金色に輝く瞳をJPSに向けるとギターを奏で始めた。その瞳がJPSを押さえつけ、ギターからは、緑色の暖かいエネルギーが渦を巻くように溢れ始めた。どんっとJPSが吹き飛ばされた。
「くっこの小娘が、ここまでエネルギーを高めれるとは・・。まぁよい。その断崖絶壁のところに何日生きられるか、見物じゃの。ケッケッケ。今でも仕留められぬことはないが、めんどくさい。5、6日待つとするかの。」
そう言うと、そのまま薄暗い闇に消えて行ってしまった。後には残された若葉1人が、歯を食いしばっていた。逃げる道はどこにも無かった。かろうじて座るスペースがあるだけだ。
その頃、ヴァージニの家では、ラークはチェリーとマルボロに取り押さえられていたが、ヴァージニは、水晶を見始めていた。水晶は、すぐに断崖絶壁の中腹あたりの出っ張っている岩のところに、佇んでいる若葉を映し出した。
「ラ、ラーク、ほら、若葉さん生きているわよ!ほら、ほら。」
「ん?何、どれどれ。」
チェリ−達も一緒になって見始めた。
「ちっ、俺はやだぜ。また、助けに行くのは、ごめんだよ。」
マルボロが言った。
「あんな、怖い目には、2度と遇いたくねぇー。」
「気持ちは分からないでもないけど・・。」
とラーク。
「ふん、何よ臆病者。」
とヴァージニ。
チェリー爺も渋い顔をしながら、
「わしも、この間の戦いで、気力も、体力もだいぶに使い果たした。今、戦うのは残念だが避けたい。・・ラークよ、おまえは、この間の戦いといい、その後のわしのとこでの、修行といい、ひとまわりは強くなった。JPSにそれをぶつけて来い。ただ、若葉とか言う歌い手を助けるのみで、深入りはするな。死神はJPS一人ではないし、彼らの力は底知れない。言わずとも、放浪の旅を続けて来たおまえには、わかっていることだろうが。そうだ、ネクストを連れて行け。必ず役に立つ。」
早速、その断崖絶壁を目指し、歩みだした。このスモークワールドに方向があるとしたら、ラークが旅をして辿り着いたところが、村の南端であり、この間の戦いの双渦沼は村の西の方。今度は、北の端の方を目指すことになる。距離は結構あった。ラークは、右肩にいつものように、カプリを呼び寄せ、数メートル先には、ネクストが先導していた。いくつもの、家々や、草原を夜通し進むことになった。月の光が、夜道を照らし出していた。村の中では、滅多に死神は現れない。暗闇でもだ。ただ、村の外に出ると、夜は、危険で歩けない。昼間でも、死神が太陽を遮るようにして現れ、あっという間に餌食にされてしまう。
断崖の下に着く頃には、夜が明けてきていた。
若葉は、凍えるような風が、吹く中で、自分の妖精である、ゴールデンバットを何度も呼び寄せようとしたが、死神の術の中にいるので、どうにもならなかった。下を恐る恐る覗き込むと、ただ落ちて吸い込まれそうな暗闇があるだけだし、上を見ても垂直な岩肌が、永遠と続いているようにしか見えなかった。左右も同様に岩肌があり、どうにもならなかった。そして、涙に濡れながら、朝を迎えた。
下の方から、ラーク達が見上げると、そんなに遠くないところに、若葉がいるであろうと思われる、岩が見えた。しかし、若葉の方から、下を見ると、ラーク達は見えない。暗闇が広がっているだけにしか見えないのである。ラーク達が、
「おーい、若葉さーん!!助けにきたよー。」
といくら叫んでも、音までもが、見えない死神の術に遮られている。
ラーク 「カプリが飛んで行けば、すぐ行けそうだけど、ちょっと上に行ったら、JPSの領域だなぁ。助けに来たのすぐばれるな。」
カプリ 「そーね。暗闇に一歩でも入ったら、すぐ現れるわよ。蜘蛛みたいに嫌な奴ね。」
ネクスト 「せっかく、来たけどなぁー。こうなると、火が操れても、しょうがない。跳べる妖精、若葉ちゃんを運べるぐらいの妖精、いたっけな?」
ラークは、思い出したように、
「そういえば、ライブ会場にこうもりのような妖精がたくさん飛んでいたよ、たぶん、若葉といつも一緒にいるんだと思うんだけど、あの妖精はどんな妖精なのかな?」
ネクスト 「あー、ゴールデンバットのことでしょう、たぶん。あいつの能力は、暗闇でも目が利くことと、分身かな。」
ラーク 「え?分身?」
カプリ 「そういえば、聞いたことがあるわ。1匹なのに、たくさん、群れなしているように見えるんだって、そんなこうもりみたいな妖精がいるんだって。」
ラーク 「ふ、ふーん。あーなるほど。ライブ会場であの雰囲気を作り出しているんだ。そいつも欲しいな。使えるかな?・・・そいつと、カプリとで、若葉さんを持ち上げて下まで降ろせないかな?」
ネクスト 「おっ、それは名案。なんとかなるんじゃない。」
カプリ 「そーねー、若葉さん軽そうだし、あそこから、ここまで降ろすくらいなら、なんとかなるかも。」
ラーク 「よーし、決まり。そのゴールデンバットとやらを探そうって、どうやって?」
その頃、そのゴールデンバットは、若葉がJPSにさらわれてしまったものの、まだ生きていると、望みを捨てずに、若葉の持っているエネルギーを一生懸命に探しては、テレポートしていた。けれども未だ、全く見つけることができないでいた。一晩中、テレポートのエネルギーを使い、疲れ果ててきていた。
『がむしゃらに探しても見つからない。』
そう思って、とりあえず元のライブ会場に戻ることにした。
ヴァージニ家では、ヴァージニが水晶をまた、見ていた。
「ラークお兄ちゃん達、2、3日は平気みたいね。ただ、その後が見えないわ。」
チェリーが、
「どれどれ、わしが久しぶりに見てみるかの。」
そう言って見始めた。
「ふむふむ。ふーむ。んー・・。」
「おじいちゃん、ふむふむって何が見えるの?」
「いやぁ、まぁ、あんまり水晶を当てにはしてはいけないよ。しかし、またやばそうじゃの。どうしたものか・・。とりあえず、若葉ちゃんとやらと仲の良い妖精のゴールデンバットとあってみるかの。ライブ会場に行こう。」
ライブ会場では、先日、亡くなった人達への花束がたくさん置いてあったりして、胸が痛むような光景があった。そこに佇んでいたゴールデンバットに、2人が理由を話すと、すぐさま若葉のいる断崖へと飛び立っていった。途中、2人から聞いた、ネクストらしき妖精を見つけ、合流した。ネクストはゴールデンバットを探しに、ライブ会場に向かっている途中だったのである。ラークとカプリは、2人で断崖で待っていた。ラークは草陰でごろ寝をし、カプリは、食べ物を探しに、その辺をふわふわと飛んでいた。そして、その日の夕刻には、ゴールデンバットとネクストが到着した。ゴールデンバットは、今すぐにでも、助けに行こうと意気込んでいたけれど、他の3人から、日が出ている時の方が安全だと、説得され、やむなく次の日の夜明けまで待つことになった。
夜になると、聞こえないはずの、若葉のギターの音色と優しい歌声がどこからとも無く聞こえては、消えていった。それを聞いて、4人は、助けに行きたくなる衝動を懸命に押さえた。若葉は夕闇の中、岩場に座り込み、誰にも届くはずも無い歌をギターを奏でながら歌い続けていた。
朝が来た。
ラーク 「日の光がこれだけ射していれば、JPSは、出て来れまい。とにかく、ここまで降ろせれば何とかなるだろう。まぁ、後は、俺とネクストに任せろ。」
カプリ 「分かったわ。できるだけ早く、下まで連れてくるわ。ゴールデンバットさん息を合わせて頑張りましょう。」
ネクスト 「しっかり頼むぜ。」
そして小声で、「カプリに何かあったら、ただじゃ済まさねーからな。」
と囁いた。ゴールデンバットはしっかりと頷いた。カプリとゴールデンバットが若葉のいる岩場へとじょじよに上がって行った。下で、ラークは剣を構え始めた。呼吸を整え、いつものようにエネルギーを高めていく。剣は、白く輝きだし、レモン色となり、緑色となって、輝いたままだ。ネクストも、呼吸を深くするような仕草をして、身体から湯気のようなものが上がって来た。
『いつでもOK!』
下の方を見た、カプリ達がその2人のサインを見た途端、暗闇に包まれた。死神の領域である。ゴールデンバットも、カプリも緊張し、背筋が凍りそうになった。カプリは、先頃の嫌な体験を思い出してしまった。
『うぅ〜。早く、早く。』
カプリはそう思いつつ、テレポートの射程距離内に入ったのでテレポ−トを始めた。ゴールデンバットも同様である。次の瞬間、ぱっと、2人が若葉の前に現れた。若葉は大きな目を見開きながら、ゴ−ルデンバットを抱き締めた。
「時間が無いわ。若葉さん、私達が下まで連れて行くからね。怖がらないで。」
カプリが口早に言うと、
「わたしのために危険を冒してまで来てくれてありがとう。」
と若葉が応えた。ゴールデンバットは足の爪で若葉の左肩を、カプリは両手で右肩を引っ張り上げ、いざ、暗い崖下へ3人は飛び降りた。
異変を感じたJPSは、すぐさまやって来た。3人がふわふわと下に向かっていると、横から暗く冷たいどよどよした風が吹いて来た。
「ぐわぁっはっはっは。獲物が増えたぞ。逃がすとでも思ったか、崖下の方に数人で来ていたのは、うすうす感じていたぞ。おまえらの魂すべてもらった。そこまでだ。」
JPSは大鎌を横殴りに振ろうとした。3人いっぺんに魂をもらおうと言うのである。若葉はギターを盾にしようと構えた。が、その前に、ゴールデンバットが、ぶわっと分身した。何10匹もの、こうもりのような姿が、若葉とカプリの姿を隠してくれた。そのまま、その鎌は幻影を切り裂いた。しかし、ゴールデンバットは軽く刃に触れてしまい、バランスを崩した。3人は急降下し始めた。
『ばっ』
急に眼前が明るくなった。死神の術から逃れられたのである。下でうまく、ラークが若葉をキャッチした。
「フー、ナイス。たいへんだったね。」
若葉はまじまじとラークを見て、頷いたのみだ。危険は去ったわけではなかった。予想通り、上空が暗くなってくると、急に暗闇が膨れ上がって、JPSが姿を見せ始めた。ネクストは既に黄金色に輝いていた。後ろに下がりつつある、カプリ、ゴールデンバット、若葉、そして、その前で3人を庇うようにラークとネクストが戦闘態勢に入っていた。
「下がって下がって、逃げるんだ。村の中央の方へ逃げるんだ。」
ラークが叫んだ。
『ゴォー』
ネクストが、JPSに突っ込んだ。今度は目標を外さなかった。1発でJPSの胸を貫通した。続いてラークが剣を縦に一閃した。
『ガキン』
JPSの骸骨の脳天部分に刃先が数センチ食い込んだ。JPSの頭を包んでいた、黒布がばらりと取れた。JPSがにやりと笑った。
「こないだとは、一味違うと言ったところか、けどもこの程度では、片腹痛いぞ、ハ、ハ、・・。」
ラークの腕がいつの間にか、オレンジ色に輝いていた。そしてそのまま剣も同じ色に変化した。ぐぐっと燃えた剣がさらに骸骨を裂き始めた。
「おぉー、火龍、この短期間でよくも身につけた・・。」
ラークは力任せに、死神を切り割った。
『バキ、バキリ、バキリ』
すごい音がした。後には、砂と黒布だけが残った。
「フー。」
ラークがその砂を振り払うように、もう1振り剣を振ると、
「さぁー、逃げるぞ、みんな急げ、急げ。」
と言った。
理由の分からなそうな若葉も、早く早く!とカプリ急かされ逃げ始めた。地面に落ちていた黒布が大きく広がり始めた。それは、死神JPSの再生を意味していた。
『ぱぁー』
と太陽の光が差し込んできた。
「お、やった逃げ切れたかな?」
ラークが言った。
「まぁ、とにかく、帰途を急ぎましょうや。」
とネクスト。
「ラーク、ちょっと強くなったかもね。」
とカプリ。
「惚れ直したか?」
「馬鹿言うんじゃないよ。」
「ふ、ふふ、ふふ。」
無事に若葉を救出できた。
数日後、若葉が再びライブを行った。時間は昼間の真っ只中。ライブも中ほどになり、
「この曲を亡くなった人々のために歌います。」
とバラードを歌い出すと、彼女の大きな瞳から輝くものが流れ落ちた。後ろの方の席でラークやカプリ達も泣いていた。