SMOKE DREAM



狐火

 


 あれから、ラークはニュージェード村で静養の日々を送っていた。
 闇の領域から、なかなか帰って来ないカプリを心配して周辺を捜索していた村民らが、彼らを見付けてくれたのだ。

 そして数日が経ち、ラークの肩の傷が癒えた頃。

 再び一人の幼い少年が、この『SMOKE DREAM』と言う世界に迷い込んで来た。

 「え!?ここはどこなの?お母さん・・・、こんな所、知らない・・・。」
 ジタンは薄暗い明かりの下、目を覚ました。
 風が吹くと草がサワサワと音を立てた。
 そこは灰色の草原であった。
 半ズボンに半袖シャツを着たジタンは、泣きながら母を探し回った。
 髪は天然パーマで短く、目はどんぐりの様に小さい。
 笑うと、ぷくっと頬が膨らむ可愛い男の子である。
 ジタンは一生懸命、記憶を手繰り寄せていた。
 『確か、お母さんと買物をしていて・・・、はぐれて迷子になってしまって・・・。通りの向こうにお母さんに似てる人がいて、慌てて道路を渡った・・・。でも大きな車が横から来て・・・、僕に突っ込んだ!?・・・確か・・・、でも、そんな・・・。』
 淋しげな白い道を見付け、草を掻き分けてそこへ向かう途中、足下がぐらぐらと揺れ地面が盛り上がった。
 ジタンはそこで世にも恐ろしい姿をした化物と遭遇した。
 芋虫の化物ミネである。
 『ぐばぁ』
 と幾本もある牙を見せて口を広げると、彼を一呑みしようとした。
 「うわあぁぁぁ!!」
 ジタンは尻餅をつき、手で土や小石を掴むとやたらめったら化物に投げ付けた。
 しかし、そんな攻撃が闇の化物に利く訳がない。
 ミネはジタンの上に伸し掛かり、よだれをボタボタと彼の顔へ垂らした。
 「うわっ・・・!うわっ、あああ・・・。」
 『僕は食べられる・・・。』
 そう思った瞬間、
 化物の身体の至る所からポツポツと火が噴き出始めた。
 『キシャーーー!!グバァーア!!』
 化物が炎で焼かれ断末魔を上げた。
 「わっ、わっ・・・、わっ・・・、一体何なの?」
 キョトンとして泣く事も忘れて呆然とするジタンの横には、可愛らしい一匹の狐がフサフサの尻尾を振って彼を見つめていた。

 ニュージェード村では、村長のチェリー爺が紺柄の和服に襷を回して、闇の領域に向かう準備をしていた。
 チェリー爺の容姿は、団子餅を2つくっ付けたような体型で、頭はツルツル。
 鼻下から顎にかけて白くて薄い髭が生えている。
 そのチェリー爺が愛弟子マルボロを呼び寄せ、
 「ラークよ、今日はお前も一緒に来るがよい。」
 とラークにも声を掛けた。
 ラークは慌てて動きやすい甚平を着て大剣を背に同行した。
 3人はニュージェード村を出て南西へ足早に急いだ。
 見渡す限り灰色の薄の草原が広がっている。
 マルボロが、
 「水晶に映っていたのは幼い男の子だったのですね?」
 チェリー爺が、
 「うむ。死神の餌食になる前に何とか助け出したいのじゃ。場所はニュージェード村とレッド・アベンチュリン村を結ぶ道筋の中程じゃ。十分、助けられるとわしは思っておる。」
 「先にネクストが行ってるんですね?」
 「そうじゃ。」
 マルボロの風貌はスラリとしていてラークより背が高い。
 髪の色はブラウンで紺柄の着流しに長剣を携えていた。
 ラークはニュージェード村で生活するようになってから、マルボロに毎日剣術を叩き込まれていた。
 『ブワァサァー』
 ピンク色の鱗粉を空中に広げながら、蝶の化物FKが3人に目を付けて近付いて来た。
 『ピシュッ!』
 マルボロの長剣が一瞬煌くとFKは真っ二つになって地面に落ちた。
 「雑魚どもを相手にしている暇は無い。」
 チェリー爺が吐き捨てるように言った。
 闇の化物の数は増え始めていた。
 行く道行く道、地面が盛り上がり、芋虫の化物ミネが牙を向いて見せる。
 「ホワイト・リング。」
 チェリー爺が呟くと、彼の右腕にフワリと輝く白色のリングが作り出された。
 「ふーっ!ふっ!ふっ!」
 チェリー爺が息を吐きながら、そのリングをミネに目掛けて投げた。
 リングは広がり、ミネの胴体に絡み付いた。
 化物は忽ちに動けなくなってゆく。

 その頃、ジタンは出会った一匹の狐と共に白い道を歩いていた。
 その狐はどこかに導いているように見えた。
 その狐と一緒にいるようになってから、不思議と化物が現れても襲って来なくなった。
 化物どもは彼らを遠巻きに囲んでいる様であった。
 狐が可愛らしい顔を何度も振り返ってジタンに向けると、彼は自然と笑顔がこぼれた。
 しかし空には暗雲が広がり、闇が濃くなり始めていた。
 突如、その狐が、
 『フーー!!!』
 と威嚇するように足を止めた。
 深い闇の草原から、重い鎌を引きずりながら近付いて来る奴がいる。
 足は無く、宙に浮きながら黒いローブをゆらゆらと揺らしている。
 ジタンの足下が再び大きく変動すると、何匹もの芋虫の化物ミネが地面から顔だけを出した。
 そのうちの一匹がジタンを後ろから襲った。
 丸呑みしようと地中から完全に姿を見せた、刹那、
 『ゴワァーーーッ』
 業火にそのミネが包まれてしまった。
 あっと言う間に炭と化してゆく。
 何が起きているのか分からないジタンは、怯えながらその狐の傍にいた。
 狐の毛並が不思議と黄金色に輝いているように見えた。
 『バッサ、バッサ・・・』
 赤色の蝶の化物FKが何匹も彼らのすぐ上を飛び回っている。
 赤色の鱗粉が桜の花びらの様に落ちて来た。
 ジタンは目眩を覚え、くらくらとしてきた。
 FKの鱗粉は、人間や妖精の神経を麻痺させる作用がある。
 『ポッ、ポッ、ポッ』
 その花びらまでも炎がついて燃え始めた。
 しかし、ジタンはそのまま気を失ってしまった。
 その狐はジタンの前に立ち塞がるようにして、鎌を持った不気味な闇の者と対峙し合った。
 三日月型の鎌がギラリと光った。
 「ニュージェード村の火の妖精ネクストか・・・。ち、我の邪魔をするとは・・・。」
 「お前なんかにこの子を渡してたまるかよぉ・・・。それ以上近付くと、俺の業火で骨の髄まで燃え尽きる事になるぜ。死神JPSよ。」
 舌を出しながら、毛並をオレンジ色に発散させた。
 上空から一匹の巨大なFKが狐の姿をしたネクストに襲い掛かってきた。
 一瞬で炎が舞い上がるとFKはブスブスと音を立てて燃え落ちてゆく。
 追撃ちを掛けるように大鎌が振り下ろされた。
 ネクストはよけざま、死神JPSのローブの横を擦り抜けた。
 『ボワァアーー・・・』
 死神の黒布の一部が燃えた。
 「へへ、なめんな・・・。」
 ネクストは額から口に流れて来る血を舌で拭きながら、ヨロヨロと構えた。
 ネクストの額から背中にかけて切り裂かれた痕があった。
 「ファ、ファイアー・ボール。」
 ネクストは火達磨になって死神JPSに突っ込んだ。
 死神JPSの下半身に大きな穴が開いた。
 しかし、ネクストは目に血が入り、勢い余って死神の後ろにあった巨岩に身体をぶつけてしまった。
 「う、うぐ、しまった。目測を誤ったか・・・。」
 死神JPSは平然として大鎌を振り上げた。
 死神JPSの下半身はゆったりとしたローブに隠されているが、元々無いのである。
 銀色に妖しく光る鎌が岩に振り下ろされた。
 『ガラガラガラ!!』
 ネクストは何とかかわしたが、巨岩も砕く破壊力である。
 「待て!!そこまでじゃ、死神JPS!!」
 ホワイト・リングが死神JPSに絡み付いた。
 ネクストの前には長剣をフワリと構えたマルボロが、
 「待たせたな、ネクスト。」
 「へへ、遅いんだってぇんだよ。全く、俺一人で死神を倒しちまうところだったぜ。」
 ジタンを抱きかかえているのはラーク。
 「ふふ。そいつは悪かったな。」
 そして、白い道を歩いて来るのは、リングを投げ撃ったチェリー爺だ。
 死神JPSはホワイト・リングを鎌で楽に切り捨てると、見下す様に、
 「今日のところは、お前らに譲ろう。」
 4人をいっぺんに相手するのは厄介だと思ったのか、闇に溶け込んでその姿を消し始めた。
 チャーミナの一件で慙愧に堪えないでいるラークが、
 「死神JPS!!逃がすかぁっ!!」
 追撃しようとしたが、チェリー爺が首を横に振って制した。
 死神は黒い渦となり、やがて消えてしまった。
 
 空が晴れてきた。
 明るい太陽の光が射し込んできた。
 ジタンは目を覚ますと、傷付いたさっきの狐が頬をペロペロと舐めていた。
 「お前が助けてくれたのかい?ありがとう。あ、お母さんの声が聞こえる・・・。」
 ジタンの身体が七色に輝き始めた。
 「狐さん、ありがとう・・・。またねぇ・・・。」
 その狐はふわりふわりとフサフサの尻尾を振った。
 ジタンは消えていなくなってしまった。
 少し離れた場所の岩陰でその不思議な光景を眺めていたラークが、
 「あの子はどこへ行ったんだ?!」
 と目を白黒させて尋ねると、
 チェリー爺が、
 「現実の世界へ帰ったんじゃよ。」
 顎髭を触りながら、にこやかに応えた。



 

 
(H17.06.24)