この青空に約束をー
製作 戯画
さぁ、みんなで歌おう。俺達の、約束の歌を。
注意!!
第2回目のレビューは早くも2006年度の年間優秀作品にノミネートされる事が確実であろうこの作品。先に言っておくが俺は丸戸信者である。当然この作品も手放しで褒めるし貶す事もない。そういう訳で多少偏ったレビューになる事をご了承いただきたい。それでも読んでいただける方は続きをどうぞ。
この作品の舞台は南栄生島という本州から南にある離島。人口3000人弱というちっぽけな島である。出水川重工という大企業によって発展したが、その企業の工場撤退に伴い人口減少の道を辿っている、そんな島。主人公以外の登場人物達は出水川重工の撤退に伴い島を去る社員の家族であり、彼らはいずれやって来る別れにもめげる事なく毎日を共に過ごしている。この作品は別れることを前提に話が始まる。
この作品の中で特に重要な位置を占めるのがつぐみ寮という主人公とヒロイン達7人にとっての「家」である。転校してきた凛奈を除く6人は物語冒頭から明らかにこの寮を心の拠り所にしている。つぐみ寮があるからこそ大切な仲間達と暮らせるという想い、逆につぐみ寮がなくなった瞬間に彼らの思い出、絆もなくなってしまうんではないかという恐怖心がそうさせるのかもしれない。
実際にプレイしていて不思議に思ったのは各ヒロインの個別ルートにおいて主人公とヒロインを含むつぐみ寮の仲間との別れのシーンが全く描かれていない事だった。エンディングは島を離れて数年後の事で、その間の悲しい別れとかその後の生活などが端折られている。その個別ルートであるが、正直パルフェに比べると物足りなさがあった。里伽子クラスのシナリオを期待していた訳ではないが、どうにも盛り上がりに欠けるシナリオが多かったと言わざるを得ない。強いて言えば凛奈シナリオでの演劇と海己シナリオの演説シーンがホロリときたって位。キャラ萌えは別にして個々のインパクトが足りなかったというのが俺の評価。ただその分「約束の日」シナリオの感動は凄かった。あの瞬間この作品の評価がガラリと変わったと言ってもいい位。そして同時に「やられた」と思った。個別エンドで別れのシーンがないのも、個別エンドのインパクトが薄いのも、全部このエンドの為だったんじゃないかと。
考えて見れば個別シナリオを感動的なシナリオにしようと思えばいくらでも出来たと思う。個々のシナリオに「別れ」のシーンを入れればいいのだ。海己エンドなら海己の健気さを存分に使い、奈緒子シナリオなら普段冷たくて弱さとか見せない印象の奈緒子が別れ際に泣きでもすれば、ユーザーはそれで満足していただろう。丸戸氏にはそれ位の能力はあると思う。しかし、それをしなかった。それは何故か?俺には丸戸氏の本作へのこだわりがそうさせたように思える。
この作品においては主人公とヒロインが自分達の世界に入り込むような甘い恋物語はありえない。設定上無理がある。同時にそんなシナリオは本作の魅力を半減させるだけとも言える。あくまでこの作品はつぐみ寮7人の物語なのである。主人公がどのヒロインと恋仲になったとしても、選ばれなかったヒロイン全員が精一杯応援し、手助けをする。丸戸氏はおそらく誰か一人だけが幸せになるエンドを望んではいない。皆で同じだけ喜んで、皆で同じだけ悲しむ。もし個別エンドに別れを入れたら、誰か一人だけが幸せな状態で島を去って行く事になる。丸戸氏が望んだのは別れを惜しんで皆で同じだけ悲しみ、涙枯れるまで泣く、そんなエンドだったのではないだろうか?それが「約束の日」であり、だから敢えて個別シナリオは肝心のシーンを端折ったと俺は考えている。
おそらく丸戸氏が今作で最も描きたかったのは「約束の日」ではないかと思われる。その為に個別エンドも含め全てのシーンを脇役にした。結果的に里伽子シナリオを凌ぐ程の感動があったし、その試みは成功したと思われる。それでは丸戸氏は結局何を伝えたかったのか?ぶっちゃけた話つぐみ寮を存続させて皆で仲良く暮らすというエンドがあっても良かったはずだ。それ位のご都合主義はエロゲーでは十八番だし(笑)。そんなありふれた幸せを放棄してまで丸戸氏が描きたかったもの、それがきっとあると思うのだ。
俺が考えるこの作品のテーマはCLANNADのそれと似ている。「青春の終わり」というよりはむしろ「青春は乗り越える物ではなく、心の中に大事にしまっておく物」といった所だろうか。別に卒業だけが青春の終わりという訳ではないだろう。彼らにとっての青春はつぐみ寮に全て詰まっていて、別れは青春の終わりを意味するのだと思う。彼らにとってのつぐみ寮はネバーランドだった。そこにいる限り大切な仲間がいて、大人になる事とか考えず、毎日笑いながら生きていける、楽園。だから彼らは別れを恐れる。大人になる事を恐れるのだ。
「僕は、この島から出ていきたくない・・。やっと・・やっと
見つけたのに・・。僕の居場所を、見つけたのに」
誰よりも周りに反発し、馴れ合うことを拒否し続けた凛奈の台詞である。彼女がつぐみ寮の一員になる事を恐れたのは、本当は人一倍「失うこと」を恐れていたからだ。仲間と別れ、島を離れ、大人になる。そうやって失いながら大人になっていく事を彼女は恐れていた。
そして、そんな彼女を説得したのは誰よりも「失うこと」に恐怖していた、弱い少女だった。
「でも・・でもね、ここは、やっぱり、子供しかいられない。
誰かを傷つけなければ、居続けることは出来ないの」
「帰ろう、ピーターパン。窓の開いている、あなたの、本当の家へ」
「そして、ネバーランドは記憶の宝箱にしまい込もう?
・・・いつか帰ってくることを、信じて、ね?」
『〜さよならネバーランド〜より』
海己は既に一度無くしている。自分の母親を。彼女以上に「失うこと」に怯えている少女はいなかったであろう。しかし、海己は島を離れる事、大人になる事を選んだ。いつかその島に帰ってくる事を信じ、旅立つ未来を選んだのである。
大人になる事は青春を捨てる事ではない。青春を心の宝箱にしまって、それをいつか再び開けるその瞬間まで、精一杯前を向いて生きることである。そんなメッセージが、この作品には詰まっていると思う。彼ら7人は青春を心の中にしまって、別れを惜しみながらも旅立っていく。彼らの過ごした思い出の日々は2度と戻っては来ない。彼らが無邪気な子供のまま笑い合える日々は二度とは戻っては来ないのだ。それを知っているからこそ、「約束の日」エンドで彼ら7人は涙枯れるまで泣き、俺達プレイヤーは彼らの歌声に心を締め付けられるのだ。それでも、再会を夢見て強く生きていく「幸せ」を丸戸氏は示したかったのではないだろうか?
「さよならのかわりに、この青空に約束をー」そんな希望に満ちたメッセージを感じた。
評価:歴史的名作(SS)
丸戸作品が好きな人は間違いなく楽しめる。個別シナリオは上で言った通りだが、「約束の日」エンドは一見の価値あり。分かっていても泣かされてしまう感じ。パルフェから続くイベント選択式のシナリオは整合性の面でも違和感なく、良い。まぁ結論としては素晴らしい作品だったという事で。