RUSH      2017年11月20日



Rushは、昔から日本では認知度が低かった。’74年にデビューし、今も現役で精力的に
活躍し、海外ではそれなりに人気もある実力派のロックバンドトリオである。
デビュー時こそ、バリバリのハードロック、ZEPを意識した普通のロックバンドのイメージ
だったが、2ndアルバムからの知的な歌詞、4枚目のアルバム「2112」以降にみられる様
なプログレ風なアレンジや演奏方法などに変化をみせると、その後もキーボードを徐々に
フューチャーし、コンパクトで分かりやすいアレンジで大ヒットした「Moving Pictures」を
代表とするアルバム作りに変貌、その後もキーボードを全面にフューチャーしたポップな
作品をリリースしたと思えば、キーボードレスのヘヴィでストレートな作品に戻ったりと、
常に時代と共にスタイルを変えてきた。
新たな魅力が加算されていったのだが、かえってわかりにくいバンドのイメージを植え
付けてしまったのかもしれない。ハードロックバンドでありプログレバンドのようであり、
キャッチーなメロディを奏でるポップなバンドであったり、アコースティックな曲からメタル
まで、何でもうまくこなしてしまうバンドというイメージがマイナスに働いた。
そもそも、ボーカルが子供の様な細いトーンでキーンとくる金切り声で、ハードロックに
アンマッチのように聞こえたのも事実。好き嫌いの分かれるところだった。

演奏力は、抜群である。ライブの音源を聴くと、たった3人で演奏しているとは思えない程
で、特にベースのゲディ・リーはキーボード、ボーカルを兼任し、一人で演奏しているとは
思えないし、ドラムのニール・パートのテクニックもギターのアレックス・ライフソンの実力も
凄いもので、難しい変拍子、転調、リズム変化も難なく、正確にサラッと演奏してしまう。
演奏技術からすれば、当時、数あるハードロックバンドの中では圧倒的に優秀。今では
プログレッシブ・ロックに数えられているようで、確かにニール・パートの書く歌詞は知的
で、プログレ的であるし、演奏スタイルも挑戦的で、プログレッシブである。
ただ、個人的には、ハードロックバンドであると思っている。しかし、王道的なハードロック
ではない。Rush流ハードロックと表現するしかないだろう。
歌詞もわかりにくさはあるが、現代社会の問題との葛藤、風刺、人間関係、自己実現など
テーマは多岐にわたっているが、「自分を失わず、信じて前向きに行動すれば見えてくる」
的な肯定的なメッセージがメインテーマのような気がする。
Rioでのライブアルバムがあるが、あのアルバムを聴くとなんともブラジルのファンの熱い
こと熱いこと。国民性もあると思うが、インスト曲まで観客が歌うライブは珍しい。
ふつうは手拍子までだからね。聴いているこっちも熱くなってくる。ライブを聴くと、根っから
のハードロックバンドであることを再認識する。

1969年に、カナダのトロントで結成。地元のクラブを中心にZEPのナンバーのコピーや自作
のハードロックを演奏していたという。徐々に地元で人気のバンドとなり、72年、ZZトップの
前座で出演したが、アンコールに次ぐアンコールで、ZZトップのお株を奪う快挙。
ZZトップの出番を40分も遅らせたという。
そして、ついに’74年、マーキュリー傘下のムーン・レーベルから1stアルバム「RUSH」で
デビュー。しかし、すぐドラマーのジョン・ラトジーが脱退。急遽オーディションにより、現在の
ドラマーのニール・パートが加入し、ゲディ・リー、アレックス・ライフソンのこの不動の3人
のラインナップで2ndアルバム「Fly By Night」をリリース。ニールの文学的歌詞に注目が
集まるとともに、演奏面でも事実上のデビューアルバムと言ってよいだろう。
そして、次作へのブリッジとなった3rdアルバム「Caress Of Steel」をリリース。組曲形式
の曲を本格的に取り入れた作品で、’76年にリリースされた傑作「2112」の布石となった。
この「2112」はスペース・オペラ風、ドラマ仕立ての作品で、次の「A Farewell To Kings」
「Hemispheres」と合わせて、長尺作品にどっぷりはまっていた時期である。
特に、「Hemispheres」は精力的なライブの甲斐もあり、全米TOP20のチャートに上り詰めた。

ところが、レコード会社からの圧力もあり、(実は「2112」の前にも圧力はあった)長尺志向
の曲からシンプルで分かりやすい曲調に方向転換したアルバムが、’80年にリリースされた
「Permanennt Waves」である。これは大きく彼らをポピュラーな存在にし、さらに推し進めた
「Moving Pictures」は最大のヒット作品となった上、ファンからも圧倒的に人気のある作品
となっている。そして、’82年にリリースされた「Signals」で、POP度を高め、シンプルな演奏
にファンの間でも物議を醸しだした。
さらに、キーボードをさらに多用した「Grace Under Pressure」。
そして、ついに日本公演が実現したのである。(1984年)
しかし、自分はこの頃、ロックから遠ざかっていた頃で、Rushもご多分にもれず聴かなく
なっていた。これ以降のアルバムを再び聴きだしたのは、2000年代になってからである。

RushのアルバムのBestを答えるのは難しい。1stは別にしても、聴き手の好みの数だけ
あるのではないかと思えるくらいである。一定枚数ごとにライブアルバムをリリースして
いるので、その単位の中でそれぞれ1枚選べというなら可能であろう。それほど、完成度
に差が少ないのも、彼らの実力のなせる業である。あとは好みの問題である。
私自身は、多くの方々と同じ「Moving Pictures」もいいのだが、本来のストレートでヘヴィ
な「Counterparts」や「Vapor Trails」もハードロックバンドらしくて好きなのである。



        アルバム紹介



       「Caress Of Steel」     1975年

あまり人気がない3rdアルバムであるが、初期の作品の中では傑作だと思う。
1曲目の”Bastille Day”から全開。フランス革命記念日のことで、歴史の教訓は守り、伝えて
いこうという曲。”The Necromancer”、”The Fountaine Of Lamneth”の組曲のチャレンジ
あふれる試みは、これ以降のアルバム展開の出発点とも言われるが、キーボードは使わない
骨太なロックであり、且つ静と動のメリハリあるアレンジが好感が持てる。
聴いていると、ウン?このコード進行はベルベッツの”Sweet Jane”じゃ、とかジェネシスの
「Foxtrot」を彷彿させるリズムだとか、色々楽しめる。



       「2112」     1976年

70年代からのファンには、上位人気のアルバムである。
ハードロック、メタルとプログレとが融合し、SF的でドラマティックな組曲'2112'が有名。
個人的には、最後の自己実現のために行動を起こそうという前向きなテーマを歌った
”Something For Nothing”が一番好きだったりする。
最高傑作とは思わないが、重要な転機となったアルバムであったのは間違いない。
レコード会社から売れるアルバムにせよと、自らのアイデンティティを否定されるようなとこまで
圧力がかかったにもかかわらず、この傑作を生み出せたのは驚異的でもある。



       「Permanent Waves」     1980年

このアルバムも大きく方向を変えたアルバムであり、一般の認知度も大きく広がった作品。
”The Spirit Of Radio”にみるようにコンパクトでキャッチーな曲と自らに誠実なロックとの
向き合い方をテーマにした曲が印象的。傑作でもある。次の”Freewill”も自分の意思で人生
を決めようというポジティブな曲もいい。ファンタジー的なコンセプトから完全に脱却した代表作。
「Moving Pictures」と双璧を成すと言っても過言でないほど。



        「Moving Pictures」     1981年

人気No.1のアルバム。商業的にも最も成功した作品である。
1曲目の”Tom Sawyer”から4曲目の”Limelight”までの流れが特に素晴らしい。
わかりやすくなったが、テクニックはますます冴えわたり、長尺作品から路線変更したが、
リズムアレンジは特にキレ味が増し、高次元でのポップさとプログレ、ハードロックが融合され
ている。3曲目の”YYZ”は最も人気のあるインスト曲だが、このアルバムの代表曲でもある
名作。今聴いても、ゾクゾクする。”Limelight”や”Camera Eyes”はニールが現実を見つめ、
現実の真の姿を見失わないようにしようという意思が感じられる。
一度は聴くべき名盤。



        「Grace Under Pressure」   1984年

前作「Signals」で大きく方向転換したのだが、このアルバムもさらにポップになった。
シンセサイザー、シーケンサーを大幅に使用、シンセベースも演奏している。
ギターは音的にもハードロック的ではなくなっており、ポリス的なスタイルも感じられる。
前作からそうだったが、ゲディのハイトーン・ボイスは影を潜め、聴きやすい音階のボーカル
もあって、もはや同じバンドとは思えない程の変わり様。
次作「Power Windows」はさらにシンセが華やかに活躍しているが、楽曲が優れているのと
やや落ち着いた曲調でシリアスな内容を展開する本作を推薦する。



        「Counterparts」   1993年

1曲目の”Animate”を聴いたところで、このアルバムは変わったと確信した。
なにより、キーボードを最小限にして、ギター中心のハードロックに回帰している。
とは言え、初期の作品のハードロックとは違う大人のハードロックで、テーマも相変わらず
哲学的で抽象的な作品もあるけど、ずいぶんわかりやすいテーマが多い。
音も変拍子がほとんどなく、シンプル、ストレートのためか、音に説得力があり、引き込まれる。
本来の自分を取り戻すため、忘れてはならないものを再確認したアルバム。



        「Vapor Trails」   2002年

このアルバムも凄いです。1時間以上の収録時間をキーボードはほとんど無しでハードロック
している。ニール・パートの家庭の悲劇から、かなりブランクをあけての1作目とは思えない
力強いロックに感動する。”Out Of The Cradle”では終わることのないロックを宣言する
再スタートロックアルバム。ギターソロも無いソリッドなロックである。




70年代から80年代のアルバム中心且つ、ギター中心のアルバムのピックアップになって
いるが、そこはご容赦。しかし、どのアルバムも彼らの代表作と確信している。



    
   


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