声劇用台本 

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■タイトル

  振り返らずの坂 〜想望〜

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■ジャンル

  シリアス・ヒューマン・ショート

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■舞台設定

  振り返らずの坂:この坂には噂があった。この坂で強い後悔の念や
          昔の思い人へ気持ちを巡らせ過ぎると、それが
          現実になってやってくるという。
          だから、”この坂で過去を振り返ってはいけない”
          ということから、この名が付いたらしい。

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■登場人物

  椎名 智代[しいな ともよ ](♀):女子高校生。ツン。

  押井 雄介[おしい ゆうすけ](♂):男子高校生。口は悪いが面倒見がいい。

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■配役
  智代(♀)(L28):
  雄介(♂)(L23):
  N (両)(L17):

  ※L**:セリフ数

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■台本

 N  :晴れた日の午後。時間は3時15分。
     ゆっくりと坂を上っていく、学校帰りの女子高校生。

 智代 :「あ〜緊張する・・・。」
 
 N  :右肩から紺のバッグを提げ、両手で心臓を押さえている。
     坂の中腹まで上ると、道の端にあるガードレールにもたれかかった。

 智代 :「ま、信じてるわけじゃないけど・・・もしかしてってこともあるし。」

 N  :それから1時間。溢れる期待を抑えながら、何かを待ち続けていた。

 智代 :「そんな簡単には、叶わないよね。きっと想いが足りないんだ!
      うん。きっと足りないから・・・って、なに独りで喋ってんだろ。」

 N  :智代がその場に佇んだまま、更に1時間が過ぎた。
     真っ直ぐ先に見えていた夕日は、町の陰に隠れるほど落ちていた。

 智代 :「あ〜あ。やっぱり、そんな訳ないか。
      でも、先輩とはもう会えなくなるんだなぁ・・・。」

 智代M:「こういう時・・・。」

 N  :ふと何かを思い浮かべたまま、虚空を眺めていた。

 雄介 :「ん? 何やってんだ?」

 N  :智代のすぐ左手に、一人の男子高校生が立っていた。
     坂を上ってきたようだが、まったく気付いていなかった智代は
     大きく驚いて、身をすくめた。

 智代 :「え? ちょっと、なんでこんなとこに居るのよ?」

 雄介 :「俺の方が先に聞いたんだろーが。」

 智代 :「私は・・・ちょっと。」

 雄介 :「ちょっとなんだよ?」

 N  :雄介が更に一歩、智代に近づくと
     智代は一歩、離れるように坂を上る。

 智代 :「いいでしょ! アンタには関係ありませんから。」

 雄介 :「そういう事を言うか? 人が心配してやってんのに。」

 智代 :「してくれなくて、結構です。
      ってか、なんで心配されなくちゃならないのよ?
      私は、ただ立ってるだけじゃない!」

 N  :智代の肩からスルリと落ちたバッグ。
     それの取っ手を両手で掴み、体の前でぶら下げるように持ち替えた。

 雄介 :「また怒ってんのか?
      ・・・ったく、ただ立ってるだけってのが逆に気になるだろ。
      で、何があったんだ?」

 智代 :「別に。」

 N  :智代は、言い捨てるように呟くとそっぽを向いた。

 雄介 :「ふ〜・・・。悲しそうな顔したり、嬉しそうな顔したり。
      なに考えていたんだか?」

 智代 :「え・・・。そ、そんなこと、知らないわよ!
      それにアンタ、いつからそこに居たわけ!? 気持ち悪い。」

 N  :智代の頬が紅潮しているようだったが、
     夕日の加減で雄介には分からなかった。

 雄介 :「俺が来たのは、ちょっと前だよ。」

 智代 :「あのさ・・・・・・ホント?」

 雄介 :「ホントだよ。」

 智代 :「そうじゃなくて、さっき言ってたこと。ホント?」

 雄介 :「さっきって・・・なんだっけ?」

 智代 :「もーいい!」

 N  :頬を膨らませて、くるりと雄介に背を向けた。

 雄介 :「おい、何だよ?」

 智代 :「しらない。」

 N  :智代は雄介を背後に置いたまま、坂を上り始める。
     雄介は、声を掛けながら後ろから付いて行く。

 雄介 :「おいって! 何のことだよ!」

 智代 :「しらない。」

 雄介 :「お前なぁ・・・。」

 智代 :「しらないってば!」

 雄介 :「・・・ん〜。そっか。わかった。
      それにしてもさぁ、・・・なんでいつも怒られてんの。俺?」

 智代 :「・・・。」

 雄介 :「何故か、こういう感じで居る時、多い気がしないか?」

 智代 :「・・・そうだね。なんでかな?」

 雄介 :「怒ってんのはお前だろ? 何で俺に訊くんだよ?」

 智代 :「分からないから訊いてるんでしょ?」

 雄介 :「・・・ふふ。」

 N  :不意に笑い出した雄介の声に、
     智代は足を止めて素早く振り返った。

 智代 :「なによぉ?」

 雄介 :「いや、ちょっと意地悪してみただけさ。
      お前がいつも素直じゃないのは知ってますから。」

 智代 :「素直じゃなくて悪かったわね。・・・あ。」

 N  :雄介はそんな智代の言葉を聞いて、微笑んだ。
     智代も自分が素直でないことを、
     反して、素直に認めてしまったことに気付く。

 智代 :「い、今のは、釣られただけだからね!」

 雄介 :「はいはい。」

 智代 :「その、何でも分かってる風な感じ。ホントむかつくんだけど。」

 雄介 :「悪かったよ。別にバカにしてるつもりじゃないって。
      ・・・用事は、どうなったんだ?」

 智代 :「用事なんて・・・無いけど。」

 N  :雄介は、その言葉に隠された何かに気付きながらも
     優しい声で提案した。

 雄介 :「んじゃさ。そろそろ日も落ちるし、帰ろうぜ。」 

 智代 :「・・・いいけど。」

 雄介 :「んじゃ、坂を下ろうぜ。」

 N  :坂の下へ向いた雄介は、少し左から振り返りながら智代を待つ。
     それに気付いた智代は、うつむき加減で坂を下り始める。

 雄介 :「ん? なんだよ。」

 智代 :「い、いいじゃん! 私が転んだら危ないでしょ!?」

 雄介 :「まーな。転んで、またギャーギャー言われるのは勘弁だ。
      ・・・ちゃんと掴んでろよ。足元にも注意。」」

 智代 :「・・・うん。」
 
 N  :夕日の明かりも弱くなった坂道を、寄り添って下る二つの影があった。
     智代は、彼の左袖をしっかりとツマンでいた。
     下りながらも時折、雄介の横顔を覗き見ながら
     ・・・こらえても溢れてくる笑顔を抑えるので必死だった。

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<おしまい>



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(2009-06-22 up)