声劇用台本 

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■タイトル

  振り返らずの坂 〜遺恨〜

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■ジャンル

  シリアス・ヒューマン・サスペンス・ショート

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■舞台設定

  振り返らずの坂:この坂には噂があった。この坂で強い後悔の念や
          昔の思い人へ気持ちを巡らせ過ぎると、それが
          現実になってやってくるという。
          だから、”この坂で過去を振り返ってはいけない”
          ということから、この名が付いたらしい。

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■登場人物

  伊崎 正臣[いさき まさおみ](♂):過去の消えない傷を抱える男。
  伊崎 麻実[いさき まみ  ](♀):正臣の愛娘。
  井上 俊実[いのうえ としみ](♂):罪を犯したが無罪放免となった男。

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■配役
  
  正臣(♂)(L13):
  俊実(♂)(L26):
  N (両)(L18):

  ※L**:セリフ数

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■台本

 N  :静寂。
     人の声はもちろん、物音すら聞こえない。
     まるで時間が止まっているかのような世界に一人佇む男の影。

 俊実 :「・・・ん?」

 N  :その男は、まるで今目覚めたかのように小さく声を漏らした。

 俊実 :「俺、なんでこんな所に居るんだ?」

 N  :眉をひそめ、少し不安な表情で辺りを見回す。
     周囲は距離感がつかめないほどの霧が立ち込めていた。


 俊実 :「ひでぇ霧だな。ほとんど真っ白じゃねーか・・・。」

 N  :男は、体の向いている方向へ歩みだした。
 

 俊実 :「それにしても、ついてねーなぁ。
      ブランド品なんか着飾ってるから、金持ってんのかと思ったら・・・。
      ハズレひいちまったなぁ。ま、顔は見られてねーから大丈夫だとは思うが。」

 N  :地面はいつの間にか傾斜になっており、少しずつ歩くのがキツクなってきた。

 俊実 :「・・・いつまで上ればいいんだこの坂。
      てか、なんで俺・・・坂上ってんだ?」

 N  :足を止め、ふとそんなことを考えていた男の目の前に影が見えた。
     電信柱の影から姿を現したのは、くたびれたスーツを着た男だった。

 俊実 :「よお、あんた。ここってどこだ? 教えてくれ。」

 N  :スーツの男は、更に坂を下り徐々に俊実に近づいてくる。

 俊実 :「なんだよ、聞こえてんだろ?」

 N  :強い口調に反応したかのように、スーツの男はその場に立ち止まった。
     そして、うなだれた頭を少し上げ俊実をじっと見つめていた。
 

 俊実 :「ち、気持ち悪ぃな。」

 正臣 :「・・・・・・何で、ここに・・・居るんだ・・・?」

 俊実 :「は? 俺が何やってようが関係ないだろうが。」

 正臣 :「・・・関係ない・・・?」

 俊実 :「あれ? あんた、どっかで見たことある顔だな。」

 N  :俊実はそう言うと、
     下から覗き込むようにして男の顔をなめるように見る。

 正臣 :「私をどこで見たと?」

 俊実 :「分かんねーから、訊いてんだろーが!」

 正臣 :「忘れたのか。お前は、忘れたのか。そうか・・・そうか。」

 俊実 :「もういいよ。で、タクシーとか駅とかどっちに行きゃあるんだ?」

 N  :スーツの男は、黙って地面を指差した。

 俊実 :「下? なんだよ、上ってくるんじゃなかったぜ。ち、だりぃな。」

 N  :礼も言わずに、きびすを返し坂を下ろうとする。

 正臣 :「井上 俊実(いのうえ としみ)・・・。」

 俊実 :「あ?」

 N  :不意に自分の名前を呼ばれ、振り返った俊実の目に驚くべきものが写った。

 俊実 :「お、お、お前は!?」

 正臣 :「今頃思い出したのか?」

 俊実 :「あんたに言ってんじゃねーよ!
      あんたの後ろの・・・え?
      ・・・もしかしてあんた。あの時の!?」

 正臣 :「あの時の・・・なんだね。」

 俊実 :「く、来るな! 俺に近寄るな!」

 N  :俊実はバランスを崩し、坂を転げ地面に這いつくばった。
     その彼の目線は、スーツの男ではなく
     その少し後ろを凝視していた。物言わぬ、女性の姿を。

 俊実 :「そ、そうか。は、ははは! 生きてたのか。
      それならそれで、俺の殺人は無かったことになるだろ!」
 
 正臣 :「・・・何を言っているんだ?」
      
 俊実 :「俺は無罪だろ。殺してなかったんだからな!
      ま、もともと俺は無罪放免だけどな!ッハ!」

 正臣 :「・・・やはり、お前だったんだな。
      私はそうだと思っていたよ・・・何年も。
      法律は、不平等だとつくづく思い知らされた。
      疑わしきは罰せず・・・? それで、娘はどうなった。
      ・・・何も変わらない。何も。
      ただ失っただけ。何も元には戻らない。」


 俊実 :「お、おい。やめろ・・・何をする気だ?」

 正臣 :「お前の行き先は、何を勘違いしたのか坂の下じゃない。・・・地獄だよ。」

 俊実 :「おい、女! お前も止めろよ!」
  
 正臣 :「・・・女?」

 N  :その言葉に少し振り返ると、そこには懐かしい娘の姿があった。
     娘は、悲痛な表情で何かを訴えていた。恐らくは、父親である正臣の凶行を
     止めようと説得しているのだろう。
     しかし、声は届いていない。

 正臣 :「大丈夫だよ、麻実。私が仇を討ってあげるからね。」

 俊実 :「うわああ!」

 N  :父親が振り下ろしたナイフが、
     逃げようとする俊実の太ももを貫いた。

 俊実 :「ぐあっ! ・・・ぐう、う・・・ちきしょー!
      刺しやがったな! 本当に刺しやがった!」

 N  :父親は、引き抜いたナイフをまた大きく振り上げると
     生気を失った目で俊実を見下している。

 俊実 :「くそぅ! 救急車・・・救急車・・・!
      なんでつながらねーんだ!?
      ち、警察だ。今、警察に電話す」

 N  :這いながら逃れようとする俊実に影が覆いかぶさった。
     驚き、振り向いた時・・・ナイフが腹部に突き刺さった。

 俊実 :「がっ!? ・・・た、た・・・。
      助けて・・・くれ・・・。お願いだ・・・。」

 正臣 :「麻実は助けて欲しいと言わなかったのか?
      きっと言っただろう。怖かっただろう。
      ん? お前は、どうした? こうしたんだろう!!」

 俊実 :「あぁ、ああああ・・・や、やめろぉ!」


 N  :静寂。
     立ち込めていた霧は晴れ。
     しばらくして、人の声と物音が現場に交錯していた。
     そして独特なサイレン音が近づいてくる。
     かつての事件が掘り起こされ、父親の凶行として新たに報じられた。

     そして、第一発見者の証言の中にこんな言葉があった。
     「スーツの男性に覆いかぶさって、一人の女性が泣いていた」と。

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<おしまい>


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