声劇用台本 
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■タイトル 〜影の将 外伝〜

  霧と桜

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■ジャンル

  シリアス/バトル/時代劇

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■設定

 襲われる女と爺の二人連れを独りの優男が助ける。
 そして、三人を狙う刺客。用心棒の女と優男の戦い。
 用心棒の女は、状況が変わり優男と共に、荒くれ者の退治に助勢する。

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■登場人物
 
 十蔵   [じゅうぞう   ](♂):朧一族の忍。霧隠十蔵。クール。
 清水 義智[しみず よしとも](♂):爺さん。お琴の方のお供。
 霊刃丸  [れいじんまる  ](♂):隣国・鴬奏(おうそう)の忍。冷静→チャラ
 桜花   [おうか     ](♀):元・来栖の忍。
 お琴の方 [おことのかた  ](♀):少女。国・来栖の姫。次女 

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■配役(3:2:0)
 
 十蔵 (♂)[L 85]:
 爺  (♂)[L 33]:
 霊刃丸(♂)[L 69]:
 桜花 (♀)[L102]:
 お琴 (♀)[L 58]:

  ※L**:セリフ数
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■台本

<来栖の国:城下町外れの街道の茶屋>
 
  (道端に転がる、惨殺された二人の侍を目の前にしながらも気丈な娘)

 爺  :「お琴様、いけませぬ!」

 お琴 :「何者です!?」

 桜花 :「さぁ、何者だろうねぇ?」
 
   (対面に立ち、後ろに二人のお供を連れている賊、その中央の女がジリッと近付く) 

 お琴 :「何故、このようなことを?」

 桜花 :「さぁ?」

 爺  :「お琴様、危のうございます!」

 お琴 :「私の命が目当てなのですか? それならば、そう仰れば済む話ではありませんか。
      このような惨いことをせずとも良かった筈です!」

 桜花 :「知らないね。アタイは、アンタの命を奪うことが仕事。
      その邪魔になるモノは、なんであろうと排除するだけさ。」

 お琴 :「くぅぅ・・・。一体、誰の命を受けて・・・」

 桜花 :「知ってどうする? 今ここで死ぬというのに。」

 爺  :「お琴様! ええい、こうなれば・・・
      この義智が時間を稼ぎます故、一刻も早く城へお戻りくだされ!」

 桜花 :「ふん。爺(ジジイ)が誰の相手をしようってんだい? 茶のすすり合いするんじゃねーんだぞ?」  

 爺  :「老いぼれているとは言え、これでも来栖の武士じゃ。
      お琴様の為にこの命を懸けて、お前達を止めて見せる!」

 お琴 :「爺や! いけませぬ!」

 爺  :「何をしておられるのです! さあ、早く!」

 お琴 :「嫌です・・・!」

 桜花 :「茶番だな。爺が命を投げ出そうが知ったことじゃないが。
      そんなもんで、アタイ等を一寸でも止められると思うなんて・・・可哀想で吐き気が出るよっ!」

   (桜花が目にも止まらない素早い動きで、爺の首へ小太刀を横一閃に斬りつけた)

   (SE:空振り)

 桜花 :「っ!?」

 お琴 :「じ、爺や!!」

    (爺の元に駆け寄るお琴)

 爺  :「わ、儂は・・・今・・・?」

 桜花M:「確実に・・・仕込めた筈なのに。なんだ今のは?」

   (SE:じゃりを踏む草鞋の音)

 十蔵 :「ふむ。」

 桜花 :「何者だ。 ・・・今のは、貴様の仕業か?」

   (刺すような視線で、肩越しにその男を睨み付ける)

 十蔵 :「どうかしたのかい?」

 桜花 :「こいつ・・・恍けやがって。そいつ等の肩を持つのかい?」

 十蔵 :「さぁ。そうかもしれないし、そうじゃないかもしれない。」

   (尻餅をついている爺とそれに寄り添うお琴を庇う様に、十蔵が立ち塞がる)

 桜花 :「そうかい。アンタ、来栖の者じゃぁなさそうだが・・・? 酔狂なら止めておいたほうが良い。」

 十蔵 :「私は酒は飲まない性質でな。このかた酔ったことなど無いが。」

 桜花 :「何かと鼻につく野郎だ。お前等、やっちまいな!!」

   (女の号令と共に、後ろで構えていた部下らしき男二人が襲い掛かる)

   (十蔵は、襲い掛かる男二人を鞘で倒す)
   (SE:打撲音×2)

 十蔵 :「無粋な。」

 桜花M:「こいつ・・・剣の腕が立つというだけでは無い・・・。恐らく、只の侍ではないな。」

 十蔵 :「この茶屋から見える景色はとても良い。これ以上、血で汚したくは無い。」

 桜花 :「ふ。ああ、そうかい。小娘を殺す簡単な仕事だと思っていたが、
      アンタのお陰で少し面白くなってきたよ。」

 十蔵 :「ふむ。」

 桜花 :「また直ぐ遭う事になるだろうよ。その時は、遊んでやるよ。
      それまで好きな景色でも存分に目に焼き付けておく事だね!」

   (風が吹き桜の花びらが舞う。小さな旋風が起きる。)
   (SE:風の音)
 
 お琴 :「え? 女の姿が・・・消えた?」

 爺  :「むう・・・。」

   (十蔵は何も言わず、その場を去る)

 お琴 :「爺や、怪我は無いですか?」

 爺  :「はい。あの侍のお陰で、なんとか。」

   (お琴は、慌てて立ち上がり呼び止める)

 お琴 :「あ、あの・・・! お侍様、お待ちになって下さいませ!」

 十蔵 :「ん。もしかして、俺か?」

 お琴 :「はい。私共の命をお救い下さいまして、有難うございました。」

   (お琴が深々と頭を下げる)

 十蔵 :「気にするな。通りすがっただけだ。」

 お琴 :「迷惑である事は重々承知しておりますが。
      どうか、私共にお力添えをしては戴けませんか?」

 爺  :「お琴・・・様?」

 十蔵 :「んむ。」

 爺  :「いけませぬ。確かに、今しがた命を救われたのは事実ではありますが・・・。
      身元も分からぬ者と同行するというのは、賛同出来ませぬ。」 

 十蔵 :「では、失礼する。」

   (十蔵は、きびすを返し道を歩いていった)

 お琴 :「爺や! 何故にあのような事を・・・。命の恩人ですよ?」

 爺  :「はい。確かに命は救われましたが、私には、貴女様をお守りするという使命があります。
      それ故、そう簡単に信用する訳にはいきませぬ。
      もしかしたら、あの侍も襲ってきた賊の仲間かもしれませぬ。」

 お琴 :「爺や! そんな・・・なんて事を。」

 爺  :「お琴様は、少々・・・人を疑うということを学ぶべきです。」

 お琴 :「ですが・・・!」

 爺  :「御自分の立場を理解し、今のような命を狙う輩が居るということを心に刻んで下さいませ。」

 お琴 :「わかりました・・・。」

   (お琴は、納得できない表情をしたまま、納得した振りをする)

 爺  :「とにかく、護衛も失った訳ですから城へ引き返すのが得策でしょうが・・・。
      もう少し進むと宿場町があります。
      日も暮れてきましたので、今宵はそこで宿を見つけることにしましょう。
      その後については、そこで話合うことで宜しいですかな。」

 お琴 :「・・・分かりました。そうしましょう。」

   (お琴と爺は、宿場町を目指す)

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<宿場町:町角(夜)>

 桜花 :「何だって? 宿にあの侍の姿が無いだと!? おい、真面目に調べたんだろーな!」

  (桜花は、引き連れた手下共に大声を上げていた)

 桜花 :「ちっ。あの娘と一緒だったんじゃないのかい。
      あの時、やっちまえば良かったか。面白そうな侍だったんだが・・・。」  

  (宿二階にお琴の影が揺ら揺らと映っている)

 爺  :「お琴様、戸の近くに御立ちになられませぬように。」

 お琴 :「爺や、少し落ち着いてはどうだ?」

 爺  :「落ち着いてなど居られましょうか! お琴様は命を狙われているのですぞ!」

 お琴 :「・・・。事実そうであったな。しかし、私にはその・・・心当たりが無い。」

 爺  :「んん・・・。ともかく、相手の目的が貴女様の命であることは明白でございます。
      十分に御気を付けて下さいますよう。爺からの切なる願い、お聞き入れくだされ。」

 お琴 :「わかりました。ですが、汚れた体を清めに、湯に浸かってまいります。」

 爺  :「お琴様! むう・・・、致し方あるまいか。」 

<旅籠:一階奥の廊下>

    (SE:廊下を歩き、軋む音)

 お琴 :「あ! 貴方は。」

 十蔵 :「ん。」

 お琴 :「先刻に茶屋で助けて頂いた、お侍様ではありませんか?」

 十蔵 :「・・・そうかもしれぬし、そうではないかもしれぬ。」

 お琴 :「そのような事を言って、私を謀(たばか)るおつもりですか?」

 十蔵 :「んむ。」

 お琴 :「”んむ。”では、分かりませぬ。何故、こちらに?」
 
 十蔵 :「ここで遭ったは、偶然であろう。」

 お琴 :「・・・そう、でしたか。私はてっきり・・・」

 十蔵 :「湯に浸かりに行くのでは?」

 お琴 :「そうであった。されば、湯から上がった後、少しお話し出来ませぬか?」

 十蔵 :「話・・・?」

 お琴 :「詳しいことは、その時に話しましょう。では、後程に私共の部屋へ来てくださいませ。」

 十蔵 :「ふむ。」

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<翌日・早朝:宿場町はずれ>

   (夜が明けた早朝。宿場町のはずれに二人の影)

 爺  :「朝靄が酷うございますな。・・・お琴様? いかがなされました?」

 お琴 :「・・・何故、昨晩。あの方は来てくれなんだか。」

 爺  :「爺としては、少し安堵しておりまするが。」

 お琴 :「爺やは、まだあの侍の事を疑っているのですか?」

 爺  :「立場が立場です故、念には念を入れて・・・。」

 お琴 :「私にも人を疑ってかかれと?」

 爺  :「左様でございます。さ、急いで城へ戻りましょう。」

 お琴 :「・・・うむ。」

<宿場町から離れ、城へ向かう>

   (朝もやが立ち込め、視界は悪い)
 
   (SE:砂利の上を歩く音)
 
 お琴 :「爺や。昨日、この道は通っておりませんよね?」

   (木立から不意に現れる桜花)

 桜花 :「やっと来たかい。」

 お琴 :「!! あ、貴女は昨日の!?」

 爺  :「ん・・・。今日はお主一人なのか?」

 桜花 :「ああ・・・。ちょいと、ね。
      だが、小娘一人をくびり殺すにゃアタイ独りで十分さ。」

 爺  :「ふむ・・・。」

 お琴 :「一体、何が望みなのです?!」

 桜花 :「アンタんとこのお姫様は馬鹿なのか?
      こんな頭の悪そうなヤツが生きていたって、何の脅威にもなりゃしないだろうによぉ。」

 爺  :「お琴様、お逃げ下さい。」

 お琴 :「ですが!」

 爺  :「ここは私に任せて、早く城下町へ!」   

 お琴 :「爺やを置いてなど行けませぬ!」

 爺  :「んん・・・。」

 桜花 :「あはははは! 大根役者だねぇ。えー?」

   (SE:風切り音)

   (突然3つの影が桜花の背後に現れる)

 霊刃丸:「何を梃子摺っているんだ。・・・桜花。」

 お琴 :「あっ?!」
  
 桜花 :「アンタかい。何だってこんな所に? 
      この仕事、アタイに任せたんじゃなかったのかい?」

 霊刃丸:「部下はどうした?」

 桜花 :「ああ・・・。そういえば、あの二人は昨日の晩から行方不明さ。」
 
 霊刃丸:「自分の部下の状況くらい把握しておけ。」

   (霊刃丸の背後に独り、昨日まで桜花に付いていた男が居た)

 桜花 :「ん? お前、生きてたのかい。だったらそうとアタイに・・・」

 霊刃丸:「ああ、探ってた旅籠で見ず知らずの侍にやられたと、報告を受けてね。
      そのまま付いてきたんだ。」

 桜花 :「けっ。何がアタイの部下だよ・・・アンタがアタイに付けた監視役だったってことかい。
      ま、いいけどさ。部下とか柄じゃないんでね。」

 お琴 :「爺や、今のうちに!」

 爺  :「・・・・・・。」

 お琴 :「爺や・・・?」

 桜花 :「で、なんでアンタがここへ?」

 霊刃丸:「状況から・・・少し計画を変更しようと思ってね。」
 
 桜花 :「変更?」

 霊刃丸:「長話が過ぎて、大事な主役が戸惑っているじゃないか。さぁ、さっさと任務を遂行しろ、桜花。」

 桜花 :「・・・ああ、そうだね。」
 桜花M:「計画の変更? 何故わざわざこの場に現れたんだ・・・。何かありそうだねぇ。」

   (桜花の視線が、お琴を捕らえる)

 お琴 :「っ、どうして、私を殺そうとするのですか? 何故なんです!?」

 桜花 :「アタイにとっては、忌々しい大河(おおかわ)の娘であり、来栖国の蛆虫だからさ!!」

   (瞬時に間合いを縮めて、のど元に狙いを付け小太刀で一閃)

   (SE:刃物のぶつかる金属音)
 
 桜花 :「!?」

 霊刃丸:「何ヤツ?」

   (刃物をいなし、そのままお琴を抱え大きく距離を取る十蔵)

 桜花 :「はっ! 昨日の優男じゃないか。やっぱり来たね。」

 十蔵 :「ふむ。」

   (十蔵の小脇に抱えられたお琴)

 お琴 :「お前!」

 十蔵 :「”お前”・・・呼ばわりとは。いつの間に。」

   (十蔵は、お琴を地面に下ろす)

 霊刃丸:「そうか、貴様が・・・例の侍か。部下が世話になったそうだな。」

 十蔵 :「世話? したかもしれぬし、してないかもしれぬ。」

 霊刃丸:「ふ。」

 お琴 :「お前、何しに此処へ!? い、いや・・・お願いだ、爺やを助けて下され!」

 十蔵 :「ふむ。話は?」

 お琴 :「話・・・?」

 霊刃丸:「おい、侍。一応・・・訊いておこう。貴様、何故ここに居る?」  

 十蔵 :「何故? ふむ。」

 霊刃丸:「道に迷ったなどと言うならば、来た道を戻るが身の為だ。早々に立ち去るが良い。」

 十蔵 :「昨夜、娘と話をするという約束をした。
      その約束を守る為に、こうして捜し歩いていたのだ。」

 霊刃丸:「戯言を。」

 十蔵 :「ようやく、こうして再会することが出来たのだ。邪険に追い返さずとも良いではないか。」

 霊刃丸:「ふ・・・食えない男だ。また計画変更だ。良いな、清水殿。」

 爺  :「承知した。」

 お琴 :「え!? 爺や・・・一体、どういうこと・・・?」

 十蔵 :「娘さん。俺は、貴女だけは助けよう。
      残念だが、今ここにいるのは全て貴女の敵であるようだ。」

 お琴 :「そ、そんな? 爺やまで?! 嘘! 嘘です、信じられませぬ!」

 爺  :「・・・残念ですが、その侍の言う通りですじゃ。」 

 お琴 :「・・・・そ、そ・・・・。」

 桜花 :「ざまーないね。身内に裏切られてどんな気分だい? あはははは!」

 十蔵 :「昨日、桜花・・・で良かったかな?」

 桜花 :「ああ、アタイの名だよ。それがどうした?」

 十蔵 :「昨日、桜花殿が爺さんを斬り付けた。しかし、アレは撃殺を目的としたものではなかった。」

 桜花 :「・・・。」

   (ゆっくりと霧が発生する)

 霊刃丸:「やはり面倒な男であったか。桜花、殺ってしまえ。」

 桜花 :「ちっ。」

   (桜花が、小太刀を構える)
   (SE:刀を構える)
 
 十蔵 :「そして、桜花殿。貴女は、来栖の忍ではないのか?」

 桜花 :「!?」

 霊刃丸:「・・・ち。余計なことを。」

 桜花 :「さぁね。もし、そうだったとして・・・それが何だって言うんだい?」

 十蔵 :「来栖の忍が、来栖の姫を暗殺しようというのは穏やかではない。」

 桜花 :「胸くそ悪い話を・・・。お喋りはそこまでにしな!!」

   (桜花が十蔵に飛び掛る)
   (霧は、さらに濃さを増してきている)

   (SE:刃物がぶつかる音)


 十蔵 :「しかし、聞いた話の中に来栖の忍の里が強襲を受けたというのがある。」

 桜花 :「知らないね!」

 十蔵 :「知らぬ筈は無い。貴女は、その復讐に加担しているつもりなのだろうが・・・」

 桜花 :「お前に何が分かる!!」

  (体術で攻撃を仕掛ける桜花)
  (SE:攻防する音)

 十蔵 :「貴女は、利用されているに過ぎない。真実は、別にあるの。」

 桜花 :「アンタ・・・その身のこなし。やはり只の侍じゃないな!?」

 十蔵 :「来栖の忍の里を強襲したのは、鴬奏(おうそう)の者だ。
      内乱を誘発させるために仕組まれた・・・計略だ。」

 桜花 :「何故そんなことがアンタに分かる!?」

  (SE:刃物による攻防)

 十蔵 :「情報を収集するのも、忍の仕事だからな。」

 桜花 :「やはり忍か。だが、それでアンタの言う事が正しいとはならないだろう!」

 十蔵 :「確かに。しかし、忍の者がそう簡単に城の侍にやられるものだろうか?
      来栖を治める大河の軍勢が無傷で勝利を収めただろうか?
      その様な事実は無かった。では・・・強襲した軍勢は、どこから現れ、どこへ消えたのか?」
      
 桜花 :「それが、鴬奏からの刺客だったと言うのかい。いろいろと納得いかないね!」

  (再び攻防が始まる)
  (SE:刃物と体術による攻防)

 十蔵 :「話している時間も無い。では、一つだけ重要な情報を伝えよう。」

 桜花 :「ふん。なんだい?」

 十蔵 :「あの霊刃丸という男は、鴬奏の忍だ。」

 桜花 :「っ!? 馬鹿な! そんな筈は無い!」

 十蔵 :「だが、それは事実。そして、襲撃の手引きをしたのもその男である可能性が高い。」

 桜花 :「可能性が高い? そんなんで、アタイを説得しようってのかい? 笑わせる!」

 十蔵 :「信じてもらえぬか・・・。仕方ない。では、手荒いことはしたくなかったのだが。」

 十蔵 :「ふん!」

  (桜花を蹴り飛ばし、距離を取る)
  (SE:地面を滑る音)
  
 桜花 :「くうぅ!」
  
  (十蔵は、素早く印を結ぶ)

  (SE:印を結ぶ音)

  (霧は更に濃く立ち込め、十蔵の姿がその中へ消える)

 桜花 :「しまった! この霧・・・アンタの術かい!?」

  (視界不良で戸惑っている桜花の背後を取る十蔵)

 十蔵 :「しばらく、大人しくしていてもらおう。」

 桜花 :「か・・・体が、痺れ・・・。アンタ・・・何を・・・?」

  (体の自由を奪われた桜花は、その場に倒れる)
  (SE:倒れる音)

  (その上から、十蔵は誰とも分からぬ血を掛ける)

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 お琴 :「どこじゃ? 侍! どこにおる?」

  (濃霧の中から現れる十蔵)

 十蔵 :「静かに。そちらの草むらの陰に隠れていて下され。」

 お琴 :「何がどうなっておるのじゃ・・・。」

 十蔵 :「事が終えたら迎えに来ます故。」

  (瞬時に姿を消す)
 
 お琴 :「消えた・・・。」

  (霧が薄くなり、ぼんやりと人の影が見える)

 霊刃丸:「終わったか? ・・・ち。」(勘付く)

 十蔵 :「桜花殿は、残念ながら・・・。」

  (薄くなる霧、横たわる血まみれの桜花の姿がぼんやり見える)

 霊刃丸:「使えねーヤツだ。」

 十蔵 :「お主、仲間であろう? 同じ来栖の。」

 霊刃丸:「ああ。そうだな。元仲間ってところだ。死人の仲間など、何の役にも立たんからな。」

 十蔵 :「来栖の忍は、皆そのように薄情なのか?
      それとも・・・お主が鴬奏の忍だからなのか?」

 霊刃丸:「・・・。」

 十蔵 :「沈黙は肯定と受け取らせてもらおう。
      爺さんも鴬奏と聞いて何も反応を見せぬとは、やはり事実なのであろう。
      恐らく甘い蜜で誘惑され間者となったのだろうが・・国や仲間、そして一国の姫君を裏切るとは。」

 爺  :「ふん。青二才に諭される謂れは無いわ。」

 霊刃丸:「ち、馬鹿が。余計なことを。」

 十蔵 :「爺さん、それは裏切りを認めるということか?」

 爺  :「来栖の領土を守るためには、必要なことなんじゃ。儂は」

   (SE:刀で斬る音)

 爺  :「ぐあぁっ!? な・・・なに・・・を。」

   (爺は、血飛沫を撒き散らし倒れた)
   (SE:倒れる音)

 霊刃丸:「年寄りは喋り好きで困る。」

 十蔵 :「やはり、来栖の忍の里を強襲したのは鴬奏の人間だったのだな。」

 霊刃丸:「あーぁ、もういいや! あの女も死んだ事だし、芝居をする必要もないか。」

 十蔵 :「襲撃の手引きをしたのは、お主だな?」

 霊刃丸:「はいはい。そーですよー。俺が上手いことやったんだ!
      ったく、あんなもん仲間のフリして長々潜入せずとも・・・一気にやっちまえば良かったんだ。
      生き残った忍も残すとこ数十匹。今回のが終われば、一掃して古巣に帰るってね。」

 十蔵 :「非道とは言わぬ。我等は、それと同じ様な事を繰り返してきたのだから。」

 霊刃丸:「ああ、そうだよな! なのに、なんでそんな話をしたんだ? 意味がわからねーな。」

   (のそりと身を起こす桜花)

 桜花 :「・・・ふ。」

 霊刃丸:「何ぃ!? ・・・桜花・・・お前。」

 桜花 :「は、はは・・・はははははは!」

 霊刃丸:「・・・っ。」

 桜花 :「てめぇ、そんな喋り方もするんだなぁ。おい!霊刃丸!!」

 霊刃丸:「聴かれた・・・か。ち、仕方ねぇなぁ。」

 桜花 :「まんまと騙されてたよ! 
      そうかい、なるほどな。人格を装って、里の仲間から信頼を得ようとしてた訳かい。」

 霊刃丸:「んぁ〜ちょっと違うなぁ。俺は、信頼を”得た”んだよ。あの馬鹿共の、よ。くくく!
      あぁあ、ちょいと終わりが近づいたもんで気が緩んじまったか。
      だが、これはこれで気が晴れた。」

 桜花 :「この野郎、絶対許さねぇ!
      信じたまま、手前ぇを守りながら死んでいった奴等も沢山居ただろうが!」

 霊刃丸:「そうだなぁー。必死になって俺を助けようとしてたぜ。
      ・・・笑いを堪えるのが大変だったけどな。くくく、ははは!
      無防備の背中から殺っちまっても良かったんだがよ。
      折角得た信頼だ。思う存分味わわせてもらったよ。
      俺だって大変だったんだ、笑いを堪えるのにな!
      偉いよなぁー俺って。そう思うだろ? なぁ?」

 桜花 :「この糞野郎が!! 仲間達の無念。今ここで晴らす!!」

 霊刃丸:「へへっ、いいぜ。だが、俺に勝てるのか?」

 桜花 :「来栖の忍を舐めるな!!」

   (瞬時に飛び掛り攻防が始まる)
   (SE:地面を蹴る音)
   (SE:交わる刀の音)

   (加勢しようと身構えた二人の部下に対峙する十蔵)

 十蔵 :「戦いの邪魔をするな。部下であるお主等は・・・私が相手をしよう。」

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 霊刃丸:「ふん。はっ!」

 桜花 :「ちぃ!」

   (SE:体術の交わる音)

 霊刃丸:「さっきの威勢はどうしたんだ? ん?」

 桜花 :「くぅぅ。はっ!」

   (SE:空振りの音)

   (距離を取る霊刃丸)

 霊刃丸:「やっぱ、大した事無いなぁ。来栖の忍はどいつもこいつも弱ぇえ弱ぇえ。」

 桜花 :「ほざけ!」

 霊刃丸:「ってか、遊んでる暇ねーんだよ。さっさと小娘殺して・・・。
      あ。しまったな。爺ぃ殺しちまったんだ。城の内通者の代わりを立てねばな。」


 桜花 :「それも来栖国の内乱を激化させるためか?」

 霊刃丸:「お前が知る必要は無い。元々の計画でも、お前は死ぬ筋書きなのだからな。」

 桜花 :「なんだって!?」

 霊刃丸:「話は終わりだ。さぁ、自分のために念仏でも唱えるがいい!」

 桜花 :「ふざけるな!」

   (SE:印を結ぶ音)

   (複数の桜の花びらが舞い飛ぶ)

 霊刃丸:「桜の花びら・・・術か。だが、お前の術は知っている。」

 桜花 :「貴様自身が術に掛かるのは初めてだろう?」

 霊刃丸:「ふ。そこだぁ!!」

   (1枚の桜の花びらを真っ二つに切り裂いた)
   (SE:空振りの音)

 桜花 :「どこを見ている! すぁっ!」

   (霊刃丸の右横から桜花の水平斬り)
   (SE:斬撃音)

 霊刃丸:「なにぃ!? 右・・・ぬぁ゛!!」

   (霊刃丸は、無理やり身を捩り致命傷を回避する)
   (SE:跳躍音→着地音)

   (二人の間に距離ができる)

 霊刃丸:「ちくしょぅ。油断したぜ。お前が使うのは、幻術の類だ。
      これは恐らく・・・変わり身と方向感覚を麻痺させる何かだ・・・そうだろう?」

 桜花 :「ふん。分からぬまま地獄へ逝け!」

   (SE:苦無が飛ぶ)

 霊刃丸:「幻覚だろうが、全て弾き返せば良いだけの話!!」

   (SE:苦無を弾き飛ばす)

   (SE:背後から苦無が刺さる)

 霊刃丸:「ぐっぁ!? な、なに・・・背後から苦無だと?」

 桜花 :「口ばっかりじゃないか。所詮、奸知(かんち)にたけただけの忍か。」

   (霊刃丸は、背後に刺さった苦無を抜きながら)

 霊刃丸:「言ってくれるじゃねーか。っく! 見せてやるよ。」

   (SE:印を結ぶ音)

 霊刃丸:「是が俺の術だ! さあ、交わせるか!?」
  
   (腰に装備している小太刀に右手を回し、抜く)
   (SE:柄を握る音)

 桜花 :「なんの冗談だい? 刀身の無い柄(つか)だけを持ってどうするってんだ。」

 霊刃丸:「こうするのさ・・・!」

   (柄だけを握り素早く袈裟切りの動作で振り切る)

   (SE:斬られる音)

 桜花 :「んなっ!? 馬鹿な・・・斬られた?」

 霊刃丸:「くくく。死んだ人間の怨霊を目に見えぬ刃と化し、貴様を切り刻むんだ!」

 桜花 :「ふ、ふざけたことを言うな!」

 霊刃丸:「そう思うなら、その身で知るがいい。おらおらおら!!」

   (柄を振り回し、見えない刃で空を斬りながら桜花へ迫る)

 桜花 :「く! あっ! くそ・・・!」
 桜花M:「どうすればいいんだ? 刀身がないから、弾くことも防御することも出来ないじゃないか!」

   (その度に、桜花の様々な場所に切り傷が現れる)

   (SE:飛び退く音)

 桜花 :「へ、これだけの間合いがあればその自慢の刀も届くまい。」

 霊刃丸:「・・・ふ。どうかな? はぁ!!」

   (霊刃丸が大きく振りかぶり、斬り降ろす)

   (SE:斬れる音)

 桜花 :「!? 馬鹿な! この距離で、どうやって!?」

 霊刃丸:「この刀に、距離など関係ない。」

 桜花 :「・・・それなら!」
  
   (SE:印を結ぶ音)

   (無数の花びらが空中をひらひらと舞う)

 桜花 :「散華乃桜(さんげのさくら)!」

 霊刃丸:「!! なんだこの無数の桜は!? くそぅ、視界が・・・!」

   (無数の桜で視界を遮り、その陰を移動する)

 桜花 :「もらった!」

 霊刃丸:「ちっ!」

   (SE:斬る音)

 桜花 :「くそっ! 浅いか!」

 霊刃丸:「この野鼠が・・・ちょこまかと!」

 桜花 :「ふん、アタイを捉えることは出来ないよ。」

 霊刃丸:「面倒だ、花びらごと叩っ斬ればいいだけの話! はぁ!」

   (柄を横一文字に振り切る)
   (SE:斬撃音)
   (広範囲で遠距離まで斬撃が飛ぶ)

 桜花 :「し、しまった! 脚を・・・!」

 霊刃丸:「くくく。他愛の無い術だなぁ。たったの一撃でこの様か。
      散っていった桜の花びらの様に・・・お前も散り行け。」

   (柄を握りなおす霊刃丸)
   (SE:柄を握る音)

 桜花 :「ちっ! だが、一人では逝かぬ!!」

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 霊刃丸:「地獄にいる仲間を待たせるな。お前もさっさと逝け!」

   (SE:腕を掴む音)

 霊刃丸:「っ!?」

 十蔵 :「それは違うな。お前を待っているんだよ、彼等は。」

 霊刃丸:「い、いつの間に俺の後ろを!?」

   (腕を払いのけ、跳躍して距離を取る)
   (SE:跳躍の音)

 十蔵 :「大丈夫か?」

 桜花 :「ふん。余計な事を・・・。」

 十蔵 :「そうか。それは悪いことをした。」

 桜花 :「・・・ち。アンタ、一体何者なんだい? 
      忍ったっていろいろ居るが・・・そうだとしても、アンタは普通じゃない。」
  
 十蔵 :「話は後だ。まずは、奴をなんとかしなくてはな。」

 桜花 :「それはそうかもしれないが・・・どうしてアンタがここまで首を突っ込む必要があるんだい!?」

 十蔵 :「それも、後程。」 

 桜花 :「分かったよ。じゃあ、早く終わらせるとしよう。」

 十蔵 :「んむ。」

   (辺りに再び霧が立ち込める)

 霊刃丸:「嘗めやがって! 今は少し油断しただけだ! 二度と背後は取らせ」

 十蔵 :「背後がどうした?」

   (瞬く間に、霊刃丸の背後を取っていた十蔵)

 霊刃丸:「ひぃっ!!? な、なんだ・・・てめぇは!? 今、何をしやがった!?」

 十蔵 :「何かをしたかもしれぬし、何もしていないかもしれぬ。」 

 霊刃丸:「死ね!!」

   (間近の十蔵を横一文字で斬りつける)
   (しかし、柄を振り切った時すでに十蔵は消えていた)

 霊刃丸:「っ!!?」

   (さらに背後に位置する十蔵)

 十蔵 :「私なら、此方だ。」

   (慌てて飛びのく霊刃丸)
   (SE:跳躍音)

 霊刃丸:「ふ、ふざけるな!! お前・・・何者だ?!
      有り得ない・・・早すぎる。気配すら感じないなど、有り得ない!」

 十蔵 :「んむ。」

 霊刃丸:「は、あはははは! そうか、そうだったか。幻術だな!
      お前も幻術使いだな! それなら、気配が無いのは当たり前だ!
      朝靄がいつの間にか朝霧へ変わっていたのは・・・お前の仕業だったのか。」

 十蔵 :「そうかもしれぬし、そうではないかもしれぬ。」

 霊刃丸:「ほざけ! しらばくれても無駄だ。あの女と同じ目に合わせてやるさ。
      まったく、澄ました顔をして厭らしい術を使う奴だ。」

 十蔵 :「否定はせぬが・・・お主に言われるのは少々心外であるのだが。」

 霊刃丸:「そうと分かれば・・・!」

 十蔵 :「分かれば、如何するというのだ?」

   (音も無く霊刃丸の背後から十蔵の声)

 霊刃丸:「ふっ、まやかしだ! 背後を取ったと思わせるだけで芸が無い。
      一瞬でも気配を臭わせてみろ・・・その時がお前の最期だ!」

 十蔵 :「では、参る。」

   (呟いた背後の十蔵。と同時に霊刃丸の右脇に激痛が走る)
   (SE:骨の折れる音)

 霊刃丸:「っがぁぁぁ!!? 馬鹿な!! 何故、幻が・・・俺に触れられるんだ!?」

 十蔵 :「幻と決め付けたのはお主だ。」

 霊刃丸:「だが! しかし! 気配をまったく感じなかった!
      いくら忍と言えど、呼吸は止められても、拍動を止められる訳が無い!
      なんだ・・・なんなんだお前は!?」

 十蔵 :「虚は実を生み。実は虚を生む。お主の心もこの霧に迷っておるのだ。」

 霊刃丸:「それならば・・・迷った心もお主の幻影も、全て斬り捨てるまでぇぇ!!! おあぁぁ!!」

   (この時既に、幻術の檻に捉えられている霊刃丸)  

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 桜花 :「終わったのか?」

 十蔵 :「そうかもしれぬし、そうではないかもしれぬ。」

 桜花 :「まったく、結局アンタ一人で片付けちまったな。アタイの気持ちはどうすればいいのさ。」

 十蔵 :「だから言ったであろう。終わったかもしれぬし、終わってないかもしれぬ。」

 桜花 :「・・・あの男を倒したところで、何も終わりはしないって言いたいのかい?」

 十蔵 :「そうかもしれぬし・・・」

 桜花 :「あーもう、分かったよ。面倒な男だねぇ。」

 お琴 :「お前! いつになったら私を迎えに来るつもりじゃ?」

 十蔵 :「今、向かう所であったのだが。」

 お琴 :「遅い! ・・・それで、一体どうなったのじゃ? 爺やは何処に?」

   (霧が再び濃くなる)

 十蔵 :「もう、この世にはおりませぬ。」

 お琴 :「っ! 何故じゃ? 何故、爺やは・・・。」

 十蔵 :「気持ちは察するに余りあるが、今は此処を離れよう。少々景観を損ねてしまった。」

 お琴 :「景観も何も、霧で何も見えぬではないか。」

 十蔵 :「んむ。」

 桜花 :「見えない方が良い景色もある・・・と十蔵は言いたいらしいぞ。」

 お琴 :「・・・なんじゃそれは?」

 桜花 :「分からないなら、それでいいんじゃないか。」  

 十蔵 :「とにかく、城へ向かうとしよう。」

   (道を行く三つの人影)

 桜花 :「ところで、霊刃丸の術は本当に怨霊を呼び寄せたのだろうか?」

 十蔵 :「あれは、奴の法螺だ。」

 桜花 :「なんだって? じゃあ、あれは一体?」

 十蔵 :「奴が操っていたのは風だ。近距離での戦闘が苦手な奴は、得体の知れない力を誇示し
      常に距離を保ちつつ相手を消耗させる戦術を得意としていたのだろう。」

 桜花 :「くそっ! まんまと騙された・・・。」

 十蔵 :「・・・仕事を変えたほうがいいのではないか?」

 桜花 :「はぁ? いいんだよ。アタイは真っ正直に生きてんだ!」

 十蔵 :「そうか。」

 桜花 :「それより、アンタ。あの場に居合わせたのは偶然かい? それとも・・・」

 十蔵 :「姫を城へ送った後でな。」

 お琴 :「何故、私が姫であると分かったのだ?」

 桜花 :「どうみたって町民には見えないだろ。」

 お琴 :「そんなはずはない。町娘を装って花見に行くところだったのだ。爺やがこれならばと・・・。」

 桜花 :「ふぅ・・・。城の護衛をつけて花見に行く町娘がそうそういるものか。」

 お琴 :「むう。そう言われると・・・。あ、霧が晴れた。」

   (霧が晴れると目の前に綺麗な桜の木があった)

 桜花 :「桜か。」

 お琴 :「綺麗。」

 十蔵 :「んむ。」

 桜花 :「粋なことするねぇ。
      アンタには、姫さんを届けた後いろいろと訊くことがあるんだ、逃げるんじゃないよ?」

 十蔵 :「逃げるかもしれぬし・・・」

 桜花 :「そうはさせないよ!」  

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<終劇>

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※結果、桜花は内面で重責を抱えることになる。表には出さないが。
 桜花は姫を襲っているが、最後の再会で姫のリアクションが無いのは書ききれてない;
 姫は器がデカイのであるw この姫は将来大事なポストに位置する人物。
 変なところは多々ありますが、ノリ台本で失礼します。

(2010- 7- 1up)