−声劇用台本−


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■タイトル

  夜猫(やびょう)−前編−

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■ジャンル

  ???

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■登場人物
  夜猫(やびょう)(♀):化け猫。恨みの力で人の姿に変われる。
  与助(よすけ) (♂):夜猫に恨まれてる男。
  小梅(こうめ) (♀):夜猫が恨みを持った夜に居た女。
  大助(だいすけ)(♂):与助の兄。金遣いも性格も荒い。

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■配役
  夜猫(♀)(L19):
  屋猫(♂)(L09):
  男 (♂)(L10):
  女 (♀)(L10):
  N (両)(L--):

  ※L**:セリフ数
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■台本

  むかしむかし。
 それはもう、本当に昔の話。

 ある所に一匹の黒猫がいました。
 猫は気ままと言いますが、まさしく風の向くまま気の向くまま。
 ふらりとその町に現れました。

 数日の間、町中をふらふらと歩いている姿を見かけました。
 あっちに居たかと思えば、こっちに居る。
 神出鬼没の黒猫は、町で少し話題になっていました。

 この町にも猫は住んでいて、猫が珍しいというわけでは無いが
 目を引くのは、やはりその体の毛色のせいでしょうか。

 猫には、特別な力があると伝えられてきました。
 この町でもそれは俗信・迷信などと、よく井戸端では話題に上がったりもしました。
 しかし、今ではすっかり常識として浸透していたのです。

 棺桶の上を飛び越えると、亡骸が起き上がる。
 長生きし年老いた猫は、妖怪に変化する。
 
 『火車(かしゃ)』、『猫又』、『猫女』、『猫娘』、『七尾の怪猫(かいびょう)』
 猫にまつわる妖怪話はたくさん語られてきました。
 まことしやかに囁かれる猫の妖力をどことなく信じていない様子の町民達。
 怪談話と高をくくっているのでした。
 

 だが、町に現れたこの猫は、その妖力を持ち合わせていました。


 人への憎しみ、恨み辛みがその力の源となる。 
 
 そのような恐ろしい力を持っているとは思えぬほど
 黒猫はとても痩せ細り、今にも倒れそうなほど弱っていました。



  夜猫「はぁ・・・。やっと落ち着けそうな寝床は見つかったけど・・・。」
 
  屋猫「おう。おめーここん所、この辺をうろついている黒猫だな。」

  夜猫「黒猫なんて他にもいるでしょ?」

  屋猫「ふん。生意気な奴だな。」

  夜猫「図太くなきゃ生きて行けないんだよ。」 
 
  屋猫「・・・かもしれねぇな。」


 どうやら長旅をしてきた上に、しばらく食事にありつけていないようでした。
 黒猫の毛色に魅了される人間も居ます。しかし、この町ではつい最近、
 黒猫が関わる悪いことが起きてしまいました。
 もちろんそれは、人間の勘違いだったわけですが、人間にとっての真相は
 黒猫の妖力ということになっているのです。



  屋猫「最近、この町であったあの件は、アンタかい?」

  夜猫「あの件? なんのことか分からないね。」
 
  屋猫「そうか・・・。それはすまなかったな。」
 
  夜猫「気にしてやしないよ。」

  屋猫「アンタは・・・。」

  夜猫「アタイの名は、『夜猫(やびょう)』さ。
     夜の猫でやびょう。アタイが自分で付けた訳じゃないよ。」

  屋猫「夜猫か。夜のような色をしている猫か?」

  夜猫「さぁね。でも、そんなところじゃないかい?」

  屋猫「オレっちの名は、屋猫(やねこ)だ。」

  夜猫「屋猫・・・いつも屋根の上で寝てるのかい?」

  屋猫「ふふ。当たりだ。オレっちも自分で付けた訳じゃないからな。」

  夜猫「いい名じゃないかい。」

  屋猫「そうかい? そう言ってくれたのは、アンタが・・・いや、夜猫が初めてだ。」


 少し話し込んだ二匹は、町のど真ん中を反対方向へ別れていきました。
 どことなく活気の無い町。
 
 
  夜猫「前に居た町は、もう少し活気があったねぇ。
     魚屋が走り回ってたから、盗ったりも出来たんだけど・・・。」 


 少し後悔交じりの表情で町の通りをじっと眺めていました。
 陽はすっかり傾き、赤い光と長い影が町を覆います。
 夜猫の頭の上を、自分と同じ色のカラスが鳴きながら飛んでいく。 


  夜猫「・・・空か。アタイも飛べればね。」


 昨日よりもさらに衰弱していました。
 その日は、寝床にまでたどり着ける体力も残ってなく。
 通りの直ぐ角で、その場にへたり込んでしまいました。


  夜猫「・・・はぁ。これまでか。」


 ゆっくりと目を瞑り、夜猫には一足先の夜がやってきました。
 まぶたの裏。目に映っているのは闇。自分の色。


  夜猫「アタイは、本当にこんな色をしているんだろうか。
    周りの人間や生き物は、夜や闇のようだというが・・・。
    アタイは、アタイを見たことが無い・・・。」



 町も夜気に包まれ、辺りは静まり返っています。
 
 ザ・・・ザザ・・・ザ・・・ザ 

 不規則な足音が遠くから近づいてきました。
 落ち着きの無いその足音と、もう一つ歩幅の小さい足音が聞こえます。
 どうやら二人いるようです。

 
  夜猫「・・・。」


 夜猫は、聞き耳を立てたが目は瞑ったままでじっとしています。
 時折男の怒鳴る声。波打ったように声の大きさが変わり
 それと重なるように聞こえてくる女の声。
 どうやら、酔っ払った男と女が通りを歩いて来るようでした。


  男 「あー!? うるせーんだよ・・・酒飲んだっていいだろーが!」
 
  女 「飲むのはいいけど、飲みすぎは身体に良くないって言ってるのよ!」

  男 「うるせーなぁー。」

  女 「私は貴方のことが心配で言ってるのよ。」


  夜猫「また馬鹿な人間か。」


 夜猫は、少し興味を持ったのか鋭い目つきで男の顔を見る。
 闇に光る二つの眼光に男はたじろぎました。

 
  男 「うおっ!」
 
  女 「きゃっ! 何?」

  男 「・・・なんだよ。猫じゃねーか。」
 
  女 「え? やだ、黒猫・・・。」


 月明かりが丁度男の顔を照らして見せると
 顔は紅潮し、その表情と仕草で容易に分かるほど泥酔していました。


  男 「びっくりさせやがってぇ。」

  女 「ねぇ、行きましょう。」

  男 「あ? なんだよ、小梅。怖いのか?」

  女 「いいから、行きましょうよ。」

  男 「はぁーん。黒猫ってだけだろーが。」

  女 「やめときなよ。良くない事が起きるからさ。」

  男 「起きねーよ。あんなもん只の噂だろ。」

  女 「ちょっと、ちょっと何する気なのさ?」
 
  男 「おらぁ!!」
 
  夜猫「ギャッ!!!」


 男は酔った勢いで夜猫を思い切り蹴り飛ばしました。
 思わず上げた猫の悲鳴で、女は身を強張らせます。

  女 「いやだ!」

  男 「あーっはっはっは!」

  女 「ほら、もう行こうよ!」


 男は笑いながら女に引きずられるように、夜の闇へと消えていきました。


  夜猫「・・・う。」


 月の光も届かない道端から、低いうめき声が聞こえてきました。
 何尺も吹き飛んだ夜猫は、身を重そうに起こす。
 しかし、その眼光はさらに怪しい光を増していたのです。


  夜猫「ふ、ふふ。この痛み・・・ありがたいねぇ。
     すっかりと弱りきって、心まで弱っていたが・・・
     今ので目が覚めたようだよ。」


 弱々しく震えていたはずの夜猫の身体に、
 妖力がみるみると満ちていくのがわかりました。


  夜猫「やっぱり、アタイは化け猫なのさ。」


 そう言い漏らすと、静かな闇の中へと溶け込むように消えてしまいました。
 

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<中編へつづく