−声劇用台本− ====================================================================== ■タイトル 夜猫(やびょう)−中編− ====================================================================== ■ジャンル ??? ====================================================================== ■登場人物 夜猫(やびょう)(♀):化け猫。恨みの力で人の姿に変われる。 与助(よすけ) (♂):夜猫に恨まれてる男。 小梅(こうめ) (♀):夜猫が恨みを持った夜に居た女。 大助(だいすけ)(♂):与助の兄。金遣いも性格も荒い。 ====================================================================== ■配役 与助(♂)(L38): 夜猫(♀)(L46): 小梅(♀)(L 8): N (両)(L--): ※L**:セリフ数 ====================================================================== ■台本 むかしむかし。 それはもう、本当に昔の話。 ある所に夜猫(やびょう)という一匹の黒猫がいました。 ある日の晩のこと。 弱りきった体を横たえていた夜猫は、酔った男に蹴り飛ばされた。 その痛みと恨みから夜猫は妖力を強くし、男への復讐を果たすために 夜の闇に消えていった。 夜猫「与助・・・。それが、あ奴の名か。」 戸を叩く音が聞こえる。 与助は、戸の前まで行くと声をかけた。 与助「どちらさま?」 夜猫「夜分に御免くださいませ。」 与助「何用ですか?」 夜猫「此方(こちら)に、私の姉が居ると言われて伺ったのですが。」 与助「姉?」 夜猫「はい。」 与助は、思い掛けぬ訪問者と思いもよらぬ答えに眉をひそめるものの、 気が付いたときには戸を開け、夜の訪問者と眼を合わせていた。 与助「わざわざおいで下さった処、申し訳ないが。 その様な人物は、ここには居りません。」 夜猫「それは真(まこと)で御座いましょうか?」 与助「真も真。私には、まったく心当たりがない。」 夜猫「そうですか。それは弱りました・・・。」 与助「・・・何か困り事でも?」 夜猫「ええ。実は、姉とは離れて住んでおりまして。」 与助「ふむ。」 夜猫「手紙で、この町に住むことになったから、 困ったことがあったら何時でも訪ねて来なさいと・・・。」 与助「なるほど。」 夜猫「この町には、姉の他に頼れる人もおりませんで。」 与助「・・・とりあえず、上がりなよ。」 夜猫「・・・・・・。」 与助「当てが無いんだろう。こんな処で良ければ、今夜は泊まっていきな。」 夜猫「・・・有り難う御座います。」 与助「あんた、名前は?」 夜猫「・・・ありません。」 与助「無い? それは面白い事を言う。」 夜猫「お好きな名で呼んで下さって結構です。」 与助「そうか。では、華(はな)と呼ぼう。」 夜猫「はな?」 与助「そう、華だ。」 夜猫「何故、その様な名を?」 与助「私は、正直驚いてる。」 夜猫「何に・・・ですか?」 与助「あんたの美しさにだ。」 夜猫「私の・・・。」 与助「そうさ。戸を開けたら、まるで華の様に美しい人が立っているじゃないか。」 夜猫「その様な言葉。私には勿体(もったい)のうございます。」 与助「そう言うな。世辞ではない。」 夜猫「・・・・・・。」 与助「おっと、すまない。茶の一つも出さずに。」 夜猫「どうぞ、お構いなく。」 与助「町までどの位歩いてきたんだ?」 夜猫「峠を二つほど。」 与助「そりゃあ疲れたろう。」 夜猫「ええ、少し。」 与助「この町は山に囲まれているからな。女の足では辛かっただろうに。」 夜猫「一晩休めば、疲れも取れると思いますので。」 与助「よし。飯の準備をしてる間。風呂に浸かるといい。」 夜猫「そんな。泊めて貰えるだけで十分です。」 与助「そう言わずに。」 あの夜の男とは思えないほど、与助は優しく。 そんな様子に夜猫は少し戸惑っていた。 与助の勧めを断りきれず、風呂に入った夜猫は湯の中で考え事をしていました。 夜猫「あの顔は間違い無い。あの夜の男に間違いは無い。 何とか言いくるめ、ここに居座って機会を窺(うかが)うとしよう。」 その晩から夜猫は華という名の女として、与助の所に居座ることにしたのです。 明けた次の日。夜猫は挫いた足が痛むと言い、ほとんど外にも出ず 土間で一日中転寝を繰り返していました。 その様な生活がしばらく続き、半月が経った頃です。 与助「華。足の方は、もう大丈夫なのか?」 夜猫「はい。すっかり良くなりました。」 与助「そうか。それは良かったな。」 夜猫「長い間お世話になりました。」 与助「気にすることは無い。」 夜猫「もし、与助が許してくれるなら・・・。」 与助「なんだ?」 夜猫「このまま与助と暮らしたいと思っています。」 与助「え?」 夜猫「私が受けた恩を返せるなら、与助の為に生きてゆきたい。」 与助「華・・・。」 夜猫「私は、貴方の傍に居たい。」 与助「・・・俺も、お前と一緒に居られるなら幸せだ。」 夜猫は、こうして与助と共に暮らすことになったのです。 しかしそれは、夜猫にとって画策していた復讐が 思い通りに進んでいなかったことを表わしていました。 与助「華。ちょっと出てくる。」 夜猫「はい。気を付けていってらっしゃいまし。」 与助が家を空けてすぐに、一人の女が訪れた。 小梅「与助ー?」 夜猫「・・・はい。何か?」 小梅「あんた誰? 与助は?」 夜猫「与助は出掛けております。」 小梅「そう。・・・それで、あんたは誰なの?」 夜猫は、この女の顔に見覚えがありました。 そうです。あの夜、与助と一緒に居た女。 夜猫が与助の所に居座って一月が経とうとしていた頃です。 夜猫「私は・・・与助の妻です。」 小梅「え?」 夜猫「与助は、私の大切な人です。」 小梅「そう・・・。あの人ったら、いつの間に。」 夜猫は、与助と女の間を引き裂くことを復讐の一つに挙げていたのです。 今まで素性の分からなかった女とやっと出会うことが出来て 夜猫は、小さく微笑んでいました。 夜猫「だから、あの人に会うのは止めて下さい。」 小梅「・・・。あんたそんなに与助の事が好きなのかい。」 夜猫「はい。」 小梅「ふーん。私は小梅ってんだ、宜しくね。」 夜猫「え?」 小梅「またいつか会うことになると思うからさ。」 夜猫「・・・・・・。」 与助は夕刻に帰ってきました。 夜猫は、昼間に小梅が来たことを与助には話しません。 与助「華。土産だ。」 夜猫「櫛(くし)・・・。綺麗。」 与助「気に入ってくれたか?」 夜猫「ええ、とっても。ありがとう与助。」 与助も小梅の話は一切したことがありません。 それどころか、与助が家を空けた日に何度か猫の姿で後を付けても 小梅と会っている気配はまったく無いのです。 与助は仕事に出ても、終わればそのまま家へ帰ってくるし 休みの日だって、遊びに出掛けることも無い。 与助「今日は天気がいいな。魚でも釣りに行こうか?」 夜猫「はい。じゃあ、急いでにぎり飯を作りますね。」 夜猫は、すっかりと与助との生活に馴染んでいました。 一緒にいれば飯に困ることも無い。寝床に困ることも無い。 いつしか、与助への恨みの念は段々と薄れていました。 夜猫「あの顔は間違い無い。あの夜の男に間違いは無い。」 夜猫は、あの夜の出来事を。恨みの念を無くさない様、湯に浸かる度 そう念じることを忘れませんでした。 しかし、そんなある日のこと。 与助「は、華!」 夜猫「・・・与助・・・。」 与助「大丈夫か? どこか具合でも悪いのか?」 夜猫「大丈夫。」 与助「いや、今日は大人しく寝ていた方が良い。」 突然、夜猫が力なく倒れてしまったのです。 与助を恨む気持ちが無くなりつつありました。 恨みが消えれば、夜猫の妖力も消えてしまいます。 どんなにあの夜のことを恨んでいたとしても。 どんなに痛みを思い出して怒りを誘い出そうとしても。 笑っている与助。優しい与助。見守ってくれる与助。 毎日そんな温かい与助に直に触れている夜猫は、 もうあの夜の与助を恨むことは出来なくなっていました。 ====================================================================== <後編へつづく>