−声劇用台本− ====================================================================== ■タイトル 夜猫(やびょう)−後編− ====================================================================== ■ジャンル ??? ====================================================================== ■登場人物 夜猫(やびょう)(♀):化け猫。恨みの力で人の姿に変われる。 与助(よすけ) (♂):夜猫に恨まれてる男。 小梅(こうめ) (♀):夜猫が恨みを持った夜に居た女。 大助(だいすけ)(♂):与助の兄。金遣いも性格も荒い。 ====================================================================== ■配役 与助(♂)(L27): 夜猫(♀)(L01):被り推奨 大助(♂)(L04): 小梅(♀)(L03):被り推奨 役人(♂)(L13): 丁稚(♂)(L15): N (両)(L40): ※L**:セリフ数 ====================================================================== ■台本 むかしむかし。 それはもう、本当に昔の話。 ある所に夜猫(やびょう)という一匹の黒猫がいました。 ある日の晩、泥酔した男に虐げられた夜猫は復讐を果たすため 旅人を装い、身分を隠し、男の家に居座ることにしました。 与助:「華。大丈夫か? すごい汗だ。」 夜猫は、もう声にもならない呻き声を出すだけで精一杯でした。 次々と浮かび上がる汗を拭いながら心配そうに看病をしています。 声は出ずとも、夜猫の顔を見れば与助にはその気持ちが伝わるようです。 与助:「気に病まず、ゆっくり休んでくれ。」 夜猫は、与助への恨みの念が有るからこそ、人の姿でいられるのです。 しかし、日々の暮らしで募った与助への想いがその力を奪っていました。 残り少ない妖力を振り絞り、なんとか人の姿を保っていたのです。 大助:「与助ぇー!」 与助:「大助?どうしたんだ、こんな夜更けに。」 小梅:「与助ー。」 与助:「小梅まで・・・。ん、酒臭い。」 大助:「与助ー久しぶりだな。」 与助:「久しぶりに現れたと思ったら、また酒を飲んでいるのか。」 大助:「悪いんだけどよぉーちぃーとばっかし金貸してくれねーか?」 与助:「またか。酒に変わるのが分かってて貸す訳がないだろう。」 小梅:「与助ー、家族じゃないかー。」 大助:「そうだ。お前の大切な兄だぞ、俺は。」 与助:「小梅は家族じゃないし、こんな体たらくな男を兄とは思いたくないよ。」 寝入っていた夜猫が寝床で目を覚ました。 少し開いていた襖の間から騒がしい玄関先を覗き見る。 夜猫の目に入ったのは、二人の与助だった。 小梅:「そう言えば、あの女は寝ているのかい?」 与助:「女?華のことか。小梅、華に会ったことがあるのか?」 あの恨みの晩に、夜猫が与助の女と思っていた小梅です。 夜猫の中で全てが納得いきました。 日を重ねるにつれ、薄れゆく与作への恨みを必死につなぎながら暮らしてきた。 恨むことに苦しみを覚えながらも、それでも恨むことに執着してきた。 しかし、夜猫はこの時、心底安堵した。 そして、その自分の気持ちに戸惑いながらも確信してしまったのです。 与助への愛情を。 −そして夜が明けて。 与助:「・・・! 華! 華!?」 目覚めた与助が目にしたのは、空(から)の寝床でした。 与助:「どこに行ったんだ? 華! 華!」 家の周りにも華の姿は見当たりませんでした。 着の身着のままで与助は町を駆けずり回ったのですが、どこにも居ません。 日も暮れて、憔悴しきった与助は家へと帰ってきました。 土間に座りこみ、弱々しい呼吸をただただ続けているだけ。 時折こぼす名前。華。 目を瞑り、眉間にしわを寄せながら思いを巡らせていました。 与助:「ん?」 部屋の中から、何かこもった音が聞こえた気がしました。 ふと息を止めて耳を澄まします。 与助:「・・・猫?」 それは、部屋の奥から聞こえる猫の鳴き声でした。 ふらふらと声を辿って行くと、寝床に置き去られた華の着物の上に、 一匹の黒猫が居たのです。 与助:「黒猫・・・。」 弱々しく泣いている黒猫にゆっくりと近づき、優しく撫でました。 与助は不思議でした。撫でていると何故か自分の心が安らいでいくのです。 与助:「華。もう少し待っててくれ。すぐ飯にするからな。」 華が居なくなってからどの位の時間が経ったでしょうか。 与助は、黒猫と共に暮らしていました。 寝起きを共にし、仕事に行く時も一緒。 町の人達は、黒猫を見て様々な言葉を投げかけてきますが 与助は意に介すことも無く。時に悲しい表情を見せることもありますが それでも、華が帰って来る事を信じて日々を暮らしていました。 与助:「華。もう冬だな。天気はいいが、今日も寒くなりそうだ。」 寒さを増した隙間風に身を縮ませながら、与作は優しく話しかけました。 しかし、誰も答えてはくれませんでした。 黒猫の華もいつの間にか姿が見えなくなっていたのです。 失意で大きく肩を落とした与助の姿が土間ありました。 そんな姿を見た町の人々は、いたたまれなくなり代わる代わる家に来て 声を掛けてくれていました。その優しさに触れているうちに、与助も 少しずつ元気を取り戻してきていたのです。 そんな日が続いたある日の夜。 戸を叩く音が聞こえてきました。 与助:「どちらさま?」 いつもの町の人達とは、少し雰囲気が違っているようでした。 戸の向こうへ声を掛けましたが、何の返事もありませんでした。 与助:「・・・風・・・か。」 しかし気に掛かった与助は、ゆっくりと戸を開けたのです。 凍みるような空気。闇を深く濃くするかのような静けさ。 与助:「もしやと思ったんだが・・・。」 与助は眉をひそめ、複雑な面持ちで小さく苦笑いをしました。 やがて日差しに温かさを覚える季節が巡ってきました。 町から少し離れた山道。途中の団子屋に与助の姿がありました。 休憩をしていたその時、不意に草むらから黒猫が飛び出してきたのです。 丁稚:「うわ!」 役人:「何だ、何だ。驚かすな。」 丁稚:「いや、突然黒猫が・・・。しっしっ!」 役人:「おいおい。やめねぇか。」 丁稚:「何でですかい? 黒猫なんざ縁起が悪いでしょうに。」 役人:「そう言うな。それに、お前さん知らないのかい?」 丁稚:「何をです?」 黒猫は悠然と道を歩いて行きますが、与助の前で立ち止まり その顔をじっと見つめていました。 与助:「そう言えば昔、家にも黒猫が住んでいた頃があったな。 突然居なくなったんだが・・・もしかして、お前かい?」 与助は黒猫を見つめ返し、微笑んで話しかけた。 丁稚:「黒猫と一緒に住んでいたんですかい?それはまた物好きなこって。」 役人:「五平(ごへい)、口が過ぎるぞ。」 丁稚:「・・・へい。」 役人:「連れが失礼なことを言って申し訳ない。」 与助:「いえいえ。気にしちゃいませんよ。」 黒猫は、そんな人間のやり取りを無視して その場に座り込み、毛づくろいを始めていました。 丁稚:「で、大隈(おおくま)の旦那。あっしが何を知らないって?」 役人:「ああ、そうだったな。 猫に呪い殺されると言うのは良く聞く話だろう。」 丁稚:「ええ。それならあっしも知ってますよ。」 役人:「それは、人間が恨まれるような事をしでかすからだ。」 丁稚:「そう言われると・・・。」 役人:「黒猫だというだけで虐げようものなら、何をされるやら。」 丁稚:「・・・。」 役人:「だが、愛(め)でてやれば愛でてやった分、幸せをもたらしてくれる。 最近、町でそんな噂話を耳にしたよ。」 丁稚:「所詮、噂話じゃないんですか?」 役人:「お前の縁起が悪いっていう話も噂話だ。大して変わらないのではないか?」 与助:「恨まれるようなことをすれば、黒猫だろうが人だろうが 同じことだとは、思いませんかい?」 丁稚:「まあ、そりゃ・・・そうかもしれないが。」 話をしている間に、黒猫は姿を消してしまいました。 与助は、しばし辺りを見回しましたが何処かへ行ってしまったようです。 少し悲しげな表情をして小さく呟きます。 与助:「華は、どうして居なくなったんだろうな・・・。」 役人:「ところで、旦那は旅の途中かい?」 与助:「ええ。この先にある桜の木が綺麗な花を咲かせると聞きましてね。」 丁稚:「それはいい。ここの桜は絶景だからねぇ。」 与助:「そのようですね。では、そろそろ行きますんで。」 役人:「ああ、気をつけてな。」 与助:「それじゃ。行こうか。」 与助は勘定を払うと立ち上がり、二人に会釈して先へ歩を進めることにしました。 その後から付いていくもう一つの影。 丁稚:「綺麗でしたねぇ。」 役人:「あぁ。まるで華のよう女性(ひと)だったな。」 丁稚:「仲睦まじい・・・か。あっしには縁も無さそうな話です。」 道を歩きながら、与助は黒猫の話を始めました。 与助:「話してなかったかもしれないね。 しばらく、俺は黒猫と一緒に住んでいたんだ。 俺はとても仲良く暮らせていたと思っていたんだが・・・。 ある日突然、華は居なくなってしまった。・・・ああ、ごめん。 その黒猫に、君と同じ名前を付けていたんだ。寂しさの余りね。 気を悪くしないでおくれ、とてもいい子だった。 居なくなってしまったのは、俺が何かしたせいではないかと・・・今でも思うんだ。」 力を落とす与助の肩に、そっと綺麗な指先が触れた。 与助:「ふふ。ありがとう。黒猫の華は、帰ってくるかな?」 華は、少し困った顔をしながら細い首を小さく振ってこう言った。 夜猫:「黒猫の華は、与助を嫌いになったから戻って来ない訳では無いわ。 与助に優しくしてもらったことを忘れず、今も幸せに暮らしているの。」 絶景と咲き誇る桜、その下で小さく咲いている華の笑顔を見て、与助も微笑んだ。 闇夜の迷い華は、今も、そしてこれからも与助の傍で咲き続けていくのでした。 めでたしめでたし。 ====================================================================== <おしまい>