チリ その17   次ページ  前ページ  トップ    


第68回(12.16配信)460

 8月8日(水)・・入国27日目(交換義務金540ドル。所持金1400  米ドル)・・午後1時過ぎ、谷、及川、尾崎と第2埠頭に向かった。海上自衛隊の艦船が2隻停泊している。ゲートのところでチェック。日本人のぼくたちはフリーパスで入れるが、チリ人は招待された人のみ。なかなか厳しい。ゲートをくぐったところでパンフレットを渡してくれた。これは、昨日街中で見かけたものと同じである。それによれば、入港したのは、最新練習艦・カトリ、2500トン、馬力25ノット。護衛艦・モチヅキ、3000トン、馬力36ノット。ともに写真入り、船体の見取り図、すべて日本語(なぜこんなのをチリで配ったのかな?)、カラー印刷のなかなか立派なできである。
 練習艦・カトリの前で昨晩会った自衛官(練習生)が、出迎えてくれた。カトリの灰色の外形は、無数のレーダー、大砲、機関銃で取り巻かれている。練習艦とはいえ、これはまさに戦艦である。
 若い練習生は、武器庫、食料貯蔵庫、寝室、機関室、遊戯室など5層に分かれた艦内をくまなく案内してくれる。
 甲板にでて、指令塔の両側についた巨大な大砲、艦全体をおおう円形のパラポラ・アンテナ群にくると彼は一層雄弁になった。
「あの大きなパラポラは、地対空レーダー、対戦闘機用、小さなパラポラは、海中レーダー、対潜水艦用です。この大砲は、1分間に50発以上撃てるんです。それも1500キロ(?)も離れた見えない目標に向かって。これからの戦争はレーダー戦です。見えない敵からいきなり弾が飛んでくる。なにからなにまでコンピュータ制御です。それだけではありませんよ。艦の先端を見てください。二重丸の白線が書いてあるでしょ。あそこからヘリコプターが発着します。今回は積んでいませんが、武装するとかなりの破壊力があります」
「これだけの火力があれば、この街は占領できる?」
 なんとなく言った言葉に彼は、「ええ、簡単です」と軽くうなずいた。
 バルパライソを日本の自衛隊が占領か!
 武力を使うまでもなく、デネロ(金)の力で港町は、いっとき完全に制服されていたような気がする。

第69回(12.20配信)463

8月9日(水)・・入国28日目(交換義務金560ドル。所持金1400米ドル)・・昨日、海上自衛隊の艦船を見学したあと、午後6時30分にバルパライソを出発、サンチャゴには、30分遅れの午後9時に着いた。おそかったせいもあり、安いホテル(300エスクード=600円)を捜すのに四苦八苦。しかも雨。サンチャゴは、この季節、雨が本当に多いい。
 けさも霧がかかっている。午前10時にホテルを出て、ヤミ市場へ。
30米ドルを55500エスクードで両替(うち10ドルは、尾崎に頼まれた分)。
 カフェテリアで時間をつぶしたあと、日本大使館へ行った。日本から手紙が来ていた。親からだ。チリから送った小包は、2個とも無事に届いたが、インディオの顔を彫った木の彫り物(ボリビア製)は、箱の中で壊れていたとのこと。
 1日遅れの日本の新聞や雑誌を読む(インターネットが発達しているいまとは、まったく違い、当時は大使館でしか日本の情報は入手できなかった)。新聞だか雑誌だか、さだかではないが、チリのことを紹介している記事が載っていた。チリ経済の悪化を述べたものだが、なかにアジェンデ政権の成り立ちが書かれていた。
 アジェンデは圧倒的多数で国民に支持されたと思っていたが、そうではなかった。さきの選挙では、約300万人の有権者のうち、アジェンデ票は36%、残りは、アレサンドリ(保守)34%、トリッチ(民主)27%。保守とキリスト教民主党が共闘に失敗、保守系の票が2つに割れた結果、革新派のアジェンデが漁夫の利を得た。政策のまったく違う人民連合がチリの歴史始まって以来の歴史的勝利に輝いたのだ。
 しかし国民の3分の1にしか支持されていない弱い政権、政治も経済も混乱しているアジェンデ政権は、いま、まさにがけっぷちに立っている。
 大使館の人に何か言われそうになったので、そうそうに退散する。ここの人たちは、旅行者を見ると、「危ないから早くこの国をでなさい」と必ず声をかける。たぶん、ぼくにもそう忠告したかったのだろう。


第70回(12.23配信)460

 午後8時過ぎ、コレクテボ(乗合タクシー)でやっとバルパライソに帰って来た。すでに、第2埠頭に停泊していた海上自衛隊の艦船、カトリとモチズキの姿は消えていた。ダーと来て、サーと嵐のように去って行った艦隊。チリとの親善の役目は果たしたのか?
 アメリカの航空母艦と共同演習をやったあとタヒチに向かうと言っていたっけ。(いつだか忘れたが、アメリカは、アジェンデ政権の崩壊をにらんだ作戦行動をしたいため、日本との演習を口実にしたとの噂が流れた)
 プエルトは、尾崎と及川が陣取り、数人の女の子が暇つぶしにお喋りしている、いつもの見なれた風景に戻った。
 本が好きな尾崎は、相変わらず静かに本を読み、酒好きな及川は、王様気分(?)で、すでに出来上がっている。
「サンチャゴは、どうだった?」
「寒いし、安ホテルは無いし、最悪」
「はやく春にならないかな」
 会話は途切れがち。いつ逃げ出すのか、うまく脱出できるのか? 彼らもかなり気にしている。
「この前の子、深入りしない方がいいぞ」
 話しの合間に及川がマジな顔をした。セシリアのことをさしている。一昨日の晩は、息投合して、ジャンケンで負けた方が酒を飲む遊びやダンスをして、じゅうぶん楽しんだ。今晩もここで会うつもりだった。
 及川が気にしているのは、彼女はかなりのアル中のうえ、マリファナをはじめ、もっと危険な薬(ヤク)にも深入りしているらしい。昨晩もここで大声を出し、暴れまわった。それだけならまだしも、アジェンデ擁護派で、彼女の友達には、政権維持の活動家が大勢いる。軍部ににらまれているから付き合うのは、危険だという。
「もっと素敵な子は、たくさんいるじゃん」
 たしかに及川のいうとおり。美貌だけからみると彼女と匹敵する女の子はいる。だが、どこかわからないが、彼女だけの魅力がある。
 酒を飲みながら深夜遅くまで待ったが、セシリアは現れなかった。

第71回(12.27配信)463

8月10日(水)・・入国29日目(交換義務金580ドル。所持金1380 米ドル)・・午後1時過ぎ、カルロスがやって来た。近所の友達で日本のことに興味のあるのがいるから、話してくれないかとの依頼である。英語も多少通じるし、スペイン語も上達する絶好の機会というので、気軽るに出かけた。
 ビニア・デ・マルまでは、タクシー。このガソリン不足なのに不思議とバルパライソ、ビニア・デ・マル間はすぐにタクシーがつかまる。港町のせいもあるのだろう。
 彼の友達の家は、なんと女の子が5人(15歳から22歳)もいた。
 日本の教育のこと、文化、交通、食べ物などを図を描いて説明をした。しかしこのときほど、日本人でありながら、日本のことを知らないと痛感したことはなかった。若い女の子が興味ありそうなことはなにも知らない(ダッコちゃんとか、ミニスカートとか時代遅れの話をしたかな)。
 夕方、泊まっていきなさいの誘いをセニョーラから受けたが、断ってしまった。なぜ遠慮をしたのかさだかではないが、いま思えばこれもまた惜しいことをしたかも。
 夜、カジノにも花町にも行かず、マグロ船から借りた竹田信玄の《夜の戦士》に没頭。読み終えたときは、朝の6時になっていた。



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