第11回(5.24配信)444
いっきに南下、35時間、1600キロ
7月14日(正午)・・入国1日目(交換義務金10ドル。所持金1580米ドル)・・サンチャゴ行きのバスが出発した。アリカでは、ブラックマーケット(ヤミの貨幣交換所)を捜したが、看板がでているわけでもなし、情報通のアメリカ人のバックパッカーにも出会わない。「マネーチェンジ」とまつわりつく男たちもいない。結局、銀行で両替せざるをえなかった。20ドルでわずか3000エスクード。
カフェ・ショップでサンドイッチとコーヒーを頼んで80エスクード(約160円)の外人価格。アリカからサンチャゴまでの航空運賃をツーリスト・オフィスで聞くと68ドルのドル払い。チリ人はその4分の1。2000エスクードで買えてしまう。
銀行でかえたエスクードだけで生活していたら、ここは南米一物価の高い国になってしまう。密のしたたる甘い生活をしたかったら、どうしてもヤミドル市を捜さなければ。サンチャゴにその夢をかなえてくれるところがある。「早くサンチャゴに行こう。金がなくなってしまう」 あれほどサンチャゴに行くなと注意されたのに、一目散に危険な都市をめざすことのなろうとは。アリカ〜サンチャゴ間のバスキップ(1200エスクード)を買う決断は、はやかった。
アリカの市内を離れると、すぐにバスは砂漠地帯に踏みこんだ。どこまでも広がる壮大なアカタマ砂漠、ときおりすれちがう羊の群れ、シュロの葉の切れ目から覗く海原、まっすぐ南へ南へとつづくパン・アメリカン・ハイウェー。快適に思えたのも最初だけ。バスは大型で馬力はあるが、座席は狭く、尻がすぐに痛くなるほど椅子はかたい。エアコンは効かず、車内は蒸し風呂、窓をあけると砂ほこりが容赦なく吹き込んでくる。
2時間おきくらいにバスは、村に止まる。村人が頭に籠をのせてバスを取り巻く。籠にはトマト、パン、ゆで卵、バナナやブドウなどがつまっている。トマト2個とゆで卵1個で200エスクード(400円)。ドライブインの食堂で野菜スープとピラフで400エスクード。なんとも憂鬱で腹立たしい値段だ。
第12回(5.27配信)446
(午後8時)アントファガスター着。見覚えのある髭ずらの顔が乗りこんできた。トム(?)アメリカ人。彼とは、インカ帝国の古代遺跡・マチュピチュで会っていらい、何回も場所を変えて、一緒になった。南米をくだるルートは、ほぼ決まっているから、見覚えのある顔によく出会う。
「入国は,どうだった? 簡単だった?」
「シェット(クソー)」 彼は不機嫌になった。アメリカ人というだけで十日滞在したいのに半分に削られた。両替率も1、2割低かったらしい。アジェンデ政権になってからアメリカはチリの富を吸い上げる国、敵国になっている。そのため、とくにアメリカのパスポートは、目のかたきにされている。話をしてわかったのだが、アリカからサンチャゴ、アントファガスタからサンチャゴのバス料金が同じ(400キロも多く、アリカの方がサンチャゴから離れている)。こんなことがあっていいのだろうか? トムがアメリカ人だから、ぼられたのか? ともあれ値段があってないに等しい不思議な国だ。
「ブラックマーケットの場所、しっている?」
どうしてもこの情報から避けては通れない。この国が天国になるのも地獄に化けるのも、サンチャゴのヤミドル市の場所がわかるかどうかにかかっている。
「情報はあるよ。でも注意しろよ」
彼は、まじな顔つきになった、つかまったら刑務所、へたをしたら殺されて、砂漠に捨てられる。アメリカ人をはじめとして、ドイツ人、イギリス人が商店や市場でヤミ交換をした直後につかまった。いわゆるおとりにはまり、そのまま離れ小島の刑務所に送られた。その人数は、数え切れない。彼らの間では、音も無く旅人が消える国といわれている。噂が噂をよび、誇張されていることを差し引いても、油断はできない。
第13回(5.31配信)446
ブラック・マーケットの場所がわかった。(サンチャゴ、カテドラル通り、720。オフィスビルの2階)。しかし、この場所もすでに警察の手がはいって、他に移動しているかも知れない。
トムはさかんにおまえたち日本人はいいよな。と羨ましいがっている。アメリカの国旗でも持って街を歩いたら、石を投げられるらしい。反米感情は、最悪? そんな国になぜ入国?
「ビクトル・ハラ、知っている?」彼はもそもそといった。
ビクトル・ハラの名前を聞いたのが、このときが最初であった。
そのときは気のもとめなかったが、・・・・ビクトル・ハラ。黄金のメダル賞、黄金の月桂賞に輝くチリの国民的英雄。『耕す者への祈り』『平和にいきる権利』の歌声は、南米を始め世界中に幅広いファンをもっている(あとで調べてわかった)・・・・
「ビクトルの歌を聴いたら、危険はサンチャゴをすぐ離れる。君は?」
「決めていない」
「はやく出た方がいいよ」
アメリカ人の間で、かなりの情報はあるのだろう。銀行の両替証明書もなくさないように。両替レシートをなくそうものなら、出国時にペナルティーを含めて、いくらとられるかわからない。彼はさかんに出ることを勧める。
「ハウ アバウト スマグル(密出国は)?」
「スマグル(密出国)!! オー、ノー」
トムは、そくざに不定した。つかまったら1年間、強制労働。トムは、サンチャゴにいる彼女と一緒にビクトル・ハラの生演奏を聞いたら、銀行で両替して、正規のルートでチリを出るという。
だんだん気持ちが暗くなった。旅の資金を10倍にして、遊ぶだけ遊び、アンデス山脈を越えて逃げる。こんな計画だったのに。かなりやばそうだ。