第91回(3.7配信)451
8月24日(金)・・入国43日目(交換義務金860ドル。所持金1320米ドル)・・チリ脱出を9月5日と決定。谷や田中は、8月下旬に出発する予定だが・・・。集団で行くのは危険ではないかな。
午前11時過ぎ、川崎汽船・はいち丸が入港しているとの情報で、さっそくヒロ、田中と向かった。
はいち丸は、マグロ船より数ばい大きな貨物船。食堂でテンプラ定食を注文(旅行者には、どの船の乗組員も親切で、おごってくれるのが多いいのだが、代金を要求された。それも日本円で。・・・いくら払ったのか、ドルで代用したのかの記載はなし)。いつ食べても日本食は美味しい。図書室には、たくさん本があった。2,3冊借りようとしたが、ここで読んでいってくれとのこと。マグロ船とは大違い(これが普通かも知れないが)。とにかく乗組員たちは、挨拶しても、ほとんど無視、大型船は、みんなこんなものだろう。
船をおりると急に腹が空いてきた。食べたばかりなのにどうして・・・。
午後3時過ぎ、谷が少し興奮してやってきた。
「あやうくドルを取られるとこやった」
彼は、さきほど海岸で、若い男に呼びとめられた。1ドル、2500エスクード(現在のヤミレートは、2000強)で両替してやるという。谷はその話に乗り、10ドル紙幣をだしたところ、男はそれを明かりに透かし、ニセドルだといい出した。谷はそれじゃこの話は終わりだとドルを取り戻そうとしたとき、男は、ダッー逃げ出した。追いかけてドルを取り戻し、警察に突き出してやるぞ、といったところ、やってみろ、お前だってヤミドル両替の罪でつかまるぞと逆に脅させたらしい。数か月前までは、そんなことをする若者はいなかったと谷はいう。
港町の利点で比較的物資が豊富で平和なバルパライソもサンチャゴと同じように殺伐として来たようだ。
深夜2時過ぎ、セシリアからの連絡はなし。アジェンデ派の仲間と活動をしているのだろうか? ベットにもぐりこんでもなぜか、寝つかれない。
第92回(3.10配信)449
8月25日(土)・・入国44日目(交換義務金880ドル。所持金1320米ドル)・・午後2時過ぎ、福岡さんのアパートに行くため、ビニア・デ・マルを訪れる。ここは、いつもタクシーを使うため、こうやって海岸を歩くのは、初めてだ。
博打をやりによく訪れたビニア・デ・マル。暗くてよくわからなかったが、改めてみるとなかなかの高級避暑地。野外音楽堂、大きな工芸品市場、優雅なホテル、リゾート・マンション、おびただしい個性あふれた別荘・・・
それらの中心として高台にそびえる豪華な古城のカジノ。そのゲートから階段状の小道が大きなフラワー時計に続いている。時計の前には観光用の馬車が止まっている。御者が、芝生の上でパイプをふかしながら客を待っていた。
もうすぐ春だ。
誰かが言っていた。春になれば緑一色のフラワー時計が色とりどりに咲きほこり、蜜蜂が飛び交う。夏になれば海岸線が目覚める。太陽が降りそそぎ、オリーブが香る。砂浜に歓声がこだまし、椰子やソテツの葉かげで娘たちが白い肌を休める。海はモーターボート、ヨット、水上スキーの天下、白い波状の輪を描き、軽やかなエンジンの音が波のうねりとともに響く。若者たちの声が砂浜いっぱいに響きわたり、熱い恋が芽ばえる。恋の夏風がおもいっきり吹く。
ここから見るかぎり、海は青くすみ、季節の風を迎えそうだ。
しかし、いま立っている砂浜は、空き缶や瓶、流木、海草などで汚れきっている。防砂壁を隔てた歩道の脇で、セニョーラが観光客(?)にポップコーンや棒アメを売っている。 数か月後には必ず訪れる夏。そのとき、この海岸は、どんな模様を描いているのだろうか?
物価高、物不足、急激な治安悪化、この国はあちこちでひび割れし、きしみ、悲鳴を上げている。
もうすぐぼくは、この国を逃げ出す。新しい国に向けて出発をする。物資不足の窮屈な状態から逃げれる。別れを告げられる。だが、この国に住む人は逃げる場所がない。別れを告げることができない。
岩にぶちあたる波、砕け散る白いしぶきを見ていると頭の中が真っ白になってくる。
〜きらめく川のほとりで鳥は歌う
あふれる緑、ほうふな食べ物
デモもなく、争いもなく
ぬくもりのある笑い声が、ぶどう畑に響く
こんなチリをふたたび見たい〜
(自作なのか、どこかの歌詞をたまたま写したのか不明。旅ノートに記載あり)
第93回(3.14配信)451
8月26日(日)・・入国45日目(交換義務金900ドル。所持金1320米ドル)・・昨晩もセシリアは、プエルトにはいなかった。彼女からの電話もない。いつものとおり、向かいの喫茶店でコーヒーと軽い朝食(食べたものの記載なし)。少し熱ぽい感じ。ローラ(エクワドルの女学生)にスペイン語で手紙を書く(原文は日記に残っているが、自分がかいたものなのに、もう今はすっかり忘れてしまい、いったい何が書いてあるのか・・・我ながらあきれてしまっている)。
午後、映画館の前をとおると、なんと日本映画(チョウチョウ婦人)が上映されていた。そういえば、ボリビアのラパスでも日本映画(渥美マリの電気クラゲ?)の恐ろしく古いのを見たことを思いだした。
バルパライソ、最後の夜になるかも知れない田中とデスコ・ホリブルに出かけた。船が入港していないせいか、いつもの活気がない。女の子も少なく、テーブルには誰も寄ってこない。おまけに呼びもののアトラクション(歌や踊り、セミヌード・ダンスなど)もお休みだという。しばらくして、気分が悪くなりホリブルのトイレで吐いた。こんなことは、いままでなかった。胃が弱っている。
帰りしな、運良く、タクシーをつかまえた。ドライバーは、みた感じ気さくな男で、この港の女の子は綺麗だろとか、食べたいものがあったら相談してとか、よくしゃべる。
彼は、話の途中で、
「この国は大変危険になった、あなたたちも注意して」
と、助手席前のボックスを開けた。
なかには、拳銃とモンキースパナがはいっている。売上金を狙う奴らを撃退するためだ。そういえば、福岡さんの友達の波照間さんも同じように、タクシーの運転手が拳銃を持っているのに出くわしたと話していた。
一般市民がドンドン武器を持ち始めたようだ。
第94回(3.17配信)446
8月27日(月)・・入国46日目(交換義務金920ドル。所持金1260米ドル)・・田中が住み慣れたホテル・ヘラスコを引き払いサンチャゴに向かった。彼はサンチャゴでオサムと会い、2人でプエルト・モントへ飛行機で飛ぶ。プエルト・モントからバスでバルローチへ脱出の予定。いつも隣りの部屋にいた田中がいなくなって急に寂しさを感じる。
夕方、谷がやってきた。クリステーナの家族を交えて、8人でお別れ会。もうすぐ日本とチリとにわかれて住む。もうこのメンバーで、夕食を囲むことはないだろう。話が進むに連れ、クリステーナの姉やカルロスが、セシリアを知っているというのにビックリ。バルパライソは狭い。なにか事を起こすとすぐに知れ渡ってしまいそうだ。
夜、11時過ぎ、及川が、サンチャゴから帰ってきた。
「バルパラは、ほっとするよ」
「サンチャゴは、騒がしかった?」
「いや、静まりかえっていた。不気味な緊張がピーンとはっている」
ぼくたちの知らないところで、なにか危険なことがまさに起きようとしている前ぶれではないだろうか?
及川から、120000エスクード(60米ドル。サンチャゴのブラック・マーケットでの両替を頼んでおいた分)を受け取る。
このエスクードがチリ脱出までのすべての資金となる予定だ。