チリ その24   次ページ  前ページ  トップ    


第95回(3.21配信)443

セシリア、強姦される

8月28日(火)・・入国47日目(交換義務金940ドル。所持金1260米ドル)・・夕方6時過ぎに福岡さんとデスコ・ホリブルに行ったが休み。しかたがないので、花町近くを歩いているとバッタリ、尾崎とグローリアが腕を組んで歩いているのに出会った。セシリアが、きちがいのようになって、ぼくを捜しているという。いったい彼女になにが起こったのか・・・
 このとき、ぼくはこの花町では、遊び人と言われているのを知った。毎夜、デスコやカジノ通い。そう見られてもしかたがないか。
 プエルトに部屋をとり、セシリアを待っているが、まったく帰ってこない。
 彼女が慌しく部屋に飛び込んできたのは、朝方、4時すぎだった。ママの胸でわんわん泣いている。コートの下のブラウスの胸あたりがちぎれ、パンタロンにも泥らしきものがついている。なんでもデスコ・ホリブルに行ったが、閉まっている。そこで、バルパライソに帰ろうとしたところ、男が車の中からさかんに乗っていけ、バルパライソに行くからと呼ぶ。きゃしゃな男が一人、酔っていることもあり、警戒心が薄れて、乗り込んだまではよかったが、少し走ったところでいきなり2人の男が両側から乗り込んできた。抵抗したが、無骨な男たちに歯がたたない。さんざんもて遊ばれたうえ、すぐ近くで降ろされたらしい。こんな目に会ったのも、ぼくのせいだと泣きじゃくる。どんな言葉をかけたらいいのだろうか・・・セシリアは、プエルトに帰ってきて安心したのだろう、隣りのベットに横になるとすぐに寝入ってしまった。


第96回(3.24配信)443

8月30日(木)・・入国49日目(交換義務金980ドル。所持金1260米ドル)・・朝10時に起きた。荷物を日本に送ろうとヒモと包装紙、箱を求めて街に出た。なんと飲食店を除き、店という店が閉まっている。たぶん事前に計画されていたのだろうが、自分の情報収集の甘さに少し頭がくる。
 いつも食事をするホテルの下のレストランでコーヒーを飲んでいると昨日、バルパライソを離れたと思っていた谷がひよっこり現れた。
 彼の話だとプエルトモントからバルローチに行くバスがストライキのため運休という。田中はそのことは知っているが、飛行機切符があるので、一応オサムの待っているプエルトモントへ飛ぶ予定らしい。ストライキはいつ解除されるかわからない。困ったことになった。
 昼過ぎ、あてもなく静かな街を歩く。マーケットの近くに来たとき、小柄な男がさかんに呼んでいる。以前背広を注文した仕立て屋の主人だ。注文品ができているから渡すという。店はおもて向きは休みなのに、裏では、なじみの客相手に商売をしている。なるほど、彼らのたくましさをちょっと感じる。
 黒いビロードの背広、仕立ては雑(これでも街では評判の腕だというが、日本製のきめこまかいテクニックはない)で、すこし小さめ。失敗作になりそう、17ドルパーかな(日記にそう書いてある。この背広は、やっぱり日本では着なかった)
 ホテルのフロントでマリッアおばさんが、手紙を渡してくれた。エクアドルのローラからだ。 久しぶりにスペイン語でも勉強するか??

第97回(3.28配信)443

8月31日(金)・・入国50日目(交換義務金1000ドル。所持金1260米ドル)・・風のように突然現れては、さっといなくなるセシリア。プエルトを覗いたが、彼女はいない。ヒロが言っていた。
『セシリアは相当のじゃじゃ馬だぞ。でも、それがいいんだな。花町の中でもひときわ目だつ。美しいだけではなく、いきる強さを持っている。トシが来る半年前にも俺たちみたいな日本人旅行者がセシリアに恋をしてしまった。ヤミドルがこんなに高くなる前さ。奴はセシリアを誘って南はホーン岬、北はアカマタ砂漠までチリ全土を旅行した。使った金は千ドルはくだらないだろう。一緒に日本に行こうとかなり口説いたらしいけど、けっきょく連れ出せなかった。ひとりでブラジルに向かったよ。声をかけられないほど落ち込んでいた。彼女は遊び仲間としてならいいけど、男にとっては、かなり危険な存在さ』
 福岡さんも『変わっているよ、セシリアは。いままでずいぶん大勢の男がセシリアの瞳に引きつけられたけど、知っている範囲では、誰一人として彼女の部屋までは行っていない。どんな生活をしているのか?長いときは何週間も姿を見せない。彼女のアパートは港町から十キロほど離れた山の手の一角にあるらしいが、それも噂だけ。まあ、真剣に恋なんかしないほうがいいぞ』
 ことさらベールに包まれた秘密、危険な渦を起こすセシリアから離れた方がいいという。しかし、セシリアの深い瞳を見つめていると引き込まれてしまいそう。
 街角のキョスクには、アジェンデ派の軍人が、何者かに暗殺された・・・と、一面トップで掲載された新聞が氾濫している。ぼくたちにもかなり危険が迫っているかも・・・・。

第98回(3.31配信)443

 久しぶりに貨物船が入港した。街はちょっと元気を取り戻したようだ。
ディスコ・ホリブルも珍しく熱気があった。(このときは誰と一緒にいったのか記載なし。ひとりか?)
「セニョール、イ、セニョリータ。バイラ、ポルファボール(みなさん踊りましょ)」
 隣りのテーブルの水兵が丸顔の女の子と手を取り合い立ち上がった。向かい側で大きな拍手を送っていた男も背がV字型にくびれたドレスの女性とフロアへ急ぐ。女同志のペアも「ペルミッソ(失礼)」と奥から人を掻き分けてやってくる。ぼくも強引に女の子に引っ張り出された。
 ディスコは音楽に身をまかせ、何も考えず、エネルギッシュに体を動かし、熱気を発散させる場所。客たちは手をつないで一直線になり、足で床を「ドドン、ドドン」と踏み鳴らす。足をサッと前後左右に振り上げる。手が離れてよろけたり、足をあげすぎて転ぶ者がでるたびに爆笑が起こる。「うまいぞ、足をもっと高く上げて」「テンポが遅い、もっと早く」まわりから、船員やディスコの女の子たちが声をかけはじめた。
「ギリシャダンスというの。このディスコで一番人気があるの」
 ぼくを引っ張り出した女の子は、グラディといった。グラディはダンスで派手に転んだ仲間を見て、涙を流して笑っている。この国に50日もいて、このディスコにもたびたび来ているのに、こんなに笑いの渦に巻き込まれるとは、想像だにしなかった。これが、チリ人の本質なのかも知れない。
 ディスコが絶好調に盛り上がったところで、いきなり照明が消えた。テーブルの一台一台にロウソクが点灯された。
「あーあ、今晩はこれで終わりね・・・だんだん終わる時間がはやくなる・・・」
グラディは、ものたりなそう。ロウソクはムードを盛り上げるものではない。明るい笑いで、しばし忘れていたが、ここはチリ、経済封鎖をうけている国だ。エネルギーを節約する政策で時間がくると電気が消える。街の明かりもだんだん暗さを増しているように思える。

 
第99回(4.4配信)448

9月1日(土)・・入国51日目(交換義務金1020ドル。所持金1260米ドル)・・カルロスから電話があった。アジェンデ支援のデモに参加したあと、ホテル・ヘラスコに寄りたいが、いいかの打診だ。彼がどんな話を持ってくるか興味があったが・・・。彼は、なかなかやってこない。なにかあったのだろうか?
 午後を少しまわったころ、谷がクリスティーナを伴って現れた。明日いよいよバルパライソを出発、アルゼンチンへ向かうという。
 谷は所持金が、ほとんど底をついている。結婚しているのだから堂々とサンチャゴからメンドーサ(一番近いアルゼンチン側の飛行場がある町)へ飛べばいいものの、税関であれこれ言われる(女の子に金を渡して、偽装結婚する。アルゼンチン側に行くとわかれる。この方法がばれて、捕まった奴が出て以来、けっこう厳しく質問される)のを嫌って、密出国するつもりだ。それも、ぼくたちが逃亡するコース(バルローチに抜けるピューラ・ルート)でだ。
「金は、ほんとうに大丈夫なのか?」
「ブエノス・アイレスに送金してくれているはずだ」
「送金が遅れたらどうする?」
「大丈夫だって」
「・・・・」
 それ以上は何もいわなかったが、強引に少し金を渡して置けばよかった(このことは、後日、アルゼンチンの日記で)。
 谷が来た理由は、わかっていた。一緒に脱出しないかの誘いであった。ぼくの出発予定は、4日後。それを少し早めて、行動をともにしてもよかったのだが・・・
「先に行って、待っててよ。早くいったって、どうせバスが動かないだろ」
 彼らのアツアツをちょっと避けたい気持ちと体が熱っぽくて、すぐには動く気にならないため、こんなことをいってしまったのだが・・・・。


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